土木学会論文集B1(水工学)
Online ISSN : 2185-467X
ISSN-L : 2185-467X
77 巻, 2 号
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水工学論文集第66巻
  • 太田 皓陽, 二瓶 泰雄, 伊藤 毅彦, 川瀬 宏明, 佐山 敬洋, 中北 英一
    2021 年 77 巻 2 号 p. I_1-I_6
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/15
    ジャーナル フリー

     本研究では,過去に起こった特定の洪水への気候変動影響を評価するため,令和元年東日本台風の荒川上流域を対象に,工業化前から+2℃及び+4℃上昇シナリオ下での擬似温暖化アンサンブル実験を行った.本研究では,気象・流出解析に加え,事例が少ない河川流・氾濫の一連の解析を行った.その結果,現況再現ケースに対する+2(+4)℃上昇シナリオの増加率は,総雨量7.1(33.8)%,ピーク流量12.2(35.8)%,河川水位上昇量(H.W.L.基準)130(286)%となった.現況ケースでは越水は発生しなかったが,+2,+4℃シナリオでは20メンバー中6,18メンバーで越水氾濫が発生した.現状でH.W.L.を超過したものの越水氾濫等が発生しなかった洪水が,気候変動の進展により,越水氾濫の可能性が高まることが示唆された.

  • 武田 誠, 大溝 諒介, 川池 健司, 田中 智大, 立川 康人
    2021 年 77 巻 2 号 p. I_7-I_12
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/15
    ジャーナル フリー

     近年,洪水破堤氾濫に伴う甚大な水害が多発している.仮に都市域で大規模浸水が発生した場合,氾濫水は都市の低い箇所へ拡がる.都市には地下街や地下鉄などの地下空間が存在し,大規模地下浸水が生じた場合には,甚大な人的・経済的な被害が生じることが懸念される.さらに,現在d4PDFを活用した将来の洪水の状況が検討されており,そのなかで大規模洪水の発生も懸念されている.本研究では,将来予測の洪水流量を用いて,大規模洪水が発生した場合の浸水の様子を考察する.対象とする庄内川は,上流の多治見,土岐などの貯留型の氾濫域を有していることから,上流域の氾濫を考慮することによる,下流への洪水流量の変化と氾濫の様子を考察した.本研究では,上流域で氾濫が生じるが氾濫域からの戻りも生じるので,氾濫が生じることによる洪水流量の時間遅れが発生するものの,下流のピーク流量に大きな変化は無かった.また,下流域において.破堤が生じることで地下浸水が大きくなることが改めて示された.

  • 植村 昌一, 橋本 健, 鈴木 博人
    2021 年 77 巻 2 号 p. I_13-I_18
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/15
    ジャーナル フリー

     鉄道では,土砂災害などの降雨災害から列車の安全を確保するために,雨量計の観測値に基づいて運転中止などの措置をとる列車運転規制を実施している.将来は,温室効果ガス排出量の増加により大雨の強度や頻度が増加すると予想されており,列車運転規制の増加による鉄道輸送の安定性の低下が想定される.本研究では,4つの鉄道線区を対象として,現在と21世紀末における運転中止の実施頻度と実施時間の変化を評価することで,降水変化が鉄道輸送の安定性に及ぼす地域的な差異を評価した.その結果,21世紀末では現在に比べて,運転中止の実施頻度が東北の線区で平均3.1倍,関東の線区で平均1.4倍,運転中止の実施時間が東北の線区で平均4.2倍,関東の線区で平均2.1倍となった.このように,運転中止の実施頻度と実施時間は増加するとともに,それらの増加度合いは東北の線区が関東の線区よりも大きいと考えられる.

  • Alatannabuqi ZHANG , 篠田 成郎
    2021 年 77 巻 2 号 p. I_19-I_24
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/15
    ジャーナル フリー

     渇水は長時間の少雨継続をトリガーとして生起するが,時間的に変化する降水の浸透・貯留・流出過程の条件も重要な生起要因となる.データ同化手法の一つであるMCMC法を簡易な流出モデルに適用することにより,1994年の大渇水期を含む長期水文観測データにおける渇水生起時の水分移動の時間変化特性が検討された.その結果,地中での水分貯留高減少よりも,鉛直浸透増大と水平流出低下の傾向が渇水生起の潜在性を高め,これを指標化することで渇水生起の予兆を把握できることが明らかにされた.

  • 関 洵哉, 中津川 誠, Nguyen Thanh Thu
    2021 年 77 巻 2 号 p. I_25-I_30
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/15
    ジャーナル フリー

     本研究は,低平地河川での気候変動による背水影響を考慮した洪水氾濫時の農作物被害額の推定を目的とする.対象とした千歳川は石狩川の支川であり,低平地を流れる河川であるため,本川からのバックウォーターの影響を強く受ける,地形的に脆弱な地域である.同時に,流域内では北海道が多くのシェアを占める小麦や大豆をはじめとする農作物が生産されており,全国的なサプライチェーンへの影響も大きい.本研究では千歳川流域における農作物被害額を推定するため,d4PDFのダウンスケーリングデータから得られた降雨情報と農地の筆ポリゴンデータを使用した.結果として,現在および将来における農作物被害額を推定し,将来的には過去最大の被害額の1.2倍にのぼる被害が発生する可能性が示された.

  • 田井 明, 於久 達哉, 鍋島 孝顕
    2021 年 77 巻 2 号 p. I_31-I_36
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/15
    ジャーナル フリー

     九州の一級河川4流域を対象に,地球温暖化による降雨および河川流量の変化特性について,d4PDF過去実験および4℃上昇実験結果のうち各年の48時間年最大降水量イベントに着目した解析を行った.48時間年最大降水量を記録する月別の割合は流域によって差がみられ,九州北部と比較して九州南部のほうが夏季の頻度が高くなることが示された.次に、温暖化により全流域で大洪水の頻度が増加することに加え,イベント毎のハイエトグラフのピーク数が全流域で減少傾向となり,一山洪水や二山洪水などを引き起こす豪雨イベントが増加することが分かった.本研究により,温暖化によって降水量の増加だけではなく,イベント内のハイエトグラフのピーク数が減少することで,洪水ピーク流量の増加が生じる可能性が示された.

