理学療法学Supplement
Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
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セッション
  • 川上 健司, 宮坂 裕之, 日沖 雄一, 外海 祐輔, 小川 未有, 黒谷 恵利, 古本 文子, 松本 麻由, 園田 茂
    セッションID: 15
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/08/20
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    【はじめに】

    脳卒中患者の歩行練習では、患者自身による運動制御を促すことで歩行能力が改善するため、療法士の介助を最小限にすることが重要である。しかし、安全性の担保なしでは過介助を余儀なくされ運動を学習する機会が減少する。安全懸架装置(懸架装置)を用いた練習は、介助なしに転倒防止が可能で、自身で運動制御を行う機会が増し、効率よく運動学習が進むと考えられる。本研究では脳卒中患者の懸架装置を用いた歩行練習の有効性を明らかにすることを目的とした。

    【方法】

    対象は、当院の脳卒中患者で入院時のFunctional Ambulation Categories(FAC)が2点の27名とした。入院時に安全懸架群(懸架群)15名と対照群12名にランダムに割り当て、皆60分間の通常理学療法を週7日間、計4週間実施した。加えて、懸架群は懸架装置を用いた歩行練習60分、対照群は平地歩行練習60分を週5日間、計4週間実施した。懸架装置はレール走行式免荷リフトSS-450(モリトー社製)を使用し、患者の体幹部に装着した安全ベルトに接続した。練習中は患者自身による運動制御を促しバランスを崩した際でも介助せずベルトで転倒を防いだ。また患者に適した装具や杖を利用した。評価項目は年齢、性別、診断、発症後期間、在院日数、Stroke Impairment Assessment Set(SIAS)下肢項目合計点の他に、FAC、FAC3点到達日数、Dynamic Gait Index(DGI)とし、開始時、2週時、4週時に評価した。群内の経過は開始時をコントロールとしてSteel-Dwassの多重比較検定を、群間差はMann-WhitneyのU検定(Bonferroni補正)にて解析し、有意水準は5%未満とした。

    【結果】

    両群の患者プロフィールに差を認めなかった。FAC3点到達日数の中央値は、懸架群は7日、対照群は17.5日であり懸架群で有意に短縮した。FACの経時変化では、懸架群は開始時、2週時、4週時の中央値が2-3-3であり、開始時から2週、4週の間に有意な改善を認めた。対照群は2-2-3であり、開始時から4週の間に有意な改善を認めた。DGIの経時変化では、懸架群の中央値が2-13-14であり、開始時から2週、4週の間に有意な改善を認めた。対照群は0-7-11であり、開始時から2週、4週の間に有意な改善を認めた。群間比較では、対照群に比べ懸架群の2週時のFACとDGIが有意に高値を示した。

    【考察】

    懸架装置による歩行練習により患者自身による運動制御を促すことで、従来歩行練習に比べ早期に監視に到達できる可能性が示唆された。それに伴い懸架群では早期から応用練習を行うことができ、2週時では応用歩行能力を示すDGIも有意に高かったと考えられる。しかし、4週時ではFAC、DGIの群間差を認めなかったことより、監視に到達した以降の歩行練習の難易度をさらに上げる余地があったと考えられた。また、両群とも4週時のFAC中央値は3であり、自立に至った者が少なかった。今後、課題難易度を調整した上で懸架装置を使用し早期の自立達成が可能となるか検討したい。

    【倫理的配慮,説明と同意】

    すべての患者に主治医から本研究の説明をし、同意を得た。また当大学倫理委員会の承認を得て実施した。

  • 井上 和久, 丸岡 弘, 原 和彦
    セッションID: 16
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/08/20
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    【目的】 現在、退院後装具の使用率が低下するという報告があり、その情報を元に装具使用者が実際装具を使用するにあたって何か生活上良くなったことや困ったこと等の意見を聴取し、今後のフォローアップについて検討した。また、装具使用において何か支援の必要がないかどうかフォローアップの時期等、装具使用者の意見等を踏まえて装具使用者に対して実態調査を行い、患者・利用者に対する装具使用の利便性を挙げることを目的に実施した。

    【方法】 装具使用者の選定にあたり平成29年9月~30年1月までの調査期間中において入院・入所中に装具を作製し退院・退所後1ヶ月以上経過している装具使用者10名とした。なお、認知症や重度の感覚障害および生命の危機が生じるような対象者など調査に支障をきたすような場合は選定から除外した。インフォーム・コンセントについて対象者本人から同意が得られない場合についても除外した。調査方法の手順として、(1)本調査研究に協力していただける病院・施設の担当者に調査内容を説明、(2)調査に協力していただける場合のみ、担当者から文書による同意を得た後、装具使用者に説明し同意していただける方を選定、(3)装具使用者を選定後、病院・施設の担当者から調査研究者に装具使用者に関する情報を提供(本人同意のもと、氏名・住所・連絡先電話番号・疾患名・障害名・装具名称・装具作製にあたりどのような目的で作成されたか・装具に関わった職種、等)、(4)装具使用者の自宅・施設を訪問し、装具の使用方法・不具合の有無・使用で困ったことはないか・装具を使用して生活が良くなったことおよび不便なこと・装具を処方された時点で何か分からないことがなかったか・装具を使用するにあたって何か支援が必要かなどを調査した。その後、装具の使用状況・装具の状況を確認した。

    【結果】 装具使用者10名のうち調査協力が得られたのは最終的に7名の対象者となった。調査結果として、装具使用にあたり特に困ったことや不具合等の意見はなかった。また、装具を使用することにより「歩行がスムーズになった」「段差に躓くことがなくなった」などの良い意見があった。ただ、数名の装具使用者より「身体機能がどのようになれば装具を使用しなくても良いのか」「どの程度の期間で装具をみてもらったら良いか」「ベルクロがとれてしまう」などの意見があった。

    【結論】 装具使用者に対して調査を行ったところ、先行研究で報告されているような装具使用率低下は認められなかった。ただ、退院後、装具を使用し続けるにあたり装具使用者にとって、いつまで使用したら良いのか、メンテナンス(装具のベルトや継手の調整など)等の確認はどうすれば良いのかなど、病院・施設から退院した後、装具使用にあたって具体的な説明や支援の必要性が明確となった。今後装具フォローアップにつながるような説明と支援について検討していく。

    【倫理的配慮,説明と同意】 本研究は、ヘルシンキ宣言に則り病院・施設担当者および装具使用者に調査の目的や手順を説明し署名による同意を得た。なお、埼玉県立大学の倫理委員会で承認済(第29019号)。調査方法として予め、病院・施設の担当者に調査の目的を説明し、文書にて同意が得られた後、装具使用者にも事前に調査内容を説明していただき文書にて同意の得られた装具使用者を対象とした。

  • 山本 一樹, 杉山 正幸, 井上 優乙香, 小山 力之
    セッションID: 17
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/08/20
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    【はじめに】従来、変形性膝関節症(以下 膝OA)に対しての装具療法は膝自体に装着する装具や足底板が主であったが、膝OAに対する短下肢装具として、Ottobock社よりAgilium Freestep(以下AFS)が販売されている。装着方法がゴム製の足板を靴に挿入し、下腿部のベルトを留めるだけと簡易なもので、下腿支持部により荷重時に微弱な膝関節外反モーメントが発生し、床反力作用点が外側に偏位することで膝関節内反モーメントが減少し膝関節内側の疼痛が軽減するというものである。装具適応は内側型膝OA(KL分類Ⅱ)。国外でAFSの継続使用により疼痛軽減効果があることが報告されているが、国内での使用報告は僅かである。今回、従来の装具や足底板で著効がみられなかった重度変形性膝関節症患者の歩行時の膝関節内側の疼痛を軽減させることを目的とし、AFSを装着していただき、疼痛(NRS)・WOMAC・使用した感想を調査したので報告する。

    【方法】対象は重度両側膝OA患者(KL分類Ⅲ-Ⅳ)2名、下肢MMTは3~4レベル、AFS装着肢は歩行時に疼痛を呈している左下肢とした。左膝伸展可動域は症例Aが-10°、症例Bが-15°であった。AFSの下腿支持部の内外反アライメントは、過矯正となり踵接地時に足部内反が誘発されないように立位下腿アライメントに対して膝関節外反方向へ約10°程度押す角度とした。AFS装着方法を説明した後、日常生活の中で使用し質問紙表に装着の有無・疼痛の強さ・歩数・行なった運動を記載していただいた。質問紙表の記入期間はAFS装着期間前1週間(pre)、AFS装着期間中2ヶ月間、AFS装着期間後1週間(post)とした。WOMACはpre・postに1回ずつ記入とした。

    【結果】症例Aはpre (NRS4~9/10・WOMAC35/96点)、AFS装着期間中(NRS0~8/10)、post( NRS1~5/10・WOMAC33/96点)となった。主訴はpre 「左膝の骨が痛む」、post 「両脚がこわばる・背中が痛む」となった。使用した感想は「簡単に装着できた」「室内で付けられなかった」「靴の種類によっては付けられなかった」であった。症例Bは非装着肢の膝関節痛が増悪し、2ヶ月間の継続使用が困難であった。pre(NRS 1~4/10・WOMAC52/96点)、AFS装着期間中は(NRS2~8/10)、Post(NRS2~6/10・WOMAC44/96点)という結果になった。主訴はpre「歩き始めで左膝の内側が痛む」、post「右膝と腰が痛む」となった。使用した感想は「しっかりと支えられている感じがする」「付けている左膝は良いが右膝が痛くなってしまった」であった。

    【結論】推奨されているGradeより重度の膝OAであったが、装着肢の歩行時の膝関節痛は減少する結果となった。歩行観察からAFS装着時の踵接地~立脚中期にかけての膝関節ラテラルスラストの減少が確認され、それにより疼痛が減少したのではないかと考えられる。一方で負担が他部位に分散する傾向が両者共にみられた。それに関しては今後、重心動揺計や表面筋電図を用いて非装着肢・腰背部の活動量の変化を計測する必要があると感じた。

    【倫理的配慮,説明と同意】ヘルシンキ宣言に則り、対象者には本調査の趣旨について事前に十分な説明を行い、同意を得たうえで実施した。

  • -歩行速度に対する即時効果及び効果の持続性について-
    橋本 重倫, 土田 拓輝
    セッションID: 18
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/08/20
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    【はじめに】

     体幹失調を呈する患者に対して理学療法では、固有感覚情報による大脳半球の代償により運動協調性改善を図っていく事が推奨されている。古典的な方法として、腹部圧迫による弾性包帯緊縛法により正常歩行に類似した運動パターンを再現することが出来るとされている。また固有受容性神経筋促通法(PNF)による運動の再学習も有効とされており、難易度としては単純な屈曲・伸展から開始し、抵抗運動を加え、さらに運動パターンを複雑化していくことで、神経筋の再教育を行っていく。しかしながら、固有感覚情報を入力し、体幹筋群を刺激しながら歩行練習を行なうことは徒手的な介入では困難であることを臨床場面で経験する。勝平らは抗力を具備した継手付き体幹装具トランクソリューション(以下、TS)を開発し、骨盤前傾と体幹伸展を促しながら持続的な腹筋群の活動を促すことを可能にした。TSの特徴である、抗力により骨盤前傾、体幹伸展および腹筋群の活動を促すという機構は体幹失調に対する抵抗運動により筋収縮を促通しつつ、正常歩行を再現するという治療戦略と類似している。

     そのため、本研究の目的は、体幹失調患者の歩行におけるTS装着の有効性を検討することとした。

    【方法】

     対象は、A病院回復期病棟に入院している橋出血により失調歩行を呈した患者1名とした。はじめに10m歩行速度と歩数を計測した後、TSを装着し、80m歩行練習を実施した。TSを装着した歩行練習の直後およびTSを外した後に、再度10m歩行速度・及び歩数を計測した。介入期間として5日間連続で測定及び介入を実施し、即時効果及び持ち越し効果を検討した。

    【結果】

     初日の介入前の10m歩行速度および歩数は18.3秒29歩であったの対し、TSを外した後は14.4秒24歩と介入による即時効果を認めた。翌日の介入前の計測においても14.6秒26歩と持ち越し効果を認めた。介入後においては、毎日即時効果を認めたが、持ち越し効果は3日目までは認めていたが、その後は停滞及び一時速度低下しながらも、最終的には13.0秒22歩まで改善した。

    【考察】

     TS装着により、失調歩行患者への歩行速度に対する即時効果および翌日以降への持ち越し効果が認められた。歩行中に持続して抗力による腹筋群の促通が図れることにより、体幹動揺軽減及び垂直性が保たれることで歩行パフォーマンスが向上すること、固有感覚情報の入力に伴う正常運動の反復及び腹筋群の筋力強化により、装具を外した後も学習効果の持続が期待できることが示唆された。失調に対する治療用装具としての可能性を示唆されたことは新しい知見となると考える。しかしながら、単症例での報告であり、介入期間も短い為、今後更なる症例数・介入期間の検討が必要である。

    【倫理的配慮,説明と同意】

    竹川病院倫理委員会の規定に則り、説明と同意を得て実施している。

  • 丸山 千尋, 田代 耕一, 遠藤 正英
    セッションID: 19
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/08/20
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    【はじめに】

     脳卒中片麻痺患者の歩行は歩行速度の低下や麻痺側立脚期時間の短縮、律動的な歩行の破綻を認めるため、長下肢装具(KAFO)を装着し理学療法士(PT)の介助下での歩行練習が必要である。KAFO使用下での歩行練習は患者要因、装具要因、PTの介助技術などの介助要因が関与するとされ、PTの介助技術が患者の歩行に与える影響は大きい。しかし、KAFO装着下での介助歩行において介助技術が歩行に及ぼす影響を調査した報告は少ない。そこで、介助者の経験年数が脳卒中片麻痺患者の介助歩行に及ぼす影響を調査したため報告する。

    【方法】

     介助者は1年目PT(1年目)、2年目PT (2年目)、6年目PT(6年目)の3名とし、被介助者は右視床出血を発症し3ヵ月経過した60歳代男性の左片麻痺患者 (下肢Brunnstrom recovery stageⅣ)とした。被介助者の麻痺側下肢に本人用のKAFO(膝継手:SPEX、下腿部分:シューホンブレース)を装着し、介助者は歩行速度や介助量等の条件を与えず約10mの介助歩行を実施した。歩行中は矢状面から動画を撮影し、定常化した3歩行周期を抽出し、1歩行周期の平均時間と1歩行周期の麻痺側・非麻痺側立脚期時間の平均値を測定し、健側を患側で除した値である健患比を算出した。また、麻痺側内側広筋の表面筋電図を測定し、得られたデータの1歩行周期における0~12%の値を整流化し各積分値の平均値を算出した。以上の測定項目を3名の介助者間において比較・検討した。

    【結果】

     1歩行周期時間は1年目が1.25±0.07sec、2年目が1.11±0.06 sec、6年目が1.10±0.01 secとなった。健患比は1年目が79%、2年目が82%、6年目が86%となった。麻痺側内側広筋の筋活動は1年目が38.4±31.6μV、2年目が112.6±60.7μV、6年目が150.2±123.0μVとなった。

    【考察】

     1年目は歩行速度が遅く立脚期時間の左右差が大きかった。2年目は歩行速度が速く立脚期時間の左右差が大きかった。6年目は歩行速度が速く立脚期時間の左右差が小さかった。介助歩行において歩行速度を上げることは容易であるが、立脚期時間の左右差が小さい歩行を行うには習熟が必要であると考えられた。また、麻痺側内側広筋の筋活動は2年目と6年目では明らかに生じたのに対し1年目は小さかった。内側広筋はヒールロッカー時に生じる膝関節屈曲の制御に働くとされ、2年目・6年目の介助歩行において歩行速度が速かったため麻痺側内側広筋の筋活動が増大したと考える。つまり経験年数が歩行速度や左右差、麻痺側下肢の筋活動へ影響を及ぼすことが分かった。

    【倫理的配慮,説明と同意】

    本研究には、当院の倫理委員会にて承認(2018061801)を受け実施した。

  • 中谷 知生, 田口 潤智, 笹岡 保典, 堤 万佐子, 藤本 康浩
    セッションID: 20
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/08/20
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    【目的】歩行補助具T-Supportは自力歩行可能な脳卒中片麻痺者の歩行能力を向上させる効果がある。今回、自宅退院後の生活期片麻痺者において、訪問リハビリテーションのトレーニング時および自宅での自主トレーニング時にT-Supportを約10か月間継続して利用した。その結果、歩容が大きく変化し、高い治療効果が確認できたので報告する。

