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瀬戸 里枝, 会田 健太郎, 鼎 信次郎
2019 年75 巻2 号 p.
I_1-I_6
発行日: 2019年
公開日: 2020/11/16
ジャーナル
フリー
長期的かつ広範囲にわたる複雑な雲水量分布の把握には,衛星マイクロ波の活用が必須である.衛星マイクロ波の適切な利用のために,地表面状態の非一様性が高い陸域では特に,雲を含む大気と陸面間の放射伝達特性の正確な把握が重要であるが,これまでその特性が十分明らかになっていない.本論文では,まず大気と陸面に跨る放射伝達の理論から,雲存在下での大気陸面間の放射伝達特性の理解に重要な変数を整理する.その上で,衛星マイクロ波による陸域雲水量推定の基礎情報として,陸面の射出と射出率,大気からの下向き放射について,現地観測と数値モデルを用いて検討した.その結果,鉛直積算雲水量が2kg/m2を超える厚い雲については,下向き放射の輝度温度が地表面の物理温度と近いことから,土壌水分などによる射出率の非一様性を考慮しなくても,陸域雲水量を妥当に推定できることが明らかになった.
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辻本 久美子
2019 年75 巻2 号 p.
I_7-I_12
発行日: 2019年
公開日: 2020/11/16
ジャーナル
フリー
本研究では,マイクロ波土壌水分量衛星観測のアルゴリズムに用いられる湿潤土壌の混合誘電率モデルについて,結合水の量と誘電率の推定方法に着目して複数の既存モデルについて比較考察した.特に,粒度や間隙率のみを説明変数とする既存誘電率モデルにPedotransfer関数を組み込むことで,同じ粒度の土壌でも地域によって土壌水分特性が異なることを表現する手法について検討し,課題を整理した.
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高瀬 裕介, 仲吉 信人
2019 年75 巻2 号 p.
I_13-I_18
発行日: 2019年
公開日: 2020/11/16
ジャーナル
フリー
雲をトレーサーとするデジタルカメラを利用した新たな風速測定手法CIV(Cloud Image Velocimetry)を開発した.本手法は地上に複数のカメラを設置し,異なるアングルから雲を撮影することで行われる.撮影された各画像内において,画素値を比較することで同形状の雲を探索し,ステレオビジョンの原理に基づいて画像座標のペアから実世界の3次元座標に復元する.雲の座標の時間変化から風速及び風向を算出した.屋外観測では建物の屋上にカメラを設置し,同定した風速をラジオゾンデで記録された風速と比較し,風向は同時刻において静止気象衛星ひまわり8号によって撮影された画像から算出された観測点周辺の風向と比較した.衛星で確認された風向との平均誤差は11.4度であり,本手法により雲の動きを捉えることに成功した.
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Youngkyu KIM, Sunmin KIM, Yasuto TACHIKAWA
2019 年75 巻2 号 p.
I_19-I_24
発行日: 2019年
公開日: 2020/11/16
ジャーナル
フリー
The purpose of this study was to identify the uncertainty of the probable maximum precipitation (PMP) estimation method using surface dew point data under the pseudo-adiabatic assumption. This PMP estimation method was proposed by the World Meteorological Organization (WMO) and widely utilized for many practical purposes, and precipitable water (PW) is the most important parameter to estimate PMP. We evaluated the pseudo-adiabatic assumption by utilizing the reanalysis data, JRA-55, to estimate the uncertainty in the PW estimation using the pseudo-adiabatic assumption. The JRA-55 data was verified with radiosonde data at 10 points across Japan, and it shows good reliability for the dew point and PW data. Our PW verification results show that the use of the pseudo-adiabatic assumption is suitable for those areas with frequent heavy rainfall events and where the dew point is relatively high. However, the PW estimated from the assumption shows noticeable differences from the PW measured from JRA-55 data in those areas where heavy rainfalls are not frequent, and thus the estimated PMP could have large uncertainty in those areas.
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河野 恭佑, 小田 僚子, 稲垣 厚至
2019 年75 巻2 号 p.
I_25-I_30
発行日: 2019年
公開日: 2020/11/16
ジャーナル
フリー
都市街区スケールにおける熱環境評価を行うために街区放射モデルSOLWEIGを用いて,出力される平均放射温度(MRT)から黒球温度を算出し,移動気象観測値と比較・検証を行った.モデルでの計算値は実測値と比較して約6℃のバイアスが生じ,変動も大きく異なっていた.この理由として,検証で用いた実測値では雲や日陰状態の変化に伴い気象場も局所的に変動しているのに対し,モデルでは初期条件として対象領域に一律の気象データを入力していることが挙げられる.計算値の平均放射温度(MRT)は気温・相対湿度・全天日射量と線形および3乗の関係がみられることから,これに従う近似式を考案した.これらを基に計算値のMRTを補正し,黒球温度を推定した結果,実測値の変動を概ね捉えられることが確認された.
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小田 僚子, 河野 恭佑, 稲垣 厚至, 矢内 栄二
2019 年75 巻2 号 p.
I_31-I_36
発行日: 2019年
公開日: 2020/11/16
ジャーナル
フリー
土地利用形態が変化しない狭域の活動空間においても人体が歩行時に受ける熱ストレスが有意に変化するのかについて評価するため,千葉県習志野市の谷津干潟北部に存在する低層住宅街区内を対象に,小型の台車を用いた移動気象観測手法により真夏日における熱環境場を測定した.ルート内の気象場はアンサンブル平均してもなお有意に変動し,黒球温度と気温はそれぞれ3.5℃,2.7℃も変動しており,これらは干潟や植生の存在と街区構造に起因すると考えられる.比湿に着目すると街区構造の違いが明瞭に現れ,風向に直交する道路が多い場合では100m程度,平行する道路が多い場合では300m以上まで風上にある干潟や植生の影響が及んでいる可能性が示された.
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浅見 真由, 仲吉 信人, Alvin C. G. Varquez , 神田 学
2019 年75 巻2 号 p.
