日本乳酸菌学会誌
Online ISSN : 2186-5833
Print ISSN : 1343-327X
ISSN-L : 1343-327X
33 巻, 3 号
選択された号の論文の6件中1~6を表示しています
総説
  • 清水(肖) 金忠
    原稿種別: 総説
    2022 年 33 巻 3 号 p. 155-168
    発行日: 2022/11/15
    公開日: 2023/11/20
    ジャーナル フリー

    ヒトの腸内には数百種類、数十兆個の細菌が棲息しており、腸内細菌叢としてヒトの健康を左右していることが明らかになってきている。腸内細菌のうち、特にビフィズス菌は古くから多く研究されてきており、ヨーグルトやサプリメントなどの製品にも応用されている。

    ビフィズス菌は偏性嫌気性菌で、主にヒトなどの哺乳類、昆虫、鳥類などの腸管を棲み処にしていることが特徴である。現在、ビフィズス菌は、100 以上の種/ 亜種が発見されているが、その棲息場所は種/ 亜種によって異なり、ヒト腸管に棲んでいるのは 10 菌種程度(Human-Residential Bifidobacteria; HRB)で、さらに乳児腸管から検出されるのは 4 ~5 菌種のみ(乳児型 HRB)である。私たちの研究グループは、「なぜビフィズス菌がヒトのおなかに棲んでいるのか、そこでどんなことをしているのか」という命題に取り組み、母乳に含まれているミルクオリゴ糖とともにリゾチームが乳児型HRB の選択に関わっていること、さらにこれらのビフィズス菌種は葉酸産生や乳児腸管に潜在的に存在する有害成分の分解、さらに腸および全身のホメオスタシスに寄与する可能性がある芳香族乳酸の産生などの特徴を有することを解明した。これらの知見は、HRB、特に乳児型 HRB がヒトの腸内での適応能力と有益な特性を発揮するメカニズムに光を当てるものである。

    一方、ビフィズス菌をヨーグルト中で増殖させ、長い期間冷蔵で生残させるには困難を伴う。その理由としては、牛乳中にはビフィズス菌の生育にとって必要な遊離アミノ酸やビタミンなどの栄養素が不足していることや、冷蔵保存中に溶存酸素濃度が高くなってしまうことなどが挙げられる。これは特に元来中性に近い、嫌気度の高いヒト腸管内に棲んでいる HRB 菌種にとって言えることである。私たちの研究グループは Lactococcus lactis との混合発酵という手法を開発し、高菌数・高生残性ビフィズス菌含有発酵乳の製造を可能にした。

    近年、腸内細菌叢と健康との関連性に注目が集まっており、腸内細菌を含めた腸と脳の双方向的な機能連関を意味する“脳腸相関”が注目されている。我々はビフィズス菌に着目して研究を進め、Bifidobacterium breve MCC1274 がプレ臨床試験および軽度認知障害が疑われる方を対象にした臨床試験において認知機能を改善する作用を確認した。さらに本菌株の作用機序として、アミロイドβの産生抑制作用や抗炎症作用を介することが示唆される知見を得ている。

    本稿では、これまで携わってきた研究開発の軌跡を辿りながら、ビフィズス菌の基礎・機能性・応用研究に関連した内容を紹介したい。

  • 長柄 雄介, 大石 憲司
    原稿種別: 総説
    2022 年 33 巻 3 号 p. 169-178
    発行日: 2022/11/15
    公開日: 2023/11/20
    ジャーナル フリー

    腸内細菌叢を制御することで様々な疾患を治療あるいは予防できるという期待が高まっている。しかし、介入に対する腸内細菌叢の反応には大きな個人差があり、常在菌叢の個人差や細菌間の栄養獲得競争がこの背景にあると考えられる。本総説では、各腸内細菌種が腸内の競争的な環境で栄養を獲得するプロセスを調べる際、顕微鏡レベルでの細菌の局在がよい手がかりとなることを解説する。我々は便切片を用いて食物残渣と細菌の位置関係を探索し、Bifidobacterium adolescentis が腸内のでんぷん顆粒に住みついていることを発見した。この集住はでんぷん顆粒の摂取時に同菌種の保有者全員で観察され、また、同菌種はでんぷん顆粒の摂取により他菌種よりも優先的に、かつ大幅に増加した。同菌種の保有者と非保有者では、でんぷん顆粒摂取時に増加する主な細菌種、産生される主な有機酸、さらにでんぷん顆粒の消費効率が異なった。これらの結果は、細菌の集住がヒト腸内の固形栄養源の独占的かつ効率的な利用に寄与しうること、また、ひとつの栄養源の腸内および人体への作用は主たる集住菌種の有無により変わりうることを示している。

  • 倉田 淳志
    原稿種別: 総説
    2022 年 33 巻 3 号 p. 179-185
    発行日: 2022/11/15
    公開日: 2023/11/20
    ジャーナル フリー

