失語症研究
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14 巻, 2 号
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教育講演
  • 鎌倉 矩子
    1994 年 14 巻 2 号 p. 97-104
    発行日: 1994年
    公開日: 2006/06/06
    ジャーナル フリー
    リハビリテーションの世界において1960年代は,失行や失認という問題の存在に人々の目が向けられた時代であった。 1970年代は模索の時代であったが, 1980年代には種々の方法論が開花した。このような流れの中で,失われた脳機能の再建に向けられていた人々の関心は,包括的な脳機能訓練へと発展してきた。 1980年代に展開された方法論には,脳全体の機能強化を目指す認知訓練のほか,生活自立を目指す認知訓練,行動療法的訓練,問題解決型訓練などがあった。現時点に立って考えてみると,リハビリテーションのあるべきすがたは,患者の現実的な困難の調査と解析を出発点として,特定の欠落機能の再建および補〓と,全体的な脳機能の強化をともに実践することにあると思われる。目標は,個々の患者の脳機能に見合った生活の再建に置かれなければならない。意志と情緒の問題へのアプローチは,今後に残された重要な課題である。
カレントスピーチ
  • 柏木 あさ子, 柏木 敏宏, 西川 隆, 田辺 敬貴, 奥田 純一郎
    1994 年 14 巻 2 号 p. 105-112
    発行日: 1994年
    公開日: 2006/06/06
    ジャーナル フリー
    半球損傷例に出現する半側空間無視(Unilateral Spatial Neglect, USN)から方向性注意の半球機能差が推測されているが,脳梁離断症状としての USN の存在は最近まで受け入れられていなかった。しかしながら,脳梁の自然損傷例では既に少なくとも数例に右手における左 USN が記載されている。詳細な検索が行われた自験例YYにおいては,反応が左半球に依存する課題で顕著な左 USN が検出されたのみでなく,右半球に依存する課題で軽度右 USN が検出された。他方,明らかな USN は出現しないとされていた脳梁の外科的全切断例においても,一部の症例に右手における左 USN の記載がある。難治性てんかん患者では,幼少期からの脳損傷やてんかんの持続のために脳の機能差の形成が健常人より弱いことが推測されている。外科的全切断例の多くに USN が観察されないのはその反映と推察される。これらのことからわれわれは脳梁離断症状としての USN の存在を認めてよいと考えた。背景となる半球機能差としては, Mesulam の「右利き健常人では,左半球は主に右空間に,右半球は左空間に加えやや弱いながら右空間にも注意機能を持つ。」との説が有力である。
  • 櫻井 靖久
    1994 年 14 巻 2 号 p. 113-119
    発行日: 1994年
    公開日: 2006/06/06
    ジャーナル フリー
        PETによる読字の activation study について,われわれの施設で行ったものを英語圈での研究と比較しながら概説した。英単語の PET study では,聴覚呈示で賦活された Wernicke 野,側頭・頭頂移行領域が,視覚呈示では賦活されず,また発語課題でBroca 野が常に左優位には賦活されなかった。
        日本語の漢字,仮名の音読課題を行ったわれわれの研究でも, Wernicke 野,頭頂葉の賦活は得られず,また Broca 野は漢字でのみ左優位に賦活され,仮名では両側が同程度賦活された。さらに,漢字と仮名とで賦活される部位が多少異なり,仮名で英単語と同様,後頭葉外側面を含む広い範囲が賦活されること,また漢字,仮名とも英単語と異なり,左側頭葉後下部が賦活されることも明らかにされた。
シンポジウム
  • 岩田 誠
    1994 年 14 巻 2 号 p. 120
    発行日: 1994年
    公開日: 2006/06/06
    ジャーナル フリー
  • 廣瀬 肇
    1994 年 14 巻 2 号 p. 121-128
    発行日: 1994年
