九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
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第28回九州理学療法士・作業療法士合同学会
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  • 秀島 聖尚, 岡本 龍児, 井川 有里, 石本 健, 小松 智, 平川 信洋, 北川 範仁, 笠原 貴紀, 可徳 光博, 鶴田 敏幸
    p. 1
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/05/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     前腕の骨傷後に“痛みはないが力が入らない、不便はないが重いものだけもてない”との訴えを聞くことが多く、それらの症例において尺側指の把握力が橈側指に比べ弱いような印象を受ける場合がある。今回、リーチ動作から引き寄せ動作で重要な役割を担う肘関節・前腕の関節可動域に着目し、その可動範囲とADL、握力との関連性を考察していきたい。
    【対象】
     対象は前腕骨傷により当院に来院された患者35名35手(男性18手、女性17手)で、平均年齢30.4±17.4歳、平均経過観察期間は19.6±21.3ヶ月であった。また対象は、骨癒合が完全に得られたものであること、手指の拘縮がないこと、末梢神経疾患を伴わないことを条件とした。
    【方法】
     日整会関節可動域測定に準じ、肘関節・前腕の可動域を測定し、同じく日整会肘関節機能評価(ADL簡便法-12点満点)を用い、ADL項目を調査した。握力測定に関しては、デジタル握力計「(株)酒井医療社製」を用い、測定肢位に差が生じないよう肘関節90°屈曲位・前腕中間位にて測定し、健側比(%)を算出した。その後関節毎に可動域低下群(以下「低下群」)、可動域良好群(以下「良好群」)として大別し、各可動域項目での平均握力値及びADL値を対応のあるT検定にて両群を比較・検討した。
    【結果】
     肘関節屈曲・伸展においては、「良好群」の握力比がそれぞれ86.5%、88.9%と高く、より可動範囲の広いほうで力が入るという結果であった。前腕においては回内時「低下群」に高い値(89.5%)がみられ、回外時は「良好群」に有意に高い値(96.6%-P<0.005)がみられ、より回外方向へ可動範囲を持つほうが力を発揮できるという結果であった。また、ADL状況において数値的には「良好群」に高い値がみられたが、大きな差は認められなかった。
    【考察】
     リーチ動作においての前腕の動きは、回内位で目標物に近づき、把握しようとする。その後把握した状態、すなわち回内位の状態から少なくとも回外を伴いながら物体を引き寄せる。前腕屈筋群はその解剖学的位置から、前腕を回外することで効率よく機能し、力を発揮する。島津らは、把握動作時の前腕屈筋・伸筋の出力の割合において、前腕屈筋群の出力の割合が伸筋群より高いことを述べている。今回の結果からも、前腕回外において有意に握力比が高かったことは、よりスムーズな回外方向への前腕回旋を行うことで、前腕屈筋群の筋出力の発揮が促されるといえる。今後ADL・仕事・スポーツにおいて、どのような動作に関連してくるのか明らかにし、効率の良い動作の習得・指導方法の確立を行うことで、より早期での復帰に役立てばと考える。
  • 岡本 龍児, 井川 有里, 秀島 聖尚, 石本 健, 小松 智, 平川 信洋, 光永 康司, 北川 範仁, 笠原 貴紀, 可徳 光博, 鶴田 ...
    p. 2
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/05/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    臨床では,TFCC損傷例に橈側優位で手を使用している症例が多く観察される.TFCC損傷例では尺側の筋群の動的安定化が得られず,橈側優位の手の使用を繰り返すことにより,尺側の不安定性が増し,動作時痛が増すのではないかと推測した.当院では,尺側の筋群の安定化を図ることで,TFCCの安定化を獲得する試みを行っている.このアプローチ方法を紹介し,その治療成績を検討したので報告する.
    【対象・方法】
    当院にてTFCC損傷と診断され,保存療法が行われている患者23例(男性12例,女性11例)23手を対象とした.経過観察期間は平均2.2ヶ月,年齢は14から69歳で平均31.3歳であった.受傷原因は,急性外傷8名,慢性障害が15名であった.方法は疼痛検査(VAS)・関節可動域検査,握力,DASH-scoreを4週ごとに計測・調査した.
    【治療・理学療法】
    当院では,TFCC損傷例に対して,まず保存療法を試みる.急性期症例のみ,当初前腕ギプスを約3週間装着,その後,当院常勤の義肢装具士の作成したTFCC用サポーターを装着する.理学療法ではアイシング指導,ADL指導を行った.また関節可動域訓練,手関節尺側の動的安定化要素である尺側手根伸筋・屈筋,方形回内筋の筋力増強を行った.
    【結果】
    初期評価時の疼痛検査では運動時痛は23例中23例(VAS6.4±2.1点)であったが最終評価時では23例中15例(VAS2.4±2.3点)と減少していた.ROMでは初期評価時,前腕回内・回外,手関節掌屈・背屈・橈屈・尺屈で健側に比べ患側の可動域が減少していたが,最終評価ではそれらの可動域に改善が見られた.また,握力検査では初期評価時の平均は患側21.7±10.0kgであったが,最終評価時では患側27.6±10.7kgであり,患側で5.9kgの改善がみられた.DASH-scoreでは全項目において改善がみられた.
    【考察】
    結果より,尺側手根伸筋・屈筋,方形回内筋の筋力強化・筋機能向上をすることによって手関節尺側の動作時の安定化が高まり動作時痛が軽減したと考える.また,pinch・grip動作時の尺側指に力を入れて動作を行うことも,これらの動的安定化要素を働かせ,尺側の動的安定化を高めるADL指導であると考える.TFCC保存例の場合,尺側の筋群の機能向上を図ることでTFCCへのストレスが軽減され良好な成績が得られるのではないかと考える.しかし,23例中2例は保存療法で改善がみられず,尺骨のプラスバリアントが著名で最終的に尺骨短縮術を受けた.観血的治療選択例として、尺骨のプラスバリアントが著明なもの,遠位橈尺関節の不安定性が強いものといわれているが,構造的な問題のある症例に対しては尺側の筋機能向上による尺側の安定化獲得には限界があると考えた.
  • 中畑 敏秀, 榎畑  純二
    p. 3
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/05/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    臨床においてスポーツ障害を有する選手は二関節筋の過剰活動と単関節筋の機能低下があると考えられ、このような症例で見られる筋の高い緊張が関節可動域制限の一要因になると考えられる。今回我々は単関節筋の賦活を目的に回旋筋群と腸腰筋に対する選択的トレーニング法を考案し股関節機能の中で、関節可動域に対してどのような影響を与えるか検討したのでここに報告する。
    【方法】
    対象は股関節に障害のない男性10股、女性10股の計20股であり、年齢は24±1.29歳であった。始めに股関節可動域測定を自動可動域(測定方法A)・他動可動域(測定方法B)にて行い、次に後述する股関節機能的回旋訓練(以下、Ex)を行う。その後、前述の可動域測定をEx直後・1日後・3日後に行い、効果を検討する。(測定方法A)屈曲・内旋・外旋可動域測定を行う。屈曲は立位で両踵を壁から5cm離し身体背面が壁に触れないように行う。回旋は座位で腕を組み股、膝関節90°屈曲位をとり、股関節内外転中間位で行う。(測定方法B)他動関節可動域測定は日整会の方法に則った股関節屈曲・内旋・外旋可動域測定と下肢伸展挙上(以下、SLR)角度測定を行う。(Ex方法)背臥位で片脚を股関節・膝関節90°屈曲位として下腿脛骨粗面直下にスリングを巻き、スリングの紐が床と垂直になるようにしながら股関節の内外旋運動を10分間行う。統計処理は対応のあるt検定を行った。
    【結果】
    A)自動屈曲ではEx直後・1日後・3日後で、自動内外旋ではEx後で有意な可動域増大が見られた(p<0.01)。B)他動屈曲ではEx直後で、SLRではEx直後・3日後で有意な可動域増大が見られた(p<0.01)。他動内旋ではEx直後・1日後・3日後で、他動外旋ではEx直後・3日後で有意な可動域増大が見られた(<0.05)。
    【考察】
    股関節屈曲運動において、二関節筋である大腿直筋が過剰に活動する例ではハムストリングスの活動も強くなり、股関節伸展作用が生じて屈曲パフォーマンスは阻害される。また二関節筋優位の関節運動では関節にかかる軸圧が不安定となり関節不安定性が生じると考えられる。よって安定性を高める代償としてすべての単関節筋が同時収縮して関節を固めて関節安定性を代償しようとするのではないかと考えた。これが長く続くと筋紡錘の感度が高まり、少しの伸張で筋が収縮して他動可動域制限を起こす事や相反神経機構の破綻が引き起こることも考えられる。これを改善するために考案した「股関節機能的回旋Ex」は股関節回旋筋群の相反神経機構に対する働きかけや単関節筋の賦活を目的としており、その作用が自動屈曲や内外旋可動域向上に貢献していると考える。また回旋筋群を協調的に用いることで筋紡錘の感度が改善されて他動内外旋可動域向上が見られたと考えた。関節可動域改善ではストレッチやモビライゼーションが主として行われるが、筋の緊張が高いケースでは有効なExであることが考えられる。今後このExの有用性をより追及して下肢障害予防の一手法として取り入れていきたいと考える。
    【まとめ】
    ・股関節単関節筋に着目してExを考案した。
    ・単関節運動が可動域向上に有効な事が示唆された。
    ・今後実際の動作への影響について検討する。
  • 鈴木 裕也, 森口 晃一, 原口 和史, 里村 匡敏
    p. 4
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/05/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    前十字靱帯(以下ACL)再建術後、理学療法プログラムのステップアップやスポーツ復帰の指標としては、再建術からの時期、筋力、関節可動域(以下ROM)が主体となっている印象がある。しかし、再受傷予防のためには、それらに加えて症例の身体機能全体の評価を行い再受傷の危険因子を把握し、改善することが重要であると考えられる。そこで、我々は2004年よりACL損傷症例に対しての身体機能評価方法について検討を始め、2005年より実際に評価を実施している。今回、その実際を紹介する。
    【評価項目】
    評価項目は形態的評価と身体機能評価の2つに大別している。形態的評価は、下肢アライメントとしてQ-angle、膝蓋骨の位置(前額面)、顆部捻転、Heel-leg-angleなど、膝関節、足関節の関節不安定性などを評価している。
     身体機能評価は、患部の状態、大腿四頭筋・ハムストリングスの筋柔軟性、立位での骨盤アライメント、福井らの方法による立位での上半身重心位置、動作(スクワット、片脚立位、藤井らの報告する動的Trendelenburg Test、ランジ動作)など、Cybexによる膝関節屈伸筋力を評価し、特に姿勢を反映する上半身重心位置・骨盤アライメントと動作評価を重要視している。
     【評価時期】
     評価時期は、術前(患部の炎症症状が消失してから)、術後3ヶ月からスポーツ復帰まで1ヶ月毎に実施している。
    【スポーツ復帰の視標】
     再建術からの時期、患部の状態、筋力、ROMに加えて、身体機能評価において、再建靱帯へのストレスが少ない身体機能が獲得されていることを特に重要視している。
    【利点と欠点と今後の課題】
     これら評価の現状の利点は、症例の状態把握を行いやすいこと、症例に現状の状態把握を説明しやすくなったこと、スポーツ復帰に際しての動作上の注意点等の指導が以前より詳細で充実してきたことが上げられる。
     しかし、まだ理学療法プログラムのレベルアップについての視標として定量化しにくいこと、検者間での評価の差により判断が異なることなどの問題点も存在する。今後の課題としては、上記問題点の改善を図ることやこれら評価項目間の関連性を検討していくことが考えられる。
  • 検者間の相関について
    中馬 夏美, 鎌倉 麻美, 竹中 貴志, 片桐 里栄, 前田 由貴子, 樋脇 みちる, 久保 佳織
    p. 5
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/05/01
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
     筋の客観的な評価にあたって、筋出力そのものの計測値を用いることは麻痺による運動パターンの変化や、コミュニケーション障害などの問題により困難な場合がある。近年、Computed Tomography(以下CT)や超音波画像を用いた、筋断面積と筋活動の相関に関する研究が散見される。我々は超音波画像で測定した筋断面積がCTにおけるそれと相関が認められるか確認するために先行研究を行い、CTと超音波画像との強い相関が得られ、超音波画像での診断で高い信頼性が示唆された。しかし検者間の信頼性、及び大腿直筋以外の筋についても検討すべきであったとする課題が残った。そこで今回、前脛骨筋と第一背側骨間筋での筋断面積を検者間で比較を行った。
    【方法】
     対象は筋骨格系疾患の既往がない成人女性9名の軸脚9脚及び、動作優位側9手を測定した。対象者の平均年齢24.8±1.8歳であった。平均身長は155.3cmで平均体重は50.6kgであった。
     超音波画像による測定には、ALOKA製プロサウンドIISSD-6500を用いた。
     第一背側骨間筋の測定条件は、安静背臥位・前腕中間位とし、前脛骨筋の測定条件は、安静背臥位・股関節内外旋中間位・足関節背屈0°とした。
     超音波画像の測定者は測定に先立って医師による指導を3回受け、測定者3人が測定した。断面積の測定方法としてはブラウン管上に映し出された筋をトラックボールにてトレースし、それぞれの断面積(area:mm2)を計測した。なお計測は3回行い、その平均値をデータとして用いた。3人中それぞれ2者間で得られたデータを元に、統計処理を行った。
    【結果】
     筋断面積を比較すると、有意水準1%、5%ともに相関係数(r)>0.4となり、正の相関が得られた。又、検者間の筋断面積に生じた誤差は、第一背側骨間筋では平均0.07±0.04mm2であり、前脛骨筋では平均0.3±0.1mm2であった。
    【考察】
     今回、超音波画像を用いて前脛骨筋、第一背側骨間筋の測定を行い、検者間の相関について比較・検討を行った。その結果、検者間に正の相関がみられ、超音波画像による筋断面積の測定方法は信頼性の高いものであると考えられた。また、超音波画像による筋断面積の測定を行ったのは経験の浅い療法士であったが、容易に測定を行うことが出来た。このことより、超音波画像による筋断面積の測定は臨床において療法士が広く行うことができる評価方法の一つであると考えられる。
     又、今回は粗大筋・巧緻筋を使用して正の相関が得られたため、単一の筋に限らず、形状の異なる筋においても超音波画像測定が有効であると示唆される。今後、健常者及び中枢神経系障害例の筋力と筋断面積の関係を明らかにすることで問題のある症例の筋力をより客観的に評価する一手段として発展させていきたい。
    【まとめ】
    ・超音波画像における筋断面積の検者間の相関について検討した。
    ・超音波画像における筋断面積の検者間には相関係数(r)>0.4(P<0.01)と正の相関が見られた。
    ・超音波画像による筋断面積の測定は臨床において療法士が広く行うことができる有効な評価方法の一つであると考えられた。
  • 現状と今後の課題
    三原 成人, 前原 啓人, 前田 裕司, 椋田 俊博, 花田 智
    p. 6
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/05/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    近年、高校野球のスホ゜ーツ傷害予防への重要性が宮崎県高校野球連盟(以下:県高野連)・指導者・選手と浸透しつつあり、理学療法士(以下:PT)によるメテ゛ィカルサホ゜ート(以下:サホ゜ート)体制が評価されてきている。サホ゜ートの目的は、傷害予防及びコンテ゛ィショニンク゛、アクシテ゛ントに対する救急処置であり、我々は第83回全国高校野球選手権宮崎大会(以下:県大会)より県大会ヘ゛スト8以降のサホ゜ートを現在まで5年間実施してきた。今回は、これまでのサホ゜ートの方法を踏まえ、現状と課題を報告する。 
     【対象・方法】
    対象は、第83から87回県大会のヘ゛スト8以降で出場した延べ70チーム。事前準備は、サホ゜ート依頼を県高野連から宮崎県PT協会へ通じ、県内のPT会員に対して協力要請を行った。帯同者には、指導者・選手へのサホ゜ートの流れ・指導内容の確認と統一化を目的に事前の勉強会を開いた。サホ゜ート内容は、1:試合前のウォームアッフ゜指導・処置、2:試合中のアクシテ゛ント救急処置、3:試合後のクールタ゛ウン指導・故障選手へリコンテ゛ィショニンク゛・相談事業等である。人員体制は、予定では1試合各チームPT3名で計画するも、帯同者数不足にて平均2名での配置となった。
    【結果】
    5大会中、PTの総帯同数は71名であった。1:ウォームアッフ゜指導63名(投手30名、野手33名)2:試合中アクシテ゛ント救急処置6名(投手2名、野手4名)3:試合後クールタ゛ウン(70チーム中26チームであり、直接的に個別への実施は109名、うち投手95名、野手14名)4:痛みの訴え投手28名(上肢13名、下肢10名、体幹5名)、野手29名(上肢10名、下肢19名)5:テーヒ゜ンク゛施行46名。
    【問題点】
    第一に、帯同者数(PT)不足であり、各施設のサホ゜ートへの理解、業務とのすり合せが重要となってきている事。次に各故障選手の大会中のサホ゜ート実施後のフォローが不明確な点である。
    【考察】
    サホ゜ート内容は、ウォームアッフ゜指導・クールタ゛ウン指導・テーヒ゜ンク゛が中心であった。対象選手の傾向は、ほぼ各試合での勝利チームであり、投手は肩、野手は膝が多い。また対象者数は横ばいだが、5年間の活動で指導者・選手がサホ゜ートの必要性・コンテ゛ィショニンク゛の意義を認識し始めているのも事実である。今後は、県大会前に全チームに事前調査を実施し、選手の状況を把握しつつサホ゜ートの体制をより早期から始められる準備を進めていきたい。また、指導者研修会等にてスホ゜ーツ傷害予防に関する知見の拡大を図り、PTのサホ゜ート導入の目的等を明確にし、高野連加盟校等に周知を図っていきたい。加えて、我々も指導者・選手からのニース゛に応えるべく、知識・技術の研鑽をし、医療機関や競技団体との連携を作り、組織的な支援ネットワーク体制を構築していく必要があると考える。
  • 一症例を通して
