精神・神経疾患などの脳疾患は、分子レベルの病態機構はまだ多くが未解明であり、治療効果が不十分または治療抵抗性の症例が認められることからも、その病態機構の解明と新たな創薬に向けた脳科学研究は、今後の重要な課題である。我々のグループでは、これまでに遺伝的、環境要因あるいは薬理学的な精神疾患および神経変性疾患のモデル動物を用いて、これら疾患の分子機構や創薬ターゲットの探索研究を行ってきた。さらに最近は、脳疾患の機構や創薬の研究には、仮説を設けず、広範な脳領域の神経等の振舞いをバイアス無しに捉え、定量的に比較解析する研究が重要であると考え、疾患モデル動物においてそれを実施する研究を進めている。これまでに全脳組織をイメージングする技術として、組織透明化法や二光子顕微鏡を用いた方法などが開発されているが、撮像速度と空間解像度のトレードオフの関係が技術的な制限要因になっていた。
そこで演者のグループでは、この制約を克服する装置の開発を行い、最近サブセルラーレベルの精細さで、マウスの全脳を最速2.4時間で撮像できるFAST (block-FAce Serial microscopy Tomography)と名付けた装置を開発した。FASTを用いて成体コモンマーモセットの高精細全脳イメージングやヒト死後脳(後頭葉の一部)のイメージングにも成功するとともに、構造や神経活動をマウスの個体群間で比較するメソッドを開発し、脳疾患に伴う構造変化や治療薬による神経活動パターンの変化などを解析する研究を行っている。
このような組織レベルの精細イメージングと画像解析技術は、薬物の有効性や安全性の評価やその機構の解析に有用であることが期待され、脳に限らず様々な組織の解析にも用いることが可能であることから、本シンポジウムでは、今後の創薬研究への本技術の応用性についての議論を深めたい。
1) Seiriki et al., Neuron, 94, 1085–100 (2017).
2) Seiriki et al., Nat Protocols, in press
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