理学療法学Supplement
Vol.34 Suppl. No.2 (第42回日本理学療法学術大会 抄録集)
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理学療法基礎系
  • 中川 浩, 大石 賢, 曽田 武史, 岡崎 倫江, 津田 拓郎, 矢倉 千昭
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 516
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/05/09
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    【はじめに】
    我々は、第41回日本理学療法学術大会において、高齢者用に改良した質的バランス評価であるBalance Error Scoring System(以下;高齢者用BESS)と虚弱高齢者における転倒歴の関係について報告した。その結果、身体反応を観察する高齢者用BESSは、再現性があり、転倒歴と関係する評価方法であった。しかし、転倒に関連する定量的なバランス評価との検討が課題として残された。そこで、本研究は高齢者用BESSと定量的バランス評価の関係を調査し、その妥当性を検討することを目的とした。
    【対象】
    当院通所リハビリテーション利用者で家屋内移動手段が歩行である30名(男性4名、女性26名)、平均年齢80.4±4.8歳であった。なお、全ての対象者には本研究の目的および内容を説明し、同意を得た上で実施した。
    【方法】
    高齢者用BESSは、フローリングと車椅子用クッションの2種類の床面形態上で、両足幅を10cm開かせた両足立ちと継ぎ足立ちの2種類の立位条件で実施した。両上肢は、腸骨稜上に置き、20秒間閉眼立位保持したときに生じた身体反応をエラー数として数えた。測定は、エラーを数える測定者と転倒を防止する介助者の2名で行った。各テスト前に練習を行い、そのあと測定を実施した。定量的バランス評価の静的バランスとして開眼片足立位保持時間(OLS)、機能的バランス評価としてTimed up and go test(TUG)、Functional reach test(FRT)を測定した。転倒歴は、過去1年以内に転倒を2度以上経験している者を転倒有群、それ未満の者を転倒無群とした。統計学的分析には、Mann-Whitney検定、t検定、Spearmanの順位相関係数を用い、有意水準5%未満をもって有意とした。
    【結果と考察】
    転倒有群(13名)は、転倒無群(17名)に比べて高齢者用BESS、TUGが有意に高い値を、OLS、FRTは有意に低い値を示した(p<0.05)。全対象者において、高齢者用BESSはOLS(r=0.40、p=0.03)、TUG(r=0.74、p<0.01)およびFRT(r=0.46、p=0.01)とそれぞれ有意な相関があった。TUGは動的バランス能力の指標とされていることから、高齢者用BESSは動的バランス能力を主に反映する評価であると考えられる。以上のことから、高齢者用BESSは、転倒リスクを反映し、定量的バランス評価と関係する質的バランス評価であることが示された。
  • 久保 貴裕, 河田 江実, 岩月 宏泰
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 517
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/05/09
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    【目的】
    立位時に後方移動を強制されると、前脛骨筋の収縮に始まり、大腿四頭筋、体幹筋の収縮へと続く、立ち直りが見られる。この際、筋力低下、姿勢の変化および動的平衡機能の低下している高齢者では、立ち直り反応が出にくくなり、転倒の危険性が高まる。そのため、彼らの転倒を予防するためには、動的平衡機能の評価が必要であるが、それを総合的に示す指標は確立されていない。これまで、定量的な外乱負荷による立ち直り反応を下肢関節の角度変化と筋活動の視点から分析した報告は少ない。そこで本研究では、健常青年の立位時に後方移動を強制した際の立ち直り反応を運動学的視点から分析し、体幹、下肢の関節がどのように影響しているか検索した。

    【方法】
    被験者は本研究の趣旨を理解した健常青年女性10名(平均年齢21歳)を対象とした。被験者を台車上に起立させた後、後方から錘を落下させて急激な後方への移動負荷を与えた。錘の重さは体重の1/10とした。その際の立ち直りについて、Peak motus 2000 systemを用いて右股関節、膝関節及び足関節の各関節の角度の計測し、同時にNoraxonにより下肢筋の筋電図を記録した。導出筋は大腿直筋、大腿二等筋、前脛骨筋、ヒラメ筋の4筋であった。実験中、転倒・転落をおこさないように配慮した。なお、測定条件は、制限なし、足関節制限、体幹制限、足関節と体幹を制限の4つとして各群で比較した。統計処理は測定条件別の筋積分値、各関節の角度の推移について一元配置分散分析を用いた。

    【結果と考察】
    何も制限しない状態では、転倒を防止するため、まず足関節背屈、膝関節伸展、股関節屈曲し、その後、足関節底屈、膝関節伸展、股関節伸展すると考えられた。しかし、本研究では全パターンにおいて、膝関節屈曲、股関節屈曲し、重心を低くした後Steppingが見られた。この理由は、外乱負荷の強度が大きく、股関節や足関節の運動のみでは立ち直りが困難であったと考えられる。この際、筋は前脛骨筋とヒラメ筋が同時に活動し、その後大腿二頭筋、大腿直筋の順で活動した。また、足関節を制限した場合は、他の条件に比べてSteppingの反応が多く見られた。理由としては、急激な後方への移動負荷に対し、足関節の戦略では十分に補うことができなかったと考えられる。


    【まとめ】
    立位時に後方への外乱負荷を与えると、足関節の戦略を用いた立ち直りが困難となるため、高齢者の転倒予防には足関節の可動性や筋力の保持だけではなく、下肢装具や履物にも配慮を欠かすことが出来ないと考える。
  • 山本 美幸, 新谷 和文, 臼田 滋
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 518
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/05/09
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    【目的】排泄は人間の尊厳に関わる動作であり、患者様・家族のリハビリテーションに対する希望ではトイレ動作の自立は多く聞かれ、退院先を決定する一要因である。本研究は、トイレ動作自立度の関連因子を検討することである。

    【方法】対象は、研究に同意の得られた27名(中枢神経疾患22名、整形疾患5名)で、平均年齢は73.0±10.3歳であった。対象者に対し、Functional Independence Measure(以下FIM)のトイレ動作自立度、Functional Reach(以下FR)、握力、大腿四頭筋筋力(Handheld Dynamometer)、Optical Righting Reaction(以下ORR)、Trail Making Test Part A(以下TMT-A)を調査・測定した。

    【結果・考察】(1)FIMのトイレ動作の自立度は、完全自立5人、修正自立7人、監視1人、最小介助2人、中等度介助1人、重度介助5人、全介助6人であった。FRは12.0±10.8cm、握力は左右合計11.9±10.3kg(健側9.7±7.5kg、患側2.2±4.5kg)、大腿四頭筋筋力は左右合計15.5±9.9kgf(健側11.1±6.7kgf、患側4.4±4.4kgf)、ORRは左右合計3.2±2.0(健側1.8±1.1、患側1.4±1.1)、TMT-Aは 442±159秒であった(健側とは高い方の値、患側とは低い方の値とした)。(2)トイレ動作の自立度との相関はスピアマンの順位相関係数において、FR r=0.80、握力 合計 r=0.70、健側 r=0.64、患側 r=0.42、大腿四頭筋筋力 合計 r=0.79、健側 r=0.74、患側 r=0.59、ORR 合計 r=0.71、健側 r=0.72、患側 r=0.67、TMT-A r=-0.64であった。 また、機能障害の測定項目を説明変数に重回帰分析を行った結果、回帰式はトイレ動作自立度=0.32(握力)+0.15(大腿四頭筋筋力)+0.34(ORR)-0.34(TMT-A)、R2=0.72であった。 上記のことから、上下肢体幹機能、注意機能、立位バランス全ての能力が大切であり、その中でも特に立位バランス能力の重要性が示唆された。また、理学療法を行う際には、両側(特に健側)へのアプローチが必要であることが示唆された。(3)トイレ動作自立の可否に対するFRのカットオフ値を検討した。トイレ動作自立群21.5±4.8cm、トイレ動作非自立群4.3±7.6cmであった。カットオフ値を16cmとすると、トイレ動作自立に対する感度は92%、特異度は93%であり、カイ二乗検定では統計学的に有意であった。よって、トイレ動作を自立するためには、FRが16cm以上可能であることが一指標となる。
  • 立花 瑞恵, 村上 舞, 佐藤 千春, 久保田 健太, 隈元 庸夫, 竹ケ原 智行, 小川 峻一, 伊藤 俊一
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 519
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/05/09
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    【目的】
    我々は第40・41回日本理学療法士学術大会において,脳卒中片麻痺患者(以下CVA患者)を対象に,平行開脚立位から非麻痺側下肢を可及的に速く挙上する片脚挙上動作反応時間(動作反応時間)と歩行能力の関連性を検討した.結果,動作反応時間と歩行能力に相関が見られ,動作反応時間の向上を意識したexを実施することにより,歩行速度が改善する傾向が見られた.しかし,CVA患者の歩行には前後左右方向への重心移動が不可欠と言われている.また前後開脚立位での重心移動測定は,歩行動作中の両脚支持期を想定できるとも言われている.そこで今回我々は,CVA患者の歩行能力向上の一助を得ることを目的として,歩行動作により近い,麻痺側下肢前型前後開脚立位(麻痺側前型)での動作反応時間と歩行能力との関連性を検討することとした.
    【対象と方法】
    対象は,本研究に参加可能なCVA患者25名(男性15名・女性10名)平均年齢は64歳±12歳とした.発症からの期間は50.4±52.6ヶ月であった.計測にはユニメック社製の反応速度計を使用し,(1)歩幅を一足長とした麻痺側前型立位(2)歩行時の歩幅に準じた麻痺側前型立位から,それぞれ音刺激後,非麻痺側下肢を可及的に速く挙上する動作を各3回実施した.また,条件(3)として,(2)の条件から音刺激後可及的に速く挙上した非麻痺側下肢を前方へ振り出すStep動作時の動作反応時間も3回測定した.歩行能力は10m歩行時間,努力性10m歩行時間,Timed Up and Go test(以下TUG),FIMの歩行項目を求めた.初期測定日より48時間以内に動作反応時間の再測定を行い動作反応時間の再現性を検討した.
    統計処理には級内相関係数,Speamanの順位相関係数を用い,有意水準は5%とした.
    【結果と考察】
    動作反応時間の計測は各条件で再現性を認めた.歩行能力と各動作反応時間との関連性は,(3)の麻痺側一足長前型立位から非麻痺側下肢を前方に振り出すStep動作時の反応時間との間にのみ相関が見られた.
    以前我々が報告した平行開脚立位からの動作反応時間に比べると,歩行能力との相関は低い傾向を示した.前後開脚立位にて麻痺側下肢へ荷重を促す際には,足関節・股関節の柔軟性,膝・股関節の伸展筋力が必要になってくる.麻痺側前型からの動作反応時間の測定時にも,このような要素の影響を受けた可能性がある.
    しかし,CVA患者の歩行の特徴として,非麻痺側下肢から麻痺側下肢への体重移動の速度が遅くなる傾向があると言われていることや,Step動作時の動作反応時間が遅い対象者は歩行速度も低下していたことから,Step動作時の動作反応時間は歩行能力を反映した評価になりうる可能性を示唆した.



  • [18F]fluorodeoxyglucoseを用いたPositron Emission Tomographyによる検討
    島田 裕之, 平田 崇, 古名 丈人, 及川 清, 木村 裕一, 杉浦 美穂, 石渡 喜一, 鈴木 隆雄
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 520
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/05/09
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    【目的】
    近年、運動中の筋活動を分析する手法として[18F]fluorodeoxyglucose を利用したPositron Emission Tomography(FDG PET)が用いられるようになってきた。本研究の目的は、FDG PETを用いて長時間歩行時の下肢筋活動を比較分析し、歩行時に主要な働きをする筋を明らかにすることである。本研究の理学療法への適用は、実用的な長距離歩行能力を向上させるために必要とされる筋を特定することで、効果的で効率的なアプローチをするための資料となりえる点である。

    【方法】
    対象は健常男性成人10名であり、平均年齢24.1 ± 2.1歳(20–29歳)であった。対象者には事前に研究に対する説明を実施し、書面にて同意を得た。なお、本研究は東京都老人総合研究所の倫理委員会からの承認を受けて実施した。FDG PETで測定する歩行は50分間のトレッドミル歩行であり、ベルト速度は4.0km/hに設定した。 PET撮影はHeadtome-Vを用いて行った。分析対象部位(regions of interests:ROI)は、PET画像上筋の同定が可能であった股関節、膝関節、足関節の屈曲伸展の主動作筋を対象とした。股関節屈筋は腸骨筋、大腿直筋、縫工筋、薄筋、股関節伸筋、外転筋は大殿筋、中殿筋とした。膝関節屈筋は半腱様筋、半膜様筋、大腿二頭筋長頭、膝関節伸筋は内側広筋、外側広筋、中間広筋を設定し、足関節底屈筋はヒラメ筋、腓腹筋、長指屈筋、足関節背屈筋は長指伸筋、長母指伸筋を選択した。また、PET画像から明らかな活動が認められた小殿筋を股関節伸筋、外転筋として分析に加え、踵接地時に遠心性収縮する前頚骨筋については分析から除外した。分析は、股関節屈伸、膝関節屈伸、足関節底背屈筋の活動を関節運動間でFDG取り込みの差を検討するために多重比較検定を用いて比較した。また、各関節運動内における筋間の活動を一元配置分散分析および多重比較検定にて比較した。

    【結果】
    関節運動間の比較において、FDG取り込みは足関底屈筋群が最も高く、次いで股関節伸展、外転筋群、足関節背屈筋群となった。これらの筋群は、股関節屈曲、膝関節屈伸筋群の糖代謝よりも有意に高かった。各関節運動内でFDG取り込みを比較すると、最も高い筋代謝を示したのは、股関節屈曲においては腸骨筋、伸展、外転は小殿筋、膝関節屈曲は半膜様筋、伸展は中間広筋、足関底屈はヒラメ筋、背屈が長母指伸筋であった。