I_37-I_42
発行日: 2019年
公開日: 2020/11/16
ジャーナル
フリー
ヒートアイランド現象は都市化の進展によって生じているが,その地域の地理的な条件や背景気候など,都市により異なる様々な要素の影響を受けていると考えられる.しかし,その包括的なメカニズムは未だに明らかでない.そこで本研究では,数値シミュレーションを用いて世界の複数都市のヒートアイランド現象を再現し比較することで,都市化の影響に加え,地理・気候条件が及ぼす影響を明らかにすることを試みる.ヒートアイランド強度は,特に風速との間に強い負の相関が確認された.これは風速が強いほど,都市の熱が周囲に移流されることによるものであると考えられる.風速はモンスーンなどの全球規模の風速場や,都市周辺の地理など影響や,建物による粗度の影響も受けると考えられ,包括的な指標であると言える.
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岡田 銀河, 中村 晋一郎
2019 年75 巻2 号 p.
I_43-I_48
発行日: 2019年
公開日: 2020/11/16
ジャーナル
フリー
水防活動は,治水事業に合わせて地域の洪水被害の軽減にとって極めて重要な対策であり,人的資源を考慮しつつ効果的に実施される必要がある.しかし,これまで水防活動はその地域性の強さもあり定量的な評価は行われてこなかった.そこで本研究では,水防活動を定量的に評価することを目的として,水防団が水防活動を実施する必要がある仕事量,それを実施するために必要な水防活動量,そして洪水のピークが当該地点まで到達するまでのリードタイムの3つの要素を考慮して水防活動の評価手法を構築し,この手法を用いて木曽川下流域を対象にシナリオに応じたシミュレーションを実施した.
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武藤 裕花, 渡部 哲史, 山田 真史, 知花 武佳
2019 年75 巻2 号 p.
I_49-I_54
発行日: 2019年
公開日: 2020/11/16
ジャーナル
フリー
水害常襲地とその周辺部の社会特性を,地形特性との関係を考慮しながら解明することは,地域特性に応じた土地利用や治水整備のあり方を検討する上で重要である.本研究では水害常襲地を含む行政区の地形分類を行い,地形分類ごとの人口動態の違いを分析した.その結果,人口密度と人口変化率は地形分類ごとに偏りがあった.さらに,地形図判読や視察による詳細な検討により,中小河川・平地型では都市の拡大による浸水リスクの増大がある,中小河川・狭隘型では宅地から離れた人的経済的被害の少ない区域が浸水している,大河川・狭隘型と中間型では新たな治水整備の進行や遊水地的な利用による浸水域の形成がある,というように,地形分類ごとに水害常襲地の社会的特徴の違いがあることがわかった.
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辻本 陽琢, 米津 雅史, 金谷 範導, 辻本 剛三
2019 年75 巻2 号 p.
I_55-I_60
発行日: 2019年
公開日: 2020/11/16
ジャーナル
フリー
将来の大規模災害への備えにおいて住民の「自助」・「共助」が必要不可欠である.それらを一層促進するため,防災に関心の低い住民の意識の向上が重要である.本研究では静岡県浜松市の「浜松市防災住民協議会」主催の防災ワークショップに参加する住民を住民基本台帳から無作為に抽出して募集し,参加した住民の防災意識を定量的に評価し,無作為抽出を募集に活用することが防災に関心の低い住民の参加促進に寄与するのか分析を行った.5回のワークショップでの討議,講演会等を行い,アンケート結果を統計的に分析した結果,参加者の防災意識の変化やその向上が見られ,無作為抽出の有効性が確認できた.
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山下 大佑, 皆川 朋子, 浅田 寛喜
2019 年75 巻2 号 p.
I_61-I_66
発行日: 2019年
公開日: 2020/11/16
ジャーナル
フリー
本研究では,阿蘇北部に位置する白川水系黒川流域を対象に気候変動に伴う氾濫被害の増大に適応するための土地利用のあり方に関する知見を得るため,1902年から2003年までの土地利用の変遷や家屋の変化を地形分類別に整理し,2012年九州北部豪雨とその1.4倍の超過洪水を対象に浸水家屋数や浸水深を評価した.その結果,特に低地の谷底平野や低位段丘面における家屋数の増加によって浸水家屋数は増加したこと,超過洪水が発生した場合,谷底平野と低位段丘面では2012年九州北部豪雨ではみられなかった浸水深3.0mを越える被害が生じることが予測された.また,これらの浸水被害は,谷底平野では河川から概ね約600m以上離れた場所,自然堤防では比高が概ね1.8m以上の場所でそれぞれ低減,回避できると推定された.
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中川 晃太, 中村 晋一郎
2019 年75 巻2 号 p.
I_67-I_72
発行日: 2019年
公開日: 2020/11/16
ジャーナル
フリー
流域内の人口や資産の分布及びそのバランスは,流域管理において極めて重要な事項である.特に,流域治水の考え方に基づき流域内の洪水リスクを削減するためには,上下流バランスを考慮した河川改修,土地利用管理を行う必要がある.本研究は,日本109水系における将来の洪水暴露人口とその流域内上下流バランスの変化を推計した.その結果,109水系内には現在2千7百万人が洪水リスクに曝されており,109水系内の総人口に対する割合は2050年までほとんど変わらないことが分かった.また流域の人口バランスによる分類を行い,大都市圏周辺の流域は下流に多くの洪水曝露人口を持ち,上下流バランスの変化は比較的小さいこと,上流域に曝露人口を持つ流域では,その地域での人口変動が上下流バランスに敏感に影響することなどが明らかになった.
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舟橋 壮真, 沖 大幹
2019 年75 巻2 号 p.
I_73-I_78
発行日: 2019年
公開日: 2020/11/16
ジャーナル
フリー
平成30年7月豪雨の際に鹿野川ダムおよび野村ダムで異常洪水時防災操作が行われた肱川流域において,洪水後に適切なダム操作とは何かを問う議論が起こった.本研究では,洪水被害額の期待値である想定被害額を評価基準として,肱川流域の鹿野川ダムの操作ルールの検討を行なった.結果として,百年に一度の規模の洪水までを考慮する場合には,平成30年7月豪雨時の操作ルールよりも平成7年以前の操作ルールの方が想定被害額が小さいこと,既存ルールよりもさらに大規模な洪水を対象とする操作ルールを用いると想定被害額はより小さくなることが判明した.また,洪水規模に合わせてダム操作を切り替えることにしても,大規模洪水を対象として最適化した操作ルールのみを用いる場合と想定被害額はほぼ変わらないことも明らかになった.
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押川 英夫, 阪本 こなん, 馬場 隆成, 田井 明, 橋本 彰博, 小松 利光
2019 年75 巻2 号 p.
