日本手外科学会雑誌
Online ISSN : 2188-1820
Print ISSN : 2185-4092
41 巻, 2 号
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総説
  • 本宮 真, 太田 光俊, 岩崎 倫政
    2024 年41 巻2 号 p. 26-32
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/18
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    切断肢指の再接合においては端端吻合が基本的に用いられるが,遊離組織移植における血管吻合法には端端吻合・端側吻合・flow-through 型吻合がある.トラブル時に臨機応変な対処が可能となるよう,各種吻合法の特徴を理解し手技に精通しておく必要がある.本稿では,血管吻合の基本的手技や難しい血管吻合への対処法に関して,私見を交えて概説する.

  • 辻 英樹
    2024 年41 巻2 号 p. 33-40
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/18
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    「不安定型肘関節脱臼骨折」すなわち「複合性肘関節不安定症(Complex Elbow Instability: CEI)」の病態,診断,治療について述べた.肘関節脱臼をきたすメカニズムにはPLRI,vPMRI,外反伸展メカニズムがあるが,これらは単一ではなく複合的に生じることもある.診断に当たっては,問診,理学所見,画像検査(単純X 線,CT)の他に,除痛下(麻酔下)の不安定検査が病態把握に有用である.手術時においても組織を修復するごとにこの不安定性検査を施行し,その都度評価する.CEI の修復対象は肘頭,尺骨鉤状突起,橈骨頭の骨性要素と,LCL 複合体とMCL 複合体の靭帯性要素である.これらに対する手術法とアプローチについて述べた.またCEIのTTI,vPMRI,OFD の3 病態について,上記の骨性,靭帯性要素のどれを,どのように修復するのかについて述べた.個々の症例がどのような病態で生じているのかを諸検査によって類推し,その病態に沿った治療を遂行することが重要である.

学術集会発表論文
  • 木村 浩二, 石河 利広, 寺井 勇, 杉本 龍志朗, 正司 晃子, 松浦 喜貴
    原稿種別: 症例報告
    2024 年41 巻2 号 p. 41-46
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/26
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    Remitting Seronegative Symmetrical Synovitis with Pitting Edema Syndrome(RS3PE 症候群)は,比較的急性に発症する,四肢末梢の圧痕性浮腫を伴うリウマトイド因子陰性の対称性滑膜炎をきたす疾患である.著者らは,手より症状が出現した後,経時的に他部位の症状が出現し,典型例となった2 症例を経験した.1 例は発症4 か月半後,もう1 例は発症2 か月後に対称性の下腿浮腫や滑膜炎が出現し,典型例となり診断に至った.両症例とも血液検査で抗CCP 抗体陰性,MMP-3 高値で左右対称性の滑膜炎,四肢の圧痕性浮腫を認めたため,RS3PE 症候群と診断した.RS3PE 症候群は,対称性,多発性の滑膜炎や全身症状を伴っているが,発症初期には片側例や手の浮腫のみを呈する症例もある.手の炎症を診た場合の鑑別診断のひとつとして留意する必要がある.また,RS3PE 症候群と診断した場合には,固形癌や悪性リンパ腫の合併を伴うことがあるため注意を要する.

  • 樋高 由久, 大茂 壽久, 酒井 昭典
    2024 年41 巻2 号 p. 47-52
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/26
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    橈骨遠位端骨折に合併するTFCC(triangular fibrocartilage complex)小窩部断裂の治療方針には議論の余地がある.本研究では,尺骨茎状突起基部骨折を伴った橈骨遠位端骨折を,治療時に関節鏡視下にTFCC 小窩部断裂を評価し,縫合群と非縫合群での術後成績を比較検討した.尺骨茎状突起基部骨折を伴った橈骨遠位端骨折に合併するTFCC 小窩部断裂への関節鏡下縫合術は,術後の可動域制限を認めず,握力と手関節尺側痛が改善し,尺骨茎状突起の骨癒合に有利であった.また,術後合併症もなく,低侵襲で有用な治療法であった.