    戸沢 美希, 石原 敬子, 木浦 扇, 佐々木 理恵, 根路銘 祥子, 松原 淳一
    p. 7
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/05/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     今回長期にわたり関節症状を保存的に加療し、外科的手術を施行した関節リウマチ(以下RA)患者を担当した。術後経過を追う中で、機能面及び外観が著明に改善したことにより、活動範囲の拡大、QOLの向上に繋がったので報告する。
    【症例紹介】
     症例は50代女性。20歳頃にRAと診断され、他院にて内服加療をしていた。当院初診時には股関節以外の大関節に疼痛を認め、特に膝関節痛による歩行困難の為、ほとんど家庭内で生活していたが、可能な限り主婦業も行っていた。観血的治療としてH17.3月、右人工膝関節置換術(以下TKA)、同年5月、左TKA、同年7月両前足部形成術を施行した。入院時期、手指MPJ人工関節置換術を施行したRA患者が通院しており、交流の中でその機能的改善は元より、著しい外観上の変化に関心を示し、手指の手術に踏み切った。
    【経過】
     右手指MPJは全指掌側脱臼し、完全な尺側偏位を伴う屈曲拘縮を呈していた。左手指も尺側に偏位しており、母指は長母指伸筋腱の断裂を認めた。また両肘関節、肩関節にも可動域制限、疼痛を認め、特に右肘関節に著明であった。術前上肢障害評価表 (以下DASH)は84.5点であり、重度変形を呈したながらも、日常生活を送っていた。H17.8右示指から小指はMPJ人工関節置換術(AVANTA)、母指関節固定術を施行した。作業療法(以下OT)では術後Static 及びDynamic splintを作製し、再偏位に注意した。また、可動域訓練と共に、段階的にsplintを作製し機能の改善を図った。またOT開始当初は手指の使用制限に対し、強い不満が挙げられた。手術に対する満足度は低く「しなければ良かった」等の声が聞かれた。
    【結果】
     術後、脱臼及び尺側偏位が改善されたことで、外観の著明な変化が確認できた。また伸展制限が改善したことにより、手指の可動範囲が拡大され、コップの把持が可能となり、また手洗い動作を行いやすくなった。その為満足度も上がり、手術に対して余裕が見られるようになった。術後3ヶ月でのDASHは69.3点と改善した。それに伴い日常生活の活動範囲が著明に拡大された。特に手指変形に対し、機能的改善と共に外観の改善を認め、人前に出る場面が増え交際範囲も拡大することで、QOLの向上にも繋がった。
    【考察】
     症例はRA発症後、長期にわたり関節症状を保存的に加療していた。しかし今回、積極的な観血的治療を施行したことで、良好な結果を得ることができた。
     本症例の場合、観血的治療により手指機能は改善された。しかし、それを充分に発揮するための上肢機能は、関節破壊による疼痛、可動域制限によって阻害されている。その為、今後も継続した治療が必要となる。その為にはOTとして、患者の関節症状は元より機能面、また社会的背景等の具体的な評価を実施し、それらに付随したアプローチが重要であると考える。
  • -ボタン着脱兼用自助具を製作、試用した結果報告-
    竹永 誠司, 濱田 輝一, 大島 登, 樋口 由香梨, 橋本 孝
    p. 8
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/05/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     今回、関節リウマチとポリニューロパチーを呈した患者より「自分で楽にボタンを着けたり、外したりしたい。」との要望を受けた。しかし、既存のものではボタン を着けることのみ可能で、外すこともできる兼用のものは、臨床の現場において耳にしたことがなかった。そこでボタンを外すこともできる着脱兼用に着目し、自助具の作成を試み、1症例ではあるが講評であったので報告する。
    【症例】
    1. プロフィール:67歳女性。 診断名は、関節リウマチ、DMによる多発性神経炎。手指機能の評価に用いる総自動関節運動域(TAM・正常値260°):右側 (第2指100°、3指115°、4指105°、5指140°)。左側(第2指190°、3指200、 4指190°、5指180°)。MMT:左右全指において屈曲、伸展3。
    2. 自助具なしのボタン着脱においては、時間をかければ何とか可能ではあるが、 現状では、ほぼ全介助にてボタンの着脱を行っている。今後、進行性疾患である 関節リウマチからの機能障害の拡大とDMのコントロールの不良から多発性神経 炎の増悪も考えられ、将来把持能力の低下が予測できる。
    【ボタン着脱時の洋服の条件】
     パジャマで、生地が綿100%、前開きタイプで左側が上であり、ボタンは全部で5 個。ボタンの大きさは直径1.7cm、厚さ2.5mm、ボタンホール長さ2cm。
    【自助具の作成】
    1. 作成の主眼:今後の機能低下を踏まえ、1)自助具の把持力、特に回転力に対する耐性力(トルク)の弱さから、握り部分を太くする。2)ボタンの種類に対応できるもの。3)ボタン着脱兼用のもの。
    2. 製作:以上の条件から、握り手部分と針金先端部分を各2種ずつの材料を選定し、組み合わせにより計4種類の自助具を製作した。
    1)握り手部:a 直径2.5cm木材。b 歯科材料(レジン)。bの材料、製作過程 は第25回本学会での村上の発表を参考にし、同一のものとした。
    2)針金先端部分:a 鋭角状。b ダイヤ型の凸状。a、bの製作過程について以下に述べる。
    (1)材料:歯科用ステンレス針金
    (2)製作方法:針金をU字型に曲げて、長さを今回規定したボタンの直径約4倍、幅 はボタンの厚さの約5倍にする。U字型の曲がっている部分のボタン1個分の長さを 鋭角状及びダイヤ型の凸状にする。
    【結果と考察】
     患者本人の感想は、握り手において「歯科材料の方が、軽くて握りやすくて、すべらないので使いやすい。」また、針金先端は「ダイヤ型の凸状は、針金が細くなっているところにボタンの糸が軽く引っかかり、着脱ともに楽にできた」と講評であった。また、客観的にみても回転トルクの点においては、歯科材料(レジン)の方が弱い把持力でも持ちやすく優れていた。
     針金先端の形状に関しては、ダイヤ型の凸状のみボタンを外す際に糸が軽く引っかかることで、全介助だったのが約5秒で一個のボタンを外すという行為を可能にした。以上のことから今回のボタン着脱兼用という試みは1症例ではあるが、成功したといえるのではないだろうか。しかし、感想の中で「ボタンの位置によっては、外しやすい高さと向きがある」との指摘も受けた。このことから今回の反省点として、針金全体が緩やかなカーブをもつ構造とするような考慮が必要ではないのか等の問題点が残った。今後の課題としては、今回の反省点も踏まえ、変形のタイプ、男女の洋服による前開きの違いなどについて、更に症例数を増やして研究をしていきたい。
  • ―補助診断による早期手術の重要性―
    清水 彩, 木下 信博
    p. 9
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/05/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    腓骨神経は腓骨頭の近位にあり、外傷や安静時の不良肢位での圧迫により末梢神経損傷を起こしやすい。また、表面からは損傷の程度が分かりにくい上に神経の回復は1日1mmといわれており、手術に踏み切るか経過観察をするかの判断がつきにくいのが現状である。一般的には約6ヶ月の経過観察の後、回復の徴候がみられない場合に観血的治療が適応になる。しかし、長期の脱神経状態(denervation)により術後回復が困難であるケースも多い。今回、神経伝導速度計測による補助診断にて発症早期の手術適応となり神経回復がみられた症例を担当したのでここに報告する。
    【症例紹介】
    50代男性、土木建設業、H17年10月初旬事故により圧迫を受け右腓骨神経麻痺受傷。右足関節背屈不能となる。MMT足関節背屈0、外反0、総腓骨神経領域にしびれあり。下垂足、鶏歩を呈していた。受傷当時腓骨神経の運動神経伝導速度(Motor nerve Conduction Velocity;MCV)測定にて健側に比べ遅延あり神経遮断(neurapraxia)以上の障害認めた。
    【PTプログラム及び経過】
    廃用性筋萎縮予防の為、低周波を用い腓骨神経と前脛骨筋に通電した。筋の変性反応生じ通電による筋収縮得られなかったが継続し経過観察した。歩行時シューホーン装着にて鶏歩は改善した。
    1ヵ月後、前脛骨筋の筋収縮は依然認められず筋萎縮が進行していた。腓骨神経MCV測定では患側は誘発不能、表面筋電での筋放電もなかった。重度の軸索切断(axonotmesis)か神経断裂(neurotmesis)の可能性強く神経の回復は今後も望めないとして腓骨神経剥離術、後脛骨筋腱移行術が施行された。術後は低周波による通電と足関節ROMエクササイズを実施した。
    術後約1ヵ月半、外反運動出現し(外反MMT2)、腓骨筋の筋収縮も認める。テーピングにて鶏歩改善し装具なしで生活され仕事復帰も果たす。術後約3ヶ月、前脛骨筋収縮認め(背屈MMT2)、術後約5ヶ月には背屈MMT5となり最終的に母趾伸展のみ障害が残る結果となった。
    【考察・まとめ】
    受傷時のMCVは、損傷部位以外の神経興奮性は保たれている為損傷の重症度が分かりにくい。損傷からの時間が経過するにつれワーラー変性が進行し、重度損傷である場合は神経の再生が起こることなく神経細胞は破壊していく。このことより、損傷の原因除去が早ければ早いほど回復の可能性が広がると言える。今回、受傷後比較的早期に重度神経損傷が確認され手術に至り約5ヶ月かかって回復できた。PTとしての関わりの中で、病態を把握しPTプログラムや予後予測をする上でも、また後遺症を最小限にくいとめる上でも期間を追った電気生理学的検査での補助診断が不可欠であることを実感した。
  • 宮崎 創, 川元 美佳, 大重 裕子, 城石 達光, 南 周作, 内木場 健一, 下田 仁志
    p. 10
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/05/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     今回、両大腿部血腫後、両大腿部に異所性骨化を呈し両膝に高度の可動域制限と疼痛を呈したため、骨化除去術を行った症例の理学療法を経験し若干の知見を得たので報告する。
    【症例紹介】
     22歳男性。平成17.5中旬、屋根より転落し両大腿部を強打。6.6近医受診し、両大腿部血腫との診断、鎮痛剤内服処方のみで帰宅。その後、何度も当院救急外来受診し、6.16両大腿部異所性骨化との診断で骨化予防のためダイドロネル処方。ope勧められるも拒否。しかし、両大腿部痛増悪し歩行困難となり、6.28ope目的にて当院入院となる。
    【術前評価】
    H17.6.13関節可動域(以下ROM)は、右膝屈曲70°伸展0°、左膝屈曲50°伸展0°であった。
    【画像所見】
    CT・MRI所見より、左大腿部は左大腿骨前面、中間広筋に広範囲・長軸方向の石灰化を認めた。右大腿部は中間広筋中心部から近位側部に散在性の石灰化を認めた。
    【術中所見】
     平成17.6.29骨化除去術施行。両側とも大腿外側から切開を加えて可及的に摘出を行った。術中麻酔下にて右膝屈曲140°、左膝屈曲120°となった。
    【術後療法・経過】
     骨化除去術施行後、骨化防止のためダイドロネルを服用。7.4よりROMex開始。右膝屈曲140°、左膝屈曲70°と改善したが、左大腿部の強い疼痛により左膝ROM改善思わしくないため、8.18左観血的関節受動術施行。前回の皮膚切開に沿って切開をくわえ、外側広筋、大腿筋膜張筋との筋膜の癒着を剥離し、筋膜の癒着による一部線維化部位を伸張により切離したところ、術中膝関節は140°まで屈曲可能となる。しかし、術後再び疼痛により左膝ROM制限が出現してきたため持続硬膜外麻酔を注入し、ROMex行うも大腿部痛あるため、9.2麻薬のフェンタネスト5Aを使用しROMexを行う。9.3ROMex時、負荷過剰にて膝蓋骨スリーブ骨折発生。10.20自宅退院。退院時、右膝ROMは正常まで改善したが、左膝は屈曲40°伸展0°となった。歩行は独歩可能だが、左膝疼痛あるため破行見られ、又時々膝不安定感があった。経過として骨化の増悪はみられなかった。
    【考察】
     今症例の異所性骨化の原因として、転落による受傷後、両大腿部に血腫が発生。その後、歩行不能となるまで生活し、筋に負担をかけたことで、繰り返し血腫が発生し、広範囲な異所性骨化へと悪化したと考えられる。骨化除去術により右膝関節の改善はできた。これは、骨化の範囲が少なく、筋や軟部組織への影響が少なかったためと考える。左膝関節については、異所性骨化が大腿四頭筋部の約30%と広範囲にあったため、ope時の広域な除去が筋・軟部組織に対し大きな影響を与え、強い疼痛となり改善できなかったと考えられる。今後は骨化部やope侵襲による筋への影響を考慮し、術中角度から目標角度について充分検討しアプローチしていきたい。
  • 川元 美佳, 宮崎 創, 大重 裕子, 城石 達光
    p. 11
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/05/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     拘縮に対しての授動術は早期が有効といわれており、長期間続いた拘縮の授動術や理学療法の報告は少ない。今回11年という長期間の膝拘縮で観血的受動術を行った症例の理学療法を経験したのでここに報告する。
    【症例紹介】
    氏名:K,S氏 年齢:30歳 性別:女性
    診断名:右膝拘縮(屈曲95°、伸展0°)
    主訴:正座がしたい。
    既往歴:11年前交通事故にて右大腿骨骨 幹部骨折、右大腿骨頚部骨折を呈し髄内釘、プレート固定術を施行。OPE後はギプス固定、長下肢装具固定を行い、退院後は疼痛により途中で外来ハビリを拒否している。よって可動域訓練は不十分であったと考える。
    【術中所見】
    観血的関節授動術で、まず鏡視下にて膝蓋上嚢を剥離。しかし可動域変化なく、次に大腿直筋と内側広筋間および大腿直筋と外側広筋間を中枢方向に向かって剥離し、その後大腿筋膜張筋を横に1cm程切離し延長した。それでも可動域改善はあまりみらなかった為、大腿骨膜から四頭筋遠位2/3をほぼ全周性に剥離した結果、術中膝関節は屈曲140°となった。
    【理学療法経過及びアプローチ】
    術後3日目より徒手による可動域訓練を開始した。初めは疼痛なく屈曲130°可能だったが、次第に疼痛強くなり屈曲100°となった。そこで術後9日目より持続硬膜外麻酔注入での可動域訓練を実施した。初日は疼痛なく140°屈曲可能だったが、四頭筋の緊張は非常に高かった。その後、時間の経過とともに麻酔効果減少し疼痛増強と嘔吐等の副作用も見られた為、注入21日目に抜去した。膝屈曲角度は他動で95°だったが、術前に比べ四頭筋の緊張は低下しているように思われた。アプローチとしては、疼痛増減により可動域訓練に難渋した為、途中よりリラクゼーションをより重視し、抜去後は渦流浴時やホットパック使用時に持続伸張を多く取り入れた。結果、術後7週で膝屈曲自動100°、他動120°と改善し退院した。その後外来リハを続け術後6ヶ月で自動125゜、他動140゜と術中と同じ角度まで改善がみられ、四頭筋の柔軟性も獲得できた。この結果正座は不可能だが術前には不可能だった体操座りや横座りが可能となり症例の満足度を得ることができた。
    【考察】
    本症例の膝拘縮の主な原因は広範囲にわたる骨膜と四頭筋間の癒着と、四頭筋の短縮だったと考えられる。その為、術後の理学療法は再癒着の予防と四頭筋短縮に対する伸張を中心に行った。筋の短縮は筋節数が減少することで起こり、短縮早期の筋節数の減少は伸張刺激を加えて運動を行うことで、もとの筋節数に戻り筋の柔軟性を獲得できると言われている。しかし本症例は11年間の拘縮にも関わらず、授動術と長期にわたる理学療法を行うことで筋の柔軟性を獲得し、可動域も術中角度まで改善することができた。このことから、長期間の筋の短縮であっても減少した筋節数が改善する可能性があると思われた。
  • 米崎 真寿美, 田中 智香, 徳岡 博文
    p. 12
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/05/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    リハを実施する上で患者のニーズ把握は重要である。しかし医療従事者側のゴール予測と異なる事が少なくない。今回、両大腿切断者に義足を製作し、歩行・ADL訓練を行った症例を経験したので報告する
    【症例紹介】
    50代男性 感染後両大腿切断 右腱板損傷 先天性聾唖 H17/5/24受傷、5/26左下腿切断、5/30両大腿切断、断端長:Rt26cm Lt21cm 《初期評価》ROM-T:右肩関節屈曲・外旋制限あり 股関節(屈曲-伸展)Rt85p-10p Lt75p-15p MMT(股関節周囲):右4- 左3 ADL:上肢ADL自立、移乗介助
    《最終評価》ROM-T:股関節(屈曲-伸展)Rt100-10 Lt95-15 MMT:右4+ 左4 ADL:車椅子自立、病棟廊下(100m)義足歩行自立
    【経過】
    訓練開始時、 持久力の低下、肩関節・左断端部疼痛認め、push upや断端部の荷重が困難であった。 soft dressingの使用を徹底し成熟断端獲得を目指した。7/14 エアソケット使用し立位開始、8/29吸着式ギプスソケット完成。平行棒内立位→歩行と進めたが引き布を使用して両側義足の装着・起立には介助を必要とし、長時間の歩行は困難であった。12/5 TSBシリコンソケット完成、12/8自己にて着脱獲得、着脱が可能になった事で義足装着時間延長につながり、12/15廊下松葉杖歩行監視、その後自立歩行獲得となった。車椅子への坐り・床からの立ち上がりも可能となったが、床からの立ち上がりを実施する為に義足長とソケット前壁の調整を行った。義足は以前の身長より開始し、10cm以上低く設定した。H18/1/5廊下松葉杖歩行自立、2/8 転院となる。
    【考察およびまとめ】
    本症例は義足歩行を強く希望された。受傷後の精神的ショックや歩行に対する執着を考慮すると義足を製作しモチベーションを向上させる事は必要不可欠であった。義足装着自立の為、TSBシリコンソケットを選択した。外観も考慮し以前の身長と同じ高さから始めたが、操作性から徐々に低くした。本症例が歩行を獲得できた要因として、筋力・持久力の向上、義足着脱獲得、内科疾患・疼痛などの阻害因子がなかった事が挙げられる。本人のニーズとリハのゴールをできるだけ近づける事で意欲向上につながったと考えられる。本症例は聾唖者の為、意思疎通に時間を要した。今回、両大腿切断者のリハを経験し、訓練の難しさとともに症例における予後予測の重要性も再認識することができた。
  • より的確なゴール設定を目指して
    鳥飼 秀彦, 廣重 愼一, 伊藤 元貴, 立丸 允啓, 高橋 義和, 富永 康一郎, 山本 麻貴, 宮本 晶太, 山田 直樹, 金澤 照正, ...