I_79-I_84
発行日: 2019年
公開日: 2020/11/16
ジャーナル
フリー
本研究では,将来起こり得る極端豪雨に対する嘉瀬川流域の治水適応策について検討した.対象とする豪雨イベントには,d4PDF(: database for Policy Decision making for Future climate change)から抽出された嘉瀬川流域の48時間降水量900mmを用いた.この降雨による下流側の基準点のピーク流量は3736m3/sであり,現在の基本高水のピーク流量3400m3/sと比較して,10%大きな超過洪水を対象としている.ここでは特に,既存のインフラ施設を有効利用した適応策を考えるべく,嘉瀬川流域に既設の嘉瀬川ダムと北山ダムを用いた適応策について検討した.その結果,事前放流を行うこと等により既存インフラを存分に活用できれば,将来の極端現象下においても嘉瀬川流域で洪水制御が可能となることが分かった.
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坂本 莉子, 小林 洋介, 中津川 誠
2019 年75 巻2 号 p.
I_85-I_90
発行日: 2019年
公開日: 2020/11/16
ジャーナル
フリー
本論文は,ダムの流入量,貯水位予測に最適な機械学習手法について複数の機械学習手法による予測結果を比較し検証した.予測対象地点を石狩川支川空知川上流の金山ダム,十勝川支川札内川上流の札内川ダムとし,2016年8月の豪雨災害を事例としてダム流域内の水文情報を用いて予測を試みた.比較したのはランダムフォレスト,全結合型ニューラルネットワーク(FCNN),時系列情報処理構造を持つ再帰型ニューラルネットワーク,回帰分析手法のElastic Netである.比較の結果,FCNNとElastic Netは同程度の精度でNSが0.7以上の精度の良い結果が得られた.また,Elastic Netでは精度が十分でない予測雨量を除いた場合においてもNSが0.7以上の高い精度での予測結果が得られ,より有効であることが示された.
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小島 裕之, 永谷 言, 川村 育男, 谷脇 佑一, 倉橋 実, 佐藤 嘉展, 角 哲也
2019 年75 巻2 号 p.
I_91-I_96
発行日: 2019年
公開日: 2020/11/16
ジャーナル
フリー
既存ダムを活用した気候変動への適応策の検討に向け,気候変動がダムの治水機能や利水機能に及ぼす影響を適切に評価し,ダム再生の対策に反映させていくことが求められている.さらに,長期的なダム機能の評価では,堆砂進行による有効容量の減少も重要な要素である.しかしながら,現時点では,これらを統合させた評価方法は確立されていない.そこで,本研究では,気候変動に伴う各ダムの流況変化と堆砂進行を予測した上で,その予測結果から対策の必要性の高いダムをスクリーニングするための評価指標の提案を行うとともに,利水影響指標については個別ダムでの利水計算に基づき妥当性検討を行った.また,提案した評価指標から,全国のダムを類型化した結果,2099年時点では気候変動に対して機能を維持するために,全ダムで何らかの影響適応策を図る必要があることが示唆された.
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岩本 麻紀, 野原 大督, 竹門 康弘, 小柴 孝太, 角 哲也
2019 年75 巻2 号 p.
I_97-I_102
発行日: 2019年
公開日: 2020/11/16
ジャーナル
フリー
ダム下流の河川整備水準が低く河道の流下能力が不足する区間がある場合に,上流のダムにおいて出水時により多くの流入水を貯留する中小規模洪水を重視した洪水調節方式が暫定的に採用されている流域が少なからずある.しかし,こうした操作方式では,大規模洪水の場合には,洪水の早い段階で洪水調節容量が使い切られることにより,洪水ピーク時に洪水調節が行えず,下流の洪水氾濫の危険性を軽減できなくなる可能性がある.本研究では,淀川水系桂川の日吉ダムを対象に,複数の降雨シナリオに対してダムの治水操作手法を変えた氾濫解析を行い,大規模洪水時におけるダムの各治水操作手法の下流への効果や影響を分析するとともに,亀岡盆地周辺の氾濫被害が軽減される治水操作手法について検討する.
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本間 升一朗, 片岡 智哉, 二瓶 泰雄
2019 年75 巻2 号 p.
I_103-I_108
発行日: 2019年
公開日: 2020/11/16
ジャーナル
フリー
本研究では,地震と洪水(堤防決壊)の発生頻度と発生個所,発生間隔の経年変化を調査することで,地震と洪水による複合災害の発生事例及び発生可能性について調べた.2000年代と2010年代における地震の平均発生頻度は同程度であったのに対し,2010年代の堤防決壊の平均発生回数は2000年代のそれに比べて大きかった.また,全国一級水系の年最大水位が計画高水位を超過した頻度は2000年以降増加傾向にあり,洪水発生頻度が増加している可能性が示唆された.結果として地震と堤防決壊の発生間隔は2000年代より2010年代の方が短くなっており,地震と洪水による複合災害の発生可能性が高まっていることが示唆された.
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田中 裕夏子, 風間 聡, 多田 毅, 山下 毅, 小森 大輔
2019 年75 巻2 号 p.
I_109-I_114
発行日: 2019年
公開日: 2020/11/16
ジャーナル
フリー
洪水,高潮それぞれの単独災害ならびに洪水と高潮の複合災害に着目し,被害額の分布を定量的に地図の形に示した.洪水・高潮複合災害の要因を低気圧と仮定し,年最小気圧と日降水量,年最小気圧と潮位偏差の関係性から複合災害を引き起こす日降水量と潮位を求めた.日降水量を入力値,潮位を境界条件として二次元不定流モデルに与え浸水深を算出し,浸水深をもとに被害額を算定した.日本全土における洪水の年平均期待被害額は4兆402億円/年,高潮の年平均期待被害額は4兆431億円/年,洪水・高潮複合災害の年平均期待被害額は3兆8854億円/年となった.洪水,高潮の単独災害と洪水・高潮複合災害の被害額を県別に比較すると,沖縄を除く46都道府県のうち31都道府県において洪水単独災害による被害額が最大となった.
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大野 剛, 伊藤 一教
2019 年75 巻2 号 p.
