芝草研究
Online ISSN : 1884-4022
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48 巻, 2 号
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総説
研究論文
  • Souichirou Sugiura
    2020 年 48 巻 2 号 p. 142-148
    発行日: 2020/03/31
    公開日: 2021/05/20
    ジャーナル オープンアクセス

    耐塩性を有する植物の特徴として, 葉身部表面に存在する塩類腺が多いほど多くの塩分を排出することが可能であり, 塩類腺の密度と耐塩性の関係が報告されている。そこで本研究では, 高い耐塩性を有するコウライシバ (Zoysia Matrella Merr.) の塩ストレス対応の一端を明らかにするため, 本種に4段階[0 g/L (対照区), 7.5 g/L, 15 g/Lおよび30 g/L]の塩分濃度のNaCl溶液を35日間与えた。NaCl溶液の施用は, 土壌表面に乾きが見られた時に行った。35日後, 葉身部の乾燥重量, 葉身部の枯死率, 葉身部表面の塩類腺の密度および大きさを測定し, さらに, 各イオン (Na+, ClおよびK+) について, 葉身内部のイオン量 (蓄積イオン), 葉身外部のイオン量 (排出イオン) を測定した。その結果, 施用NaCl溶液の濃度間の比較では, 葉身部の枯死率に有意な違いが見られず, コウライシバの高い耐塩性が示された。葉身部の蓄積Na+量および排出Na+量は施用塩分濃度が高くなるにつれて高い値を示した。葉身部のNa+およびCl量は, 4段階のNaCl溶液濃度全てで, 排出イオン量よりも蓄積イオン量で高い値を示した。さらに, 施用NaCl溶液の濃度間の比較では, 塩類腺の密度や大きさには有意な差が見られなかった。水耕栽培等の高水分環境における類似研究では, 葉身部から排出されたNa+量が葉身内部のNa+量よりも高く, 本研究とは逆の結果が報告されている。本研究の結果より, 施用NaCl溶液の濃度の違いが, 塩類腺の密度や大きさに影響しないことから, コウライシバの塩分排出特性は, 塩類腺の密度や大きさよりも, 生育する土壌の水分状況に大きく影響されると考えられた。また, 本種は, 土壌の水分状況に応じて, 塩分の排出量や蓄積量を調整していると推察された。土壌水分量と塩類腺からの塩分排出に焦点を当てた研究は見当たらず, 今後研究が必要であろう。

  • Yoshito Tamai, Humika Satou, Rijal Hom Bahadur, Shiro Wakui, Kentaro I ...
    2020 年 48 巻 2 号 p. 149-155
    発行日: 2020/03/31
    公開日: 2021/05/20
    ジャーナル オープンアクセス

    本研究の目的は, 無灌水システムによる軌道緑化が夏期暑熱環境に与える緩和効果を検証することである。緑化植物としてメキシコマンネングサ (Sedum mexicanum Britton) を用いた。試験区域は都営荒川線荒川車庫前駅付近に設定し, 軌道緑化区と軌道非緑化区における表面温度, 地上高100mm (H100と略す) および300mmの温度を10分間隔でサーモレコーダーにより測定した。また, 天気概要は気象庁のデーターを使用した。2017年7月1日から8月31日の測定期間中, 空梅雨で高温が続いた7月17日, 梅雨明け後, 雨天が続いた8月9日を抽出し, 両日の24時間の温度推移, 鉛直温度推移および近傍 (H100) 温度に対する表面の冷却効果時間を両試験区で比較検討した。さらに7月, 8月の各31日間の最高温度分布の比較を行った。8月9日には軌道非緑化区で表面温度63ºC, 軌道緑化区では45ºCを記録した。平年より高温少雨の7月, 雨天が続いた8月共に軌道緑化区が軌道非緑化区に比べ表面温度が低い状態で推移した。高温少雨でも軌道緑化を設置することで大気を冷却する時間が増え, 特に夜間の冷却作用と近傍温度を下げる効果が推定された。一方, 軌道非緑化区は日中大気への加熱負荷の大きいことが推定された。最高温度の出現分布を7月で比較すると軌道緑化表面では50ºC以下は93%であり, 40ºC以下は51%であったのに対し, 軌道非緑化表面では50ºC以下は36%のみであった。8月では軌道緑化表面で40ºC以下が93%であったのに対し, 軌道非緑化表面では40ºC以下が26%のみにとどまった。また, セダム緑化基盤の潜熱消費量から推察すると, 夏季1日当たり約3,600J/m2~20,000J/m2の潜熱消費効果が期待された。本研究における無灌水システム軌道緑化が環境暑熱緩和に効果のあることが推定された。都電荒川線の総延長は12.2kmであり, 今後, 軌道内と軌道間を緑化した場合, 36,600m2の緑化が創出でき, 大気の冷却効果, ヒートアイランド現象の緩和や新たな小動物, 昆虫生息域の出現, また, 景観向上などの更なる効果が期待される。

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