  • 宮本 昇平, 丸谷 靖幸, 渡部 哲史, 谷口 弘明, 矢野 真一郎
    2021 年 77 巻 2 号 p. I_37-I_42
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/15
    ジャーナル フリー

     本研究では,ダム下流域に甚大な被害をもたらすことが懸念される,異常洪水時防災操作の発生頻度に対する気候変動の影響について,令和2年7月豪雨でダム建設後初めて異常洪水時防災操作が実施された下筌ダムおよびその直下に位置する松原ダムを対象に検討を行った.なお,解析には流出モデルおよびダムモデルの入力値にd4PDFを利用した.その結果,下筌ダムにおける異常洪水時防災操作の発生頻度は,平均気温4℃上昇の条件下で最大約5倍上昇する可能性が示唆された.一方,松原ダムでは,現在気候とほぼ変化しないことが確認された.そのため,ダム下流域の被害抑制にダムが 2 段構えで運用されていることの有効性が示唆された.

  • 西島 星蓮, 中津川 誠, 山洞 智弘
    2021 年 77 巻 2 号 p. I_43-I_48
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/15
    ジャーナル フリー

     本研究の目的は,気候変動に伴う洪水リスクの増大を念頭に,積雪地域の多目的ダムの洪水調節機能を評価するものである.北海道のような積雪地域では,融雪期に大雨が降ると,利水のために満水に近い状態となっている多目的ダムでは異常洪水時防災操作を余儀なくされる.そこで,夏期の大雨だけでなく,融雪に大雨が相まった洪水を気候変動アンサンブルデータから通年で推定し,異常洪水時防災操作の生起頻度を推定する.結果として,将来は異常洪水時防災操作の生起頻度が増え,特に冬期や融雪期の増加傾向が顕著となることが示された.得られた結果は,気候変動に適応できる治水計画を立案するうえで,事前放流,ダムの再生や新設といった具体的方策に生かされるものと考える.

  • 田中 智大, 北口 慶一郎, 立川 康人
    2021 年 77 巻 2 号 p. I_49-I_54
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/15
    ジャーナル フリー

     全国一級水系で構築した分布型降雨流出モデルとd4PDFから得られる年最大降水量を用いて59一級水系でダムがある場合とない場合の降雨流出計算を行い,ダムの治水効果の全国的な将来変化を分析した.基準地点の洪水ピーク流量の比率(ダムあり/ダムなし)は一定規模以上の洪水で増加する水系と増加しない水系があることがわかった.前者は降雨規模が大きく貯水容量が小さい九州や太平洋側,後者は瀬戸内海や日本海側に分布した.計画規模に相当する洪水強度は4度上昇シナリオのもとで全国的に増大し,両者の違いは現在の治水容量によって決まることがわかった.また,4度上昇シナリオ下での異常洪水時防災操作に入る回数も治水容量によって決まることがわかった.

  • 和泉 征良, 中西 一宏, 永谷 言, 小島 裕之, 倉橋 実, 川村 育男, 角 哲也
    2021 年 77 巻 2 号 p. I_55-I_60
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/15
    ジャーナル フリー

     近年,我が国では,計画を上回る規模の洪水が頻発しており,将来の気候変動に伴う外力増大を考慮することが喫緊の対応課題である.本研究では,ダムの洪水調節機能に着目し,全国の主要な水系における洪水調節機能の現状把握,ダムの事前放流の実施効果,既存ダムの機能強化(ダム再生)を合理的に進める上での優先度評価手法について検討した.その結果,流域内合計相当雨量を用いて,治水ダムが有効に整備されている水系,治水ダムが十分整備されていない水系,利水ダムが整備されているが治水計画上は洪水調節効果が考慮されていない水系などの相違点を明らかにした.また,既往研究で治水耐力評価指標として提案されている比較定数αとダムの流域面積支配率の関係から,優先的に治水耐力増強を図るべきダムを抽出できる可能性があることを示した.

  • 玉川 勝徳, MOHAMED Rasmy , NASEER Asif , 牛山 朋來, 中村 茂, Cho Thanda NYUNT , M ...
    2021 年 77 巻 2 号 p. I_61-I_66
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/15
    ジャーナル フリー

     本研究は犀川流域における発電ダムを対象に効率的なダム操作のために重要となるダム流入量予測について検討した.まず,暖候期から寒候期まで水循環過程を高い精度で表現できる流出モデル(WEB-DHM-4cS)を構築した.2015年8月~2018年7月の3年間を通して検証し,上流部の高瀬ダム,下流の生坂ダム地点において各年とも低水から洪水,融雪出水まで観測と良く一致していることを示した.次に,生坂ダム(第三類),高瀬ダム(第一類)地点における2018年7~9月の出水イベントを対象に流入量予測をした.生坂ダム地点ではリードタイム7~31時間で洪水量(800m3/s)を予測するケースを示し,高瀬ダム地点ではピークまでの積算流入量(ボリューム)で,中規模出水において24時間前,12時間前,6時間前でそれぞれ5%以内の高精度で予測した.

  • 若狭谷 昇真, 中津川 誠, 小林 洋介, 山洞 智弘
    2021 年 77 巻 2 号 p. I_67-I_72
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/15
    ジャーナル フリー

     本研究の目的は,異常洪水時防災操作におけるダムの流入量,貯水位,放流量の予測手法の提案である.近年,全国的に頻発している大洪水の被災状況を踏まえ,効果的なダムの操作に生かされる貯水位,放流量の予測が重要となっている.本研究では,少ない情報からデータ間の関係性を特定することが可能なスパースモデリング手法の一つであるElastic Netを使用し,過去に異常洪水時防災操作事例のあるダムを対象に,流入量の予測を行った.次に,予測した流入量から,操作規則に基づく貯水位及び放流量の予測を行った.さらに,そこで予測した放流量は,下流河川の水位予測に有用であることが示された.このことから,事前放流の判断や放流の下流域への影響を認識する上で,提案した手法が活用できるものと考える.