I_115-I_120
発行日: 2019年
公開日: 2020/11/16
ジャーナル
フリー
河川工事において出水時に工事関係者と建設資機材を安全,確実に退避させるためには,出水の十数時間前から対策を開始することが重要である.工事担当者は複数の水位予測の結果や自らの経験を参考に出水対策の可否や時機を判断するが,予測手法の構築時に必要な水位等データの準備に手間がかかる,予測手法ごとに水位が異なり出水の判断に迷うなどの課題がある.本論文では阿武隈川を事例に入手が容易な雨雲画像を用いてニューラルネットワークにより出水の有無を予測する手法を構築し予測値と実測値を比較した.少ないデータ数で降雨分布を考慮するために雨雲画像を分割し,重心と降雨量を学習データに用いた結果,出水を予測した割合は最大で60%となった.本手法は天気予報を用いることで長時間先の出水を予測できるため河川工事の安全管理に有効と考える.
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中渕 遥平, 鈴木 博人, 金原 知穂, 遠藤 理, 中北 英一
2019 年75 巻2 号 p.
I_121-I_126
発行日: 2019年
公開日: 2020/11/16
ジャーナル
フリー
鉄道では,降雨時の列車運転規制を鉄道沿線に設置された雨量計の実況値を用いて行っている.この列車運転規制に,降雨予測情報を活用できれば,列車運行の安全をさらに高められる可能性がある.そこで本研究では,運動学的予測手法である移流モデルと,気象庁が配信する高解像度降水ナウキャストによる降雨量の予測値を用いた場合の,列車運転規制の発令時刻の予測精度を検証した.予測精度は,実測値で規制が発令する事例のうち予測値でも規制が発令する事例の割合を表す捕捉率と,予測値で規制が発令する事例のうち実測値でも規制が発令する事例の割合を表す適中率で評価した.その結果,捕捉率・適中率とも移流モデルの予測値を用いた方が高解像度降水ナウキャストの予測値を用いた場合よりも高くなり,高精度であることがわかった.
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Wendi HARJUPA, Eiichi NAKAKITA, Yasuhiko SUMIDA, Aritoshi MASUDA
2019 年75 巻2 号 p.
I_127-I_132
発行日: 2019年
公開日: 2020/11/16
ジャーナル
フリー
Rapid Development Cumulus Area (RDCA) indicates the developing process of cumulus clouds that are potentially expected to evolve into thunderstorm within one hour in around 10 km2 area. To express cloud developing process, Rapid Scan Observation (RSO) of Himawari-8 data is used to generate RDCA index ranging from 0.1 to 0.9 by adapting logistic regression model. As the RDCA index represents cloud development without information of updraft, we try to prove RDCA index can reflect updraft information by comparing RDCA index time series with parameter of differential reflectivity (ZDR) and vertical wind velocity estimation obtained by multi Doppler analysis. As a result, based on three cases, we found all of them have a good temporal correlation between RDCA index time series and ZDR, and only one case has a good temporal correlation between RDCA index and vertical wind velocity estimation.
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田井 明, 於久 達哉, 橋本 彰博, 押川 英夫, 杉原 裕司, 松永 信博, 小松 利光
2019 年75 巻2 号 p.
I_133-I_138
発行日: 2019年
公開日: 2020/11/16
ジャーナル
フリー
IPCC第5次評価報告書では,地球温暖化の影響で大雨などの極端現象が頻度,強度ともに世界的に増加する可能性が高いことが報告されている.本研究では,大規模アンサンブル将来気候データベースd4PDFを用いて,九州地方を対象に豪雨の将来変化の解析を行った.d4PDFデータにはモデルバイアスが確認でき,特に1時間雨量を解析する場合に顕著に見られることが分かった.また,地球温暖化の影響により,気温が上昇するにつれて九州全域で時間年最大降水量が増加し,豪雨の強度・頻度ともに高くなっていくことが分かった.さらに,2℃上昇と4℃上昇では影響は単純に線型的に増加せず,4℃上昇の場合に影響が大きくなることが示唆された.なお,豪雨の変化には地域差があり,北部では増加量は比較的少ないが,南部では大幅な増加が生じることが分かった.
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木村 延明, 中田 達, 桐 博英, 関島 建志, 安瀬地 一作, 吉永 育生, 馬場 大地
2019 年75 巻2 号 p.
I_139-I_144
発行日: 2019年
公開日: 2020/11/16
ジャーナル
フリー
近年のインフラ・自然環境が激変している低平地の排水管理のために,最適な排水機場の運転が求められる.排水管理を支援するために,水位・流量を予測できる人工ニューラルネットワーク(ANN)の一種である,長期的な時系列データの学習に有効な長短期記憶(LSTM)モデルを開発した.従来型ANNモデルの予測結果との比較を行うために,LSTMモデルは,比較的シンプルな排水管理を行う流域とより複雑な排水管理を行うに流域に導入された.前者の流域では,機械学習のための観測データが不足していたために,模擬データを作成し,両モデルの排水機場遊水池の水位予測の結果を平均平方二乗誤差(RMSE)で評価した.LSTMモデルの水位の2時間後までの予測結果について,模擬データとのRMSEは,従来型ANNモデルより10%以上の改善が見られた.一方,後者の流域では,長期間観測された水位データのみを利用し,従来型ANNモデルとLSTMモデルを比較して,3時間後までの観測期間のうち,最大水位を含む区間の予測では6%前後,また,全検証区間の平均予測は約1.5%の改善が見られた.
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Sumaiya TAZIN, Sunmin KIM, Yasuto TACHIKAWA
2019 年75 巻2 号 p.
I_145-I_150
発行日: 2019年
公開日: 2020/11/16
ジャーナル
フリー
This research is a development of our previous work, which was also based on artificial neural network usage for prediction of water levels at Hirakata station. This time we included rainfall information along with upstream water level data. The developed model uses a single hidden-layered feed-forward neural network. Prediction accuracy increased significantly compared to the previous research using a similar model. Regarding the whole validation period of three years, even though the model followed a certain pattern of decreasing performance with increasing lead time and increasing length of input data, the results still outperformed predictions obtained without using rainfall information. Some particular periods with peak events from the validation period were also checked. While all the results exhibited better outcomes compared to the previous model, this model did not follow a specific pattern corresponding with input data selection in any of these check periods.
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花崎 梨紗, 石塚 悠太, 山崎 大, 芳村 圭
2019 年75 巻2 号 p.