    【対象と方法】対象は当院回復期病棟退院後に訪問リハビリテーションを利用している70歳代の左片麻痺者である。回復期病棟退院時の下肢機能はBrunnstrom Recovery StageⅣで、歩行能力は短下肢装具とT字杖を使用し自力歩行可能であったが、歩容は2動作揃え型で非麻痺側下肢のストライドの短縮が著明であった。自宅での歩行トレーニング時に歩行補助具T-Supportを用いたところ、即時的に2動作前型歩行となった。そこで訪問リハビリテーションでのトレーニング時に、歩行補助具T-Supportを用いた歩行トレーニングおよび家族への介助歩行方法の指導を継続して実施した。トレーニングは1週間に2度、約1時間のトレーニングを実施した。介入期間の歩行因子を測定するため、パシフィックサプライ社製ゲイトジャッジシステムを用いた評価を実施した。比較した主な歩行因子は、麻痺側立脚終期の足関節最大背屈角度と、立脚終期から遊脚初期にかけて短下肢装具に発生する足関節底屈制動モーメント(Second PeakP:以下SP)の平均値とした。

    【結果】最大背屈角度/SPは、回復期病棟退院直前が-5.7°/1.9Nm、自宅退院直後が-3.3°/2.0Nm、自宅退院直後のT-Support装着時が-1.0°/2.4Nm、自宅退院後10か月目が2.7°/3.9Nmとなった。

    【考察】本症例は回復期病棟にて歩行トレーニングを約5か月間実施したが、歩容は2動作揃え型であった。身体機能面からは、更なる改善の可能性が期待できる状態であった。退院直前の歩行因子を見ると、立脚終期の足関節が軽度底屈位であり、SPも低値を示していた。これは、揃え方での歩行のために下肢後面の軟部組織が伸長されず、推進力を生みだすことができていないことを反映している。先行研究において、T-Supportは麻痺側股関節前面に配置された弾性バンドが麻痺側下肢の立脚期に伸長され、下肢機能を補助することで、片麻痺者のストライドを延長させ、SPを増大させることが明らかとなっている。本症例においても、装着により即時的に前型歩行が可能となり、最大背屈角度とSPが増大した。T-Supportは従来、入院患者の理学療法場面で使用されることが多かったが、本症例では週2度の訪問リハビリテーションに加え、T-Supportを貸し出した上で家族に装着方法を習得させ、自宅内でT-Supportを装着した歩行トレーニングを継続して実施した。その結果、10か月後には未装着の状態前型歩行が可能となり、背屈角度・SP値などの歩行因子も退院直後に比べ著明に向上する結果となった。

    【倫理的配慮,説明と同意】本研究は,当院倫理委員会の承認を得て実施された。またヘルシンキ宣言に基づき,対象者の保護に十分留意し、対象者には本研究の目的について説明し、同意を得た後に実施した。

  • 松下 一輝, 畑中 良太, 今岡 真和, 岡 健司, 肥田 光正, 古井 透
    セッションID: 21
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/08/20
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    【はじめに、目的】

     寝たきり患者の臥位姿勢は仙骨部に圧が高くなり、仙骨部は褥瘡の好発部位となる。そのため仙骨部の除圧を目的に座位姿勢がとられる。また除圧を目的とし、褥瘡予防の体圧分散とずれ予防のために股関節、膝関節、足関節を90°にする「90°ルール」に従った座位姿勢がとられる。しかし、座位が不安定な患者は「90°ルール」の適応が困難となる。「90°ルール」が適応できない場合、膝関節の屈曲角度が仙骨部に対し、どのような影響を与えるのかを研究した報告は見当たらない。本研究の目的は、座位姿勢における膝屈曲角度の違いにより仙骨部の座圧がどのように変化するかを検証することである。

    【方法】

     対象は、下肢に疾患を有しない健常な成人男性を対象とし、対象者数は10人(年齢21歳)とした。実験前測定項目として、①身長、②体重、③SLR(Straight Leg Rising)角度を測定した。次に、昇降式ベッドにて膝関節60°屈曲位で座位姿位をとり、座圧分布測定システム(住友理工株式会社 SRソフトビジョン数値版)を使用し仙骨部の座圧(以下、座圧)を計測した。続いて膝関節40°屈曲位、膝関節20°屈曲位と順に同様手順にて計測した。測定時の注意点として、目線を水平にし、なるべくリラックスした座位姿勢をとらせた。測定時の足関節は底屈位となるように測定した。また、各膝関節屈曲角度において矢状面の静止画の撮影を行った。画像データをrysis(座位姿勢計測用ソフトウェア)にて、座位姿勢を数値化した。統計解析は、統計ソフトSPSS ver.22を利用し、膝関節屈曲角度と座圧、膝関節屈曲角度と座位姿勢計測値をFriedman検定にて統計を行った。座圧変化量とSLR角度、座圧変化量と頭部線変化量、座圧変化量と上部体幹線変化量、座圧変化量と胸骨線変化量、座圧変化量と骨盤線変化量との関係性について単回帰分析を行った。有意水準5%または1%で行った。

    【結果】

     膝関節屈曲角度と座圧に有意な差がみられた。膝関節屈曲角度と上部体幹線、膝関節屈曲角度と胸骨線に有意な差がみられた。その他の座位姿勢計測値との、有意な差は認められなかった。また単回帰分析についても有意な回帰式は得られなかった。 膝関節屈曲角度が鈍角に変化することにより、座圧が高くなった。しかしSLR角度と座圧は関係していないことが分かった。リクライニング式車椅子では膝関節を伸展位にする場合があり、仙骨部への座圧が高くなると考える。また膝関節屈曲角度の変化は、何らかの姿勢制御の働きにより下部体幹ではなく上部体幹に影響を与えると考えられた。

    【結論】

     今回、本研究により膝関節屈曲角度と座圧、膝関節屈曲角度と座位姿勢計測値との関連性が明らかとなった。膝関節伸展位での座位は仙骨部の座圧を高め、上部体幹の姿勢に影響することが分かった。

    【倫理的配慮,説明と同意】

    本研究は、大阪河崎リハビリテーション大学の研究倫理員会規則に従い、審査を受けたのち実施した。(承認番号:OKRU29-B154)

    ヘルシンキ宣言に基づき、被験者には事前に研究の趣旨ならびに目的・方法を文書及び口頭にて説明を行い、同意が得られれば同意書に署名してもらい実験を行った。

  • -駆動効率を活用した車椅子シーティング-
    谷口 公友
    セッションID: 22
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/08/20
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    【はじめに】車椅子の走行性能を計測するには、計測装置を搭載した実験用の車椅子を用いていたため、実際に当事者が使用している車椅子の走行性能を計測する試みがなかった。しかし、車椅子自体の性能評価以上に車椅子シーティングの一環で、その車椅子が当事者にとって適合しているか客観的に評価する方法が必要である。そこで、今回当事者本人が乗っている車椅子に加速度センサを取り付け、車輪にかかる力(駆動力)と車体にかかる力(推進力)を計測した。同じ車種に乗っていても車椅子に伝わる推進力が異なれば、車椅子のセッティング(車軸位置や座角など)を変更する必要性を判断することが出来る。また、セッティングの変更により、駆動性が向上しているかを客観的に評価することが出来るようになるので、シーティングにおける評価指標として加速度を使用した方法が利用できないかと考え、計測実験を試みたので報告する。

    【方法】被験者として車椅子当事者5名(せき損Th9、固定車1台・折畳車4台)と健常者1名(40代男性、固定車)に対して実験を行った。右車輪軸①と車体(座面下部)②に加速度センサを計2か所設置した。屋内の平坦な直線路に静止した状態から20m先まで普段移動するように車椅子を漕いでもらった。計測は各4回行い、その平均値を用いた。サンプリング周波数200Hz。体重による差が出ないように標準化を行って駆動力と推進力を分析した。

    【結果】計測の結果、走行時の当事者の車体には約60Nの推進力がかかっていることが分かった。セッティングが十分でない健常者の車体には約40Nの推進力しかかかっていなかった。また、同じ車種においても駆動効率(推進力/駆動力)が2倍も異なる車椅子があった。

    【考察】固定車の車椅子の駆動効率が非常に高く、特にスピードに乗った惰行期での駆動効率は、他の車椅子と比較すると格段に良いことから、折畳車と固定車の主観的な乗り心地の差異だけでなく、駆動効率を客観的に計測することが出来た。また、固定車でも健常者が乗ったものは、駆動効率が非常に悪かったことから車椅子の仕様(固定か折畳)よりも車椅子の適合が重要であることが明らかとなった。つまり、固定車であっても乗る人の身体特性に適合する車椅子に乗っていなければ、漕いでも上手く車椅子に力が伝達されないため、身体負担から不良姿勢などへとつながることが考えられる。このことから、常に適合した車椅子に乗ることが重要であるため、駆動効率をシーティングの指標として今後活用していくことが必要であると考える。

    【結論】今回、加速度センサを使用した当事者本人の車椅子による実験結果は、計測用車椅子による結果とほぼ同じような値であった。このことから、今後車椅子のシーティング評価指標として本手法を効果的に導入することが期待される。

    【倫理的配慮】

    (1)人間の尊厳および人権の擁護(プライバシー、身体面、精神面等への配慮)

    本研究は、「臨床研究に関する倫理指針」を遵守し、各機関の倫理委員会の承認を得て実施する。データは研究を担当するスタッフのみがアクセス可能とし、内容が第三者の目に触れないように、また、データが漏洩しないように、作業方法、作業場所、データ保管方法等を厳重に管理する。研究成果の公表に際しては、個人が特定されることのないように配慮する。

    (2)個人が受けるおそれのある心身上の危険性および不利益の排除方法

    計測実験の内容には、既往年数、症状や痛みに関することを聞く部分があるため、嫌な思い出を想起させる可能性や、説明同意の際に時間を要すること、慣れない環境による不安や疲労による不利益の可能性も考慮し、計測実験への参加は、研究協力者の自由意思によるものであること、調査辞退の権利があることを書面で説明する。いつでも調査を辞退できること、また、辞退をしても、不利益は一切生じないことを書面にて説明する。

    【説明と同意】

    相手の理解を求め同意を得る方法(説明の内容等)

    「臨床研究に関する倫理指針」に則り、文書を用いて説明し、説明した内容を被験者が理解していることを確認した上で、自由意思によるインフォームドコンセントを文書により取得する。その際、本研究に参加するか否かは被験者の自由意思に基づいて決定して良いこと、研究に参加しなくても不利益を受けないこと、一旦研究参加に同意した後でも特段の不利益を受けること無くいつでも同意を撤回できること、ただし、同意撤回以前に学会、論文等で発表した結果は取り消さないことを十分に説明する。

    【資料(データを含む)・生体試料を管理する者】

    所属 ㈱モルテン 健康用品事業本部 開発統括部 研究学術Gr 谷口公友

    【個人の情報を管理する者】

    所属 ㈱モルテン 健康用品事業本部 開発統括部 研究学術Gr 谷口公友

  • ‐車椅子駆動の重要性‐
    村上 平, 山田 義範, 髙橋 雄平, 隠岐 裕子, 松坂 大輔, 難波 邦治, 古澤 一成
    セッションID: 23
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/08/20
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに】脊髄損傷者は、麻痺の影響で活動量や基礎代謝が低く、健常者よりも生活習慣病のリスクが高い。そのため、健常者以上に活動量を増やすことが重要といわれている。健常者では、1日の身体活動で消費するエネルギー量(以下:身体活動量)において理想とされる目標値があり、歩数などを指標としている。しかし、車椅子で生活する脊髄損傷者には1日の身体活動量に関する報告がなく、具体的な指標もない。今回、入院中の脊髄損傷者の車椅子走行から身体活動量を推測する目的で、1日の車椅子走行の速度、時間、距離、漕ぎ数を計測した。

    【方法】2011年から2017年の間に当センター入院中、車椅子駆動を移動手段とする胸髄損傷者16名を対象とした。年齢は39.7±14.1歳、性別は男性15名と女性1名、体重は57.3±7.7kg、損傷レベルは上位胸髄4名と下位胸髄12名、AISはA13名とC2名とD1名である。

     日常的に使用しているモジュラー型車椅子に、漕ぎ数と走行距離が計測できる車椅子活動量計測装置を24時間装着し、得られた車椅子走行のデータから、平均速度、走行時間、走行距離、漕ぎ数を算出した。また、我々の先行研究における「車椅子駆動速度別の運動強度」を用い、「1.05×体重(kg)×運動強度(METs)×運動時間(時)」によって身体活動量を算出した。

    【結果】1日の車椅子走行において、平均速度は2.8±0.6 (1.6~3.7) km/h、走行時間は1.4±0.5 (0.6~2.4) 時間、走行距離は4.1±1.9 (1.2~8.7) km、漕ぎ数は2964.2±1308.5 (1317~6645) 回、身体活動量は176.3±72.6 (76.9~365.8) kcalであった。( )内は最小値~最大値とした。

    【考察】厚生労働省は、生活習慣病予防として、健常者では身体活動量の約300kcalを歩行で補うことを目標値としている。本研究の対象者が1日の車椅子駆動で補うとすると、多くの者が目標値を下回ることがわかった。この結果は、院内生活における活動範囲と速度の制限が、入院中に体力低下を招く可能性を示しており、脊髄損傷者の身体活動量を把握する上で非常に参考となる。身体活動量の増加を図るには、速度よりも走行時間を増加させる方が現実的である。従って目標値を満たすには、2時間30分以上の車椅子走行が望ましいと推測される。

     今回、損傷高位や麻痺の程度が身体活動量に影響すると予測したが、残存機能が良好でも低値を示した症例は存在した。車椅子駆動は歩行と同様に目的的行動であり、活動意欲が低いと走行時間の減少に伴い身体活動量が低下する。そのため、日常生活動作だけでなく、身体活動量の評価と介入も重要であることを再認識する結果と言える。

     脊髄損傷者における身体活動量の増加には、座位時間の拡大だけでなく実際に駆動することが重要であり、入院中から活動意欲を高めていく役割を理学療法士は担っている。その手段として、日常生活以外の運動習慣作りや、身体活動量のフィードバック、スポーツなど社会参加に向けた情報提供が、身体活動量の増加に貢献できると考える。

    【倫理的配慮,説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言の内容に基づき行い、個人に不利益がないよう得られたデータは匿名化し、個人が特定されないよう配慮した。

  • -車椅子背部の背張り調整と徒手的治療手技を行った一症例-
    石田 文香
    セッションID: 24
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/08/20
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    【はじめに,目的】車椅子背部の材質が駆動力に影響を及ぼすことは健常者を対象とした先行研究で述べられているが,体幹機能の不良な頚髄損傷患者を対象に車椅子背部の背張り調整を用いて駆動について検討した例は少ない.今回,坂道での駆動動作時に痛みが出現し,動作が困難となった頚髄損傷の症例を担当した.車椅子背部の背張り調整による姿勢の修正と,骨格筋に対する徒手的治療手技を用いた介入を行った.坂道駆動動作障害に対する効果を検討したので,考察を加え報告する.

    【方法】主観的経験や成果を測る評価指標であるカナダ作業遂行測定(Canadian Occupational Performance Measure,以下COPM)により目標と治療戦略を立案.疼痛スケール(Numerical Rating Scale,以下NRS),坂道駆動動作,QOL評価(MOS36-Item Short-Form Health Survey,以下SF-36v2TM)を用いて効果判定を行った.症例は30歳代後半男性.家族と暮らし,無職.8年前海へ飛び込み第5頚椎を破裂骨折し頚髄を損傷,第5頚椎置換前方固定術施行.他院急性期リハ,術後2ヶ月で回復期リハ,術後6ヶ月で通院リハ,術後2年で施設入所.施設退所後,2年前に当院外来リハを週1回で開始.Zancolli分類右C6BⅠ,左C6A.両手支持有で座位保持可能.両手グローブ使用し,車椅子駆動可能.X日,坂道駆動にて全周期通して上部体幹屈曲,肩甲骨前傾挙上位.中期より肩甲骨挙上増強,肩外転し,僧帽筋,三角筋前部・中部線維にNRS8~10/10の強い収縮時痛出現.循環改善目的に左僧帽筋,三角筋に対する徒手的治療手技を用いて介入し,NRS4まで疼痛軽減.X+7日,再来院時,疼痛NRS8~10/10に再増悪し,徒手的治療手技に加え,車椅子背部の背張り調整により,体幹伸展方向へ誘導し姿勢の修正を行った.坂道駆動時の上部体幹屈曲,肩甲骨前傾挙上位が減り,疼痛NRS2~3まで軽減.車椅子背部の背張り調整継続し,再来院したX+11日,NRS1/10まで軽減.本発表は坂道駆動時の疼痛が増強し外来リハに来院したX日を初期評価,X+11日を最終評価とした.

    【結果】初期評価→最終評価で記載.COPM (遂行度/満足度)坂道を上るときの痛みを減らす(3→6/3→7).坂道駆動時の左三角筋前部・中部線維の収縮時痛NRS8~10/10→1/10.坂道駆動動作にて上部体幹屈曲,左肩甲骨挙上位軽減.SF-36v2TM下位尺度得点は身体機能60→80,身体日常役割機能100→100,体の痛み41→84,全体的健康感67→75,活力75→81.25,社会生活機能100→100,精神日常役割機能100→100,心の健康85→85.疼痛が軽減した坂道駆動動作を獲得した最終評価後,外出機会が増加した.