  • 会田 健太郎, 柿沼 太貴, 大沼 克弘, 伊藤 弘之, 小池 俊雄
    2021 年 77 巻 2 号 p. I_73-I_78
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/15
    ジャーナル フリー

     洪水災害は,温暖化による豪雨頻度の増加を背景に世界各地で頻発している.洪水被害を軽減するためには,所要の精度で洪水リスクを評価し,適切な対応策を講じる必要がある.しかし観測網が十分でない地域では,モデル構築に必要な水文データが不足しているのが現状である.本研究では2018年にミャンマーで発生したアースダムの決壊による氾濫事例を対象として,ダム流入量とダム貯水位の変化およびダム決壊による下流域の氾濫を解析する流出氾濫モデルを構築した.そして世界中で入手可能な衛星データを用いて降雨の時空間データ作成と浸水域抽出を行い,氾濫状況の再現性を検証するとともに、各地のアースダム下流の危機管理に資することを目的に、確率規模降雨ごとの氾濫想定方法を提案した.その結果,水文データが乏しい地域でもダム決壊時の危機管理に有用な浸水域の想定が可能であることを示した.

  • 小池 俊雄, 中村 茂, Cho Thanda Nyunt , 牛山 朋來, Rasmy Mohamed , 玉川 勝徳, 伊藤 弘之, 池 ...
    2021 年 77 巻 2 号 p. I_79-I_84
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/15
    ジャーナル フリー

     気候の変化によって増大する洪水災害リスクの軽減と,カーボンニュートラル政策の推進による再生エネルギーの増産へ貢献を目的として,アンサンブル流出予測情報を用いた単一発電ダムの操作支援システムを開発した.このシステムを2年の暖候期にシミュレーションによって連続的に適用した結果,洪水時のゲート放流量を目標値以下に抑えつつ、発電量を増加することができることを示した.

  • 藤田 隼人, 瀬戸 里枝, 鼎 信次郎
    2021 年 77 巻 2 号 p. I_85-I_90
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/15
    ジャーナル フリー

     昨今数値予報の事前放流への利用が全国のダムで活発化している中,現在の気象庁降雨予測が,全国の多目的ダムでの事前放流判断に対し,どの程度の精度になっているかを評価した.全国のダムでの解析には,地質に基づき総合化されたタンクモデルを用いて流入量を計算し,また各ダム本則操作や諸量も個々に調査し取り入れた.その上で,直近の災害を対象として,各予測時点に見積もられる,事前放流で確保すべき容量や所要時間の精度を評価した.その結果,確保すべき容量の空振りや予測更新毎の振れ幅等,不確実性は確認されたものの,対象ダムが持つ洪水調節容量や下流の流下能力の元では,利水容量の回復が困難になる事例は少なく,事前放流が必要なダムに対しては,異常洪水時防災操作の規模軽減に有効な情報となっていたことが確認された.

  • 野原 大督
    2021 年 77 巻 2 号 p. I_91-I_96
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/15
    ジャーナル フリー

     現業中期アンサンブル降水予報と予測特性を考慮した多目的ダムの事前放流決定手法の検討を行った.気象庁週間予報(WEPS)の降水量予報値を用い,大規模な洪水発生の可能性や貯水位回復可能性を踏まえながら事前放流を効果的に行う手法を開発した.このとき,各メンバの予測降水量の順位別に精度解析を行い,誤差特性を踏まえて事前放流の実施方法を決定した.モデルダムの長期操作シミュレーションにより有効性を検証した結果,粗い空間解像度の予報を利用する場合でも,不要な事前放流を抑えつつ,洪水調節容量が不足する大規模な出水に対しては早期から段階的な事前放流が実施できる可能性が示された.

  • 岩本 麻紀, 野原 大督, 竹門 康弘, 小柴 孝太, 角 哲也
    2021 年 77 巻 2 号 p. I_97-I_102
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/15
    ジャーナル フリー

     近年,平成30年7月豪雨などの大規模水害が頻発している.一方で,河川整備途上で,洪水調節開始流量を切り下げた暫定操作が実施されているダムも多く,異常洪水時防災操作に至る事例も散見される.本研究では,頻繁に発生する中小規模洪水時だけでなく,大規模洪水時にも被害を軽減できるようなダムの治水操作方式を決定する手法を提案することを目的とする. 具体的には,桂川上流の日吉ダムを対象に,d4PDFの降雨量の生起確率を求め,ダムの治水操作方式を変えて降雨流出氾濫解析を行い,ダム放流量,氾濫面積や下流域の経済被害等を分析した.その結果,さまざまな規模で発生し得る降雨群を対象に,ダム無しを含むダムの治水操作方法による効果を定量的に比較し,最も有効なダムの治水操作方式を選択する手法を提案した.

  • 原田 翔太, 石川 忠晴, 赤穂 良輔, 伊藤 康
    2021 年 77 巻 2 号 p. I_103-I_108
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/15
    ジャーナル フリー

     阿武隈川上流にある浜尾遊水地(福島県須賀川市)を対象に,令和元年台風19号出水における洪水調節効果を検証した.本洪水では遊水地周辺で氾濫が生じ,また上流の観測施設が欠測であったため流量が不明であった.そこで入手できたデータを組み合わせ,遊水地および氾濫原を含む領域で氾濫数値シミュレーションを反復して洪水を再現したところ,各種の断片的水位記録,痕跡水位および須賀川観測所データと概ね矛盾ない結果が得られた.それによれば,浜尾遊水地は増水期にほぼ満杯状態になり,洪水ピーク低減にほとんど寄与していなかった.一方,遊水地上流で溢水した洪水が氾濫原を低水深でゆっくり流下し,洪水ピークをカットしていたことが明らかになった.以上の結果は,今後の流域治水における超過洪水対策の参考になると考えられた.

  • 赤塚 洋介, 瀬戸 里枝, 鼎 信次郎, 小槻 峻司, 渡辺 哲史
    2021 年 77 巻 2 号 p. I_109-I_114
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/15
    ジャーナル フリー

     豪雪地帯に位置するダムでは降雪期に流入量が減少するため,流入量が増加する融雪期に利水容量を回復することが求められている.本研究では,深層強化学習を用いたダム操作モデルに集水域の融雪量や気温データを入力することで,豪雪地帯のダムにおける融雪洪水の抑制と利水容量を回復・確保するための操作の両立を目的とした学習を行った.学習の結果,AIダム操作モデルは6カ月以上の長期的なダムの操作であっても,期間中に発生した洪水の抑制操作と,融雪期における利水容量回復の操作を両立できることが明らかになった.また,気温や融雪量などの条件に応じて適切に放流量を制御できるという結果が得られた.