I_151-I_156
発行日: 2019年
公開日: 2020/11/16
ジャーナル
フリー
洪水は世界各地で深刻な被害を引き起こす自然災害である.近年様々な数値洪水予測システムが開発されているが,それらの多くは実運用に際し洪水時に実施されるダム操作を考慮していない.本研究は洪水予測システムに洪水時のダム操作を実装することにより,数値洪水予報の精度向上を目指すものである.各貯水池の操作は,公開されている洪水調節手順と貯水池パラメータに基づいて河川モデル内で定式化された.2015年関東東北豪雨を対象として,観測降雨を用いた再現実験とアンサンブル気象データを用いたハインドキャスト実験を行った.再現実験の結果はダム操作の実装によりモデルの精度が向上したこと,またアンサンブル予測実験の結果は洪水ピーク流量の予測精度が改善する可能性を示唆した.
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Ying-Hsin WU, Eiichi NAKAKITA
2019 年75 巻2 号 p.
I_157-I_162
発行日: 2019年
公開日: 2020/11/16
ジャーナル
フリー
We attempt to investigate the efficiency of applying a lithology factor with high-resolution XRAIN observation to accurate landslide hazard estimation. This study presents a model of landslide mapping using logistic regression with geological and high-resolution hydrometeorological factors, and analyzes hazardous conditions of landslide disasters occurred in Kure, Hiroshima during the heavy rainfall event in July of 2018. Being identical to the practical method of landslide early warning, the hydrometeorological factors are hourly cumulative rainfall and soil-water index. The lithology factor is derived from the seamless geological map. As a first trial, the model was simply calibrated using linear logistic regression on a recent landslide inventory composing of 646 events in Chugoku Region after 2012. 85% and 15% of events are used for training and accuracy test, and the calibrated model achieves a high accuracy of 91.8%. To verify, our model was applied to estimate landslide occurrence during the heavy rainfall in Kure, Hiroshima. The result verified our model can estimate highly accurate occurrence location.
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Haireti ALIFU, Dai YAMAZAKI, Ji LUYAN, Yukiko HIRABAYASHI
2019 年75 巻2 号 p.
I_163-I_168
発行日: 2019年
公開日: 2020/11/16
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This study investigates flood detectability using global inundation maps derived from satellite images and floodplain mask. Annual total cumulative inundation extent (ATCIE: the accumulative total spatial extent of the flooded area) was derived from satellite-based daily surface water change based on 500 m Moderate Resolution Imaging Spectroradiometer (MODIS) for 2001–2015 overlayed onto newly developed floodplain mask from a global high-resolution Multi-Error-Removed Improved-Terrain (MERIT) digital elevation model. Flood detectability based on the ATCIE was then tested for 16 globally distributed historical flood events. Results indicated that standardized anomaly of ATCIE can successfully detect most of the anomalous inundation extent in historical extreme flood events. However, relatively small floods (return period < 100 year) were undetectable by ATCIE. Flood detectability of ATCIE has a correlation with the magnitude of the flood rather than basin size. Dense vegetation cover (> 40% in the basin), complexity and the intricate river basins (due to altering the flood signal by tributary rivers), or effect of cloud cover are additional potential sources of the undetectability.
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横山 光, 小森 大輔, Thapthai Chaithong
2019 年75 巻2 号 p.
I_169-I_174
発行日: 2019年
公開日: 2020/11/16
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近年さまざまな流木被害が顕在化しており,流木流出メカニズムを理解することは重要である.本研究は,流木流出モデルを寺内ダム流域に適用し,平成29年7月九州北部豪雨における流木流出メカニズムを理解すること,さらに既往研究における北上川水系のダム流域への適用結果と寺内ダム流域の結果を比較することにより,寺内ダム流域の流木流出の特徴を解明することを目的とした.その結果,寺内ダム流域における流木流出特性は2種類の流出系により説明でき,さらに平成29年の豪雨により流木が大量に流出したことの背景として平成24年の豪雨が影響していること,また寺内ダム流域は北上川水系のダム流域と比較して流域内の流木が大きな降雨のない通常時に流出しやすい特徴を持つことが示唆された.
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竹村 大, 正垣 貴大, 津末 明義, 大久保 遼太, 矢野 真一郎, 笠間 清伸
2019 年75 巻2 号 p.
I_175-I_180
発行日: 2019年
公開日: 2020/11/16
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平成24年九州北部豪雨で被災した白川流域を対象に,矢野ら(2018)による流域の流木発生ポテンシャルと橋梁の相対的流木災害リスクの評価法を適用して流木災害リスク評価を試みた.白川は阿蘇山を流域に持ち,火山性地質が多く存在するため,その評価を加えた改良を行った.評価結果より,気候変動等の影響で1, 3, 6時間降水量が増えることに対する流木発生ポテンシャルの増加傾向が定量的に評価できた.また,2016年熊本地震は同年の流木発生量に対して大きな影響を与えており,7~9割は地震によってのみ斜面崩壊が発生しうる起源からのものであったと評価された.さらに,建設中の立野ダムが85%以上の流木発生ポテンシャル分を捕捉可能な位置であり,流木災害の減災効果が非常に大きいことが期待される.
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長谷川 祐治, 中谷 加奈, 海堀 正博, 里深 好文
2019 年75 巻2 号 p.
I_181-I_186
発行日: 2019年
公開日: 2020/11/16
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広島県では山麓まで開発が進んだ扇状地に住宅地が存在し,その多くが土砂災害警戒区域に指定される.このような地域は避難経路となる道が限られて,豪雨時に警戒区域外への移動が難しくなる.そのため,警戒区域内での危険度分布を把握して,家の付近で一時的に避難できる安全な場所を把握することが防災上求められる.本研究では,数値シミュレーションを用いて,土石流による扇状地の住宅地での危険度分布を検討した.シミュレーションでは土砂量や流量等の規模と,地形条件の設定方法が結果の氾濫や堆積に影響する.土砂量や流量は行政の定める指針を基に複数段階の規模を設定した.また,土石流事例では建物の存在により土石流挙動が変わる一方,建物が破壊される場合も多い.そこで,地形データには全建物を考慮するDSM,並びに全建物が破壊されたシナリオで地盤高のみを考慮するDEMを用いた.複数シナリオでの計算結果を重ね合わせた頻度分布から,土砂警戒区域内の危険度分布を示した.
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植村 昌一, 宇治橋 康行, 平松 晋也, 鈴木 博人
2019 年75 巻2 号 p.