    【結論】本症例は坂道駆動動作にて残存機能を過度に使い,強い収縮時痛が出現していた.骨格筋に対する徒手的治療手技を用いた介入に加え,疼痛が出現していた動作の原因の一つである姿勢に対して,車椅子背部の背張り調整を行ったことで,修正した姿勢が持続し疼痛の少ない坂道駆動動作が獲得出来た.

    【倫理的配慮,説明と同意】

    ヘルシンキ宣言に基づき患者に対し,症例報告より理学療法の効果判定,必要性を第7回日本支援工学理学療法学術大会にて報告する旨を説明し同意を得たのでここに報告する.

  • 白銀 暁, 高嶋 淳, 星野 元訓, 岩崎 洋
    セッションID: 25
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/08/20
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    【はじめに】独力で座位を保てない者に対し,シーティングと総称される座位姿勢改善アプローチが行われるが,現状,その評価は見た目や経験,勘といった定性的なものが多い.このため,シーティングの臨床的有用性は広く認められながらも,そのエビデンスは十分明らかにされていない.座位姿勢は,シーティングの評価において最も基本的な情報である.これを定量化するためのツールとして画像解析ソフトや傾斜計を応用した計測装置などが既に製品化されているが,計測に時間と手間を要することなどから使用は限定的である.一方,近年,身体の3次元位置情報をより簡便に取得する手法として,深度センサ付きRGBカメラを応用した計測システムが普及しつつある.これは,前述の課題解決に繋がる高い可能性を持つが,実際の使用例の報告は見当たらない.そこで,今回,我々のシーティング・クリニックで同システムを1年間使用した経験から,その利点と欠点とを整理する.

     

    【方法】対象は,シーティング・クリニックを受診し,理学療法士による介入を行った8例.深度センサ付きRGBカメラを用いた座位姿勢の計測システムとして,Mobile Motion Visualizer鑑(システムフレンド社製)を使用.カメラ位置を固定し,対象者の向きを変えて6方向(正面,右前方,左前方,右側方,左側方,後方)から座位姿勢を記録した.得られたデータは,初期姿勢の記録や介入前後の比較を目的として,上部体幹(胸骨線)の前額面および矢状面上角度として数値化された.これら実際の計測から解析までの過程,およびその結果に関して検討を行い整理した.

     

    【結果】期間中,同システムを用いて計59回の計測を実施,1例あたりの計測回数は7.4回であった.1回の計測に要した時間は約1分間で,スムーズに行えた.最多17回の計測を実施した事例は当クリニックを定期的に受診し,PTによる介入前後の計測を6回実施できた.うち一回の解析結果を例示すると,正面で介入前86.7/31.2度(前額面/矢状面),介入後88.6/32.0度となり,その差が定量的に確認された.一方,同システムの使用開始当初,ソフトウェア上の設定等の問題から計測値に歪みが生じ,妥当な値が得られないことがあった.

     

    【考察】同システムによる評価によって,座位姿勢に対する介入に関して,その前後の違いを部分的にではあるが定量化できた.他の3次元計測機器と異なり,計測準備や計測後の解析に大きな手間がかからず,計測自体もスムーズに行える点は,多忙な臨床において大きな利点と考えられた.しかしながら,我々が当初体験した計測値の歪み等,注意すべき点もあった.特に,カメラから見て奥行方向(矢状面)の情報に関しては,計測原理に起因するものであるが,その信頼性に関して問題を指摘する報告もある.総合的には,簡便に定量的な情報が得られることから,シーティングのエビデンス構築に繋がるデータ形成の一助となることが期待された.

     

    【倫理的配慮,説明と同意】本発表内容は,臨床での計測結果を後方視的に纏めたものであり,個人情報も含まれていない.

  • 比嘉 康敬, 中谷 知生, 水田 直道, 堤 万佐子, 田口 潤智, 笹岡 保典
    セッションID: 26
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/08/20
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    【はじめに・目的】

    近年,理学療法の歩行トレーニング場面において,歩行介助ロボットを用いる機会が増えている.今回,歩行速度の向上に難渋した大腿切断者の歩行トレーニングにおいて,リーフ株式会社製歩行リハビリ支援ツールTreeを利用したことで即時的に下肢筋活動と歩行速度が改善したので,考察を交え報告する.

    【方法】

    対象は急性下肢虚血により左大腿切断を呈した70歳代男性である.発症後約1ヶ月経過時点で当院に入院し,4ヶ月経過時点から大腿義足(マジックテープ式ライナーソケット,油圧式多軸膝継手,サッチフット)装着下での歩行トレーニングを開始した.身体機能は右下肢筋力(MMT):股関節屈曲5,伸展および外転4であった.歩行はロフストランドクラッチ(以下LC)を用いて片腋窩軽介助で可能であったが,切断側に上手く荷重を乗せる事が出来ず揃え型となっていた.そこで,本症例にTreeを使用することで,より安定した歩行を提供し,効果的な歩行トレーニングが可能になると考え効果検証を行った.計測は10m歩行を①LC,②Tree③Treeで20分間歩行トレーニング後LCの順に実施した.なお,持続効果の検証として毎日20分間Treeを用いた歩行トレーニングを約1週間実施し,④LC,⑤Treeを再評価した.Treeの設定は症例が最も歩き易いと感じた歩行速度(0.6m/sec)とした.測定項目は切断側の立脚期前半における大臀筋筋活動(GM)と足圧変化,歩行速度,strideとした.筋電図は歩行周期中の最大振幅で除すことで正規化を行い平均振幅を算出した.足圧変化は足圧計(PiT:リーフ株式会社)にて算出された,切断側下肢立脚期の前後荷重変化時点(前足部の荷重成分が踵部を上回った時点)を用いた.

    【結果】

    各測定項目の結果は計測を行った順(①②③④⑤)に,GM(%)は30.5±8.5,53.3±9.3,45.8±9.6,59.4±8.7,74.4±12.1,足圧変化(%)は76.2±5.8,64.5±5.2,65.6±4.9,61.0±5.7,55.6±3.1,歩行速度(m/sec)は0.32,0.59,0.52,0.57,0.62,stride(m)は0.65,0.95,0.87,0.91,1.00であった.TreeはLCと比較して歩行速度やstride,GMの値が増加し,足圧はより早期に前方へ荷重を移行させることが可能となった.また,歩容も前型歩行へと変化し,即時交換やその後の持続効果も得られた.

    【考察】

    本研究結果から,Treeは歩行速度やstrideを増大させ,進行方向への重心移動を円滑にさせることが示唆され,これはTreeが安定性や症例に合わせた適切な歩行速度を提供できたことが影響したと考える.またGM筋活動量の増大は,前型の歩行を促せたことが要因であると考える.

    Treeは他のロボットと異なり,直接利用者の身体に装着せず,グリップを握った利用者の側方で歩行動作を誘導できるため,様々な歩行状態に適応できる可能性があると思われる.

    【倫理的配慮,説明と同意】

    本研究はヘルシンキ宣言に基づく倫理的原則に配慮し,被験者に研究の目的,方法を説明し同意を得た.また所属施設長の承認を得て実施された.

  • 佐野 敬太, 細井 雄一郎, 中橋 亮平
    セッションID: 27
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/08/20
    会議録・要旨集 フリー

    【緒言】大腿義足や股義足使用者において、義足への荷重に対する恐怖感が高い症例は多く、歩行獲得の阻害因子となり得る。活動範囲が屋内での歩行や短距離の屋外歩行に止まる切断者で主として使用される膝継手は、電子制御等を有する膝継手と比べ、急激な膝折れのリスクが高い。また、義足への荷重に対する恐怖感を回避するために固定式膝継手と同じような歩容を呈することが多い。しかし、膝継手を固定した歩容はエネルギー効率が悪く活動範囲の狭小化に繋がるとされており、膝継手が遊動での歩行獲得が望まれる。今回、義足への荷重に対する恐怖感が高い股関節離断術術後患者を担当し、入院初期より、義足への荷重に対する恐怖感と荷重率を定期的に評価し、経過に応じて義足の調整を行った。その結果、膝継手が遊動での歩行自立に至った為、報告する。

    【症例紹介】症例は60代の男性で、平成29年4月上旬に左下腿蜂窩織炎と診断され、4月中旬に左股関節離断術施行となる。6月上旬に当院へ転院となり、術後70日に股義足を作製した。

    【評価】評価は2週間毎に実施した。評価項目は、義足への荷重に対する恐怖感と荷重率とした。義足への荷重に対する恐怖感は10段階で聴取し、荷重率は平行棒内にて体重計を用いて立位で測定し、体重で除し比率を算出した。

    【経過】当院入院初期より切断側荷重練習を開始し、股義足完成後、平行棒内での荷重練習、ステップ練習を実施した。歩行は平行棒内で両手把持から開始し、平行棒内片手歩行、松葉杖、片側ロフストランド杖へと能力の向上に応じて移行した。その間リハビリテーション科専門医、義肢装具士と相談し、適宜義足の調整を行った。術後137日で病棟内を片側ロフストランド杖使用し歩行自立となり、術後184日に自宅退院となった。

    【考察】術後70日は義足への荷重に対する恐怖感は7/10、義足への荷重率は47.2%であり、平行棒内にて歩行可能であったが、膝折れがみられていた。術後96日には、荷重に対する恐怖感は5/10、義足への荷重率は60.0%となり、片側ロフストランド杖を使用し見守りで歩行となったが、膝継手は固定した歩容を呈していた。術後137日には、荷重に対する恐怖感は3/10、義足への荷重率は70.0%となり、膝継手は遊動での歩容で、片側ロフストランド杖を使用し自立で歩行可能となった。本症例は、義足完成初期では義足への荷重に対する恐怖感が強く、義足への荷重率も低い値を示していたが、経過に応じて義足を調整し、運動療法を実施した結果、歩行自立に至った。今回、義足への荷重に対する恐怖感と荷重率を定期的に評価し、推移に応じて義足を調整したことが歩行能力向上の一助となったと考えられる。

    【倫理的配慮,説明と同意】ヘルシンキ宣言に基づき、本発表の趣旨について説明を実施し同意を得た。

  • 門倉 悠真, 福崎 千穂, 石井 直方
    セッションID: 28
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/08/20
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    【はじめに】足趾把持力は姿勢制御能力と関係があり、把持力の低下は転倒の危険因子として注目されている。足趾把持力のトレーニング方法に関する先行研究はいくつか報告されているが、靴のインソールでトレーニングすることができれば、普段の生活の中で、より簡便に、継続的にトレーニングを実施することが可能となる。そこで本研究では、足趾把持力を高めるためのインソールを検討すること、その継続的な使用が足趾把持力に与える効果について評価することを目的とした。

    【方法】

    実験①:対象は健常若年者3名とした(平均年齢24.8歳)。足趾に圧が加わると足趾把持関連筋が活動するという仮説のもと、足趾圧を増大させることを目的に足趾部分を補高したインソール(Type1)、足趾以外を補高したインソール(Type2)、加工を加えないインソール(Type3)を用いて、Type3と比べて、Type1、Type2では足趾圧が高くなるか評価した。インソールの素材はEVA(Ethylene-Vinyl Acetate)を用いて、被験者の足に合わせて加工し、硬度は35度に設定した。足趾圧は各インソールを着用し、歩行立脚後期の足趾圧を測定した。

    実験②:対象は健常高齢者25名とし、Type2を12週間着用させる群10名(平均年齢72.1歳)と、12週間何も実施しないコントロール群15名(平均年齢69.3歳)とに分けた。介入の前後に、足趾機能(足趾把持力、足趾ピンチ力、足裏2点識別覚、足趾2点識別覚)、下肢筋力(膝関節屈曲・伸展力、足関節底屈・背屈力)、歩行能力(10m歩行速度、10m歩行時の歩幅と歩隔、最大1ステップ距離、最大2ステップ距離)、バランス能力(Functional Reachテスト、重心動揺検査、クロステスト)を測定し、インソール群はインソール着用中の歩数も記録した。分析は介入の有無、測定時期による2元配置分散分析を行った。その後、TukeyのHSD検定を用いて多重比較を行った。また、歩数と歩数以外の各測定項目の介入前後の変化率との相関関係をPearsonの相関係数を用いて検討した。なお有意水準は5%とした。

    【結果】

    実験①:足趾圧はType3と比べるとType1、Type2はともに足趾圧が高くなったが、Type1の方がより増大した。この結果から足趾Type1が最も効果的であると考えられたが、Type1のインソールを着用した被験者からは疼痛の訴えが多かったため、日常生活への応用を考え、Type2で介入実験を実施することとした。

    実験②:足趾把持力、Functional Reachテストにおいて、有意な交互作用が認められ、インソール群では、介入前後で有意差が認められた。また、インソールを着用して歩いた歩数が多いほど、足趾把持力、Functional Reachテストの実験前後の差の変化率が大きい傾向を示した。

    【結論】足趾部分に加工を加えたインソールを着用することで、立脚後期の足趾圧が増大することが示唆された。また、足趾以外を補高したインソールを着用し、歩くことで足趾把持力が向上し、姿勢制御能力が向上することが示唆された。

    【倫理的配慮,説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に則って実施し、被験者に対して事前に研究の目的や方法、実験に伴う危険性に関して口頭および文章で十分な説明を行い、書面にて研究参加への同意を得た。なお本研究は東京大学研究倫理専門委員会の承認を得て実施された(承認番号15-28)。

  • ~Forefoot rockerの課題~
    梅田 匡純, 森下 元賀, 河村 顕治
    セッションID: 29
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/08/20
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    序論

     脳卒中患者の歩行再建を目的とした長下肢装具(以下,KAFO)は,生活場面での実用性に向けた一つのプロセスであり,短下肢装具(以下,AFO)や裸足歩行へとつなぐための治療用装具として重要な位置を占めることに議論の余地はない.しかし,そこにはバイオメカニクスに基づいたKAFOの適応技術が必要となるが,AFOに比べKAFOの特性を検証する報告は少なく,関わる担当者の経験則に委ねられているのが現状である.

     足・膝継手2つの継手を有するKAFOは,その調整の組み合わせにより床反力から受ける関節モーメントに変化を与えることが可能であると推察できる.今回その変化について.床反力解析から検証を行ったので紹介する.

    方法

     対象は,健常者13名(男性2名,女性11名,年齢32.5±6.5歳)を対象とした.右下肢にゲイトソリューション付KAFOを装着し,足継手と膝継手に制限と解除など以下の条件のもと,通常歩行の際の床反力と関節モーメントを測定した.測定条件は,膝継手の固定と解除のそれぞれにダブルクレンザック継手で足背屈制限を下腿前傾角(Shank Vertical Angle:SVA)0°で設定した場合としない場合の4条件に加えて装具なしの合計5条件とした.全条件においてGSの油圧目盛りは3に設定し足底屈制動を行った.

     フォースプレート(AMTI社),ToMoCo-Lite(東総),ToMoCo-FPm(東総),そしてビデオカメラ1台を使用し,通常速度になるとされる4歩目を矢状面からの二次元解析を行った.解析は,①垂直成分第1峰と谷の時間割合(立脚中期の時間),②垂直成分第1峰に対する第2峰の割合(第2峰の大きさ),③前後成分の前向きピーク値(足部の推進力),④立脚中期における股関節伸展外的モーメント(股関節の推進力)について比較検証を行った.統計処理は反復測定による一元配置分散分析を行い,有意水準は5%とした.

    結果

     膝継手固定の条件では,足継手の条件に関わらず前後成分の前向きピーク値が有意に小さく,足部の推進力は小さい結果を示した.また膝継手を固定し足背屈制限を行わない条件においては,立脚中期の時間を早期に迎えることに加え,第2峰が小さく,股関節の推進力が大きく働く結果となり,他の条件に比べて特異的な変化を示した.

    考察

     立脚相の股関節伸展に関して,足継手背屈を行わないKAFOの有効性は増田らによって述べられており,今回の結果からも立脚中期の時間や股関節伸展外的モーメントにおいてその傾向が認められたと考える.一方で、Forefoot rockerにみられた第2峰の低下と前後成分の前向きピーク値低下は,前遊脚期に必要となる床反力が乏しいことを示唆させ,長谷の報告するForefoot rockerの困難さを裏付けるものと考えられる.

    結論

     KAFOの膝・足継手を調節した各条件間で床反力解析を行った.その結果,膝継手固定・足継手背屈解除の条件では,立脚前半の股関節伸展が促されるが,Forefoot rockerの床反力低下を認め,前遊脚期に対する課題がみえた.

    倫理的配慮,説明と同意

     本研究は,吉備国際大学の倫理審査委員会の承認を得て実施した(承認番号 15-41).被験者には研究の目的・内容・方法について十分な理解を得た上で文書にて同意を得たのち実施した.

  • 中瀬 智子
    セッションID: 30
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/08/20
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    【はじめに】今回,交通事故による頭部外傷により遷延性意識障害と筋緊張低下を呈し,基本動作に全介助を要した症例に長下肢装具を用いた歩行練習を行った.これにより,起居動作と端坐位保持能力の改善を認めた症例を経験したので報告する.