  • 齋藤 雅彦
    2021 年 77 巻 2 号 p. I_115-I_120
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/15
    ジャーナル フリー

     本研究では,地表面付近の2層構成の不飽和帯におけるフィンガー流の発生形態について,飽和・不飽和浸透流解析と,不均一地盤モデルを用いた2次元および3次元数値シミュレーションを行い,2次元場と3次元場の相違について考察した.加えて,シミュレーションによって得られた流速分布の統計的性質に基づいて,フィンガー流の発生形態に関する連続的/定量的評価を試みた.その結果,透水性が低く,保水性が高い上層では概ね均一な流れ場が発生し,透水性が高く,保水性が低い下層では明瞭なフィンガー流が発生した.2次元場と3次元場の違いは,流速分布の目視による比較は困難であったが,統計的性質に基づいた評価では,両者の相違を定量的に評価し得ることを示した.

  • 佐藤 豊, 福岡 捷二
    2021 年 77 巻 2 号 p. I_121-I_126
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/15
    ジャーナル フリー

     本研究は,千曲川,梯川堤防で発生している堤防基盤漏水について,堤防基盤脆弱性指標tb*と堤防裏法先の土質特性を用いて検討した.漏水発生範囲は,裏法付近の水の集中度を表すtb*が,tb* = 0.30~1.40,噴砂発生範囲はtb* = 1.40以上で,裏法尻付近の基礎地盤土質の層厚,粒径特性に応じて漏水,噴砂が発生することを示した.tb* = 0.30より小さい値の範囲では,広域地下水型,常襲型の漏水発生が見られ,これらはtb*と地形,裏法先での土質特性から漏水形態を区分できることを示した.さらに,堤防弱点箇所の抽出のために,堤防脆弱性指標tb*と堤防基盤脆弱性指標tb* の関係図を作成することで,堤体漏水,基盤漏水またはその両方が一緒になった漏水による弱点箇所であるかを判定できることを示した.

  • 伊神 友裕, 前田 健一
    2021 年 77 巻 2 号 p. I_127-I_132
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/15
    ジャーナル フリー

     河川堤防の強化工法の1つに矢板の設置が挙げられるが,現状その効果については不明な点が多く残っている.そこで,本研究では矢板設置時のパイピング破壊のメカニズム把握のため,簡易小型模型実験と浸透流解析を実施した.その結果,模型実験では矢板の設置により堤内地の噴砂の発生自体を抑えることは難しいものの,漏水流量を半減させるなど基礎地盤の変状が抑えられ,パイピング孔貫通を遅延させる効果があることが分かった.また,堤体下のパイピング孔の進展を模擬した浸透流解析から,堤外側からパイピング孔先端に向けて流速の大きな浸透流が直接作用することがパイピング孔貫通による破堤のトリガーの1つであることが明らかになり,矢板の設置によりこの作用を防ぐ効果があることが分かった.

  • 天野 弘基, 市川 勉, 中川 啓
    2021 年 77 巻 2 号 p. I_133-I_138
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/15
    ジャーナル フリー

     本研究では,阿蘇南郷谷を対象に,2016年熊本地震の水文環境への影響を評価するために,現地調査から得られた水文データを反映した水収支モデルを作成した.2015~2019年を対象に解析を実施した結果,地震直後の急激な地下水位上昇やその後の水位変化,塩井社水源の枯渇と回復過程の再現性から,地震により透水係数等の水理パラメータは上昇し,その後元の状態に戻っていないことが示唆された.また,地震の影響で上流からの地下水流入が増加した領域では,湧水量や基底流出量が増加したことが示唆された.

  • 久加 朋子, 加藤 康充, 山口 里実, 富田 邦裕, 今 日出人, 清水 康行
    2021 年 77 巻 2 号 p. I_139-I_144
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/15
    ジャーナル フリー

     厚真川下流域におけるシシャモ産卵場特性の把握および北海道胆振東部地震後の崩壊地からの細粒土砂流入の影響の検討を目的に,11年間の産卵場調査データを用いた統計モデルの構築,および2次元流れ・河床変動解析を行った.統計モデルによると,産卵適地は粗砂分が多く,底層流速0.4m/sの場所が該当した.数値解析からは,厚真川では冬季平均日流量5m3/s付近を境に上記の産卵適地が上流側へ移動するため,低流量~高流量まで一連で対応できる産卵場が少ないことが確認された.地震後に増えた細粒土砂は主に河岸付近へ堆積し,低水路への堆積は少なく,シシャモ産卵場への影響は小さい可能性が示唆された.

  • 小山 直紀, 髙良 圭, 及川 雄真, 山田 正
    2021 年 77 巻 2 号 p. I_145-I_150
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/15
    ジャーナル フリー

     本論文は,降雨流出モデルの精度向上に向けた物理特性を解明するため,単一地質からなる32のダム流域を対象として,山地流域において流出に大きく影響する表層地質とパラメータの関係性を分析すると共に,異なる表層地質からなるダム流域において過去に経験のない大規模洪水の再現計算を行うことで,大規模洪水への適用性について検討した.その結果,表層地質とパラメータの関係性については,中間流出に関するパラメータが支配的になること,また,花崗岩類及び火山岩類においてパラメータのばらつきが大きくなることがわかった.そして,大規模洪水への適用性については,表層地質に関わらず大規模洪水によるパラメータ推定をした結果が最もピーク流量を表現できることが明らかになったことから,本モデルが大規模洪水に対して適用可能であることを示した.

  • 武藤 裕花, 知花 武佳, 山田 真史, 渡部 哲史
    2021 年 77 巻 2 号 p. I_151-I_156
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/15
    ジャーナル フリー

     本研究では,山地河川流域において25年分の月別平均流量と複数期間の先行降雨の合計量(先行降雨量)との相関関係を分析し,主に地質の観点から流域間の傾向差を考察した.その結果,低水期においては,特に浸透性の高い火山岩(第四紀)の流域では,他流域より長期間の先行降雨量と流量との相関が高く,浸透性の低い中生界の流域では短期間の先行降雨量と流量との相関が高いという特徴が見られた.さらに,各流域の月別平均流量と先行降雨量,年平均降水量の変化傾向を比較すると,どの流域でも年平均降水量には変化傾向がなかったが,低水期の数ヶ月の流量と,その流量との相関係数が0.6以上となる先行降雨量はともに増加傾向となり,通例用いられる年平均降水量,各月の流量とより相関が強い先行降雨量の変化傾向を比較する有効性が示唆された.