    【まとめ】
    長距離歩行の累積的下肢筋活動の分析の結果、下腿筋における高い糖代謝が認められ、筋電図による先行研究と同様の結果を示した。また、股関節伸展、外転筋群の活動も高く、とくに小殿筋の代謝が著しかった。歩行時における小殿筋の機能的役割は、中殿筋と同一視されるが、糖代謝量は小殿筋が有意に高かった。
  • 麻痺側下肢運動と規則性の評価について
    生野 公貴, 徳久 謙太郎, 梛野 浩司, 鶴田 佳世, 宇都 いづみ, 奥田 紗代子, 岡田 洋平, 竹田 陽子, 松田 充代, 小嶌 康 ...
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 521
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/05/09
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】脳卒中片麻痺患者は,下垂足,反張膝といった様々な異常歩行を呈する.臨床での歩行評価は主に歩行観察が行われるが,主観的であり再現性に乏しいとされている.近年,腰背部に装着した加速度センサを用いて臨床有用性のある歩行評価が報告されている.しかし,腰背部の加速度波形では下肢の異常運動パターンは反映されず,片麻痺患者の歩行評価には不十分である.今回,片麻痺患者歩行の下腿部加速度を測定し、加速度波形の運動学的解釈および下肢運動の規則性の評価を検討した.
    【対象および方法】対象は、健常成人12名(男性8名,女性4名),当院入院中の歩行可能な脳卒中片麻痺患者11名(男性9名,女性2名,下肢Brunnstrom recovery stageII:1名,III:3名,IV:4名,V:5名,平地歩行自立4名,非自立7名)とした.測定には,圧電型加速度センサ(マイクロストーン社,感度±5G)を用い,サンプリング周波数は200Hzとしてコンピュータに取り込んだ.加速度の測定部位は麻痺側下肢外果から約3cm上方とした.測定は,直線16m歩行路の往復とし,歩行開始から終了の過渡期を除いた区間の加速度波形を解析に使用した.測定条件は、杖の使用や靴の種類,装具の有無は問わず,歩行速度は任意とした.測定区間から20.48秒の加速度波形を用いて自己相関分析を行い,加速度波形の規則性を評価した.自己相関係数を健常者と片麻痺患者および片麻痺患者内での自立度と重症度ごとで比較した.解析にはMann-WhitneyのU検定を用い,有意水準は5%とした.また,加速度波形の運動学的解釈を行うため,矢状面上のビデオ撮影を行い,加速度波形と同期させた.
    【結果】初期接地時,全対象者で衝撃加速度によるピークが見られ,ビデオ映像との同期も確認された.荷重応答期時,健常者では前後成分の増加が確認されたが,片麻痺患者では加速度変化が見られなかった.立脚終期時は健常者でピークが見られたが,片麻痺患者ではピークにばらつきが見られた.遊脚期では健常者は類似したパターンを示したが,脳卒中患者では,個人差が大きいものの,各個人の代償運動を反映した波形となった.自己相関分析を行った結果,片麻痺患者では健常者と比較して3軸方向すべての自己相関係数が有意に低値を示した(p<0.05).片麻痺患者内での自立度との比較では,統計学的有意差は認めなかったが,自立群ほど高い自己相関係数を示し,麻痺重症度の比較では,重症度が高いほど低い自己相関係数を示す傾向にあった.
    【考察】下腿部加速度は麻痺側下肢の立脚期と遊脚期の運動パターンを捉えることが可能であり,臨床での歩行観察に定量性をもたらす一助となる可能性が考えられた.また,規則性の評価により,脳卒中患者では低い自己相関を示す傾向にあり、片麻痺患者の歩行能力を表す指標になると考えられた.
  • 真栄城 省吾, 久田 友昭, 真喜屋 奈美, 湾野 あかね, 砂川 元, 首藤 哲也
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 522
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/05/09
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    脳卒中片麻痺患者の歩行能力に影響する要因は様々であるが、主要な因子として麻痺側下肢筋力が指摘されている。下肢筋力の低下は荷重時における支持性の低下につながり、歩行能力低下の大きな要因になると考えられる。歩行能力は臨床的に安定性、持久性、速度性、効率性など様々な側面から分析がなされているが、脳卒中片麻痺患者における歩行能力の簡便な評価法の一つとして10m最大歩行速度が用いられている。今回、麻痺側下肢筋力と歩行能力との関連について10m最大歩行速度を用いて検討を行った。
    【方法】
    当院入院中、または外来通院の脳卒中片麻痺患者31名(男性18名・女性13名、下肢Br.Stage4-13名・5-11名・6-7名、平均年齢59.6±13.4歳、平均羅患期間157.9±105.1日)とした。なお、測定に影響を与えるような重度の感覚障害や高次脳機能障害がなく、下肢に疼痛や整形外科的疾患を有するものは除外した。筋力はANIMA社製Hand-Held Dynamometer μtas F-1(以下、HHD)にて、麻痺側膝関節伸展筋力(以下、膝関節伸展筋力)・麻痺側膝関節屈曲筋力(以下、膝関節屈曲筋力)・麻痺側股関節屈曲筋力(以下、股関節屈曲筋力)を測定しピーク値を体重で除した値(kgf/kg)を求めた。測定は3回行い、平均体重比%を算出した。歩行能力は10m最大歩行速度とし、各筋力平均体重比%と比較した。統計処理はピアソンの相関係数を用いた(有位水準1%)。
    【結果】
    10m最大歩行速度と膝関節伸展筋力体重比%および膝関節屈曲筋力体重比%と股関節屈曲筋力体重比%における相関係数は、それぞれ0.74、0.79、0.48と有意な相関が認められた。(p<0.01)
    【考察】
    今回、脳卒中片麻痺患者の10m最大歩行速度と麻痺側下肢筋力との関連をみた。10m最大歩行速度と膝関節伸展筋力体重比%および膝関節屈曲筋力体重比%、股関節屈曲筋力体重比%に有意差が認められた。鈴木らによると最大歩行速度の決定要因として膝関節伸展筋力を挙げており、今回の研究においても同様の結果が得られた。また、我々の研究では膝関節屈曲筋力、股関節屈曲筋力での相関もみられたことから、麻痺側下肢筋力が歩行能力向上に関連する重要な因子の一つだと考えられる。脳卒中片麻痺患者の歩行能力向上を目指す上で筋力強化も選択肢の一つとして考え、時には強化していく必要性があると考える。
    【まとめ】
    1.今回、脳卒中片麻痺患者の歩行能力と麻痺側下肢筋力との関係を検討した。2.10m最大歩行速度と膝関節伸展筋力体重比%および膝関節屈曲筋力体重比%、股関節屈曲筋力体重比%に有意差が認められた。3.今後は、Br.Stage別での歩行能力と下肢筋力の関係、その他の因子なども含めて歩行能力との関連性を検討していきたい。
  • 菅原 恭子, 小笹 佳史, 義澤 前子, 久保 祐子, 中島 美奈, 川口 聡, 小西 正浩, 迫 力太郎, 大野 範夫
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 523
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/05/09
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】歩行能力に影響を与える要因には様々なものが含まれ,多くの報告がされているが,臨床の場面ではより簡便な評価法が望まれる。第38回理学療法学術大会において平野により報告された2ステップテストは簡便に歩行能力を推定するために考案され,10m歩行速度や6分間歩行距離と高い相関を示し,転倒の危険性や日常生活自立度を簡便に推測しうると示している。当院でも脳疾患患者の歩行能力の評価として2ステップテストを導入しており,脳疾患患者への評価においての有用性を歩行能力と経時的な歩行能力の推移から検討を行ったので報告する。
    【対象】当院入院中の脳疾患患者215例(男性142名,女性73名,平均年齢64.15±12.45歳)内訳は脳血管障害197名,脳挫傷12名,脳腫瘍6名で発症から入院までの平均経過日数134.58日を対象とした。
    【方法】2ステップテストはバランスを崩さず実施可能な最大2歩幅を測定。これを身長比で標準化した値を2ステップ値(以下2ステップ値)とした。被験者は通常使用している補助具を使用したまま測定。歩行能力は室内歩行監視(訓練室内などの限られた範囲内),屋内歩行監視,屋内歩行自立の3群に分類し2ステップ値の平均値より比較検討を行った。また経時的な歩行能力の推移と2ステップ値の関係を群別に初回の2ステップ値より比較検討した。2ステップテストは約4週に1回の頻度で測定した。歩行能力の推移における分類基準は監視から屋内歩行自立へ移行したケース(退院後に自立したものも含む)を自立移行群,自立へ移行できなかったケースを監視群とした。
    【結果】歩行能力別にみた2ステップ値の平均値は,屋内歩行自立レベル1.10±0.28,屋内歩行監視レベル0.81±0.22,室内歩行監視レベル0.48±0.18であった。歩行能力の推移からみた初回2ステップ値の比較では,自立移行群では初回2ステップ値0.5以上の割合90.9%,監視群では初回2ステップ値0.5以上の割合37.7%であった。歩行能力の低下に伴い2ステップ値も低下しており,自立移行群では初回2ステップ値0.5以上の割合が高く,監視群では初回2ステップ値0.5未満の割合が高い傾向が認められた。
    【考察】当院対象患者における歩行能力別にみた2ステップ値の結果では屋内歩行自立レベルにおいて2ステップ値1.0以上の割合が高く,2歩幅で身長を超えることができれば歩行自立度が高く脳疾患患者においても歩行能力の推定に有用性が高いことが示唆された。また,歩行能力の推移からみた2ステップ値の結果より,屋内歩行自立へ移行したケースの多くが初回2ステップ値0.5以上であり,0.5未満のケースは監視レベルに留まっている例が多く,2歩幅で身長の半分を超えられないケースは歩行自立へ移行しにくいことが示唆された。今回の結果より2ステップテストを歩行能力の指標および歩行獲得の予測にも活用していけるのではないかと考えている。

  • 伊藤 亜希子
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 524
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/05/09
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】片麻痺患者の歩行分析をする際、今までは理学療法士のみで分析し、訓練を行うことが多かった。今回患者の了承を得てデジタルカメラの動画を使用し、患者と理学療法士が一緒に歩行を分析し情報を共有した結果、患者自身の意欲の向上、訓練内容の意味を理解した上で効果的にリハビリテーションを実施することができたので報告する。
    【方法】患者の歩行をデジタルカメラの動画で前後左右4方向から撮影し、パソコンを使用し患者と理学療法士が一緒に動画を見て異常歩行の原因を分析した。対象は片麻痺患者2名で1症例は左視床出血の50代男性で4点杖歩行開始直後の発症30日目、杖歩行監視の50日目と経過を追って、もう1症例は外傷性くも膜下出血の10代女性で発症6ヶ月目に撮影した。
    【目的】患者の歩行を動画で撮影し、患者が見ることができない歩行を見て理学療法士と一緒に分析することで、異常歩行の原因を究明し歩容の改善を目指した。
    【結果】50代男性の症例では発症30日目と50日目の動画を比較し麻痺の随意性向上やバランス能力向上、歩容改善など訓練の結果を経時的に見ることができた。10代女性の症例では装具を検討しており、患者の装具に対する抵抗が強かったが、装具を装着すると歩容が改善することを理解してもらえた。また患者の感想として、自分の歩行を視覚的に見ることで何に問題があるかということが理解でき訓練に対する意欲の向上につながった、想像以上に歩行が不安定であることがわかったなどが挙がった。
    【考察】今まで患者の歩行分析に鏡を使用して視覚的フィードバックを行っていたが、歩行しながらかつ分析することは患者だけでなく理学療法士にとっても困難だった。加えて患者は正面からの歩容しか見られない為、患者の異常歩行の原因を多角的に分析できなかった。また理学療法士のみで分析することが多かった。今回動画を使用し片麻痺患者の歩行分析を行った利点として、簡単にパソコンに取り込め繰り返し見ることができる点や撮影時間が短いことで患者の負担も少なく集中できる点が挙げられる。今回は患者2名に対して患者と理学療法士が一緒に歩行分析を行い、視覚的に異常歩行の原因を理解することできた。また訓練の成果を実際に見ることで訓練に対する意欲の向上につながった。このような結果が得られた要因として比較的若い患者であったこと、高次脳機能障害があったが理解力がありコミュニケーションに問題がなかったことがいえる。
    【まとめ】今回動画を使用し歩行分析を行った結果、予想以上に患者の反応がよく経時的に撮影し評価することで患者だけでなく理学療法士にとっても日頃の訓練の成果をみることができた。今後もリハビリの経過説明時に動画を利用するなど検討していきたいと思う。
  • 加茂野 有徳, 加茂野 絵美, 奈良 武彦
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 525
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/05/09
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    臨床において歩行能力を評価する指標として,歩行スピードの計測はもっとも簡便であり,広く用いられている手段である.本研究では,脳卒中片麻痺者の歩行スピードに影響を与える因子として,歩行時間・距離因子に加え,麻痺の重度および床反力波形指標を用いて多変量解析を行った.その結果より,片麻痺者の歩行能力を決定しうる因子について検討することを目的とした.
    【方法】
    当センターにおいて歩行分析を行った脳卒中患者のデータベースから,発症後3ヵ月以上を経過し,10 m以上の歩行が可能となった片麻痺者212例を対象とした.大型床反力計システム(共和電業)を用いて,その前方2.5 mの地点から歩行を開始し,床反力計通過後1.5 mの地点で停止し,出発点に戻り再度歩行を行った.歩行は自由歩行とし,左右各10歩の歩行計測データをサンプリングした時点で終了とした.補装具および靴については,被験者が普段歩いている条件と同一にした.
    解析に用いる因子として,下肢ブルンストローム・リカバリー・ステージ(以下,下肢BRS),静止立位時の麻痺側最大荷重率,歩行スピード,歩調,ストライド長および床反力波形指標16項目(床反力3方向の対称性,再現性,円滑性,動揺性,リズム性,よろめき)を取り上げ,統計ソフトウェアJUSE-StatWorks/V4.0(日本科学技術研修所)を用いて多変量解析を行った.有意水準は危険率5 %未満とした.
    【結果】
    はじめに,歩行スピードを目的変数として重回帰分析を行ったところ,歩調およびストライド長の2つの説明変数にて,寄与率は0.97であった.そこで,歩調とストライド長をそれぞれ目的変数,下肢BRS,麻痺側最大荷重率,各床反力波形指標を説明変数として重回帰分析を行った.歩調を目的変数としたときは,下肢BRS,鉛直方向再現性,鉛直方向リズム性,進行方向再現性,進行方向円滑性,進行方向動揺性,進行方向リズム性,左右方向円滑性,左右方向リズム性を説明変数として,寄与率は0.782であった.また,ストライド長を目的変数としたときは,鉛直方向再現性,鉛直方向リズム性,進行方向対称性,進行方向再現性,進行方向リズム性,左右方向動揺性,左右方向リズム性,よろめきを説明変数として,寄与率は0.707であった.
    【考察】
    片麻痺者の歩行スピードすなわち歩行能力を決定する因子として,歩調とストライド長の寄与率が高いことは,健常者および片麻痺者を対象とした先行研究の結果と一致するものである.また,歩調とストライド長をそれぞれ説明する因子において,床反力3方向のリズム性が両者に含まれた.床反力波形が身体重心加速度波形を反映するという点から,床反力波形の基本周波数のスペクトルを表すリズム性は,重心軌跡の周期性を反映すると言える.片麻痺者の歩行能力に,重心の制御能力が関与していると考えられる.
  • 田上 茂雄, 與儀 清介, 新里 剛史, 湯地 忠彦
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 526
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/05/09
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】近年、自転車エルゴメータにおける脳卒中片麻痺患者の機能回復運動としての有用性が報告されている。先行研究において、新野等は慢性期の脳卒中片麻痺患者において自転車エルゴメータ施行後の歩行における効果を述べている。しかし、回復期の脳卒中片麻痺患者を対象とした検証は少ない。また、日常のトレーニングの場面において、脳卒中片麻痺患者の歩行における自主トレーニングに苦悩することが多い。そこで今回、回復期の脳卒中片麻痺患者1例に対し自主トレーニングの一環として自転車エルゴメータを継続して行った結果、多少の知見が得られたので報告する。

    【対象】脳卒中片麻痺患者1例。年齢70歳。右片麻痺。B/S上肢IV 下肢IV。発症から約1ヶ月経過。歩行は、杖なしで軽介助から監視レベル。入院当初は片脚立位が不可能であった。

    【方法】自転車エルゴメータは、CATEYE社製EC3500(座位タイプ)を用いた。時間は15分間で、正回転(7分30秒)と逆回転(7分30秒)を実施した。回転数は20bpmにて使用した。評価として、自転車エルゴメータ施行前後において、片脚立位時間とTimeUp&GoTest(以下、TGT)を計測した。以上の内容を10日間施行した。解析方法は、10日間の片脚立位時間とTGTの結果から、それぞれT検定にて比較検討した。

    【結果】片脚立位時間は、左右ともに施行前に比べて施行後は有意に時間の延長を認めた。(P<0.05)TGTは、施行前に比べて施行後は有意に時間の短縮を認めた。(P<0.05)

    【考察】片脚立位においては、自転車エルゴメータによって固有感覚受容器への刺激が増大し、それに伴って協調的な筋収縮と弛緩のタイミングを強化できた為と考える。また、バランスに必要な骨盤周囲筋群や体幹筋群の筋活動も増大できた為と考える。TGTにおいては、協調的な筋収縮と弛緩のタイミングを強化できたことで歩行速度や立位バランスなどに影響をもたらしたものと考える。また、自転車エルゴメータを座位で行うことで麻痺側下肢への視覚的フィードバックが得られやすいことも、体幹筋や下肢筋群の筋活動の増大につながったものと考える。