    公開日: 2006/06/06
    ジャーナル フリー
        脳損傷に伴う話しことばの障害のうち,神経障害に基づく構音動作の異常に由来することばの音 (speech) の障害を一般に麻痺性構音障害と総称する。麻痺性構音障害の頻度は失語症に比較してもかなり高いことが知られている。本稿では主として麻痺性構音障害の診断・評価の問題を取り上げて概説する。
        麻痺性構音障害においてことばの音の異常の有無については比較的簡単に指摘できる。したがって問題はその異常の定性的および定量的な表現の方法にある。従来行われていることばの音の評価法は次のように分けられる。すなわち, (1) 聴覚 (聴覚印象) 的評価, (2) 音声学的評価および, (3) 音響分析である。このうち聴覚 (聴覚印象) 的評価法として臨床の現場でよく用いられる方式は,あらかじめ設定した評価項目について,その有無や程度を評点化するものであり実用性が高い。これに対して最近では評価の客観性を高めるために音響分析が導入されつつあり,今後の実用化が期待されている。
        一方麻痺性構音障害のもう一つの評価法として構音動態の解析が試みられている。従来の方法としてはX線マイクロビーム方式が用いられ,有用なデータが得られているが,装置の維持や放射線の曝射などの点で問題があり,現在では磁気記録装置などの応用が進められつつある。
        麻痺性構音障害の評価にはこれらの方法を有機的に統合して進めていくことが望まれ,今後の発展
  • 杉下 守弘
    1994 年 14 巻 2 号 p. 129-133
    発行日: 1994年
    公開日: 2006/06/06
    ジャーナル フリー
  • 山鳥 重
    1994 年 14 巻 2 号 p. 134-139
    発行日: 1994年
    公開日: 2006/06/06
    ジャーナル フリー
    ジャルゴンを日本語の特徴に合わせ,未分化ジャルゴン,音節性ジャルゴン,自立語性 (感性) ジャルゴン,文節性ジャルゴン,センテンス性ジャルゴンの5型に分類できるのではないかという仮説を提出した。この考えに沿い,今まであまり報告をみない保続語性ジャルゴン (語性ジャルゴンの1亜型) とセンテンス性ジャルゴンの症例を報告した。さらに文節性ジャルゴンの存在の可能性を指摘した。これらのジャルゴンはすべて責任病巣を異にしている可能性がある。
  • 波多野 和夫, 広瀬 秀一, 中西 雅夫, 濱中 淑彦
    1994 年 14 巻 2 号 p. 140-145
    発行日: 1994年
    公開日: 2006/06/06
    ジャーナル フリー
    反復性発話あるいは常同性発話の概念を整理し,さまざまな特徴を取り上げて,それによる分類を試みた。本稿では,この概念は可能な限り広く設定されており,反復言語,滞続言語のみならず,反響言語,再帰性発話などをも包含している。このような現象論としての症状学に立って,吃音症状,CV再帰性発話,部分型反響言語,音節性反復言語,語間代を含む音節レベルの反復性発話をまとめて検討した。特に,このうちの語間代 (Logoklonie) の問題に焦点を当て,自験症例の報告を通じて,その成立に関与する要因を検討することにより,発現機制に関する考察を試みた。
原著
  • 黒田 喜寿, 平野 理子, 宮崎 眞佐男, 津田 光徳, 田中 裕
    1994 年 14 巻 2 号 p. 147-153
    発行日: 1994年
    公開日: 2006/06/06
    ジャーナル フリー
    失語症者における言語障害と非言語性象徴機能障害との関係について考察するために,3種のテスト (分類,パントマイム,描画) を施行した。言語能力と各テストには何らかの相関関係が示されたが,その程度はそれぞれ異なっていた。また言語様式別にみた場合,各テストにおいて高い相関を示す言語様式には異なった傾向が認められた。以上より,非言語性象徴機能と言語機能との関係を象徴機能障害という単一の概念によって説明するのは困難であり,非言語性課題の性質や言語様式の多様性を考慮したより分析的な視点の必要性が示唆された。
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