    【方法】症例紹介:10代後半,男性,家族と5人暮らし,受傷前ADL自立.診断名:びまん性軸索損傷,両側前頭葉脳挫傷.現病歴:乗用車の後部座席に乗車中,正面衝突により受傷,救急搬送され入院,回復期病院を経て当院入院となる.

    介入初期,意識レベルE4V1M3,MAS全般的に0~1と筋緊張低下を認めるが,足関節は2と足クローヌスを認めた.起きあがりは伸展パターンが出現し,端坐位保持は立ち直り反応を認めず頸部保持困難で姿勢保持に全介助を要した.立ち上がりは長下肢装具の使用に関わらず全介助を要し,声掛けによる頭部挙上は困難なため動画視聴による刺激入力を行い立位訓練を実施した.足関節背屈角度に制限が認められたためヒール付き長下肢装具を使用していたが背屈角度が0度に改善したためヒールを除去し背屈角度を5度に設定し歩行練習開始、その後背屈角度を8度に変更し歩行練習を継続した.

    【結果】介入後意識レベルはE4V1M4と改善を認め,筋緊張は介入初期と著変なく推移した.起き上がりでは頸部の立ち直り反応が認められるようになりon handからon elbowは動作介助に対する協力が得られるようになった.端坐位保持は軽介助となり動画視聴による刺激入力を行うと自力での頸部保持が10分可能となった.長下肢装具による歩行では前方より動画視聴による刺激入力を行うと頸部保持での歩行が可能,また重心移動の介助を行えば自力で右下肢の振り出しがみられるようになった.

    【考察】脳卒中ガイドライン2015によると,脳卒中に対し早期から装具を使用した歩行練習が推奨されており有効性が認められている.本症例は頭部外傷であるが長下肢装具を使用した歩行練習により覚醒状態の改善と歩行能力の改善を目指した.介入当初足関節背屈角度には制限が認められヒール付き長下肢装具を使用した立位練習を行いながら足関節可動域改善目的にてウルトラフレックス足継手の短下肢装具を使用した.歩行練習当初背屈角度5度に設定したが歩行介助量軽減と歩行距離が一番伸びるようにその後8度に設定し歩行練習を継続した.抗重力伸展位と股関節の伸展を伴う歩行は歩行能力の改善が期待できるだけでなく,覚醒状態の改善も期待ができる.今回は股関節と体幹の抗重力保持だけでなく,頸部の保持も確保したうえで歩行距離を伸ばせたことが覚醒状態と基本動作能力の改善に寄与したと考えられた.

    【倫理的配慮,説明と同意】本報告はヘルシンキ宣言に基づき,本人同席のもと家族に口頭にて説明,書面にて同意を得た.

第5回日本予防理学療法学会学術大会
再発予防、疾病予防、健康増進への理学療法オペレーション―次代に向けて理学療法分野を切り開く―
特別講演
  • 宮地 元彦
    p. C-13
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/08/20
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     平成18 年度に介護予防事業における運動器の機能向上プログラムが導入された。平成19 年には,日本整形外科学会が運動器症候群(ロコモティブシンドローム:ロコモ)の概念を提唱し,運動器の機能低下を予防する活動を始めている。脳卒中や心筋梗塞といった生活習慣病の予防と改善の取り組みに加え,超高齢社会における高齢者の健康維持に,運動器の機能低下を予防の重要性は益々高まっている。

     我々は,平成21 年度厚生労働省の「介護予防に係る総合的な調査研究事業」の一部として,サルコペニアの判予防・改善のための適切な運動介入法を明らかにするためのシステマティックレビューを実施し,サルコペニアを評価する客観的指標の一つである骨格筋量を増加させるための高齢者を対象とした運動介入として,高強度のレジスタンストレーニングが必要であること,筋力の向上には中強度以上のレジスタンストレーニングでも有効であることを示唆した。

     平成25(2013)年に厚労省は,健康づくりのための身体活動基準2013(アクティブガイド)を公表した。アクティブガイドの策定のために実施されたコホート研究を対象としたメタ解析では,1 日2 ~ 3 分の身体活動の増加が関節の痛みなど運動器の機能低下やうつ・認知症などの発症リスクを2.2%減少させることが示唆され,生活習慣病の発症リスク0.9%減,がんの発症リスク0.8%減と比較して,身体活動の増加による予防の効果がより大きく期待できることが示唆された。

     本講演では,上記のエビデンスに加えて,リハビリテーション分野でのアクティブビデオゲームの活用効果に関する多くの研究のシステマティックレビューとメタ解析の結果も併せて紹介し,身体活動と運動の指導による運動器の機能低下予防の効果と留意点について考察・検討したい。

  • 山田 実
    p. C-15
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/08/20
    会議録・要旨集 フリー

     サルコペニアとフレイルは高齢者の多くに認められる症候であり,主要な要介護要因に挙げられるとともに,リハビリテーションの阻害因子,再入院や再発の危険因子となっている。つまり,セラピストの活躍の場となる医療機関,介護機関,さらには地域のフィールド等,あらゆる場面でサルコペニア・フレイルに遭遇することになる。そのため,これらに対する基礎的情報はセラピストとして有しておくべき知識であり,他職種と適切な連携を図りながらマネージメントしていく必要がある。なお,フレイルの一要素である身体機能低下(≒身体的フレイル)はサルコペニアとオーバーラップする部分が多く,本講演ではこれらをほぼ同義と扱い対策方法を講じる。

     サルコペニアに対しては運動と栄養の併用介入が有用であり,このことは複数のシステマティックレビューおよびサルコペニア診療ガイドライン2017 年版でも示されている。運動の中でもレジスタンス運動が推奨されており,負荷量のみならず量(回数・セット数)を十分に担保しながら仕事量を高めること,さらにこれらの運動を継続することが重要と考えられている。栄養面ではタンパク質・アミノ酸の摂取が推奨されており,これらを適切に摂取することで骨格筋量増加および筋力増強効果が期待できる。本講演では,高齢者における運動や栄養に関する基本情報を整理するとともに,介入の実際について解説を行うこととする。

海外招聘教育講演
  • ̶ Preventive Strategies ̶
    Wah Yun LOW
    p. C-17
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/08/20
    会議録・要旨集 フリー

      There is an alarming trend in the shift of changing lifestyle changes due to rapid urbanization and modernization. The socio-behavioral risk factors e.g., unhealthy diet, tobacco use, sedentary lifestyles are common characteristics of developing countries who is facing the economic transition and is affecting the health of its nation. Based on WHO data, insufficient physical activity contributes to 3.2 million deaths and 69.3 million DALYs each year. People who are insufficiently inactive have a 20% to 30% risk of all-cause mortality. Physical inactivity will lead to poor health outcomes and can cause non-communicable diseases, such as heart disease and stroke, diabetes, cancers, other chronic diseases and depression. More behavioral change activities are warranted to increase recreational physical activity. The community can play a great role in promoting physical activities via community participation and inclusion, a holistic physical education program, diversity, responsiveness and sustainability. Advocating a healthy lifestyle through physical education and health promotion campaigns, mass media and support groups is deemed necessary and further research is needed to develop more innovative preventive health strategies in building healthy communities.

シンポジウム
  • 大渕 修一
    p. C-19
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/08/20
    会議録・要旨集 フリー

     日本予防理学療法学会では,予防理学療法学を「国民がいつまでも“参加”し続けられるために,障害を引き起こす恐れのある疾病や老年症候群の発症予防,再発予防を含む身体活動について研究する学問である」と定義した。予防には,元気なときからの心がけである一次予防,リスクが顕在化してからのリスク制御の二次予防,既に発症してからの再発予防である三次予防があるがいずれにおいても,物理療法を含む,身体活動の予防的効果は高い。産業部門においては,職場内で問題となる腰痛や怪我,嚥下部門においては誤嚥性肺炎,そして栄養部門においては生活習慣病と高齢期の新型低栄養と関連する領域は多い。

     こうした部門との相互作用で学術的に期待されるところは,俯瞰的価値の創造である。日本理学療法士学会を母体としているため横断的に議論をすることなしにはどうしても職域拡大としてのエビデンスの後付になりがちである。各部門と連携することによって,哲学の領域で議論することが可能となり,純粋な科学を追求することができる。

     予防理学療法学として確立したいものとして,アクションリサーチなど予防理学療法学に必要とされる方法論を発展がある。StaRI 声明など実践研究における方法論の合意の動きがあるが,科学的に再現可能,さらには類似の研究と比較可能なものとするには,各部門と研究報告を続け,方法論の合意のプロセスが必要と考えている。特に介入のプロセスの定量的な記述は鍵になると考えている。一方,これは同時にプロトコルの巨大化を招き研究実施の閾値を上げる。各部門との連携によってこの大きな課題を解決したい。

  • 山崎 重人
    p. C-20
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/08/20
    会議録・要旨集 フリー

     産業保健分野における理学療法の現状と展望について展開し,これを機に産業保健領域への理学療法士参画の議論が活発になる契機になることを期待する。【現状】日本理学療法士協会では,近年の多様化する労働者の健康確保,生産年齢人口の減少,および高齢労働者の増加などへの対応が重要な課題になっており,理学療法士の知識と経験は諸問題解決の一役を担えるのではないかと考えるに至り,産業保健に関わる理学療法士の育成の検討に着手しだした。 2013 年に日本理学療法士協会内に産業理学療法部門を設立し,産業保健分野で活動できる人材育成カルキュラム案と産業保健理学療法の定義案の作成,および各種研修会の開催,介入効果の学会発表,また各腰痛予防講習会での実技講師などの活動をしている。しかし,産業保健分野で各専門職と働いたことがほとんどない環境にある我々は,勤労者にはもちろん各専門職にさえ,この分野で何ができるのかが認知されていないうえに,労働安全衛生法の中でも50 人以上の職場での選任の明記はされていない。【展望】我が国における一次予防領域,高齢労働社会,健康経営と両立支援への貢献を視野に,人材育成・エビデンスの構築・対外的な発信力の強化の 3 つの課題に取り組んでいく。①人材育成;この分野の理学療法定義・人材育成カルキュラム案が成案となり活動の加速化を進める。②エビデンスの構築;一次予防領域での介入効果蓄積は急務である。③対外的な発信力;理学療法士の専門性を産業保健分野の各専門職に認知してもらうことが最重要であると考える。理学療法士の強みである(個別)機能評価ができることを背景に,定年延長に伴う高齢労働社会化,それに伴う機能評価結果と職場環境のマッチング・マネジメント役としての参画を期待している。また,衛生管理者の資格取得を図るなどの取り組みも,この分野に参画する方法としては有用と考えている。これらの視点,取り組みから理学療法士の一次予防領域への参画を視野に,今後の活動を更に進めていく所存にある。

  • 吉田 剛
    p. C-21
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/08/20
    会議録・要旨集 フリー

     栄養・嚥下理学療法部門は,リハビリテーション栄養における栄養理学療法や,何らかの疾患により摂食嚥下障害をきたした対象者への嚥下理学療法を行うといった治療場面から,フレイル・サルコペニアの予防,オーラルフレイルや老嚥およびサルコペニア嚥下障害の予防,誤嚥性肺炎の予防などの予防場面まで幅広く対応する必要があります。

     栄養と運動の重要性については,身体活動性を維持するためにも不可欠なものであり,予防理学療法においても基本的な部分です。また,栄養を摂取する手段としての口腔・嚥下機能を低下させないように予防することは,誤嚥性肺炎を予防するという生命に関わる部分であるだけでなく,食を楽しむといった豊かな健康寿命を延伸させることにも関わる問題です。これらを認識して,多くの理学療法士が基本的理学療法として栄養・嚥下理学療法に取り組むことが大切であると考えます。

     しかし,栄養・嚥下理学療法に関するエビデンスは少なく,多職種が関与する分野である中で役割をきちんと果たせておらず,これらの予防に必要な知識や技術に関する理学療法士教育の遅れ,アイテムの作成や地域における啓発の機会の整備の遅れなど,課題は山積しています。介護予防などの場では,すでにロコモ予防・認知症予防と並んで,栄養と嚥下に関する啓発が行われていますが,さらによい資料の作成,行動変容につながるアプローチ方法,自己管理能力を高めるための簡便なチェック方法などを考案して,一次予防から取り組んでいけるように予防理学療法学会と連携していきたいと考えます。

パネルディスカッション
  • 道下 竜馬
    p. C-23
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/08/20
    会議録・要旨集 フリー

     高齢化が進む我が国では,労働人口の減少によって生じる労働生産性の低下が企業の重要な課題となっており,近年では健康管理を経営課題として捉えてその実践を図ることで労働者の健康の保持・増進と企業の生産性向上を目指す「健康経営」の概念が普及している。最近では身体的な健康面だけではなくメンタルヘルス対策や長時間労働への取り組みを全社的に実施し,労働者の健康増進を図る企業が増加している。一方,健康運動指導士とは,公益財団法人健康・体力づくり事業財団が認定する資格であり,スポーツクラブや保健所,病院などにおいて,健康増進や疾病予防・改善を目的に安全かつ適切な運動プログラムを考案・指導する専門家である。健康運動指導士は,厚生労働省が認定する健康増進施設のほか生活習慣病予防を中心とした特定健診・特定保健指導における運動指導や地域での介護予防,運動と食育を組み合わせたスポーツ栄養など運動・スポーツを中心とした予防分野で幅広く活躍している。

     近年の我が国の労働者は,メタボリックシンドロームやロコモティブシンドローム,メンタルヘルス不調,睡眠障害など多くの健康問題を抱えており,今後,企業における健康保持・増進活動を推進するにあたり,産業医のみならず保健師(看護師)や管理栄養士,理学療法士,健康運動指導士など多くの職種が共同参画して労働者の健康問題に関わることが重要と考えられる。本発表では,演者らがこれまでに企業で行ってきた健康保持・増進活動とその効果について,企業における健康運動指導士の役割について概説する。

  • 中谷 淳子
    p. C-24
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/08/20
    会議録・要旨集 フリー

     2018 年6 月29 日,働き方改革関連法案が可決し,働き方改革実行計画がいよいよ本格的に動き出す。長時間労働の是正や治療と仕事の両立をはじめ,各々の計画において産業保健にかかる期待は大きく,第13 次労働災害防止計画においても産業医・産業保健機能強化の重要性が述べられている。また,2010 年頃より元は米国で広がった健康経営が日本にも取り入れられるなど,近年働く人々の健康確保対策は政府・経済界にとって重要事項となっている。

     働く人々の健康確保対策には,企業の人事労務担当者や健康保険組合も重要な役割を持つが,特に中心的な役割を果たすのが産業保健を専門とする保健医療職である(以下産業保健スタッフとする)。産業保健スタッフは,産業医を中心に看護職(以下産業看護職とする),衛生管理者,時に臨床心理士や健康運動指導士,管理栄養士等から成る。産業看護職は産業保健スタッフの中で労働者の最も身近な立場にあり,労働者の個別・集団・組織ニーズに応じて,支援するスタッフをきめ細かにコーディネートする役割がある。

     産業看護職が携わる仕事は,安全で快適な職場環境づくり,作業による身体負荷の軽減策提案,健康保持増進対策,休職者の復職支援(障害が残った社員の就労支援も含む),治療と仕事の両立支援など多域に亘るため,いかに多くの社会資源や専門家と繋がり的確な支援を提供できるかが腕の見せ所のひとつでもある。これらの活動は,労働者の高齢化に伴い益々重要性を増しており,理学療法士の専門性に期待されるものは大きいと考える。今回,我々産業看護職が直面している具体的な課題や活動を紹介し,理学療法士との共同について各パネリストの先生方,参加者の皆様と考えてみたい。

  • 赤津 順一
    p. C-25
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/08/20
    会議録・要旨集 フリー

     産業保健活動の目的は,①業務に起因する健康障害を予防し,②仕事と労働を調和させ,働く人の健康度を最高度に維持し,③安全と健康に良い働き易く生産性の高い職場づくりに寄与すること,と要約することができる。産業保健活動は,労働安全衛生法では事業者の責務として実施することとなっているが,事業者が対応出来る知識や経験を有することは少なく,産業保健専門職が事業者の義務の実行を代行・支援している。そのため,産業保健専門職は,医療知識に加えて,企業活動の意味,事業者の責任と立場,職場における労働者の役割等について理解しておく必要がある。また,職場で行われる産業保健活動は,労働者本人のみならず事業主や職場活動全体に対するものであり,医療機関で患者個人に対して行う臨床医療とは,異なる視点からの対応が求められることを知っておきたい。

     労働衛生の基本は,健康管理,作業管理,作業環境管理の3 管理であるが,作業や動作への対応である作業管理の重要性が見直されている。たとえば,休業4 日以上の労働災害では,災害性腰痛が全体の64% と最多であり,事故の型別でも転倒,墜落・転落・動作の反動や無理な動作等,動作に起因する労働災害が多発している。また,働くことのできる高齢者を創ることが期待される高齢化社会では,動作機能や体力を評価し維持向上させることと,機能低下を補完する作業改善を行い働きやすい職場を作ることが必要で,作業管理の視点を包含するエイジマネジメントが重要と考えられている。