  • 上田 尚太朗, 田村 隆雄, 武藤 裕則, 鎌田 磨人
    2021 年 77 巻 2 号 p. I_157-I_162
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/15
    ジャーナル フリー

     大流域における人工林の針広混交林化により期待される遮断蒸発率と地表面粗度の増強が森林の洪水低減機能にどれほど影響を与えるかを検討した.針広混交林を形成する一級河川那賀川流域の橋本林業地において水文観測を行うことで得られた遮断蒸発率と地表面粗度を長安口ダム流域に適用し,洪水シミュレーションを行った.ピーク流量やその発生時間等で洪水低減機能の向上具合を評価した.その結果,現地の将来予測100年確率雨量に対する洪水ピーク流量は,地表面粗度の増強により6.1%,遮断蒸発の増強によって3.6%の減少が推定された.

  • 清水 啓太, 山田 朋人
    2021 年 77 巻 2 号 p. I_163-I_168
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/15
    ジャーナル フリー

     本研究は,情報理論の導入により,気候システムが有する年最大降雨量の自由度をエントロピーとして定量化するとともに,これを基軸とした,確率雨量の将来変化予測手法を提案するものである.これにより,力学的予測により得られる将来の年最大雨量の時系列の情報を逐次的に同化させ,任意の時点における確率雨量の予測値が算定可能となる.具体的には,観測情報から年最大降雨量のエントロピーの増大過程を算定し,このエントロピーの増大過程が保存されるベイズ予測分布を構成することで,確率雨量の将来変化の推定手法を構築した.当該手法により得られる逐次的な確率雨量の時系列は,段階的な洪水対策の整備を検討する場合,現実の時間軸を踏まえた事業オプションを検討する際の有益な指標となると考える.

  • 貝塚 正邦, 嶋田 嵩弘, 上原 勇一, 金本 裕史, 山本 朗宜, 島田 高伸, 佐伯 勇輔, 栗山 康弘, 池内 幸司, 渡部 哲史
    2021 年 77 巻 2 号 p. I_169-I_174
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/15
    ジャーナル フリー

     気候変動を踏まえた治水計画のあり方を検討するために大規模アンサンブル気候予測データを活用する際の課題について,庄内川と狩野川における事例を基に分析を行った.全球平均気温2度および4度上昇時の計画降雨継続時間における年最大降水量の将来変化倍率を5kmの空間解像度の気候予測データから推計したところ,4度上昇時の結果は国土交通省により示された将来変化倍率とおおむね整合していた.一方で,庄内川においては2度上昇時の結果が国土交通省により示された将来変化倍率よりも大きく,4度上昇時よりも2度上昇時の方が降水量が大きくなることが示された.アンサンブル数の多い20kmの空間解像度の気候予測データによる検証により,アンサンブル実験数の大小がこのような降水量変化倍率の特徴に影響を及ぼすことを明らかにし,アンサンブル数の少ない5kmデータを用いる課題を確認した.

  • 本田 洋平, 渡部 哲史, 知花 武佳, 山田 真史, 阿部 紫織, 菊地 純, 斉藤 健, 伊藤 俊介, 藤沢 直志, 池内 幸司
    2021 年 77 巻 2 号 p. I_175-I_180
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/15
    ジャーナル フリー

     雄物川を対象として,d4PDFの過去実験1500年および将来実験5400年の降雨データと降雨流出氾濫モデルから河川流量将来変化倍率を求めた.その結果はおおむね国土交通省による推計と一致した.一方で,その予測の幅を降雨継続時間に基づく降雨イベントの抽出方法,海面水温パターン,河川縦断方向の地点の違いの3つの要因から分析したところ,降雨イベント抽出方法が倍率に与える影響は比較的小さく,他方で海面水温パターン,及び河川縦断方向の地点の違いが倍率に大きな影響をもたらすことが明らかとなった.本研究により,雄物川水系で大規模気候予測情報に基づき河川流量将来変化倍率を検討する際には,海面水温による結果の差と河川縦断方向の地点での差について検討することの重要性が示された.

  • 小林 健一郎, 川邉 結子, 渡部 哲史, 北野 利一, 丸山 恭介
    2021 年 77 巻 2 号 p. I_181-I_186
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/15
    ジャーナル フリー

     本研究では佐用川流域を対象として複数の流出モデルを構築し,アンサンブル気候予測データベース(d4PDF)を用いて降雨および流量の将来変化の分析を行った.まず,分布型降雨流出氾濫モデルと貯留関数法モデルにより,既往最大の平成21年台風9号時の佐用川流域円光寺地点における流量を再現した.次にDual-Window法により補正されたd4PDFデータを用いて,年最大24時間雨量‐再現レベル図を描き,各再現期間に対する確率降水量を求めた.その後,年最大24時間降雨をもたらした各年の降雨量時系列を佐用川流域の2つの流出モデルに入力し,各降雨に対する流量ハイドログラフを求めた.結果として,再現期間ごとのピーク流量値が二つの流出モデルで異なること,貯留関数法による流量ハイドログラフの方が緩やかな曲線を示し,他方,分布型流出・氾濫モデルによる流量は降雨の局所的変動に対して鋭敏な応答を示すことなどが見て取れた.

  • 石川 彰真, 呉 修一
    2021 年 77 巻 2 号 p. I_187-I_192
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/15
    ジャーナル フリー

     近年,洪水災害が頻発化しており規模も拡大してきている.この要因として地球温暖化による降雨増加があり,今後の対策として気候変動を踏まえた評価が必要である.特に富山県河川は急流で知られており侵食被害が多く,危険箇所を検出することは重要である.本研究では富山県河川流域を対象にd4PDFを用いた過去再現実験,2℃・4℃昇温実験の降雨流出計算を行い,流量増加の影響評価及び越水,侵食ポテンシャル評価を行った.非超過確率での比較の結果,150年確率で2℃昇温が約1.1~1.7倍の流量,4℃昇温が約1.3~2.2倍の流量となった.越水ポテンシャル評価では2℃・4℃昇温で比較的緩勾配な小矢部川の危険箇所が増加した.侵食ポテンシャル評価は,2℃昇温で急勾配な常願寺川で6割以上増加する箇所があり,4℃昇温では常願寺川に加え庄川と黒部川でも6割以上の増加が見られた.