I_187-I_192
発行日: 2019年
公開日: 2020/11/16
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鉄道では,降雨時の安全性を確保するために列車運転規制が行われる.一方,降雨に伴う崩壊は,列車運転規制の解除後に遅れて発生する場合がある.鉄道のハード面を含めた防災対策を進める上で,このような遅れ崩壊の発生原因や降雨条件を明らかにし,危険度評価方法を構築することは,重要な課題である.そこで本研究では,鉄道の線路で発生した5件の遅れ崩壊を対象とし,形態の分類とこれらの発生に関連する指標について検討を行った.検討において,研究対象崩壊の形態を表層土浸透水の集中,湧水の集中,基礎地盤の地下水圧上昇の3つに分類した.そして,各形態毎に土中の雨水の挙動を考慮した上で,貯留関数法や標準的なタンクモデルを用いて計算した貯留高が遅れ崩壊の指標として有効であることを示した.
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一言 正之, 川越 典子, 橋田 創, 清 雄一, 房前 和朋
2019 年75 巻2 号 p.
I_193-I_198
発行日: 2019年
公開日: 2020/11/16
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水位計による河川水位のオリジナル観測データには,各種の異常値が含まれる.観測水位の異常値は,防災対応の判断や洪水予測システムに致命的なエラーを引き起こす可能性があるが,リアルタイムでの異常検知は十分に行われていない.本研究では,10分毎に観測所から配信される河川水位データを対象として,リアルタイムに異常値を検出する技術を開発した.機械学習による水位推定手法の技術を用いて,周辺の水位・雨量状況から対象とする観測地点の現時刻の水位を推定し,実観測データとの乖離度合いから異常度を算出した.さらにルールベースによる異常検知と組み合わせ,検知性能の向上を図った.九州管内の実データを用いて提案手法の精度検証を行い,既存手法と比較して高い検知性能を確認した.
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渋尾 欣弘, 呉 連慧, 田島 芳満, 山崎 大, 佐貫 宏, 古米 弘明
2019 年75 巻2 号 p.
I_199-I_204
発行日: 2019年
公開日: 2020/11/16
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低平地に整備されたポンプ施設を有する合流式下水道では,管渠内水位はポンプ排水の影響を強く受けることから降雨特性とは非線形な関係にあり,複雑な挙動を示す.また,管渠内水位の観測情報が少ないために,管渠水理モデルの検証は不十分なままであり,モデル再現性を効果的に改善する手法が求められる.本研究では管渠内水位の観測情報を活用して管渠水理モデルの精度を評価し,予測精度の向上のため事前計算による管渠水位分布のデータバンクを活用した同化手法を適用した.また,ポンプの起動状態が管渠水位に与える影響について感度分析を行った.数値実験の結果,同化によって管渠内水位の再現精度が大きく向上することが示されるとともに,ポンプ井水位の情報をデータ同化に活用することの重要性が示唆された.
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中村 要介, 池内 幸司, 小池 俊雄, 伊藤 弘之, 江頭 進治, 阿部 紫織
2019 年75 巻2 号 p.
I_205-I_210
発行日: 2019年
公開日: 2020/11/16
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リアルタイム水位予測では降雨流出モデルの予測精度向上や河道特性を理解した水理モデルの適用が求められる.本研究では土砂堆積が懸念される芹川を対象に,RRIモデルの初期値である斜面水深と水位観測地点における河床変動量を同一状態ベクトルとして推定する粒子フィルタ手法を提案し,2013年9月台風第18号で観測された気象・水文データを用いて同化実験している.推定された河床変動量に応じて水位観測地点の河道横断形状を逐次修正し,その時点修正された断面から等流計算して予測水位を求めている.実験結果より,現時刻の計算水位は観測水位に同化されると同時に,逐次推定された河床高の変化は土砂移動の理論や芹川の河道特性から現象を解釈することができ,本研究で提案された手法の実用性や妥当性が客観的に証明された.
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尾ノ井 龍仁, 柏田 仁, 鈴木 佑弥, 伊藤 毅彦, 片岡 智哉, 二瓶 泰雄
2019 年75 巻2 号 p.
I_211-I_216
発行日: 2019年
公開日: 2020/11/16
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気候変動に伴う降雨の局地集中化により内水氾濫被害が多発しているが,被害状況の定量的なモニタリング方法は十分に構築されておらず,錯綜する定性的な情報の中で避難判断や水防・排水活動が行われてきた.本研究では,内水氾濫危険度分布の把握を目的として,下水管路内の「点」水位観測データを精度良く「線」データに内外挿するための数値解析手法(DIEX-Flood)を高速演算可能となるように改良するとともに,現地管路における多地点水位観測データに基づいて,有効性検証を行った.その結果,本手法は高精度の水位データ同化によって精緻な水位縦断分布を算出可能であった.また,水位データ同化による水位計算精度向上効果はデータ同化地点の上下流にも波及し,降雨観測・予測誤差やモデル誤差等の影響を低減させて安定的な水位予測が可能であることが示唆された.
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伊藤 毅彦, 柏田 仁, 原山 和, 金子 凌, 片岡 智哉, 小野村 史穂, 仲吉 信人, 二瓶 泰雄
2019 年75 巻2 号 p.
I_217-I_222
発行日: 2019年
公開日: 2020/11/16
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多地点の水位データ同化により「線」水位データ推定が可能な洪水予測手法(DIEX-Flood)の計算負荷低減とロバスト性向上のため,基礎方程式の修正とデータ同化アルゴリズムの改良を行った.改良版DIEX-Floodを鬼怒川の複数洪水に適用した結果,水位縦断分布の現況再現を高精度で可能とすることを示した.さらに,改良版DIEX-Floodと深層学習を組み合わせることで将来時刻における水位縦断分布を予測可能とする新たな洪水予測手法を提案した.本手法により,洪水危険度の時空間分布の把握及び予測が可能であり,危機管理型水位計などの水位データも同化することで,さらなる精度向上が期待できる.
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Saritha PADIYEDATH GOPALAN, Akira KAWAMURA, Hideo AMAGUCHI, Gubash AZH ...
2019 年75 巻2 号 p.
