土木学会論文集B1(水工学)
Online ISSN : 2185-467X
ISSN-L : 2185-467X
77 巻, 1 号
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特集(令和2年7月豪雨災害特別企画)
  • 横木 裕宗, 内田 龍彦, 稲垣 厚至, 塚井 誠人, 瀬戸 心太, 横嶋 哲, 吉川 泰弘, 椿 涼太, 斉木 功
    2021 年77 巻1 号 p. 230-233
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/20
    ジャーナル フリー

     令和2年7月,九州地方では4日から7日にかけて記録的な大雨となり,球磨川や筑後川では記録的な洪水が発生した.その後も西日本から東北地方の広い範囲で大気が不安定となり,江の川,最上川など大河川においても氾濫が相次いだ.近年では,毎年のように記録的な豪雨災害が発生しており,降雨強度だけでなく降雨のスケールが時空間的に大きくなっており,被害が時空間的に拡大している.さらに,令和2年度は新型コロナウィルスによる感染症対策のため,人々の活動が制限される中での災害となった.災害調査データを取り纏め,情報発信することは今後の持続可能な社会を検討する上で不可欠である.土木学会論文集では,災害情報を共有・発信し,防災に関する技術および学術分野の進展に資するために令和2年7月豪雨災害に関する特集を企画した.

特集(令和2年7月豪雨災害特別企画)和文論文
  • 藤澤 志織, 四井 早紀, 里深 好文, 伊津野 和行
    2021 年77 巻1 号 p. 136-142
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/20
    ジャーナル フリー

     令和2年7月豪雨では,熊本県の球磨川流域において17橋が流失した.本研究では橋桁が流失した人吉市の西瀬橋を対象とし,上流で観測された水位データを基にした一次元河床変動解析から,洪水時に橋桁へ作用した流体力を計算した.流体力には橋の支承のみで抵抗するものと仮定した.数値解析結果より,建設当時の設計基準である1956年示方書から求めた支承の推定水平強度を上回る抗力が作用したものと推定された.その最大抗力値は2017年示方書で規定される支承強度よりは小さかった.また,トラス断面が流木等で完全に閉塞されたと仮定した場合,最大抗力は閉塞されなかった場合の約2倍になった.

  • 大中 臨, 赤松 良久, 矢野 真一郎, 二瓶 泰雄, 山田 真史, 佐山 敬洋
    2021 年77 巻1 号 p. 203-214
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/20
    ジャーナル フリー

     令和2年7月豪雨によって,九州地方の一級河川である球磨川流域の人吉盆地では,既往最大流量を超える流量が流下し,特別養護老人ホーム・千寿園における人的被害や,本川の2か所で破堤が発生した.本研究では,現地調査で詳細な地形の把握や痕跡水深の測定を行った後,浸水被害の集中した球磨川上流部全域に加えて,小川合流部(千寿園近辺),破堤2箇所周辺において詳細な氾濫解析を実施した.その結果,千寿園付近を流れる小川では球磨川の背水の影響で大幅な水位上昇が起こったことが明らかとなった.また,人吉市街地下流の標高の低く流れの集まりやすい場所では,堤内地から河川内への強い戻り流が長時間にわたって発生しており,それによって2か所での破堤が起こった可能性が高いことが示された.

  • 重枝 未玲, 秋山 壽一郎, Adelaida Castillo DURAN , 林 泰史, 伊藤 翔吾
    2021 年77 巻1 号 p. 215-223
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/20
    ジャーナル フリー

     本研究は,令和2年7月豪雨で甚大な被害を受けた筑後川水系を対象に,降雨の状況や内水・外水氾濫や道路橋・鉄道橋の流失などの被害状況をまとめるとともに,外水氾濫が発生した上流域を対象に,水位情報に基づく1次元解析による再現を実施し,筑後川,玖珠川,隈川,庄手川,花月川の出水状況の把握を行ったものである.その結果,(1) 今回の豪雨は計画規模程度の雨量であったこと,(2) 本研究で推定した千丈,小ヶ瀬,小渕,隈,花月,荒瀬観測所の流量ハイドログラフに基づき,筑後川,庄手川,玖珠川で水位が計画高水位付近まで上昇したあるいは計画高水位を超えた区間の流量が整備目標程度あるいは超えた流量であったこと,などを示した.