  • 宇佐美 聡, 稲見 浩平, 河原 三四郎, 武光 真志, 園木 謙太郎
    2024 年41 巻2 号 p. 53-57
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/26
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    Dupuytren 拘縮6 例6 指(全例男性小指)に対し,早期の運動療法開始目的に,部分腱膜切除後に局所皮弁と人工真皮を併用した創閉鎖を行った.使用皮弁はulnar parametacarpal flap のみが5 指,ulnar parametacarpal flap とdigitolateral flap の併用が1 指であり,6 指中3 指にPIP 関節の授動術を要した.術後平均観察期間8 か月で平均可動域は133°から234°へ,平均総伸展不足角は103°から16°へ改善した.平均伸展不足角改善率は85.3%で,上皮化までには平均25 日を要した.Tubiana’s staging では術前stage 2 が2 指,3 が2 指,3D+ が1 指,4 が1 指であったが,術後はstage 0 が3 指,1 が2 指,2 が1 指となり,全例で改善を認めた.術後満足度は,非常に満足が5 例,満足が1 例であり,高い満足度が得られた.局所皮弁と人工真皮を併用した創閉鎖の短期成績は良好であった.

  • 佐野 和史, 木村 和正
    2024 年41 巻2 号 p. 58-60
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/26
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    近年,Heberden 結節に伴う粘液嚢腫の治療は,DIP 関節の骨棘もしくは関節包の一部を掻爬除去するのみで嚢腫の切除も不要と考えられ,手術法は簡素化した.しかし,嚢腫の局在や大きさによっては,皮切の位置や形状に工夫を要することも多い.これに対して盲目的掻爬術は,DIP 関節側面の小皮切から掻爬を行う手技で,様々な形態の粘液嚢腫に対して定型的で画一的な手技として対応できるが,爪変形を伴う近位爪郭発生の粘液嚢腫だけは,術後感染と掻爬による爪母損傷を危惧して本法の適応外としていた.今回10 例10 指の同症例に対して本法を施行した.全例で危惧された術後感染や医原性の爪障害は認めず,術前の爪変形も改善した.盲目的掻爬術は,本法の適応に関して懸念のあった爪変形を伴う近位爪郭発生の粘液嚢腫に対しても有効であった.

  • 大塚 純子, 堀井 恵美子, 洪 淑貴, 武重 宏樹
    原稿種別: 症例報告
    2024 年41 巻2 号 p. 61-64
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/26
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    先天性深指屈筋短縮症は,手関節中間位・伸展位で指の伸展が困難となる稀な疾患である.手術を施行した1 症例の詳細を報告する.3 歳時に左中指から小指の伸展障害に気付き,装具療法を行っていたが,10 歳時に通院を中断した.18 歳時に,前腕内側の疼痛と指の伸展不全によるADL 障害のため受診した.手関節最大掌屈位で中指から小指の自動伸展は可能であるが,手関節中間位・背屈位では伸展は困難であった.Q-DASH score は6.81 点,HAND20 は23 点であった.手術は局所麻酔下に行った.浅指屈筋の筋腹は異常なく,深指屈筋の筋腹は小さく,環指の腱成分が近位まで存在していた.環指は完全切離し,中指,小指の腱も一部切離すると,他動完全伸展が可能となった.環指深指屈筋腱は中指深指屈筋腱に移行した.最終経過観察時に,手関節中間位で中指から小指の伸展不全は残存するが,掌屈20 度で完全伸展は可能であった.Q-DASH score は2.27 点,HAND20 は5 点と改善がみられ,満足度は高かった.

  • 畑中 渉
    2024 年41 巻2 号 p. 65-68
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/26
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    ビタミンD 充足率は上肢骨折患者でも低いことを報告しているが,骨粗鬆症性骨折の初発部位として多い橈骨遠位端骨折と椎体骨折患者の血清25(OH)D 値を測定し,季節性に違いがあるかを比較した.橈骨遠位端骨折は降雪期に多く,椎体骨折は非降雪期に多かったが,椎体骨折では非降雪期と降雪期で25(OH)D 値に有意差があった一方,橈骨遠位端骨折では季節性に有意差はなかったため,ビタミンD 非充足が,骨粗鬆症性骨折の初発部位が橈骨に多いことを説明するリスク因子の一つであるとは言えなかった.