    p. 13
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/05/01
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    回復期病棟で基本動作が自立したものの経過を調査し、入院時の状態から基本動作の自立時期を予測するための指標を検討。
    【対象】
    平成15年4月から17年10月に当院回復期病棟から退院した脳血管疾患患者。
    【方法】
    1)退院までの歩行能力によって、病棟歩行が退院まで不可能だったもの、監視で可能になったもの、自立に達したもの(以下自立群)と、入院時から自立していたものの4群に分類。
    2)自立群を、入院時の起居動作能力によって、寝返りのみ自立(以下A群)、起き上がりまで自立(以下B群)、移乗まで自立(以下C群)の3群に分類。AからC群の起き上がり、座位、移乗、PT室歩行、病棟歩行、屋外平地歩行が自立した日と病棟歩行開始日を調査し、それぞれの入院からの期間を比較・分析。
    3)また、病棟歩行自立までの期間と失語症、その他の高次脳機能障害、運動失調、認知症、下肢の麻痺、感覚障害との関係を分析。
    以上をカルテより後方視的に調査。分析方法はt検定を使用。
    【結果】
    1)393名の結果が得られ、病棟歩行不可能が42名11%、監視85名22%、自立群194名49%、入院時から自立が72名18%。
    2)A群は26名、B群61名、C群107名。入院から起き上がりが自立するまでの平均期間は、A群19.9日、座位自立までは、A群15.8日、B群18.4日、移乗自立までは、A群39.1日、B群18.1日※。病棟歩行開始までは、A群41.4日、B群24.2日、C群9.6日※、PT室歩行自立までは、A群76.0日、B群44.9日、C群20.7日※、病棟歩行自立までは、A群89.5日、B群51.9日、C群25.3日※、屋外平地歩行自立までは、A群104.7日、B群67.2日、C群51.3日※、病棟歩行開始から自立までは、A群49.0日、B群28.6日、C群16.7日※。※:P<0.01
    3)失語症、その他の高次脳機能障害、下肢の麻痺、感覚障害で有意差あり。
    【考察】
    当院回復期病棟から退院した脳血管疾患患者の約7割は病棟歩行自立以上の歩行能力を獲得していた。その266名中、自立群の194名では、入院時に寝返りのみ自立のものは、起き上がり・座位自立までに約3週、移乗自立までに約1ヶ月、起き上がりまで自立のものは、座位・移乗自立までに約3週を要していた。入院から病棟歩行自立までの期間は、入院時に寝返りが自立のもので約3ヶ月、起き上がりまでが自立のもので約2ヶ月、移乗までが自立のもので約1ヶ月を要しており、入院時の動作能力が低いほど自立までの期間を要していた。さらに、屋外平地歩行も同様の傾向が伺えた。また、失語症、その他の高次脳機能障害、下肢の麻痺、感覚障害は、歩行自立が長期化する因子になると示唆された。これらの結果は、入院時の身体機能や動作能力等から基本動作が自立するまでの期間予測に活用できる可能性があると考えられた。
  • 谷川  紀子, 神崎 香織
    p. 14
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/05/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    当院では2004年6月より、急性期リハビリテーション(以下急性期リハ)の効果、スタッフの日常生活動作(以下ADL)への意識向上を目的にFIMを導入している。各担当者がリハビリ開始日、退院日に評価を実施しており、現在においてはスタッフ間のADLに対する意識も高まり、定着してきている。今回は、2004年6月から2005年3月、2005年4月から2006年3月のデータを比較検討したので、今後の課題も含め報告する。
    【対象者】
    リハビリ処方が出た患者全て(糖尿病、リウマチ、乳癌パスの対象者は除く)。その中の疾患を脳血管疾患、開胸、開腹、RAおよび膠原病、廃用症候群の5つの群に分ける。
    【方法】
    5つの群の入院時と退院時のみの平均点数の変化についてA)2004年6月から2005年3月、B)2005年4月から2006年3月のデータを比較する。1疾患群別人数、2平均リハ実施期間、3入院時と退院時のみの全体の平均点数の比較、4FIM Gain、5FIM Efficiency
    【結果】
    Bのデータを()に示す。1CVA111名(143名)、開胸開腹65名(開胸45名、開腹57名)、RAおよび膠原病38名(68名)、廃用症候群50名(89名)、229.5日(17.4日)、3入院時82.9点(70.5点)、退院時94.9点(87.9点)、412.0点(17.4点)、50.41点(0.56点)
    【考察】
    今回の結果により、平均リハ実施期間は前年度と比較すると、期間短縮を図ることができた。また、FIM Gain、FIM Efficiencyにおいても効果をみることができた。このことより、前年度よりも早期離床を促し、ADL訓練の充実を図ることができたからではないかと考える。
    FIMの導入により、評価の効果だけではなく、自部門・他部門ともにスタッフのADLへの意識の向上を図ることが出来たのではないかと考える。
    【今後の課題】
    ・他部門と共同で評価を行い、「しているADL」と「できるADL」の差をなくす ・早期でのリハを実施し、さらなるADLの向上を図る ・在宅復帰率の向上 ・集計方法の検討 上記を今後の課題として検討していきたい。
  • 職種間・施設間の主観的対象者評価の伝達
    与那嶺 司, マイク リナルディ, 溝田 康司
    p. 15
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/05/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    我々セラピストは臨床場面で患者のゴール設定に際して身体的機能のみで判断を下す事はなく、対象者の精神・心理・社会的背景も鑑みて総合的な判断の下にゴールを設定しているはずである。日常生活活動(以下ADLと略記)という評価概念は、理学療法やリハビリテーション医学の枠を超えて広く医療福祉領域に定着しているが、ADLを評価する上で多面的要因を反映できるような評価様式は見当たらない。Dyrenら(1989)はADLの評価に身体的(Physical)精神的(Mental)情動的(Emotional)社会的(Social)要因を加えることを提案している。ここでいう身体的要因は痛みや運動麻痺などを指し、社会的要因は物的人的環境要因を指す。精神的要因は知的側面で失語や半側空間無視なども含め、情動的要因は意欲や不安、抑うつなどの心理的側面と解釈される。今回Dyrenらの評価様式に基づいて多面的日常生活活動評価表を試作したので報告する。
    【評価表の構成】
    作製した評価表の中では、道具的ADLは、屋外(就職・通院・買物・公共交通)と、屋内(調理・洗濯・掃除・服薬・意思疎通・金銭管理)、基本的ADLはセルフケア(摂食・入浴・更衣・整容・トイレ)、基本動作(屋外移動・階段・屋内移動・床立上り・椅子立上り・起上り)となっている。これらの項目を自立度をInd.=自立、Dep.=依存、△=介助自立とし、自立度の確認方法をD=直接観察、P=本人、F=家族、N=看護、M=カルテからの情報と記入する。ADL阻害要因の重要度は記録者によって判定され、重大な阻害要因とすれば2点、やや問題なら1点・問題なし0点・判定不要/の4つに分け要因重要度を判定していく。改善の予測を矢印で表す。
    【症例適応】
    34歳男性右片麻痺患者:退院後外来通院中の患者で、ほとんどの項目は自立しているが、復職は果たしていない。阻害要因は漠然とした不安を訴えていたため情動的側面を2、身体・精神・社会的要因は1点とした。
    【考察】
    本評価表は元来主観的要素の強いADL評価を、逆に評価者の視点を明瞭にし、曖昧であったADL確認方法などを記載する事で、伝達された側に評価者の判断を正確に伝えようとするものである。多面的要因を考慮に入れた評価はSF-36などのQOL評価に見られるが本評価法はあくまでも、評価者の視点の伝達を強調している。さらにSF-36などではメンタルな側面とまとめられている側面を、高次脳機能障害などの精神的側面と、意欲などの情動的側面にあえて分離し、これまで伝えにくかった阻害要因を、セラピストだけでなく地域の保健士などの関連職種に伝えることを意図して作成した。今回は作成者自身の評価であったため、記載上の不明瞭な点を明らかに出来なかった。今後評定者内・評定者間妥当性も検討し、本評価表の可能性と問題点を検討したい。
  • 大石 賢, 高柳 公司, 平野 真貴子, 野口 浩孝, 大場 潤一, 内田  由美子, 有村 圭司, 曽田 武史, 津田 拓郎, 中川 浩, ...
    p. 16
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/05/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     椅子からの立ち上がり動作は、高齢者や身体障害者におけるADLの重要な要素のひとつであり、この動作を用いた簡易体力評価法に30秒椅子立ち上がり(CS-30)テストがある。しかし、CS-30は手による支持動作を制限した立ち上がり動作の回数を測定するため、立ち上がり動作に困難をきたしやすい虚弱高齢者や身体障害者に適した評価法でない可能性がある。
    今回、脳卒中片麻痺患者を対象にCS-30テストと手すり支持による30秒椅子立ち上がり(HSCS-30)テストを測定し,両テストの難易度、下肢運動機能,歩行能力,ADL能力との関係について検討した。
    【対象・方法】
     対象は、入院・外来及び通所リハを利用している脳卒中片麻痺患者25名(男性18名、女性7名)、平均年齢66.0±11.4歳、発症から3ヶ月以上経過し口頭指示を理解できるものとした。年齢、性別、病型、麻痺側、下肢Br.stage、高次機能障害・失語症・認知症の有無、CS-30テスト、HSCS-30テスト、6m歩行時間、Motor Assessment Scale(MAS)、Barthel Index(BI)を評価、測定した。CS-30テストは両手を胸の前で組んだ状態、HSCS-30テストは非麻痺側上肢で手すりを支持した状態で、数回の練習の後、30秒間の立ち上がり回数を測定した。6m歩行時間は、測定線から2メートル手前からスタートし直線6mの努力性歩行時間を測定した。
    【結果・考察】
     1.CS-30テストおよびHSCS-30テストは,年齢との相関がなく,性別,麻痺側,高次脳機能障害・失語症・認知症の有無による差がなかった。
     2.CS-30テストとHSCS-30テストは,高い相関が認められた(r=0.88,p<0.01)。
     3.CS-30テストで1回も立ち上がれない者は6名,HSCS-30テストでは2名であった。
     4.CS-30テスト及びHSCS-30テストは,下肢Br.stage(それぞれ,r=0.51,p<0.01;r=0.52,p<0.01)、6m歩行時間(歩行可能23名)(r=-0.74,p<0.01;r=-0.76,p<0.01)、MAS(r=0.90,p<0.01;r=0.74,p<0.01),BI(r=0.66,p<0.01,r=0.63,p<0.01)と有意な相関が認められた。
    HSCS-30テストは、CS-30テストと関係が高く、難易度が低い課題であり、下肢運動機能、歩行能力、ADL能力を反映するパフォーマンステストである可能性が示唆された。また、HSCS-30テストは、手すりを支持することにより椅子に座るときの衝撃を緩和することが出来るため、腰痛や骨折などのリスク防止になると考えられる。
    【結論】
    HSCS-30テストは、脳卒中片麻痺の下肢の運動機能、歩行能力、ADL能力を反映する簡便で安全性の高いパフォーマンステストであると考えられる。
  • 回復期リハ病棟での効果的な作業療法実践に向けた予備的調査
    森山 愛子, 佐藤 友美, 大野 沙織, 佐藤 浩二, 佐藤 周平, 衛藤 宏
    p. 17
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/05/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    患者がより活動的な生活を送るためには、患者の作業遂行能力の向上だけではなく、作業を行う自信を得ることが重要と考える。盛田らは、自己効力感(self-efficacy:以下、SE)が日常生活活動に影響を及ぼすことを明らかにしている。そこで今回、M.Gaugeによって開発された日常的作業に対するSEを測定するSE Gaugeをもとにアンケート調査を実施し、回復期リハ病棟での効果的な作業療法に向け予備的調査を行い、作業遂行能力とSEについて検討したので報告する。
    【対象】
    対象は平成17年7月から平成18年2月までの8ヶ月間に当院の回復期リハ病棟に入院したCVA患者で失語症がなく、SDS39点以下で鬱傾向なく、また高次脳機能障害やHDS-R21点以上で認知症を認めない者の中より、本調査への協力に同意が得られた31名とした。内訳は男性14名、女性17名、病名は脳梗塞症18名、脳出血症12名、脳動静脈奇形術後1名、麻痺側は右片麻痺12名、左片麻痺17名、両麻痺2名、平均年齢63.1±10歳、平均Bathel Indexは83.7±15.8点、発症からアンケート実施日までの平均は140.9±39.5日、入院からアンケート実施日までの平均は96.2±36.2日であった。
    【方法】
    調査用紙はSE Gauge28項目の中から家事など女性に偏る項目など除外した合計20項目とした。この調査用紙をもとにCVA発症前(以下、発症前)と調査時点(以下、現在)についてアンケートを行った。なお原則自己記入とし、記入困難な場合は検者が口頭にて質問し記入した。
    分析はアンケート20項目について、「目的活動」17項目と「活動を行う意欲(以下、意欲)」3項目に分け、発症前と現在の得点変化を見た。また「目的活動」と「意欲」の相関関係について検討した。相関係数は発症前と現在、発症前と現在の差(以下:差)で各々求めた。なお、分析ソフトにはstat view 5.0Jを用いた。
    【結果】
    1) 得点の変化:SE総得点、「目的活動」、「意欲」それぞれの合計点は、発症前より現在の方が有意に低かった(各々p<0.05)。 2) 相関係数:「目的活動」と「意欲」との間には発症前、現在、差において正の相関(発症前r=0.62、現在r=0.48、差r=0.57(各々p<0.05))を認めた。
    【考察】
    CVA発症前よりも発症後の方がSEは低く、「目的活動」と「意欲」との間には正の相関を得た。この結果より、CVA発症により低下するSEを向上させるには、作業遂行能力の向上だけではなく、その自信を高めることが重要だと再確認できた。そしてSEを向上させることで、少しでも活動的な生活を送る姿勢を引き出すことが可能となると考える。
    今後、今回の結果を踏まえて、回復期リハ病棟での効果的な作業療法実践に向け、さらに研究を進めていきたい。
  • メタ認知を中心に
    日田 真人, 徳田 光広
    p. 18
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/05/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    多くの患者は服薬が日課であり、退院後も継続する場合が多い。服薬の自己管理(以下、服薬管理)は自宅復帰の重要な条件の一つとなる。しかし実際は認知症や高次脳機能障害により、病棟が管理したり代償手段を必要とする場合も多い。その場合、その方の服薬管理に関する認識(メタ認知)が大きく関与する。
    一般的に服薬管理能力改善に対する必要性は十分浸透しておらず、評価アフ゜ローチ体系が形成されているとは言いがたい。そこで今回服薬管理の自立度およびメタ認知の評価を比較検討し、メタ認知の及ぼす影響を調査したので報告する。
    【対象】
    服薬を日課とする患者で1食事動作自立2薬袋開封自立3HDS-R15点以上、を満たす方とした。対象者数は19名(男性6名、女性13名 平均年齢74.9歳±13.3歳)とした。
    【方法】
    服薬管理における評価としては、1)服薬管理の自立度評価:1自立度評定2服薬行動得点、2)認知面の評価:1HDS-R、3)メタ認知の評価:1メタ認知全般の評価 ―生活健忘チェックリスト(memory check rist:MC)の本人評価と第三者評価の各項目の差の合計(以下、MC評価点)2服薬の領域に特定したメタ認知の評価 ―服薬の質問紙(taking medicine question rist:TQ)の本人評価と第三者評価の各項目の差の合計(以下、TQ評価点)、を行った。そして統計的処理として各々の相関係数を求めた。
    【結果】
    各評価項目相互の相関係数の結果としては、自立度評定平均値と服薬行動得点(r=0.83)、自立度評定平均値とHDS-R(r=0.76)、服薬行動得点とHDS-R(r=0.96)との間には強い正の相関が見られた。またHDS-RとTQ評価点の間には強い負の相関(r=-0.7)が、自立度評定平均値とTQ評価点(r=-0.48)、服薬行動得点とTQ評価点(r=-0.5)の間にはやや強い負の相関が見られた。
    【考察】
    認知面が低下すると服薬の際飲み損じの可能性が高くなる。そのため服薬管理の自立度2項目と認知面には互いに強い正の相関が出たと考える。
    次に清水(2002)は「個人が自己の状況を認識する際には、つねに他者の存在や視点、対人相互作用、原因帰属などが関わってくる。」と述べている。これを服薬に置き換えると、患者は医療スタッフからフィート゛ハ゛ックを受けたり、他患と話すなど薬に関わる機会が度々ある。また服薬を忘れると自身の体に影響があるため、服薬への関心は高い。その結果、患者は特に服薬に関してメタ認知が高まったと考える。またフィート゛ハ゛ックを活かすためにはある程度の認知機能は必要であり、より正確にメタ認知をもつためには正常に近い認知機能は不可欠と言える。そのため自立度とTQ評価点、HDS-RとTQ評価点との間に強い相関が出たと考える。以上から服薬に関するメタ認知も服薬管理に影響のある要素の一つであると思われる。
  • 長部 太勇, 奥村 晃司, 木藤 伸宏, 永芳 郁文, 川嶌 眞人
    p. 19
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/05/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    今回、40代で腰痛を発症し、後に両側変形性膝関節症と診断、全人工膝関節置換術(以下TKA)を両膝施行した症例を担当する機会を得た。TKA前後の理学療法を膝関節機能改善を目的に展開したが、経過として膝関節内反アライメント・伸展可動域は改善するも体幹-股関節アライメントに変化がなく、腰痛が残存した。そこで、臨床指標を立位アライメントとして、膝関節だけでなく、腰部への力学的ストレスの軽減を目的に体幹-股関節にも理学療法を展開した。結果、体幹-股関節アライメントに改善がみられ、持続していた腰痛が消失した。本症例における理学療法アプローチについて述べる。
    【症例紹介】
    78歳女性、身長:154cm、体重:56kg、BMI:27.0、職業:無職(以前農業)、現病歴:40歳頃より腰痛症出現。後に両膝関節痛出現、H17.1月頃より左膝痛み増強し、H17.3.22 当院受診。H17.5.24 左TKA施行。H17.10.18 右TKA施行。H17.10月より理学療法開始。
    【理学療法開始所見】
    (H17.10.5) 疼痛:術前同一肢位保持にて右腰背部にVisual Analogue Scale(以下VAS) 6/10。術後腰背部痛増強。ROM-t(Rt/Lt):膝関節伸展 -15/-5。立位姿勢は重心右側変位。頭部右側変位、左側屈、右回旋。上半身重心前方、右側変位。上位脊柱右回旋、下位脊柱左回旋。骨盤右下制、右回旋、後傾、右寛骨後方回旋。股関節屈曲、右大腿骨内旋・左外旋位。下腿外内旋位・左内旋位。左右膝関節屈曲位。
    【理学療法アプローチ】