  • Ying-Hsin WU, Eiichi NAKAKITA, Akihiko YAMAJI
    2021 年 77 巻 2 号 p. I_193-I_198
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/15
    ジャーナル フリー

     This study aims to elucidate the future change of the patterns of snake line in a changing climate. Constituted by two parameters, hourly rainfall intensity and soil-water index, a snake line is a curve for judging early-warning on rainfall-triggered sediment disasters. To quantify snake line pattern, we focused on analyzing the geometric range of snake line in terms of the maximal hourly rainfall and soil-water index. We adopted high-resolution future climate projections of 2-km and 5-km Non-Hydrostatic Regional Climate Models under the scenarios of RCP2.6 and RCP8.5. Snake lines obtained by climate projections were verified by the reanalyzed precipitation of Radar-AMeDAS. Obvious changing trends for the two parameters and corresponding spatial distributions are revealed on each mesh. Based on six types of snake line stretching, we examined the spatial distributions and statistics of the future changes of snake line patterns as well as their relation to rainfall prone to sediment disasters under the two climate scenarios.

  • 川井 翼, 中津川 誠, 関 洵哉
    2021 年 77 巻 2 号 p. I_199-I_204
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/15
    ジャーナル フリー

     本研究は,d4PDFダウンスケーリングデータを用い,現在気候と将来気候における外力の分析と侵食危険箇所の推定を目的とする.研究対象とした豊平川は,札幌都市部を流れる急流河川であるため,高速流が発生し,侵食が起きやすい元来水害に脆弱な条件にある.本研究では侵食危険箇所の推定を行うため,最初にd4PDFの現在気候予測データ3,000ケース,将来気候予測データ5,400ケースの流出計算を行った.次に現在気候と将来気候をクラスター分析により降雨空間分布ごとに分類し,外力要因の分析を行った.また,現在気候の流出計算結果を外力として豊平川河道を対象とした水理計算より侵食危険度を評価した.結果として,現在においても気候の不確実性による既往最大規模以上の洪水が起きることが推定され,河川管理上留意すべき侵食危険度の高い箇所が推定された.

  • 松村 明子, 光橋 尚司, 須賀 可人, 寺島 明央, 金山 拓広, 小川田 大吉, 矢野 伸二郎, 花崎 直太, 沖 大幹
    2021 年 77 巻 2 号 p. I_205-I_210
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/15
    ジャーナル フリー

     世界的な水資源リスクを精緻に評価するため全球水循環モデルの高解像度化が進められているが,インフラ効果の実装方法の開発や検証が課題となっている.本研究では,全球水循環モデルH08を利根川水系・荒川水系に適用し,河川流量について高い再現性を確認した.構築したモデルを用いて,生活用水の取排水システムについて,都市域の広域的な上下水道施設を考慮した評価方法を考案・実装し,水需給についても再現性が得られることを示した.また,取排水システムの実装方法の違いによる流域の水需給の状況を比較し,広域的な上下水道施設を考慮しない場合,特に需要の集中する都市域において再利用量が過大となり,水資源逼迫度が過少に評価される傾向があるという知見を得た.

  • 田中 賢治
    2021 年 77 巻 2 号 p. I_211-I_216
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/15
    ジャーナル フリー

     気象研究所の超高解像度気候モデル(MRI-AGCM3.2S)の150年連続ランを用いて日本全国の水資源量(水資源賦存量)の長期変化を予測した.気候変動と土地利用変化の影響を切り分けるため,複数の土地利用シナリオに対して算定したところ,人口変化が大きな地域において水資源量は500㎜程度の差が表れた.気候条件の変化の地域的な分布に対応して,北日本などで水資源量が大きく増加する一方で,全国的に蒸発散量の増加も顕著であり,特に中部山岳地域で大幅に水資源量が減少することが予測された.各流域別に調べたところ,長期的な変化パターンは流域により様々であり,現在から将来にかけて気候値が一方向的に変化するとは限らず,世紀末よりも早い時点で水資源量がより厳しくなる流域がいくつか存在することが明らかとなった.

  • 加藤 青葉, 土居 慶祐, 鼎 信次郎
    2021 年 77 巻 2 号 p. I_217-I_222
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/15
    ジャーナル フリー

     近年,全球水資源モデルの開発や5分または6分空間解像度への高解像度化が進んでいるが,グリッド間の水輸送機能に課題が残りグリッドスケールでの評価では水ストレスが過大評価される傾向にあった.本研究では都市スケールの評価に取り組み,20都市における水需要と都市に供給可能な水資源量を推定することにより,都市ごとの水ストレス評価を行い,グリッド間の水輸送に関する問題解決を試みた.実際に取水されている場所の位置データと導水路からの水輸送量を考慮した月別水ストレス評価を行った.月別水ストレス評価により,季節変動による水需給の変動性や導水インフラの考慮による水供給への効果を検証することができた.また,上流側の取水や貯水池操作による水ストレスへの影響を評価した.

  • 足立 幸太, 山崎 大, 新田 友子
    2021 年 77 巻 2 号 p. I_223-I_228
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/15
    ジャーナル フリー

     斜面による水分再配分の陸域水熱収支への影響が着目されているが,全球高解像度での斜面における水文諸量コントラストの効率的表現は難しかった.本研究では,陸域モデルにサブグリッド飽和側方流を陽に表現するスキームを実装し,さらにシミュレーション結果をサブグリッド地形を考慮して高解像度化する手法を開発した.斜面側方流の導入により,土壌水分量と蒸散量は全球平均の広い範囲で減少傾向にあり,蒸発量の減少した地域においては流出量の増加が見られた.また高解像度化によって丘と比較して谷の水分量が高くなるなど,斜面における水文諸量のコントラストが表現された.加えて,高解像度土壌水分衛星観測データとの比較を行い,高解像度データを直接活用したグローバルな陸域モデルの検証可能性を広げた.