    【まとめ】今回の結果から、回復期の脳卒中片麻痺患者における自転車エルゴメータの活用が有効的であることが示唆された。また、自主トレーニングの一環としても有効的であると考える。今後は、さらに症例を増やし検証していきたい。
  • 歩行解析装置での検討
    田中 秀明, 井舟 正秀, 石渡 利浩, 久保 佳子, 坂井 志帆, 伊達 真弥, 水上 裕美, 内山 陽子, 松本 康嗣, 川北 慎一郎
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 527
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/05/09
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】我々は先行研究で脳卒中片麻痺者(以下片麻痺者)の障害物を跨ぐ動作において、筋力、歩行速度、バランス能力との関係や、最大に跨げる高さを検討した結果、麻痺側を先に跨ぐ(以下麻痺先行)方法が跨ぎやすいとの結果を報告した。今回、片麻痺者・健常者における障害物を跨ぐ際の歩行解析を行い比較検討したので報告する。
    【対象】対象は本研究の目的を説明し同意の得られた、屋外歩行自立の片麻痺者13名(以下片麻痺群)、四肢・体幹に障害のない成人13名(以下健常群)とした。片麻痺群の内訳は平均発症経過期間67.9±80.1ヶ月、平均年齢58.1±6.7歳、平均身長161.3±4.2cm、平均体重57.7±8.4Kg、下肢Brunnstrom recovery stage3が9名、4が4名、麻痺側右6名、左7名、歩行様式は、独歩3名、杖使用3名、杖・装具使用7名であった。また健常群の内訳は、平均年齢56.7±3.9歳、平均身長158.5±6.7cm、平均体重56.5±6.2Kgであった。
    【方法】歩行解析はニッタ(株)ゲイトスキャン4000を用いた。障害物はセンサー上に2本の支柱を150cmの間隔で設置し、支柱間に色テープを貼り付けたものとした。測定前に転子果長(以下TMD)を計測し測定は、普段使用している歩行様式で自由歩行にてTMDの10%、20%、30%の3通りを無作為に2回実施した。跨ぎ方は片麻痺群については麻痺先行のみを、健常群は自由とし跨ぎ動作を実施してもらい、最初に跨ぎ越す下肢を1歩目、次を2歩目とした。解析項目は距離因子(歩幅、歩隔)、時間因子(遊脚時間、両足接地時間)とし両群の1歩目、2歩目それぞれ2回施行中の平均値を測定値とした。データ補正として各測定値の距離因子は身長で、時間因子は重複歩時間で除した値を用いた。比較項目は片麻痺群、健常群それぞれ10%と20%、20%と30%、10%と30%間を1歩目、2歩目で比較した。統計学的分析についてはWilcoxon検定を用い有意水準は5%とした。
    【結果】片麻痺群1歩目は10、20%に対し30%で歩幅の低下、10%に対し20、30%で歩隔の増大と遊脚時間の延長、10%に対し30%で両足接地時間の延長を認めた(p<0.05)。片麻痺群2歩目で10%に対し30%で歩隔の増大を認め、健常群2歩目で10%に対し20、30%で遊脚時間の延長を認めた(p<0.05)。
    【考察及びまとめ】麻痺側下肢で跨ぐ際には分離運動の不十分さで分廻しとなる為に障害物が高くなると歩幅の低下や遊脚時間が延長すると考えた。両足接地時間延長については跨ぎ越えた麻痺側下肢にスムーズな体重移動が出来ない為、2歩目に移行することが困難であると考えた。麻痺側歩隔の増大については跨ぐ際のバランス反応として支持基底面の拡大を反映すると考えた。健常群について障害物が高くなるにつれ2歩目の遊脚時間延長を認めたが、これは後方の下肢をより安全に振り出す為に高く挙上させることで時間の延長が生じると考えた。
  • 主観的出力と客観的出力の対応関係の年齢による差異
    渡邊 紀子, 平井 達也, 星野 雅代, 河合 裕美, 上野 愛彦, 井上 大輔, 田中 正大, 牧 公子, 千鳥 司浩, 下野 俊哉
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 528
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/05/09
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】グレーディング能力は自己の出力強度を主観によって調節する能力である.大築は「つもりと実際」の対応関係であると述べており,高齢者では不一致が認められるとしているが,高齢者のグレーディング能力についての詳細な報告は見られない.我々の先行研究において,膝伸展グレーディング能力を高齢・若年群で比較した結果,高齢群に筋出力調整に困難さがみられた.今回は,歩行におけるグレーディング能力の評価が加齢による機能低下の評価に有用であるかどうかを検討するため,若年者との比較を行ったので報告する.
    【方法】対象は,若年群15名(平均24.9歳),高齢群15名(平均71.3歳)ですべて健常女性とした.対象者には本研究の概要を説明し,同意を得た.プレテストにて20cmの線分の段階付けを行いグレーディングの概念に著しい問題がないことを確認した.歩行は,前後3mを取った10m歩行路にて100%(最大速度)で歩いた後,A(40%→80%→20%→60%)もしくは,B(60%→20%→80%→40%)の2パターンを被験者毎に不規則に適応し,各目標値に対する主観的速度で3回ずつ歩行させ,速度を算出した.最大歩行速度に対する各段階の歩行速度の割合を,グレーディング値(G値:%)とした.分析は,1)目標値とG値の絶対誤差(以下,誤差),2)各段階間のG値の差(変移の正確性)について群間比較(マン・ホイットニの順位検定)を行い,有意水準は5%未満とした.
    【結果】G値の信頼性は級内相関係数ICC(1,1)を用いて確認した.若年群は0.89~0.94,高齢群は0.91~0.97であった.1)誤差(%)について若年群/高齢群の順に,20%:38.3±9.1/49.1±10.6(P=0.007),40%:25.7±8.2/36.3±9.0(P=0.005),60%:18.9±6.7/23.1±11.4(n.s),80%:6.3±4.5/9.5±5.1(n.s)であった.2)変移の正確性は,20~40%,40~60%,60~80%の順に若年群では7.3%,13.3%,5.8%で高齢群では7.2%,6.8%,2.8%であり,40~60%での変移において若年群の方が高い傾向であった(P=0.05).
    【考察】結果1)より,若年群の方が目標値に対する誤差が少なかった,2)より,変移の正確性は若年群の方が優れており,高齢群ではマイナスに変移する者が多く認められた.これらのことから歩行速度の調整力であるグレーディング能力は若年群の方が優れていることが示唆された.高齢者においては予測/意図と結果のズレが多く存在しており,この原因としては,注意の低下に起因する知覚運動連関の問題,さらに運動イメージの困難さを表していると考えられた.グレーディング能力が加齢による機能低下の評価に有用となることが示唆された.
  • 若年者と高齢者の相違
    平井 達也, 渡邊 紀子, 星野 雅代, 河合 裕美, 上野 愛彦, 井上 大輔, 田中 正大, 牧 公子, 千鳥 司浩, 下野 俊哉
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 529
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/05/09
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】日常動作において,目的達成のためには身体の諸機能が合理的に調節されなければならない.適切に出力の量を調整する能力はグレーディング(主観的な努力度と客観的な出力を一致させる)能力といわれる.高齢者の運動機能を評価する際,最大出力で表現されることが多いが,グレーディング能力の評価はあまり行われていない.我々は健常者を対象とした先行研究において,最大筋力と筋力グレーディングは若年では高い相関であったが,高齢では低い相関であることを認めた.今回,膝伸展における最大筋力と歩行速度のグレーディングの関係を調査し,その関係が年齢により異なるかどうかについて検討したので報告する.
    【方法】対象は,若年群15名(平均24.9歳),高齢群15名(平均71.3歳)ですべて健常女性とした.対象者には本研究の概要を説明し,同意を得た.プレテストにてグレーディングの概念に著しい問題が無いことを確認した.筋力は,OG技研社製アイソフォースGT-300を使用し,端座位膝90°屈曲位で等尺性膝伸展最大筋力を測定した.歩行は前後3mを取った10m歩行路を用い,100%(最大速度)測定後,A(40%→80%→20%→60%)もしくは,B(60%→20%→80%→40%)の2パターンを被験者毎にランダムに適応した.各目標値に対する主観的速度での歩行を3回ずつ行い,速度を算出した.最大速度に対する各速度の割合をグレーディング値(%)とし,目標値とグレーディング値の差の絶対値を絶対誤差とした.データ分析は,1)最大筋力と絶対誤差の相関(スピアマン順位相関係数検定)を行った.2)各群の最大筋力を中央値でカットオフし,高筋力と低筋力に分け各目標値ごとに比較(ウィルコクソン順位検定)を行った.すべて有意水準を5%未満とした.
    【結果】1)若年群は20%:0.10,40%:0.42,60%:0.30,80%:-0.41であり(全てn.s),40%と80%に中等度の相関が認められた.高齢群では20%:0.09,40%:-0.02,60%:0.29,80%:0.25であり,低い相関であった(全てn.s).2)若年群では,80%のみ,高筋力の方が誤差が低い傾向(P=0.09)であった.高齢群は,全て有意差は見られなかった.
    【考察】本研究の結果から,我々の先行研究と同様,若年者と比べ高齢者において,最大筋力と歩行の調整力の関係は低いことが示された.しかし,筋力の高低による差は明確には現れなかった.このことから,高い筋力を持つ者が優れた歩行グレーディング能力を持つわけではなく,その関係は年齢により著明に変化しないことが示唆された.グレーディングは,大築(2005)の言うように「つもりと実際」の対応関係であり,運動イメージ,身体に向ける注意,各段階間の差異の識別能力などが影響を与えると考えられた.
  • 押川 達郎, 山口 仁美, 西村 繁典, 中島 義博, 広田 桂介, 前田 貴司, 志波 直人
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 530
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/05/09
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】我々は拮抗筋へ電気刺激を行い、その筋収縮を主動作筋の運動抵抗とするハイブリッドトレーニング法を考案した。本法は、主動作筋は求心性収縮を行い、拮抗筋は電気刺激により求心性収縮を行うが、主動作筋の運動により引き伸ばされ遠心性収縮となる。この方法は電気的な筋収縮が運動により引き伸ばされるため、下肢に用いた場合、歩行への影響が考えられる。そこで電気刺激による歩行改善の報告を調べてみると、健常者への影響についての報告は見当たらない。そこでこれらの点を検討するため、ハイブリッドトレーニング法と電気刺激のみを行う前後に三次元動作解析装置を用いて歩行解析を行い、歩容の変化を検討したので報告する。

    【方法】対象は健常男性15名を、本法を行う7名(HYB群)と電気刺激のみ行う8名(CTL群)に分けた。方法は、両膝関節の伸筋と屈筋に本法と電気刺激にて等尺性収縮を行う前後で歩行解析を行った。電気刺激の各条件は、周波数40Hz、刺激強度は最大の伸筋70%、屈筋80%、刺激時間は伸筋屈筋各3秒を10回行い、それを10セット行った。セット間に1分間の休息を行った。電極は伸筋が大腿直筋、内外側広筋。屈筋が内外側ハムストリングスに貼付した。歩行解析の比較として、歩行周期の踵接地時、足底接地時、つま先離床時、遊脚期最大時の股関節屈曲伸展、膝関節屈曲伸展角度。床反力3方向分力最大値と最小値。歩行因子として歩幅、歩隔、歩行速度を用いた。

    【結果】トレーニング前後の差は、関節角度はHYB群股関節-0.2度~2.47度、膝関節-3.99度~-0.01度。CTL群股関節-1.1度~0.56度、膝関節-4.21度~1.75度。床反力の各分力は、HYB群前後分力は最大値-0.5N、最小値-2.3N。内外側分力は最大値-0.6N、最小値-2.4N。鉛直分力は最初の最大値7.4N、次の最大値-37.1N、最小値2.5N。CTL群は前後分力最大値5Nと最小値4.5N。内外側分力最大値-5.9Nと最小値5.1N。鉛直分力は最初の最大値-6.5N、次の最大値13.2N、最小値7.7N。各歩行因子はHYB群歩幅-0.017m、歩隔-0.011m、歩行速度-0.02m/min。CTL群は歩幅-0.023m、歩隔0.004m、歩行速度-0.13m/minであり、HYB群とCTL群ともトレーニング前後で大きな違いはなかった。

    【考察とまとめ】トレーニング前後において関節角度や床反力、各歩行因子に大きな違いがなかったことは、ハイブッリドトレーニング法と関節運動を伴わない電気刺激両方法とも歩行に影響を及ぼさないと考えられる。しかし、今回は1回20分程度の電気刺激であり、長期的な電気刺激による影響も検討する必要があると考えられる。
  • 高橋 真, 上林 清孝, 中島 剛, 赤居 正美, 中澤 公孝
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 531
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/05/09
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】他者の上肢の運動観察中には、観察者の大脳皮質運動野に活動が生じ、さらに実際の運動遂行時と同様の時間関係で運動野が活動することが報告されている。最近では、この事実を根拠に運動観察を用いて、運動学習を行うという試みもなされ始めている。一方、下肢の運動観察に関する報告は少なく、さらに、歩行運動観察中の運動野の活動に関してはほとんどわかっていない。脳機能イメージングを用いて、運動観察と類似した歩行運動のイメージ中の脳活動を検討した研究が散見されるが、時間分解能の問題があり、歩行周期との対応までには至っていない。そこで、本研究では、他者の歩行運動を観察している時に、経頭蓋磁気刺激法を用いて、観察者の皮質脊髄路(運動野)にどのような活動が生じるのかについて検討した。
    【方法】被験者は健常成人7名(年齢28-33歳)であった.被検者には実験の目的と方法を十分に説明し,同意を得て実験を行なった.また、本実験は倫理審査委員会の承認を得て、実施した。被験者は座位で安静を保ち、正面のトレッドミル上で他者が歩行している姿(右外側面)を注視した。その際、特に下肢の動きに注目するように指示した。歩行スピードは2km/hで、1歩行周期は約2秒であった。歩行観察中に経頭蓋磁気刺激を用いて、運動誘発電位(MEP)を記録し、皮質脊髄路の興奮性を検討した。被検筋は右側の前脛骨筋,ヒラメ筋とし、表面電極法により筋電図を記録した。経頭蓋磁気刺激はMagstim200を使用し、ダブルコーンコイルを用いた。刺激は約6秒ごとに与え、歩行の各周期にランダムに刺激が入るように設定し、合計100発程度の刺激を行った。安静時のMEPを100%とし、歩行中のMEPを標準化した。さらに、1歩行周期を10フェーズに分割し、それぞれのフェーズで平均値を求めた。
    【結果】歩行観察中に、前脛骨筋、ヒラメ筋から記録されたMEPは全歩行周期で約150~200%に増大した。さらに、歩行周期に応じた変化はなく、一様にMEPは増大した。また、歩行観察中には筋活動はなく、安静が保たれていた。
    【考察】運動観察中の脊髄レベルでの変化は本研究の結果からは不明だが、先行研究からMEPは運動野の活動を主に反映していると考えられる。したがって、本研究で得られた結果は、歩行観察中には実際に筋が活動するタイミングで観察者の運動野が活動するというよりは、全歩行周期に渡って、活動が増大していることを示唆する。これは、上肢の運動観察の場合と異なるが、歩行のような自動運動に特異的なものであると考えられる。すなわち、歩き始めや障害物を跨ぐといった場合には皮質が大きく関与するが、通常の歩行時には運動野から(中脳歩行誘発野を介して)脊髄の中枢パターン発生器に入力を持続的に送ることで歩行を制御していることを反映した結果であると考えられる。
  • 通常歩行と1/2荷重歩行における床反力前後成分の相違
    関 公輔, 鎌田 一葉, 諸橋 勇
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 532
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/05/09
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】松葉杖を使用し、一定期間の荷重制約を経験した下肢整形外科疾患患者の多くは、患側下肢に体重移動する際、片脚立位が不安定であったり、患側臀部が後方に引かれたままの姿勢で歩くなど十分な支持機能が獲得されておらず、歩行障害として問題となる場合がある。そこで我々は、松葉杖による支持が身体に与える影響を理解するための研究として、第23回東北理学療法士学会において健常者1症例を通じ、歩行解析を行った。結果、松葉杖を使用する歩行は、通常時出力される床反力及び関節モーメント、体重心の移動に影響を及ぼすことが示唆された。そこで本研究は、多人数によるデータの集積を行い、通常歩行に対し、両松葉杖を使用した1/2荷重歩行が部分免荷下肢の床反力前後成分に与える影響について明らかにすることを目的とした。
    【方法】被験者は、研究の同意が得られた健常な成人男性7名(身長172±3.6cm,体重68.3±11.9kg,年齢25.1±3.4歳)を対象とした。歩行条件として、通常歩行(以下NG)と1/2荷重歩行(以下DCG)とした。DCGは3点1点歩行の前型とし、1/2荷重肢は左下肢(以下免荷肢)とした。計測前に1/2荷重訓練と歩行訓練を行い、定常化していることを確認した。歩行速度はリズム計を使用し各歩調を統一した。計測機器は三次元動作解析装置(VICON 612 カメラ8台)と床反力計(ベルテック社製)を用いた。被験者の左右肩峰・股関節・膝関節・第5中足骨に反射マーカーを貼付し、2枚の床反力計を左右の脚で踏み分け歩行計測した。観察、比較項目として、床反力前後成分を求め、1歩行周期を100%とし正規化した。同時に歩行データを3次元CGに変換、視覚化し、歩行形態及び床反力ベクトルを多角的に観察し歩行データと照らし合わせて二条件を分析、検討した。
    【結果】全被験者を通じNGは、両下肢において立脚初期に後方成分の床反力が増大し、立脚後期には、前方成分が増大していた。また両脚支持期(RTO-LHC間)では、右立脚後期の前方床反力に対し、ほぼ同等の後方床反力が左立脚初期に働いていた。一方、DCGでは、両下肢を通じてNGと比較し、床反力前後成分の減少を示した。右非免荷肢立脚初期の後方成分も減少傾向を示した。また免荷肢においては、前後成分が著しく小さい波形を示した。両脚支持期(RTO-LHC間)において、右非免荷肢立脚後期の床反力前方成分の大きさに対し、左免荷肢立脚初期の床反力後方成分は相対的に小さく、床反力前後成分に力の差が認められた。
    【考察】健常者において松葉杖を使用した部分荷重歩行を行うことは、免荷肢立脚期の制動力と推進力を松葉杖が補償すると考えられた。一方で反面的に通常出力される床反力の作用を得られにくい可能性が考えられ、筋活動や重心移動に影響を及ぼす要因として留意する必要があると考える。

  • 村松 正文, 臼井 友一, 平野 和宏, 古和田 涼子, 鈴木 壽彦, 安部 知佳, 保木本 崇弘, 田中 真希, 金森 輝光, 辰濃 尚, ...
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 533
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/05/09
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】近年、早期荷重歩行が促されており免荷歩行を指導する機会は減少している。しかし、免荷歩行が処方された場合、その指導に難渋することが多い。この研究の目的は、免荷歩行における体幹と松葉杖の前後方向への傾斜角度の変化を分析し、免荷歩行の指導における要点を考察することである。
    【方法】対象は、健常成人20名である。この20名は、免荷歩行の未経験者10名A群(男性5名、女性5名、平均年齢37.1±12.4歳)と免荷歩行の経験者10名B群(男性6名、女性4名、平均年齢28.6±1.3歳)に分類した。方法は、1)免荷肢の決定、2)免荷歩行の説明、3)10mの免荷歩行実施、4)動画の記録、5)二次元動作解析ソフトを用いて足尖離地(T-O)と踵接地(H-C)における体幹と松葉杖の傾斜角度の計測、6)体幹と松葉杖の傾斜角度の変化の算出(T-O時の傾斜角度からH-C時の傾斜角度を減じた値)、7)体幹と松葉杖の角度変化の分析(対応のないt検定によりA群とB群の差を検定)である。
    【結果】体幹の傾斜角度の変化は、A群9.6±3.8°、B群3.5±2.5°であり有意差が認められた(p<0.01)。松葉杖の傾斜角度の変化は、A群11.4±5.1°、B群24.3±6.4°であり有意差が認められた(p<0.01)。
    【考察】EBMに基づく理学療法の実践手段の一つとして動作解析技術がある。しかし、動作解析機は施設設置型が多く、測定環境に制約がある。今回は,測定環境に制限を受けにくく、操作が簡便なデジタルカメラと安価な動作解析ソフトを用いて研究を行った。結果、体幹、松葉杖ともにA群とB群の間に有意差が認められた。松葉杖歩行の未熟なA群は、体幹の角度変化が大きく、松葉杖の角度変化は小さかった。B群は、A群と反対の結果を示した。歩行においては、重心が直線的に進行することで、その効率性、安定性を提供する。本研究において重心動揺について分析することは困難であった。しかし、A群における体幹の角度変化の大きさは、B群に比べて重心動揺を増大させていると考えられる。また、T-O時の体幹傾斜角度が、H-Cに進行すると共に後傾へと移行している。これは、松葉杖のみで支持している不安定な期間に、体幹では後方への回転モーメントを生じていることを推測できる。A群のような歩容は、歩行効率を低下させるだけではなく、後方への転倒リスクを増大させていると推察できる。以上のことから免荷歩行の指導においては、下半身を前方へ振り出すことを意識させず、松葉杖で支持した上半身を先行させることで体幹を前方へ平行移動することを学習させることが肝要である。
    【まとめ】1)免荷歩行の未熟者と熟練者の歩容を分析した。2)体幹の傾斜角度の変化はA群が大きかった。3)松葉杖の傾斜角度の変化はB群が大きかった。4)免荷歩行の指導では、松葉杖の傾斜を利用して上半身を先行させ、体幹を平行移動する歩容を学習させることが肝要である。
  • 金元 麻里子, 中川 和也, 岡部 孝生, 森野 勝憲
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 534
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/05/09
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】今回断端部が非常に脆弱で、義足を製作するにあたり難渋した下腿切断者を2症例担当した。担当当初、最も一般的であるPTB下腿義足を考慮した。しかし、周知の通りPTB下腿義足は主に膝蓋腱に対する部分荷重がその体重支持の原則となる。そのため、本2症例に関しては、部分荷重を行うことにより脆弱な皮膚に対し、創傷の危険性が懸念された。そこで今回、全面接触で圧の分散が可能なTSB下腿義足(total surface bearing)を選択した。その結果良好な経過を示し、義足歩行獲得に至った症例を経験したので報告する。
    【症例紹介】(症例1)年齢:60歳、男性、診断名:閉塞性動脈血栓症、現病歴:K病院にて切断、切断1ヶ月後に当院に転院されリハ開始となる。その他:断端知覚過敏、アトピー性皮膚炎、断端浮腫が認められる。経過:リハ開始直後(切断1ヵ月後)よりSoft dressing法にて断端の形成を図った。しかし当初は浮腫が著明で、かつ断端部は極度の知覚過敏であった。そのため部分荷重を行うと局部に圧がかかるため、疼痛出現は元より皮膚の損傷が生じることが予測された。そこで、圧の分散を考慮しシリコンライナーを用いた全面接触型のTSB下腿義足を選択した。結果、初期時から荷重痛もなく皮膚の状態も良好で、退院時(切断4ヶ月後)、屋内独歩自立、屋外ロフストランド杖自立となった。(症例2)年齢:72歳、男性、診断名:熱傷・有棘細胞癌、現病歴:T病院にて切断、切断3ヶ月後に当院に転院されリハ開始となる。その他:皮膚移植(4回)、断端浮腫が認められる。経過:リハ開始直後(切断3ヵ月後)よりSoft dressing法にて断端の形成を図った。火傷による皮膚移植を行い、少しの摩擦でもすぐに傷をつくる恐れがあった。そのためPTB下腿義足では、ピストン運動により皮膚の損傷が生じることが予測された。そこで、全面接触が可能なTSB下腿義足を選択し、ライナーは一番緩衝作用の高い熱可塑性エラストマーを使用した。懸垂方法は、断端末に溝が出来ていたため局部に圧がかかることが考えられたため、ピンなしライナーを選択した。結果、断端部の状態も良好で、現在(切断5ヶ月後)、は屋内外とも両松葉杖歩行自立となる。
    【考察】一般的には切断直後より断端形成を図るが、今回の2症例においては、皮膚が脆弱であったため断端形成を開始するまで期間を要した。TSB下腿義足は全面接触型でピストン運動が少なく、圧が分散し、傷もつくりにくい特徴がある。そのため、断端部への負担が軽減し、早期荷重・早期歩行が可能とされる。今回、断端皮膚が脆弱な2症例に対してTSB下腿義足を処方することにより、断端部への負担が軽減したことが、当初は義足歩行の獲得も困難とされていた上記2症例において義足歩行獲得まで至った要因と考えられる。そのため、今回のような断端部の皮膚に何らかの問題を呈する症例に対して、TSB下腿義足は有用であると考えられる。


