土木学会論文集B1(水工学)
Online ISSN : 2185-467X
ISSN-L : 2185-467X
75 巻, 1 号
選択された号の論文の40件中1~40を表示しています
特集(平成30年西日本豪雨災害特別企画)
  • 泉 典洋, 内田 龍彦, 赤松 良久, 鈴木 善晴, 森口 周二, 及川 康, 白旗 弘実
    2019 年 75 巻 1 号 p. 138-142
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/12/20
    ジャーナル フリー

     平成30年西日本豪雨はこれまでにない降雨により広域にわたって洪水氾濫や土砂災害を発生させ,ライフラインや交通システム,各種構造物などに多様な被害をもたらし,分野横断的な課題を顕在化させた.激甚化した災害の頻発する昨今において,災害調査データを取り纏め,それらの情報を公に発信し広く共有することは,土木学会の主要な役割のひとつである.そこで,土木学会論文集では,防災に関する技術および学術分野の進展に資するために平成30年西日本豪雨に関する報告および速報論文を取り纏めた.

  • 川崎 洋輔, 梅田 祥吾, 桑原 雅夫
    2019 年 75 巻 1 号 p. 143-154
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/12/20
    ジャーナル フリー

     本研究では,機械学習により,西日本豪雨時の被災による商用車の迂回を検出するとともに迂回の原因を分析する.西日本豪雨では,広範な地域で豪雨による道路閉塞が発生した.道路閉塞時の迂回を把握するセンサーにプローブデータがある.しかし,迂回を把握するには,道路管理者が平常時のプローブ車両軌跡を学習した上で,分析する必要があり,多大な労力を要する.そこで,One-class support vector machine (OCSVM)を用いて,平常時のプローブ車両軌跡を学習し,効率的に迂回の候補を検出することを試みた.四国を対象に分析した結果,被災路線の直近の迂回路が通行可能であっても,大きく迂回する車両が確認された.その迂回の原因を分析した結果,交通障害の“リスク”が一因であることが示唆された.

  • 竹下 祐二, 片山 頌嵩, 鳥越 友輔, 佐藤 亜海
    2019 年 75 巻 1 号 p. 155-164
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/12/20
    ジャーナル フリー

     河川堤防の浸透に対する安全性を照査するためには,河川水や降雨によって発生する堤防内での浸透挙動を精度良く把握することが重要であり,堤防での浸透挙動計測を長期間実施する必要がある.本文では,出水時に堤体裏のり先や基礎地盤からの漏水および堤内地での噴砂現象が発生している河川堤防において,河川水位の変動,基礎地盤の水位変動や堤体内での浸潤線の発生,そして,堤体裏のり面での降雨量,のり面表層領域での土中水分量の動態に対する計測を2年間実施した事例を報告する.計測期間中に発生した台風や集中豪雨などによる複数回の出水時において計測された浸透挙動に基づいて,河川水位上昇によって生じる基礎地盤や堤体内の水位変動や降雨による堤体裏のり面表層領域での土中水分貯留量の特徴について考察を行った.

  • 松村 暢彦, 楠 知暉, 片岡 由香
    2019 年 75 巻 1 号 p. 165-171
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/12/20
    ジャーナル フリー

     阪神・淡路大震災以降,災害ボランティアの注目度が高まっており,その中でも大学生による災害ボランティア活動が重要視されている.そこで本研究では,平成30年7月豪雨での愛媛大学における大学生の災害ボランティア活動の実態を把握するとともに大学生による災害ボランティア活動と自己効力感との関連性を明らかにすることを目的とした.アンケート結果からは,日頃の大学生活での活動が社会人基礎力に影響を与え,さらに自己効力感や重要性認知を通して災害ボランティア活動の行動変容につながっていくことが示された.このことから,大学では正課活動とともに部活などの正課外活動にも尽力できる環境づくりや支援が将来災害が発生した際の大学生の災害ボランティア活動の参加促進に繋がることが示唆された.

  • 吉田 圭介, 前野 詩朗, 工藤 亮治, 近森 秀高, 赤穗 良輔, 小川 修平, 永田 貴美久
    2019 年 75 巻 1 号 p. 172-183
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/12/20
    ジャーナル フリー

     2018年7月に発生した西日本豪雨は岡山県内で甚大な被害をもたらした.本論文では統計解析,現地調査および数値シミュレーションを用いて,2018年7月豪雨時の岡山県全域での降雨特性,および旭川水系で生じた河川被害や旭川下流部での洪水流の特性を検討した.その結果,継続時間が24時間以上の降雨を対象にすると今次豪雨の規模は50年確率以上であることが分かった.また,本豪雨により旭川の県管理区間や砂川においては,越水や浸透崩壊により堤防が決壊したため,多数の住家が浸水した.さらに,今次豪雨と同規模の旭川下流部での既往洪水と比較した結果,豪雨直前に旭川 12kの分流部の改修が概ね完成していたことで,多くの水量が放水路である百間川へ分流したため,旭川下流の岡山市街地での浸水被害を未然に防いだ可能性が高いことが分かった.