  • 吉田 護, 柿本 竜治, 神谷 大介, 阿部 真育
    2024 年77 巻1 号 p. 234-244
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/05/20
    ジャーナル フリー

     本研究では,令和2年7月豪雨を対象として,防災河川・気象情報と避難情報のそれぞれの特徴や関係性を定量的に明らかにした.また,自治体の危機管理の担当者へのインタビュー調査を通じて,当時の状況や危機管理上の課題についてまとめた.結果として,球磨川流域の市町村では,土砂災害の脅威に関する気象情報の発表が先行していたが,洪水の脅威が急激に高まった実態が明らかとなった.特に,指定河川洪水予報について,短い地域は約1時間で,氾濫注意情報(警戒レベル2相当)から氾濫危険情報(警戒レベル4相当)に推移していたことが明らかとなった.また,「避難準備・高齢者等避難開始」の発令が十分でなかったが,予測技術の限界や明るい内に発令したい事情から,その発令が難しかったことが明らかとなった.

特集(令和2年7月豪雨災害特別企画)和文報告
  • 神谷 大介, 赤松 良久, 赤星 拓哉, 吉田 護
    2021 年77 巻1 号 p. 143-149
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/20
    ジャーナル フリー

     豪雨災害時に避難行動を起こす一つの重要な情報に避難勧告等の避難情報がある.また,近年の災害では高齢者等の要配慮者が利用する施設の被災が報告されており,この対応が喫緊の課題である.要配慮者利用施設においては,福祉避難所等の他の施設への避難もしくは垂直避難を行う必要がある場合も存在する.本稿ではコロナ禍において発生した令和2年7月豪雨を対象に,防災気象情報と避難情報の関連を整理し,要配慮者利用施設における避難の実態を調査した.この結果,避難準備・高齢者等避難開始情報はあまり発表されていないこと,河川水位を避難の判断基準としていた要配慮者利用施設では避難の判断に苦慮していたこと,避難には自治会や自治体との話し合いが重要であること等が明らかになった.

  • 陰山 建太郎, 野間口 芳希, 赤畠 義徳, 松岡 裕幸, 柴垣 昂平, 金子 明生, 穴原 琢摩, 西澤 駿人, 石岡 義則
    2021 年77 巻1 号 p. 150-157
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/20
    ジャーナル フリー

     頻発する広域かつ同時多発的に発生する浸水被害実態を早期に把握することは,適切な救助,災害支援,そして早期の応急復旧につなげるうえでも重要である.本報告は,被害把握手法の1つで広域かつ同時多発的な災害把握が期待される衛星観測データを用いた,令和2年7月豪雨時での実証結果を報告するとともに,過去に発生した出水の再現解析を行い,衛星による被害実態把握の現状と課題を報告するものである.また,抽出した現状課題に対する解決策として有望視している広域撮影モードの活用,異種バンドや軌道違いの画像を用いた浸水域把握について検証し,その有効性を確認した結果も併せて報告する.

  • 小松 利光, 橋本 彰博, 押川 英夫
    2021 年77 巻1 号 p. 158-166
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/20
    ジャーナル フリー

     令和2年7月初旬に九州に停滞する梅雨前線に向かって,大量の水蒸気を含んだ暖かい空気がいわゆる「大気の川」を通ってインド洋や東シナ海から流れ込んだ.そのため,スケールの大きな線状降水帯が九州の一級河川の球磨川や筑後川の流域全体を覆う形で発生して大量の降雨をもたらし,甚大な洪水災害を引き起こした.従来の線状降水帯の範囲は比較的狭く,短時間で集中的に豪雨を降らせていたが,地球温暖化による線状降水帯の大型化ならびに台風の強大化・低速化により,地形や位置的特性から九州の河川における大規模氾濫リスクが高まっている.また,今次水害で大規模な浸水被害が発生した球磨川流域の治水対策として,主要支川の清流川辺川の環境保全と球磨川流域の防災の両立を可能とする『Hybrid型の大型流水型ダム』を新たに提案した.