  • 浜田 光太郎, 山崎 大, 新田 友子
    2021 年 77 巻 2 号 p. I_229-I_234
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/15
    ジャーナル フリー

     本研究の目的は、陸域モデルの水分特性曲線を改良し、土壌パラメータの水平・鉛直分布を考慮することで、陸域水循環要素をより適切に表現できるか明らかにすることである。陸域モデルILSの水分特性モデルをClapp and Hornberger式(CH式)からより観測に基づいたvan Genuchten式(VG式)に変更した。また、最新の土壌データセットや、機械学習を用いた土壌伝達関数を用いて、土壌パラメータの水平・鉛直分布を全球0.5度解像度で推定した。各土壌スキームの改良によって、土壌水分量推定の決定係数は0.45から0.54に上昇したほか、流出量や河川流量も改善した。水分特性モデルをVG式に変更したことで、特に砂質では土壌の保水力が増加し、推定精度が改善した。また、流出量や河川流量などの水文諸量の再現性も向上しており、陸域水動態モデリングの精度向上に貢献が期待される。

  • Abhinav DENGRI, Tomohito YAMADA
    2021 年 77 巻 2 号 p. I_235-I_240
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/15
    ジャーナル フリー

     Soil moisture through soil water potential controls the transpiration from vegetation. This study investigates how vegetation impacts soil moisture bimodality in coupled analytical land-vegetation-atmosphere model for mid latitude region. The influence of precipitation on soil moisture is direct, but soil moisture through evapotranspiration controls mass and energy transfer between land and atmosphere, thus influencing the precipitation. In the current study, we partitioned evapotranspiration into transpiration and soil evaporation and considered three different vegetation schemes, i.e., static Leaf Area Index (LAI) for barren land and dense evergreen forest and dynamic LAI for the cropland. The investigation found that cropland showed soil moisture bimodality while barren land and dense evergreen forest had unimodal soil moisture distribution. The dominant mode of soil moisture on barren land is on the dry side, while for the dense evergreen forest has a mode on wetter side. This result indicates the importance of dense vegetation in the land-atmosphere coupled system to reduce the probability to dry and hot season. This information can further be utilized to include the role of vegetation activities in land-atmosphere model development.

  • 徳田 大輔, 金 炯俊, 山崎 大, 沖 大幹
    2021 年 77 巻 2 号 p. I_241-I_246
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/15
    ジャーナル フリー

     自然湖や人工貯水池からの蒸発は人間活動を支える水資源の損失であり,またこれは湖沼内の熱動態に加えて河川流出入に伴う水面面積の変化などにも影響される現象である.本研究では河川・湖沼の水熱動態結合モデルフレームワークTCHOIRによってその全球推計を行った.これまでの研究において貯水池建設は水面面積の増加によって蒸発損失を増加させると指摘されてきたが,本研究では更に水面温度の上昇による単位面積当たりの蒸発量増加も生じることが分かった.また水貯留量の推計結果によれば流域スケールにおける滞留の多くは湖沼において生じており,水質分野においては河川による水平輸送と共に湖沼における水動態の考慮が重要である.これらの結果は,水資源や水質の推計において水熱動態や河川と湖沼の相互作用の考慮が不可欠であることを示唆している.

  • 新井 涼允, 豊田 康嗣, 風間 聡
    2021 年 77 巻 2 号 p. I_247-I_252
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/15
    ジャーナル フリー

     近年極めて精度の高い全球の流量特性マップが公開されており,これらは流量観測せずに水文モデルのキャリブレーションを可能とするデータとして期待される.本研究では,この流量特性マップの中において年流出高(QMEAN)とBaseflow index(BFI)に着目し,全球水文モデルのキャリブレーションに対する両者の有効性をそれぞれ評価した.なお,キャリブレーションパラメータは融雪係数(Cs)と土壌の飽和透水係数(Ksat)に設定した.結果として,QMEANを用いたキャリブレーションは難しい一方,BFIを用いたキャリブレーションは,流量観測データを用いたキャリブレーションに匹敵する良好な精度を示した.加えて,Ksatが流量の精度に支配的な役割を果たしていた.QMEANと異なりBFIの算定プロセスにはKsatが大きく影響するため,BFIを用いたキャリブレーションに成功したと考えられる.

  • Aulia Febianda Anwar TINUMBANG, Kazuaki YOROZU, Yasuto TACHIKAWA, Yuta ...
    2021 年 77 巻 2 号 p. I_253-I_258
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/15
    ジャーナル フリー

     In this study, the impacts of time integration methods on runoff estimation were investigated in two land surface models (LSMs): MRI-SiB and SiBUC. Both models were forced by the same atmospheric data from MRI-AGCM 3.2 with 20-km spatial resolution. For updating soil moisture, SiBUC implements an explicit midpoint method, while MRI-SiB applies a semi-implicit method. In this research, two simulation cases were performed by SiBUC by changing different time integration methods. It was found that applying different time integration methods affected the runoff characteristics. The simulation by the explicit method resulted in higher surface runoff than subsurface runoff. On the other hand, the results by the semi-implicit method showed the opposite characteristics. Analysis of the simulated discharge show the different responses of the estimated flow to the rainfall due to the change in the ratio between surface and subsurface runoff. It is thought that a semi-implicit scheme is one of the key factors of low surface runoff in MRI-SiB.

  • Steven LY, Sophal TRY, Takahiro SAYAMA
    2021 年 77 巻 2 号 p. I_259-I_264
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/15
    ジャーナル フリー

     Hydropower is an important development opportunity for the Mekong River Basin (MRB) and its member countries. However, the rapid development of hydropower projects in the last decades has threatened the natural flow regimes of the basin. When all hydropower projects are completed, they will put more pressure on the hydrology of the basin. Due to the unavailability of the detailed hydropower operation rules, especially for the future development, we first estimated the general patterns of dam operations by maximizing the hydropower generation based on the proposed and existing storage volumes and turbine flow capacities. Then we propose a simple storage model representing the hydropower dam operations in this river basin. For the hydrological assessment, we used a distributed hydrologic model, Rainfall-Runoff-Inundation (RRI) model. The simulation was conducted from 2010 to 2016. The results suggest that the RRI model incorporated with our proposed model can reproduce the discharge hydrograph of the MRB. The hydropower developments would increase the dry seasonal flow while decreasing the wet seasonal flow. The impact can be seen as far as downstream of the Lower Mekong Basin (LMB). The impacts of future hydropower development on the LMB are significantly larger than the present hydropower development. On the monthly scale, under the future hydropower development scenario, the discharge changes range from -17% to +40% at Chiang Saen, and -16% to +100% at Kratie. In the dry season, the discharge at Kratie was significantly increased up to 40%. While in the wet season, the discharge was decreased by 15%. This study provides important information for reservoir operators and policymakers for the sustainable development of the basin.