  • 中島 昇, 吉岡 恵, 中根 久幸, 宮地 修一, 原 忠
    2019 年 75 巻 1 号 p. 184-190
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/12/20
    ジャーナル フリー

     平成30年7月豪雨では,西日本を中心に甚大な被害が発生し,高知県幡多郡大月町でも土砂災害による人的被害が生じた.同町の土砂災害には,0次谷で発生した土石流が含まれ,表層崩壊よりも流動性が高い土砂が,平坦地まで流出した.0次谷は定義上急傾斜地に含まれ,落石や崩壊としての対応が主流で,土石流的な土砂流出対策は行われていない.本研究では,実際の被災地を対象に地形と現地調査結果を分析することで,土砂層厚が2m以上,谷の延長が100m以上,渓床勾配が30°以下,上部に明瞭な集水地形を有することが,土砂を流出させる0次谷の条件となることを提案した.また,谷間口(a)に対する奥行き(b)の比が0.22を超える0次谷で土砂が流出していることから,b/a比が土石流を発生させる0次谷の抽出条件の一つになる可能性があることが分かった.

  • 小橋 力也, 北 真人, 内田 龍彦, 河原 能久
    2019 年 75 巻 1 号 p. 191-199
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/12/20
    ジャーナル フリー

     平成30年7月豪雨では,長期・広範囲に渡って雨が降り,土石流が多発した.土石流により輸送される土砂は河川に流れ込むことで土砂洪水氾濫を引き起こし,被害をさらに拡大させた.現在の土砂災害警戒情報は,個々の斜面における雨量と地形・地盤情報が考慮されておらず,土石流発生率やその危険度評価には課題があると考えられる.本研究では豪雨時について,空間解像度の良いXRAINの雨量データと斜面崩壊場所の特徴を山地斜面ごとに調べた.特に,これまでの強い短期雨量が支配的であった過去の土石流災害と比較して,強い長期雨量が特徴的な今回の豪雨に対して,雨量指標R’の適用性について,流域の特徴や雨量の半減期を用いて議論した.

  • 天野 卓三, 朝位 孝二, 白水 元, 高夫 章光, 山本 泰督
    2019 年 75 巻 1 号 p. 200-207
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/12/20
    ジャーナル フリー

     平成30年7月豪雨では広島県野呂川流域では記録的な豪雨を受け甚大な被害が発生した.これは広島県特有の土砂災害と河川災害の相乗型豪雨災害の典型例であった.本稿では土砂や流木の流出が野呂川ダムおよびダム下流側の河川氾濫に与えた影響を考察した結果を報告する.

     主要な結論は次のとおりである.1)野呂川ダム,野呂川,中畑川は土砂や流木の堆積が主な被災原因であり,中畑川の堤防決壊は,下流側の橋梁地点での流木による河道閉塞が主な被災原因であった.2)野呂川ダムへの流入量・放流量を算定し,最大流入量は179m3/s,最大放流量は173m3/sと推定された.3)野呂川ダムへの降雨のみの流入量を算定した.4)野呂川下流域の被災流量を野呂川ダム直下で180m3/s,藤浪水位局で230m3/s,二支川合流後で430m3/sと推定した.

  • 久保 宜之, 山地 秀幸, 岡林 福好, 新川 和之, 筧 泰昌
    2019 年 75 巻 1 号 p. 208-213
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/12/20
    ジャーナル フリー

     平成30年7月豪雨では物部川においても記録的な出水となった.幸いにも甚大な浸水被害が発生することはなかったものの,この出水において,治水対策における事前対策の重要性や氾濫頻度が低い河川における避難行動を促すことの難しさなどが再認識された.

     このため,本稿では平成30年7月豪雨における物部川の出水や洪水予報等の概要,近年実施した引堤事業が進められなかった場合の同豪雨での氾濫想定,記録的な出水に至ったにも関わらず顕著な避難行動が確認されなかったことやその原因分析の端緒となる住民意識調査の結果などを報告するとともに,ハード・ソフト一体となった水害対策の重要性に言及する.

  • 力石 真, 浦田 淳司, 吉野 大介, 藤原 章正
    2019 年 75 巻 1 号 p. 214-230
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/12/20
    ジャーナル フリー

     本稿では,平成30年7月豪雨により周辺の高速道路(広島呉道路)並びに鉄道(呉線)が被災し,国道31号の交通渋滞が慢性化した呉市天応を対象に,複数のパッシブデータを用いて,交通ネットワーク被災時の発生・集中・内々交通量及び旅行時間の変動特性を解析する.解析の結果,被災地と災害拠点を行き来する災害関連の短距離トリップが多数発生したことに伴い,国道31号では通過交通量が最大で約300台/時まで落ちたこと,JR呉線の復旧等に伴う旅行時間の改善は確認できず,平時の1.5倍を超える交通時間が発災後2ヶ月強にわたり続いたこと,発災後1ヶ月間は極めて大きな旅行時間の変動が観測されており,曜日や時間帯といった変数では旅行時間の全変動の1/3程度しか説明できない状態であったことなどが明らかとなった.