  • 犬飼 友哉, 幸田 久男, 森谷 浩治, 黒田 拓馬, 牧 裕, 坪川 直人
    2024 年41 巻2 号 p. 69-71
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/26
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    TFCC 損傷Palmer 分類class 1B に対する縫合術までの期間が,術後成績に及ぼす影響について検討したので報告する.対象は24 例25 手,手術時年齢は15~52(平均34.5)歳,経過観察期間は5~18(平均8.7)か月であった.全例手関節鏡視後に直視下縫合術を施行されていた.発症後6 か月以内に手術された早期群と,以降に手術された晩期群の2 群に分け,初診時・術後のQ-DASH,最終診察時の関節可動域(ROM),握力健側比について比較検討した.早期群は19 例,晩期群は6 例であった.Q-DASH は平均で,初診時が早期群34.7,晩期群25,術後が早期群8.4,晩期群6.7 で,2 群間に有意差はなかった.ROM の平均も2 群間に有意差はなかった.握力健側比は早期群92.8%,晩期群86%で,やはり2 群間に有意差はなかった.比較的若年の調査対象群において,発症後6 か月では直視下縫合術の成績に早期群・晩期群で差はなかった.

  • 松末 武雄, 本間 幸恵, 吉見 育馬
    2024 年41 巻2 号 p. 72-78
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/26
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    指尖切断における治療方法として,再接着術,composite graft,graft on flapなどがあるが,治療方法の選択をしやすくするために,当科におけるsubzone 1 と2の完全切断に対して再接着術かcomposite graftが行われた109例を後ろ向きに調査した.Subzone 2再接着で静脈が吻合できなかった症例では,術後にヘパリンを使用しなかった群に比べて,使用した群は有意に生着率が高かった.また,再接着では損傷状態による生着率の差に有意な差を認めなかったが,composite graftではcrush/avulsionの生着率がclean cutと比べて有意に低かった.Subzone 2 crush 症例では,再接着の方がcomposite graftより有意に生着率が高かった.治療方法は,患者の術後抗血栓療法を実施することに対するリスクと損傷状態を組み合わせて考慮し,選択すべきであると考えられた.

  • 黒田 拓馬, 森谷 浩治, 幸田 久男, 坪川 直人
    2024 年41 巻2 号 p. 79-83
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/26
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    新しい多軸型掌側ロッキングプレートDual Loc Radii VF システム(メイラ)を用いた橈骨遠位端骨折の治療成績を調査した.対象は28 例,手術時平均年齢は68.8 歳,平均経過観察期間は7.3 か月であった.X 線パラメータの平均矯正損失値は,尺側傾斜0.32°,掌側傾斜-0.04°,尺骨バリアンス0.32mm とわずかであった.術後CT 矢状面における月状骨窩関節面と月状骨窩に挿入されたスクリューの最短距離は,平均0.8mm であった.術後合併症は,VF を使用した2 例に手根管症候群を認めたが,正中神経剥離術により,いずれも症状は軽快した.また,スクリューの関節内への逸脱を4 例に認めた.最終診察時の2010 年森谷・斎藤評価法では優22 例,良6 例であった.本システムは橈骨遠位端骨折治療の新たな選択肢のひとつになり得ると考えるが,スクリューの関節内への逸脱には注意が必要である.

  • 亀山 啓吾, 大北 弦樹, 齋藤 正憲, 佐藤 信隆, 渡邉 義孝, 波呂 浩孝
    2024 年41 巻2 号 p. 84-87
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/26
    ジャーナル 認証あり

    指節骨骨折の中で,中節骨頚部骨折はスポーツにおける突き指などで発生することが多い.徒手整復をしても整復ができないか,外固定で整復位の保持ができない症例では手術適応となる.鋼線固定の方法としてcross pinning(以下CP),intrafocal pinning(以下IFP),経DIP 関節pinning(以下TDP)があり,固定法による術後経過を比較検討した.対象は10 例で,CP 5 例,IFP 2 例,TDP 3 例であった.CP では5 例中3 例で術中に軽度の転位を認めた.IFP では全例で術中もしくは術後に掌側転位を認め,1 例で可動域制限が残存した.TDP では全例で変形癒合を認めなかった.いずれの治療法でも骨癒合が得られ,関節症性変化や骨頭壊死を認めなかった.CP では狭い髄腔に鋼線を刺入することにより転位の可能性がある.IFP では過矯正により掌側転位が生じる可能性がある.TDP は手技も比較的簡単であり,良好な固定が得られた.

