余は「鼠癩の眼疾患に關する研究」第1報に於て自然感染鼠癩の眼變化が人癩眼疾患に比して著しく輕度なるに興味を感じ,其の原因の一として鼠癩の病變状態並に生活的習慣より著想して,ビタミン及び紫外線と何等かの關係なきやと思惟し次の實驗をなし,人癩眼疾患の豫防及び治療に應用せんと期待せしなり。
(1) ビタミンとの關係
鼠癩には肝臓其他の内臓癩が少き爲に脂肪の新陳代謝障碍を起すこと少く,人癩の如くビタミンA缺乏症等を惹起すること少く,爲に眼組織の抵抗強く眼變化を起すこと少きに非ずやと思惟し,ビタミンA及びD並に癩菌の培養に關係ありとせらるるビタミンBの3種類に就いて其の缺乏症と鼠癩の病變との關係を觀察せり。
而して眼領域への病變移行を檢せんが爲に額部の眉間部と球結膜下とに接種せるが何れも4-6ヶ月間にては充分眼球自體に菌の侵入を見るに室らず。然してビタミン缺乏症動物をたとへ比較的缺乏症と爲すも,より長く生存せしむることは極めて困難にして,之等の期間内には各食餌群の相互間に見るべき病變の差異を登見する能はざりき。然れども全身に於ける癩菌分布状態を檢すればA缺<標準<B缺<D缺の順序にあり。而して此の傾向は別に行へる腹部接種試驗に於ても同樣なり。此のA缺が標準よりも輕度なりと云ふ其の程度は極めて僅徴なるものにして,實驗例數餘りに多からざる本實驗に於て斷定せんとするものに非ざれども,藤巻氏の標準完全食は鼠癩には餘り適當ならざるが如し。然しD缺が鼠癩の病變に惡影響を及ぼすは極めて高度にして,此のD缺食餌は即ち佝僂病食餌なれば其の中のD缺乏そのものの影響なるか,或は燐缺鹽の影響なるかは他日の研究に俟つべし。
(2) 紫外線との關係
紫外線との關係は癩が熱帯病にして又其の病變が露出部に多きこと等より,紫外線が癩に對して惡影響を及ぼすに非ずやと思はしむるに,鼠族殊に鼠癩に多く罹患するデクマヌスは多く暗處に棲み,日光に浴する機會極めて少き爲に,其の癩性病變の進行も比較的遲きに非ずやと思惟せり。
殊に紫外線は眼領域には影響多く,熱帶地方の住民には紫外線眼炎を惹起する程なれば多少の影響あるに非ずとや思惟されたれば,紫外線にて白鼠の角膜を照射し,結膜下に接種せる鼠癩菌の角膜領へ誘致さるるや否やを檢せしも全く陰性に終り,暗室にて飼育せるもの並に標準群即ち分散光線飼育群との間に病變の何等の差異をも認め能はざりき。
又腹部に接種して局部並に全身を紫外線にて照射せるに,局所の癩性病變は稍々高度なりしが全身的菌の分布にては始ど差異を認めざりき。暗室飼育群は全般的に稍々病變高度なりき。
尚本實驗の豫備實驗として行へる紫外線の光度測定法は寫眞法並に沃度化學法を併用するを可とす。而して寫眞法は燈用電燈の感光度と光度計を用ひて比較し,沃度法はKeller氏法を改良して石英試驗管を用ふるを便利とす。
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