ヒトの奇形腫群腫瘍は原始胚細胞を起源とし, 細胞の分化過程で発生してくる腫瘍と考えられている.ラットでは, 妊娠初期に胎児を摘出して胎児膜を腹腔内に残しておくと, ヒト類似のヨークサック腫瘍が誘発されることが報告されている.今回, これらの報告に準じた胎児摘出術により腫瘍の誘発に成功し, 継代移植により長期観察可能な可移植性腫瘍を確立することができた.ここに, この腫瘍の生物学的・病理組織学的特徴と放射線治療実験への応用の可能性について検討したので報告する.誘発実験では, 腫瘍は近交系ラット (Wistar Mishima, WM/Ms) にのみ誘発可能でclosed colonyのWistarおよびDonryuラットには誘発されなかった.誘発抑制実験では, 胎児摘出術直後の腹部への200cGy照射により腫瘍の誘発は抑制され, 起源細胞の放射線感受性は高いと考えられた.移植実験では, 近交系およびclosed colonyのWistar系ラットに高率に移植が可能で, 担癌ラットの生存期間が長く長期観察可能で, かつ, 高頻度にリンパ行性転移が認められることが特徴的であった.病理組織学的にはPAS陽性の豊富な間質を特徴とし, 電顕で間質の基底膜様層状構造が証明され, これまでに報告されている実験的ヨークサック腫瘍と類似であった.継代移植腫瘍の照射実験では, 腫瘍細胞照射後の移植で腫瘍生着率・ラットの生存率に線量依存性があり, また, 照射によるBrdUrd標識率にも線量依存性が認められ, これらを指標として放射線治療実験に利用できると考えられた.放射線治療実験のなかで, とくに多分割照射やBRMとの併用実験は, 正常組織障害や延命効果の判定のためにヒト腫瘍と同じように長期観察することが望ましい.現有する実験動物腫瘍では担癌動物の生存期間がヒトに比べてはるかに短く, また, 長期生存しながらリンパ節などへの遠隔転移をきたすものが少ないので, 本腫瘍は長期観察を必要とする治療実験に有用であると考えられた.
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