    右TKA後すぐに両側膝関節可動域訓練・3日目より膝関節機能訓練を中心に坐位での骨盤前後傾訓練開始。10日後より立位での膝関節協調訓練を開始。膝関節機能向上するも腰痛残存、骨盤-体幹アライメント変化が得られなかった。そこで体幹の正中化を目指し、術後2週より股関節・体幹機能に注目して展開し、背部斜系列筋訓練、上半身重心側方移動運動、立位骨盤側方移動運動を段階的に加えて行った。
    【結果と考察】
    術後3週で再評価を行った。入院前より持続していた右腰部痛は消失。術後の理学療法の結果、股関節、体幹後面筋・腹部機能が向上した。腹部安定性・体幹後面筋機能改善により胸椎後弯・骨盤後傾・上部脊柱左回旋軽減、上半身重心の前方・右変位に改善がみられた。さらに体幹機能、骨盤、股関節機能の向上に伴い骨盤右回旋・下位脊柱右回旋が軽減した。両者の改善により右腰部への圧迫・回旋ストレスが軽減した事により腰痛消失につながったと推察する。また、体幹-股関節機能の向上に伴い左右大腿骨の回旋が改善し、膝関節の回旋ストレスが減少したと推察する。
    【まとめ】
    これまで、TKA術後の理学療法を膝関節を主に展開していた。しかし今回の症例を通し、早期より体幹-股関節機能にも着目した理学療法の展開と、それを裏付ける評価の重要性を感じた。
  • 児嶋 由佳, 森山 茜, 村田 伸, 吉村 修, 江本 玄(MD)
    p. 20
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/05/01
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    近年、平均寿命の伸びを背景に、人工膝関節全置換術(以下TKA)の件数は増加の一途をたどっている。術後の成績は良好だとする報告が多いが、術後に可動域制限をきたす症例がほとんどである。過度の可動域制限は日常生活動作に障害を引き起こす原因となるため、術後の理学療法において可動域の獲得は重要な項目の一つである。そこで今回、術後の予後予測にあたり、術後可動域、特に膝屈曲角度に影響する因子について検討したので報告する。
    【方法】
    対象は、2004年4月から2005年10月までに当院でTKAを施行した132名(平均年齢73.1±7.4歳、男性26名、女性106名)の143膝である。TKAの使用機種とその件数はPROFIX(smith&nephew社):64膝、P.F.C(DePuy社):42膝、Kneeopus(MMT社):28膝、TC-PLUS(エンド・プラス社):8膝、NRG(stryker社):1膝であり、全膝において術後翌日より自動および徒手による他動関節可動域訓練を実施した。
    分析は、術後4週の時点で当院のTKA後の目標屈曲角度である125度に到達していたものを到達群、到達しなかったものを未到達群として、1)性別2)年齢3)使用機種4)術前屈曲角度について2群間を比較した。なお、性別と使用機種の比較にはχ二乗検定、年齢と術前屈曲角度の比較には対応のないt検定を用いた。
    【結果】
    到達群114膝と未到達群29膝の2群間比較において有意差が認められたのは、術前屈曲角度(到達群139.2±11.6度、未到達群117.3±26.3度、p<0.01)のみであり、年齢、性別、使用機種において有意差は認められなかった。
    【考察】
    今回、術後の膝屈曲角度に影響を及ぼす要因を、性別、年齢、使用機種、術前屈曲角度の4項目から検討した結果、術前屈曲角度にのみ有意差が認められた。つまり、術前屈曲角度が大きいほど術後良好な屈曲角度が得られることが示唆された。このことから、術後の予後予測として術前屈曲角度は有用であり、術後良好な成績を獲得するためには、術前屈曲角度を考慮した理学療法アプローチを実施することが重要と考える。
  • 重松  雄大, 佐田 正二郎, 原賀 勇壮
    p. 21
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/05/01
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    全人工股関節置換術(以下THA)後2年半経過し、それまでのリハビリテーション(以下リハビリ)で改善を認めなかった症例に対し、血流制限(以下加圧)下でのリハビリ(以下加圧リハ)を施行、その効果を検討したので報告する。
    【方法及びプログラム】
    対象症例70歳女性、H15年3月から左股関節痛出現し、左進行期股関節症の診断を受け、7/14 大学病院にてTHA施術を受ける。その後8/11から9/12迄リハビリ目的にて当院入院。その後外来通院するが機能的改善はなく、疼痛・不安定感を訴えていた。加圧リハ施行期間はH18年3月1日から31日、加圧ベルトを大腿近位部に装着し、比較の為プログラムはリハビリで施行している、I足関節底/背屈、II膝関節屈曲・伸展、III股関節屈曲・外転・回旋・伸展、各20×2回、IV歩行/横歩き13m×2回、V自転車45watt 8分を施行。
    【結果】
    施行前に比べiMMT股関節外転・外旋3→4iiJOAスコア 80→85点iiiPatrick-t/大腿筋膜張筋の圧痛VSA5→2.5iv10m歩行VAS 5→2.5 -0.9秒/1歩減、10m横歩きR→L-22.6秒/-3歩/歩幅+12.6cm、L→R-28.17秒/-4歩/歩幅+19.5cmv片脚立位R +7.27秒L +10.33秒vi周径 膝蓋骨上15cm R+1.2cm L+1.6cm 10cm R+1.5cm L+1.5cm 5cm R+1.5cm L+1.8cm下腿最大R+0.2cm L+0.5cm
    【考察】
    THA後ROM・筋力の回復が得られても疼痛・不安定感を訴える患者は少なくない。本症例も術後2年半経過し、機能的改善はなく、疼痛・不安定感を訴えていた。そこで今まで当院で行っていた同じ内容のリハビリを低負荷・短時間で効果が得られるという加圧にて施行し、筋力・周径・疼痛・歩行・横歩き・片脚立位に改善が見られた。筋肥大は通常1RMの80%のトレーニングが必要だが、加圧では1RMの40%程で同様の効果が得られる。血中乳酸濃度が高位を呈し筋内環境が劣悪な状態になり、局所性貧血と再灌流というストレスが運動中の筋活動レベルを増加させ起こると考えられている。施行前に比べ股関節外転・外旋筋の強化が得られ、疼痛も軽減した為、骨頭の安定性・運動性が高まり、回転すべり運動が行え、それに伴い支持性・安定性が向上し、片脚立位時間の延長が見られ、歩幅の拡大、歩数・時間の短縮へとつながったと考えた。加圧リハは長期間改善が認めにくい疾患・術後・高齢者等に対し効果があるのではと考えた。今後は他疾患でも検討して行きたい。
    【まとめ】
    1.加圧リハの効果を検討した。2.筋力・周径・疼痛・歩行・横歩き・片脚立位に改善が見られた。3.加圧リハは長期間改善が認めにくい疾患・術後・高齢者等に対し効果があるのではと考えた。
  • 橋本 拓也, 本村 優季, 田中 創, 山浦 誠也, 森澤 佳三, 副島 義久
    p. 22
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/05/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    一般に人工関節全置換術は,可動域改善,疼痛の軽減を目的に行われる.しかし,術後症状の残存する例も見られる.今回術後早期より可動域訓練,筋力訓練を行ったにも関らず、ROM制限,疼痛が術後一ヶ月まで残存し,跛行を呈した症例を経験した.この症例に対して歩容改善に着目して理学療法を行った結果、良好な結果が得られたので考察を加え報告する.
    【症例呈示】
    72歳 女性  診断名:右変形性股関節症 現病歴:数年前より右股関節痛あり、最近になり疼痛増強しH18年3月16日手術(THA)施行.
    【理学療法評価】
    術前評価:ROM股関節屈曲100°伸展0°外旋30°.筋力(MMT)大殿筋3,中殿筋3,大腿四頭筋4.疼痛:股関節前内側,殿部に歩行時・運動時痛(VAS 9/10)がある.立位・歩行姿勢:常に骨盤前傾し,股・膝屈曲位にあり,上部体幹の右側屈が強くみられた.
    術後評価: ROM(右)股関節屈曲90°伸展0°外旋10°.筋力(MMT)大殿筋2、大腿四頭筋4、中殿筋2. 疼痛:右立脚後期に殿部痛あり,圧痛、運動時痛なし 立位姿勢:右膝屈曲,骨盤前傾,股関節内転・内旋位. 歩行観察:右下肢立脚中期から後期にかけて股関節伸展乏しく,骨盤右回旋,右骨盤前傾、体幹左回旋、股関節内転・内旋、距骨下関節回内が増大する.膝関節は歩行時常に屈曲位であった.
    【治療内容】
    1.筋収縮訓練(前脛骨筋、ヒラメ筋、大殿筋) 2.坐圧コントロール  3.歩容改善訓練
    【結果】
    上記の治療を実施し,ROM-Tで股関節屈曲105°,伸展10°,外旋30°.筋力(MMT)大殿筋4,大腿四頭筋4,中殿筋3と向上がみられた.
    立位姿勢は右膝伸展機能向上,骨盤前傾改善.歩容は,右立脚後期の骨盤右回旋の軽減,相対的に体幹右回旋,股・膝関節の伸展機能向上が得られ,殿部痛は軽減した.
    【考察】
    術後早期の歩行では右立脚後期に骨盤右回旋,体幹・股・膝関節屈曲対応で,大殿筋による左前方への重心移動能力の低下がみられ,このことにより骨頭が後方位のまま荷重ストレスがかかり,後方関節包・軟部組織への機械的ストレスにより疼痛が出現したと推察した.
    訓練開始初期のアプローチとして,股・膝関節伸展可動域訓練,筋力訓練での歩容改善を図った.しかし,可動域,筋力の量的な向上はみられたものの,歩行時には2関節筋有意となり,歩容の変化,疼痛軽減はあまりみられなかった.そこで単関節筋である前脛骨筋,ヒラメ筋の筋収縮促通による膝関節伸展機能向上,歩行フェイズ訓練での右立脚後期での大殿筋収縮を促した.
    右立脚後期での大殿筋収縮改善により,骨盤・下肢のニュートラルポジションでの荷重が促され,股関節後包関節包の機械的ストレスが軽減し,殿部痛軽減に至ったと推察する.
  • 大谷 真琴, 東 利雄, 今屋 将美, 野口 大助, 高橋 知幹
    p. 23
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/05/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    当院では平成17年8月より最小侵襲(以下、MIS)による人工股関節全置換術(以下、THA)を導入した。MIS-THAは、侵襲が僅かであることから、術後早期の機能回復が予測でき、従来法THAより早期の積極的な後療法が可能ではないかと考える。そこで、後療法の見直しを図るため、術後の股関節外転筋力の推移に着目し、経時変化を追った。また、術後歩行獲得時期の判断基準として股関節外転筋力をもとに若干の知見を得たので報告する。
    【対象】
    平成17年8月から平成18年3月までに当院にてTHAを施行した患者のうち調査可能であった女性31例(31関節)。うち前側方侵入のMIS-THAを施行した18例をMIS群、後方侵入の従来法THAを施行した13例を従来法群とした(平均年齢:MIS群67歳±7.23、従来法群59歳±7.36)。
    【方法】
    両群の術前、術後1週、2週、3週の股関節外転筋力をハンドヘルドダイナモメーター(以下、HHD)を用いて測定した。測定肢位は背臥位とし、大腿遠位にHHDを当て、等尺性運動による筋出力を測定し、得られた値より体重比を求めて股関節外転筋力とした。さらに経時変化を比較するため術後の値を術前の値で除して向上率を求めた。また両群の術後1本杖歩行獲得までの期間を調査した。
    【結果】
    股関節外転筋力の平均値を術前、術後1週、2週、3週の順に示すと従来法群は16、13、17、17(kgf/kg)、 MIS群は12、12、13、16(kgf/kg)となった。さらに向上率は従来法群で0、-8、13、18(%)、MIS群で0、3、7、40(%)の改善を示した。両群の経時変化に有意な差はみられなかったが、術後1週で従来法群は一旦低下するのに対し、MIS群は低下を認めず、また術後3週では従来法群に比べMIS群は約2倍の向上率を示していた。術後1本杖歩行獲得までの平均期間はMIS群9.6日、従来法群16日で有意差を認めた(p<0.001)。
    【考察】
    股関節外転の補助筋の一つに外旋筋群があるが、従来法THAでは外旋筋群を切離するのに対し、MIS-THAでは筋を切離しないのが特徴である。今回、MIS群は術後3週で従来法群に比べ約2倍の向上を示した。この結果から、THAでは外旋筋群切離の有無が術後股関節外転筋力向上に影響を及ぼしている可能性が推察された。THAの後療法を行う上で、従来法THAでは術後1週までは、術前の筋力に回復していないことを考慮する必要があり、MIS-THAは術後1週でも積極的な股関節外転筋力訓練が可能であることが推察された。またMIS群では術後1週、従来法群では術後2週で股関節外転筋力の回復を示し、これは両群とも歩行獲得までの期間とほぼ一致していた。従って、術前の筋力まで回復することが歩行獲得の一指標になると考えた。
  • 坂本 竜弥
    p. 24
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/05/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    一般的に外傷後の肘関節は拘縮が発生し易く、Monteggia骨折はそれに加え橈骨頭の脱臼により前腕回旋障害も伴い易い。今回、Monteggia骨折後の成人例1例に施行した術後セラピィを考察を含め報告する。
    【症例】
    75歳、女性、右利き。転落し受傷。診断名は左Monteggia骨折、橈骨神経麻痺。
    【受傷時レントゲン】
    BADOの分類1型。尺骨骨折部は粉砕され、骨幹部は橈側へ転位を認めた。また橈骨頭は前方尺側へ脱臼転位していた
    【術中所見】
    尺骨は後方からプレートにて強固に固定した。橈骨頭の完全な整復は得られなかった。術後は肘関節90°屈曲・前腕回外・手関節背屈位でシーネ固定した。
    【術後セラピィ】
    術後翌日よりセラピィ時のみシーネ除去し肩・手・指関節運動開始。術後3日後より、橈骨神経支配筋に対して低周波開始。術後1週後より、前腕他動回外運動開始。術後2週後より、肘関節他動屈曲運動開始。術後3週時にシーネ除去され、手関節背屈位のスプリントへ変更したが、手を床に着く動作等は禁止した。術後4週時レントゲン所見で橈骨頭の正常アライメント、尺骨の骨癒合状態を確認し、愛護的な前腕回内・肘関節伸展運動、前腕自動回外・肘関節自動屈曲運動を開始し、ゴムバンドを利用した弱い負荷から肘関節他動持続屈曲運動も開始した。ある程度強固な骨癒合状態と判断した術後8週後から、重錘を利用した肘関節他動伸展運動、肘関節伸展筋力増強訓練開始。ADLにて徐々に患手使用を許可した。術後12週時に退院となる。
    【結果】
    術後4週以降橈骨頭の再脱臼は認めなかった。退院時ROM自動/他動は肘関節屈曲127°/136°伸展-21°/-10°、前腕回外62°/91°回内88°/90°であった。又、患手握力は7.7kg(健側比44.8%)であり、ADLにおいては洗顔、食事等患手使用頻度が増加した。
    【考察】
    今回のMonteggia骨折例は術後にも若干橈骨頭が前方脱臼しており、不安定性が残存していた。その為、橈骨頭の前方脱臼を助長するような運動は遅らせた。肘関節運動においては、上腕二頭筋の収縮や伸張により前方へ脱臼し易いと考えた自動屈曲運動や伸展運動は遅らせ、愛護的な他動屈曲運動から開始した。又、前腕回内・外運動においては、回内することにより橈骨頭が前方脱臼し易いと判断し、他動回外運動から開始した。結果、ADLで支障ない程度のROMを獲得でき、症例の満足度も高かった。更に術後4週以降、橈骨頭と上腕骨小頭のアライメントは正常であり、安全な運動であったと思われる。本症例のようなMonteggia骨折例では撓骨頭の再脱臼に注意した術後セラピィの工夫が必要であると考えている。
  • 前腕回外動作時の運動連鎖に着目して
    楠本 美奈, 杉木 知武, 阿南 雅也, 木藤 伸宏, 川嶌 眞人
    p. 25
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/05/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    橈骨遠位端骨折術後の作業療法としては、可動域改善・握力向上に対し着目されることが多い。手関節は前腕-上腕-肩甲骨-胸郭と連結し、運動連鎖により機能的な影響を受けやすいため、手関節-前腕のアプローチに加え、上肢-上部体幹の運動連鎖を効率よく行う機能獲得が必要と思われる。今回、矢状面の座位姿勢と座位での前腕回外動作を臨床指標とし、術後8週の時点で評価を行い、アプローチをした結果、症状改善が得られた為以下に報告する。
    【症例紹介】
    年齢:79歳、性別:女性、職業:元調理師 診断名:右橈骨遠位端骨折 現病歴:平成17年11月7日、右脛骨高原骨折にて入院中、服を着替えようと箪笥に手を伸ばした時、バランスを崩して転倒。同年11月8日観血的骨接合術施行。既往歴:左半月板損傷(70歳)
    【作業療法評価】
    (術後8週)疼痛:Visual Analogue Scale(以下VAS) 安静時(6/10)・夜間時(7/10)・前腕回外運動時(10/10) ROM-t(Rt/Lt):Pain(以下P)前腕回内(70p/80)・回外(40p/80)・手関節掌屈(20p/70)・背屈(15p/70) 座位姿勢:頭部前方変位、胸椎後弯、骨盤後傾位、重心線から上半身重心は後方変位。前腕回外動作:肩甲骨外転位、両上腕骨頭前方変位、上腕外旋位、前腕回内位のため、体幹右側屈・右回旋、頚部左側屈・右回旋の補償動作が認められた。
    【作業療法アプローチ】
    本症例は加齢に加え、左半月板損傷と日常生活での代償的な作業動作により、下部体幹の安定性が低下し、上半身重心の後方変位が生じたと推察される。今回、右脛骨高原骨折での影響も加わり、このようなアライメントの崩れが上肢-上部体幹の運動連鎖の破綻を引き起こしたと考えられる。手関節-前腕機能改善のみでなく、下部体幹の安定性の向上、上部体幹のアライメントに着目し、上肢-上部体幹の運動連鎖、上半身重心の正中化を目的としアプローチを行った。
    【結果】
    (術後12週)前腕回外運動時(VAS2/10) ROM-t(Rt/Lt):前腕回内(70/80)・回外(70/80)・手関節掌屈(60/70)・背屈(60/70) 座位姿勢: 頭部前方変位の減少、胸椎後弯減少、骨盤中間位保持可能、上半身重心正中化。前腕回外動作:胸郭可動性改善により、肩甲骨外転位、両上腕骨頭前方変位、上腕外旋位、前腕回内位改善。このことから、前腕回外動作制限改善し、体幹右側屈・右回旋、頚部左側屈・右回旋の補償動作の改善が認められた。
    【まとめ】
    今回、橈骨遠位端骨折の症例に対し、手関節-前腕のアプローチに加えアライメントに着目し、体幹機能改善を試み、上肢-上部体幹の運動連鎖を考慮した。作業療法として、関節可動域改善・筋力強化のみにアプローチするのではなく、日常生活での姿勢・動作を考慮し、運動連鎖にも注目する必要がある。
  • 田崎 和幸
    p. 26
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/05/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     手指の側副靭帯損傷後のセラピィでは、損傷関節の良好な側方安定性と可動性が要求される。当院におけるPIP関節側副靭帯完全断裂修復術後のセラピィを紹介し、若干の考察を加えて報告する。
    【対象】
     2003年4月からの3年間に処方されたPIP関節側副靭帯完全断裂修復術後23例24指のうち2ヶ月以上経過観察が可能であった16例17指を対象とした。手術時年齢14歳から74歳(平均38.3歳)、断裂靭帯は中指橈側5指、環指橈側3指、小指橈側8指・尺側1指であった。受傷原因はスポーツ損傷9例、転倒・落6例、その他1例であった。新鮮例13指は靭帯縫合術、陳旧例の4指は一側の浅指屈筋腱を用いた靭帯再建術を施行し、PIP関節10から15度屈曲位で2週間安静固定した。
    【術後セラピィ】
     術後早期からMP、DIP関節自・他動運動と修復側の内外転筋の強化を行った。術後2週からbuddy splintを用いた指全関節の自動運動を行わせ、徒手的にPIP関節伸展0度までの他動運動とPIP関節最大自動屈曲位でのDIP関節他動屈曲運動(側索の掌側滑動運動)を行った。術後5から6週より必要に応じてPIP関節の他動運動を開始した。buddy splintは基本的にスポーツ施行時および示・中指橈側断裂例では術後3ヶ月、それ以外は術後6週間装着させた。