  • 腰痛予防のための基礎研究
    小田桐 愛, 三浦 雅史, 吉俣 美登利
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 535
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/05/09
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】本研究の目的は、妊産婦の歩行における腰部の動きを分析し、妊娠によって発症すると思われる腰痛やこむら返りのような下腿痛のメカニズムを明らかにするための基礎研究を行うことである。
    【方法】対象は青森市内に住む妊娠していない健康な成人女性(以下、非妊産婦)と妊娠している健康な成人妊婦(以下、妊産婦)とした。対象へはインフォームドコンセントを行い、本研究に了承の得られた非妊産婦と妊産婦へ協力して頂いた。なお、本研究は本学倫理委員会の了承を得て実施した。歩行分析では、対象に赤外線反射マーカを左右の肩峰、上前腸骨棘、大腿骨大転子、膝蓋骨中央の高さで膝蓋骨の厚さを除く膝関節前後の中点、外果、第5中足骨と第1・3・5腰椎棘突起に貼付した。歩行分析は、三次元動作解析装置とビデオカメラ4台を使用し、それぞれのビデオカメラで得られた画像を分析した。歩行速度は自由速度とした。
    【結果】協力の得られた妊産婦は9名であった。妊産婦の妊娠週数は31.3±4.4週であった。また、非妊産婦は12名とした。身長、体重とも両者間に有意差はなかった。歩行分析の結果、歩行速度及び腰椎前彎角度は両者で有意な差はなかった。骨盤回旋角度は非妊産婦の方が大きく、有意差を認めた(p<0.05)。歩行中の足関節底背屈は妊産婦で有意に減少していた(p<0.01)。
    【考察】妊産婦の姿勢や歩行を分析している先行研究では妊娠中の腰椎の変化について意見が散見しており、脊柱の彎曲状態が腰痛に明らかに影響を与えたと言及したものはない。しかし、妊娠では胎児の成長に伴い、体重心が前下方に移動する。それに伴って腰椎の前彎が増強し、腰痛をひき起こすと推測される。本研究による歩行分析では、非妊産婦と妊産婦間に腰椎前彎角度の有意な差は認められなかった。歩行時の腰椎の変化を詳細に分析するためには妊産婦個人の姿勢変化を考慮し、測定時期や測定方法を再考する必要があると思われた。一方、歩行時の足関節底背屈は妊産婦で有意に減少していた。これは妊娠中に増加した体重を足関節底屈によって持ち上げなければ前進できないため、妊娠前よりも筋力が必要になると考えられる。歩行速度を保ち、体重心を安定させて歩くため足関節底屈が減少したと考えられた。また、こむら返りのような下腿三頭筋の痛みは足関節底屈による下腿三頭筋の筋疲労と関連しているのではないかと考えられた。 Wenhuaらによると、妊産婦の歩行は非妊産婦に似ているが骨盤回旋は減少していると述べられていた。本研究においても、骨盤回旋は有意に妊産婦が減少していた。しかし、今回測定した項目からは、骨盤回旋減少の要因を明らかするには至らなかった。今後、歩行速度や歩行距離等の条件を変化させ、歩幅や歩隔、他の関節角度などの詳細な分析が必要であると考えられた。
  • 異常歩行における3次元動作解析装置による精度確認試験
    伊藤 実和, 村岡 慶裕, 才藤 栄一, 田辺 茂雄, 大塚 圭, 沢田 光思郎, 佐藤 明, 沢村 昌治, 古川 陽太, 花若 増生
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 536
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/05/09
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】臨床における歩行分析は,主観的な視覚観察が主流であり, 客観的指標としては,10m平地歩行などの歩数と所要時間から算出される平均歩行速度や健側・患側両足の平均歩幅などの指標が存在しているに過ぎない.臨床使用可能な簡便かつ客観的歩行分析法の開発が望まれている.我々は,小型ジャイロ付加速度計を用いた簡便で,多指標を算出できる歩行計測装置の開発を行っている.今回は,臨床応用の基礎実験として,異常歩行を想定し,本装置の精度確認実験を行った.
    【目的】正常歩行および臨床でみられる典型的な異常歩行において,開発中のジャイロ付加速度計を用いた歩行計測装置の精度確認を行う.
    【簡易歩行計測装置】 開発中の歩行計測装置は,足部に装着する小型ジャイロ付加速度計(42x13x36mm, 18g,電池含)と無線アクセスポイント(AP),解析用パソコンから構成される.小型ジャイロ付加速度計は,3次元の加速度と角速度をリアルタイムに計測し,データを無線APに送信する.解析用パソコンは,無線AP経由で取得したデータから,進行方向の加速度センサの3次元位置軌跡などを算出する.
    【方法】対象は,健常成人1名とし,靴の足背面に小型ジャイロ付加速度計を両面テープにて固定した.本装置の精度を確認する目的で,被検者の両側踵部と加速度計上面に反射マーカーを付着させ,3次元動作解析装置(以下VICON)にて計測を行った後,マーカーの座標を算出した.被験者には実験室内の歩行路を通常通り歩いた後,典型的な異常パターンにて歩行をするように指示した.正常歩行は,快適速度,最高速度での歩行,低速度での歩行を試行させた.異常歩行としては,トレンデレンブルグ歩行,股関節外転位,股関節外旋位,膝伸展位,反張膝,分廻し,骨盤挙上分廻し,膝のこわばり,クリアランス不良を伴う歩行とした.また片麻痺患者でよくみられる杖歩行,装具歩行,足尖接地歩行も試行させた.
    【結果】本装置とVICONより算出された進行方向の位置軌跡を比較した.両者の位置軌跡は,ほぼ類似していた.進行方向座標の相関係数は全試行の患側と健側で0.99より大きく,強い相関を示した.同様に左右方向座標の相関係数は,患者側で0.09~0.69,健側で0.02~0.65と試行によりばらつきがありほとんどの試行で相関が認められなかった.
    【考察】本装置とVICONから算出される左右方向座標の相関は弱いが,進行方向座標においては,強い相関が得られた.また,異常歩行においても進行方向座標は精度が高いことが確認された.本装置により得られた進行方向の3次元位置軌跡から歩行速度,歩数,左右分離された歩幅などを得ることが可能である.
  • 足部6リンクモデルを用いて
    上原 一将, 石井 慎一郎
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 537
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/05/09
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    近年、動作解析システムを利用した足部の詳細な運動学的特性の解析が行われている。(Leardini,1999・Mac Williams,2003)三次元動作解析システムにて足部の詳細な解析を可能にすることは理学療法評価、治療効果判定において有効である。本研究の目的は、足部を6リンクモデルとし、関節角度をパラメータとして測定における再現性を検討することである。
    【方法】
    被験者は健常男性6名、平均年齢は26.8±6.6歳を対象とした。測定装置は三次元動作解析システムVICON 612(VICON PEAK社製)を用いた。サンプリング周波数は120Hzとした。赤外線反射マーカー(9mm)は、第三趾爪、第一、第三、第五趾基節骨底、第一、第三、第五中足骨底、舟状骨、立方骨、踵骨隆起、腓骨筋滑車、載距突起に貼付した。足部の各Segment定義及び局所座標系はBody Builderを用いて実施し、立脚期の各Segment間の関節角度を算出した。測定方法は各被験者6回の測定を1セッションとし、第1セッション終了後休憩をとり、再度マーカーを貼付し第2セッションを行う方法で計測を実施した。算出された関節角度を基に以下の二項目について検討を行った。検討項目は(1)決定係数(Coefficients of multiple correlations:以下、CMC)(2)変動係数(Coefficient of variance:以下、CV)とした。CMCは、波形の類似性検討に広く用いられており、本研究では各セッション内でそれぞれのSegment間における関節角度を対象とした。CV(CV=SD/|mean|×100)は、時系列データにおける同位相での関節角度のばらつきを調査するため算出し平均化した。さらに第1セッションと第2セッション間でCVを比較検討するためWilcoxon testを用い統計処理を行った。(SPSS 11.0 J)有意水準は5%未満とした。
    【結果】
    (1)CMCは、中足部に対する第一列側足趾の底背屈で最大値0.97、最小値0.80。中足部に対する第5列側足趾の底背屈で最大値0.96、最小値0.89であった。その他Segment間における関節角度のCMCは低値を示した。
    (2)CVは、中足部に対する第一列側足趾の底背屈は第1セッション21.7±10.3%、第2セッション21.5±24.8%。中足部に対する第5列側足趾の底背屈は第1セッション25.3±16.0%、第2セッション14.6±5.9%を示し、セッション間のCVに有意差はみられなかった。
    【考察】
    研究結果から足部MP関節の矢状面のみ再現性を示したが、角度変化のばらつきは大きく、さらにセッション間のばらつきに関して統計学的に差はないものの、その変動は大きく測定再現性は決して高いものではない。原因としてskin movement及び足趾筋腱によるマーカーの揺れなどが考えられる。また足部における運動軸は斜位軸、長軸など様々であり、これらの運動軸を考慮した局所座標の定義が必要であると考えた。
  • 斉藤 琴子, 菅原 憲一, 田辺 茂雄, 丸山 仁司, 佐藤 慎一郎, 大村 陽子, 田口 直枝, 乙戸 崇寛, 藤本 鎮也
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 538
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/05/09
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    ヒトの歩行運動は多様なスピードで行われるとともにスピード変化も効率よく遂行される。理学療法場面ではリズム形成に障害を生じるパーキンソン病および脳血管障害を対象とし、リズム音や口頭によるリズムに合わせた歩行を行うことで歩行率改善を目的とした歩行練習が行われている。歩行時のリズム変化させた際の立脚期と遊脚期における時間の関係および筋出力については明らかにされていない。今回、リズムに同調して歩行パターンをさまざまに変化させたときの前脛骨筋と腓腹筋の筋活動量および時間を遊脚期と立脚期の比を求めて検討したので報告する。
    【方法】
    対象健常若年者4名(男性2名、女性2名)であった。対象者の平均年齢は21歳±0.9歳であった。いずれの対象も利き足は右であった。測定方法は電子メトロノームにより、70、80、90、100、110、120、130、140、150Hzの9種類のリズムを発信し、そのリズムに同調した歩行をさせた。歩行中の右下肢の前脛骨筋と腓腹筋の活動を表面筋電図にて記録した。また、同側の足底(踵部と第一中足骨底)にフットスイッチを装着し、筋電図に同期させ歩行周期を分類する指標とした.それぞれのリズム(スピード)時の遊脚期時間と立脚期時間の比(遊脚立脚時間比)を検出した。また、前脛骨筋、腓腹筋の筋活動量は、それぞれ積分し遊脚立脚iEMG比とした。筋電図はサンプリング周波数5kzで記録しAD変換しコンピュータに記録した。なお、リズムに同調し安定した15歩行周期をLabVIEW(NATIONAL INSTRUMENTS社)により解析を行った。統計処理には統計用ソフトウエア(SAS社Stat View5.0)を用いて回帰分析を行った。有意水準は5%とした。なお、被験者には研究の趣旨について十分説明を行い、同意の得られた後に施行した。
    【結果および考察】
    前脛骨筋、腓腹筋の各遊脚立脚iEMG比および遊脚立脚時間比と各リズムとの回帰分析を行った。その結果、腓腹筋、および時間のみ統計学的に有意な関係が認められた。腓腹筋の遊脚立脚iEMG比とリズムとの回帰式はy =-0.148x + 2.2483(R2 = 0.7319、p<0.05)また、遊脚立脚時間比とリズムとの回帰式はy=-0.4727x +8.3574(R2 = 0.7641,p<0.05)であった。
    腓腹筋は歩行スピード変化に応じて、筋収縮の割合を一定に変化させていることがわかった。さらに遊脚立脚時間比もリズムの変化に応じて、同様に変化しているいることがわかった。以上の結果から歩行リズム形成に関わる個人内のパラメータには共通なパターンが存在することが示唆された。

  • 小宅 一彰, 三和 真人
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 539
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/05/09
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    本研究では足趾を伸展位に固定し,足趾機能を除外した状態における重心の動きを床反力により測定する.また足趾の除外による代償がいかになされるかを関節モーメントから評価する.
    【方法】
    対象は同意を得た健常成人13名(男性6名,女性7名,平均年齢20.7歳,平均身長164.7cm,平均体重56.3kg)とした.足趾は伸張性のないホワイトテープを用い,ターミナルスタンスでいずれの足趾も足底面が床に接しない伸展角度で固定した.
    Force plateは2枚使用しそれぞれ1足の立脚相における床反力を記録した.三次元動作解析装置を用いて,イニシャルコンタクト(以下IC)の衝撃吸収に関わる足関節背屈,膝関節伸展,股関節外転の関節モーメントを測定した.床反力,関節モーメントは体重で正規化した.
    課題動作は5m歩行とし,足趾を固定せず快適歩行速度での歩行を正常群(以下N群),足趾を固定し快適歩行速度での歩行を足趾伸展群A(以下EA群),足趾を固定しN群の歩行率をメトロノームで再現した歩行を足趾伸展群B(以下EB群)の3群で測定した.各群は3試行し,床反力と関節モーメントを比較した.統計はANOVAを用い,Tukey-Kramerの差の検定を行った.有意水準は5%未満とした.また立脚相初期の床反力鉛直成分ピーク値と各関節モーメントの相関を求めた.
    【結果】
    IC直後に外側へ向かう床反力側方成分ピーク値の平均はN群0.33%,EA群0.48%,EB群0.48%であり,N群とEA群,N群とEB群にそれぞれ有意差(p<0.01,p<0.05)を認めた.立脚相初期の鉛直成分ピーク値の平均はN群103.2%,EA群107.4%,EB群111.4%であり,各群間で有意差(p<0.01)が認められた.立脚後期における床反力鉛直成分ピーク値はN群に比べEA群及びEB群で減少する傾向が見られた(平均値;N群103.3%,EA群A101.2%,EB群B101.8%).
    関節モーメントはいずれも各群間で有意差が見られなかったが,股関節外転及び膝関節伸展モーメントにおいて立脚相初期の床反力鉛直成分とわずかな相関が見られた(股関節外転:r=0.38,膝関節伸展:r=0.34).
    【考察】
    足趾は重心を反対側へ移動する役割と重心の落下を制動する役割を果たしていることが示された.
    臨床場面において,足趾屈曲筋群とともにICの衝撃吸収に関わる筋群の筋力低下が見られる場合,下肢や体幹の骨関節系にかかる負担が増大し関節疾患を招く可能性があると考えられる.
    今後は身体動揺についても解析し,足趾が歩行姿勢の制御機構にどのように影響するかを研究したい.
  • 池上 健太郎, 大畑 光司, 市橋 則明
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 540
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/05/09
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    体重免荷装置を用いたトレッドミル歩行(Body Weight Supported treadmill walking;以下BWS歩行)トレーニングが近年注目を集めている。この装置は上方からハーネスを用いて吊り下げ、下肢にかかる荷重量を減少させトレッドミル上で歩行させるものである。歩行障害を有する患者に対するBWS歩行トレーニングの有効性や運動生理学的影響に関する報告は数多くあるが、体重免荷量が足底圧(床反力の垂直分力)にどの程度影響を与えるか、また歩行速度に影響を受けるかを明確にした報告はない。本研究の目的は、BWS歩行時の体重免荷量が足底圧に及ぼす影響を明確にすることである。
    【方法】
    対象者は、本研究に同意を得た健常成人10名(男性5名、女性5名、平均年齢24.5±2.5歳、平均身長162.9±6.7cm、平均体重58.0±11.9kg)とした。体重免荷にはハーネス式の体重免荷装置(BIODEX社製アンウェイシステムBDX-UWS)を用いた。免荷量は体重の0%(FBW)、10、20、30、40、50、60%(10~60%BWS)に設定し、歩行速度は2km/hと4km/hとした。足底圧の測定には足底圧測定装置(パロテックメディカルテクノロジー社製Parotec System)を用いた。左立脚期データに対して時間の正規化を行い、立脚時間(SP)を100%として表し、10%SPごとに足底圧を測定し、免荷量の変化による左足底圧の変化を反復測定一元配置分散分析と多重比較により有意水準5%で比較した。

    【結果と考察】
    2km/hの場合、FBWと10%BWSを比較すると第1ピーク時(30~40%SP)で有意な減少が認められた。BWSレベルを上げていく程、床反力の第1ピーク時および第2ピーク時(70~80%SP)で体重免荷量付近まで足底圧の減少が大きくなるが、他の%SPではそれ程大きくならず足底圧曲線は平坦化していった。
    4km/hの場合、10~30%SPでのFBWと全てのBWSレベルを比較した時と40~90%SPでのFBWと20~60%BWSと比較した時は有意な足底圧の減少が認められたが、40~90%SPでのFWBと10%SPを比較した時は有意な減少が認められなかった。BWSレベルを上げていくとどの%SPでも有意に減少していき、特に第2ピーク時の減少率が大きくなった。しかし、その他の%SPでは減少率が上昇せず足底圧曲線は平坦化していった。
    歩行において床反力の第2ピーク時は重心が下方移動している時であり、ハーネスの上方への牽引力が身体の下方への重心移動を減少させ、第2ピーク時の減少率がより大きくなると考えられた。体重免荷によってどの%SPでも免荷量が等しいわけではなく、ピーク値での足底圧が減少しやすいということが示唆された。

  • 山崎 卓也, 江口 雅之, 原田 康隆, 長谷川 隆史, 後藤 純子, 杉山 統哉, 鈴木 康雄
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 541
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/05/09
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】動作解析を行う際,高価な機器や計測環境が必要となり,臨床の場面で容易に行うことは困難である.今回我々は,家庭用ビデオカメラと無料ソフトウェア,トレッドミルを用いて当院理学療法室で安価に簡便に動作解析を行う方法の検査者間再現性について検討した.

