ジチエニルエテン類のフォトクロミズムは次世代の分子レベルスイッチなどとして期待されている.本報では,その3種タイプの光閉環/光開環の可逆反応におけるポテンシャルエネルギー,立体化学変化,置換基効果等の実験データを,小さい計算負荷のMOPAC-PM6法を用いてシミュレーションした.6π開環異性体はタイプ
1,
3(
3hと
3m)および
5であり,閉環異性体は対応の
2,
4および
6である.そのシミュレーションはB3LYP/6-31GやCASSCF (10,10)レベルによる既存データと比較,検証した.タイプ1と3の結晶状態での光反応では,反応炭素間距離R
CC と環化反応の量子収率 φ
OCとの間には,R
CCが 4 Å以下の3h(4'-H)5ではφ
OCがほぼ1であり,4 Å以上の結晶では0というデータがある.本法のシミュレーションでは基底状態と励起状態の両方につき,開環体の安定配座(anti-parallel)からの動的解析で上記現象を再現した.R
CCが4 Å以下の開環体の励起では,HSOMOなどのフロンティア軌道の6π末端間相互作用が,励起一重項(3h* と5*:R
CC約2.1 Å)を容易にもたらし,閉環体にする.R
CCが4 Å以上の1および3m(4'-Me) の光環化は起り難く,一方溶液中では6π面の容易な変化が推定され,上記現象が合理的に説明される.閉環体2および4から,その励起一重項(2*と4*:R
CC約1.6 Å)を経た開環反応過程も明らかにした.6からは6* ではなく,5* の生成が観察された.それは,6から5への光開環反応の量子収率φ
CO が比較的に高い原因の一つを示唆している.本報のPM6法での計算精度はB3LYP/6-31G レベルのそれと遜色ないものが多かったが,補正すべき点もあり,その補正量を指摘した.多様な分子設計や反応系解析への,PM6法の活用が期待される.
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