I_223-I_228
発行日: 2019年
公開日: 2020/11/16
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The rainfall spatial variability has not been considered in the Storage Function (SF) models so far even though there exist various SF models including the Urban SF (USF) model, a relatively new SF model mainly for urban watersheds. Therefore, in this study, we aim to propose a generalized USF (GUSF) model for the storm runoff analysis by considering the spatial rainfall distribution in the basin. This was achieved by the introduction of a new parameter named as rainfall distribution factor (𝛾) in the USF model. The GUSF and USF models were examined and the results revealed that the GUSF model with 𝛾 exhibited higher hydrograph reproducibility associated with the lowest error evaluation criteria which emphasize the effect of parameter 𝛾. Further, the Akaike information criterion (AIC) was used to establish the best model among two based on the number of optimized model parameters. The GUSF model received the lowest AIC score in calibration and validation which indicate that the inclusion of a single parameter, rainfall distribution factor, can substantially improve the performance of a model by representing the spatial rainfall distribution of basin in a better way.
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藤塚 慎太郎, 河村 明, 天口 英雄, 高崎 忠勝
2019 年75 巻2 号 p.
I_229-I_234
発行日: 2019年
公開日: 2020/11/16
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近年,都市型水害が頻発しており,都市流出予測の精度向上が喫緊の課題である.都市の流出機構は複雑であり,簡易に精度が良い流出モデルを構築することは困難である.機械学習モデルは入力データと出力データがあれば,モデルのパラメータを自動的に調整してくれることから,簡易にモデルの構築が可能である.そこで本論文では,機械学習モデルによって都市流出モデルをどの程度エミュレーションできるか評価することを目的とし,仮想降雨およびそれを入力として得られる仮想流出量(著者らがすでに公開し真値が既知である)を対象に,従来のニューラルネットワークモデルおよび深層学習モデルを構築し,学習洪水および検証洪水における再現性を比較検証した.また,ハイパーパラメータを変更した場合のエミュレーション性能についても評価した.
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石川 貴大, 木村 匡臣, 安瀬地 一作, 木村 延明, 飯田 俊彰
2019 年75 巻2 号 p.
I_235-I_240
発行日: 2019年
公開日: 2020/11/16
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低平地湖沼への降雨流出現象を再現するために深層学習を用いたモデルを作成した.モデルは4層の順伝播型のものを作成し,学習アルゴリズムにはAdamを用いた.対象地は新潟県新潟市の鳥屋野潟である.入力を鳥屋野潟流域内での1時間単位の降雨と1時間単位の鳥屋野潟から周辺河川への排水機場吐き出し流量をとし,出力を鳥屋野潟への流入量としてモデルを構築した.主に入力値に対して,降水量,排水量それぞれで何時間前までさかのぼって入力とするとモデルの精度が安定するかについて検討を行い.精度が収束すると思われる入力値の選び方を降水量のみを入力とする場合と降水量と排水量を入力に含める場合とで得ることが出来た.また,モデルのネットワーク構造と精度の関係性を,3層のANNモデルと深層学習で比較した結果、モデル構造による影響は深層学習モデルのほうが少ないことがわかった.
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田中 裕士, 立川 康人, 萬 和明, 市川 温, キムスンミン
2019 年75 巻2 号 p.
I_241-I_246
発行日: 2019年
公開日: 2020/11/16
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利根川上流域の八斗島上流域(5150km2)を河川および流域の貯留関数モデルでモデル化し,粒子フィルタを用いて,時々刻々,状態量を更新しつつ河川流量を予測する実時間洪水予測システムを構築した.次に観測情報の導入手法,システムノイズを加える対象(流域の貯留関数モデルの貯留高のみ,河川貯留関数モデルの貯留量のみ,あるいはその両方),データ同化時間間隔を変えて適用し,それぞれの手法の計算結果の予測精度を比較した.その結果,各観測地点の観測流量データを用いて,その上流域のモデルの状態量を更新する手法が良いこと,システムノイズを流域の貯留関数モデルの貯留高と河川貯留関数モデルの貯留量の両方に加える手法が適切であること,データ同化時間間隔は短くすると予測精度が向上することがわかった.
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Putika Ashfar KHOIRI, Masayasu IRIE, Hiroaki TOI, Masahide ISHIZUKA
2019 年75 巻2 号 p.
I_247-I_252
発行日: 2019年
公開日: 2020/11/16
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In this study, polynomial chaos expansion (PCE) was utilized to choose the optimal model parameters of a distributed hydrological model (DHM) for the Ibo River watershed in Hyogo, Japan. Because of many model parameters, only parameters with high sensitivity in the simulation results were estimated by the PCE emulator. PCE provided straightforward orthogonal polynomials that effectively captured the behavior of the DHM with greatly reduced computational complexity. The parameter estimation with PCE reduced the misfit between observed and simulated discharges at three observation stations by 25.2%–39.8%. Based on the good agreement in this case study, PCE is recommended for application in other hydrological models.
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山本 浩大, 佐山 敬洋, Apip , 寶 馨
2019 年75 巻2 号 p.
I_253-I_258
発行日: 2019年
公開日: 2020/11/16
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多くの水文モデルは温帯地域で開発され,温帯地域の降雨流出機構を想定したモデル構造が主流である.一方,湿潤熱帯地域の厚い土層の影響を考慮した長期間の降雨流出機構とモデリングは十分に研究されていない.本研究は,湿潤熱帯地域の降雨流出現象に適したモデル構造と設定を明らかにすると共に衛星観測雨量と全球データから推定された蒸発散データを用いて,データが限られたスマトラ島バタンハリ川流域での降雨流出現象と洪水氾濫現象の予測可能性を明らかにする.深い土層への鉛直浸透過程と地下水をRRIモデルに反映することにより,温帯地域の流出過程を想定した元のモデルと比較して,長期の河川流量の再現性が改善された.さらに,バタンハリ川下流域では毎年80%以上の確率で50cm以上の氾濫が発生する洪水常襲地帯があることが分かった.
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塩澤 拓斗, 山崎 大
2019 年75 巻2 号 p.
I_259-I_264
発行日: 2019年
公開日: 2020/11/16
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全球河川氾濫モデルの地形パラメータの一つである河道深を,衛星高度計による水面標高観測値を用いて,効率的に推定する手法を構築し,本手法をアマゾン川流域に適用した.初めに,双子モデルによる仮想の真値と観測値を用いたOSSE実験によって,流出量に不確実性がある場合でも,本手法で河道深が改善されることを確認した.また,実観測データを使用してアマゾン川の河道深推定を行った.手法に起因する誤差は生じるものの,水面標高や浸水率の観測値に対するモデル再現性が概ね向上し,補正の妥当性が確認された.今後は,横断面データのある地域で手法の検証が必要であるが,本手法は別地域にも適用できると考えられ,全球河道深データセットの構築が期待される.