  • Phanmany SAVATHDY, Tsuyoshi KINOUCHI, Phetsamone KHANOPHET
    2021 年 77 巻 2 号 p. I_265-I_270
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/15
    ジャーナル フリー

     In the recent decade, many projects of water infrastructure development namely, hydropower development and irrigation expansion have been rapidly increasing and are expected to have more in the Mekong River Basin, thus the substantial influence on the streamflow of the Mekong mainstream are unavoidable. Also, climate change is the dominant driving factor affecting the streamflow regime. For better water resource management for the Mekong River Basin, this study aims to assess the streamflow change driven by these drivers, i.e., hydropower development, irrigation expansion, and global climate change based on the SWAT model simulations. The results show that hydropower and irrigation development have limited impacts on annual flows under 2040 development scenarios compared to the early development period. However, climate change can reduce the streamflow up to 13%-36% and 14%-62% in June between 2040 to 2080 for RCP4.5 and RCP8.5 scenarios, respectively, while the streamflow is projected to increase up to 45%-85% and 65%-130% in October between 2040 to 2080 for RCP4.5 and RCP8.5 scenario, respectively. Furthermore, the streamflow shows significant increases in the long-term period during SeptemberNovember and December-February, but decreases during March-May and June-August. Whilst, hydropower decreases the streamflow in the wet season by 7%, but increases in the dry season by 29%. And, for the irrigation, there is not much impact on the streamflow, but it shows substantial flow reductions during the dry season and up to 18% in the middle part to the lower part of the basin. Furthermore, the combined impacts of all driving factors cause substantial flow reductions during the first half of the wet season (-42%), but increase the flow in the dry season by 40% and 14% compared to the early development and nearly current scenario, respectively. This result can be a reference for water management in the Mekong River Basin, particularly flood and drought management as well as agricultural production planning.

  • Bisheng XU, Hiroaki FURUMAI, Yoshihiro SHIBUO
    2021 年 77 巻 2 号 p. I_271-I_276
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/15
    ジャーナル フリー

     Green infrastructure (GI) is a global, innovative stormwater runoff control measure in response to urbanization and climate change. This study quantified GI performance in improving the urban hydrologic environment. Storm Water Management Model was employed to simulate stormwater runoff in the Yazawa and Maruko River basins in Setagaya, Tokyo, Japan. Under the 75-mm/h rainfall scenario, the existing GIs were found to be incapable of controlling runoff at the government-specified rate of 10-mm/h. Furthermore, while simulating 1–10-year return periods of rainfall with 1–3-h durations, the reduction of runoff depth and peak runoff was less effective when rainfall intensified. A negative relationship was obtained using regression analysis between rainfall depth and the reduction rate of runoff depth and peak runoff. Meanwhile, rainfall duration positively and negatively correlated with the runoff depth reduction and peak runoff reduction rates, respectively. Furthermore, the reduced surface runoff considerably reduced the combined sewer overflow in the 1-year rainfall return period.

  • 石井 明, 宮﨑 利行, 天方 匡純
    2021 年 77 巻 2 号 p. I_277-I_282
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/15
    ジャーナル フリー

     洪水到達時間が1時間未満の小流域において十分なリードタイムを確保し,余裕をもった防災操作や避難行動を実施するためには,高精度で実用的な洪水予測モデルが必要である.本稿では予測情報として気象庁が配信している土壌雨量指数の予測値を用いること,予測学習により水位を予測する深層学習モデルを構築することを提案し,宮ケ瀬ダム上流域にある中津川水位観測所地点(流域面積42.37km2,洪水到達時間1時間未満)を対象として予測精度を検証した.その結果,土壌雨量指数の現況が予測値と大きく乖離しない限り,6時間先までの予測水位を高精度で予測できることを示した.

  • 西川 遼, 石塚 正秀
    2021 年 77 巻 2 号 p. I_283-I_288
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/15
    ジャーナル フリー

     近年,降雨量の増加に伴い,中小河川の氾濫が頻発している.中小河川は流域面積が小さいことから,流出解析に使用する標高データの空間解像度が重要となる.そこで,本研究では,空間解像度の異なる4つの標高データ(Asia 30,Asia15,5次メッシュ,Japan Flow Direction Map (JFDM))を用いて流域面積155.5km2の中小河川に対して,流出解析を実施した.その結果,JFDMの空間解像度を3倍にした77m×92mを用いた場合,Nash-Sutcliffe係数が高い値が得られた.

  • 吉岡 伸隆, 井手 淨, 花崎 直太, 平林 由希子
    2021 年 77 巻 2 号 p. I_289-I_294
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/15
    ジャーナル フリー

     気象データの精度は適切に水循環を再現するために重要である.本研究は全球水資源モデルH08を用いて日本全域を対象とした河川流量シミュレーションを実施し,全球再解析気象データ,地上雨量計データ,レーダー雨量と地上雨量計から作成した降水量データを入力に与えた3種類の実験の河川流量の再現性を比較した.いずれの実験も北日本の河川は春季の流量を過小評価する傾向であるが,全球再解析データを用いた実験と比べると他の2実験は河川流量の再現性が向上した.地上雨量計のみを用いた実験とレーダー雨量も用いた実験の比較では,河川流量の再現精度は同程度であった.ただし,天竜川中流域のように地上雨量の観測網が不十分な山地では,レーダーによる降水量データを活用することで,河川流量の再現性が向上することが期待される.

  • 伊藤 毅彦, 太田 皓陽, 二瓶 泰雄
    2021 年 77 巻 2 号 p. I_295-I_300
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/02/15
    ジャーナル フリー

     洪水予測技術の高度化は重要である一方,住民目線では氾濫発生を直接的に予測できる簡便な指標があれば,事前避難により繋がると考えられる.本研究では,目標リードタイムを半日~一日とし,降雨から氾濫発生を直接的・確率的に予測する簡易法を提案した.全国109の一級水系にて氾濫危険水位に相当する流域平均雨量(Lv4雨量)を算出し,Lv4雨量とアンサンブル予測降雨データを用いて,水系内の河川水位が氾濫危険水位に到達する確率(氾濫危険確率)を評価した.本手法を2020年7月豪雨・九州地方の一級水系に適用したところ,適切なLv4雨量を選定すれば,予測結果の一致率は27.8%,見逃し率は0.76%,空振り率は5.46%となり,リードタイムも中央値で19時間となり,本手法の有効性が示された.

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