  • 澁谷 純一郎, 石垣 大介, 佐竹 寛史, 高木 理彰
    2024 年41 巻2 号 p. 88-91
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/26
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    手指化膿性屈筋腱腱鞘炎に対して,当科で持続局所抗菌薬灌流(CLAP)療法を施行した7 例の治療成績を検討した.手術はデブリドマンを行った後,感染所見が強い位置に流入チューブを留置し,排液チューブにはサクションドレーンを使用した.抗菌薬は,CLAP 療法にはゲンタマイシンを選択し,経静脈的投与を併用した.Michon 分類はstage Ⅰが0 例,stage Ⅱが5 例,stage Ⅲが2 例であった.術翌日からリハビリテーションを開始した.CLAP 留置期間は平均3.5 日(3~5 日)で,抗菌薬の経静脈投与期間は7 日(4~11 日)であった.全例で感染は鎮静化し,再発やゲンタマイシンによる有害事象は認めなかった.最終経過観察時のHand20 は5.3 点(0.5~13 点)であり,著明な拘縮を残した症例はなかった.CLAP 療法は手指化膿性屈筋腱腱鞘炎の治療法として有用な選択肢の一つと考えられる.

  • 澤田 智一, 佐野 倫生, 森本 祥隆, 大石 崇人, 岡林 諒, 大村 威夫
    2024 年41 巻2 号 p. 92-95
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/26
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    非定型尺骨骨折と健常前腕骨を比較し,尺骨弯曲が非定型骨折に関連しているかを検討した.非定型尺骨骨折8 例のうち,健側に転位を伴う骨折を有さない6 例を対象とし,骨に明らかな異常のない34 例を対照群とした.非定型尺骨骨折の患側で,尺骨遠位から骨折部の長さを尺骨全長で割った骨折部位(%)を計測した.非定型尺骨骨折の健側および対照群で,尺骨の弯曲として,前腕単純X 線正面像におけるaMUB(anterior maximum ulnar bow)と尺骨遠位からの正面最大弯曲点,前腕単純X 線側面像におけるlMUB(lateral maximum ulnar bow)と側面最大弯曲点を計測し,比較検討した.非定型尺骨骨折は尺骨全長の平均67.3%で生じており,正面・側面最大弯曲点とほぼ一致していた.また,弯曲の程度はaMUB,lMUB ともに差がなかった.非定型尺骨骨折は弯曲部位とおおむね一致して生じていたが,弯曲の程度とは関連がなかった.

  • 富田 一誠, 久保 和俊, 久保田 豊, 酒井 健, 池田 純, 川崎 恵吉
    2024 年41 巻2 号 p. 96-100
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/26
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    三角線維軟骨複合体(以下TFCC)損傷に対して手術治療を行った症例を後ろ向きに調査し,月状骨三角骨(以下LT)間靱帯損傷に着目して,手関節尺側部痛の診断と治療効果を報告する.対象は126 例で,平均年齢は36 歳,平均術後観察期間は26.8 か月であった.最終診断は,Fovea 剥脱115 例,背側橈尺靭帯損傷34 例,LT 間靭帯損傷は29 例などであり,TFCC 単独損傷は28.0%で,LT 間靱帯損傷合併は23.2%であった.Visual analog scale は,術前平均72.0 が最終平均7.3 で有意に改善し,日手会手関節障害機能評価は術後平均95.6 で,Excellent が117 例,Good が9 例であった.LT 間靭帯損傷合併の有無や形態の違い,Geissler 分類における重症度の差による除痛効果と臨床成績に違いは認めなかった.圧痛や誘発試験にてLT 間靱帯損傷を疑う所見があれば,必ずMCJ 鏡視にて最終診断を行うことが重要である.TFCC 損傷に合併したLT 間靱帯損傷症例に対しての治療は,Debridement,Shrinkage,一時固定,修復術が有用な治療法である.

  • 小池 智之, 福本 恵三, 小平 聡, 岡田 恭彰, 山木 良輔
    2024 年41 巻2 号 p. 101-104
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/26
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    屈筋腱皮下断裂は,様々な原因や陳旧例も多く,また術式は腱移植や腱移行などが行われており,報告によって成績が安定していないのが現状である.近年,wide awake surgery の手技に関する報告が散見されるが,成績に関するものは少ない.著者らは,屈筋腱皮下断裂の7 例7 指に対し,ターニケットを使用せずに局所麻酔で橋渡し腱移植を行い,早期自動運動療法を行ったため,その治療成績について報告する.術後の%TAM は平均78.9(54.5~103)%であり,日手会機能評価では,excellent 2 指,good 2 指,fair 3 指であり,poor 症例はなかった.術後の屈曲不全が出た時期は,平均1.6(1~3)週であった.術中では全例において自動運動で十分に屈曲ができることを確認したが,術後は屈曲不全となる症例があり,成績は安定しなかった.局所麻酔で行うwide awake surgery での腱移植は成績が不安定であり,屈筋腱皮下断裂の腱移植に対しては必ずしも優れた方法ではない.