    【結果】
     StricklandによるPIP、DIP関節自動可動域の評価では73%から94%(平均85%)で、優10指、良7指であった。屈曲可動域は良好であったが、PIP関節の10度前後の屈曲拘縮例が散在した(良指は全指)。PIP関節側方不安定例はなかった。
    【考察】
     PIP関節側副靭帯完全断裂修復術後は安静固定期間中に修復靭帯を中心とした関節性拘縮や修復靭帯と側索および支靭帯の癒着によるPIP、DIP関節の屈曲、伸展制限が発生する。そのため修復靭帯の治癒過程を考慮しながら、如何にして拘縮が不完全な術後早期に可動性を獲得させるかが大切である。術後早期からのDIP関節自・他動運動は関節性拘縮の予防だけでなく、支靭帯を伸張し、側索を滑動させることができるため重要と考えている。術後2週からの側索の掌側滑動運動により屈曲可動域は比較的容易に獲得できた。手指側副靭帯損傷例では掌側板損傷を合併するために軽度屈曲位で安静固定するのが一般的であり、PIP関節では側副靭帯扇状部、掌側板、手綱靭帯などによる屈曲拘縮が発生する。それに対しては術後2週から関節の形状により側方安定性が得られ、背側不安定性を予防した伸展0度までの他動運動を行い矯正したが、運動時以外は屈筋の緊張で屈曲位になるためか、最終的に屈曲拘縮例が散在した。そのため最近の症例ではPIP関節0度伸展位の静的夜間splintを利用して良好な伸展可動域が獲得できている。PIP関節屈曲拘縮に対しては、術後2週からのPIP関節伸展0度までの他動伸展運動とPIP関節0度伸展位の静的夜間splintが有効と考えられた。
  • 野中 信宏
    p. 27
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/05/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
     関節リウマチ(以下RA)の手関節部では、関節破壊に伴い、尺側指の伸筋腱皮下断裂が合併しやすい。その伸筋腱再建術後に運動制限を余儀なくされるため、指伸展不全や伸展拘縮が発生しやすい。特に尺側指の伸展拘縮はADL上非常に不便を生じる。今回、上記再建術例に対してスプリントを用いた早期運動療法を施行したので考察を加え報告する。
    【症例】
     54歳、男性、右利き、事務職員。右中環小指の伸展不能を訴え、当院受診。右遠位橈尺関節脱臼、中環小指伸筋腱皮下断裂の診断にてSauve-Kapandji法と腱移植術を施行した。手関節部で断裂していた中環小指の伸筋腱に対しては、同側の長掌筋腱を採取してbridge graftし、手関節最大背屈位で指屈曲可となる緊張でinterlacing sutureした。
    【術後セラピィ】
     手・指関節伸展位の静的スプリントを作製し、術後6週まで夜間装着させた。術後3週間は、1日2回のセラピィ時にIP関節自動屈曲運動、MP関節内外転運動、重力除去位での軽い自動伸展運動を行った。他時は、手・IP関節伸展位にてMP関節のみを動的に30度程屈曲可能な伸展補助アウトリガー付きのスプリントを装着させ、1時間に10回程MP関節を屈曲させた。術後3週からアウトリガーを除去し、同スプリント内にて指自動屈曲伸展運動を行った。術後4週でMP関節を60度程屈曲できるようにスプリントを修正し、術後5週でMP関節以遠の屈曲制限を除去した。また、自動掌屈運動を追加した。術後6週でスプリントを除去し、ADLにて患手使用させ、手・指他動屈曲運動を追加した。
    【結果】
     術後10週時、前腕回内外可動域に制限なく、手関節は関節破壊のため、掌屈制限を認めたが、術前と差はなかった。指自動運動時、MP関節屈曲/伸展可動域は中指80度/-5度、環指85度/-10度、小指90度/-15度でIP関節には制限を生じなかった。握力は健側比100%であった。
    【考察】
     手指伸筋腱再建術後のセラピィでは、伸展不全と伸展拘縮と相反する両者を予防もしくは改善させることが最重要課題である。前者は、RAでは一般的に手関節破壊で掌屈制限を呈することが多いため、腱固定効果での伸展力が得られにくく、伸展不全を生じやすい。そのため、術後翌日から自動伸展運動を徐々に開始し、また夜間に手・指伸展位スプリントを術後6週間継続することで対応した。後者は、特に尺側指の場合、伸展できないことよりもさらにADL上不満足な結果になりやすい。そのため、伸展拘縮を呈しやすいMP関節に着目し、日中の段階的なスプリントを用いて対応し、また内外転運動を行うことで伸展拘縮の主たる原因である側副靭帯の伸張性低下を可能な限り予防した。結果、軽度の伸展不全を生じたが、伸展拘縮は認められず、症例は支障なく現職復帰した。日中の段階的なスプリントと夜間スプリントを含めた早期運動療法は有用な方法であると思われた。
  • 木浦 扇, 石原 敬子, 戸沢 美希, 佐々木 理恵, 根路銘 祥子, 玉井 誠
    p. 28
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/05/01
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    今回、当院にて手指の変形性PIP関節症による関節軟骨の破壊、それに伴う疼痛に対し、徐痛、可動域の改善、変形の矯正を目的に、人工関節置換術と早期運動療法を施行した。短期的ではあるが、治療成績を報告する。
    【対象と方法】
    対象は2005年7月から2006年4月にかけ、当院にてPIP関節、人工関節置換術を施行した5例6指(男性1例、女性5例)であり、4例は特発性、1例が外傷後関節症であった。内訳は、示指1例、中指2例、環指3例であった。人工関節は、全例にAVANTA SR ハンドインプラントシステムを用い、骨セメントを使用した。また、Heberden結節による疼痛の高度であった2指にDIP関節固定術を追加して行った。手術時年齢は、52から62歳(平均56歳)であった。
    これらの症例に対し、術前・術後の手指自動関節可動域、疼痛・術後ADLについて検討した。
    【術式】
    4例には背側アプローチ、骨接合術の再手術である1例に、掌側アプローチを行った。
    【術後療法】
    突発性の4例は術後1週より、術前関節拘縮が高度であった、外傷後の1例は術翌日より、PIP関節の自・他動運動を開始した。再拘縮、腱癒着を防ぐため積極的な腱滑走運動によるグライディングの促進と可動域運動を進めた。他動運動では過屈曲によるExtension lagを防止する為、PIP関節屈曲は段階的に進めた。
    【結果】
     可動域は、術前PIP関節伸展-10°から-65°(平均-22°)、屈曲45°から95°(平均59°)から、術後3ヶ月経過時、PIP関節伸展-40°から0°(平均-18.7°)、屈曲45°から100°(平均77.5°)であった。疼痛は全例において改善が認められ、日常生活においても、負荷量の調整が必要であるものの、術前の仕事あるいは家庭復帰が可能となった。また、症例の多くは女性であり、美容的観点においても、変形の矯正が得られたことにより、満足度は高かった。
    【考察】
    今回、手指の関節軟骨の破壊、それに伴う疼痛・ADL制限に対し、人工関節置換術を施行し、術後早期運動を行うことにより、短期的ではあるが、良好な成績を得ることができた。また、美容的観点においても、変形の矯正が得られたことより、満足度は高かった。人工関節の課題として、長期使用におけるインプラントの破損やルーズニングが考えられるため、長期成績についても検討していきたいと考えている。
  • 川口 雄一, 岩永 健児, 井上 裕也
    p. 29
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/05/01
    会議録・要旨集 フリー
    【始めに】
    腰痛症患者において、日常生活の諸動作での腰椎骨盤リズムの乱れにより疼痛を来たしている者は多い。これには、各体節が正常から逸脱した軌跡を辿ることで周辺組織の微小損傷や過負荷を生じ、慢性疼痛の一因となることが推測される。今回、動作パターンの改善による疼痛コントロールを目的とし、自主訓練を中心にアプローチを行ったところ良好な結果が得られた為、以下に報告する。
    【対象】
    手術の既往や明らかな骨変形、他関節疾患のない外来腰痛患者18名で、自主訓練を実施できた男性4名、女性3名の合計7名(平均年齢34.3歳、16歳から51歳)。腰痛の既往:初発1名、5回未満4名、5回以上2名。
    【方法】
    股関節屈曲(骨盤前傾)、腹筋群と大殿筋の同時収縮による骨盤後傾を促がす自主訓練の指導を行い、1)椅子からの立ち上がり2)立位からの最大前屈3)最大前屈位からの復位動作4)立位での両上肢挙上5)各動作時の疼痛の程度(VAS)を約3週間の訓練前後で比較した。
    【結果】
    1)股関節の屈曲(骨盤の前傾)による身体重心前方移動の改善。2)骨盤の後方移動による腰椎過剰伸展の減少、股関節屈曲の増加による胸椎過剰屈曲の減少。4)前腹筋群の意識的収縮による腰椎過剰伸展の減少。3)に関しては著明な改善は得られなかった。上記動作時のVAS変化1)4/10から1/10、2)3/10から1/10、3)3/10から1/10、4)1/10から0/10。自主訓練の頻度:平均2set/日、3日/週。
    【考察】
    今回共通して確認された異常動作パターンの根源は腰椎中間位制御能力の低下にあると推測する。腰椎の過剰運動は骨盤前後傾不足を代償しての結果であり、これには腸腰筋の短縮や大殿筋・前腹筋群の収縮能力低下が関与していると考えられる。実際日常生活における諸動作では腹直筋の最大随意収縮の約10%程度で腰痛の予防が可能であると報告されている。よって今回のアプローチでは筋力訓練よりも各動作時における筋の動員パターンの再学習を目的とし自主訓練の指導を行った。結果として腰椎と股関節屈曲の分離、腰椎中間位制御能力の拡大などにより以前の異常動作パターンが改善された。身体重心が足部基底面に近づいた事で日常の諸動作において腰部周辺組織の過剰負荷による微小損傷の頻度が減少し疼痛軽減に繋がったものと考える。よって自主訓練の有効性は確認されたが依然として異常動作パターンが残存していた為、更に長期のアプローチ及びチェックが必要であると思われる。
    【最後に】
    今回の評価は各動作1回の評価であった為、日常生活における疼痛再現に多少欠けていた。今後は反復動作や重量物挙上、同一姿勢保持などの評価も取り入れ追跡調査していきたいと考える。
  • 大平 高正, 都甲 純, 井上 博文, 山野 薫, 山田 健治, 加藤 浩
    p. 30
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/05/01
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに】
    変形性股関節症における腰痛の発生率は高く、先行研究では、人工股関節全置換術(THA)を実施した患者の約65%に発症していた。また、骨盤前傾角と腰痛との関連性が指摘されている。今回、股関節と腰椎の機能的連携の観点から、股関節疾患症例の腰痛と腰椎伸展可動域および骨盤前傾角との関連性について調査を行ったので報告する。
    【対象と方法】
    当院整形外科にて、THAを施行した股関節疾症例17例とした。理学療法開始時に、入院前の腰痛の有無を問診にて調査した。ここでいう腰痛は、胸腰椎移行部から殿部までの範囲に自覚される疼痛で、明らかな下肢痛を有する場合は対象外とした。対象者の詳細は、平均年齢59±15歳(腰痛群62±10歳、非腰痛群59±15歳)、男性4例、女性13例。腰椎伸展可動域の測定は、腹臥位で両手を用いて体幹を伸展させた時の、ベッドから胸骨切痕までの距離を計測する方法(prone press-up:PPU)を用いた。PPUは、被験者の身長で除し、標準化した。骨盤傾斜角は、手術前の臥位の正面単純X線像から算出した。統計学的処理は、Mann-whitneyのU検定を用い、有意水準は5%未満とした。PPUと骨盤前傾角との相関も検討した。
    【結果】
    手術前に腰痛のあった患者は8例(44%)であった。PPUは、腰痛群14.3±3.1cm、非腰痛群22.4±2.6cmであった。骨盤前傾角は、腰痛群5.8±16.4度、非腰痛群8.2±17.3度であった。腰痛群と非腰痛群との比較では、PPUに有意差(p<0.0001)が認められた。しかし、骨盤前傾角には、有意差は認められず、PPUと骨盤前傾角との間には、相関は認められなかった。
    【考察】
    今回の測定では、腰痛と骨盤前傾角の関連性は認められず、腰痛とPPUとの間に関連性が認められた。その要因としては、骨盤前傾角は、年齢によって低下(骨盤後傾化)するといわれているが、今回は症例数が少ないことより、年齢による区分をもうけなかった。そのため骨盤前傾角のばらつきが非常に大きくなった。また、正面単純X線画像による骨盤前傾角の算出方法の問題としては、膝関節の屈曲による代償を判別することができない事である。そのため骨盤の後傾が実際以上に強調された症例が含まれていたと推察した。腰椎伸展可動域の主な制限要因は椎間関節の可動性の低下と推察した。これは、PPUの測定場面で、腰痛群では脊柱のたわみが全くなく、脊柱が一体化して動いているのが観察できたことによる。腰椎前弯が増強している症例では、すでに腰椎が伸展した状態となっているため、PPUが短値になったと推察した。
    腰痛発生までの一連の経過は、股関節機能低下→腰椎での機能的代償→機能的代償の慢性化による腰椎周囲筋群の筋緊張の亢進→椎間関節の運動性の低下→腰痛の発生と推察した。
  • 身体重心制御の向上へ向けてのアプローチ
    宮崎 茂明, 椋田 俊博, 三原 成人, 花田 智
    p. 31
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/05/01
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに】
    変形性股関節症(以下変股症)は加齢による軟骨の退行変性と、形態学的不適合による関節軟骨の変性と炎症反応が加わった疾患である。今回、右側変股症を呈した症例(74歳、女性)を経験し、理学療法における治療計画の検討を試みたので、考察を加え報告する。
    【初期評価】
    1.疼痛:右側鼠径部・大殿筋・中殿筋・大腿筋膜張筋に運動時痛あり。Visual Analogue Scale(以下VAS) 9/10 2.姿勢 矢状面:上半身重心が下半身重心より前方位、右股関節伸展制限・腰椎前弯増強あり。骨盤傾斜(上前腸骨棘-上後腸骨棘:以下ASIS-PSIS) 4横指。股関節伸展モーメント大。 前額面:右骨盤高位、右腸骨外方偏位、右股関節外旋位。頭部左側偏位、体幹右側偏位。3.歩行:左片松葉杖歩行、Duchenne跛行(以下 跛行)あり。4.ROM:股関節伸展 -10/0 内旋 -10p(+)/20 5.下肢長:79/80cm 6.MMT:大腿筋力3/4 7.X線所見:末期股関節症。
    【理学療法プログラム】
    身体重心制御の向上を目的に1.身体重心正中化エクササイズ(以下EX) 2.股関節モビライゼーション3.股関節の動きを意識するEX 4.身体重心制御EXを段階的に実施した。
    【最終評価】
    1.疼痛:右側鼠径部・大腿筋膜張筋に運動時痛あり。VAS 3/10 2.姿勢 矢状面:右股関節伸展ROM改善、腰椎前弯増強減少。ASIS-PSIS 2横指。股関節伸展モーメント減少。 前額面:骨盤高位・骨盤内外方偏位、共に左右差なし。右股関節外旋位。頭部・体幹左右差なし。3.歩行:左T字杖歩行、跛行の改善あり。4.ROM:股関節伸展 15/20 内旋 20/25 5.下肢長:79.5/80cm 6.MMT・7.X線所見:共に著変なし。
    【考察】
    本症例における改善因子として、以下の4つが考えられる。1.姿勢改善:股関節伸展・外転モーメントの減少が図られ、筋ストレスの軽減が得られた。2.股関節ROM改善:関節包パターン(伸展・内旋制限)を示していたことから、関節包や周囲靱帯組織の伸張性が改善し、関節包ストレスの軽減とROM改善が得られた。また、右股関節伸展・内旋制限により、右側立脚期から推進期にかけて、右骨盤の過剰な後方回旋、水平回旋と体幹右回旋、右側屈にて代償し、左側への骨盤の移動を図っていたが、ROM改善によって円滑な重心移動が可能となり、跛行が改善した。3.動作における股関節を中心とした協調性の向上:open kinetic chainで股関節単独の動きを認識し、closed kinetic chainで股関節以下の下肢の機能的な運動形態を意識することで、動作における協調性が得られ、跛行が改善した。4.身体重心制御の向上:身体重心位置の正中化を獲得した上で、身体重心位置をコントロールする能力を向上させることは、二次的障害の予防・改善、動作の正常化という観点から非常に重要である。
    【まとめ】
    今回、実施したプログラムの結果、身体重心制御の向上が得られた。今後は各プログラムの効果についてより客観的な臨床的検討を重ねていきたい。
  • -表面筋電図解析を用いて-
    高橋 朋子, 大平 高正, 神崎 裕美, 山野 薫, 久寿米木 和繁, 板井 晃彦, 寺田 信彦, 毛利 明博, 伊藤 恵
    p. 32
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/05/01
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに】
    変形性股関節症症例は、筋力の量的低下のみならず、アライメント異常、筋活動様式の異常(筋力の質的低下)による影響が大きいと感じることが多い。
    今回、両側変形性股関節症症例の中殿筋の活動様式の変化を、表面筋電図を用いて解析したので報告する。
    【症例】
    66歳女性。163cm、65kg。両側変形性股関節症(進行期)で、日整会判定基準は右43点、左46点。立位アライメントは、頭部は軽度屈曲・左回旋・右側屈位、上部体幹は伸展・右回旋・右肩上がり、下部体幹は屈曲・右回旋・骨盤前傾位、下肢は特に右で股関節屈曲、外転、外旋位、膝屈曲、下腿・足部外旋位であった。歩容は、中殿筋歩行を認め、立脚側へ体幹を側屈させ(右>左)、終始体幹は軽度前屈、股関節は屈曲位で伸展相を認めなかった。体幹、股関節可動域制限(右>左)、両側下肢筋力低下(MMT3から3+)を認めた。疼痛は、床起立や和式便所使用時、立位での家事動作、20分ほどの歩行において出現した(右>左)。
    【方法】
    表面筋電図測定装置(NORAXON社製 TEREMYO2400)を用い、電極は両側中殿筋に貼付した。サンプリング周波数は1,500Hzとし、0.05秒ごとに平均振幅を算出した。同時にビデオ撮影を行い、5m程の自由歩行計6回から左右各1歩行周期 (12サンプル) を抽出した。これより、所要時間、同側中殿筋の平均振幅波形及びピーク期の比較、検討を行った。
    【結果】
    所要時間は、各サンプルで異なっていた。平均振幅波形は、各サンプルで明らかな波形の違いを認め、全サンプルで遊脚期にも筋活動を認めた。ピーク期は、歩行周期全般に渡ってばらついていた。
    【考察】
    サンプル間の所要時間のばらつきは、跛行の時間的側面として評価できた。平均振幅波形は、足底接地期にピーク期を迎える健常者と症例では全く類似性を持たず、サンプル間でも規則性を持たなかった。
    以上のことから、症例では、歩行周期や筋活動が一定して繰り返されず、時間的側面、筋活動様式の側面からも常に浮動的であった。また、健常者の歩行時中殿筋は、踵接地直後の急激な荷重に即応して、筋が衝撃を吸収するように遠心性に反応したり、内転方向のモーメントを制御したりするといわれている。しかし、症例ではピーク期が歩行周期全般に渡ってばらついており、荷重応答作用のみではないと考えられる。症例は常に骨盤前傾、股関節屈曲位といった立位アライメント異常や歩行時立脚側への体幹側屈などの跛行を認めた。そのため、側屈した体幹を正中位に戻すときに骨盤を引上げながら下肢を振り出す動作が生じ、正常歩行における中殿筋の作用とは異なる作用を作り出してしまっている。今回の症例においては、アライメント異常や疼痛が中殿筋の筋活動様式の異常と密接に関係していると考えられる。
  • 竹内 直人, 中村 裕樹
    p. 33
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/05/01