     動作の専門家である理学療法士には,動作の視点から働き方や職場の見直しへの関与が求められる。職場に出向き,作業を診て,労働者の話を聴いて対応できる理学療法士が増えることを期待したい。

  • 牧迫 飛雄馬
    p. C-27
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/08/20
    会議録・要旨集 フリー

     近年,理学療法の領域に限らず,疾病発症や障害発生の予防を目的とした取組の重要性はより一層に高まっており,社会ニーズに対応した研究課題としても重要な位置づけとなっている。とりわけ,予防理学療法領域においては,疾患の領域を問わずに発症予防のほか,重度化予防,さらには再発予防に至るまで,一連で包括的な視野が必要であり,すべてのライフステージが対象となり得るため,予防理学療法領域としての研究対象も幅広い。

     「予防」を達成するための戦略には,大きくは二つの重要な視点が求められるものと考える。ひとつは,目指すべき予防のターゲットにおける危険因子をいかに低減していくか,である。もうひとつは,保護因子をいかに強めていくかである。そのため,予防理学療法領域で行うべき課題として,予防すべき事象の危険因子と保護因子をどれだけ同定できるかが大切であろう。次には,その危険因子を低減し,保護因子を強化するための効果的な方法を明らかにすることであろう。さらには,そのことによって,まさに「予防」を達成できたかを示すことが最終的な目標となるであろう。これらの課題を達成するためには,研究課題と同時に,どのようなアウトカムを設定するかが非常に重要となる。また,その「予防」が達成されることの意義を明確にすることも重要であり,かつ,その意義が社会に与える影響を考慮することで,予防理学療法に関わる研究の社会還元価値がさらに高まるものと考える。

     本講演では,これまでに予防理学療法に関わるテーマで報告してきた研究成果の一部を紹介するとともに,これまでの研究活動を通して感じる今後の課題や展望についての意見を提示し,ディスカッションの基となる話題を提供したいと考える。

  • 神谷 健太郎
    p. C-28
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/08/20
    会議録・要旨集 フリー

     世界でもトップレベルの長寿社会を実現した我が国の最も重要な課題として,平均寿命と健康寿命の乖離を縮小していくことがあげられる。循環器病と脳卒中の特徴の一つとして,軽快と増悪を繰り返しながら長期的に身体機能やQOL が低下することがあげられ,両疾患の入退院にかかわる医療費は全医療費の20% を占め,がんの1.5 倍におよぶ。このような我が国の状況を鑑み,日本循環器学会と日本脳卒中学会は,関連19 学会と協力して『脳卒中と循環器病克服5 ヵ年計画』を作成し,脳卒中と循環器病による年齢調整死亡率を5 年間で5%減少させること,健康寿命を延伸させることを,大目標と設定し,これらの目標を達成するために,3 つの疾患(脳卒中・心不全・血管病)に対し,5 つの戦略(人材育成,医療体制の充実,登録事業の促進,予防・国民への啓発,臨床・基礎研究の強化)をかかげて実行している。これらの疾患の1 ‒ 3 次予防において身体活動は極めて重要な介入ポイントであり,理学療法士が担う役割は大きい。近年の報告では,さまざまな研究で循環器疾患のリスクファクターが認知症,フレイル・サルコペニア発症のリスクファクターになることが示されており,循環器病の予防活動はこれらの老年症候群の発症・進展抑制につながる可能性がある。

     本パネルディスカッションでは,循環器領域において取り組むべき課題と現状について提案し,皆様と議論できれば幸いである。

  • 建内 宏重
    p. C-29
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/08/20
    会議録・要旨集 フリー

     運動器理学療法が対象とする疾患は多岐にわたるが,それらの多くの運動機能障害に対して理学療法による効果が示されている。しかし,疾患あるいは障害の進行予防に関するエビデンスはほぼ皆無である。特に,運動器疾患の中でも患者数の多い変形性股・膝関節症は慢性進行性疾患であり,疾患進行予防は重要なテーマである。変形性股・膝関節症においても,筋機能低下や歩行障害など機能障害の改善に理学療法が貢献し得ることは認められているものの,疾患進行予防に理学療法がどの程度貢献できるかは不明である。その原因の一つに,疾患進行に関わる危険因子の特定が不十分であることが挙げられる。変形性膝関節症においては,膝関節の機能障害の程度や歩行時膝関節過負荷などが疾患進行の危険因子として知られており,これらは理学療法により修正可能であると思われる。しかし一方,変形性股関節症においては,年齢や性別,遺伝的要因や骨形態異常などの危険因子が報告されているが,これらは理学療法による改善が困難であり,理学療法の守備範囲において危険因子は見つかっていなかった。

     そこで我々は,理学療法で対応可能な因子の中から疾患進行の危険因子を特定するために,1)歩行時の股関節負荷,2)股関節・脊柱の機能障害,の2 つの観点から調査を進めている。そのなかで,1)1 歩行周期における股関節負荷と1 日の歩数との積から算出される股関節累積負荷,および2)脊柱の前傾姿勢および脊柱柔軟性低下が,変形性股関節症の進行に関連する因子であることが明らかとなった。本結果は,疾患進行予防に向けた第一歩であり,今後,それらの因子を変化させることによる予防効果を検証する必要がある。ただし,運動器疾患の予防のためには医療機関のみでの対応には限界があり,新たな仕組みが必要であろう。

市民公開講座
  • 檜垣 靖樹
    p. C-31
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/08/20
    会議録・要旨集 フリー

     スロージョギング® の生みの親である,田中宏暁先生(享年70 歳,福岡大学名誉教授)は,ヒトが無意識に走り出すスピードが時速6 ~ 7 km であることから,それ以下で走ることをスロージョギング® と定義した。多くの方がジョギングはきつい,と感じてしまうのは,走るスピードが速いためである。あえて,ゆっくり,歩くようなスピードでジョギングを行うと,主観的なきつさはウォーキングと変わらないが,消費するエネルギー量は約1.8 倍になる。すなわち,同じスピードで“歩く”場合と“走る”場合は,スピードが遅くてもエネルギー消費量が大きく異なる。主観的なきつさが同じであれば,ゆっくり走ったほうが肥満などの解消には効果的である。この「ゆっくり走る」ということを,スロージョギング® と名付けたのである。

     運動はきついと長続きしない。ゼエゼエ,ハアハアするような,呼吸が激しくなるようなジョギングは,スロージョギングとは言えない。私たちは,ニコニコしながらお友達と会話ができる運動を,ニコニコペース® の運動と呼んでいる。ニコニコペース® の運動は,高血圧,肥満症,糖尿病,脂質異常症,心臓リハビリテーションなどの,いわゆる生活習慣病の予防及び治療として有効であることがわかっている。ニコニコペース® でスロージョギングを行うと加齢に伴い減少した筋肉量を増やすこともわかってきた。私たちは,平均年齢70 歳の方を対象に,1 分間のスロージョギングと1 分間のウォーキングを組み合わせた,運動トレーニングを,1 週間で80 セット,12 週間行うと,スタミナと下肢筋量が増加することを見出した。誰もが気軽にできるスロージョギング® は,元気で長生きするための効果的な運動である。

     健康づくりのために何か運動を始めようとされている方,まずは1 分間のスロージョギングと1 分間のウォーキングを組み合わせて,10 分間の運動から始めてみませんか。

ランチョンセミナー
  • 島田 裕之
    p. C-32
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/08/20
    会議録・要旨集 フリー

     加齢とともに増加する認知症は,著しい生活障害を引き起こし要介護状態の主たる原因となっている。認知症の根治療法や予防薬の開発が確立されていない現在において,認知症を予防もしくは発症を遅延させるための方法を検討することが求められている。

     認知症の大半を占めるアルツハイマー病の発症と強く関連する因子として,身体活動の低下があげられており,運動習慣の獲得は認知症予防の面から重要であることが示唆されている。運動がアルツハイマー病予防に有効であるメカニズムはいくつかの仮説が存在し,運動による神経新生,神経栄養因子の発現,アミロイドβ クリアランスの向上などが動物実験で明らかにされてきた。近年では,人においても運動の実施により脳容量の増大が確認されており,運動によって過剰分泌する脳由来神経栄養因子と脳容量との関連が明らかにされ,認知症予防のための運動療法の重要性が認識されるようになった。本セミナーでは,運動が脳の健康に及ぼす影響と認知症予防の可能性について紹介する。

  • 福谷 直人
    p. C-33
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/08/20
    会議録・要旨集 フリー

     近年,理学療法士の働き方が多様化しており,その一つに保険外での産業分野に進出する産業理学療法がある。その中で株式会社バックテックでは,肩こり,腰痛アプリ“ポケットセラピスト®”を開発・運営しており,導入企業・利用者及び産業理学療法を実践する理学療法士も急増している。遠隔診療や遠隔相談が資本市場で広がる中で,ICT を利用することによるメリットは,医療職側にもユーザー側にも非常に大きい。そして,このような時代の変化の中にいる我々が,今後,保険外や予防分野で活躍していくためには,大学等で受けてきた教育の知識・技術では通用しないため,全く異なる視点が必須となってくる。本公演では,ポケットセラピストの事例をもとに,産業理学療法の課題と今後の可能性について会場全体で議論し,我々の新しい未来を切り拓いていく機会にしたい。

  • 吉村 芳弘
    p. C-34
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/08/20
    会議録・要旨集 フリー

     リハビリテーション(リハ)を行う多くの高齢者にサルコペニアを認める。サルコペニアの有症率は地域在住の高齢者で6 - 12%とされているが,本邦の回復期リハを行う高齢者では約50%と報告されている。サルコペニアはリハの帰結に負の影響を及ぼすことが認識されている。サルコペニアの原因として加齢,低栄養,低活動,疾患が知られており,原因に応じて対応が異なる。したがって,全てのリハの対象の高齢者に対してサルコペニアのスクリーニングと評価を行い,さらに原因に応じた丁寧な対策が必要である。本講演では特に蛋白質,分岐鎖アミノ酸(BCAA),ロイシン,中鎖脂肪酸(MCT)など栄養介入の最近のトピックスを中心に述べる。

口述演題
  • -筋力との関連性とリスク管理-
    天米 穂, 松本 大夢, 荻原 勇太, 井元 淳
    セッションID: O-1-1
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/08/20
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに、目的】

    内部疾患患者におけるバルサルバ現象は、リスク管理の面から避けるべきであると、さまざまな研究で指摘されている。しかしながら、バルサルバ効果と瞬間最大筋力との関連性を示した研究は乏しい。よって本研究では、バルサルバ効果の有無がバイタルサインに及ぼす変化と瞬間最大筋力にどのような影響を与えるかを検証することを目的とした。

    【方法】

    被験者は年齢18~22歳の健常人31名(男性 16名、女性15名)とした。バルサルバ法時と呼気時の等尺性膝関節伸展筋力(以下、筋力)をそれぞれ2回ずつ測定し、バイタルサインとして血圧、脈拍および経皮的酸素飽和度(以下、SpO2)の測定を安静時、筋力測定直後、筋力測定後5分経過時の3回実施した。

    【結果】

    筋力、収縮期血圧では呼気時に比べバルサルバ法で高い値を示した。バイタルサインの変化において、筋力測定直後にバルサルバ法では収縮期血圧上昇、SpO2低下を認めた。呼気時では収縮期血圧上昇と脈拍増加を認めた。

    【結論】

    瞬間最大筋力増強の要因として、胸腔腹腔内圧上昇によって腹筋群の緊張や体幹の安定性が向上したことが考えられる。収縮期血圧は両方法とも筋力測定直後に高い値を示し、バルサルバ法では呼気時と比較して有意に上昇していた。これは圧受容器反射による影響が考えられる。脈拍は呼気時において筋力測定直後で高い値を示した。これは循環応答に加えてベインブリッジ反射による影響が考えられる。いずれの項目でも安静時‐筋力測定5分後において有意差は認められず、バイタルサインの変化は緩徐であったため、健常人ではリスクになりうる強度ではなく、バルサルバ法による瞬間最大筋力の増強は可能であることが示唆された。今後の課題として、中高年者や高齢者などに対しても検証を行い臨床応用に繋げる必要がある。

    【倫理的配慮,説明と同意】

    本研究は、ヘルシンキ宣言を遵守し個人情報の取り扱いに配慮し、被験者の同意を得て実施した。

  • -有酸素優位運動と無酸素優位運動に分けて検討する-
    若林 由羽, 荒井 朗, 宇津木 笑香, 篠崎 陽一, 白井 貴之, 竹内 良太, 平林 克仁, 真壁 理沙, 新谷 益巳
    セッションID: O-1-2
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/08/20
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに、目的】日本人のストレスについて国民生活基礎調査(厚生労働省2016年)では、国民(12歳以上)の47.7%の人が日常生活でストレスを感じていると報告されている。ストレスは蓄積されることで生体防御機構である内分泌系、免疫系、自律神経系のバランスが崩れ、ストレス性疾患を発症する可能性がある。そこで、このストレスを軽減する試みの1つとして運動によるストレス軽減効果の検証が進められている。本研究では、ストレス軽減効果を目的とした運動処方において、運動習慣形成因子に着目し、この因子が運動強度の決定に影響を及ぼすか検証を行った。

     

    【方法】A大学健常男子学生6名を被験者とし、厚生労働省の基準に基づき運動習慣の有無によって2群(運動習慣群3名・非運動習慣群3名)に設定した。運動強度は、6分間運動負荷試験を実施し、Astrand-Ryhmingノモグラム変法を用いて推定VOmax算出した。被験者には中3日空けた2日間を設定し、推定VOmax40%(1日目)と推定VOmax70%(2日目)の運動強度で自転車エルゴメータを使用した20分間の定負荷運動を実施した。この定負荷運動によってストレス軽減効果が得られているかを判定する指標には、POMS2(Profile of Mood States Second Edition)日本語版(以下:POMS2)を用いた。POMS2は「AH-怒り・敵意」「CB-混乱・当惑」「DD-抑うつ・落ち込み」「FI-疲労・無気力」「TA-緊張・不安」「VA-活気・活力」「F-友好」の7尺度とネガティブな気分状態を総合的に表す「TMD-総合的気分状態」から被験者の気分状態を評価することができる。また、統計はSPSS(.Ver22)を用いて「運動習慣群」と「非運動習慣群」の2群間の比較においてt検定を使用した。各群の運動強度別の比較及び運動強度別の運動前後の比較においてrepeated measuer ANOVAを使用した。

     

    【結果】「運動習慣群」と「非運動習慣群」の2群間の比較においてPOMS2の結果に有意差は認められなかった。「運動習慣群」では推定VOmax40%の運動前後でTAに有意差を認め、運動後に減少した。「非運動習慣群」では、推定VOmax40%と推定VOmax70%の運動後を比較したところ、VA、TMDに有意差を認め、VAは推定VOmax40%の運動で高値を示し、TMDは推定VOmax70%の運動で高値を示した。また、推定VOmax70%の運動前後のVAで有意差を認め、運動後で減少した。その他の統計結果からは運動習慣形成因子が運動強度別のストレス軽減効果に影響を及ぼすことを示唆する結果は得られなかった。

     

    【結論】「運動習慣群」と「非運動習慣群」は双方とも推定VOmax40%の運動の方が、ストレス軽減効果が大きく、運動習慣形成因子が運動強度別のストレス軽減効果に影響を及ぼす可能性は低いことが示唆された。このことから、新たに運動習慣の有無ではなく個人の身体的能力因子が運動強度別のストレス軽減効果に影響を及ぼす可能性が考えられた。

     

    【倫理的配慮,説明と同意】本研究は群馬医療福祉大学の倫理委員会の承認を得て行なわれた(承認番号 16B-10)。被験者には、研究内容を口頭と書面にて十分に説明をし、同意書に同意を得た上で実施した。

  • 鹿内 誠也, 植田 拓也, 井上 誠, 長田 美沙季, 畠山 浩太郎, 柴 喜崇
    セッションID: O-1-3
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/08/20
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    【はじめに、目的】

    我が国では急速な高齢化に伴い,高齢者の社会的孤立の解消が課題となっている.一方で,高齢期の定期的な運動は外部社会との交流になると報告されているが,運動習慣のある高齢者において社会的孤立者の存在を調査した研究は少ない.また,社会的孤立に関しては横断研究に限られる為,社会的孤立から脱出する要因や孤立に至る要因について因果関係は明らかになっていない.そこで本研究では運動習慣のある地域在住高齢者における社会的孤立者の割合と社会的孤立から脱出する要因および孤立に至る要因について検討することを目的とした.

    【方法】

    対象は神奈川県内R公園のラジオ体操会会員から募集した65歳以上の地域在住高齢者とした.対象者には社会的孤立の指標として日本語版Lubben Social Network Scale短縮版(LSNS-6)を実施し,社会的孤立の有無より社会的孤立者の数を調査した.また,前述の対象者の内,3年後のフォローアップ時調査に参加した者を社会的孤立の有無の変化より,孤立未経験の人(無し→無し),孤立に至った人(無し→有り),孤立から脱出した人(有り→無し),孤立が継続した人(有り→有り)の4群に分類し,孤立から脱出した人と至った人の2群に対してストレスフルライフイベントアンケート(18項目のライフイベントの有無及び発生時期について)および孤立から脱出した要因,孤立に至った要因について聴取した.