    【方法】対象は健常男性6名(平均年齢27.0±5.2歳,身長169.8±6.4cm)とし,検査者は色覚に異常のない当院理学療法士5名とした.本研究の趣旨を説明の上,同意を得た.家庭用ビデオカメラ(Panasonic社製NV-GS150)をトレッドミル側方から5m離し,床面から0.8mの高さに設置した.被験者は白色の伸縮性のズボンと靴をはき,右大転子部,膝関節,外果,第5中足骨頭に半径1.5cmの黒色マーカー用シールを貼った.立脚期の確認のためフットスイッチを使用し,上肢は前方で腕を組み,トレッドミル上を時速4kmで歩行した.歩行が安定した後,5歩行周期分の歩行データを測定した.撮影した動画をArea61(URL:http://www.area61.net)を用いてAVIファイル形式にてパソコンへ取り込み,AVI2JPG(URL:http://www.novolizatiion.hp.infoseek.co.jp/indexj.html)を使用し,静止画ファイルへ分割した.このとき動画ファイルより1歩行周期の範囲を選択し,サンプリング周波数30Hzにて静止画ファイルへ分割しJPG形式で保存した.踵接地,足底接地,足趾離地,遊脚中期時の静止画ファイルを選択し,画像解析ソフトImageJ(URL:http://www.bioarts.co.jp/~ijjp/ij)に取り込み,測定点のデジタイズ処理を5人の検査者に行わせた.この際マーカーを最大限に拡大し,最も黒い場所を測定点として選択させた.なお検査者はお互いの処理操作をみることができなかった.得られたデータを表計算ソフトに読み込み平均膝関節角度,足関節角度計算を行った.角度は静止立位時の角度をゼロとして計算した.各関節角度より級内相関係数(以下,ICCと略す.)を求め,有意水準5%とした.予備実験として2人の検査者に5点のデジタイズ処理を1日に1度ずつ2日間行わせ、測定点の値が同一であることを確認した。

    【結果】検査者間のICC(2,1)の一例を示す.膝関節では踵接地時0.964(下限値0.886,上限値0.994),足関節では0.978(下限値0.914,上限値0.970)であり,他も同様に高い再現性が得られた.

    【考察】現在臨床では視覚による動作解析が主に行われており,安価で簡便な動作解析法が望まれている.今回の動作解析では比較的安価で簡便な装置を使用し,高い検査者間再現性を得ることができ,今後臨床応用が期待される.

    【まとめ】
  • 速い歩行速度における解析
    中俣 孝昭, 畠中 泰彦
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 542
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/05/09
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】高齢者の転倒は大腿骨頸部骨折などを生じ、寝たきりの直接的な原因となる事が多く、大きな社会問題となっているが、転倒時に直接的に関与する要因に着目した理学療法はほとんど行われていない。我々は第40回理学療法学会において自由歩行における足部スリップ時の運動力学的解析を行い転倒の回避には足関節背屈モーメント、股関節伸展モーメントが転倒予防に関して重要であると報告した。人の姿勢調節においては緩徐な姿勢制御と急激な素早い反応での姿勢制御戦略は異なるといわれている。今回は速い速度で歩行路を歩行させ、足部のスリップが生じた時の転倒、非転倒時の運動特性を力学的に解析することを目的とした。
    【方法】実験は本学倫理委員会の了承を得て行った。実験の目的および方法を説明し同意を得た健常男性32例(22.3±2.5歳)を対象とした。プロテクタを装着しマーカを貼付した被験者を歩行させた。歩行時のスリップを誘発するため、シリコンオイルを塗布した塩化ビニル板を歩行路の床反力計上に貼付し、被験者に塩化ビニル底の靴を装着させた。スリップ動作は三次元動作解析装置(VICON社:VICON612)、床反力計(AMTI社:OR6-6)5枚を用い、取り込み周波数120Hzで計測し、滑走足部の速度、関節角度、関節モーメント、関節モーメントのパワーを算出した。算出した各パラメータを転倒した群(以下、転倒群)、転倒しなかった群(以下、非転倒群)の足部接地時、0.1秒時、0.2秒時において比較した。
    【結果】転倒群11例、非転倒群10例であった。進行方向への足部速度は非転倒群に比較し転倒群では0.2秒時に増加していた。転倒群の関節可動域は足関節では0.1秒時から0.2秒時で底屈が大きく、股関節においては0.2秒時で屈曲角度が大きかった。各関節モーメントには差がみられなかった。股伸展モーメントから大腿へのパワーでは非転倒群に比較し転倒群においては0.1秒時、0.2秒時で減少していた。
    【考察】足部接地後0.1秒以降の股伸展モーメントから大腿へ及ぼすパワーは、非転倒群では大きく求心的に発生することにより足部の前方滑走に対し拮抗するよう作用し骨盤及び体幹などの質量が大きい部位を支持基底面内に納めることで立ち直ったと考えた。一方、転倒群においては小さな求心性パワーから遠心性のパワーに推移するため、足部の滑走に伴い股関節の屈曲角も増加し、足部と重心間の距離も大きくなり転倒したと推察した。今回の結果では足、股関節モーメントではなく、股関節モーメントのパワーに差が生じたことから、股関節の筋の即応性が重要と考えられるが、早い反応に追従するための股関節や骨盤および腰部脊柱の可動性や柔軟性も求められる。また、このような速い速度での転倒は活動性の高い高齢者に生じやすいが速い筋収縮を要求することは難しく生活環境等に対する対応が必要と考える。
  • 滝澤 恵美, 岩井 浩一, 伊東 元
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 543
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/05/09
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    本研究の目的は、異なる経験年数の理学療法士が高齢者の歩行を主観的に評価した際の結果の一致性を調べ主観的評価の信頼性を検討することである。
    【方法】
    免許取得から2~17年(平均経験年数8.2±5.2年)の理学療法士9名が評価者となり、65歳以上の高齢者21名の10m歩行の様子を主観的に評価した。評価対象となる高齢者は体力測定への参加を希望した者であり、基本的な体力テストおよび記録紙上での10m自由歩行テストを実施した。その際、歩行の様子をDVカメラで前額面と矢状面から撮影した。理学療法士は、編集されたビデオデータを通常の再生スピードで観て、歩行に関連する6項目(「変動性」「推進力」「歩隔の広さ」「ふらつき・よろめき」「転倒リスク」「運動指導の必要性」)について主観的に5段階で評価した。5段階評価は、まず3を評価開始点として、質問項目に対しての主観的評価が良好の場合は4もしくは5に、不良の場合は2もしくは1に印をつけるように説明した。質問に対しての評価が良好でも不良でもなく判断しがたい場合は、3に印をつけてもらうようにした。評価項目毎に、理学療法士9名の評価者間信頼性は級内相関係数ICC(2.1)で検討した。
    【結果】
    理学療法士が、ビデオデータを観ながら21名の高齢者に対して6項目5段階の主観的な評価を行うのに要した時間は30分程度であった。ICC(2.1)の結果、「推進力(r=0.65)」、「転倒リスク(r=0.67)」、「運動指導の必要性(r=0.67)」、「ふらつき・よろめき(r=0.56)」の4項目は、信頼係数が0.6程度となった。一方、「変動性(r=0.41)」、「歩隔の広さ(r=0.35)」は信頼性係数が0.6以下と低く、評価者間のばらつきが大きい結果となった。
    【考察およびまとめ】
    宮崎ら(1983)は、脳卒中片麻痺患者を対象に床反力計から得られたデータと医療従事者による視覚評価の関係について調べ、視覚による評価は評価者によるばらつきを見せ、臨床経験変数の長さによる評価の結果に大きな差はなかったとしている。高齢者を評価の対象とした本研究では、臨床場面でセラピストが話題にしやすい「歩隔の広さ」において宮崎らと同様の結果が得られ、理学療法士間で評価が異なることが示唆されたが、「推進力」、「転倒リスク」、「運動指導の必要性」、「ふらつき・よろめき」については、理学療法士であれば主観であっても経験年数によらず一致された判断ができることが示唆された。
  • 倉吉 真吾, 中島 新助, 村田 伸
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 544
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/05/09
    会議録・要旨集 フリー
    【背景と目的】当院では近隣の小学生から高校生におけるスポーツ選手を対象に、障害予防を目的としたスポーツ外来を実施している。これまでに我々はスポーツ外来の実態調査を行い、スポーツ障害と関連のある評価項目の検討の必要性を報告してきた。今回、当院における地域スポーツ活動支援の一環として、高校生を対象にメディカルチェックを実施し下肢柔軟性評価の検討を行った。
    【方法】対象は県立高校2校の男子生徒98名、年齢は平均16.1±0.9歳、その内訳はA高校サッカー部56名、B高校野球部42名である。柔軟性の評価には、「SLR」、「長坐位での体幹前屈」、「背臥位にて一側下肢屈曲位での他側下肢の伸展」、「側臥位での股関節外転」、「坐位での股関節外旋」、「腹臥位での股関節内旋」の6項目を行った。判定は自動運動での可動域を当院で考案した3段階の判定基準に基づき点数化した。「SLR」の判定は90°以上で静止(2点)、70°以上で静止(1点)、それ以下(0点)とした。「長坐位での体幹前屈」の判定は胸が大腿部につく(2点)、両手でつま先を握れる(1点)、両手がつま先に達しない(0点)とした。「背臥位にて一側下肢屈曲位での他側下肢の伸展」の判定は伸展した下肢の膝が床に着く(2点)、膝が拳1つ未満浮く(1点)、拳1つ以上浮く(0点)。「側臥位での股関節外転」の判定は、45°以上で静止(2点)、30°以上で静止(1点)、それ以下(0点)とした。「坐位での股関節外旋」の判定は座位、両膝を屈曲した状態で両足底を合わせ、大腿部を床面に着ける(1点)、さらに体幹を前屈させて両肘が床に着く(2点)、開始姿位がとれない(0点)とした。「腹臥位での股関節内旋」の判定は腹臥位、膝90°屈曲位で股関節を45°以上内旋できる(2点)、30°以上(1点)、それ以下(0点)とした。なお、評価実施の際にはスタッフが口頭や動作にて指示を与えて、各選手自身に実施させた。それぞれの評価項目に対して左右2点ずつ、満点が計4点として、分散分析ならびにScheffeの多重比較検定によって柔軟性得点を比較した。
    【結果】各得点の平均値は「SLR」:1.9±1.2、「長坐位での体幹前屈」:1.9±1.2、「背臥位にて一側下肢屈曲位での他側下肢の伸展」:1.3±1.2、「側臥位での股関節外転」:2.7±1.2、「坐位での股関節外旋」:1.8±1.7、「腹臥位での股関節内旋」:1.8±1.4であった。それぞれの得点を比較すると「一側下肢屈曲位での他側下肢の伸展」が他の得点より有意(p<0.01)に低く、「側臥位での股関節外転」が他の得点より有意(p<0.01)に高かった。
    【考察】今回、当院で考案した下肢柔軟性評価尺度を検討した結果、評価基準の難易度に差が認められ、判定基準に修正すべき課題が残された。学会当日には評価方法をわかりやすく解説するとともに、他の身体能力データとの関連などについても報告する予定である。
  • 男女差による比較・検討
    生友 聖子, 島野 幸枝, 松田 史代, 池田 恵子, 川﨑 一弘, 宮崎 雅司, 山﨑 芳樹, 吉田 義弘, ...
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 545
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/05/09
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    スポーツの各場面において選手は刻々と変化する状況を瞬間的に判断しながら体を動かす。このスポーツに重要な『視る能力』とスポーツの関係を、統合的に研究する学問をSports Vision(以下SV)という。先行研究では、男性のSVは女性よりも全体的に優れているとの報告がある。しかし、これは対象が不特定多数の競技者であり、特定競技の同等競技力レベルの男女を対象とした報告はない。今回、全国でもトップレベルの実力を有する高校男女サッカー部員のSVを調査し、同一種目競技者間の男女差について比較・検討を行なった。


    【方法】
    対象は、K県内の高校サッカー部に所属する経験年数3年以上の男子31名(経験年数:10.45±1.84)、女子24名(経験年数:8.38±2.67)である。測定項目は、スポーツビジョン研究会の報告に準じて、静止視力、縦方向の動体視力であるKVA動体視力、横方向の動体視力であるDVA動体視力、眼球運動、深視力、瞬間視、眼と手の協応運動の7項目とし、特にDVA動体視力は右回転と左回転、深視力は指標が近づく場合と離れる場合に分けて測定した。また、測定は競技を行う際の眼の状態(裸眼、コンタクト、眼鏡)で行った。統計手法は、対応のないt検定(p<0.05)を用いた。



    【結果】
    DVA動体視力は右回転・左回転共に男性群が女性群と比較し有意に優れていた。また、指標が近づく場合の深視力と眼と手の協応動作で男性群が女性群に比較し優位である傾向にあった。一方、眼球運動では女性群が男性群に比較し有意に優れており、指標が離れる場合の深視力と瞬間視で女性群が男性群に比較し優位である傾向にあった。


    【考察】
    今回、高校生サッカー部員の男女間比較では、DVA動体視力、眼球運動において両群間に有意差がみられた。先行研究においては、視機能は全体的に男性が優れているとされ、今回の研究でも、特にDVA動体視力において有意に男性が女性より優れていた。同等競技年数でトップレベルの選手間においても、先行研究と同様に男女差が見られたことから、これは運動習慣の差異ではなく生得的な原因によるものではないかと考えられる。また、眼球運動に関しては女性が有意に男性より優れており、先行研究と異なる結果が得られた。このことから、女性は跳動的に動く像を正確に目で追う能力は男性よりも優れているが、動いている像がどのようなものかを識別する能力は男性より劣っている可能性が示唆された。今後、男女間のみならず、種々の競技間での比較・検討なども行い、スポーツビジョンの分野をさらに追求していきたい。

  • インサイドキックに着目して
    竹内 明禅, 高松 真理子, 竹内 直人, 用皆 正文, 中村 裕樹
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 546
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/05/09
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】サッカーにおいてキックの技術は重要かつ最も基本的な技術である。その中で、インサイドキック(以下、IK)は他のキックより膝関節等の動きがさほど関与しない為、股関節の可動性が重要なキックであると考えられている。しかし、股関節筋力とキックスピードの関係についての報告はあるが、関節の可動性とスイング速度の関係についての報告は少ない。
    今回、3次元動作解析装置を用いて股関節の可動性とキックスイング速度との関係について研究し、若干の知見を得たので考察を加え報告する。
    【対象と方法】対象は下肢に問題がない鹿児島県社会人サッカーチームに所属する選手30名(男性)とし、平均年齢25±2.9歳、蹴り足:右側24名・左側6名であった。方法として関節可動域(以下、ROM)訓練前後で蹴り足側の股関節のROMをゴニオメーターにて実測した。ROM訓練は関節運動力学における関節内運動を考慮して実施した。次に超音波式3次元動作解析装置(Zebris社製)を用いてIK時のスイング速度を訓練前後2回ずつ計測し、平均値をデータとした。キック動作はワンステップとし、ボールからの距離を計測して助走距離を同じにした。以上より訓練前後での股関節の可動域とスイング速度を対応のあるt検定を用い比較検討し、股関節の可動域の変化とスイング速度の変化値をピアソンの積率相関分析を用いて分析した。
    【結果】1.スイング速度及び股関節の可動域は訓練前と比較して訓練後が有意に増加した(p<0.01)。2.股関節外旋・屈曲の可動域のみスイング速度の変化した値に高い相関を認めた(r=0.82・0.72)。
    【考察】まず、布目によるとIK時に股関節の伸展・外旋・屈曲・内旋とういう連動した動作をスムーズに行うことでスイング速度を早めることができ、可動域の向上とスイング速度は比例するとある。今回の結果から股関節の可動性を改善することで運動を円滑に行うことが可能となり、バックスイング期からフォロースルー期までの一連のスイング動作がスムーズになったと考えられ、関節の量的な改善はスイング速度に影響することが示唆された。
    また、IKの蹴り方は加速期に股関節外旋を行うことで足部内側をボールに合わせる。その後、フォロースルー期までボールに対して前方への速度を与える為にはこの外旋を維持したまま股関節を屈曲していく必要がある。結果2からも股関節外旋・屈曲がスイングスピードへの関与率が高いことが推察される。
    今回、3次元動作解析装置を用いてサッカー選手に対する股関節の可動性とスイング速度との関連性を客観的数値より検証した。そこで、筋力に対するアプローチ以外にも関節の可動性を向上させることでスイング速度が増加することが分かった。今後は、可動域だけでなく神経・筋力の関与も考慮しつつスイング速度が向上する方法を検討する必要があると考える。


