移植
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56 巻, Supplement 号
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  • 伊藤 孝司, 奥村 晋也, 上田 大輔, 政野 裕紀, 影山 詔一, 小木曽 聡, 穴澤 貴之, 加茂 直子, 秦 浩一郎, 波多野 悦朗
    2021 年 56 巻 Supplement 号 p. s182
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

     2024年4月から医師の時間外労働規則が開始され、当院では時短計画案の作成や医療機関勤務環境評価センターによる第三者機関審査の準備を開始している。当科でも医師の働き方改革を開始したが、移植外科医がどのように働き方を変える必要があるかを検討した。

     2021年6月時点で臨床勤務している医師が20名在籍しており、手術、病棟・外来診療を担っている。手術件数は昨年度年間約350件で高難度肝胆膵手術が約200件(うち肝移植約40件)を行っている。また緊急手術や肝移植後の術後管理にも勤務時間を割くことが多い。当科での働き方改革として取り組んでいることは、①当直翌日は午後から休息、②脳死ドナー摘出後は翌日まで休息、③人員配置や業務内容の見直し、タスクシフトなどを開始している。しかし、高難度手術は肝胆膵高度技能医の件数に入り外科には手術件数も確保しなければならない。

     私は、脳死・心停止下リカバリー環境改善委員会委員として参画し、臓器摘出の互助制度を検討し、当科でも制度を利用している。互助制度では、派遣医師の人数を減らし負担を減らすことができており、有効利用できると考えている。しかし、医師の労働費、ドナー臓器摘出料の費用配分や手術器械・消耗品の費用配分など、まだまだ不確実な部分も多く、きちんとした制度設計ができていない。今回の検討では当科での移植に携わる外科医の働き方改革の取り組みと、互助制度の課題や解決方法を述べる。

  • 曽山 明彦, 望月 保志, 関野 元裕, 平尾 朋仁, 宮崎 拓郎, 日宇 健, 足立 智彦, 田中 貴之, 原 貴信, 松島 肇, 今村 ...
    2021 年 56 巻 Supplement 号 p. s183
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    移植医の働き方改革に向けた施設間・施設内の連携強化の重要性について述べる。【施設間連携】互助制度における器械貸出や自施設で臓器提供が行われる場合の器材貸出についての業務フローを確立させておくことにより、摘出チームが持参する器材の削減による負担軽減に繋がる。当院では臓器提供時の器械貸出について院内マニュアルに記載している。日本移植学会による臓器摘出セミナーでは、臓器摘出における手技の他、業務プロセスについて系統的に講義されており、互助制度の拡充の為には教育による各施設の共通認識の確立が重要と考えられる。【施設内連携】当院では「脳死下臓器提供支援チーム」を設立し、集中治療医によるドナー管理や各臓器診療科・関係部署による業務分担を行っている。提供施設において、チームによるドナー管理・評価体制を整備することは、院内医師の負担軽減のみならず、メディカルコンサルタントの業務負担軽減等、移植医の業務負担軽減に繋がることが期待される。【臓器提供におけるインセンティブ経費の配分】当院では臓器摘出時の職員派遣や院内での臓器提供時の支援を担当した部署にインセンティブ経費の配分を行っており、持続可能性を高めることに繋がると考えられる。【結語】共通認識に基づいた互助制度等による施設間の連携強化や自施設で提供が行われる際の連携強化は移植医療全体の業務分担につながり、移植医の負担軽減に繋がると考えられる。

  • 宮澤 恒持, 宮城 重人, 戸子台 和哲, 柏舘 俊明, 藤尾 淳, 佐々木 健吾, 松村 宗幸, 齋藤 純健, 金井 哲史, 亀井 尚, ...
    2021 年 56 巻 Supplement 号 p. s184
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    本邦の脳死臓器移植を取り巻く環境は、厳密なタイムスケジュールや長距離の移動や自施設に戻ってからの移植手術への参加など依然として厳しく、医療資源削減や過重労働の軽減といった視点から脳死臓器摘出互助制度の構築が求められてきた。国策の1つとして働き方改革が医療界にも導入され、またCOVID-19の流行により人の移動が制限されることにより、互助化のニーズはさらに高まっている。当施設では全臓器の脳死移植を行い、肝・膵・腎・小腸の4臓器を同一グループで摘出しており、これまでに計41例の摘出と11例の摘出応援を行っている。さらに先日、互助制度の下での当施設初となる他施設からの応援チームとの合同での肝臓摘出を行った。また、以前にブロック制となっている腎臓の摘出とその他の3臓器の摘出にかかる時間と費用の差について報告したが、これら時間面・費用面での恩恵は互助制度の有用性の一面を示す結果であると考えている。一方で、脳死臓器摘出手術は特殊性の非常に高い手術であることに加えて、臓器移植自体の成功の可否を握る極めて重要な意味を有しており、さらには、マージナルドナーである場合などは摘出時に臓器使用の可否の判断を迫られることもある。コロナ禍において我々が行ってきた他施設との合同での臓器摘出やご遺体を用いた独自の臓器摘出教育プログラムなどの経験を元に、臓器摘出互助制度のさらなる推進について議論したい。

