現代の音楽科では「生活や社会の中の音や音楽, 音楽文化」や「他者との協働」 (学習指導要領) が想定されており, 自律した音楽作品が児童・生徒の美的情操を育むという従来の観念だけでは通用しなくなっている。そこで本論文では, 現代の音楽科に新たな方向性をもたらすものとして, Ch. スモールが提唱した「ミュージッキングmusicking」という概念に着目したい。本文ではまずミュージッキングの意義を整理し, D. エリオットが提唱した「ミュージキングmusicing」との比較から, ミュージッキングが複数の媒体の関係による共時的な行為を指し示す概念であることを明らかにする。次に, ミュージッキングを引用する研究を取り上げながらミュージッキングの理論的な錯綜を整理する。それを踏まえ, 音楽療法, 文化人類学, 芸術社会学の各分野でミュージッキングを発展させている研究を参照し, ミュージッキングの音楽科における可能性を探る。
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