  • 小坂田 ゆかり, 中北 英一
    2019 年 75 巻 1 号 p. 231-238
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/12/20
    ジャーナル フリー

     平成30年7月豪雨ではそれほど強くない雨が長時間持続し,西日本を中心に広範囲で多くの総雨量がもたらされ,各地で甚大な被害が発生した.大量アンサンブルデータd4PDFの解析の結果,平成30年7月豪雨が発生した際の大気場と類似した大気場パターンは,将来増加はしないことが示唆された.しかし一方で,将来は平成30年7月豪雨発生時以上の水蒸気量が日本域に流入し始める.さらに,高解像度領域気候モデルRCM05の解析の結果,今回災害をもたらすきっかけとなった線状の強雨は,将来その強度が増すことも示されている.すなわち,将来気候において必ずしも同様の豪雨が増加するわけではないが,もし同様の豪雨が発生した場合は,平成30年7月豪雨以上の総雨量がもたらされる可能性があり,災害もより甚大な被害をもたらす危険性が示された.

  • 中野 光隆, 児子 真也, 入川 直之, 大森 嘉郎
    2019 年 75 巻 1 号 p. 239-243
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/12/20
    ジャーナル フリー

     平成30年7月豪雨により太田川水系支川三篠川の国管理区間では,堤防の欠損,河岸浸食,橋梁流出,無堤部の溢水などの被害が発生した.一方,太田川水系支川根谷川では,平成26年8月豪雨を踏まえた河川整備を促進していたことにより甚大な被害を免れた.本報告は,太田川流域で発生した出水被害と応急対策の状況と根谷川を対象とした氾濫シミュレーションによる河川整備の効果を検証し,報告するものである.

  • 森脇 武夫, 土田 孝, 橋本 涼太, 中井 真司, 加納 誠二, 海堀 正博
    2019 年 75 巻 1 号 p. 244-259
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/12/20
    ジャーナル フリー

     2018年7月豪雨によって広島県全域で土石流とがけ崩れが多数発生し,土砂災害による犠牲者は災害全体の直接的な死者の約80%を占め,土砂災害の重大性が改めて認識された.この災害以外にも広島県では豪雨による土砂災害が繰り返し発生している.本論文では,今回の災害と近年広島県内で甚大な被害を出した1999年6.29災害および2014年8.20災害について,被害の発生状況,被害をもたらした降雨特性と土砂災害発生の危険性,被害地の地質および地盤工学的特性を比較し,今回の災害の特徴を明らかにする.

  • 大中 臨, 赤松 良久, 河野 誉仁, 山口 皓平
    2019 年 75 巻 1 号 p. 260-269
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/12/20
    ジャーナル フリー

     平成30年7月豪雨において山口県の島田川水系東川が流れる岩国市獺越地区では土石流と河川氾濫が発生した.本研究では,獺越地区を対象に被災直後から踏査による被災状況の記録とUAVを用いた現地調査を行った.また,災害時のオルソ画像を作成し,獺越地区の土石流解析,流出解析および洪水氾濫解析を行った.その結果,獺越地区の河川氾濫は土石流によって運ばれた土砂・流木が河川に流入したことによる河床の著しい上昇と,橋脚に流木が挟まったことによる流水の阻害によって引き起こされたことが明らかとなった.また,土石流の発生が無ければ河川氾濫は発生しなかった可能性が極めて高く,土石流が直接河川に流入することが想定される河川区間では大量の土砂・流木が流入することを想定した河川管理が必要であることが示唆された.

  • 横江 祐輝, 北 真人, 内田 龍彦, 河原 能久
    2019 年 75 巻 1 号 p. 270-278
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/12/20
    ジャーナル フリー

     2018年6月28日から7月8日にかけて西日本を中心に線状降水帯を含む豪雨が発生し,広島県内で洪水や土砂災害が発生した.国土交通省はXバンドMPレーダ雨量計とCバンドMPレーダ雨量計を組み合わせたシステムである「XRAIN」を配信している.本研究では気象庁メソ数値予報モデルMSMを用いて気象場を確認したのち,広島県内における気象レーダの観測結果を報告する.XRAINは地上雨量計に対して精度良く観測できていた.3次元の降雨強度図で複数の線状降水帯を確認し,積乱雲の進行方向と逆側で新しい積乱雲が発生していた.また,雲頂高度は8000m未満であり,2014年8月広島豪雨より低かった.18時頃の広島地点付近で観測された線状降水帯は大気の不安定度と多量の水蒸気の供給が重なることで,他の線状降水帯と比較して高い降雨強度を観測した.