  • 尾方 竜登, 金子 武史, 桑田 誠
    2021 年77 巻1 号 p. 167-173
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/20
    ジャーナル フリー

     近年,未曽有の豪雨による水害が我が国各地で発生しているが,そのような過酷な状況下でも,高速道路は「命の道」として機能を果たすことが求められる.折しも令和2年7月に発生した豪雨は,熊本県を中心に大きな被害をもたらした.高速道路においては長期通行止めを伴う被害こそ免れたものの,トンネルコンクリート版の浮き上がり,のり面崩壊等の被害が発生した.同区間を管理する西日本高速道路株式会社九州支社熊本高速道路事務所では,利用者への影響を最小限にとどめるべく,早期の復旧に努めた.また被災地支援として,通行料金の無料措置ならびに沿線住民に対する緊急開口部の開放等を実施した.本報告では,当事務所における上記の対応状況について整理したものである.

  • 小林 知朋, 正垣 貴大, 矢藤 壮真, Yiwen WU , 福田 凌大, 津末 明義, 丸谷 靖幸, 矢野 真一郎
    2021 年77 巻1 号 p. 174-184
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/20
    ジャーナル フリー

     令和2年7月豪雨により発生した球磨川と筑後川における洪水について,流木発生源に関する現地調査を実施した.球磨川については市房ダム上流域と複数の支川流域で,筑後川については下筌・松原ダムの上流域においてドローンによる写真測量により流木発生源となった斜面崩壊地を測量した.得られた崩壊地面積などのデータと森林に関するデータから各崩壊地毎に発生流木量を推定した.各流域で得られた流木発生量はダムなどで捕捉された流木量と比べると少ないものであった.加えて,平成30年7月西日本豪雨による土砂・流木災害に対して最適化されたロジスティックモデルを球磨川流域に適用し,今次豪雨による流木発生傾向を再現した.その結果,建設計画が再検討されている川辺川ダムの集水域では流木発生が起こりにくい状況であったことが示された.

  • 野原 大督, 角 哲也, 鳥山 亜紀, 長谷川 夏来
    2021 年77 巻1 号 p. 191-202
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/20
    ジャーナル フリー

     令和2年7月豪雨災害では,九州地方や東北地方などで大規模な出水となり,中でも九州地方では人的被害を含む甚大な被害が生じた.一方で,本災害は,新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が全国的に流行する中で発生した最初の大規模水害であり,特殊な感染症への対応を継続しつつも,大規模な水害が発生した場合に地域の医療機能をどのように維持していくかが大きく問われた災害でもあった.本稿では,人吉・球磨地方における地域医療の拠点病院に対して令和2年7月豪雨災害での球磨川の氾濫に伴う浸水時の状況と対応についてヒアリングを行った結果を報告するとともに,これを踏まえた拠点医療機関の水害対策の課題と方向性について述べる.

  • 長谷川 史明, 児子 真也, 阿部 智, 池田 健二, 青木 健太郎
    2021 年77 巻1 号 p. 224-229
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/20
    ジャーナル フリー

     令和2年7月豪雨により江の川水系の国管理区間では,外水及び内水による浸水,高水敷の洗掘,護岸の損傷などの被害が発生した.一方,江の川下流(島根県側)では,水防災対策特定河川事業が完成している吾郷地区や無堤地区対策として堤防整備を進めている八神地区(上地区)では浸水被害を免れた.本報告は,江の川流域で発生した出水被害とこれまでの治水事業効果を報告するとともに,国・県・市町と一体で進めていく流域治水対策について紹介する.

特集(令和2年7月豪雨災害特別企画)和文ノート
  • 石川 忠晴, 赤穂 良輔
    2021 年77 巻1 号 p. 185-190
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/20
    ジャーナル フリー

     本稿は「令和2年7月九州豪雨災害調査(代表:熊本大学・大本教授)」の一環として球磨川本川上流氾濫原の遊水機能の変化を検討した結果を述べている.まず地図情報データ解析から左岸段丘面および氾濫低地の地形の特徴を明らかにし,続いて一連の航空写真により1960年代以降の流域状況の変化を把握した.上記の結果に基づき本川上流左岸の地形モデルを作成し,氾濫数値シミュレーションにより遊水機能の変化を概算するとともに,霞堤等による遊水機能の回復可能性を検討した.その結果,令和2年7月豪雨の規模の出水に対して従来の氾濫原は800m3/s程度のピーク流量低減効果を有しいていた可能性があったと考えられた.また霞堤等により過去の状態に近い遊水機能の回復が可能であると考えられた.