    会議録・要旨集 フリー

    【目的】
    これまでに上腕骨近位端骨折の保存あるいは手術療法後の理学療法を経験した。その中で、関節拘縮により機能障害を引き起こし訓練に難渋するケースもあった。今回、上腕骨近位端骨折後の経過を基にその予後に関与する因子について検討したので報告する。
    【対象】
    当院に平成15年6月から平成18年3月に入院し理学療法を施行した上腕骨近位端骨折患者23名を対象とした。23名の内、保存療法(以下、C群)14名(男性2名 女性12名)、手術療法(以下、O群)9名(男性2名 女性7名)であり、平均年齢は71.1歳±18.1歳であった。O群は、髄内釘4名、K-wire3名、プレート2名であった。
    【方法】
    まず、C群において骨折型による分類により結節部と頚部に大別し退院時可動域を比較し、次に各療法での固定期間、ADL状況について同様の比較を行い関連性について検討した。
    【結果】
    1、骨折型による分類では、結節部が8名で屈曲128.7°±25.8、 外旋40°±24.9であり、頚部が6名で屈曲127.5°±27.7、外旋30.8°±24.1であった。
    2、固定期間はC群43.1±11.5日(胸壁固定23.7±12.1日)、O群19.6±22.2日(胸壁固定20±11.9日)であり固定期間による可動域への影響はなかった。
    3、結髪動作では、動作自立14名でC群10名、O群4名となり、C群は屈曲141.5°±10.5、 外旋47.5°±17、O群は屈曲131.2°±29.5、外旋43.7°±9.5であった。動作不可9名でC群4名、O群5名となり、 C群は屈曲93°±18.5、 外旋10°±10、O群は屈曲98°±5.7、外旋26°±12.9であった。C群の動作不可な方は外旋が有意に低下していた(p<0.01)。同様にO群でも屈曲・外旋ともに有意に低下していた。(p<0.05)。
    【考察】
    まず固定期間による影響というのが無かったことに関して術後に胸壁固定期間が短い症例もあり一概にいえないが、骨癒合の程度に留意するC群に比べ早期に運動をすすめるO群と退院時の可動性ということでは変わらなかったということでは非侵襲での有用性が伺えた。またC群においても固定期間が退院時の可動性に影響を及ぼさなかった。保存的治療での早期運動の有効性についての報告があるが、今回の結果から骨癒合の経過を確認しながら行っても十分に可動性が獲得できると考える。
    保存療法の場合、固定で下垂内旋位をとるため烏口上腕靭帯、肩甲下筋・大胸筋等が短縮位となり、屈曲・外旋の制限が引き起こされると予想していた。骨折型分類の中で結節部は外旋域が保たれていたのに対し頚部では低下していた。これは回旋することにより骨折部への剪断力がより作用すると危惧した結果によるものである。さらに結髪動作でも外旋域の獲得に大きな影響があることより今後固定法を含めた訓練の検討が必要と考える。
  • 福田 久徳, 花山 友隆
    p. 34
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/05/01
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに】
    今回、食事・整容動作に失行症状が著しく影響を及ぼしていた症例を担当した。失行症の定義は研究者により様々だが、ここでは山鳥の「日常慣用の物品の使用障害」とし、河村らによる失行症の説明図式を参考にアプローチを行った。その結果、食事・整容動作における失行症状が軽減し、若干の改善を認めたので報告する。
    【症例紹介及び作業療法評価】
    80代の男性。発症日:H17.11.8に脳梗塞の診断。当院入院日:H18.1.5、翌日より作業療法開始。既往歴:心房細動、糖尿病。損傷部位:上左前頭葉・側頭葉・頭頂葉・後大脳動脈領域に梗塞巣を認めた。Br-Stage右上肢・手指・下肢共に2。感覚は重度鈍麻、右同名半盲の疑いあり。高次脳機能障害は、全失語、観察より観念失行・口腔顔面失行・観念運動失行、右半側空間失認、注意障害が疑われた。食事・整容動作は非麻痺側を使用し、手づかみ・皿すすりではあるが食事動作軽介助、整容動作全介助にて行っており、Barthel Index(BI):20/100点、機能的自立度評価表(FIM):39/126点
    【評価結果の解釈及びアプローチ】
    本症例の呈している症状を河村らのモデルを参考に行為概念系と行為産出系に細分化し、アプローチを行った。森田は「道具を認知するということは、道具の構造と機能(用途)をイメージできるということである」と述べており、まず道具使用に関して行為概念系からのアプローチが必要だと考えられた。行為の概念を獲得するためにセラピストの全介助にて道具の使用方法の経験を重ねた。また、行為産出系に対しては道具使用の位置・方向性の適正化を図ることを目的とした。アプローチでは物品操作課題において、視覚情報と体性感覚情報の統合が行われるように促しながら道具操作に必要であるとされる身体図式の獲得を図った。また、テーブルを利用することで外空間の枠組みを作り、自己身体と外空間の認識を促した。
    【結果と考察】
    症例は食事動作・整容動作は促しにて修正可能となった (BI:40/100点、FIM:57/126点。食事・整容共に5点) 。道具使用時では道具の方向性に適正化が図られ、食事の際の食べこぼしの減少、整容の際に失行の影響はほぼ見られなくなった。また、林らも「ビデオによる視覚刺激と徒手的誘導による体性感覚どちらの刺激も有効である」と述べているように本症例にとっても道具の使用をセラピストの介助や視覚的に確認することで、過去に経験していた動作を想起することが可能であったと考えられる。
    【まとめ】
    今後の課題として、行為概念系の確立により、同じ概念を持ち合わせた道具の使用へと汎化(例えばスプーンで物をすくうという概念が獲得されれば、おたまで食べ物を皿へとつぎ分けることができるのか)が可能なのか症例数を重ね、検討していく必要がある。
  • 内山 将哉, 宮口 英樹
    p. 35
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/05/01
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに】
    臨床場面では寝たきり患者に対し,OTとして何ができるのかを苦慮することは少なくない.今回,手指の拘縮に対するアプローチによって家族が患者に懐く役割が強化されるのではないかと考え,治療介入を行い新たな示唆を得たので報告する.
    【症例紹介】
    85歳女性.平成13年外傷性脳出血にて当院入院.入院中に数回の脳梗塞を発症し,平成15年発症後から傾眠傾向となる.平成17年OT開始時の意識レベルJCSIII‐200,寝たきり状態で全身的に拘縮があり手指は強く握りこんで不衛生である.家族の面会は週1回.
    【治療方略】
    随意運動や意思疎通の困難な本症例に残されている機能は家族にとっての母親や祖母という役割であり,OTとしてその役割の強化を援助できるのではないかと考えた.その際,家族には本症例の手を握り,身体の温もりを感じながら話しかけてもらうことで,その役割は強化されると考えた.また,そのことは本症例にも好ましい影響を与えるのではないかと考えた.そのため,家族に手を握ってもらえる程度の拘縮の改善と清潔さが必要と考えた.
    【病態解釈】
    本症例のように寝たきり患者の手指は,常に手指を握りこむことによって手指・手掌からの感覚が同時に知覚されるため,大脳皮質手指運動感覚領域は各指・手掌という対応領域ではなく,一塊とした領域に変化していると考えた.そのため,握りこんだ手は違和感のない肢位となり,拘縮を助長していると考えた.そこで拘縮の改善には,再度各指・手掌という大脳対応領域の可塑的な変化が必要と考えた.
    【仮説・訓練】
    脳の可塑的な変化を促すためには感覚情報に意味が与えられることが重要と考える.しかし,本症例は意識レベルが低いため,感覚情報に対して意味を与えられているかは疑問である.そのため,感覚に対して快・不快といった意味が有効と考えた.そこで,手を清潔にでき,ソフトな触感を得ることができると考えられる石鹸での手洗いを行った.その際は対応領域の細分化を促すために各指を個別に行い,本症例が快の認知ができるように心がけた.
    【経過・結果】
    週3回訓練を行う.訓練では各指を丁寧に洗っていくことで,筋緊張が落ちていくことを感じる.また,2ヶ月後にはベッド上で手指は開き伸展位を保つことができ,不衛生も改善され,優しく手を握り合うことが可能となる.しかし,その後転院され役割の強化は確認できなかった.
    【考察】
    手指の拘縮には再度大脳皮質の可塑的な変化が必要と考えると,ROMexでは感覚情報の意味付けは困難で侵害刺激となり,可塑的な変化は期待できない.一方,本訓練は手指の可動時の感覚に意味を与えることができたので,本症例の拘縮は改善したと考える.しかし,役割の強化という目標を達成することはできなかったので,今後は家族を巻き込んで行う必要があると考える.ただ,今回行った役割の強化という目標や訓練は,寝たきり患者に対するアプローチの視点の一つになるのではないかと考える.
  • 心身の障害の重度な一症例を通して
    鎌田 陽之
    p. 36
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/05/01
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに】
    近年早期リハビリの確立やADL技術の進歩により、急性期からの作業療法(以下OT)も珍しいものではなくなった。しかし心身の障害が重度でADL改善に結びつきにくい方ではまだ実践報告も少なく、介入のあり方を悩むことも多い。今回、座位・自発性や家族との関わりに重点を置きアプローチした一症例について考察を交え報告する。
    【症例紹介】
    90代女性。脳梗塞(左中大脳動脈全域)。右片麻痺、右上下肢は弛緩。右半側空間無視あり。失語症(短文レベルでの表出可。理解良い。自発語ほとんどなし。)ADLは全介助。独居で娘2人が近隣に在住。
    【OT目標】
    1座位の安定 2自発性の向上 3家族の障害理解を促す
    【経過】
    #1座位訓練:PTと協同しギャッジ坐位からはじめ、リクライニング車椅子を導入した。並行して端坐位訓練として机へのもたれ坐位も行なった#2意志を引き出す介入:訓練前には話しをする時間を設け、訓練中もペースにあわせ声かけをした。#3家族への説明:浮腫や無視の症状を説明し、訓練状況を伝えた。
    【結果】
    #1リクライニング坐位は、訓練当初血圧、覚醒に5分で変動あったが20分まで可能となった。端坐位では腰部の自動伸展改善みられ、移乗時に左上肢支持での短時間の坐位保持が可能となった。しかし端坐位は安定に至らなかった。#2徐々に発語が増え、「頑張る」「きつい」などの表出が明確となってきた。#3座位保持などの残存能力の説明を行ない理解を促したが、家族からは右上下肢の機能回復の希望が強かった。
    【考察】
    今回着目した3つの要素は、将来の「活動性」の向上にむけたものであると考える。一つ目の座位はADLやその他の活動でも基礎となる姿勢である。しかし重症例では端座位保持困難なことも多い。よって上肢でもたれる座位により、中枢部の運動性を引き出すようにしている。またADLで上肢を支持に使えるようにしていく。2つ目は意志である。活動に対する意志表示には活動自体を企画するレベルから快/不快のみを表出する程度まであるが、本人の意思があってこそ活動に意味がもたらされるのではないかと思う。症例の「頑張る」という言葉は今まで一人で頑張ってきた方の決意表明として受けとられた。3つ目は家族である。活動はそれを認める人がいることが大事である。症例の家族は病院に日参してくれる方であったので、症例の活動性の変化をできるだけアピールするようにした。しかしまだ失われた機能に目が向いており、なかなか残存する能力を一緒に喜ぶまでには至らなかった。急性期の入院期間は短く、介入の取捨選択は難しい。しかし活動を支える要素に着目し、アプローチすることで生活期の活動の豊かさにつなげていけるのではないかと思う。
  • 脳卒中後遺症者に対する麻痺上肢手へのアプローチ
    平野 智彦, 福澤 至
    p. 37
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/05/01
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    【はじめに】
    脳卒中後遺症による麻痺上肢手の喪失感により全身運動が大きく妨げられているクライエントに対し介入する機会を得た。介入当初は弛緩し、麻痺上肢手は知覚されず、身体正中軸がずれを生じ歩行も困難であった。
     今回、個別での徒手的治療介入と実際場面での麻痺上肢手の操作練習を両立し集中的な上肢への介入の結果、上肢手の操作性と全身運動の改善が得られ、麻痺上肢手の役割の再獲得のもと社会参加の支援に寄与できた事例を報告し、機能的作業療法の必要性について検討したい。
    【症例紹介】
     57歳男性、脳梗塞(左中大脳動脈閉塞)、右片麻痺、失語症、発症1ヵ月後当センター回復期リハビリテーション病棟へ入院。入院時Brs上肢・手指II、下肢IV、表在・固有感覚ともに鈍麻Barthel Index45点、「右手が使えるようになりたい」と強く望まれる。
    【治療】
     麻痺側腹部の支持性が弛緩により損なわれ麻痺側上肢帯の安定性は得られず、「認知しにくい上肢」を呈していると仮説。体幹と上肢帯が連結できるようアライメントを整え、安定した体幹の運動と手掌から入力される情報が知覚しやすいよう上肢手の筋・皮膚の短縮改善を図る。その上で、物品使用のもと末梢からの知覚運動体験を個別介入の中で徒手的に提供し、身体図式の改善・上肢操作性の向上を求めた。
     実生活の中では手指の集団屈曲が可能となった時期より道具を固定する支持的な上肢手の使用から練習するように介入した。
    【結果】
     1ヵ月半の介入の結果Barthel Index100点となり、動作の質に対しても対象物を介すことにより少し安定性を与えられた上肢が安定している体幹に対して動く能力を獲得したことにより、更衣や洗体における麻痺手の参加による効率的な動作の獲得に結びついた。更に実用的歩行も確立された。
    【考察】
     「認知しにくい手」に対し、戦略として体幹-上肢のアライメントの改善と手が探索しやすいような形状改善を図り、閉回路による固有感覚情報から得られる知覚運動体験を通し、身体図式の改善を求めた。また、個別介入の時間だけでなく手を日常的に使用するように実際場面に入り、能動的な麻痺手の参加が出来るよう関わった。そのことにより手掌からの感覚情報が蓄えられ、手指の動きに対し、感覚フィードバックが働き相反神経の選択された調整が可能となり手指の巧緻運動を発展させ、ADLでの補助的使用につなぐことができたと考えられる。
  • CT所見からの機能予後
    神田 勝彦, 加藤 歩, 松田 浩昭
    p. 38
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/05/01
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    【目的】
     診療報酬の改定やDPCの導入などにより早期退院が求められている現在、脳卒中のリハビリの効率性は的確な予後予測が重要となってくる。今回、CT所見と機能予後がどのように関連しているかBrunnstrom recovery stage(以下Br.stage)・FIM・歩行に焦点をあてて追跡調査した。
    【対象と方法】
     平成17年1月から平成18年2月の間にリハビリ処方された全ての視床・被殻出血患者50名を対象とした。方法は、リハビリ処方時のCTと、リハビリ開始時から退院まで1ヶ月ごとのBr.stage、FIM(運動・認知点)、歩行自立度の3項目について自宅復帰率とともにその関連性を追跡調査した。CT所見はそれぞれ疾患ごとにA:内包後脚にかからず限局しているもの、B:内包後脚にかかるもの、C:内包後脚をまたがるもの、の3つに分類し、さらに各分類のなかでどのような傾向があるのか検討した。
    【結果】
     視床出血21名(平均年齢72.1±13.4)のCT所見は、A:3名、B:14名、C:4名であった。退院時のAの平均値はBr.stage5.5、FIMの運動点56.7 認知点27.7 であり歩行自立は2名(66.7%)で自宅復帰率66.7%であった。Bの平均値はBr.stage4.9、運動点62.5 認知点27.4であり歩行自立は8名(57.1%)で自宅復帰率64.3%であった。Cの平均値はBr.stage2.5、運動点37.8 認知点22.5であり歩行自立に至るものはおらず、自宅復帰率も25.0%であった。また、CT所見Bについては血腫が偏位しているものが予後不良(自宅復帰率33.3%)という結果が得られた。
     被殻出血29名(平均年齢67.8±13.1)のCT所見は、A:9名、B:17名、C:3名であった。退院時のAの平均値はBr.stage4.3、FIMの運動点57.9 認知点27.2であり歩行自立は4名(44.4%)で自宅復帰率44.4%であった。Bの平均値はBr.stage2.9、FIMの運動点46.7 認知点22.2であり歩行自立は8名(47.1%)で自宅復帰率57.1%であった。Cの平均値はBr.stage2.4、FIMの運動点44.7 認知点23.7であり歩行自立に至るものはいないものの、自宅復帰率は66.7%であった。また、CT所見Bにおいて、1ヶ月後に介助歩行にさえ至っていない患者は8名おり、その中で退院時も介助歩行に至らない患者が8名中7名(87.5%)いた。
    【考察】
     視床、被殻出血ともにCT所見Aは予後良好、所見Cについては予後不良であり、神経解剖学的にも一致する結果となった。しかし、両疾患A・Cとも症例数が少ないことから今後も症例を重ねる必要がある。CT所見Bについては視床の場合、血腫が偏位しているほど予後が不良であり、被殻の場合、1ヶ月予後で歩行可能となるか否か予測しうるデータが得られた。
  • 坐骨と軟部組織のアライメントに着目して
    小川 大泉, 福岡 直幸, 堂園 浩一朗, 重信 恵三, 横山 知子, 前田 哲男, 木山 良二
    p. 39
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/05/01
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    【はじめに】
     片麻痺対象者のADLに関しては動作前の坐位姿勢が大きく影響することを臨床上経験する。また、トイレ動作の向上は機能面だけにとどまらず、精神的、社会的にも重要な意義を持つことが多い。佐久間らは坐位姿勢の確認として、対象者の坐骨・軟部組織のアライメントについて計測し、その指標と立ち上がり動作との関連を検討している。
     そこで我々は上記の研究を参考に坐位時の坐骨・軟部組織のアライメントとトイレ動作との関連性について検討した。
    【対象】
     平成18年4月に当院回復期リハビリテーション病棟に入院中の症例のうち、初回発症で重度な高次脳機能障害や整形外科的疾患がなく、坐位保持可能な片麻痺対象者11名(男性8名、女性3名)、平均年齢は62.45±11.39歳を対象とした。
     疾患名は脳出血6名、脳梗塞5名、麻痺側は右片麻痺6名、左片麻痺5名であった。発症から評価日までの期間は106.18±53.73日であった。なお、本研究は今村病院分院倫理委員会の承認を受け、対象者には口頭および書面による説明を行い、署名による同意を得た。
    【方法】
     上記の11名に対し、以下の評価を施行した。
    1.坐位時の坐骨・軟部組織の計測(佐久間らによる計測を一部変更)
     アクリル板の上に両膝内側が接するように両側下腿を固定し、アクリル板越しに殿部の計測を行った。坐骨・軟部組織のアライメントを示す変数は以下の方法で算出した。
     両側大転子を結んだ直線(L)と軟部組織のアクリル板との接触部外周との交点をA(左側)・B(右側)とした。左坐骨を通りかつLに対する垂線をM、右坐骨を通りかつLに対する垂線をN、MとLの交点をC、NとLの交点をDとし、ACとBDの距離を計測し、麻痺側から非麻痺側を引いた値Xを求めた。計測に際しては2名のOTでそれぞれ確認した後に施行した。