    【結果】

    調査参加者(118名)の内,社会的孤立無しは104名(88%),社会的孤立有りは14名(12%)であった.その内,フォローアップ時調査参加者(74名)の社会的孤立の有無の変化より,孤立未経験の人58名(78%),孤立に至った人6名(8%),孤立から脱出した人4名(5%),孤立が継続した人6名(8%)であった.ストレスフルライフイベントアンケートより孤立から脱出した人では,ベースライン時より前にイベントの発生があり,ある程度時間が経過していた.孤立に至った人はベースライン時とフォローアップ時の間にイベントの発生があり,近い時期に発生していた.孤立から脱出する要因として《自主グループ活動への参加》,《環境への適応》,孤立に至った要因として《他者と親密になることへの敬遠》,《加齢に伴う他者との関係の減少》が挙げられた.

    【結論】

    先行研究の地域在住高齢者における社会的孤立者の割合と比較して,運動習慣のある地域在住高齢者の方が社会的孤立者の割合は少なかった.また,社会的孤立の変化の割合の結果より,約78%の高齢者が人との繋がりを維持しており,運動習慣が外部社会との交流に働いていることが示唆された.孤立から脱出する要因としてストレスフルライフイベント発生からある程度の時間の経過による環境への適応,その後の自主グループ活動の参加が必要だと示唆され,孤立に至った要因としてはストレスフルライフイベントが近い時期に発生したことにより,他者との関わりが億劫になったことや加齢による他者との接触の減少の影響が示唆された.

    【倫理的配慮,説明と同意】

    本研究は研究代表者の所属する機関の研究倫理委員会の承認を得て実施し,対象者には口頭および書面にて十分な説明を行い,書面にて同意を得た.

  • -実践から得られたリハビリテーション専門職活用の課題と今後の展望-
    福嶋 篤, 小川 真太郎, 宮脇 梨奈, 小澤 智絵, 岡 浩一朗
    セッションID: O-1-4
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/08/20
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    【はじめに、目的】S市では、介護予防の推進役として市内53か所の介護予防センターを設置しており、専任の保健福祉専門職を配置して、介護予防の普及啓発、高齢者の活動の場づくり等に取り組んでいる。平成29年度から、市内3区の17か所で、介護予防センターが運動機能向上プログラムを中心とした介護予防教室の実施や、高齢者サロン等において介護予防に効果的なプログラムの支援を行う介護予防センターモデル事業を開始した。この実施には、リハビリテーション専門職(リハ職)が技術支援をし、住民主体の活動の継続を目指していることが特徴である。具体的には、リハ職はモデル事業である「リハビリテーション専門職派遣事業」(リハ派遣事業)において、介護予防教室等に派遣され、住民に対する直接指導や介護予防センター職員に対して体力測定や住民の身体機能評価等の技術支援を行った。現在、地域包括ケアシステム構築を推進する中で、効果的・効率的な介護予防の取組でリハ職の活用が求められているが、具体的な活用方法は十分に示されていない。実際の事業における支援のあり方を検討することで、リハ職が地域において求められている役割を明確にする一助となることが期待される。そこで本報告の目的は、S市のリハ派遣事業初年度の実践を振り返り、本事業におけるリハ職の技術支援の実施状況について調査し、課題と今後の展望を検討することとした。

    【方法】モデル事業対象3区のうち、H区(8か所)のリハ派遣事業を対象として、関連する研修資料、支援時のメール、会議録や報告書等をもとに、リハ職による技術支援の内容や回数等の実施状況について調査した。調査内容を踏まえて、リハ職による技術支援の課題抽出や今後の展望を考察した。

    【結果】8か月間に61回の介護予防教室への技術支援と、延べ71人のリハ職派遣がなされた。技術支援内容は、直接的支援として、「体力測定」「介護予防講話」「運動指導」等の支援が行われた。間接的支援として、「電話・メールでの相談」「研修開催」「リハ職と介護予防センター職員の会議開催」等があった。研修と会議は各2回の開催だった。リハ職による技術支援により、介護予防センター職員による適切な体力測定や効果的な運動指導がなされるようになった。また、リハ職が必要と考える支援内容と介護予防センターから依頼があった支援内容の一部に乖離がみられた。

    【結論】リハ職の技術支援は、介護予防センター職員の体力測定や運動指導の技術向上に効果的だった。しかし、事業開始当初、リハ職と介護予防センター職員の間で技術支援に対する認識共有が十分になされていなかった可能性がある。そのため、リハ職が必要と考える支援・求められている支援の乖離が生じたと考えられた。今後は、早期に研修や会議を開催し、認識を共有する機会を持つことが、効果的にリハ職を活用することにつながると考えた。

    【倫理的配慮,説明と同意】ヘルシンキ宣言に基づき倫理的配慮を行った。また、本発表については事業主体である市介護保険課の了承を得ている。

  • 永徳 研二, 木全 宣彦, 高橋 寛行, 秋吉 知子, 小野 隆司
    セッションID: O-1-5
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/08/20
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    【はじめに、目的】

     介護予防・日常生活支援総合事業の中で地域リハビリテーション活動支援事業は一般介護予防事業に位置付けられており、地域における介護予防の取り組みを機能強化するために通所、訪問、地域ケア会議、サービス担当者会議、住民運営の通いの場等へリハビリテーション専門職(以下リハ専門職)の関与を促進するものである。当院では平成28年度より通所事業所に対する支援を開始した。今回、通所事業所に対する地域リハビリテーション活動支援事業の介入効果について報告する。

    【方法】

     平成28年9月から平成30年2月の期間で杵築市内の通所介護事業所(5事業所)にリハ専門職を派遣し、自立支援に向けた関わりを通所介護事業所職員と共に実施した。具体的な指導内容は「自立支援型通所サービス生活機能向上支援マニュアル」(大分県福祉保健部高齢者福祉課)を参考に、生活機能の課題分析や体力測定方法および運動負荷量の設定、リスク管理等とした。体力測定は握力、開眼片脚立位時間、Timed Up and Go test(以下TUG)、5m歩行時間、30-seconds Chair Stand(以下CS-30)とし利用者19名(男性7名、女性12名、年齢82.5±7.3歳)に対して初回時と最終時に測定した。分析はWilcoxonの符号付順位和検定を用い危険率5%未満を有意水準とした。また、日常生活での変化と目標の達成度および通所介護事業所職員の変化についてはインタビュー調査を行った。

    【結果】

     体力測定では握力(p<0.01)、5m歩行時間(p<0.01)、CS-30(p<0.01)、TUG(p<0.05)に有意な改善を認めた。日常生活での変化と目標の達成度では約8割の利用者において改善を認めた。通所介護事業所職員の変化では「適切な負荷量の設定や、回数およびメニューの変更が出来るようになった」、「定期的に評価する事で利用者の変化が確認でき職員のモチベーションも向上した」などの肯定的な意見を多く認めた。

    【結論】

     地域リハビリテーション活動支援事業においてリハ専門職が通所介護事業所に支援を行うことで、利用者の生活機能の課題が焦点化され、目標設定と適切な運動メニューを結びつけてサービス提供する事が可能となり生活機能の改善が図れた。本事業は通所介護事業所の効果的なサービス提供や地域における介護予防の機能強化に繋がるものと考えられ、今後もリハ専門の積極的な介入が肝要である。

    【倫理的配慮,説明と同意】

     対象者には研究の趣旨と内容および調査結果の取り扱い等について説明し、同意を得て実施した。なお、本研究の参加に際しては、いかなる利益供与もなかった。また、本研究は杵築市立山香病院の倫理委員会における承認を受けて実施した。

  • -大和市障害者自立支援センターと協働しリハビリテーション連続勉強会を実施して-
    小野 雅之, 南 裕貴, 岩淵 裕和
    セッションID: O-1-6
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/08/20
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    【はじめに】現在厚生労働省は平成29年2月「我が事・丸ごと」地域共生社会実現本部決定に基づいて、地域共生社会の実現に向けた改革を進めている。地域共生社会とは高齢者のみならず障がい者、子どもそれぞれの制度が縦割りとなっている状況を、その地域ごとに人と人、人と資源が世代や分野を超えつながることで、住民一人ひとりの暮らしと生きがい、地域をともに創っていく社会を目指すものとされている。当院はこの状況を鑑みて平成28年度から大和市障害者自立支援センターと協働し、障がい福祉サービス提供事業者(以下事業者)との連携構築に努めてきた。そして平成29年度には医療と福祉の更なる連携を目指してリハビリテーション連続勉強会を実施した。この勉強会はリハビリテーション(以下リハ)の視点を支援員による日々の支援に活かしていくことや、リハ専門職と事業者が気軽に相談や連携し合える関係を構築することを目的とした。この一年間の活動を振り返り、考察するとともに今後の展望を述べることにする。

    【方法】リハ連続勉強会は平成29年4月から毎月1回実施し、対象は障がい福祉サービス提供事業者や利用者とその父母とした。勉強会の広報は大和市障害者自立支援センターが行い参加者を募り、講師は当院の理学療法士、作業療法士、言語聴覚士が出来る限り複数名で担当することとした。開催時間はテーマに応じて日中に行ったり、夕方に行ったり適宜調整をした。内容はリハ専門職のそれぞれの職域についてや、意見交換会、支援者の腰痛予防の講話や体操指導、個別相談会、市が公園に設置している健康遊具体験会、事例を基にした相談会、実際の連携事業の報告会、利用者へ提供できる体操指導等と多岐に渡るものとし、事業者の興味が湧くようなものとした。

    【結果】全12回の延べ参加者は219名となり、平均参加者は18.25±8.29名であった。参加者は事業所職員、利用者、父母、他市の養護学校教諭(リハ専門職)、精神疾患を持っている方を対象とした地域活動支援センター等であった。そして当院と法人契約を結んだうえでの訪問指導を希望する事業者が、新たに複数の申し出があった。

    【考察】当院は平成29年度に大和市障害者自立支援センターと協働してリハ連続勉強会を実施した。勉強会を実施することで当院が今までに出会うことが極端に少なかった精神疾患を抱えた方との関りや、養護学校教諭との連携も生まれることになったことからも一定の成果は得られたと考える。地域共生社会の実現を目指すうえでは制度の垣根を超えた活動が必要とされる。そのためには自施設で待っているのではなく、アウトリーチをする必要があると考えている。リハ専門職の知識、技術、能力は障がい福祉サービス提供事業者にも有益であり、リハ専門職には地域共生社会の実現の一翼を担える力があると信じている。

    【倫理的配慮,説明と同意】本研究は勉強会に参加された事業者、利用者の個人が特定できないように配慮して実施した。

  • 井元 淳, 大和 浩, 道下 竜馬, 姜 英, 西山 信吾, 福田 里香, 出口 純子
    セッションID: O-2-1
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/08/20
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    【はじめに,目的】

    加齢に伴う呼吸機能の低下は慢性閉塞性肺疾患(COPD)の発症や高齢者の死亡リスクに繋がるため,若い世代からの呼吸機能低下の予防が求められる.本研究では,喫煙量の違いによる身体特性や生活習慣の相違を明らかにし,またCOPDの所見がない勤労者で身体特性や生活習慣が呼吸機能に影響を与えているのか喫煙状況を加味した上で検討することを目的とした.

    【方法】

    2016年から2年間の健康測定に参加した5企業の男性従業員のうち,心血管・脳血管・呼吸器疾患、癌を有するもの,問診票に欠落があるものを除く262名を対象とした.自記式問診票にて喫煙状況(非喫煙,元喫煙,現喫煙),喫煙者との同居,受動喫煙の曝露頻度,身体活動量(PA)など生活習慣を聴取した.現喫煙者は喫煙量により軽喫煙者(LS)と重喫煙者(HS)に分類した.PAは国際標準化身体活動質問票short versionを用いて強度別PAと1日合計PAを評価した.身体組成は体成分分析装置(InBody720),内臓脂肪面積(VFA)は内臓脂肪測定装置(HDS-2000 DUALSCAN),また呼吸機能検査は電子式診断用スパイロメータ(AS-507オートスパイロ)を用いて測定した.統計学的分析は参加者情報,生活習慣,身体組成,呼吸機能について非喫煙者との比較をロジスティック回帰分析で年齢を調整して検討した.また,年齢,身長,喫煙状況を調整変数とした重回帰分析により呼吸機能に影響を与える要因を検討した.

    【結果】

    非喫煙者と比較し,元喫煙者とHSでは年齢が有意に高く,LSで有意に低かった.ロジスティック回帰分析の結果,元喫煙者は非喫煙者と比較し,脂質異常症の存在,体脂肪率が有意に高かった.現喫煙者は体脂肪率,VFA,喫煙者との同居率,受動喫煙の曝露頻度が有意に高く,高強度PAと1日合計PAは有意に低かった.LSでは脂質異常症の存在と受動喫煙の曝露頻度が有意に高かった.HSでは体脂肪率,VFA,喫煙者との同居率,受動喫煙の曝露頻度が有意に高く,全てのPAと1秒率が有意に低かった.重回帰分析の結果,努力性肺活量(FVC)ではメタボリックシンドローム(MetS)のリスクの存在,体幹筋肉量,VFA,1秒量(FEV1)ではMetSリスクの存在,除脂肪量,VFAが抽出され,1秒率では受動喫煙の曝露頻度のみ抽出された.

    【結論】

    非喫煙者と比較し,現喫煙者は内臓脂肪蓄積型肥満のリスクが高くなることが示唆された.また,現喫煙者は喫煙者との同居や家庭外での受動喫煙の曝露頻度が多く,PAでは身体活動の回数とともに消費カロリーが少ないことが示された.これらは現喫煙者の中でもHSでその傾向が顕著であった.また本研究で,FVCとFEV1は喫煙状況に関係なく筋肉量やVFAなどの身体組成やMetSリスクの有無と有意な関係が見られた.一方,閉塞性の呼吸機能の指標となる1秒率は,喫煙状況に関係なく受動喫煙の曝露頻度のみに有意な関係が認められ,COPD発症の予防策として受動喫煙を避ける必要性が示された.

    【倫理的配慮,説明と同意】

    本研究は産業医科大学倫理委員会の承認を得て実施し(承認番号H28-049),対象者には研究の趣旨およびプライバシー保護に関して十分な説明を行い,同意を得た.

  • -疼痛の性質に着目した検討-
    濱田 和明, 前田 慎太郎, 渡邊 帆貴, 柳原 稔, 高野 有優美, 沖 真裕, 住田 有輝人, 山中 健太郎, 酒井 はるか, 橋本 和 ...
    セッションID: O-2-2
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/08/20
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    【はじめに、目的】

    国民生活基礎調査において腰痛の有訴者率は男性で1位,女性で2位を占め,ガイドラインによると約6割が再発を経験する.医療機関で発症後の患者を診療する我々にとって再発予防は重要な課題と考えられるが,腰痛の発症や遷延に関する報告と比較し再発に関する報告は少ない.そこで,腰痛再発に関わる要因を抽出する上での一助とするため,本研究は,腰痛を発症し当院にて非特異的腰痛にあたる診断を受け,緩解後当院にて同様の診断を再度受けた患者の特徴を検討した.特に,腰痛患者の主訴である疼痛に着目した.

    【方法】

    平成27年4~6月に当院受診し,非特異的腰痛にあたる診断を受けた患者を対象とした.診療録より患者の年齢,性別を,問診票より自覚的疼痛強度(VAS),疼痛の性質を調査し検討項目とした.疼痛の性質の評価にはShort-Form McGill Pain Questionnaire 2(SFMPQ2)を用い,間欠的/持続的/神経障害性/情動的側面の各疼痛スコア,患者が選択した疼痛表現の総数を記録した.対象のうち,初診から3か月以降に当院を再受診し,初診時と同様の診断を受けた患者を再発群,非特異的腰痛による再受診がなかった患者を非再発群と定義し,ベースラインにおける2群間の上記項目の差をMann-WhitneyのU検定,χ2検定を用いて検討した.なお,SFMPQ2の回答が無効であった患者,150日以上継続して通院した患者は除外し,危険率5%未満を有意とした.

    【結果】

    110名(年齢中央値:33歳,男性62名)が解析対象となり,97名が生産年齢であった.110名のうち再発群は17名,非再発群は93名であった.2群間で年齢,性別,VAS,間欠的疼痛,神経障害性疼痛,疼痛表現の総数に有意差を認めなかったが(それぞれp=0.58,0.82,0.39,0.40,0.47,0.09),持続的疼痛,疼痛の情動的側面は再発群で有意に高値を示した(それぞれ中央値14/60点 vs 9/60点:p<0.05,効果量r=0.23,3/40点 vs 0/40点:p<0.05,効果量r=0.21).