和文論文
  • 吉田 季生, 渋尾 欣弘, 谷口 健司
    2021 年77 巻1 号 p. 12-23
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/01/20
    ジャーナル フリー

     大規模な線状降水帯等により広範囲での水害発生が想定される場合,複数河川の氾濫を考慮した水災害リスク評価が必要である.本研究では,梯川及び手取川での同時破堤を想定した氾濫シミュレーションを実施し,浸水深と氾濫流速を用いたリスクランクによる水害リスク評価を実施した.また,各時刻の避難困難度を求め,避難判断水位に達した時刻からの避難可能時間を算定した.同時破堤が発生した場合,二河川の影響を受ける梯川右岸側で浸水深が大きくなった.二河川の影響を受ける地域では,両河川の水位観測所での避難判断水位到達時刻に応じて,避難可能時間算定に用いる水位観測所を変更する必要があることを示した.また,二河川の洪水波の時間差によっては,遅れて避難判断水位に到達した河川を基準とした避難活動が必要な場合があることを示した.

  • 森 泰樹, 杉山 友康, 里深 好文, 栩野 博
    2021 年77 巻1 号 p. 24-38
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/01/20
    ジャーナル フリー

     近年,降雨強度が高まる傾向にあり,鉄道では渓流からの土砂流入災害が増加している.鉄道沿線には数多くの渓流があり,危険渓流抽出のための現地調査には時間や労力を有する.また,渓流には,地形や地質等の様々な要因が混在するため,技術者の危険度評価にばらつきが生じる.とりわけ,線路から遠く離れた位置に存在し,かつ広範囲に分布する上流域に対する危険度評価は,膨大な時間と労力を要する上に,技術者によるばらつきが大きくなる可能性が高い.そこで,本論文では,現地調査を伴わず,渓流の上流域の危険度を統一した基準で簡易に評価できる手法について論じる.具体的には,主に数値標高モデルの定量データを用いて危険度を評価できる採点表を作成し,その採点表による評価が,現地調査による評価と概ね一致することを示した.

  • 小田 收平, 小田 耕平, 荒尾 慎司
    2021 年77 巻1 号 p. 39-53
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/03/20
    ジャーナル フリー

     概成した合流改善事業は,下水道管理を司る量的制御施設の管理精度が低く効果的な汚濁負荷や豪雨対策に課題も残る.このため,今後の社会的動向を配慮すれば事業運営や維持管理上での問題を含んでいる.

     本研究は,高精度の分水制御が可能な水工学理論とその水理実験検証,これ等を下水道基準図書や実務事例の知見延長で実用化を図った既往研究を受け,合流改善事業後も課題が残る公共用水域の汚濁負荷や居住域の豪雨対策等,都市域の環境と安全に係わる合理的な下水道管路システムの計画手法を提起した.下水道事業の効率化は,管路システムで確実な下水量管理と効果的なストック活用が必須で,本研究の下水流量制御技術活用の管路システムは定量的評価とコスト削減で効果的な事業目的達成に貢献できる.

  • 羽田野 袈裟義, 多田羅 謙治, 永野 博之, 村岡 和満
    2021 年77 巻1 号 p. 54-58
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/04/20
    ジャーナル フリー

     堰を有する河川の治水計画の基本となる水面形計算では堰直上流の水位を可能な限り正確に見積もることが求められる.本研究では矩形幅厚堰について堰頂上の流れの状態と対応して流量係数を与えたGovinda Rao and Muranlidharの実験データの解析により越流水深h,限界水深hc,堰厚さLの間の関係をh/hc ~ hc/Lの関数関係として定式化すると共に,その結果をBazinおよび本間の実験データにより検証した.その結果,h/L ≤ 1.6に対応するhc/L ≤ 1.10の範囲では越流水深の実験値/計算値の比が1.0 ~ 1.1程度の値を示し越流水深を若干過小評価して危険側に見積もること,そして刃形堰の関係の成立範囲h/L ≥⁄ 1.6に対応するhc/L ≥ 1.10の範囲でこの比が0.9 ~ 1.0程度の値をとることなどを明らかにした.