  • 佐古 俊介, 倉田 大輔, 森 啓年, 中川 翔太, 大堀 文彦, 陰山 健太郎
    2019 年 75 巻 1 号 p. 279-290
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/12/20
    ジャーナル フリー

     平成30年7月豪雨により,島根県と広島県を流れる江の川において,一部で計画高水位を上回る記録的な洪水が発生し,河川堤防においても主なもので2か所の基礎地盤のパイピングに伴う噴砂や漏水,堤体の陥没やのり崩れ等が発生した.

     本論文はこのうち大規模な被災を発生した,江の川左岸27.8kp~29.2kpを対象に,地盤調査により堤防の土質構造を明らかにし,堤内地やのり尻,裏のり尻補強ブロック上端付近に発生した噴砂等の被災メカニズムについて,飽和不飽和浸透流解析や目視調査結果等を用いて明らかにした.併せて,衛星SARを用いた堤防変状の把握手法について検討を行い,解析範囲を狭めると堤防変状箇所と被災箇所が合致することがあるものの,衛星SARの特徴である,より広範囲の観測から堤防の変状を検知するのは現段階では困難であることが分かった.

  • 清水 里都季, 内田 龍彦, 河原 能久
    2019 年 75 巻 1 号 p. 291-298
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/12/20
    ジャーナル フリー

     平成30年7月豪雨では西日本を中心に甚大な洪水被害が発生した.広島県の東部を流れる沼田川流域では,越流・溢水や支川の破堤が発生し,浸水被害を受けた.本研究では,洪水被害の大きかった船木地区において現地観測を行い,洪水時の氾濫水の挙動を調べた.次に観測水位データと流出解析結果から,洪水流の特徴と上流の福富ダムと椋梨ダムの効果を調べた.そして平面二次元解析より,植生が洪水流に与えた影響を考察した.

  • 伊藤 悠一郎, 中村 晋一郎, 芳村 圭, 渡部 哲史, 平林 由希子, 鼎 信次郎
    2019 年 75 巻 1 号 p. 299-307
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/12/20
    ジャーナル フリー

     本研究では,平成30年7月豪雨で深刻な被害が発生した岡山県倉敷市真備町と愛媛県大洲市大洲を対象に,氾濫原内の脆弱性に着目し,土地利用や建物立地の歴史的変遷と浸水被害の特徴を明らかにした.独自に作成した1970年代以降の3時代の時系列建物ポイントデータを用いた分析により,真備では2.0m以上5.0m未満の浸水が深刻なエリアにおいて約7割が1979年以降に建てられた建物であり,市街化とともに浸水深の深いエリアへと建物が進出していったことが明らかとなった.また両地域とも堤防効果による氾濫原内の脆弱性の増大傾向が見られるものの,両者の間には異なる建物立地形態の変化プロセスがあることが示された.

  • 山村 優佳, 二瓶 泰雄
    2019 年 75 巻 1 号 p. 308-316
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/12/20
    ジャーナル フリー

     平成30年7月に発生した西日本豪雨により,太田川水系三篠川では浸水被害が発生すると共に,甚大な橋梁被害が発生した.本研究では,三篠川の橋梁被害を総合的に検討するために,今次豪雨による三篠川の全94の橋梁被害状況調査を行い,その結果に基づいて橋梁被害の縦断分布特性を把握することを目的とした.これらの実測データを用いて,橋梁被害状況に対する水理学的・構造的要因の影響について幅広く調べた.その結果,94の橋梁のうち,落橋は11,一部損壊は11であり,全体の約1/4の橋梁に被害が発生した.これらの結果に基づいて橋梁弱点箇所を抽出するための評価指標を試行的に検討し,各地点の横断面積を集水面積で除した無次元断面積が有用な指標の一つであることが示唆された.

  • 梅田 敏之, 部谷岡 忠之
    2019 年 75 巻 1 号 p. 317-323
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/12/20
    ジャーナル フリー

     平成30年7月5日から7月7日にかけて西日本では梅雨前線の活動が活発になり,西日本から東海地方を中心とする広い範囲で記録的な大雨に見舞われた.八田原ダムが位置する広島県では7月6日に大雨特別警報が発表され,各地で大きな被害が発生した.芦田川流域では総降水量約385mmを記録し,八田原ダムでは管理開始以来最大の流入量を記録する大きな洪水となった.全国に先駆けて中国地方整備局で,特別防災操作の実施要領を作成しており,八田原ダムでは,下流河川の状況,貯水状況を踏まえ,気象予報等により次期洪水が発生しないことを確認した上で,特別防災操作を実施した.特別防災操作を含むダム操作により,下流父石地点において,水位が約50cm低下し,家屋浸水を約10戸軽減することができた.本稿では洪水調節の概要,今後に向けての課題,と対応方針について概要を報告するものである.

