日本乳酸菌学会誌
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28 巻, 2 号
選択された号の論文の6件中1~6を表示しています
総説
  • 久田 孝
    2017 年 28 巻 2 号 p. 51-57
    発行日: 2017/06/27
    公開日: 2018/08/31
    ジャーナル フリー

    里海とは「人手が加わることにより生物生産性と生物多様性が高くなった沿岸海域」と提唱されている。そこは、里山と同じく人と自然が共生する場所であり、伝統的な漁業、社会組織、食文化が生まれ、伝承されてきた場所である。近年、有用微生物の探索のために、海外の珍しい発酵食品や極限環境からの探索が注目されるが、筆者らは身近な里海環境(水産発酵食品、魚類腸管、漂着海藻)から分離される乳酸菌・酵母のうち、人間にとって有用な機能(健康機能性、食味改善)が期待されるものを「里海乳酸菌・里海酵母」と位置づけてきた。本稿ではその一部を紹介したい。

  • 岸野 重信, 小川 順
    2017 年 28 巻 2 号 p. 58-65
    発行日: 2017/06/26
    公開日: 2018/08/31
    ジャーナル フリー

    食品成分の代謝には、宿主の代謝のみならず、腸内細菌による代謝が少なからず関わっている。したがって、腸内細菌による食品成分の代謝を把握し、代謝産物が健康に与える影響を評価することが、健康維持のためにも重要である。本総説では、脂質、特に不飽和脂肪酸の代謝に関する最近の知見について紹介する。

    食用油脂に広く含まれているリノール酸が腸内細菌の代表でもある乳酸菌により飽和化される新規な代謝が見出され、水酸化脂肪酸、オキソ脂肪酸、共役脂肪酸などが代謝中間体として存在し、さらにこれらの代謝中間体が宿主組織において腸内細菌依存的に存在することが明らかとなった。また、これらの代謝中間体が、脂質代謝改善作用、抗糖尿病作用、腸管上皮バリア保護機能、抗炎症作用、抗酸化作用など、様々な生理機能を有することも見出している。これらの知見は、腸内細菌の脂肪酸代謝に依存して生成する特異な脂肪酸が、宿主の健康に何らかの影響を与えている可能性を示している。

    さらに、様々な不飽和脂肪酸代謝に関わる乳酸菌由来酵素群を活用することにより、様々な修飾脂肪酸を生産することが可能となることから、今後さらなる機能性脂肪酸開発が期待される。

  • 福崎 英一郎
    2017 年 28 巻 2 号 p. 66-73
    発行日: 2017/06/26
    公開日: 2018/08/31
    ジャーナル フリー

    トランスクリプトームやプロテオームは、ゲノム情報が実行に至るまでのメディアの流れと考えることができる。それらに対して、代謝物のトータルプロファイルであるメタボロームは、ゲノム情報の結果と考えることが出来る。言い換えれば、メタボロームはゲノム情報に最も近接した高解像度表現型と呼ぶことが出来る。これまで、メタボロームはトランスクリプトームやプロテオームといった上流のオーム情報と統合して運用され、ゲノム機能解明に資する情報を提供する目的で運用されてきた。上記に加えて、メタボロームは上流のゲノム情報と独立して運用することも可能である。すなわち、メタボロームを説明変数として、より下流のマクロフェノタイプを定量的に説明するメタボリックフィンガープリンティングという考え方である。メタボリックフィンガープリンティングは、遺伝子型の差異に起因する微妙な表現型の定量的差異を説明することができるだけでなく、生物の動的変動の表現方法としても有用である。本稿では、メタボリックフィンガープリンティングの実用的アプリケーションを示したい。

  • 内川 彩夏, 田中 優, 中山 二郎
    2017 年 28 巻 2 号 p. 74-83
    発行日: 2017/06/26
    公開日: 2018/08/31
    ジャーナル フリー

    ほぼ無菌状態で生誕するヒトの腸管には、出生とともに様々な細菌が定着を始める。そして成長とともに食事が母乳から離乳食、そして大人と同様の食事を摂取するようになるまで、腸内細菌叢はダイナミックかつ多様な変化をしながら成熟していく。この複雑な過程を微生物学と生体医学の原理で理解することが腸内細菌学の一つのゴールと言えよう。世界中の腸内細菌学者がこの目標達成のために、新生児の腸内細菌叢の形成過程を詳細に調査し、また世界中のヒトの腸内細菌叢データを収集している。特に、近年の次世代シーケンサーの登場により、腸内細菌叢のプロファイル化が容易になり、この分野の研究が爆発的に進展している。著者らも、国内の新生児 200 名以上の腸内細菌叢の変遷データを収集し、また、Asian Microbiome Project(AMP)を設立し、アジア人老若男女の腸内細菌叢データを網羅的に収集している。本総説では、それらのデータを紹介しながら、ヒトの腸内細菌叢のダイナミズムとダイバーシティーについて考察する。

  • 小栁 喬
    2017 年 28 巻 2 号 p. 84-93
    発行日: 2017/06/26
    公開日: 2018/08/31
    ジャーナル フリー

    我が国では発酵食品が数多く生産されており、厳密な微生物制御がなされるよう仕込み条件が極めて巧妙に設定されている。その製法の発展は経験的伝承に基づくものが多く、微生物の存在確認さえままならない太古から再現性良く特定の微生物を優勢化させるノウハウが育まれていることに驚嘆せざるを得ない。発酵食品の細菌叢研究の歴史は古いが、昨今の次世代シークエンス法を用いた 16S rRNA メタゲノム解析の発展によって、より詳細な情報を得ることが可能になった。筆者の在住する石川県の発酵食品を中心に改めて細菌叢を解析すると、様々な菌種がせめぎ合い優勢化する様子や、同一食品でも製品ごとに異なる菌種が優勢化する様子など、バラエティ豊かな細菌叢が垣間見えた。仕込みに米麹を用いる「かぶらずし」では、清酒生もとの優勢乳酸菌種として知られる Lactobacillus sakei が顕著に増殖し、能登地方の「なれずし」では製品ごとに異なる Lactobacillus 属や Pediococcus 属乳酸菌が優勢化していた。また「山廃もと」では、発酵初期に通常みられる硝酸還元菌がほぼ検出されないなど、乳酸菌の優勢化という大原則は守られながらも、どのように頑健さとゆらぎを持って最終的な細菌叢が形成されるのか、興味惹かれる結果を得ている。

  • 谷澤 靖洋, 藤澤 貴智, 真島 淳, 李 慶範, 遠野 雅徳, 坂本 光央, 大熊 盛也, 中村 保一, 清水 謙多郎, 門田 幸二
    2017 年 28 巻 2 号 p. 94-100
    発行日: 2017/06/26
    公開日: 2018/08/31
    ジャーナル フリー

    多くの学術雑誌は、その論文中で決定された塩基配列を国際塩基配列データベース(International Nucleotide Sequence Database Collaboration; INSDC)に登録することを掲載の条件としている。DNA Data Bank of Japan(DDBJ)は、INSDC を構成する日米欧三極の1 つである。本稿では、DDBJ への登録用アカウントの取得から、Lactobacillus acidipiscis JCM 10692T 株のゲノム配列登録作業について解説する。ウェブサイト(R で)塩基配列解析(URL: http://www.iu.a.u-tokyo.ac.jp/~ka

    dota/r_seq.html)中に本連載をまとめた項目(URL: http://www.iu.a.u-tokyo.ac.jp

    /~kadota/r_seq.html#about_book_JSLAB)が存在する。ウェブ資料(以下、W)や関連ウェブサイトなどを効率的に活用してほしい。

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