  • 岩田 遼, 中山 恵介, 佐藤 啓央, 新谷 哲也
    2021 年77 巻1 号 p. 59-73
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/06/20
    ジャーナル フリー

     密度躍層厚さが無視できる2層流体では,斜面上の内部ソリトン波の砕波はsurging breaker, collapsing breaker, plunging breaker, fission breakerのおおよそ4形態に分類できる.現在,この4つの砕波形態の分類指標は波形勾配,斜面勾配および内部レイノルズ数に基づいている.しかし,この指標が実海域で多く見られる密度躍層厚さが増加した場合においても適用可能であるかは不明であった.そこで本研究では,数値シミュレーションを用いて密度躍層の層厚増加に伴う上記指標の適用性を調べ,層厚が増加しても2成層の砕波指標が適用可能なことを確認した.さらに,層厚増加に伴う内部ソリトン波の砕波による物質輸送及びエネルギー損失についても検討し,全砕波形態において層厚増加に伴い砕波によるエネルギー損失や,物質の輸送距離が増大することがわかった.

  • 伊藤 悠一郎, 中村 晋一郎
    2021 年77 巻1 号 p. 74-83
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/07/20
    ジャーナル フリー

     水害への対策を検討したり,将来の水害被害を予測するうえで重要となるのが水害被害を記録した長期統計である.日本の水害被害を扱う記録としては1961年より行われている水害統計調査があるが,それ以前の水害の規模や発生地域,発生要因等を把握する長期統計は存在しない.そこで,本研究では,地方気象台等が作成した水害記録を用いて,日本における水害統計調査開始以前の水害データベースを構築した.本データベースは水害統計調査が開始される以前の日本全国の水害被害を記録した最も詳細且つ長期の水害統計である.この水害データベースを分析した結果,これまで記録の無かった1941年から1945年にも1930年代と同等の水害が発生していたこと,水害イベントの発生頻度及び強度は 1950年以降明瞭に増加する傾向が示された.

  • 清水 里都季, 海田 絢斗, 松田 瑞生, 内田 龍彦, 佐山 敬洋, 河原 能久
    2021 年77 巻1 号 p. 84-91
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/07/20
    ジャーナル フリー

     多くの降雨流出解析モデルに用いられている一次元河道洪水流計算法は河道断面形状や河道内樹木群,粗度分布と流速分布の相関等を考慮することができないため,河道水位予測の精度に課題があると考えられる.本研究では平成30年7月豪雨による沼田川洪水を対象にRRI(Rainfall-Runoff-Inundation)モデルを用いた洪水時の河道の水位計算精度を向上させる手法を開発した.まず,二次元拡散波近似を用いた表面流フラックスベクトルを浅水流方程式から導出した.次に,二次元解析結果から河道樹木を考慮した粗度係数は,水深の関数として簡易的に表現できることを明らかにした.そして,この粗度係数関数を用いたRRIモデルによる解析結果は二次元解析結果の水位ハイドログラフや縦断水面形を概ね再現できることを示した.

  • 高橋 祐馬, 入江 政安
    2021 年77 巻1 号 p. 98-110
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/20
    ジャーナル フリー

     将来の気候変動は地域環境に様々な影響を及ぼすと危惧され,河川の流動や水質,生態系への影響もその一つである.本研究では河川水温の流域分布を再現するため,分布型流出モデルRainfall-Runoff-Inundation (RRI) modelに河道水温モデルを組み込み,現況と気候モデルの予測値を用いて計算を実施することで,気候変動が加古川の水温分布およびアユの生息域,遡上時期に及ぼす影響を評価した.