  • 藤野 剛雄, 石北 陽仁, 石川 裕輔, 橋本 亨, 絹川 真太郎, 牛島 智基, 田ノ上 禎久, 塩瀬 明, 筒井 裕之
    2021 年 56 巻 Supplement 号 p. s185
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    わが国のドナー不足は深刻で、諸外国と比してマージナルドナーからの臓器移植が積極的に行われている状況にある。そのような状況の中で構築されたのがわが国独自のメディカルコンサルタント(MC)システムである。MCは、近隣の心臓および肺移植実施施設から提供病院に派遣され、第2回目の脳死判定前からドナー評価および管理を行う。これによりドナーの状態が向上し、また移植施設に適切な情報提供がなされることで、より多くのドナーから臓器提供が可能となることが期待される。

    一方で、移植医療における働き方改革の一環として、さらに近年はCOVID-19感染拡大に伴う移動制限もあり、提供病院に直接派遣され活動する現在のMC業務のあり方は検証の余地がある。心臓移植実施施設から派遣されるMCは、心エコー検査をはじめとするドナーの心機能評価および血行動態管理が主な業務であるが、提供病院の循環器内科医および集中治療医に実際の業務を委託し、同時にMCが直接現地に赴く代わりにオンライン会議システムなどを用いて情報共有を行うことで、代替案となり得る。ただし、いずれも提供病院側の負担増加には十分に留意する必要がある。主に心臓移植実施施設の観点から、MC業務の今後のあり方について考察する。

  • 柏 公一, 黒澤 秀郎, 高橋 舞, 朝倉 陽香, 藤谷 早織, 藤城 和樹, 飛田 瑞穂, 谷田 勝志, 村澤 孝秀, 久保 仁, 土井 ...
    2021 年 56 巻 Supplement 号 p. s186
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    当院の臨床工学部門の中でも特に、人工心肺の操作や補助循環の管理を主たる業務としているチームの長時間労働については以前より問題視されていた。そのような中、2018年6月に働き方改革関連法が成立し、残業時間に上限が設けられたことによって、本格的に長時間労働の是正が求められるようになった。これまでに様々な取り込みを行い、私たちが遵守すべき条件は辛うじてクリアしてきてはいるものの、他のチームと比較するとどうしても長時間労働に陥りやすい環境下で業務を行っているのは否めない。私たちは当院第1例目の心臓移植実施時より臨床工学技士をドナーチームの一員として派遣してきた。現在は5、6名のスタッフがこの業務を行うことができ、ドナー手術が終了した後に公共交通機関を利用して帰院している。本業務は出発の時間から超過勤務扱いとなるため、土日祝日においては1回の派遣で16~17時間の超過勤務がつく場合もある。業務時間の短縮を目的に臓器搬送を担当したが、数例で頓挫してしまい、労働時間を管理する立場の者からするとドナー手術での業務は多大な超過勤務時間がついてしまう頭を悩ます業務になりつつある。心臓移植の場合、心摘出後から閉胸に至るまでの時間は待機しているのみである。労働時間の短縮が求められている今、閉胸担当医師を確保しておくなどして、このような時間を削減することも考える必要があるのではないかと思う。

  • 剣持 敬, 伊藤 泰平, 栗原 啓, 會田 直弘, 纐纈 一枝, 加藤 櫻子, 明石 優美
    2021 年 56 巻 Supplement 号 p. s187
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    臓器提供増加により,移植医,Co.の負担も増加している.脳死・心停止下臓器移植では,レシピエント意思確認,入院,検査,術前処置,IC,JOTへの連絡,提供施設への器材搬送,摘出手術,臓器搬送,移植実施のプロセスを短期間で行うため,肉体的,精神的負担が大きい.当院の臓器提供~移植の互助制度につき報告する.

    当院発生のドナーの場合,器材,消耗品,灌流液の貸出や当院外科医による臓器摘出,JOT・業者(腎)による臓器搬送,県内・近隣県発生のドナーの場合,当院器材の業者搬送(伊藤班研究)等の互助制度を実施している.また当院で移植の際,提供施設外科医による摘出,JOTによる搬送も行った.