    2.上田による12段階式片麻痺機能テストの下肢項目(下肢グレード)
    3.ADLの評価としてFIMのトイレ動作・トイレ移乗
     1のXと2、3の相関についてスピアマン順位相関係数を用いて検討した。なお、有意水準は5%未満とした。
    【結果】
     Xとトイレ動作においてr=-0.64(p<0.05)、Xとトイレ移乗においてr=-0.63(p<0.05)で有意な負の相関が認められた。下肢グレードと有意な相関は認められなかった。
    【考察】
     佐久間らはXが正の値つまり軟部組織上を坐骨が非麻痺側へスライドしていると立ち上がりが容易であったと報告・考察している。本研究では前述の報告と異なり、Xが負の値つまり軟部組織上を坐骨が麻痺側へスライドしているとトイレ動作・トイレ移乗が自立しやすいとの結果が導かれた。一つ目に測定方法の違いが結果の違いに現れたのではないかと考える。二つ目に前述の研究における対象の下肢Br.stageは2から4であり、本研究対象者の下肢グレードは中央値8、最頻値8、範囲5から12と機能的に高いことが影響している可能性が示唆される。
     今後は症例数の増加し、更なる検討を行なっていきたい。
  • 脳血管障害患者と健常者の比較
    須賀 洋一朗
    p. 40
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/05/01
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    【はじめに】
    脳血管障害(CVA)患者において、着座動作は立ち上がり動作と同様に難しい動作であり、着座動作の場面において後方制御が困難で後方へ転倒する危険性が高い印象を受ける。そこで今回、CVA患者と健常者の着座動作時の後方制御機構を運動力学的視点から分析し、若干の知見を得たので報告する。
    【対象】
    屋内歩行が軽介助または監視レベルのCVA患者6名(平均年齢63.8±12.5歳、右片麻痺2名、左片麻痺4名)、及び健常者7名(平均年齢24.4±0.5歳)。著明な高次脳機能障害、関節可動域制限のある者は除外した。
    【方法】
    背もたれが無く、高さ調節可能な椅子を使用し、高さは座位で股・膝・足関節それぞれ90度となる高さとし、支持面は椅子の前方端が大転子と膝関節裂隙の中点とした。足底の位置は座位で股関節内外転中間位となる位置にした。その足底位置で両上肢を胸部で組み前方を注視した裸足立位をとらせ合図にて椅子に腰掛けるように指示した。動作速度は任意とし、4回の練習後計測した。測定にはアニマ社製三次元動作解析システムLocus MA-6250(カメラ4台・サンプリング周波数60Hz)を使用し、マーカーは11箇所に設定した。分析は、着座動作のうち体幹最大前傾位から体幹を伸展し臀部接床までの期間で、合成COPの後方加速度が最大の時の下肢・体幹の関節角度、下肢の関節モーメント・パワー(CVA患者は麻痺側、健常者は右側)を抽出し分析を行った。統計学的処理は、Mann-WhitneyのU検定にて2群間の比較を行った。
    【結果】
    関節モーメントは、健常者が膝関節伸展モーメント、足関節背屈モーメント(CVA患者は底屈モーメントが発生)で有意(p<0.01)に増大していた。関節パワーは健常者が膝・足関節のパワーで有意(p<0.01)に増大していた。健常者の全対象者において膝関節は負のパワー(遠心性収縮)、足関節は正のパワー(求心性収縮)を示した。CVA患者においては膝・足関節のパワーは求心性と遠心性収縮が混在していた。関節角度に有意差は認められなかった。
    【考察】
    着座動作は、股関節伸展・膝関節伸展・足関節背屈モーメントを発生させながら、重心の後方への移動を制御し支持基底面外へ移すことで行われている。今回の結果から、健常者は足関節背屈筋の求心性収縮力で足関節を固定し、膝関節伸展筋の遠心性収縮力で重心の後方移動を制御し、円滑に重心をより後方へ移動できるため足関節背屈・膝関節伸展モーメントが増大していると考えられた。しかし、CVA患者は膝関節の遠心性伸展モーメント、足関節の求心性背屈モーメントが低下していることより、重心の後方への移動が困難なため、重心を足底の支持基底面内に留めながら下方へ移動させることで床反力ベクトルと膝・足関節軸との距離を離さないようにして着座動作を行っていると考えられた。
  • 久保 拓哉, 渕 雅子
    p. 41
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/05/01
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに】
    移動能力の獲得はその後のADL動作獲得においても重要な役割を果たすと考える。その中でも車椅子による移動は入院初期より用いられやすく、かつ歩行未獲得の場合は最終的な移動手段としても多く使用されるため、その効率的な動作獲得は重要であると考える。また車椅子移動に関しては一連の動作にて様々な動作項目や背景要因から成り立っているが、その詳細な評価は少ない。今回、当院入院中の脳血管障害患者(以下、CVA患者)を対象とし、リハビリテーション室(以下、リハビリ室)から病室までの移動区間を動作別に分類し、担当セラピストによる評価の実施・集計を行い、車椅子移動動作について若干の考察を加えたので報告する。
    【対象】
    対象は当院入院中のCVA患者で、移動に車椅子を使用する者50名。内訳は脳出血21名、脳梗塞29名、平均年齢69.6±11.6歳、男性25名・女性25名、左片麻痺19名・右片麻痺23名・両麻痺8名である。
    【方法】
    当院におけるリハビリ室から病室までの車椅子移動動作を1)リハビリ室内の車椅子駆動、2)エレベータ(以下、EV)操作、3)病棟内駆動、4)病室内移動、5)ベッドへの設置、6)車椅子(ブレーキ・フットレスト)操作、7)移乗動作、8)ベッド上端座位、9)靴の着脱動作、10)基本動作の10項目に分類し、対象の各項目の能力を担当作業療法士が自立、監視、介助の3段階にて評価したものを集計した。さらに各評価を自立:0点、監視:1点、介助:2点と配点し、各項目別に全対象の合計点数を算出した。各項目における合計得点については全対象者が介助の場合、計100点となる。
    【結果】
    10項目中最も高い数値を示したのは2)エレベータ操作:75点であった。次に1)リハビリ室内の車椅子駆動:66点、3)病棟内駆動:57点、5)ベッドへの設置:53点の順となった。4)病室内移動、6)車椅子操作、7)移乗動作はそれぞれ51点であった。以下、10)基本動作:41点、9)靴の着脱動作:40点、8)ベッド上端座位:31点であった。
    【考察】
    今回の結果より、院内車椅子移動において難易度が高い動作は2)EV操作が示唆された。これはEV操作が狭い空間での車椅子駆動や機械操作など複数の能力を必要とするためと考えられる。次に1)リハビリ室内・3)病室内の駆動が挙げられるが、2項目間において点数の差がみられた背景としては、病棟内が慣れ親しんだ・限定された環境であるのに対し、リハビリ室内は空間的にも広く、また多くの人の往来といった不定期な環境であることが影響したと考えられる。今回、院内車椅子移動を考えても、その動作を細かく分類・評価することにより項目間の点数の差がみられ、項目別による難易度の差が示唆された。車椅子駆動による自立を図るためには、セラピストのより詳細な評価と段階付けた治療介入・ゴール設定を行っていく必要があると考える。
  • ハノイの塔課題を用いての検討
    廣瀬 加奈子, 渕 雅子
    p. 42
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/05/01
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに】
    CVA患者のADL拡大には、車椅子操作の獲得は重要であり、なかでもブレーキ操作は安全性の確保に必要不可欠である。その操作が自立できない背景として運動機能障害以外に高次脳機能障害の影響があり、その要因としては、半側空間無視や注意障害、行動の抑制障害がある。今回、車椅子ブレーキ操作を移乗からの一連の流れとして捉え、その手順獲得が困難、動作の反復練習を行なっても学習効果が認められないという視点から、手続き記憶の低下が影響しているのではないかと考えた。そこで、車椅子ブレーキ操作が非自立である症例に対して、手続き記憶の評価バッテリーである、ハノイの塔課題を行った。その結果と、他の高次脳機能障害検査を検討し、考察をおこなったので報告する。
    【対象】
    当院入院中のCVA患者5名で、運動能力は十分有しているにも関わらず、ブレーキ操作が非自立である2例(A群)と、ブレーキ操作が自立している3例(B群)である。全例男性で平均年齢62.2±5.4歳である。又、健常者49歳男性1例を比較検討とした。
    【方法】
    ハノイの塔課題の円盤設定を3枚とし、一日一回、定時に5日間実施した。それをビデオ撮影し、移動回数(回数)とストップウォッチにて所要時間(時間)の計測を行なった。また、両群にはそれぞれ、他の高次脳機能障害検査として、MMS、コース立方体テスト、線分抹消試験、Treil Making Test(TMT)、Modified Stroop Test(MST)、前頭葉評価バッテリー(FAB)を実施した。
    【結果】
    ハノイの塔課題では、A群の1名は時間が67秒から97秒へ、回数は20回から29回へと増加した。他の1名においても時間が112秒から154秒へ、回数は17回から23回へと増加し、最終日に最も低い数値を示した。B群では時間が94秒から24秒、243秒から20秒、19秒から11秒となり、回数は、初日にそれぞれ13回、17回、7回、2回目以降は7回で一定となった。健常者は日数経過と共に時間が58秒から38秒、回数は27回から17回へ徐々に減少した。MMSではA群が30点、21点、B群は2名が28点、1名が30点であった。コース立方体テスト(IQ)ではA群が78、68、B群が77、86、102であった。TMTは両群同様の時間結果であった。FABではA群2名共に11点、B群は13点、15点、16点であった。MST(印刷色を読む)ではA群35秒、33秒、B群では2名が21秒、1名が23秒であった。
    【考察】
    ハノイの塔課題では、B群・健常人では回数・時間共に減少、定常化したことから学習効果が見られたのに対し、A群では数値が変動し、改善が見られなかった。しかし、FAB、MSTの結果から非自立の2名では抑制障害の側面を捨てきれない。本結果からは、ブレーキ操作の獲得が困難である要因は、手続き記憶の低下だけとは断定できないが、手続きの学習を認めないという側面は明確となった。
  • 戸田 博之, 竹下 英樹, 萩原 嘉奈子, 吉満 直幸, 田中 博文, 野瀬 敬子, 榊間 春利
    p. 43
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/05/01
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    【はじめに】
     脳卒中片麻痺患者の理学療法を施行する上で、様々な阻害因子により歩行自立に至らない場合がある。今回、歩行獲得阻害因子を認めたが、歩行能力が向上した脳卒中片麻痺患者を経験したので報告する。
    【症例紹介】
     症例は80歳男性、右片麻痺である。平成17年6月18日に左中大脳動脈領域の脳梗塞を発症し、保存的治療となり、同年8月28日に当院転院となった。転院時のBr. Stageは上肢II、下肢II、手指Iであり、右肩関節には亜脱臼が一横指半観察され、肩手症候群様の症状がみられた。さらに、失語症、観念失行、観念運動失行、認知症がみられた。動作観察および治療場面より、表在・深部感覚は重度鈍麻、非麻痺側筋力は、上下肢ともに4レベルであると思われた。平衡機能の低下や立ち直り反応の減弱により坐位保持、立位保持、歩行とも困難でありADLは全介助で、Barthel Index(BI)は5点であった。
    【理学療法経過】
     積極的に下肢への荷重を促し、平行棒内立位、歩行練習を行った結果、徐々に麻痺側下肢の支持性が向上した。しかし、立位時に麻痺側下肢の膝の屈曲が観察されたので膝折れ防止のために、膝装具を使用して歩行訓練を行った。開始14日後には麻痺側下肢の振り出しがみられるようになった。さらに、四脚杖を使用し、左右への体重移動を促通しながら歩行を行い,歩行距離を延長していった結果、下肢Br. StageはIIIとなり、開始90日後には耐久性が向上し、膝装具、足関節背屈位保持のための弾性包帯を使用せずに、介助レベルでリハ室から病室への歩行が可能となった。移乗動作は手すりを把持して監視、起き上がりはベッド柵を使用し自立となり、日中ベッド上で座位をとっていることが多くなった。また、車椅子駆動も声掛け誘導し,50m可能となった。コミュニケーション能力にも改善みられ,表情も豊かになった。しかしながら、BIは20点に向上したのみであった。
    【考察】
     歩行獲得の阻害因子として、年齢、遅延性弛緩性麻痺、高次脳機能障害、運動失調、非麻痺側下肢筋力の低下など様々な要因が考えられる。本症例は様々な因子が機能回復の阻害になっていると考えられる。網本らは、重度の阻害因子を認める症例に対する治療として運動を他動的にコントロールする方法が必要であると述べている。今回、我々も積極的に抗重力位をとることにより下肢の支持性の向上を図り、また、反復訓練から得られる学習効果により、歩行能力が向上したと考えられた。しかしながら、高次脳機能障害の残存によりADLは介助レベルであることが予測される。今後は、現在の状態を維持しながら、訪問リハビリテーションあるいは通所リハで経過観察していく予定である。
  • OA患者に対する股関節内転筋へのアプローチ
    安里 安博, 平山 良樹, 更谷 和美, 古堅 貞則, 安里 英樹
    p. 44
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/05/01
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに】
    今回、OA患者の膝内反位の改善を目的に、股関節内転筋に着目し理学療法を行った。治療前後で立位姿勢(以下、立位)を比較し、膝内反位の改善が得られたので、以下に考察を加え報告する。
    【対象】
    81才の女性でH17.12月に整形外科を受診し、両変形性膝関節症(横浜市大の進行度分類で両側ともX線所見にてグレード1)と診断された。同日に理学療法を開始した。
    【評価】
    主訴は歩行開始時における右膝前面部痛であり、徒手的に股関節屈曲制限、体幹の可動域制限などが確認された。歩行観察からは、立脚期に足関節を支点に体幹、骨盤、大腿部を固定し、身体を左右へ振り支持脚へ荷重する歩容が観察された。
    【方法】
    股関節内転筋の筋力強化を目的に、背臥位で他動的に股膝関節深屈曲位をとり、大腿部後面にセラピストが徒手抵抗を加え、股関節伸展運動を行った。治療前後の立位を、前額面よりデジタルカメラで撮影し、静止画にて視覚的に比較した。
    【結果】
    立位での右膝内反位の改善と歩行開始時の膝関節前面部痛の消失が得られた。
    【考察】
    膝OA患者の股関節肢位に着目すると、股屈曲外転外旋位を呈し、膝内反位となることが多い。膝内反ストレスの軽減には股関節内転筋などの筋活動を高めることは重要であると考えられる。また、膝関節の内反ストレスを増大する原因の一つとして、立脚初期から中期における大殿筋、股関節内転筋群などの筋活動の低下が報告されている。股関節内転筋は、股関節屈曲60°以上からその走行が屈伸軸上後方に位置する。そのため、股関節深屈曲より伸展を行うことで股関節内転筋は伸展筋として作用するとされている。本症例の主訴は、歩行開始時の膝関節前面部痛であり、歩行時の速さが一定となるいわゆる定常歩行に至るまでの加速期においての訴えであった。本症例の歩行を観察すると、定常歩行では身体を左右に振ることで重心移動がスムーズになると思われる。しかし、加速期では右膝内反ストレスに対し身体を左右に十分振れないため、重心移動がスムーズに行えない。加速期において股関節内転筋の筋活動が弱いと、右膝内反ストレスに対応できない。そのため加速期に痛みを訴えたと仮説を立てた。理学療法として、股関節内転筋の筋力強化を行い、歩行時における足関節中心の姿勢制御から股関節での姿勢制御の改善に至ったのではないかと考えられる。今回の結果より、股関節内転筋の筋力強化を行うことで、立位での膝内反位の改善が得られ、膝関節前面部痛も消失に至った。股関節内転筋は立脚初期から中期において、外転筋と共に股関節の前額面での安定性に重要であると考えられる。
  • 膝蓋骨に着目して
    加藤 裕, 瀬戸口 義彦, 武田 知樹
    p. 45
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/05/01
    会議録・要旨集 フリー

    【目的】
    全人工膝関節置換術(以下TKA)を施行した患者の関節可動域(以下ROM)は、術前のROMに影響を受けるという報告は多くある。しかし、このROM制限に関した報告は見当たらない。ROM制限因子を把握することによって、術前の理学療法をより効果的に施行でき術後良好なROMを獲得できると考える。そこで今回、変形性膝関節症患者(以下膝OA)のfemoral tibial angle(以下FTA)と膝蓋骨の適合度を示す指標であるCongruence angle(以下CA、膝関節軸写位における大腿骨内顆および外顆それぞれの最上点と顆間窩の最下位とを結んだ線のなす角の二等分線と顆間窩の最下端と膝蓋骨関節面最下端とを結んだ線とのなす角:正常値-6±11°)がROMにどのように影響しているかを検討する。
    【対象と研究方法】
    対象は2005年1月1日から12月31日までに当院にて膝OAと診断され、手術目的にて入院された症例で調査可能であった13名をCAが正常値を示した5名(以下A群、CA-2±4.3°)と,その対象群としてCAが異常値を示した8名(以下B群、CA-7±32.9°)に2分類した。なお両群ともに術前でPatellar hightは正常値であった。研究方法は、Merchant法にて撮影したX‐P所見をもとにFTA、CAを計測し、日本整形外科学会に準ずる方法で両群間の術前の膝ROM(屈曲・伸展)を計測し比較した(t‐検定,P<0.05)。またCAとの関連因子を探索した(回帰分析)。
    【結果】
    A群とB群の膝関節屈曲において有意差を認めた(P<0.02)が、膝関節伸展において有意差は認めなかった。A群では、CAとFTAにおいて正の相関が認められたが、B群では相関は認められなかった。
    【考察】
    水平面にて計測されるCAが矢状面上の動きにも影響を与えているということが分かった。またCAとFTA間で正の相関があったことから、膝OA患者において膝蓋大腿関節の状態を把握することの重要性が示唆された。よって術前においてROMの改善を行う場合、膝蓋大腿関節特に膝蓋骨の位置に注意した理学療法プログラムを構築していく必要があるのではないかと考える。
    【今後の課題】
    今回は膝OA患者の機能構造面にのみ焦点をしぼった研究である。しかし膝OAのROMに影響を与える因子は他にも疼痛・腫脹・心因性など様々考えられる。今後、他の因子も踏まえた研究をしていく必要があると考える。また、膝蓋骨の位置に注意した理学療法プログラムを構築し検証していく必要があると考える。
  • -実用歩行能力向上を目指して-
    高木 庸平
    p. 46
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/05/01
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    【はじめに】
    変形性膝関節症(以下膝OA)は,臨床でもよく遭遇する疾患の一つである.膝OAを含む,変形性関節症における身体の動きは,正常から逸脱した動作によって生じたもので,身体の動きは「疾患の原因」となるのではないかと考えられている.このことから,膝関節に生じる機械的ストレスを軽減できる姿勢・動作の獲得,荷重時における姿勢制御方略を改善することが根本的な治療になると言われている.そこで今回,膝OAを呈し保存療法中の一症例を担当し,立位姿勢の正中化・歩行動作時の内側面への応力集中の回避を目的にアプローチを行なった結果,膝関節痛の緩和並びに実用歩行能力の向上を果たした症例をここに報告する.