  • 長谷川 祐治, 中谷 加奈, 荒木 義則, 海堀 正博, 里深 好文
    2019 年 75 巻 1 号 p. 324-331
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/01/20
    ジャーナル フリー

     平成30年7月豪雨では,崩壊や土石流の発生箇所から数km離れた下流まで土砂が到達して,河床上昇により河道外に水と土砂が氾濫する土砂・洪水氾濫による被害が複数の地区で報告された.本研究は,呉市天応を対象として災害状況を整理するとともに,数値シミュレーションにより土砂・洪水氾濫の現象を検証した.災害状況から,上流で土石流による多数の巨礫移動が確認されるが,中流は土砂流出は認められるが氾濫は生じず,下流では氾濫が生じた.下流では,河道のボックスカルバートより下流に土砂流出がほとんどなく,この地点で閉塞したと考えられる.数値シミュレーションで長時間継続する土砂流出を想定すると,河道内で土砂堆積が進行して,徐々に上流側からも河道外に水や土砂が氾濫して,実際の被災状況と同程度の氾濫範囲を確認した.

  • 津田 将行, 尾島 勝, 仲嶋 一, 中越 信和
    2019 年 75 巻 1 号 p. 332-339
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/02/20
    ジャーナル フリー

     本報は,西日本豪雨に見舞われた芦田川流域の水文データの分析・考察と,下流部本川と支川高屋川との合流部(9.6~10.4km)を対象域とし,6月と8月に実施したUAV空撮実験に基づき,河道地形ならびに植生域の豪雨被災の変況に関する考察を示した.水文データの分析・考察では,本川中下流域の4雨量観測所における7月5日~8日までの時間降雨量とその累積雨量の経時的変化を分析・評価した.福山での日最大雨量,2日連続雨量,3日連続雨量はいずれも過去最大値であり,日最大雨量の生起確率は1/130年と算出できた.また,この豪雨に伴う河川水位・流量の計測値は,いずれも過去最大となり,河川整備計画の目標値を超えた.次いでUAV3次元写真測量により河道地形変動を解析し,NDVI処理により植生の変化を解析した.

  • 神田 佑亮, 藤原 章正, 塚井 誠人, 力石 真, 三村 陽一
    2019 年 75 巻 1 号 p. 340-349
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/02/20
    ジャーナル フリー

     平成30年7月豪雨では,広島〜呉間の鉄道・有料道路は甚大な被害を受け,その結果,鉄道による旅客輸送が不可能となり,自動車利用者が国道31号に集中し,大渋滞が発生した.そのため,鉄道に代替する公共交通サービスの構築が急務となった.自動車からの速達性,所要時間安定性を確保する方策として,道路空間を柔軟に活用した「災害時BRT」方式による災害時の公共交通サービスが供給された.「災害時BRT」による運行は,自動車専用道路上での転回や,自動車専用道路上でのバスレーンなど,これまでに導入されたことのない施策が関係機関の連携により早期に実現した.

     本論文では平成30年7月豪雨時の広島〜呉間の交通対策について,主に供給面である公共交通サービス確保策の実践について記すとともに,その効果を検証することを目的とする.

  • 吉田 護, 神谷 大介, 阿部 真育
    2019 年 75 巻 1 号 p. 350-361
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/02/20
    ジャーナル フリー

     本研究では,2018年7月豪雨災害の事例を通じて,気象庁による大雨気象情報(大雨警報,大雨特別警報)と土砂災害警戒情報,市町村による避難情報(避難準備・高齢者等避難開始,避難勧告,避難指示(緊急))の発表・発令特性やその関係性を定量的に明らかにする.

     結果として,岡山,広島,愛媛の3県における避難指示(緊急)対象者の中で,避難勧告が事前に発令された住民は6割,さらにその前に避難準備・高齢者等避難開始を発令された住民は5割に満たなかったことが明らかとなった.また,大雨気象情報や土砂災害警戒情報は,自治体による避難情報の発令基準と関連付けることが推奨されているが,今回の災害では自治体によってその活用方法に大きな差異があることが示唆された.

  • 竹林 洋史, 藤田 正治
    2019 年 75 巻 1 号 p. 362-369
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/03/20
    ジャーナル フリー

     広島県安芸郡熊野町川角で発生した土石流について,現地調査と数値シミュレーションを実施し,宅地における土石流の氾濫特性と土砂災害警戒区域との関係を検討した.現地調査により,斜面の三カ所から土石流が発生し,合流・分派した渓流を土石流が流下し,北側の渓流から宅地に流れ込んだ土石流によって多くの被害が発生したことが明らかとなった.数値シミュレーションにより,山頂付近の崩壊発生から北側の渓流の出口付近の家屋に土石流が到達するまでわずか40秒程度であった.土砂災害警戒区域内には土砂が流れてこない領域も多いことと豪雨中に避難のために長い距離の移動が困難であることを考えると,土砂災害警戒区域内の土石流が流れてこない領域への避難は,生存確率を上昇させることが期待されることが示された.

