1969年から1986年までに東京女子医大・放射線科・臨床腫瘍部において, 初回治療を施行した上顎洞扁平上皮癌87例中, 重複癌10例を除いた77例を対象とし, その治療成績について分析を行った. 治療方法は治療内容により前期 (1969年~1974年), 中期 (1975年~1977年), 後期 (1978年~1986年) に分類される. 前期は手術と放射線治療, 中期は手術・放射線治療および5-Fruorouracil (5-FU) を主体とした動注療法による三者併用療法, 後期は手術・放射線治療およびAdriamycin (ADR) を用いた動注療法による三者併用療法である. 5-FUは放射線の増感作用を期待して用いられ, ADRは放射線とのEnhancement Factorの最も高い薬剤であり, 局所の組織集積性の高いものとして選ばれた. 全例, 開洞術後に放射線治療が開始され, 照射期間中は連日積極的に局所清掃を目的とした挿拠術を施工した. 手術療法は放射線治療終了後1週以内に行われ, Denker手術に準じ腫瘍摘出が施工された. 放射線治療は
60coγ 線を用い, 直交二門照射で行い, 総線量は前期で60Gy/6週, 中期で50Gy/5週を基本とし, 後期で40Gy/4週を標準とし, 症例により10Gyを追加した. 動注療法は中期は5-Fu250mg/日を照射期間中に連日持続動注し, 20日間を基本とした. 後期はADR 10mg/日を照射開始と同時に5日間oneshot動注し, 2週の休薬後再び5日間動注を行い, 計100mg使用した.各年代の症例数は前期: 17例, 中期: 31例, 後期: 27例であった. JJC分類によるT分類はT
2: 20例, T
3: 45例, T
4: 12例であり, 頸部リンパ節転移は14例 (18%) に認められた. 2年原発巣局所制御率は前期: 2/7 (29%), 中期: 6/22 (27%), 後期: 15/26 (58%) であった. Kaplan Meier法による5年累積生存率は前期: 13%, 中期: 40%, 後期: 54%であり, logrank testで前期と中期・後期に統計学的有意差 (P<0.01) を認めた. 明らかな晩期障害は, 白内障5例, 難治性上顎洞感染が1例であった. 後期における顔面の形態学的変化は, 顔面の左右差のほとんど認められないもの (1度) 32%, 患側口角の挙上の認められるもの (II度) 32%, さらに頬部の変形を伴うもの (III度) 36%であった. ADRを用いた三者併用療法は局所制御率に優れ, 形態学的及び機能的にも良好であり, 有用な治療法と考えられる.
抄録全体を表示