    【症例紹介】
    68歳 女性 身長155cm 体重65kg.職業:主婦,以前は自営業(鶏の処理業者).診断名:両側膝OA(H16.4.20 Grade:2から3レベル).膵頭部腫瘍・右腎腫瘍術後.合併症:糖尿病,右房内血栓症.キーパーソン:夫・娘.発症前能力:独歩(入院中は車椅子自立).要望:歩けるようになりたい.ニーズ:一本杖歩行自立,身辺動作能力向上

    【理学療法評価】
    *初期評価(H17.7.1)を記載 I.日常生活動作移動(歩行器・車椅子),更衣・整容・排泄(一部介助)入浴(全介助から一部介助),食事(自立) II.姿勢・動作観察立位:内反(4.0cm),屈曲傾向,偏平足,左後方重心荷重分布(Rt)30.0kg (Lt)35.0kg歩行:Lateral Thrust(+) 左右体動(+) 跛行(+) 10m歩行(約15秒) 歩行耐久性(約132m) III.疼痛安静時・運動時共に膝内側部に疼痛有り.特に起立・歩行時に左膝内側部に疼痛増強(VAS:7/10) IV.周径大腿10cm (Rt)43.0cm (Lt)42.0cm下腿最大(Rt)35.0cm(Lt)34.0cm V.関節可動域測定膝関節屈曲:(Rt)70°P (Lt)65°P 伸展:(Rt)-10°P (Lt)-10°P VI.筋力測定腸腰筋(Rt)3 (Lt)3 大内転筋(Rt)3 (Lt)3大殿筋(Rt)2+(Lt)2+ ヒラメ筋(Rt)3 (Lt)3前脛骨筋(Rt)3 (Lt)2+ 腹筋群 2レベル VII.ストレス検査:Knee-in-toe-out(+)
    【問題点】
    1.立脚初期のLateral Thrust・内側応力の増大
    2.アライメント不良に伴う関節剪断力増大・適合性不良
    【理学療法プログラム】
    訓練前後の物理療法(ホットパック,アイスパック),関節周囲筋の再教育に伴う姿勢制御適正化並びに関節適合性改善,実用歩行練習並びに病棟生活指導
    【結果】
    疼痛緩和⇒アライメント改善に伴う荷重分散能力向上⇒筋再教育に伴う歩行距離拡大(一本杖10m歩行15秒,歩行耐久性88m可能)⇒実用歩行能力向上
    【考察】
    本症例は,立位前額面での左後方重心に加え,単脚支持期においても床反力作用点と身体重心の位置関係が前額面内において一致していない為,身体重心が遊脚側へ回転,床反力ベクトルが膝関節中心の遠くを通過し両膝内反ストレスが増大した状態であった.このことから,立位・歩行時の不良姿勢に伴い立ち上がり,歩行などの抗重力動作において立脚初期の外側安定性を供給する大腿広筋群・大殿筋・中殿筋・大内転筋・前脛骨筋等の筋活動が得られにくい状態となっていたことが考えられる.そこで,入院当初から立位・歩行時の姿勢・動作に着目し,継続的にアプローチを施行した.結果,1)立位時の荷重不均等な状態から左右荷重量が均等に分散され,2)歩行においても身体重心位置を上方に持ち上げることができず,床反力が減少しない内反ストレスの増大した状態から,遊脚時に下腿の前方振り出しの改善,踵接地直前の足部運動方向が前外側に変化したことから床反力は減少し,内反ストレスの軽減を導き,疼痛緩和・実用歩行能力向上へと至ったと考える.今回,立位・歩行姿勢に着目し,アプローチを実施したことで実用動作能力の改善が得られた.今後は,在宅における生活指導並びに効果的な自主訓練課題の検討に繋げていきたい.
    【参考・引用文献】
    1.PTジャーナル第39巻第5号・2005年5月
  • しゃがみ動作を視点として
    城内 若菜, 木藤 伸宏, 本山 達男, 川嶌 眞人
    p. 47
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/05/01
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    【はじめに】
    膝前十字靱帯(以下ACL)再建術後患者の理学療法として、膝可動域・筋力回復が主として着目されている。しかし、ACL機能不全の状態で日常生活を送ることで、姿勢・動作への影響も無視できないと感じる。今回、2年間ACL機能不全の状態で日常生活を送った後、再建術に至った症例を担当する機会を得た。本症例の術前の姿勢・動作から今後の再建靱帯に対する負担を力学的視点より推察し、理学療法を展開する必要があると考えた。特に脛骨前方引き出しによる再建靭帯の負担を考慮するため、矢状面のアライメントに着目した。矢状面での重心移動に対する運動戦略を分析するため、しゃがみ動作を臨床指標とし理学療法を行った結果、姿勢・動作に改善が認められたためここに報告する。
    【症例紹介】
    43歳、男性。診断名は左ACL損傷、左内側半月板損傷、左外側半月板損傷。現病歴は、平成15年6月に野球中に捕球のためジャンプを行い、着地時に受傷。ACL損傷、外側半月板損傷と診断され、保護的早期運動療法開始。3ヵ月後、膝関節鏡実施。結果、修復ACLの大腿部付着部が後十字靱帯に付着し、機能不全が生じていた。術中、外側半月板部分切除術も実施。その後、特に支障なく日常生活動作を行っていたが、月に1、2回の頻度でgiving wayが生じ、また本人がスポーツ復帰を希望していることより、平成18年2月4日、膝蓋靱帯による左ACL再建術施行。術中、内側半月板に横断裂がみられ、内側半月板部分切除術を同時に実施。
    【術前評価】
    疼痛はgiving way後に左膝内側に出現。KT-1000での徒手最大左右差は13mm。膝関節可動域は、屈曲150°、伸展0°。立位姿勢は、骨盤後傾・左回旋。左側大転子が左外果より後方にあり、膝伸展モーメント優位の姿勢。しゃがみ動作では、動作開始初期より骨盤後傾・左回旋が起こり、股関節屈曲が生じ難く、上半身重心の前方移動が少ない状態であった。このことで、膝関節伸展モーメントが増大すると推察した。
    【理学療法アプローチ】
    (1)膝関節可動域・筋機能訓練(2)股関節、体幹可動性・筋機能訓練(3)坐位での骨盤前後傾、側方移動(4)坐位での股関節自動屈曲(5)片脚立位(6)立位での重心前後・左右移動 上記の治療を臥位、坐位、立位と段階的に実施した。
    【結果】
    術後3週目の結果を示す。疼痛はなく、膝関節可動域は、屈曲140°、伸展0°。立位姿勢は、骨盤中間位保持が可能となった。左側大転子は左外果より前方に位置し、膝屈曲モーメントが増加する姿勢へと変化した。しゃがみ動作では、骨盤中間位を保持した状態での股関節屈曲が増加し、上半身重心の前方移動が可能となった。よって、視覚的にはしゃがみこみ動作時の膝伸展モーメントは術前に比し、減少した。
    本症例に対する理学療法の妥当性について、考察を加え報告する。
  • 振り向き動作異常に着目して
    徳田 一貫, 永津 義竜, 木藤 伸宏, 本山 達男, 川嶌 眞人
    p. 48
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/05/01
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに】
    半月板術後の理学療法として、大腿四頭筋運動や膝関節可動域の改善に焦点を向けられる事が多い。しかし、日々の臨床の中で膝関節機能の向上と伴に膝関節に対する力学的ストレスについて原因追求し治療する必要があると考える。今回、右膝内側半月板損傷後、関節鏡による半月板切除術を行った症例に対し、日常生活での異常姿勢・動作に着目し、立位姿勢・振り向き動作を臨床指標として反対側股関節機能や体幹機能にも着目して治療した。その結果、姿勢・動作に改善が見られ、疼痛軽減に繋がったので以下に報告する。
    【症例紹介】
    54歳男性、身長 168cm、体重 71kg、BMI 25。診断名:右膝内側半月損傷、X線所見:FTA175°骨硬化・骨棘形成なし、MRI所見:内側半月中後節に水平断裂あり。職業:調理師で12時間労働、立位で左回旋動作が多い。
    【術前評価】
    関節可動域検査(右/左):膝屈曲140°/155°伸展0°/ 0°股内旋30°/35°体幹回旋制限(右<左)、疼痛は、歩行時Visual Analog Scale(以下 VAS)4/10、右膝屈曲時(VAS 10/10)、立位左回旋動作時(VAS 10/10)に膝内側痛出現。筋機能検査は、両側股周囲筋群筋機能低下(右<左)あり。立位姿勢は、上半身重心右前方変位、上部体幹右側屈・右回旋、胸椎後彎、骨盤後傾(右<左)・左回旋、右股外旋・下腿内旋・膝内反姿勢。立位左回旋動作は、上述の立位姿勢で開始し、骨盤は左側方移動、右股内転・内旋不十分で、上半身重心を右前方の位置に残し、右膝内側を軸に右股外旋・下腿内旋位の状態で回旋動作を行う。
    【理学療法アプローチ】
    1.両側中殿筋・腸腰筋・股内転筋群機能改善運動 2.胸椎伸展運動 3.体幹回旋運動 4.骨盤中間位保持運動 5.立位骨盤側方移動運動を膝筋機能改善運動とともに、上述の臨床指標に着目し段階に応じて治療を施行した。
    【臨床推論および結果】
    本症例の術前の左回旋動作は、体幹-骨盤のアライメント異常により、上半身重心が右前方の位置にあり、上半身重心の左側移動が不十分な状態で動作を行う。また、左股関節筋機能低下により、骨盤-股関節での安定性が低下し、骨盤の左側移動が不十分である。これらの原因により、上半身重心を右膝内側の位置に残した状態で、右股外旋-下腿内旋位で立位回旋動作を行う。仕事上この異常動作を繰り返す事により、右膝内側に圧縮回旋ストレスが生じ疼痛が出現したと推察した。この動作を改善するため、臨床指標として、立位姿勢、立位回旋動作に着目し上述のアプローチを行った。その結果、動作の改善がみられ疼痛が消失した。
    【まとめ】
    日常生活の姿勢・動作より膝関節の力学的ストレスについて考え、膝関節機能だけでなく全身に着目し、理学療法評価、治療に繋げていく事が重要である。
  • 表面筋電図解析を用いて
    神崎 裕美, 大平 高正, 高橋 朋子, 山野 薫, 伊藤 恵
    p. 49
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/05/01
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    【目的】
    立ち上がり動作(sit-to-stand:STS)は、日常生活の中で頻繁に行われる動作の1つである。臨床では、患者の身体機能に即したSTSの指導が要求されるため、種々のSTSパターンの詳細な解析が必要である。今回、3パターンのSTSについて、筋の活動順序や活動量を表面筋電図によって解析したので報告する。
    【方法】
    対象は、健常女性(年齢:26歳、身長:161cm)。表面筋電図測定装置(NORAXON社製TEREMYO2400)を用いた。サンプリング周波数は1,500Hzとし、0.05秒間隔で平均振幅を算出した。対象筋は左側の多裂筋(Mf)、脊柱起立筋(SE)、腹直筋(RA)、大殿筋(GM)、内側広筋(VM)、外側広筋(VL)、半腱様筋(St)とした。計測動作は、40 cm台からの自由速度でのSTS(自由型)、手すりを用いてのSTS(手すり型)、両手で坐面を押してのSTS(プッシュアップ型)とした。同時にビデオ撮影を行い、静止坐位から殿部離坐までを第一相、殿部離坐から立位までを第二相として解析した。
    【結果】
    活動順序は、自由型でSE、Mf、VM・VL、St、GM、手すり型で、VM・VL、SE、Mf、St、GM、RA、プッシュアップ型でRA、VM・VL、St、GM、Mf、SEであった。自由型は、殿部離坐時にVM、VLの平均振幅波形の傾きが大きかった。自由型のピークと比較した手すり型における各筋の平均振幅値の割合は、第一相のVMで47%、VLで34%、SEで36%、第二相のSEで19%、RAで392%であった。同様に、プッシュアップ型では第一相のRAで815%、第二相のVMで27%、VLで46%、SEで197%であった。
    【考察】
    自由型の特徴は、殿部離坐時の体幹屈曲角度が3パターンの中でも最大であり、VM、VLの平均振幅波形の傾きも大きかった。これらより、自由型は殿部離坐時の体幹屈曲と強い膝伸展筋活動によりSTSを完成させると考えた。 手すり型は第一相のVM、VL、SEの活動が抑制され、SEの活動も遅れた。これは重心の前方移動が体幹屈曲でなく、上肢での誘導により行われたためである。第二相では全体にわたってSEの活動が抑制された。これは、手すりを用いることで体幹の制御を行ったためである。また、第二相初期のみRAの活動が大きくなったのは重心が足部後方へ位置しているため、体幹の屈曲モーメントが大きくなったためである。これらより、手すり型は、全体的には体幹筋抑制型と考えることができる。
    プッシュアップ型は第一相では、両手で坐面を押す動作が体幹屈曲角度と重心の前方移動を最小にするため、RAのみの活動となっている。第二相では、両手が坐面から離れた時の体幹屈曲角度が最大となり、SEの活動も高まった。また、SEの活動は立位まで続いた。これは上肢から体幹へと体重負荷の移動が起こり、そこから体幹を伸展していくためである。これらより、プッシュアップ型は、全体的には体幹優位型と考えることができる。
  • -表面筋電図による解析-
    伊藤 恵, 大平 高正, 山野 薫, 高橋 朋子, 神崎 裕美, 夏目 精二
    p. 50
    発行日: 2006年
    公開日: 2007/05/01
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに】
    臨床では、定常歩行で安定しているものの歩き始めや終わりにふらつきや転倒に対する不安感を訴える患者をしばしば経験する。このような症例に対し、具体的な運動療法を示した報告は少ない。
    歩き始め動作は、重心の移動に先行して遊脚側の股関節外転モーメントが発生するといわれている。そこで、本研究では効果的な治療を提供することを目的に、表面筋電図を用いて、健常成人の歩き始め動作における徒手的誘導練習の前後で股関節外転筋の筋活動について調査を行なったので、報告する。
    【対象と方法】
    対象は、骨・関節疾患、神経疾患、循環器疾患の既往のない健常女性(年齢;27歳、身長:160cm)とし、対象筋は左右の中殿筋、大腿筋膜張筋の4筋とした。表面筋電図測定装置は、テレマイオ2400(Noraxon社製)を用い、サンプリング周波数は1,500Hzとした。
    方法は、左右各側より静止立位から歩き始め動作の1歩を測定した。筋活動の判断基準は3SD(基線の3倍)を用い、遊脚側の股関節外転筋活動の有無を確認した。その後、セラピストは振り出す下肢の股関節周囲を把持し、足圧中心点(center of pressure;COP)の逆応答現象を考慮した徒手的誘導練習(練習)を5回行なった。測定は練習前に3回、練習後に7回行なった。
    【結果】
    対象者は、歩き始め前の静止立位で常に右側荷重(右約57%、左約43%:体重計を用い左右の重量比を測定した)であったため、静止立位でも右側の中殿筋および大腿筋膜張筋の活動が出現していた。そのため、基線が高く、筋活動の変化時期が不明であったことから、右側の歩き始めデータはサンプルから除外した。また、左側の歩き始めデータでも筋活動の変化時期が不明であったものもサンプルから除外した。
    左側の歩き始めデータのうち、練習前では3回中0回(除外0)、練習後では7回中5回(除外1)の割合で中殿筋・大腿筋膜張筋の活動が認められ、活動時期は同時期であった。
    【考察】
    今回の対象は、健常成人であったが、練習前では左側股関節外転筋活動が認められなかった。その理由として、歩き始め動作前の静止立位が右側優位であるため、左側の歩き始めではCOPの逆応答現象が出現せず、左側股関節外転筋を活動させる必要がないと考えられた。
    一方、練習後の筋活動は、練習により重心線が正中化され、荷重優位差が少なくなったため、COPの逆応答現象が出現し、股関節外転筋活動が出現したと考えられる。
    今回は健常成人に対しての実験であったが、COPの逆応答現象には重心線の正中化が必要であると考えられた。また、重心線を正中化するということは、運動療法として応用できるのではないかと考えられた。
    今後は、健常成人での基礎データの蓄積と患者での運動療法効果を検討していきたい。
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