  • キック動作における運動イメージの調査 第4報
    金森 宏, 山本 尚司
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 547
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/05/09
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】動作の獲得に運動イメージは重要な要素であり,特に動作を指導する立場において言語がつくる運動イメージは重要である.我々は先の第39~41回日本理学療法学術大会において,サッカーにおけるキック動作より,目的のある言語から表出される運動イメージを調べた.前回までの結果より,運動イメージの特徴として,年齢をおうごとに運動イメージが多様化する傾向があることを報告した.今回,中学生における調査を追加して行い,前調査との比較,検討を行った.結果,若干の知見が得られたのでここに報告する.
    【方法】「おもいっきりボールを蹴る」という動作を,実際の運動は行なわずに運動イメージを評価する質問紙により調査した.質問紙の内容は左右の肩,肘,手,股,膝,足部の12部位を5項目7段階(「力を入れる - 入れない」「強く - 弱く」「早く - 遅く」「まわす - 止める」「大きく - 小さく」)で自己の運動イメージをもとに記入する.対象は同意の得られたサッカーの競技経験が有る中学生52名(すべて男性,平均年齢13.5才,ボールを蹴る側を右と答えた).得られたデータに因子分析を行い,解析方法はExcel統計2002 for Windows (R)を用いた.因子分析は共通性の推定に相関係数の最大を用い反復推定無しで行った.得られた因子にはバリマックス回転と基準化を行った.
    【結果】因子分析の結果,固有値が1.0以上なのは第11因子まで,累積寄与率が60%を超えたのは第8因子からであった.回転後の固有値表より因子寄与率は第1因子12.42%,第2因子11.91%,第3因子10.75%,第4因子7.41%,第5因子5.95%,第6因子5.34%,第7因子4.66%,第8因子3.18%であった.
    【考察】因子負荷量より意味のありそうな因子は第8因子までであり,第1因子を「両手首の力強く素早い運き」,第2因子を「右肘肩の力強くて大きく素早い運き」,第3因子を「右股膝の力強くて大きく素早い動き」,第4因子を「左下肢の大きく回転をする動き」,第5因子を「左肩肘の力強くて大きく素早い動き」,第6因子を「左肘の力強く素早い回転をする動き」,第7因子を「右足首の大きく素早い回転をする動き」,第8因子を「右膝の力強くて大きく回転をあらわす動き」の因子であると解釈した.
    前調査との比較より全体的な因子の傾向は,どの年代でも似たような傾向を辿ることが言える.また,ボールと対象物の関係をもつ右足において,どの年代よりも因子が小さい割合で示された.運動イメージは発達や成長,運動経験をともなうことで,より多様化して言語表出される可能性が有る.
    【まとめ】言語と運動イメージの関係を研究することは,動作を学習させる為のツールとして,言語がもつ意味の重要性を考える必要がある.今後も追跡調査や統計的手法の改善を行いたい.
  • 3rd内旋に着目して
    岡邨 直人, 遠藤 剛, 山本 智章, 相馬 俊雄, 田中 正栄, 西野 勝敏
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 548
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/05/09
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】肩関節90°屈曲位(以下,3rd)での内旋ストレッチングは投球障害肩に推奨されており,3rd内旋可動域の低下は肩関節後方構成体の伸張性低下を示していると報告されている.そこで我々は少年野球投手のメディカルチェックと投球動作の三次元動作解析を行い,3rd内旋可動域と肩関節90°外転位(以下,2nd)内外旋可動域および投球動作中の最大内外旋可動域との関係について検討することである.

    【対象および方法】少年硬式野球チームに所属する右投投手36名(年齢:11.5±0.5)(平均±標準偏差)にメディカルチェックを行い,3rd内旋可動域20°未満の群(A群:8名,9.1±8.5°),30°以上の群(B群:10名,34.0±4.3°)の2群に分けた.2nd内旋および外旋可動域の測定は,ゴニオメータを使用した.また,投球動作中の最大内外旋可動域の測定は,三次元動作解析装置(Vicon612,計測周期250Hz)とハイスピードカメラ(撮影周期250Hz)を用い,肩関節最大外旋時の肩外旋可動域(MER外旋)と肩関節最大内旋時の肩内旋可動域(MIR内旋)を算出した.2nd内旋および外旋可動域とMERとMIRの最大内外旋可動域を2群間で比較検討した.統計は,対応のない2群間のt検定を行い,有意水準を5%以下とした。

    【結果】2nd内旋可動域において,A群は37.9±9.4°,B群は56.7±13.3°でA群はB群に比べ有意に低値を示した(p<0.01).2nd外旋可動域はA群で139.5±10.4°,B群で139.7±15.9°であり,有意差はみられなかった.また,投球動作中のMER外旋可動域は,A群で179.8±12.0°,B群で160.7±14.3°であり,A群はB群に比べ有意に高値を示した(p<0.01).MIR内旋可動域はA群で21.8±7.3°,B群で30.4±12.8°であり,A群はB群に比べ低い傾向にあった(p<0.1).

    【考察】結果より,3rd内旋制限のあるA群が,2nd内旋および投球時のMIR内旋可動域に対して低値を示していることから,それぞれの肢位に肩後方軟部組織の柔軟性低下による制限が起こっていると考えられる.さらに投球時,内旋制限があることで肘関節の負担増加や内旋時の上腕骨頭の前上方偏位が起こり,投球障害肩および肘が発生しやすくなると考えられる.外旋では両群の2nd外旋可動域の変化がないのに対し,投球時ではA群が有意に増加していた.これは投球時には他動的可動域とは異なる力が加わっていた可能性があり,後方軟部組織の柔軟性低下から,骨頭の後上方偏位や生理的可動域範囲を超えた関節内運動が起こっていたと考えられる.以上から,投球障害を予防するためにも肩後方軟部組織の柔軟性の評価および改善が必要であると考える.
  • 高崎 恭輔, 大工谷 新一, 嘉戸 直樹, 藤波 良嗣, 鈴木 俊明
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 549
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/05/09
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】これまで野球の投球動作の研究は、ほとんどがオーバースローの研究でありアンダースローに関する報告はみられない。今回我々は、アンダースロー投手に対して動作指導を行いパフォーマンスが向上した症例を経験した。そこで今回の動作指導の効果を三次元動作解析装置を用いて検討し、今後アンダースローの技術指導の一助にしたいと考える。
    【症例紹介】症例は社会人軟式野球のクラブチームに所属する右投げアンダースロー投手(20歳男性)である。本投手のパフォーマンス上の問題点としては、右打者内角直球の球威が乏しく、カーブ、スライダーなどの変化球が右打者の外角に大きく外れることが多いことが挙げられた。また、医学上の問題点として、登板回数が重なるとコッキング期からアクセラレーション期にかけて右肩関節前方部に疼痛が出現することも挙げられた。
    【動作分析】本投手の投球動作上の問題点として、コッキング期で右(投球側)肘関節屈曲が乏しいため、体幹回旋軸からボールまでの距離が遠いことが挙げられた。そのため体幹回旋軸からボールまでのレバーアームが長くなり、投球時の体幹回旋運動により肩関節前方部に強い伸張ストレスが生じると考えた。本投手ではこのストレスを回避する手段としてコッキング期での体幹右回旋を減少させており、そのためアクセラレーション期で「左肩が早く開く」現象が生じていた。アンダースローでは身体の水平面上の回旋力が球威を左右すると考える。内角球を投じる時はややリリースポイントを早める必要があるが、本投手はコッキング期の体幹右回旋が不足しているため内角球のリリースポイントで十分な回旋力が得られないと考えた。また変化球が内角に制球できない原因も後方でのボールリリースが困難なためだと考えた。そこで今回コッキング期に、意識的に右肘関節を屈曲するよう動作指導を行い、指導前後の投球動作の変化を三次元動作解析装置UM-CATII(ユニメック)を用いて検証した。解析項目としては、コッキング期からアクセラレーション期移行時の右肘関節屈曲角度、右肩関節水平伸展角度、水平面上で投球方向を基本軸0°としたときの体幹右回旋角度、骨盤右回旋角度を算出した。
    【結果】動作解析の結果、右肩関節水平伸展は59.6°から58.9°と変更前後で変化がなかったが、右肘関節屈曲が22.6°から38.0°へ、体幹右回旋が17.4°から25.3°へ、骨盤右回旋が‐12.8°から‐4.3°へと増大した。また、投手本人ならびに普段捕球している捕手の印象を聴取したところ、右打者内角直球の球威の増加、変化球の制球力向上がみとめられ、右肩関節前方部の疼痛も出現しなくなった。
    【まとめ】本結果より、コッキング期での肘関節屈曲増大により体幹・骨盤の右回旋が増大し、「左肩が早く開く」現象を修正できたため、本投手が求めるパフォーマンスを獲得できたことが確認された。
  • けがの予防を目指して その3
    川上 榮一, 土屋 正光
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 550
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/05/09
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    コンタクトスポーツで前方推進力を十分に発揮させるには下肢の筋力のみでなく、コンタクト部位の支持性が重要である。相撲の場合は主に上肢・頚部・体幹であり、下肢の筋力が強くてもコンタクト部位の支持性が弱ければ十分な推進力とはならないと考える。今回、頚部前後屈筋力について膝屈伸筋力・体重を比較検討した。その結果、力士の筋力特性について一知見を得たのでここに報告する。
    【対象者と方法】
    日本相撲協会A部屋所属の十両から序の口までの力士24名(年齢22±4.9歳・体重129±21.6kg)の膝屈伸筋力をCybex6000、頚部前後屈筋力をPower TrackIIを用いて測定した。Cybexでは通常の膝屈伸筋力測定方法に準じで測定を行い、測定角速度は0°(膝屈曲位70°)、60°、180°、300°deg/secである。0°deg/secでの伸筋ピークトルク値が優位な脚の各ピークトルク値を検討値とした。Power TrackIIでは力士の筋力に対応するために昇降式テーブル裏にセンサーを取り付け、前屈は臥位の対象者の額中央、後屈は後頭部中央にセンサーが隙間なく当たるように設定した。重力に抗して前屈、後屈の等尺性筋力を2回測定し、その平均値を検討値とした。
    【結果】
    1.頚部前屈筋力は膝伸筋力と正の相関が見られた(p<0.05・伸展60°deg/secのみp<0.1)。2.頚部後屈筋力は膝伸筋力と正の相関が見られた(p<0.05)。3.頚部前後屈筋力は膝屈筋力と一部(屈曲300°deg/secのみp<0.05)を除き相関が見られなかった。4.体重と頚部前後屈筋力には正の相関が見られた(前屈筋p<0.1・後屈筋p<0.05)。5.体重と膝屈伸筋力には相関が見られなかった。6. 前方推進力に関与すると思われる体重と膝伸筋力の和と頚部筋力には高い正の相関が見られた(前屈筋p<0.02・後屈筋p<0.01)。
    【考察】
    前方推進力と考えられる膝伸筋力と体重はコンタクト部位である頚部筋力と相関があった。この結果はコンタクト部位の支持筋力と前方推進力としての膝伸筋力・体重の重要性を物語っている。しかしながら、対象者が変わっても前回報告同様に体重と膝屈伸筋力には相関がなく、前回報告した膝伸筋力は160kgの力士がピークであったことを考えると、体重の重い力士ほど前方推進力は膝伸筋力ではなく、体重に頼っていると言わざるを得ない。番付別平均体重は上位ほど重くなる。番付を上げるために、安易に体重を増やすことは危険であり、同時に自重に見合った膝筋力、頚部筋力の強化が必要であることを再確認できた。
  • 運動強度とエネルギー消費量について
    宅間 豊, 宮本 謙三, 井上 佳和, 宮本 祥子, 竹林 秀晃, 岡部 孝夫, 滝本 幸治
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 551
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/05/09
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】足踏み式室内運動器(以下,ステッパー)は,室内で簡便に使用できる運動用具である。この運動用具はスポーツ用品店や通信販売で容易に購入できることに加え,使用にあたっては天候に影響されないことやテレビを鑑賞しながら行えることなど,室内用具ならではの利点も多いため,愛好者も少なくないようである。ステッパーを用いる足踏みは下肢を主体とする律動的な全身運動になるため,ウォーキングに近似した運動様式とみなせるが,その特性や効果に関しては明らかではない。そこで,トレッドミル歩行との比較によって,ステッパーによる足踏み運動の特性を調べることを目的とした。
    【方法】被験者は実験に同意の得られた男子学生6名であった。ステッパーによる足踏み(以下,ステッパー群)とトレッドミルによる歩行(以下,トレッドミル群)は,それぞれ3分間の立位保持後に15分間行った。ステッパー群は快適歩行をイメージした足踏みの頻度,トレッドミル群は快適速度による水平歩行を条件とした。なお,被験者全員がステッパーとトレッドミルの両方を異なる日に行った。運動強度は呼吸代謝測定装置(チェスト社)によってMETSを求め,また大腿四頭筋と下腿三頭筋の主観的運動強度(RPE)もBorg Scaleにより測定した。エネルギー消費量は酸素摂取量からカロリー消費量を求め,また運動量として15分間の総歩数も測定した。
    【結果】平均METSは,運動前立位および運動時3・6・9・12・15分目の各時点においてステッパー群で各々1.3・3.1・3.2・3.6・3.6・3.4 METS,トレッドミル群で各々1.4・4.3・4.2・4.4・4.6・4.4 METSを示し,繰り返しのない二元配置分散分析と多重比較検定の結果,両群共に運動時は運動前立位に比べ有意に高い強度を示した(p<0.01)。各時点でのMETSの2群間比較では,対応のあるt検定の結果,いずれも有意差を認めなかった。運動終了時の下肢RPEの中央値は大腿四頭筋がステッパー群で12.5,トレッドミル群で11,下腿三頭筋がステッパー群で13,トレッドミル群で12を示し,Wilcoxonの符号付順位検定の結果,どちらの筋も2群間に有意差を認めなかった。一方,平均カロリー消費量はステッパー群で54.5kcal,トレッドミル群で70.3kcal,平均総歩数はステッパー群で1180.8歩,トレッドミル群で1696.5歩となり,対応のあるt検定の結果,2群間において総歩数では有意差(p<0.05)を示したが,カロリー消費量では有意差を認めなかった。
    【考察】今回の実験条件では,ステッパー群の生理的および主観的運動強度とエネルギー消費量がトレッドミル群のそれらと同等であることが確認できた。よって,ステッパーによる足踏み運動は快適速度によるウォーキングの代用運動として期待できるかもしれない。
  • 性差および年代別の比較
    村田 伸, 大山 美智江, 大田尾 浩, 村田 潤, 豊田 謙二, 藤野 英巳, 弓岡 光徳, 武田 功
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 552
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/05/09
    会議録・要旨集 フリー
    【背景と目的】「ヒト」が安定した立位での活動を行うためには、足の把持機能が重要になる。足の把持機能、とくに足把持力は高齢者の転倒との関連性からその重要性が報告されている。しかしながら、その性差や年代別の比較に関する報告は少ない。そこで今回、65歳以上の地域在住高齢者189名について足把持力を測定し、性差や年代別に比較検討したので報告する。

    【対象と方法】福岡県福智町に居住し、地域のミニデイサービス事業に参加している65歳以上の地域在住高齢者192名のうち、Mini-Mental State Examination(MMSE)で15点以上の189名(男性49名、女性140名、年齢平均74.9±5.9歳)を対象とした。調査はMMSE、足把持力と握力の測定、要介護認定と定期的な運動の有無の聞き取りを行った。足把持力と握力の測定は左右2回ずつ測定し、最も値の大きかったものを測定値とした。統計処理は足把持力と握力について、性別、要介護認定と定期的な運動の有無別の比較には対応のないt検定を用い、年代別の比較には一元配置分散分析およびScheffeの多重比較検定を行った。なお、足把持力に性差が認められたため、性差以外の検討は女性(140名)のみを対象に分析した。

    【結果】足把持力には性差(男性:8.8±3.5 kg、女性:5.7±2.3 kg)が認められ(p<0.01)、握力にも性差(男性:30.3±6.0 kg、女性:20.3±4.1 kg)が認められた(p<0.01)。要介護認定の有無別(有:26名、無:114名)および定期的な運動の有無別(有:65名、無:75名)に足把持力(要介護認定、運動ともにp<0.01)、握力(要介護認定:p<0.01、運動:p<0.05)ともに有意差が認められ、要介護認定を受けていない者、定期的な運動を行っている者が有意に強かった。年代別(65-69歳:30名、70-74歳:36名、75-79歳:36名、80-84歳:32名)の比較では、足把持力に有意な群間差(F=7.88, p<0.01)が認められ、80-84歳の群は他の年代と比較して有意(p<0.01)に弱く、65-69歳の足把持力の64.0%であった。握力にも年代別に有意な群間差(F=7.57, p<0.01)が認められ、65-69歳の群は他の年代と比較して有意(p<0.01)に強かった。なお、80-84歳の握力は65-69歳の80.8%であった。