  • 江城 久子, 瀧川 直秀, 大野 克記
    2024 年41 巻2 号 p. 105-108
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/26
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    橈骨,尺骨,有頭骨CT-Hounsfield unit 値(以下HU 値)は,二重エネルギーX 線吸収法(DXA)の結果と関連があることが報告されているが,どの部位の計測がよりDXA 結果と関連があるかについての報告はない.手関節部のHU 値により骨粗鬆症診断が可能か検討し,さらに橈骨,尺骨,有頭骨のうち,どの部位のHU 値計測が骨粗鬆症診断に有用かを検討した.全例女性で,手関節部CT を施行した橈骨遠位端骨折患者群(以下,骨折群)105 例,橈骨遠位端骨折の既往がない対照群(以下,対照群)46 例に対して,橈骨,尺骨,有頭骨HU 値を計測し2 群間で比較した.骨折群はHU 値と腰椎,大腿骨骨密度(YAM 値)を比較した.尺骨,有頭骨HU 値は骨折群で有意に低下し,骨折群の有頭骨HU 値は大腿骨YAM 値と相関を示した.橈骨,尺骨のHU 値は,骨折部の転位により厳密なHU値の計測が困難である.有頭骨HU 値の計測は,骨粗鬆症診断において有用である可能性が示唆された.

  • 齋藤 光, 千馬 誠悦, 成田 裕一郎, 白幡 毅士, 湯浅 悠介, 宮腰 尚久
    2024 年41 巻2 号 p. 109-112
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/26
    ジャーナル 認証あり

    50 歳以上のDRF 患者281 例を対象に,手術の有無,受傷前の骨粗鬆症治療率,骨密度検査実施率,要治療率,治療開始率,骨折治療後の骨粗鬆症治療率を評価した.受傷前に骨粗鬆症未治療の症例を,治療あり群と治療なし群に分け,骨密度検査実施に関する因子を検討した.281 例中,手術治療は141 例,保存治療は140 例であった.受傷前に骨粗鬆症治療を行っていたのは36 例(12.8%)であり,骨密度検査は122 例(43.4%)で行われていた.骨密度検査を行った122 例のうち,YAM 値80%以下の要治療症例は105 例(86.1%)であり,そのうち91 例(86.7%)が新規に治療を開始した.骨折治療後に骨粗鬆症治療を行っていたのは119 例(42.4%)であった.治療なし群は,骨密度検査の非実施,保存治療,男性が多く,保存治療がもっとも大きなリスクであった.治療率向上のため,すべての症例に骨密度検査が行われるよう,多職種が連携したシステムを構築する必要がある.

  • 西野 雄大
    2024 年41 巻2 号 p. 113-117
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/26
    ジャーナル 認証あり

    健常者と上腕骨外側上顆炎症例に対して,超音波診断装置を用いた橈骨頭の二次元的動態観察が,病態解釈に有効か検討した.手関節および前腕回内外可動域を測定後,超音波診断装置で肘関節0°伸展位での他動回内時の橈骨頭の外側および前方変位量を測定した.その後,変化量を算出した.関節可動域(正常群/上腕骨外側上顆炎群)は,掌屈70°/62.5°,Grip 掌屈55°/47.5°,回内67.5°/52.5°で,上腕骨外側上顆炎群が有意に低値を示した.変化量は,外側1.80mm/1.16mm,前方1.93mm/3.18mm であった.正常群と比較して,上腕骨外側上顆炎群では回内に伴う橈骨頭の外側変位は有意に減少し,前方変位は有意に増大していた.上腕骨外側上顆炎の病態の一つのタイプとして,橈骨輪状靭帯や総指伸筋の緊張増大に起因した前腕回内外の可動域制限や橈骨頭の変位量の変化が,本病態と関連している可能性があると考えられた.