    【結論】

    本研究の結果より,腰痛を再発し再受診に至る患者の疼痛の特徴として,再受診以前の発症時における持続的疼痛,疼痛の情動的側面が高いことが示された.腰痛の発症に心理社会的要因が関与していることと矛盾なく,疼痛の情動的側面が再発に関連することが示唆された.初発時においてVASのみにとどまらず疼痛を多面的に評価することは,腰痛の再発予防を考えるうえで重要となるかもしれない.また,サンプルの約9割が生産年齢であるため,勤労者に対しても適応する可能性がある結果と考える.本研究の限界として,当データは当院を再受診した腰痛再発患者のものであり,全ての再発患者を含んだものではないことがあげられる.

    【倫理的配慮,説明と同意】

    本研究は,ヘルシンキ宣言を遵守し,厚生労働省等による医学研究指針に基づき実施した.また,匿名でのデータ使用に関し患者より書面上で同意が得られていたものを対象とした.

  • 岩倉 浩司
    セッションID: O-2-3
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/08/20
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    【はじめに、目的】平成28〜29年度、A市の安全衛生管理者として、臨床の傍ら安全衛生委員会の活動に従事した。A市は職員数約900人を有し、事務職員、看護師・理学療法士等の医療職、保育士、現業職員等多様な職種を有する職場である。安全衛生委員会とは、労働者の危険又は健康障害を 防止するための基本となるべき対策(労働災害の原因及び再発防止対策等) などの重要事項について十分な調査審議を行う委員会であり、総括安全衛生管理者、衛生管理者、委員で構成されている。安全衛生委員会で審議した内容として、脚立からの転倒(脳挫傷)、看護師の急性腰痛症、メンタルヘルスによる休職、転倒骨折等が挙げられた。この中で、事務職員へのVisual Display Terminals(以下、VDT)作業と看護師・介護士の腰痛の両調査と課題に対する改善活動を行った。今回、臨床の理学療法士が、安全衛生委員会において取組んだ改善活動の一部を報告する。

    【方法】事務職員677名に対してVDT作業について、病棟看護師・介護士21名に対して腰痛について、それぞれアンケート調査を実施した。両アンケートの課題に対して、安全衛生委員会にて協議し実現可能で即効性のある改善を行った。

    【結果】VDT調査については、有効回答は395名(回収率58.4%)だった。一日あたりのVDT作業時間で4時間以上は、345名であった。肩・頸の痛みは72.0%、腰の痛み45.0%、頭が痛い38.0%、昼休み以外の休憩は55.0%がしていないとの回答であった。対策としては、VDTタイマーの導入(作業管理)とストレッチ(健康管理)の励行、VDT作業のパンフレットの配布(教育)、5S活動(作業環境管理)を行った。導入後、「いつも長時間座り続けて仕事をしているが、タイマーが気づかせてくれた。」「朝、運動してからすると調子がよい。」との意見が寄せられた。看護師・介護士の腰痛については、21名(回収率100%)であった。腰に辛い作業として、特殊浴場のベッド〜ストレッチャーへの移動介助(71.0%)が挙げられた。対策として、ベッド〜ストレッチャーの移動を、段差解消ボードとスライディングシートを利用した移動方法への介助方法(作業管理)の改善を実施。改善後は、「介助作業がすごく楽になった。」「腰が楽になったし、人が少なくてよくなった。」との声が寄せられた。

    【結論】安全衛生委員会での審議の結果、VDT作業に関しては、長時間の連続作業による静的姿勢が原因となる筋骨格系の痛みが問題であったと判断し、VDTタイマー導入、ストレッチの実施等を中心とした対策を行った。看護師・介護士に関しては、持ち上げ介助による負担の軽減を計るため段差解消ボード、スライディングシート等の福祉用具を使用した介助作業への改善活動を行った。双方ともに勤労者に有益な改善活動が行えた。

    【倫理的配慮,説明と同意】A市安全衛生委員会の審査後に実施した。 質問紙調査の実施にむけて、調査への協力は自由意思によるものとし、調査研究に対して研究目的や方法、結果の処理について依頼文書(資料)を用いて説明した。質問紙調査への協力については調査用紙に記入、返信していただくことで了承を得た。調査は無記名とし、個人や施設が特定されないよう配慮し、調査への協力の有無による不利益を被ることがないこと、調査結果は研究の目的以外には使用しないこと、データの管理は記号化、数値化などの方法をとることにより個人が特定されないよう十分に配慮する旨、文書で説明した。

  • -座位に適した作業環境の検討-
    岡原 聡, 奥田 邦晴, 片岡 正教, 宮垣 慶子
    セッションID: O-2-4
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/08/20
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    【はじめに、目的】 Huysmansらは、オフィスワーク程度の負荷でも自覚症状が発生し続けている場合には、数年後に疼痛が起こりやすくなると報告している。先行研究では、植物工場の播種・移植・定植・収穫の4作業を立位と座位でシミュレーションした結果、「収穫」が最も筋活動量が高く、疲労の訴えも一番多いことから、優先的に作業環境を見直す必要があることがわかっている。今回、収穫に着目し、3条件の作業環境を設定し、光学式三次元動作解析装置を用いて作業姿勢の特徴を抽出した。

    【方法】 対象者は、健常者10名とした。作業環境は3条件を設定し、(a)立位(作業台の高さ:75cm)、(b)座位(作業台の高さ:75cm)、(c)座位(作業台の高さ:対象者の肘の高さ)とし、ランダムに実施した。器材は、(a)(b) では、実際に使用されているトレー(縦70cm×横115cm)を用い、(c)では、上肢長の範囲で作業できる特製のトレー(縦50cm×横50cm)と上肢補助のスリングを用いた。動作分析は、赤外線カメラ8台(MX-T20)を用いた光学式三次元動作解析装置Vicon MX (Vicon Motion Systems社)を使用し、サンプリング周波数を100Hzに設定した。座標系は、空間の前後方向をX軸、左右方向をY軸、垂直方向をZ軸と定義した。Plug-In-Gait FULL BODYモデルより定められた所定の位置に反射マーカーを対象者に合計39箇所に貼付した。解析区間は作業開始前の静止肢位から作業終了後の静止肢位までとした。運動学データはNexus(ver3.7.1)を用い、①頚部伸展、肩関節屈曲、骨盤前傾の最大角度、②重心の前方移動距離を算出した。統計学的手法は、Friedman検定後、有意差を認めたものにBonferroni補正Wilcoxon検定を用いて比較し、有意水準は5%未満とした。

    【結果】

     ①頚部伸展、肩関節屈曲、骨盤前傾の最大角度(°)は3条件で順に、(a)46.6±9.9、87.5±2.4、39.0±8.6、(b)40.2±11.9、88.4±0.8、6.2±8.6、(c)22.0±7.8、77.0±8.1、0±8.8であり、(c)が(a)(b)に比べ全項目で有意に減少した(p<0.05)。また、②重心の前方移動距離(cm)は、(a)19.4±3.1、(b)17.8±2.9、(c)12.7±1.8であり、(c)で有意に減少した (p<0.05)。

    【結論】 植物工場の収穫において3条件で共通した作業姿勢の特徴は、前方リーチ姿勢と頚部伸展であった。収穫はハサミで根と葉を切る作業のため、視覚で最下部の葉を確認する様子が観察され、体幹前傾位での頚部伸展が必要であったと考える。立位と比べ座位では、骨盤前傾角度が有意に減少することが分かった。今回、快適な座位作業を想定して設定した作業範囲の狭小化や作業台の高さ調整等の条件では、重心の前方移動距離、肩関節屈曲、頚部伸展、骨盤前傾の最大角度が有意に減少した。植物工場での高齢者や重度障がい者の就労を提案するにあたり、作業姿勢や作業環境を評価することは、不良作業姿勢を起因とする筋骨格系傷害の予防に有益な検討ができ、勤労者が快適に就労できる環境の提案の一助になると考える。

    【倫理的配慮,説明と同意】本研究は、大阪府立大学総合リハビリテーション学部研究倫理委員会の承認を得て実施した。また、対象者には本研究の主旨を口頭および文書を用いて十分に説明し、書面による任意の同意を得た。

  • -単盲検化無作為化比較対照試験-
    松垣 竜太郎, 伊藤 英明, 松嶋 康之, 佐伯 覚
    セッションID: O-2-5
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/08/20
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    【はじめに、目的】近年、勤労者に対する運動指導を理学療法士が実施することの有用性を示唆する報告が散見され、理学療法技術の産業保健現場への応用が期待されている。しかし、これらの報告は勤労者の集団管理に主眼が置かれているため、被験者には集団指導として同一内容の介入が行われている。労働態様が多様化する今日、集団管理とは別に個別対応での運動指導管理(個別管理)が必要であるが、個別管理の有用性を示す報告はほとんどみられない。今回、産業保健領域現場における個別管理と集団管理が、健常勤労者の身体機能、体格・体組成に与える短期効果を単盲検化無作為化比較対照試験(RCT)にて検証した。

     

    【方法】本研究は従業員数469名の電子部品工場で実施したRCTである。本研究への参加を希望した健常勤労者60名を層化ランダム割付法(年齢により層別化)にて個別管理群(個別群)、集団管理群(集団群)の2群に無作為に割り付け、個別群では被験者個々人に合わせて、月1回、約20分間の運動教育・指導、生活指導、動作指導を理学療法士が計6回実施した。一方、集団群では理学療法士による90分間の健康講話を研究開始月に1回実施した。なお、両群とも運動指導の主目的を体力低下予防、生活習慣病予防等とし、各種運動ガイドラインに準じて指導を実施した。アウトカムは身体機能(握力、30-second Chair stand test: CS-30、閉眼片脚立位時間)、体格・体組成(Body Mass Index: BMI、腹囲、体脂肪量)とし、それらを介入前(T1)と介入開始6ヶ月後(T2)に評価し、T1における群間比較を2標本t検定、χ2検定を用いて行った。また、介入効果の検証として、対応のあるt検定を用いてT1とT2の群内比較、2標本t検定を用いて両群間におけるT1とT2の差を比較した。統計解析にはSPSS ver.24を使用し、有意水準は5%未満とした。

     

    【結果】研究開始後に集団群で1名の脱落があり、個別群30名(46.5±6.5歳)、集団群29名(49.6±7.6歳)で解析を行なった。運動指導参加率は集団群で100%、個別群で99.4%であった。T1の比較ではいずれの項目も両群間で有意差は無かった。T1とT2の群内比較では、個別群は握力(T1: 41.18±9.07, T2: 42.44±9.59)とCS-30(21.48±4.39, T2: 34.24±6.01)で有意な改善を認め、集団群はCS-30(T1: 21.86±3.85, T2: 27.21±6.28)で有意な改善を認めた。群間比較ではCS-30において有意差を認め、集団群と比較して個別群で有意な改善を認めた。その他のアウトカム指標には有意差を認めなかった。

     

    【結論】健常勤労者に対して、理学療法士による個別管理での運動指導と集団管理での運動指導の効果を比較検証した結果、集団管理と比較して、個別管理での運動指導において身体機能の改善を認め、理学療法士による個別対応での運動指導管理が健常勤労者の健康増進に有効であることが示唆された。

     

    【倫理的配慮,説明と同意】本研究は産業医科大学倫理委員会の承認(承認番号:H29-013)を得るとともに、被験者には書面と口頭にて十分に説明を行い、書面にて同意を得た。

  • -廃棄物関連施設の職員に対する個別相談-
    磯 あすか, 大田 幸作, 田舎中 真由美, 津田 泰士
    セッションID: O-2-6
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/08/20
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    【はじめに】当施設では、平成25年度より地域自治体の廃棄物関連施設職員に対する腰痛予防の取り組みを継続している。集団体操を中心とした講習会では個々の身体機能に合わせた対応が難しいことから、平成26年度からは希望者を対象とした個別相談も行っており、その内容を報告するとともに課題について述べる。

     

    【方法】平成26年度と27年度に、のべ19名に対して一人あたり15分~20分の個別相談を行った。内容はヒアリング(発症原因、診断名、治療歴、痛みの程度(Visual Analog Scale : VAS))、基本動作と関節可動域の評価を行い、その結果から腰痛予防のためのアドバイスと運動指導を行った。個別相談から3か月後または3か月後と6か月後にフォローアップのアンケートに回答してもらい、アンケート結果を踏まえてアドバイスを文章で伝えた。アンケートの内容は、腰痛予防講習会で行った体操を継続しているか、体調の変化、医療機関を受診したか、現在困っていることはあるか、痛みの強さはどの程度か(VAS)などであった。

     

    【結果】対象は全員男性であり、平均年齢は47.3±5.6歳、仕事内容はデスクワーク、収集車の運転と収集作業、クレーン操作、焼却炉の整備、施設管理など様々であった。ヒアリングの結果、作業中の発症は47.4%であり、52.6%は作業中ではなく以前からの痛みが持続していた。診断名が明確なのは21.1%で、78.9%が診断名は不明あるいはあいまいな回答であった。治療歴は5.2%(1名)を除いて医療機関や治療院を受診しており、コルセットや湿布薬・内服薬の使用、鍼灸院の利用をしていたが、理学療法を受けているという回答はなかった。痛みの程度は、最大時は平均4.9±2.8、通常は1.7±1.7であったが、基本動作などの評価中に痛みが再現されたのは5.2%(1名)のみであった。ヒアリングと基本動作などの評価結果から予想された機能障害は、骨盤や胸郭のアライメント不良、股関節可動域制限、体幹および股関節の深層筋の弱化、仙腸関節安定性の低下など様々だった。3か月後のアンケートではVASは1.9±1.6、89.5%が講習会で行った体操を継続しており、そのうちの52.9%が体調は改善、36.8%が不変、5.9%が悪化という回答で、体操を継続しなかった10.5%の体調は全て不変であった。6か月後のアンケートは平成26年度のみ行っておりVASは1.7±1.9、90.9%が体操を継続していた。そのうち50%は体調が改善、50%は不変で悪化はなかった。体操を継続しなかった9.1%は体調は不変であった。

     

    【結論】対象者の腰痛の部位や原因、機能障害はそれぞれで異なり、アドバイスおよび運動指導も個々に合わせた内容が望ましいと考えられた。3か月後、6か月後に体調が改善または不変であった職員が多かったことは本対策の一定の成果と考える。しかし、悪化した職員もおり、機能障害の評価・指導方法と効果判定の方法についてもさらに検討が必要である。

     

    【倫理的配慮,説明と同意】結果の集計には個人が特定できないよう配慮し、学会発表の目的や方法について自治体担当職員に説明し同意を得た

  • 三栖 翔吾, 浅井 剛, 土井 剛彦, 澤 龍一, 村田 峻輔, 斎藤 貴, 杉本 大貴, 山田 実, 小野 玲
    セッションID: O-3-1
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/08/20
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    【はじめに、目的】

    予防的な理学療法介入を行う上で歩行機能の評価は非常に重要であり,一般的な指標である歩行速度の測定に加え歩行の質の評価をあわせて行う必要がある。歩行の質を客観的に評価する方法として小型加速度センサを用いた方法が注目されており,いくつかの算出される指標と臨床的アウトカムとの関連性が報告されている。しかし,高齢者の歩行機能を統合的に評価可能な方法はほとんど報告されていない。そこで本研究の目的は,加速度波形から得られた指標を用いて地域在住高齢者の歩行機能を多面的に評価するスコア(歩行スコア)を開発し,その妥当性を検討することとした。

    【方法】

    まず,体力測定会に参加した65歳から85歳の地域在住高齢者364名の内,独歩困難な者,認知機能障害を有する者,歩行に影響を及ぼす神経疾患を有する者,データ欠損者を除いた308名(72.1 ± 4.2歳,女性: 178名)のサンプルを用いて歩行スコアの開発を行った。歩行路は15mとし,小型3軸加速度センサを踵および第3腰椎レベルに装着し,通常歩行にて測定を行った。同時に,中央10mにおける歩行時間を測定した。得られたデータより,歩行速度,ケイデンス,ストライド長,ストライド時間のばらつき(stride-to-stride time variability:STV)を算出,また,歩行時の体幹運動の規則性の指標(autocorrelation coefficient : AC)と円滑性の指標(harmonic ratio : HR)をそれぞれ垂直・側方・前後の3方向において算出した。これら10の指標それぞれにおいて,性別ごとの四分位点より0から3点の得点化を行いその合計点を歩行スコアとした。歩行スコアの内的整合性を検討するためにクロンバックα係数を算出した。バリマックス回転を用いた因子分析を実施しその因子構造を確認した。次に,別サンプルである129名の地域在住高齢者の内,除外基準を満たす者を除いた122名(71.3 ± 4.1歳,女性: 64名)に対し,5-chair-stand test(5CS),タンデム立位,転倒恐怖感,過去1年の転倒経験,フレイルインデックスそれぞれと歩行スコアとの関連性を対応のないt検定を用いて検討し,歩行スコアの同時妥当性を評価した。

    【結果】

    歩行スコアの平均値 ± 標準偏差(最小値 − 最大値)は,14.9 ± 6.3(0 − 30)点であり,クロンバックα係数は0.76であった。因子分析の結果,固有値1以上の3因子(1. STVおよび各方向のAC; 2. 歩行速度,ケイデンス,ストライド長; 3. 各方向のHR)を抽出した。歩行スコアは,5CS,タンデム立位,転倒恐怖感,フレイルインデックスそれぞれと有意に関連していたが(p < 0.05),過去1年の転倒経験との有意な関連性はみられなかった。