  • 神谷 大介, 榊原 弘之, 森桶 修貴, 木嶋 彩乃, 赤星 拓哉, 赤松 良久, 吉田 護, 守田 孝恵
    2019 年 75 巻 1 号 p. 370-377
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/03/20
    ジャーナル フリー

     豪雨災害時に住民が避難行動を起こす一つの重要な情報に避難勧告等の避難情報がある.要配慮者利用施設においては,利用者を福祉避難所等の他の施設および垂直避難を行う必要がある場合も存在する.本稿では西日本豪雨時における防災気象情報と避難情報との関連を整理するとともに,要配慮者利用施設における避難の実態を調査した.この結果,多くの自治体で土砂災害警戒情報が避難勧告等の発令に対して重要な役割を果たしていたこと,避難準備・高齢者等避難開始情報はあまり発表されていないこと,要配慮者利用施設では避難の判断に苦慮していたことなどが明らかになった.

  • 赤穗 良輔, 前野 詩朗
    2019 年 75 巻 1 号 p. 378-386
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/03/20
    ジャーナル フリー

     2018年7月の豪雨により,岡山県西部を南流する高梁川の中流域では,堤防決壊や氾濫により甚大な被害を受けた.高梁川と成羽川の合流点付近から下流の岡山県管理区間の被災状況を調査した結果,合流点付近の成羽川や,合流点より下流の高梁川と国道180号線が平行している箇所で多くの浸水被害が生じたことが分かった.本研究では,被災状況を現地調査するとともに,洪水の氾濫シミュレーションを行うことにより,浸水メカニズムを明らかにした.また,高梁川と成羽川の合流点付近の落合町阿部地区では越水による浸水被害が生じたが,洪水の住宅地への侵入を防ぐ目的で設置されていた陸閘が閉じていなかったため,陸閘の閉鎖の有無が浸水被害に及ぼす影響を検討した結果,陸閘を閉鎖することで浸水被害を軽減できることを示した.

  • 前野 詩朗, 赤穗 良輔, 二瓶 泰雄, 赤松 良久, 吉田 圭介
    2019 年 75 巻 1 号 p. 387-402
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/03/20
    ジャーナル フリー

     2018年7月豪雨災害により,倉敷市真備町を流下する小田川及びその支流の末政川,高馬川,真谷川の複数箇所で堤防が決壊し,真備町では1200haの地域が浸水し,多くの方が犠牲となった.本研究では,現地調査により浸水状況を明らかにした.また,河道の洪水流と決壊箇所からの氾濫流を同時に解く包括型氾濫解析モデルを用いて,氾濫シナリオを検討した.解析では,最初に,決壊を生じさせない条件で解析を行い,氾濫開始時刻の推定を行い氾濫シナリオを検討した.次に,決壊させた条件で解析を行い,氾濫水の挙動を明らかにするとともに,解析により得られた浸水深は現地調査結果をよく再現できることを明らかにした.

  • 中谷 加奈, 長谷川 祐治, 笠原 拓造, 海堀 正博, 里深 好文
    2019 年 75 巻 1 号 p. 403-413
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/04/20
    ジャーナル フリー

     平成30年7月豪雨では西日本各地で土砂災害が多発し,山裾まで開発が進んだ扇状地の住宅地で発生した土石流により人的・物的被害が生じた.山間部では,谷出口から延びる渓流や流路が扇状地の直上で暗渠化されることが多い.平成30年7月豪雨により兵庫県神戸市や広島県広島市の住宅地で発生した土石流では,暗渠が土砂等で閉塞したことで,暗渠が接続した道路上を土砂・水が移動して,住宅地に広く被害を及ぼした.住宅地の道路勾配が急だったことや,花崗岩地域に見られる細粒土砂を多く含む土石流が高い流動性を示したため,土砂移動範囲が住宅地内で拡大した場所もある.本研究では,扇状地の暗渠や道路に着目して災害状況を整理するとともに,数値解析による検討,ならびに住宅地の安全な土地利用などの防災対策の検討手法を示すことを目的とした.

  • 中野 瑛登, 中野 紗希, 松本 拓樹, 中根 大輔, 山本 航, 塚井 誠人
    2019 年 75 巻 1 号 p. 414-428
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/04/20
    ジャーナル フリー

     西日本豪雨災害では,豪雨と土石流により,地域のインフラが深刻な被害を受けた.特に広島県では,発災前に豪雨の危険性が指摘されていたにもかかわらず,住民避難率の低さが指摘されている.本研究では地方紙が報じた避難関連報道に基づいて,広島県内での同災害への受け止めや対応の特徴を明らかにする.本災害では,住民側の正常化の偏見に加えて,住民と行政が事態の進展の速さについていけないことが,避難の判断や対応が遅れる原因と思われる.また新聞報道とボランティア活動の空間分布の相関は強い一方で,避難者数とボランティア活動の相関は小さく,ボランティア配分の必要性が示唆された.今後は,避難遅れを想定した情報インフラやボランティアの効率的配置のための情報集約が必要である.