  • 山本 悠介, 鈴木 浩司, 中川 玲子, 堀木 充
    2024 年41 巻2 号 p. 118-121
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/26
    ジャーナル 認証あり

    Darrach 法は,尺骨頭切除により遠位橈尺関節(DRUJ)の疼痛を改善するが,新たに尺骨断端部の不安定性(断端不安定性),および尺骨断端部の疼痛・腫脹・click(Ulnar Stump 症状)を生じうる.著者らは,尺骨断端部の安定化のために,方形回内筋(PQ)による被覆・尺側手根伸筋(ECU)腱による制動を行っている.Darrach 法後の断端不安定性・Ulnar Stump 症状に対して,PQ 被覆・ECU 制動が及ぼす影響を比較した.ECU 制動では,PQ 被覆と比較して尺骨断端の背側転位が抑制されたが,橈側方向へはいずれも収束を認めた.Ulnar Stump 症状を呈する群においても,尺骨断端は橈側方向へ収束を認めた.尺側の支持成分を失った尺骨断端の橈側方向への収束抑制には,ECU 制動以外の手技の追加が必要と考えられる.

Proceedings
自由投稿論文
  • 早﨑 涼太, 久木﨑 航, 中村 充雄, 中村 眞理子
    2024 年41 巻2 号 p. 1-3
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/08/19
    ジャーナル 認証あり

    掌側ロッキングプレート固定が施行された橈骨遠位端骨折患者の術後1 週から12 週までのPRWE に影響を与える要因を検討した.対象は女性20 例20 手,全例右利きであり,年齢は61.6±7.9 歳であった.評価指標は疼痛(安静時痛・運動時痛)にNRS,疼痛の破局的思考にPCS,不安・抑うつにHADS,身体機能としてROM と握力の健側比を用いた.Spearman 順位相関係数の検定を実施した結果,運動時痛(術後1 週から12 週まで),PCS(術後2 週から12 週まで),HADS 不安(術後12 週)に正の相関,手関節背屈(術後1 週から4 週まで),掌屈(術後2 週から4 週まで),前腕回外(術後12 週)に負の相関を認めた.本研究結果より,後療法では術後早期から継続した疼痛マネジメントを実践し,疼痛の破局化を予防すること,また,各時期におけるROM 健側比向上のためのセラピィがPRWE の改善に必要と考えられた.

  • 戸谷 祐樹, 森谷 史朗, 宇津 朋生, 木曽 洋平, 古庄 寛子, 勝見 泰和
    2024 年41 巻2 号 p. 4-9
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/08/19
    ジャーナル 認証あり

    超音波ガイド下経皮的腱鞘切開術(Ultrasound-guided Percutaneous Release for Trigger Digits,以下US-PRTD)において,18G 注射針を用いる手技のコツと,正確で完全な腱鞘切開を確認するための超音波画像を用いた4 つのサインを提案し,その有用性について検討を行った.US-PRTD を施行したばね指65 例89 指を対象とし,術中の各4 つのサインの確認の可否,術後成績(優・良・可・不可),合併症,術前・術後の疼痛数値評価スケール(Numerical Rating Scale,以下NRS),鎮痛薬内服日数およびquickDASH スコアを調査検討した.全指において4 つのサインは確認可能で,弾発現象は消失していた.合併症は認めなかった.成績は優が71 指,良が17 指,可が1 指で,不可は認めなかった.疼痛NRS およびquickDASH スコアは有意に改善した.著者らの提案する4つのサインは,超音波画像を用いた客観的サインであり,US-PRTD における確実性を高める有用な手技になりうる.

  • 金内 ゆみ子, 村瀬 剛, 西脇 正夫, 阿久津 祐子, 志村 治彦, 飯塚 照史, 茶木 正樹, 小田桐 正博
    2024 年41 巻2 号 p. 10-15
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/08/19
    ジャーナル 認証あり

    前腕回旋角度測定は,報告により異なった方法が使用され,確立された手技がない.そこで本邦における前腕回旋角度測定の実態調査を目的に,2023 年に日本手外科学会会員を対象にWeb アンケート調査を実施した.962 名より回答があり(回答率26.7%),結果は上腕骨の基本軸に対して移動軸の高位は「手関節」が51.5%と最多であるが,「手関節より遠位」は22.1%,「棒を握り棒に合わせる」は14.0%,「手関節より近位」は11.3%とばらつきを認めた.測定機器については82.1%が角度計を使用したが15.4%は目視であり,測定値の取り方は73.4%が5°間隔であった.移動軸については手関節高位が測定方法を統一しやすいという見解があるが,日常生活動作を反映しやすい手掌面での角度も重要と考えられる.本アンケートの結果をもとに,信頼性があり実用的な前腕回旋角度測定方法を基準化することが今後の課題である.