    乳酸菌は代表的な腸内細菌であり、いくつかの乳酸菌は培養液中に粒径 20-200 nm 程度の球状構造を持つ細胞外膜小胞(Membrane vesicles、MVs)を生産する。一般的に細菌の MVs は菌体由来の細胞膜から構成され、細菌由来のタンパク質や核酸を積荷として運搬して、宿主免疫細胞へ影響を与えることが明らかになりつつある。一方で乳酸菌の MVs は生化学的にあまり分析されておらず、免疫細胞への影響にも未解明な点が多い。本研究グループでは、Lactiplantibacillus plantarum JCM 8341 の MVs について物理化学的、生化学的、機能的な特性を解明してきた。本総説では、これまで明らかになった乳酸菌の MVs の特徴や機能を紹介する。乳酸菌は MVs を生産することで、腸内細菌叢-宿主免疫細胞間のクロストークにおいて特定の役割を担い、腸内環境の恒常性の維持に関与していると示唆される。

  • 栗原 新
    原稿種別: 総説
    2022 年 33 巻 3 号 p. 186-194
    発行日: 2022/11/15
    公開日: 2023/11/20
    ジャーナル フリー

    近年、腸内常在菌叢は「もう一つの臓器」とも呼ばれ始め、腸内常在菌の適切な制御により人類の健康寿命を延伸することが可能であると考えられている。しかし、腸内常在菌の遺伝子機能の半数以上はアノテーション不能であることから、現状では腸内環境の制御には多くの課題が存在する。

    以上の問題を解決する目的で我々は、ヒト腸内常在菌叢最優勢 56 種のうち、入手可能な 44 種について容易に作成できる GAM 培地を用いて 32 種を培養可能である系を作製した。

    次に、この培養系を用いてヒト腸内常在菌叢最優勢種の培養上清および菌体のポリアミンを定量し、ゲノム情報から予想される解析結果と比較したところ、ポリアミンの未知の代謝・輸送系が多数存在することが明らかとなった。また、GAM で培養可能なヒト腸内常在菌叢最優勢種のうち 5 菌種が多量のフェネチルアミンを産生することを見出し、このフェネチルアミンが宿主の末梢セロトニンの産生を促進することを明らかとした。

    さらに、本システムを用いてヒト腸内常在菌叢最優勢種には資化されず、ビフィズス菌に特異的に資化される「次世代型プレバイオティクス」であるガラクトシル-β-1,4-ラムノース(GalRha)をスクリーニングしたしたほか、微細化した「おから」がヒト腸内常在菌叢最優勢種の生育および代謝産物産生能に及ぼす影響を解析し、Roseburia intestinalis による酪酸の産生がおからを培地中に添加することで向上することを報告した。

  • 牧野 磨音, 清水 謙多郎, 門田 幸二
    原稿種別: 総説
    2022 年 33 巻 3 号 p. 195-205
    発行日: 2022/11/15
    公開日: 2023/11/20
    ジャーナル フリー

    マークダウン(Markdown)は、HTML を手軽に生成するために開発された軽量マークアップ言語である。R Markdown は、R のコマンドと Markdown を組み合わせたものであり、近年主流となっている R の実行手段である。

    多くのユーザにとっては見慣れないファイルの拡張子(.Rmd)かもしれないが、アグリバイオインフォマティクス教育研究プログラムの中でも利用されている。本稿ではまず、R Markdown の基本的な利用法として、チャンクの概念や HTML の生成などを述べる。次に、前回作成した R スクリプトファイルの内容を R Markdown 化し、相違点について述べる。最後に、個々の R コマンドや実行結果として得られるオブジェクトについて解説する。ウェブサイト(R で塩基配列解析のサブ(URL: http://www.iu.a.u-tokyo.ac.jp/kadota/r_seq2.html)中のウェブ資料(以下、W)を併用してほしい。

研究報告
  • 市岡(森) 綾香, 上原 和也, 砂田 洋介, 小池田 崇史, 松尾 伸二
    原稿種別: 研究報告
    2022 年 33 巻 3 号 p. 206-214
    発行日: 2022/11/15
    公開日: 2023/11/20
    ジャーナル フリー

    Lactiplantibacillus plantarum subsp. plantarum N793(以下、N793 株)の頭皮への塗布が薄毛に悩む男女の毛髪に及ぼす影響を非盲検単群試験にて検討した。薄毛を自覚する健常な日本人男女 12 名に 24 週間、N793 株 20 mg を配合したローションを塗布させた。デジタルマイクロスコープによる毛髪評価では、N793 株の塗布により、塗布 24 週の毛髪密度および非軟毛密度が塗布前と比べて有意に増加した。また、塗布前と比較し、塗布 24 週では抜け毛本数が減少していた。VAS アンケートでは、抜け毛に関する設問について、塗布 24 週のスコアは、塗布前と比べて有意に改善した。毛の太さに関連する 3 問について、塗布 24 週のスコアは、塗布前と比べて有意に改善した。毛髪のボリュームに関する設問について、塗布 24 週のスコアは、塗布前と比べて有意な改善が認められた。生え際・分け目に関連する設問について、塗布 24 週のスコアは、塗布前と比較して有意に改善した。抜け毛の実感性に関する設問について、塗布 24 週のスコアは、塗布前と比べて有意な改善が認められた。安全性に関しては、いくつかの項目において有意な差が認められたものの、いずれも基準値内の変動であり、生理的変動の範囲内であると考えられた。本試験から、N793 株の頭皮への塗布が薄毛を改善することが示唆された。また、安全性評価としてヒトパッチテストを実施した結果、N793 株の塗布は安全性に問題がないことも示された。

feedback
Top