和文論文
  • 森 泰樹, 佐々木 良, 藤井 昌隆, 杉山 友康, 里深 好文
    2019 年 75 巻 1 号 p. 1-14
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/03/20
    ジャーナル フリー
     鉄道の降雨災害には,線路から離れた渓流を発生源とする土砂流入災害もあることから,渓流の流域内の降雨量を観測して降雨時運転規制を実施していくことも必要といえる.しかし,降雨時運転規制に利用している鉄道雨量計の設置間隔は,局地的な大雨の雨域よりも広い場合があり,鉄道では,解析雨量を降雨時運転規制に導入することを検討している.そこで,本論文では,過去に発生した土砂流入災害の事例等に基づき,渓流の流域面積や線路から流域の最遠部までの距離を明らかにしたうえで,降雨の面的な距離依存性に着目した分析を行った.その結果,被害をもたらす流域の最遠部までの距離は約1.3kmであり,この距離であれば,線路直上メッシュの降雨量との相関性が高く,保全対象物の直上の解析雨量を用いればよいことがわかった.
  • 篠崎 由依, 白川 直樹
    2019 年 75 巻 1 号 p. 15-30
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/05/20
    ジャーナル フリー

     環境流量に関する世界的な動向分析は,2003年と2009年に行われている.先行研究の結果を踏まえ本稿では2009年以降の8年間における環境流量研究の展開を整理し,環境流量設定における対象,設定方法とその最近の考え方を明らかにすることを目的としてレビューを行った.77カ国779本の英語論文を対象とした分析の結果,環境流量の目的は個別生物の保全から河川生態系全体の保全へ重点が移ると共に,対象が植物など陸域にも広がり,種から群集レベルへ,さらに物質循環や食物網にも着目するなど,より複合的な研究へと広がりを示していた.また,設定方法の統合・改良が見られる一方,検証不足が課題である.気候変動を踏まえた将来的な水資源利用を考える上では,環境流量の役割と今後目指すべき状態を議論することが必要である.

  • 森 泰樹, 藤井 昌隆, 杉山 友康, 里深 好文
    2019 年 75 巻 1 号 p. 31-48
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/05/20
    ジャーナル フリー

     鉄道の降雨災害のひとつに,渓流からの土砂流入災害がある.過去には,わずかな流入土砂等に列車が乗り上げて脱線する事故も発生している.線路沿線には膨大な数の渓流が存在し,それらの流域は鉄道管理用地外におよぶこと,また渓流には地形,渓床や渓岸斜面の荒廃状態等の様々な要因が混在することから,危険度評価には多くの時間を要するうえに,調査者の危険度判断能力によるバラツキが生じる可能性がある.そのため,鉄道では,渓流の危険度評価を効率的,効果的に行うことができる手法の作成が課題となっている.そこで本論文では,線路近傍の渓流を発生源とする小規模な土砂流入の危険度を簡易な調査等により評価できる手法について論じる.具体的には,災害渓流等のデータに基づく統計解析を行い,渓流の危険度を評価する採点表等を作成した.

  • 荒尾 慎司, 平塚 俊祐, 楠田 哲也
    2019 年 75 巻 1 号 p. 49-60
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/06/20
    ジャーナル フリー

     内水氾濫計算をより正確に実行するには,雨水管や合流管の接合部であるマンホールで生じるエネルギー損失を考慮する必要がある.流入管が1本あるいは2本と流出管が接合する2方向と3方向接合円形落差マンホールにおけるエネルギー損失係数に関して,著者らは定式化を図ってきた.しかし,十字路交差点下で3本の流入管が接合する4方向接合マンホールに関しては,研究例が非常に少ない.そこで本論文では,3本の流入管と流出管が接続する4方向接合円形マンホールを対象として,管水路圧力流れのもとで接続管路の管内径,管内流量を種々変化させた実験を行い,マンホールでのエネルギー損失特性を明らかにする.さらに,管路とマンホールに関する構造要素と水理学的要因を考慮したエネルギー損失係数の算定式を開発する.計算値は実測値をほぼ再現した.

  • 竹村 吉晴, 福岡 捷二
    2019 年 75 巻 1 号 p. 61-80
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/07/20
    ジャーナル フリー

     本論文は,大規模越流構造物周辺の跳水及びその減勢区間の三次元流れを効率的に検討するための解析法を構築し,その適用性を実験から確認することを目的とする.跳水形態の遷移,減勢工背後の逆流域形成は境界面(水面・底面)での逆流(剥離)をきっかけとする.これを水深積分モデルの枠組みで解析するために,境界面上の流れの方程式を用いた非静水圧準三次元解析法(Q3D-FEBS)を開発した.Q3D-FEBSを様々な条件の実験に適用し,波状跳水,完全跳水,波状跳水から完全跳水への遷移過程を解析できること,アスペクト比の小さい流れの波状跳水に対する衝撃波の発生について課題が残されていることを示した.さらに,大河津新第二床固の大型水理模型実験(1/30縮尺)を対象とし,跳水及びその減勢区間の流れに対するQ3D-FEBSの有効性を示した.