    【考察】本研究の結果から、足把持力は握力と同様に性差、運動習慣、要介護認定の有無別に差があることが確認された。また、加齢に伴い徐々に筋力弱化が認められるが、とくに80歳以上で足把持力の低下が著しいことが見出された。これらの知見から、80歳以上の高齢者では転倒のリスクが高くなること、また、定期的な運動によって足把持力の弱化を防ぐ可能性が示唆された。
  • 杉本 諭, 松岡 良幸, 小林 正宏, 丸谷 康平, 中城 美香, 前田 和之, 今関 紗希, 丸山 薫, 吉田 由美子, 佐藤 恵, 前田 ...
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 553
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/05/09
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】自転車エルゴメーター駆動やトレッドミル歩行は全身持久力の向上だけでなく、ADL諸動作に必要な身体運動機能の改善にも影響を与えると考えられる。しかしこれらの運動は、負荷に対する一定リズムでの随意運動の継続が必要であり、活動性のあまり高くない者では速度やリズムを追随できないため利用困難なことが多い。最近では転倒防止用の牽引装置とトレッドミルを用いた歩行練習も試みられているが、装置が大規模であり、また下肢の振り出しがある程度可能な者に限定される。今回自動的にペダルが回転するエルゴメーターを用いて速い回転数での下肢駆動練習を行ない、身体運動機能に与える影響について検討した。
    【対象および方法】対象は少なくとも屋内歩行が自立している通所リハサービスの利用者29名で、男性8名、女性21名、平均年齢は84.3±6.4歳であった。主な既往疾患は、脳血管障害5名、骨関節疾患14名、神経疾患2名、心疾患3名、廃用症候群5名であった。なお検査や下肢駆動練習に支障となるような理解障害、下肢運動機能に著明な左右差を有する者は対象から除外し、対象者には同意を得て行なった。下肢駆動練習にはメディカ社製セラバイタルIIを用い、毎分55回転の速さで自動的に駆動するように設定した。被験者の足部をペダルに固定し、できるだけ装置の駆動に合わせるように下肢駆動を促した。駆動練習は10分間、週2回、2ヶ月間行い、介入前、介入1ヶ月、2ヶ月および介入終了後1ヶ月の4時点で評価を行った。評価項目は歩行能力(10mの快適および最速歩行時間)、バランス能力(Timed up and go test:TUG、Functional balance scale:FBS)、下肢筋力(膝伸展、股関節外転)とした。下肢筋力はアニマ社製筋力測定器μTasF-1を用いて等尺性筋力を測定し、左右平均を測定値とした。これらの評価項目の介入前後の違いについて、フリードマン検定および多重比較を用いて比較検討した。また介入後の持続効果を検討するため、介入2ヶ月後と介入終了後1ヶ月の違いについてウィルコクソンの符号付順位和検定を用いて検討した。また対象の歩行自立度の違いによる影響を考慮し、屋外独歩群、屋外杖歩行群、屋内歩行群に分類し、全症例および歩行自立度別に分析した。
    【結果および考察】全症例での検討において介入前後に有意な変化のみられた項目の中央値を介入前、介入後1ヶ月、2ヶ月の順に示すと、FBSでは46、49、49、膝伸展筋力では34.5、34.7、35.7と介入前に比べて介入後に有意に高かった。歩行自立度別の検討では屋外独歩群のFBS、膝伸展筋力、股関節外転筋力、屋内歩行群のFBSが介入後に有意に高かった。また介入2ヶ月後と介入終了後1ヶ月の比較では、いずれの項目においても有意な違いは見られなかった。以上の結果より、持続的に自力駆動が困難な速さでの下肢駆動練習は、身体運動機能の改善の方法として有用な治療手段の1つである可能性が示唆された。

  • 恒屋 昌一, 芝山 江美子, 南里 有希, 吉沢 昌宏, 山西 加織, 臼井 永男
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 554
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/05/09
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】筆者らは,足趾接地について独自の判定法を開発し,それをもとに,地域在住の健常な青壮年者を対象に直立時の足趾接地の実態等について本学会に報告してきた.今回,介護予防の取り組みも視野に入れた現代の高齢者の直立時の接地足裏に関する基礎的な資料を得ることを目的に,地域在住の高齢者の足趾接地の実態を調査し若干の知見を得たので報告する.
    【対象】埼玉県北部のK町と隣接する群馬県H市に在住する60歳以上の直立能力に影響を及ぼす疾病等のない地域在住の高齢者で,本研究の主旨を説明し測定に同意を得た男性19名(平均年齢74.3±6.0歳),女性71名(平均年齢71.7±6.6歳)の計90名180足.
    【方法】ピドスコープ(スタビロスコープ:パテラ研究所製)上に被験者を直立させ,(1)視点を注視した安楽な開眼閉足位(自然閉足位)および,(2)モニター上に映し出される接地足裏画像をみながら足趾が十分接地するよう努力した閉足位(努力閉足位)にて,動揺が安定した時点の接地足裏画像を抽出した.抽出した足裏画像について,足趾接地の判定は1趾につき,グレードG:完全接地,グレード P:不完全接地,グレード F:無接地=浮き趾とし,個体における総合的判定として,タイプ1:両足のすべての足趾がG,タイプ2:両足のいずれかの足趾にPあり,タイプ3:片足に単独もしくは複数の趾にFあり,タイプ4:両足の小趾にのみFあり,タイプ5:両足に単独もしくは複数の趾にFあり,タイプ6:他趾の状態にかかわらず,両足拇趾にPないしFあり,の6つの足趾接地タイプ(筆者ら,理学療法学Vol.33,No.1,2006)に分類しその出現率を求めた.
    【結果・考察】自然閉足位においては,女性では,タイプ1~6までのすべてのタイプの出現をみたが,男性では,タイプ1~3のみがみられ,タイプ2以上の足趾接地になんらかの問題を有するものは男性では52.6%,女性では57.8%と,全体的には,高齢者においても青壮年者同様(第39回大会にて報告),男性より女性に足趾接地に問題がある傾向がみられた.また,努力閉足位では,男性の94.7%,女性の80.3%がタイプ1の接地良好を示したが,一方で,男性の5%強,女性の2割弱に,浮き趾などがみられ,足趾接地の状態が不良であることが判明した.本データと過去に筆者が報告した青壮年者(10代後半から40代)の実態と比べると,高齢者においても,男性より女性に足趾接地に問題がある傾向がみられるものの,高齢者では,青壮年者よりは,足趾の接地が良好であることがわかった.今後は,足趾の接地のみならず,接地足裏の全体の問題や足趾接地に影響を与える地域環境や生活習慣などの因子を検討するとともに,介護予防の展開においては,これらの高齢者の足趾接地の実態を念頭におく必要があることが示唆された.
  • 牧迫 飛雄馬, 島田 裕之, 加藤 仁志, 小口 理恵, 石井 芽久美, 古名 丈人
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 555
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/05/09
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】地域在住高齢者を対象とした運動介入研究が多数実施され、運動の有用性が実証されているが、これらの対象者に対して、介入への参加や運動の継続を左右する行動科学的な要素についての検証は十分にはなされていない。健康行動に対する動機付けの準備性の程度の違いは、個人や集団の身体活動を促進しようとする場合に検討すべき課題であり、行動変容ステージモデルが準備性の程度の把握に有用である。また、このモデルを考慮して支援方法を検討することで効果的なプログラムの企画が可能になる。本研究では、地域在住高齢者における運動行動変容ステージと運動機能、日常生活での身体活動量、および身体活動への意識との関係を検証することを目的とした。
    【方法】対象者は東京都に在住する70歳以上の高齢者とした。対象者の募集は、新聞折り込み広告を板橋区全域で10万部配布し、運動定着に対する介入研究の希望者を募った。参加希望者には説明会を実施して、同意が得られ介入研究の対象となった110名のうち、本調査に協力の得られた101名(平均年齢75.7±4.1歳、男性31名、女性70名)を分析対象とした。なお、本研究は東京都老人総合研究所の倫理委員会からの承認を得て実施した。調査項目は、運動機能測定として、膝伸展筋力(膝関節90度での等尺性収縮)、Timed Up & Go Test(最大努力)、タンデム歩行歩数(最大10歩まで)を測定した。質問紙調査は、運動行動変容ステージ、運動習慣に関する内容、日常活動や身体活動に関する内容について聴取した。行動変容のトランスセオレティカル・モデルに基づき、運動行動変容段階を無関心期、関心期、準備期、実行期、維持期に分類し、無関心期・関心期・準備期と実行期・準備期の2群に分けて、調査結果を比較した。分析は、対応のないt検定およびMann-WhitneyのU検定にて群間比較を行った。
    【結果】運動行動変容ステージは、無関心期1名、関心期20名、準備期30名、実行期4名、維持期46名であった。無関心期・関心期・準備期(51名)と実行期・維持期(50名)の群間比較では、すべての運動機能測定値に有意差を認めなかった。質問紙調査では、実行期・維持期の対象者のほうが、月間運動時間が有意に多く、また、日常の活動に関しては、1週間のうちで身体活動をしないで過ごす日が少なく、近所へ外出する頻度が多かった。また、身体活動量を増やすための意図した行動が有意に多く認められた。
    【まとめ】新聞折り込み広告により参加募集を行ったため、運動行動が定着している対象者が多かった。無関心期・関心期・準備期と実行期・維持期の群間比較では、運動行動変容ステージの違いにより運動機能に有意差は認められなかった。しかし、実行期・維持期の対象者では、運動時間が多く、日常活動で意図して身体活動量を向上させる行動をとり、活動向上への意識が高かった。
  • FRTを用いての検討
    杉原 敏道, 三島 誠一, 長沼 誠, 武田 貴好, 舩山 貴子, 田中 基隆, 落合 悦子, 高木 麻里子
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 556
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/05/09
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    冬期間における圧雪や凍結は高齢者を転倒にさらす脅威となる。本研究ではFunctional Reach Test(以下、FRT)を用いて、冬期間でも外出可能な高齢者の身体能力レベルについて検討した。
    【対象と方法】
    日常生活に支障のない同意を得た健常高齢者85名を対象とした。運動障害や感覚障害ならびに認知症を有する者は対象から除外した。FRTに先立ち、後方質問法での冬期間の外出に関する聞き取り調査を実施した。聴取内容は他期間と比べた冬期間(12~2月)の外出頻度と、その際の介助ならびに転倒の有無とした。外出頻度とは寒さなどの影響を除き、積雪や凍結による転倒を懸念して外出を回避した、または外出を抑制したことに由来する外出頻度である。積雪による制約がなく安全に外出が可能であった場合は外出自立群、積雪や凍結による外出の回避あるいは外出頻度の抑制、冬期間のみ介助や監視を要した、外出時に転倒があったのいずれかの回答が得られた場合には外出自立困難群とし対象者を分類した。その後、各対象者にはFRTを実施した。FRTはDuncanらの方法に準じた。体幹の回旋は行わないこととし、最大リーチ下での肢位保持時間は5秒とした。記録はmm単位で行い、転倒がないように十分な配慮を行って測定を実施した。両群のFRTの比較には二標本t検定を用いた。また、両群を最適に分類することが可能か判別特性分析を用いてcut off値を求めた。
    【結果】
    外出自立群(n=46)と外出自立困難群(n=39)のFRTは18.3±5.2cmおよび12.1±5.0cmで、外出自立群に比べて外出自立困難群で有意な低下が認められた(p<0.01)。判別特性分析を用いた検討では15.5cmを境として両群をおおむね判別することが可能であった(判別的中率76.2%・感度71.1%)。
    【考察】
    FRTを指標とした場合、外出自立群と外出自立困難群では明らかな身体能力レベルの差異があると考えられる。また判別特性分析では15.5cmを境として両群をおおむね大別することが可能であったことから、FRTから見た高齢者の冬期間でも外出可能な身体能力レベルはおおよそこの程度であると考えられる。しかし、外出自立困難群の中にはある一定の身体能力を有しているがために活動頻度に由来して転倒した者もいたと考えられる。また、判別特性分析の的中率や感度が十分とは言い難いことや、この検討が後ろ向きであることから、この結果を評価基準としてではなく参考材料として用いるのが妥当であると考える。
  • 松嶋 美正, 高橋 圭一, 篠原 祥子, 佐藤 文香
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 557
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/05/09
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    身体機能を把握するツールとしてパフォーマンステストが使用されるが,特に在宅生活を送っている高齢者においては,スコアを尺度としたスケールでは,その差が明確に現れない場合がある。したがって,本研究ではスコアと時間を尺度とするスケールを比較し,その妥当性を検討することと,身体機能に反映すると推測される心理状態を評価することで,包括的に身体機能を把握する可能性を明らかにすることを目的とする。

    【方法】
    対象は,本研究に同意の得られたデイケアサービスを利用している屋内歩行自立である高齢者65名(平均年齢79.4±6.2歳)である。方法は,パフォーマンステストとしてBerg Balance Scale(BBS)とTimed Up and Go Test (TUG)を用いた。心理状態の把握は,在宅ケアアセスメント表(MDS‐HC2.0)の「転倒の危険」の「不安定な歩行」,「転倒を恐れて外出制限」において調査し,両質問項目に該当するものを歩行不安ありとした。また,改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)を用い,20点以下を認知症とした。統計解析に関しては,年齢別,HDS-R,歩行不安の有無,要介護度別,BBSのカットオフ値で分類し,パフォーマンステストの測定結果において,各群内の相関はSpearmanの相関係数,群間の差においてはMann-WhitneyのU検定,一元配置分散分析を用いて検討した。

    【結果】
    年齢別は高齢者(79歳以下)30名,超高齢者(80歳以上)35名,HDS-Rは非認知症群37名,認知症群28名,歩行不安なし45名,歩行不安あり20名であった。要介護度別は,要支援:11名,要介護1:36名,要介護2,3:18名,BBSのカットオフ値に関しては,BBS45点以上は39名,BBS44点以下は26名であった。TUGとBBSの各群内の相関に関して,有意な負の相関(範囲r=-0.50~-0.87)が認められたのは,年齢別,HDS-R,歩行不安の有無,要介護度別であり,BBSのカットオフ値においてはBBS45点以上でr=-0.65であった。TUG,BBSで各群間に有意差が認められたのは,「歩行不安の有無」のBBS(p<0.01)と「BBSカットオフ値」のTUG,BBS(p<0.01)でともに認められた。

    【考察】
    BBSはTUGと有意な負の相関を示し歩行能力との関連性が認められたが,年齢などに関しては有意な差は認められず,屋内歩行自立の高齢者においては個人差が小さく,バランス能力の抽出が困難であると推測される。しかし,歩行に対する心理状態を考慮した場合,BBSはそれを把握することが明らかとなった。また,BBSのカットオフ値で群分けした場合,バランス能力が低下している高齢者に関しては,歩行手段によるものが大きいと推察され,歩行能力との関連性が低くなったと考えられる。
  • 歩行・バランス能力との関係に着目して
    鈴木 誠, 佐藤 洋一郎, 武田 涼子, 藤澤 宏幸, 植木 章三, 高戸 仁郎, 犬塚 剛, 本田 春彦, 河西 敏幸, 芳賀 博
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 558
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/05/09
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】高齢者における前脛骨筋(以下、TA)の力-時間特性及び歩行・バランス能力との関係を調べることである。

    【方法】対象は、M県在住の在宅高齢者46名(74.8±5.60歳)とした。測定項目は、1.足関節背屈筋力(最大筋力・最大トルク変化率)、2.歩行能力(歩行速度・歩幅・歩行率)、3.バランス能力(Functional Reach Test:FRT・片脚立位保持時間)であった。筋力の測定肢位は椅子座位とし、ロードセルを用いた足関節筋力測定器に非利き脚の足部を固定した。被験者は可能な限り速く等尺性収縮にて最大筋力を発揮するよう指示された。サンプリング周波数1KHzにてコンピュータに記録された。歩行テストは、5mの直線路で実施し、速度条件は「自由」及び「最大」の2種類とした。バランス能力の指標としてはFRTを用い、Duncanら(1990)の方法に従った(利き手にて測定)。また、片脚立位保持時間は開眼にて利き脚を挙上させた立位姿勢とし、足底が床面より離れた時点から再び接地するまでの時間とした。統計解析は、各測定項目間の関係を検討するため、ピアソンの積率相関係数及びスピアマンの順位相関係数を用いた。有意水準は危険率5%とした。

    【結果】TAの最大筋力は21.55±5.51N・mであった。また、最大トルク変化率は97.66±40.37N・m・s-1であった。歩行能力は自由歩行条件で、速度1.18±0.20m・s-1,歩幅0.57±0.07m,歩行率125.87±11.34 steps・min-1であった。最大歩行条件では、速度1.54±0.25m・s-1,歩幅0.63±0.07m,歩行率145.79±16.46 steps・min-1であった。FRTは29.65±5.20cm,片脚立位保持時間は13.10±9.93秒であった。TAの力-時間特性と歩行能力との関係は、最大筋力及び最大トルク変化率と歩幅に有意な正の相関が認められた(最大筋力:自由 r=0.48・最大 r=0.35 p<0.05,最大トルク変化率:自由r=0.50・最大r=0.41 p<0.01)。しかし、バランス能力との間には有意な相関は認められなかった。

    【考察】過去の報告では、TAの動特性と歩行能力の関係について検討されたものはなく、最大筋力よりも相関が高い事は興味深い。高齢者が歩行の際、歩幅が大きく確保できるという事は、歩行中の立脚期での安定性と大きく関係しており、TAの役割が重要であると考えられる。一方でバランスの指標との関係性が認められなかった要因として、システム理論に基づくならば、加齢による足関節機能の低下を股関節戦略にて代償している可能性を示唆するものであった。