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兎澤 知浩, 山崎 大, 沖 大幹
2019 年75 巻2 号 p.
I_265-I_270
発行日: 2019年
公開日: 2020/11/16
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蒸発散量や土壌水分量のグローバルな推計に、サブグリッドスケールの飽和側方流が影響を及ぼすと指摘されているが、これを検証した研究は少ない。そこで本研究では、高解像度地形データを用いたアップスケール手法を全球陸面過程モデルMATSIROに適用し、サブグリッド飽和側方流と鉛直方向の陸面水収支との相互作用を陽に表現するスキームを導入した全球陸域モデルを構築する。50年分の全球計算の結果、スキームの導入で概ね土壌水分量が減少した。これは各グリッド内斜面の谷部に土壌水分が集まり、蒸発や流出が起こりやすくなったためと考えられる。また水分が多い谷部に植生が偏在すると蒸発散など丘谷の水熱収支にコントラストを生じさせるため、飽和側方流の及ぼす影響を評価する上で、地形に加えグリッド内の植生分布についても考慮する必要性が示唆された。
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Aulia Febianda Anwar TINUMBANG, Kazuaki YOROZU, Yasuto TACHIKAWA, Yuta ...
2019 年75 巻2 号 p.
I_271-I_276
発行日: 2019年
公開日: 2020/11/16
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This research investigated runoff characteristics generated by two LSMs: MRI-SiB, which was embedded in a regional climate model NHRCM, and SiBUC. The generated runoff were given as input to a flow routing model 1K-FRM for simulating the river discharge to analyze their impacts. The simulation was applied in the upper part of Ping River basin in Thailand. First, the runoff characteristics from both models were analyzed. Then, river discharge simulation was conducted by utilizing the runoff from both LSMs. The simulated river discharge from both LSMs were analyzed in terms of volume of discharge and timing of peak discharge. Some possible causes of different runoff estimation by both LSMs were investigated by analyzing the effect of soil parameter settings, water budget, and model structures.
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Jacqueline Muthoni MBUGUA, Yoshiya TOUGE, So KAZAMA, Temur KHUJANAZARO ...
2019 年75 巻2 号 p.
I_277-I_282
発行日: 2019年
公開日: 2020/11/16
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The Amu Darya delta is an irrigation intensive region located in an arid drought-prone part of the Aral Sea basin. Due to irrigation which is characterized by high water application rates, the groundwater level is high and has resulted in secondary salinization. This coupled with the frequent droughts causes the irrigation area to constantly change for farmers to adapt to cropping environmental problems and the changing annual climate. However, obtaining an accurate report of the actual distribution of the irrigated area has proven to be difficult even to the local government and local agricultural institutes. This study aims to assess the potential of using Land Surface Temperature (LST) from MODIS and a Land Surface Model (LSM) to detect annual changes in irrigated area. 3 indices were developed using LST by MODIS and LSM based on the concept of heat capacity difference between water and soil. The LSM provides LST for ideal conditions while MODIS provides the actual LST. A combination of the two enables the elimination of external influence on LST such as rainfall and geological variations which may impact on the LST. A distributed map of all the 3 indices shows the potential of LST in detecting drought. The irrigation fraction during a drought year was observed to be lower as compared to that of a normal year. This was true especially further away from the water source due to water scarcity. In addition, a comparison of the sum of all the meshes in the study area for each of the 3 indices with the volume of water released from the Tuyamuyun reservoir shows a similar trend. Tuyamuyun is indicative of water availability in this drought-prone region, therefore, the indices developed can be used to indicate irrigation activity here.
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筒井 浩行, 澤田 洋平, 生駒 栄司, 喜連川 優, 小池 俊雄
2019 年75 巻2 号 p.
I_283-I_288
発行日: 2019年
公開日: 2020/11/16
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2000年代に入り,ブラジル北東域は,深刻な渇水被害を受け続けている.特に2012年以降続いた長期渇水は,Ceará州における貯水池の総貯水容量を約6%にまで落ち込ませた.本研究では,植生動態-陸面結合データ同化システム(CLVDAS)を用いたブラジル北東域における長期農業的渇水解析(2003年~2017年)を行うと共に,その出力値であるLAIの偏差を用いることにより,その年の穀物生産量と目標収穫量を得るために必要となる灌漑水量を推定できることを確認することができた.
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北野 利一, 志村 隆彰, 田中 茂信
2019 年75 巻2 号 p.
I_289-I_294
発行日: 2019年
公開日: 2020/11/16
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d4PDFのような大多数のアンサンブル標本データを用いれば,1変量降水量の極値特性のみならず,2変量の極大降水量の依存特性さえもノンパラメトリック手法で検討できる可能性がある.しかし,単純に数え上げるだけでは,データから得られる情報の無駄使いになるだけでなく,多変量の極値が満足すべき整合性を検討しないのは,応用に必要な論理に矛盾が生じるかもしれない.本論文では,同時極値のノンパラメトリック手法に不可欠な理論を示し,2地点間の距離が離れると,極大降水量の互いの依存性が弱まることを定量的に示す.
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鈴木 正人
2019 年75 巻2 号 p.
I_295-I_300
発行日: 2019年
公開日: 2020/11/16
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本研究はd4PDF過去実験の降水量データを対象にトレンド解析を行うことで,その定常性を検証することを目的としている.わが国の7地点の夏季降水量を対象に,ノンパラメトリックな手法によりトレンドの有無を検定した.d4PDFの各アンサンブルメンバを個別に検定した結果,増加トレンドとなったメンバの数と減少トレンドとなったメンバの数の割合について,有意に増加トレンドの割合が多いことが示された.また,全メンバを一括して検定した結果,有意な増加トレンドが認められ,降水量の非定常性が確認できた.全メンバを一括したデータを対象に,トレンドを除去し定常性を確認した上で確率降水量を求めた後,再びトレンド分を加えた上で実データと比較した結果,d4PDF過去実験の1時間降水量は実データと比べて過小であることが示された.
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