     構築したモデルは加古川における水温の日平均,季節変動を概ね再現することができた.また,気象庁地球温暖化予測情報の予測値を用いて計算を実施した結果,将来期間の水温は現在期間と比較して約2.0°C上昇すると推定された.最後に,アユの生息への影響を評価したところ,生息域はより上流側に移動し,遡上時期は現在より早まる可能性が示された.

  • 朝位 孝二, 白水 元, 西山 浩司
    2021 年77 巻1 号 p. 111-123
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/20
    ジャーナル フリー

     本研究では,自己組織化マップを1954年~2020年の気象データに適用して,南九州地方の気象場のパターン分類を行った.32,696個の気象場をユニット数900,グループ数55に分類した.また2006年~2020年の解析雨量を用いて各ユニットにおける豪雨頻度を算出した.その結果,台風による豪雨災害はマップ上で比較的固まって分類された.一方,梅雨前線による豪雨災害はマップ上で幅広く分類された.また,球磨川流域での豪雨災害と鹿児島県での豪雨災害は異なるグループに分類されることが分かった.熊本県人吉地方に水害をもたらした令和2年7月豪雨と昭和40年7月豪雨の日時に対するマップ上の挙動を比較すると,両者は異なる挙動を示すが,豪雨が最も激しかった時間帯ではどちらも同じ気象パターンであったことがわかった.

  • 菅原 快斗, 佐山 敬洋
    2021 年77 巻1 号 p. 124-135
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/20
    ジャーナル フリー

     森林土壌を対象とした実験・観測データから流出モデルのパラメータを同定できるようにするため,水分保持曲線を反映する流量流積関係式を導出した.導出の際には,斜面に対して垂直方向に圧力水頭の平衡状態を仮定し,水分保持曲線と不飽和透水係数の関係式としてBrooks-Corey Mualemモデルを用いることで不飽和・飽和側方流を解析的に求めた.得られた流量流積関係式を分布型流出モデルのRRIモデルに適用し,4つの土壌タイプを表す一般的なパラメータを用いて流出計算を行った.その結果,流域によって最適なパラメータセットは異なるものの,開発したモデルは観測流量を適切に再現できることを確認した.また,土壌タイプと初期条件によって貯留効果が異なり,ピーク流量の大小は流域の初期水分量と土壌の有効空隙によって決まることが分かった.

和文報告
  • 里村 真吾, 鮎川 一史, 石田 和也, 星尾 日明, 成田 義則, 豊原 裕子, 渡邊 菜月, 神達 岳志, 川島 宏一, 伊藤 哲司, ...
    2021 年77 巻1 号 p. 1-11
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/01/20
    ジャーナル フリー

     平成27年9月関東・東北豪雨災害により,茨城県常総市で多数の避難遅れが発生したことを踏まえ,「マイ・タイムライン」とその検討を進めるための教材を開発し,逃げ遅れゼロを目標とした「みんなでタイムラインプロジェクト」を進めている.その更なる普及に向けて教材を抜本的に改訂するため,常総市内の小中学生の参加を得た社会実験を行った.その結果を踏まえ,小中学生が1時間程度の授業で保護者とともにマイ・タイムラインを作成できる低年齢層向けシート型マイ・タイムライン教材「逃げキッド」を開発した.

和文ノート
  • 高橋 裕輔, 川上 晃一郎, 鈴木 伸尚
    2021 年77 巻1 号 p. 92-97
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/09/20
    ジャーナル フリー

     2015年に国土交通省は,氾濫が発生することを前提として社会全体で常にこれに備える水防災意識社会を再構築するという方針を示した.この方針に基づき,洪水監視のため安価かつ設置が容易な水位計(危機管理型水位計)の開発・設置や水位情報の提供システムの開発等が進められた.

     愛知県では,洪水時の河川監視や住民避難の支援を目的とし,県が管理する中小河川に危機管理型水位計を設置し,2018年6月からインターネットで水位情報の提供を開始した.県市は新たな水位情報を防災減災に利用することが求められる.2019年9月,愛知県と蒲郡市は,蒲郡市を流れる落合川と西田川を対象とし,危機管理型水位計の水位情報の利用に係る検討に着手した.これらの検討を踏まえ,洪水時の河川監視における有用性,河川監視の強化策について述べる.

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