    【結論】

    本研究により開発された歩行スコアは十分な内的整合性を有し,3因子構造であった。また,歩行機能との関連性が想定される運動機能や転倒恐怖感,フレイルと有意に関連しており,妥当性の高い客観的な歩行機能評価尺度であることが示された。

    【倫理的配慮,説明と同意】

    本研究は神戸大学大学院保健学倫理委員会の承認を得た後に実施した(承認番号:第72号,181-1号)。事前に書面と口頭にて研究の目的・趣旨を説明し同意を得た者を対象者とし,ヘルシンキ宣言に基づく倫理的配慮を十分に行った。

  • 牧野 圭太郎, 土井 剛彦, 堤本 広大, 中窪 翔, 牧迫 飛雄馬, 島田 裕之
    セッションID: O-3-2
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/08/20
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    【はじめに、目的】高齢者の転倒恐怖感は、歩行能力の低下や活動制限、ADL低下などと関連し、直近の転倒経験がない高齢者にも存在することが明らかにされている。近年、身体的フレイルはその後の転倒発生リスクを増大させることが報告されているが、身体的フレイルが転倒恐怖感に及ぼす影響は十分に明らかにされていない。

     本研究では、地域高齢者を対象とした4年間の縦断調査のデータから、身体的フレイルが4年後の転倒および転倒恐怖感に及ぼす影響を検討した。

    【方法】高齢者機能健診National Center for Geriatrics and Gerontology - Study of Geriatric Syndromesのデータベースのうち、2011年のベースライン調査と2015年の追跡調査の両方に参加した地域高齢者2,470名(平均71.1±4.7歳)を本研究の分析対象とした。なお、ベースライン時点で要支援・要介護認定、認知症、脳卒中、パーキンソン病、うつ病を有する者、Mini-Mental State Examination(MMSE)が20点未満の者は除外した。

     ベースライン特性として、年齢、性別、服薬数、Geriatric Depression Scale、MMSE、身体的フレイルを評価した。なお、身体的フレイルに関しては、体重減少、筋力低下、疲労感、歩行速度低下、身体活動低下のうち1~2項目該当した場合をプレ・フレイル、3項目以上該当した場合をフレイルとした。アウトカムとして、ベースラインおよび4年後における過去1年間の転倒経験と転倒恐怖感を聴取した。

    【結果】2,470名のうち、1,170名(47.4%)が身体的プレ・フレイル、90名(3.6%)が身体的フレイルであった。また、ベースラインにおいて318名(12.9%)が過去1年間に転倒経験があり、1,024名(41.5%)が転倒恐怖感を有していた。

     ベースラインで転倒経験がない2,152名におけるロジスティック回帰分析の結果、4年後に転倒経験を有する確率は、ベースラインでプレ・フレイルもしくはフレイルであった者はそうでない者に対してオッズ比1.57(95%CI 1.20-2.04)であった(転倒恐怖感を含むベースライン特性による調整後, p<0.01)。同様に、ベースラインで転倒恐怖感がない1,446名におけるロジスティック回帰分析の結果、4年後に転倒恐怖感を有する確率は、ベースラインでプレ・フレイルもしくはフレイルであった者はそうでない者に対してオッズ比1.31(95%CI 1.03-1.66)であった(転倒経験を含むベースライン特性による調整後, p<0.05)。

    【結論】地域高齢者において、身体的フレイルはその後の転倒発生に加え、転倒恐怖感にも影響する可能性が示された。高齢者の転倒恐怖感は転倒リスクとなるだけではなく、転倒経験から独立して要介護リスクとなることが先行研究で報告されているが、身体的フレイルの予防は転倒恐怖感の予防にも繋がる可能性があると考えられる。今後、転倒状況や転倒恐怖感についての時系列データを用いたより詳細な検討を行っていく必要がある。

    【倫理的配慮,説明と同意】本研究は、著者所属機関の倫理・利益相反委員会の承認を受けて実施した。ヘルシンキ宣言の趣旨に沿い、対象者には本研究の主旨および目的を口頭と書面にて説明を行い、書面にて同意を得た上で本研究を実施した。

  • ~地域在住高齢者による検討~
    加茂 智彦, 荻原 啓文, 旭 竜馬, 浅見 正人, 石井 秀明, 鈴木 啓介, 西田 裕介
    セッションID: O-3-3
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/08/20
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    【はじめに、目的】

    Rate of Torque Development(RTD)とは、筋力発生率とも呼ばれ、筋の質が評価できるとされている。先行研究では、転倒を経験している高齢者は転倒を経験していない高齢者と比較して、RTDが減少していることや、加齢に伴いRTDが減少することが報告されている。また、先行研究では過去1年間において1回のみの転倒者に比べて、複数回転倒者の身体機能が低下しやすいことが明らかとなっている。このことより、RTDが複数回転倒に与える影響を明らかにする必要がある。そこで、本研究はRTDが複数回転倒に与える影響を検証した。

    【方法】

    対象は地域在住高齢者120名とした。RTDは等尺性膝関節伸展筋力にて測定を行った。ハンドヘルドダイナモメーターをA/D変換器に接続し、膝伸展筋力の時系列データを収集した。測定は2回行い、RTDが高い方を代表値とした。運動開始地点は先行研究を基に基線から4%上昇した地点を運動開始地点と定義した。最大筋力に達するまでの時間をTime to Peak、筋出力の時系列データの曲線下面積をImpulseと定義した。転倒は過去一年間の転倒の有無、回数を調査した。統計解析では非転倒群、転倒1回群、転倒複数回群の比較には一元配置分散分析を実施し、その後の検定でBonferroniの検定を実施した。従属変数に転倒群、説明変数には年齢、握力、歩行速度、膝伸展筋力、RTD、Time to Peak、筋肉量、開眼片足立ち時間、CS-30を入れた多項ロジスティック回帰分析を行った。

    【結果】

    対象者の平均年齢は71.2±4.4歳であった。1回転倒者は24名(20.0%)、複数回転倒者は7名(5.8%)であった。年齢、膝伸展筋力は3群間で有意な差が認められなかった。RTD/kgは転倒1回群と転倒複数回群に差が認められた。非転倒群と転倒複数回群、非転倒群と転倒1回群に差は認められなかった。Time to Peak、Impulse/kgは非転倒群と転倒複数回群、転倒1回群と転倒複数回群に有意な差が認められた。非転倒群と転倒1回群には差は認められなかった。多重ロジスティック回帰分析の結果、転倒複数回群を基準として、RTDのオッズ比が転倒なし群で1.346 (95%CI:1.033-1.752, p<0.05)、転倒1回群で1.422 (95%CI:1.081-1.871, p<0.05)であった。その他の変数に有意差は認められなかった。

    【結論】

    本研究の結果より、RTDは複数回転倒に影響を与えていることが明らかとなった。このことより、地域在住高齢者の複数回転倒の評価には筋力の量だけでなく、質も評価する必要性が示唆され、RTDが有効である可能性が認められた。

    【倫理的配慮,説明と同意】

    研究実施にあたり,全対象者に研究の目的および測定に関する説明を十分におこない,書面にて同意を得た。また,本研究は日本保健医療大学倫理委員会による承認を受けて実施した(承認番号:2906-2)。

  • 松尾 理
    セッションID: O-3-4
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/08/20
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    【はじめに、目的】

     当施設は、平成28年4月より、ADLやIADLが低下した者に対して、短期集中的に生活機能の改善や運動器の機能向上等を目的とする通所型サービスC(以下、当事業)の指定を受け、事業運営している。

     今回、これまでの取組より、当事業の効果検証と今後の課題について整理した。

    【方法】

     対象は、平成28年4月から平成29年12月の期間に当事業の参加者45名。性別は男性11名、女性34名、疾患は整形疾患が最も多く、次いで脳血管疾患であった。介護度は事業対象者が8割であった。平均年齢は81.4±6.8歳、平均利用期間は3.5±1.1ヶ月。

     当事業での取組は、事前に自宅で生活行為の動作能力や生活環境、心身機能を評価し、参加と活動に即した目標の合意形成を図る。得た情報を職員間で共有した後、協働して筋力やバランス機能、柔軟性の強化等を中心としたサービスを提供する。その後は、1カ月ごとに自宅訪問での目標の達成状況確認や動作指導・定着、保険者や地域包括支援センターとのカンファレンスを開催している。

     今回、対象者の介入前と3カ月後の握力、開眼片脚立位、CS-30、5m歩行時間(普通・最大)、Time Up & Go Test、介入前後のLife Space Assessment(以下、LSA)を前後比較し、目標達成度や支援終了後の経過についても傾向をみた。なお、統計処理は、Wilcoxonの符号付順位検定を用い、統計上、有意水準は5%未満とした

    【結果】

     運動機能は、左側の握力を除く項目において有意に改善を認めた。LSAも有意に改善を認め、改善した割合は生活空間3、4の順であった。

     対象者に設定された目標の総数は74個であり、内、屋外移動に関する目標28個(38%)が最も多く、次いで家事21個(28%)、外出14個(19%)、屋内移動7個(9%)の順であった。目標の達成度は、達成が65件(89%)、一部達成が2件(2%)、未達成が7件(9%)であった。対象者別では、未達成者が5名であり、その要因は疾患の症状やその悪化によるものであった。

     支援終了後の経過については、一般介護予防事業への参加22名(49%)が約半数を占め、次いでセルフマネジメント13名(29%)、住民主体サービスへの参加や立ち上げ6名(13%)の順であった。

    【結論】

     今回の結果より、目標は9割近い対象者が達成でき、それに付随した生活空間においても、自宅近隣から町内の圏内において広がりを見せる傾向にあった。また、参加や活動を担保する運動機能は、全般に改善を認めた。これらのことより、当施設は、目的に沿ったサービス特性がなされていると判断できる。一方、支援終了後の経過については、一般介護予防事業への参加に偏る傾向にあった。

     今後は、介護予防・日常生活支援総合事業が求めるセルフマネジメントや住民主体サービス促進の見地より、そのサービス拡充や質の担保に、当事業での取組やリハ専門職としての役割を通じてより一層関与し、町全体のさらなる介護予防推進に寄与していきたい。

    【倫理的配慮,説明と同意】

    対象者には、ヘルシンキ宣言に基づき、あらかじめ口頭にて本報告の内容、個人情報の保護を十分に説明し、同意を得た。

  • -地域在住高齢者における検討-
    解良 武士, 河合 恒, 平野 浩彦, 渡邊 裕, 小島 基永, 藤原 佳典, 井原 一成, 大渕 修一
    セッションID: O-3-5
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/08/20
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    【はじめに、目的】糖尿病は狭心症や心筋梗塞などの冠動脈疾患や脳血管障害のリスクファクターであり、将来の生活機能やQOLにも重大な影響を及ぼす。この糖尿病罹患の影響はこのような重篤な合併症が発生する以前より始まっており、例えば神経伝導速度や末梢神経の減少を呈する糖尿病性末梢神経障害(DPN) は比較的早期から起こることが知られている。また糖尿病患者の筋組成は非糖尿病者に比べ筋線維以外の非収縮組織が増加し、筋の質も変化する。したがって糖尿病罹患は神経・筋機能低下を引き起こすと考えられる。糖尿病における神経・筋機能低下は血糖値のコントロールに影響を受けるだろうが、地域高齢者で広く行われた調査はほとんど報告されていない。そのため地域高齢者において血糖値を反映するHbA1c値と心身機能に関連があるかについて検討することとした。

     

    【方法】当研究所で行っているコホート研究への初回参加者(2011~2016年)で糖尿病の有無の聴取とHbA1c値が得られた1,689名のうち、HbA1cが高値 (<5.7%) または糖尿病であると申告があった705名(男性309名/女性396名)を解析の対象とした。対象者にはインピーダンス式体組成計を用いて除脂肪体重、体脂肪率を、身体機能として握力、通常歩行速度、Timed up & go test (TUG)、片足立ち時間を測定した。認知機能の評価にはMini-Mental State Examination (MMSE)を用いた。医師の指示のもと看護師または検査技師が採血を行い、委託した検査機関に検体の分析を依頼しHbA1cを測定した。HbA1cと心身機能との関連を検討するために、まずHbA1cと各変数と単相関を観察した。その後、独立変数にHbA1c、BMI、除脂肪体重、体脂肪率、脳卒中の有無を投入し、従属変数を握力、通常歩行速度、TUG、片足立ち時間、MMSEとしたステップワイズによる重回帰分析を行った。性別、年齢については強制投入した。

     

    【結果】単相関分析では、HbA1cとの間にBMI(r=0.156, P<.001)、除脂肪体重(r=0.105, P=0.006)、片足立ち(r=-0.169, P<0.001)がそれぞれ有意に相関を認めた。重回帰分析の結果、握力(R2=0.633, HbA1c; B= -0.875, P=0.002)と片足立ち時間(R2=0.295, HbA1c; B=-4.184, P<0.001)のモデルで、それぞれHbA1cが独立した要因として抽出された。

     

    【結論】糖尿病に罹患している、あるいはその予備群と考えられる地域高齢者でも、HbA1cの上昇と筋力およびバランス能力の低下に関連があった。高血糖による神経・筋機能への影響は筋力やバランス機能に反映されるはずである。今回の結果はそれらの根拠のひとつとなると考えられる。特にHbA1c値と片足立ち時間とには強い関連があったことは、高血糖状態は神経系により強い影響を及ぼすことを示していると考えられる。糖尿病における血糖コントロールは、将来のサルコペニアやフレイルなどの虚弱状態への進展への予防のためにも重要である。

     

    【倫理的配慮,説明と同意】本研究は東京都健康長寿医療センター研究所の倫理委員会の審査を経て実施された。調査にあたり、すべての対象者には口頭と書面による説明を行い、インフォームドコンセントを得た。

  • 飯野 朋彦, 平瀬 達哉, 井口 茂
    セッションID: O-3-6
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/08/20
    会議録・要旨集 フリー

    【はじめに、目的】

    わが国では健康寿命の延伸が喫緊の課題であることから,要介護リスクの高い高齢者に対する早期介入が重要である.介護予防(二次予防)事業は,このような高齢者に対する早期介入を目的としており,25項目から構成された基本チェックリストを用いて事業該当者をスクリーニングしている.本事業に参加した高齢者では,心身機能が有意に改善することが明らかとなっていることから,できるだけ多くの該当者を本事業への参加につなげる必要がある.しかし,基本チェックリストにより事業該当者と判定されても事業参加につながる高齢者の数は極めて少なく,いかに参加率を高めるかが課題となっている.本研究では基本チェックリスト各項目の該当人数の割合を事業への参加の有無別に比較し,事業参加に最も影響する項目を後方視的に検討した.

    【方法】

    対象は平成18~28年に長崎市が実施した二次予防事業への参加につながった高齢者(参加群)360名(平均年齢78.9±5.6歳,男性93名,女性267名)と,つながらなかった高齢者(非参加群)360名(平均年齢78.9±5.6歳,男性93名,女性267名)とした.この非参加群とは,平成23~25年度に長崎市が実施した「二次予防対象者把握事業」における基本チェックリスト全戸配布において返信があり,事業対象者に該当したものの,事業参加につながらなかった28,644名の中から参加群と年齢・性別をマッチングした者である.調査内容は基本チェックリストとし,参加群と非参加群において各項目に該当している人数の割合を算出した.分析は,基本チェックリスト各項目の該当人数の割合を2群間で比較するために,カイ二乗検定を用いて検討した.その後,事業への参加に最も影響する要因を検討するために,事業参加の有無を従属変数,2群間比較にて有意差を認めた項目を独立変数として投入したロジスティック回帰分析を行った.

    【結果】

    2群間比較の結果,基本チェックリストの項目1,2,4,5,6,7,8,9,10,15,17,20で参加群が非参加群に比べ該当人数の割合が有意に高かった.一方,項目13と25では非参加群が参加群に比べ該当人数の割合が高い傾向を示した(ともにp=0.09).ロジスティック回帰分析の結果では,項目4,6,7,20が事業参加の有無と独立して関連性を認めた.

    【結論】

    二次予防事業への参加につながった高齢者では,IADL,運動機能,口腔機能,閉じこもり,認知機能といった項目のリスクが高いことが明らかとなった.そして,二次予防事業への参加にはIADL,運動機能,認知機能といったリスク項目が最も影響を及ぼしていたことより,これらの項目が事業参加につながる高齢者の特徴といえよう.一方,事業への参加につながらなかった高齢者では口腔機能や心理状況といった項目のリスクが高くなる可能性があり,これらの項目に該当している高齢者では特に注意して事業への参加を促す必要があると思われた.

    【倫理的配慮,説明と同意】

    対象者には,事前に研究の主旨と目的,本研究発表以外では使用しないこと,それにより不利益を被ることはないことを説明し,回答をもって同意を得たこととした.

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