  • 臼田 滋, 内山 靖, 吉田 剛, 橋立 博幸, 桒原 慶太, 樋口 大輔, 浅川 育世, 松田 梢, 小澤 佑介, 篠原 智 ...
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 559
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/05/09
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】移動能力の評価は理学療法の基本的な評価であり、従来は歩行などの自立度や持久性、速度、歩行補助具の有無などで評価されているが、活動水準の評価としては、生活範囲としての移動を評価することが重要である。本研究の目的は、生活空間レベルとしての移動を評価するLife-Space Assessment(LSA)と対象者の基本属性や日常生活活動(ADL)などとの関連性を分析することで、その理学療法における有用性を検討することである。
    【方法】本研究は9施設による多施設間共同研究で実施された。対象は理学療法を施行している168名であり、疾患については、虚弱高齢者11名、神経系疾患85名、骨・関節系疾患57名、内部障害15名を含み、平均年齢は65.5±17.0歳、男性77名、女性91名であった。LSAは、過去4週間における生活空間(寝室以外の部屋から居住市町村より遠くまでのレベル1-5)とその頻度、自立度からスコアを算出し、その合計点は0-120に分布する。得点が高い程、移動が優れている。なお、入院中の対象者においては、生活空間レベルの内容に修正を加えて使用した。その他の評価指標には、Instrumental ADL(IADL)、Functional Independence Measure(FIM)、基本動作能力の評価指標としてFunctional Movement Scale(FMS)、機能障害の評価指標として作成したImpairments Scale(IS)、意欲低下の指標としてApathy Scale(AP)を使用した。LSAと基本属性およびその他の評価指標との関連をt検定、分散分析と相関係数にて分析後、重回帰分析を用いて関連性を検討した。有意水準は5%未満とした。
    【結果および考察】全体のLSAの平均は46.4±22.8(2-120)であった。男性のLSAは51.7±25.5、女性で41.9±19.2と、有意に男性が高値であった。虚弱高齢者は他の疾患を有する対象に比較して高値であった。LSAと年齢、IADL、FIM、FMS、IS、ASとの関連はすべて有意であった(相関係数はそれぞれ、-0.391、0.501、0.506、0.520、0.470、-0.182)。LSAを従属変数とし、疾患以外の7変数を独立変数に投入したステップワイズ法による重回帰分析の結果、FMS、年齢、ISの3変数が選択され、決定係数は0.383(p<0.01)であった。以上より、活動水準としての移動の評価指標として有用であることが示唆された。LSAは簡便に評価可能な移動の評価指標であり、移動の制約状況の把握や他の評価との併用による適切な介入計画の作成に活用できる可能性がある。
  • 大西 秀明, 相馬 俊雄, 大山 峰生, 亀山 茂樹, 大石 誠, 黒川 幸雄
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 560
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/05/09
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    脳波計や脳磁界計測装置を用いることにより大脳皮質の活動を非浸襲的に計測することができる.どちらも脳活動を客観的に計測することができるが,脳磁場は頭皮や頭蓋骨,髄液の影響を受けないため,脳波よりも活動部位をより正確に捉えることができる.自発運動の際にも一連の脳磁界反応を計測することができ,自発運動時に計測された脳磁場を運動関連脳磁場(Movement related cerebral fields, MRCF)という.MRCFは,運動準備磁場,運動磁場,運動誘発磁場(Movement evoked Field, MEF)第一・第二・第三成分から構成されるのが一般的である.MEFは運動直後に誘発される脳活動を捉えたもので運動感覚を反映していると言われているが,その感覚受容器や電流発生源については未だ明確でないのが現状である.本研究目的は,MEF1の意義を検討することである.
    【方法】
    対象は予め同意の得られた健常男性8名(25.6±6.0歳)であった.MRCFの計測には,306チャネル全頭型脳磁界計測装置(Neuromag, Elekta, Finland)を使用し,通常の示指伸展自発運動(課題1)と関節運動が少ない示指伸展運動(課題2)の2種類を運動課題として,MRCFおよび示指伸筋の筋電図を記録した.MRCFの解析には,運動開始を感知するLEDトリガーシステムを利用し運動開始2秒前から運動開始後1秒までの期間を対象としてオンラインで50回以上の加算平均を行い,0.5Hzから10Hzのバンドパスフィルタ処理を行った.なお,統計処理には対応のあるt-検定を用い,有意水準を5%とした.
    【結果】
    課題1ではMEF1の振幅が82.0±21.2fT/cmであり,課題2のMEF1振幅(69.7±20.5fT/cm)に比べて大きな傾向を示した(P=0.08).また,運動開始からMEF1ピークまでの潜時は課題1において53.3±12.0msecであり,課題2の28.2±7.2よりも有意に長かった(P<0.01).
    【考察】
    我々はMEF1が筋紡錘の活動を反映している可能性が高いことを過去に報告してきた.本研究結果において,MEF1の振幅が運動の大きさに影響されて変化することが示され,過去の報告を支持するものであると考えられる.一方,運動範囲が小さな課題においては潜時が短くなっていた.このことは,筋収縮が継続している間,運動野の活動と感覚野の活動がそれぞれ同時に起こっており,両領域の活動の強弱により運動開始直後の磁場波形が形成されることを示唆している.すなわち,MEF1波形を解析するにあたり,運動野の活動の有無を考慮する必要があることが示唆された.
  • 機能的MRIによる分析
    村上 仁之, 渡邉 修, 来間 弘展, 松田 雅弘, 津吹 桃子, 妹尾 淳史
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 561
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/05/09
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    【はじめに】
    近年,PETや機能的MRIなどのイメージング技術により,随意運動や認知活動の脳内機構が明らかにされている.しかし,随意運動遂行中に密接に関連する触覚認知の脳内機構に焦点化した研究は極めて少ない.触覚認知がどのように行われ,どのように学習されるのかを明らかにすることは,脳損傷後の理学療法の治療戦略を立てる際に,重要な示唆を与えると考えられる.そこで本研究は,触識別時の脳内機構および学習の影響を明らかにすることを目的に,機能的MRIを用いて麻雀牌を題材として,初心者と熟練者を対象に,触識別に関する脳内神経活動を感覚運動野(sensorimotor cortex: 以下,SMC)と小脳に焦点化して定量的,定性的に分析を行った.
    【対象】
    対象者は健常者16名である.内訳は,麻雀経験のない初心者が10名(対照群)と、5年以上の麻雀経験を持ち,母指掌側のみで牌を識別できる熟練者6名(熟練者群)である.
    【方法】
    GE社製1.5T臨床用MR装置を用いて,閉眼にて利き手母指掌側での麻雀牌の触知覚時および触識別時の脳内神経活動の測定を行った.データ解析はSPM99を用い,得られた画像データを位置補正,標準化,平滑化を行い,有意水準95%以上を持って賦活領域とした.加えて,両群間の差の検定をt‐検定を用いて分析した.
    【結果】
    対象者16名中,触知覚時では,対側SMCが14名で賦活した.さらに触識別時では,SMCの賦活のなかった2例を加えた16名で,SMCの賦活領域の増大を確認した.加えて,同側SMCが12名と同側小脳が11名の賦活を認めた.また,全脳賦活領域をボクセル数として定量化した平均値は,対照群は触知覚時467.0ボクセル,触識別時4193.0ボクセル,熟練者群は触知覚時408.5ボクセル,触識別時2201.8ボクセルであった.両群とも触知覚時に比べ,触識別時では有意に増加した.また熟練者群は対照群に比べ,触識別時に全脳賦活領域が有意に減少した.
    【考察】
    触知覚時は,対側SMCの賦活が認められ,触識別時は,対側SMCだけでなく,さらに同側SMC,小脳でも賦活が認められた.つまり,単なる触知覚に比べ,触識別という認知活動時には,両側SMCや小脳などの広い領域が関与していると考えられる.しかし,熟練者においては,全脳賦活領域が減少し,限局したことから,“学習”により,全脳賦活領域の縮小,限局をもたらすことが示唆された.触識別という認知的要素が脳内機構として明確化され,学習により縮小,限局するという脳内の可塑的現象は,脳損傷者に対する理学療法において,認知的要素が中枢神経系になんらかの影響を及ぼす可能性を示唆しているではないかと考えられる.
  • 異なる歩行条件による検討
    大平 雄一, 柳川 禎
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 562
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/05/09
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】
    運動イメージは身体運動の計画及び実行の脳内シミュレーション過程である。様々な脳イメージング研究により運動イメージ中の脳活動が明らかにされているが、一次運動野の活動の有無等については一致せず、その要因の1つとして運動イメージの種類が考えられている。運動イメージには視覚的運動イメージ(visual-motor imagery:VMI)と筋感覚的運動イメージ(kinesthetic motor imagery:KMI)がある。これらを比較した報告は少なく、今後の課題であるとされている。経頭蓋磁気刺激を用いた研究では、KMIのみに皮質脊髄路の興奮性増大を認めたことが報告された(Stinear,2006)。運動イメージにおける時間的側面の評価指標として心的時間測定法がある。心的時間が運動実行時間と一致し心的時間においてもFittsの法則が認められる(Decety,1996)が、VMIではFittsの法則を認めないとした報告もある(Stevens,2005)。本研究では、条件を変化させた歩行について、VMIとKMIの心的時間について比較することを目的とした。
    【対象及び方法】
    対象は若年健常者24名(男性10名、女性14名、平均年齢23.3±1.7歳)とした。なお、12名は理学療法士で12名は看護師等の医療従事者とした。
    運動課題は10mの平地自由歩行とし、通常の歩行(通常歩行)と短下肢装具装着下での歩行(装具歩行)を実施した。それぞれ実際の運動実行時間、VMI及びKMIによる心的時間を測定した。デジタルストップウォッチを用い、運動実行時間、心的時間ともに被験者自身で測定した。各々の測定を3回実施しその平均値を採用した。運動実行時間と心的時間の一致度として心的時間/運動実行時間の比率を求めた。統計は二元配置分散分析ならびに多重比較検定を用い、有意水準5%とした。
    【結果】
    心的時間/運動実行時間の平均は、通常歩行ではVMIで0.87±0.27、KMIで0.89±0.19であった。装具歩行ではVMIで0.94±0.21、KMIで0.93±0.23であった。運動実行時間は装具歩行で有意に遅くなったが、心的時間/運動実行時間は通常歩行と装具歩行、VMIとKMIの比較において全てに有意な差は認めなかった。また、装具歩行へのイメージに影響があると推測される理学療法士とそれ以外の対象にも有意な差は認めなかった。
    【考察】
    本研究ではStevensらの報告とは異なり、VMIとKMIの違いは認められなかった。比較的自動化されている歩行においてはVMIとKMIの違いに影響されない可能性が示唆された。しかし、通常歩行と装具歩行の差が小さかったこともその要因として考えられ、今後イメージの質的評価も含めてVMIとKMIの違いを明らかにし、運動イメージを用いた歩行への介入効果についても検討する必要がある。
  • 体性感覚誘発磁場との位置関係の比較
    相馬 俊雄, 大西 秀明, 大山 峰生, 黒川 幸雄, 大石 誠, 亀山 茂樹
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 563
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/05/09
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】大脳皮質の感覚運動野には,体部位局在関係がある.しかし,近接した部位の自発運動による運動関連脳磁場(MRCF)を計測し,電流発生源を比較している報告は少ない.本研究の目的は,手指自発運動時における運動誘発脳磁場第一成分(MEF I)の電流発生源を明らかにすることである.
    【対象と方法】対象は,インフォームドコンセントの得られた健常成人男性6名(平均年齢34.2±10.6歳)であった.測定には,Neuromag社製306チャネル脳磁界計測装置を使用し,安静座位にて計測を行なった.運動課題は,右手における示指の近位指節間関節屈曲運動(Index-flex),示指の中手指節関節伸展運動(Index-ext),小指の中手指節関節外転運動(Little-ab)の3種類とした.各課題動作におけるMRCFを計測し,それぞれ50回以上の加算平均処理を行なった.また,運動課題を遂行している筋の支配神経である正中,橈骨および尺骨神経に対して体性感覚誘発磁場(SEF)を計測した.SEFは,正中神経および尺骨神経は手関節掌側部において,橈骨神経は手関節背側部にて,感覚域値の3~5倍の強度で電気刺激(1.5Hz)を行い,300回以上の加算平均処理を行なった.サンプリング周波数は1kHzで,バンドパスフィルターをMRCFは0.5Hzから20Hz,SEFは10Hzから100Hzで処理を行なった.導出されたMRCFにおける運動磁場(MF),MEF IおよびSEFから等価電流双極子(ECD)を算出し,goodness of fit値が90%以上を解析対象とした.また,各運動課題におけるMFおよびMEF IのECD位置は,運動課題に関連する神経刺激後に導出される正中神経刺激後に導出されるSEFの20msec前後にみられるN20mのECD位置を基準として比較検討した.
    【結果と考察】MEF Iの電流発生源については多くの議論がなされているが,本実験の結果から,3種類のSEF早期成分ECDと3種類の自発運動課題におけるMEF IのECDの位置関係が,上下方向で明確な差がみられなかったことから,MEF Iの電流発生源が3b野の活動であると推察される.また,SEFとMEF Iにおいては,ECDの位置はIndex-flexと正中神経,Index-extと橈骨神経,Little-abと尺骨神経が,それぞれ対応した位置関係を示した.このことから,MEF Iが拮抗筋の伸張や皮膚の伸張による影響でないことが推察され,運動課題の違いにより,MEFIを分離して計測できる可能性が示唆された.一方,MFにおいては3種類の自発運動課題で6名の被験者から一定の位置関係は認められず,今後の検討課題としたい.
  • 兒玉 隆之, 森田 喜一郎
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 564
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/05/09
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】色彩のもつ情動的作用は健常者の心身に様々な影響を及ぼす。とくに認知機能へ及ぼす影響は大きいことを第41回本学会で報告した。今回は、認知機能を反映する事象関連電位(Event Related Potentials;ERPs)P300成分を精神生理学的指標として、脳機能の三次元画像表示法である脳波・脳磁場解析プログラムLORETA(Low Resolution Brain Electromagnetic Tomography)によりP300成分の瞬時の空間的な電場の傾きを表すglobal field power(GFP)を算出し、環境としての色、いわゆる色彩環境のもつ情動的刺激が、高次脳機能障害者の認知機能へどのような影響を及ぼすのか健常者と比較検討した。
    【方法】健常者19名(男性11名、女性8名、平均年齢27.6±4.2歳)と、四肢に麻痺がなく失語、失行、失認は認めないが、日常生活能力、社会活動能力および労働能力に障害をきたしているTBI高次脳疾患患者17名(男性10名、女性7名、平均年齢28.2±6.5歳)を対象とした。「赤」「緑」の色彩環境下及び暗条件「黒」にて国際10-20法に基づき、両耳朶を基準電極としてF7・F3・Fz・F4・F8・T3・C3・Cz・C4・T4・T5・P3・Pz・P4・T6・O1・O2・Ozより事象関連電位を計測した。赤、緑の色彩環境には、シールドルームに信号機(小糸工業株式会社製車両用交通信号灯器)を設置した。事象関連電位は、それぞれの色彩下、赤ん坊の泣き顔を標的刺激(出現率20%)、泣き・笑いのどちらでもない中性の表情を非標的刺激(80%)とした視覚オドボール課題を用い、標的刺激に対して「出来るだけ早くボタンを押し、出現回数を数える」よう指示した。その際、刺激後時間域(250-600ms)にて出現するP300成分GFPの最大振幅と潜時を計測した。色彩環境の順序は、1回目は赤、黒、緑の順で行い、カウンターバランスをとるため十分な休息後、2回目は緑、黒、赤の順に行った。計測結果について、Fz・Pz・Cz・Oz・T3・T4でのP300成分解析とLORETA解析を行った。
    【結果】背景脳波は各色彩環境で両群に有意差を認めなかった。P300成分は赤で健常者群が患者群に比較し、最大振幅は有意に大きく、潜時は有意に速くなった。またLORETA解析においては、赤で健常者群の左扁桃体、Brodmann area 10に高い神経活動を認めた。
    【考察】以上よりP300成分に反映される認知機能は色彩環境の影響を受け、また、赤の色彩環境において、健常者は高次脳疾患患者に比較し認知機能を高める環境であることが示唆された。

  • 近赤外線脳酸素モニタを用いた検討
    中林 美代子, 大西 秀明, 古沢 アドレアネ明美, 中山 裕子, 黒川 幸雄
    専門分野: 理学療法基礎系
    セッションID: 565
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/05/09
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】近赤外分光法(NIRS)を利用することにより,運動時の脳活動を非浸襲的に計測することができる.我々は,第41回日本理学療法学術大会において,自転車駆動時における大脳皮質活動についてNIRSを用いて解析し,比較的安定した酸素化ヘモグロビン(oxyHb)の変化を計測することが可能であることを報告した.本研究の目的は,自転車駆動中の回転数の変化が皮質活動に及ぼす影響について明らかにすることである.
    【方法】対象は健常成人6名(平均年齢36.5 歳,男性3名女性3名)であり,計測前に実験内容を書面にて十分説明し同意を得た.使用機器は24チャネル近赤外分光イメージング装置(OMM2001,島津製作所)であり,自転車エルゴメーター駆動時におけるoxyHbの変化を前頭頭頂部にて記録した.自転車駆動の負荷量は10wattと30wattの2種類とし,各負荷にて30秒間の安静の後30秒間駆動し,再度30秒間安静にする課題を3セット連続で行った.また,自転車駆動回転数は,両課題とも30rpmを15秒間行い,運動開始後15秒時点で30rpmから60rpmへと変化をさせた.各課題とも安静時および自転車駆動開始10秒後,15秒後,20秒後のoxyHbの値を解析対象として比較検討した.
    【結果】自転車駆動による大脳皮質の活動を,一次運動野の下肢領域である頭頂部付近で捉えることができた.両課題とも,oxyHbは駆動開始直後から増加し,数秒後に減少に転じて駆動回転数が変化する15秒付近で最低値を示した.回転数が60rpmへと増加した直後から再度oxyHbは増加した.また,6例中2例は両課題で,開始直後直ちに増加したoxyHbが急激に減少し,駆動開始後10秒の時点で安静時以下の値を示した.各課題において駆動時間によるoxyHbの値に有意な差が認められなかった.また,両課題間でのoxyHbの値にも有意差は認められなかった.
    【考察】近赤外分光法を用いて自転車駆動動作中にペダリングの回転数を変化させた際の大脳皮質の活動を解析した.その結果,回転数に変化を与えると,一度下降したoxyHbが再度上昇することが認められた.このことは,連続した運動遂行中に,運動内容を変化させると,一次運動野の活動が一時的に増加していることを示唆していると考えられる.また,両負荷量間においてoxyHbの値に有意な差が認められなかったが,これは,両課題とも軽負荷の自動的な運動であったために, NIRSでは計測することが可能な皮質活動の変化量ではなかったのではないかと考えられる.

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