  • 石崎 裕大, 中谷 祐介, 西田 修三
    2019 年 75 巻 1 号 p. 81-99
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/07/20
    ジャーナル フリー

     深層学習と非線形時系列解析を応用して,沿岸域の水質変動を推定する自己回帰駆動深層ニューラルネットワークモデル(自己回帰駆動DNN)を新たに開発した.本モデルは,潮汐や気象などの外部因子と水質現象の関係を表現する外因深層学習モデル(外因DNN)に,非線形な水質変動システムの自己回帰特性を推定する局所的予測モデルを並列に接続した構造を有している.感潮河川の電気伝導度および閉鎖性内湾奥部の底層溶存酸素濃度といった変動特性の異なる2つの水質項目を対象に,外因DNNと自己回帰駆動DNNによる推定を行った.その結果,両モデルはいずれの水質項目に対しても高い推定精度を示したが,外部因子の影響に加えて生物化学過程を含むシステム内部の状態変数が強く影響する水質現象に対して,自己回帰駆動DNNは特に高い有用性を発揮した.

  • 山上 路生, 岡本 隆明
    2019 年 75 巻 1 号 p. 100-111
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/09/20
    ジャーナル フリー

     開水路のガス輸送機構の解明は自然河川,水処理施設,水産用水路などの水質保全において,非常に重要である.特にガス輸送速度の信頼性の高い評価モデルの構築が急務である.古くから様々な物理モデルが考案されているが,マクロな計測結果や考察に基づくものがほとんどで,局所的な特性については未解明である.そこで本研究では濃度境界層厚さに関する支配方程式を導くとともに,極小径のDOプローブを用いて開水路で発達するガス濃度境界層厚さの空間分布を実測した.本理論より局所ガス輸送は,時間平均主流速の流下方向勾配と乱流拡散係数の卓越度の2つにコントロールされることを示した.平坦床と急変粗度を有する開水路乱流を対象に,理論式と実験結果を比較し,濃度境界層厚さの形成特性を平均流速場と乱流場による寄与から定量的に説明した.

  • 田中 智大, 市川 温, 横松 宗太, 立川 康人
    2019 年 75 巻 1 号 p. 112-121
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/09/20
    ジャーナル フリー

     総合確率法を拡張して水害リスクカーブを作成する方法に対して,新たに流域平均雨量と継続時間,空間的集中度の関連を考慮して,支川の年最大洪水ピーク流量の確率分布および水害リスクカーブを作成する支川総合確率法を提案した.支川総合確率法と従来手法によって,淀川流域平均雨量から桂川,鴨川,宇治川,木津川の年最大洪水ピーク流量の確率分布を推定した結果,流域面積の大きい木津川での精度は変わらず,流域面積の小さい桂川および鴨川で推定精度が向上した.また,同支川群の氾濫による地先の100年確率浸水被害額を推定した結果,鴨川周辺の浸水被害額に対して,支川総合確率法に基づく推定結果の方が参照値に近かった.支川総合確率法を用いることで,複数の支川の合流域を含む地先の水害リスクをより合理的に推定できるようになった.

  • 下妻 達也, 瀬戸 心太
    2019 年 75 巻 1 号 p. 122-129
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/09/20
    ジャーナル フリー

     過去の強雨の再現期間の計算や将来気候における降水解析のため,既往研究では28年分のレーダアメダス解析雨量のデータが用いられている.著者らの既往研究では全球降水観測計画の主衛星に搭載された二周波降水レーダデータにより補正したXバンドMPレーダネットワークデータを用い,極端な豪雨イベントの作成を行った.しかし,計算に使用したのは3年分のデータであり,既往研究と比べて十分とは言えない.そこで本研究では,着目エリアにおいて観測データが十分とは言えない場合にも良好な結果が得られるよう,解析手法の改良を行う.また,改良した解析手法を観測データが存在しない高知エリアに適用した.

  • 鈴木 洋之, 鈴木 伸洋, 志垣 俊介, Sim JOONGEUN , 阿部 里菜, 新田 大史, 山次 亮太朗
    2019 年 75 巻 1 号 p. 130-137
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/12/20
    ジャーナル フリー

     植物は外力による刺激に応じて様々な生育および分子生物学的反応を示す.このため,河道内の残存植生は過去に受けた洪水の情報を生育および分子生物学的情報の形で有する可能性を持っている.本研究ではこの可能性を確認する目的で幾つかの水理条件を設定した流れで植物サンプル(シロイヌナズナ)に刺激を与えるストレス負荷実験を行った.実験では刺激を受けたシロイヌナズナの成長および活性酸素に注目した分子生物学的応答を調べた.葉径は抗力を受けると成長期間は変わらずに葉径が制限される一次遅れ系で表現できること,また,活性酸素を制御する遺伝子の転写産物量が抗力と関連することが示された.これらは植物から過去に受けた洪水の水理情報を抽出できる可能性を示唆する結果であった.

feedback
Top