  • 久保田 憲司, 松浦 佑介, 山崎 貴弘
    2024 年41 巻2 号 p. 16-19
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/08/19
    ジャーナル 認証あり

    月状骨脱臼はしばしば初診時に見逃され,陳旧例では整復が困難となり,治療に難渋することがある.著者らは,創外固定器を用いた二期的手術で治療した陳旧性月状骨脱臼の一例を経験したので報告する.症例は69 歳男性である.受傷後5 か月で月状骨脱臼の診断となった.手術は二期的に行われ,初回手術では創外固定器による牽引を4 週間行い,次に月状骨の観血的整復を行った.整復後,大きな不安定性はなく,鋼線固定や靱帯の修復及び再建は施行しなかった.創外固定器は,術後4 週間装着した.4 年後の最終観察時には,疼痛はなく経過は良好であった.今回の経験から,創外固定器による緩徐な牽引は観血的整復を容易にし,救済手術を回避できる可能性がある.

  • 亀山 真
    2024 年41 巻2 号 p. 20-25
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/08/19
    ジャーナル 認証あり

    母指CM 関節症に対し大菱形骨全切除を行ったsuture-button suspensionplasty(SBS)について,手術手技上の工夫を紹介し,術後2 年以上経過した症例の治療成績を分析した.対象は29 例30 手,Eaton 分類でstage 2; 1 手,stage 3; 18 手,stage 4; 11 手,術後経過観察期間は平均42.7 か月(24~72 か月)であった.手術では第2 中手骨の骨孔を,近位骨幹端-骨幹移行部の位置で1.2 mm Kirschner 鋼線を用い,尺側から橈側へ向けて斜めに作製し,2 ステップでの骨孔作製を行い,骨孔位置の一定化を図った.評価項目は,術前後の,労作時visual analogue scale(VAS),橈側・掌側外転可動域,Kapandji スコア,握力,指尖つまみ力,Hand20,大菱形骨腔の高さ/基節骨長(trapezial space ratio,以下TSR),第2 中手骨骨孔の位置(suspension point)とした.労作時VAS,橈側外転可動域,握力,Hand20 は有意な改善が得られた.TSR は30 手中10 手(33.3%)で術後の50%未満まで低下したが,母指列の短縮が術後愁訴となった例はなかった.本法は術後合併症が少なく,疼痛の改善が期待できる術式であった.

  • 池田 将吾, 秋田 鐘弼
    2024 年41 巻2 号 p. 134-137
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/26
    ジャーナル 認証あり

    人工肘関節置換術(TEA)の合併症として,上腕三頭筋機能不全は低い頻度で生じるが,生じた際は治療に難渋する.TEA 後の上腕三頭筋機能不全に対して,大腿筋膜を用いた再建術を施行した3 例の術後成績を報告する.症例は50 歳女性,66 歳女性,60 歳女性の3 例で,全例が関節リウマチによる肘関節症に対して,肘後方アプローチでのTEA が施行された.いずれも,術後早期に軽微なエネルギーが加わり,MMT1 の上腕三頭筋機能不全を呈したが,診断治療の遅れにより陳旧性へ至った.再建後,全症例が上腕三頭筋筋力MMT4 と改善し,上肢挙上時の不安定性は消失した.TEA 後の上腕三頭筋機能不全に対する再建には,Anconeus rotational flap やAchilles tendon allograft などが報告されているが,それらが使用困難な場合においても大腿筋膜は用いることが可能であり,有用な選択肢となり得る.

