第二言語の音声の知覚の困難さは,母語と第二言語の音素境界の相対的関係によって左右される。子音の場合,その音素境界は後続母音によって変化することがあり,母語と第二言語の関係も後続母音により変化する。ここではそのような例として日本語の摩擦音[s],[ɕ]とロシア語の摩擦音[s],[s
j],[∫]の場合を考え,ロシア人による日本語摩擦音の識別特性を検討した。音響分析と識別実験から後続母音が[a]と[o]の場合,ロシア人はロシア語[s
j]を日本語[ɕ]として知覚していると考えられた。ただし,[a]では異聴率は小さく,[o]では大きかった。これは日本語[ɕ]とロシア語[s
j]の後続母音との調音結合の違いにより,[a]では日本語,ロシア語の音素境界は近いが,[o]では違いが大きいためと解釈された。ロシア人が日本語[sɯ],[ɕɯ]をロシア語[su],[s
ju]として知覚していると考えると,音響分析の結果からは異聴が大きくなることが予想されたが,実際には小さかった。これは[ɯ]と[u]の違いによると考えられる。この場合ロシア人がどのように[sɯ]と[ɕɯ]を識別しているかについて考察した。
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