  • 吉田 大作, 大安 剛裕, 田中 克己
    2024 年41 巻2 号 p. 138-142
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/26
    ジャーナル 認証あり

    五指手は,母指の欠損,同一平面上に位置する5 本の手指を特徴とする稀な先天異常である.母指球筋が完全に欠損し対立運動不能であるため,pinch やpower grip が困難であり,形態的にも好ましいとはいえない.母指化術が唯一の治療法であるが,再建母指の対立可動域制限のため,同じ母指化術を治療法とする母指形成不全と比較して成績不良とされてきた.その原因として,intrinsic muscle が弱いこと,再建したCM 関節が正常より背側に位置することが挙げられる.著者らは血縁関係にある五指手患者2 例4 手に対し,母指化術(Buck-Gramcko 法)に小指外転筋移行術(Huber-Littler 法)を併用することで,母指対立機能と母指球の膨らみの再建を行った.術後,母指対立機能は良好であり,患者満足度は高い.五指手はintrinsic muscle が弱く,再建したCM 関節の位置が正常より背側に位置する特徴を踏まえ,母指化術に小指外転筋移行術を併用し,対立方向への牽引を追加するのが望ましいと考える.

  • 早﨑 涼太, 中村 充雄, 中村 眞理子
    2024 年41 巻2 号 p. 143-147
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/26
    ジャーナル 認証あり

    手の疼痛に対する振動刺激について,客観的効果と効果的な対象を,知覚・痛覚定量分析装置PainVision®,個人因子である性格傾向(TIPI-J)と状態不安(STAI)を用いて検討した.対象は右利きの成人健常者46 名とし,TIPI-J とSTAI を記載した後,両手掌を合わせた状態で左手関節へ振動刺激を行い,右手関節に生じうる運動錯覚について強度(VAS)と角度を評価した.そして,振動刺激前後にPainVision® を使用し,疼痛の客観的指標である痛み度を算出した.その結果,振動刺激前後で痛み度に有意差を認め,運動錯覚の有無による比較では,運動錯覚が生じた群のみに有意差を認めた.一方,振動刺激の効果的な適応となる対象のモデルは,性格傾向や不安といった個人因子から生成されなかった.運動錯覚の惹起は客観的に疼痛を改善させるため,今後は個人因子以外の要因から運動錯覚の惹起率向上や強化を図る方略を検討することが必要と考えられた.

  • 佐柳 潤一, 寺田 幸生
    2024 年41 巻2 号 p. 148-150
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/26
    ジャーナル 認証あり

    橈骨遠位端骨折に続発する長母指伸筋腱(以下EPL)皮下断裂に対して,固有示指伸筋腱(以下EIP)による腱移行術が標準的治療とされているが,EIP の欠損・低形成例では他の力源による再建術が必要となる.今回,著者らは,EIP 欠損のため小指伸筋腱(以下EDM)による腱移行術を施行した1 例を経験したので文献的考察を加えて報告する.症例は57 歳女性で,転倒による左橈骨遠位端骨折に対し前医にて外固定を開始し,受傷15 日目に左母指伸展障害を認め,当科を紹介受診した.EPL 皮下断裂の診断に対し受傷56 日目に手術を施行し,術中所見でEIP の欠損を認めたため,EDM を力源とした腱移行術を施行した.術後は3 週間の外固定の後に可動域訓練を開始し,術後9 か月で左母指IP 関節自動伸展-5°,屈曲90°と日常生活に支障なく,経過良好である.EIP 欠損・低形成例に注意するとともに,遭遇した際はEDM による再建が有用な選択肢の一つと考える.

  • 井畑 朝紀, 森谷 珠美
    2024 年41 巻2 号 p. 151-154
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/11/26
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    今回,著者らは,尺骨茎状突起骨折に対する骨接合時の手術肢位と透視の工夫としてHanging 法を行い,有用である可能性が示唆されたので報告する.Hanging 法を行った8 例を対象とした.方法として、フィンガートラップを装着した示中指を点滴架台に吊り下げ,肘関節屈曲、手関節中間位を保持した.この肢位のまま骨接合と術中透視を行った.患側の胸の上で助手が患肢に骨接合を行う従来法では,骨接合時と同じ肢位を保持したまま透視画像の確認ができず,術後に鋼線の遠位橈尺関節内迷入や破損の合併症が生じていた.これに対しHanging 法では,水平にしたミニC アームを挿入し水平回転することにより,骨接合時と同じ肢位のまま正面像と側面像を正確に把握することが可能であり,鋼線の遠位橈尺関節内迷入や術後破損は生じなかった.不安定性のある尺骨茎状突起骨折に対する骨接合において,Hanging 法は有用である可能性が示唆された.

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