    当院でコロナ禍1.5年間に実施した3例の脳死下臓器提供に互助制度を適応,2例は腹部臓器(肝,膵,腎)摘出を当院外科医が行った.JOTの厚意で移植施設へ搬送,移植し,当院(提供施設)と移植医の負担を半減し得た.胸部臓器摘出も,器材,消耗品貸し出し,器械出しナースのサポート等で移植医の負担を軽減した.

    臓器摘出,搬送を当該移植施設の移植医以外が行えば,移植医,提供施設の圧倒的な負担軽減となる.しかし,実施には,摘出医の技術の担保と信頼,搬送技術の担保と信頼が必須である.学会として技術水準維持のため摘出手技の講習,臓器搬送法の標準化を行うとともに,提供・移植施設,JOT,行政,などオールジャパンで合意・協力の上進めることが肝要である.

  • 岡田 克典, 小野 稔, 福本 巧, 笠原 群生, 石田 英樹, 渡邉 龍秋
    2021 年 56 巻 Supplement 号 p. s188
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    日本移植学会働き方改革委員会では、臓器摘出に関わる勤務状況と移植施設による労務管理の実態を明らかにするために、2020年末から2021年初頭にかけてwebによるアンケート調査を実施した。対象は、それぞれ臓器摘出に関わる移植医、移植施設の労務管理に関わる事務部門の担当者である。臓器摘出に関わる勤務状況では、340名から回答を得た。多くの摘出医がインターバル無しで移植手術に望んでいる状況などが明らかになった。臓器摘出業務において改善して欲しい点としては、手当の支給、機材搬送の負担軽減、集合時刻の改善などの意見が多かった。労務管理に関わる調査では、132施設中43施設より回答を得た。職員のMC派遣を移植施設が把握していない現状、一部の施設では時間外手当の支給がない現状などが浮き彫りになった。アンケート結果を元に、臓器摘出に関わる移植医の勤務状況と移植施設による労務管理の現状と問題点を分析し、今後どの様な改善か必要かについて議論したい。

  • 布田 伸一, 服部 英敏, 菊池 規子, 野本 美智留
    2021 年 56 巻 Supplement 号 p. s189
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    画期的なシクロスポリンの発見で心臓移植の急性期予後は1980年代に著明に改善し、1990年代後半より心臓移植後慢性期合併症に臨床的注目点はシフトした。心臓移植では、移植心冠動脈病変(CAV)、悪性腫瘍、腎機能低下が移植後慢性期の予後を規定する3大合併症であるが、わが国で2007年に保険適用になったエベロリムス(EVL)は、免疫抑制効果と共にProliferation signal inhibitorの作用を担うことから、CAVにおいては血管内膜増殖抑制、悪性腫瘍合併例にはその抗腫瘍効果、そして腎機能低下例においては腎毒性をもつカルシニューリン阻害薬(CNI)を減量しEVLを併用することで、3大合併症への対策とその結果に期待が寄せられた。その後15年間に亘りEVLは心臓移植領域で使用され、創傷治癒遅延、リンパ浮腫、脂質異常、口内炎、等の有害事象はあるものの、CNI、代謝拮抗薬、ステロイドの三薬に続く4番目の移植後免疫抑制薬としての地位を確保してきている。本ワークショップでは、わが国で一番長いEVL使用経験のある心臓移植領域から、自験例も合わせた様々な結果について報告し、さらに心臓再移植待機の管理も考慮した今後に向けてのEVL使用方法についても報告する。

  • 鈴木 悠平, 折山 豊仁, 山本 武人, 波多野 将, 網谷 英介, 武城 千恵, 木下 修, 安藤 政彦, 加賀美 幸江, 今井 博子, ...
    2021 年 56 巻 Supplement 号 p. s190
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    【背景・目的】エベロリムス(EVL)は副作用として間質性肺炎(IP)を高頻度に引き起こすことが知られているが、EVL服用患者において血清KL-6を測定した報告は極めて限られている。そこで、本研究では心移植患者を対象にEVL導入前後の血清KL-6を調査した。

    【方法】2006年5月~2020年1月までに東京大学医学部附属病院で心移植を受けた15歳以上の患者をEVL導入群およびEVL非導入群に分類し、各群の血清KL-6のベースライン値およびピーク値を調査した。

    【結果・考察】EVL導入群(67例)における血清KL-6のベースライン値およびピーク値はそれぞれ178(80 - 469)U/mL、292(126 - 2694)U/mLであり、EVL導入後に有意な上昇を認めた(P < 0.001)。また、16例(23.9%)においてピーク値は基準値(500 U/mL未満)を上回った。一方で、EVL非導入群(15例)の血清KL-6はベースラインで183 (72 - 582) U/mL、ピークで183 (80 - 489) U/mLと有意な上昇を認めなかった。現在、各群の患者背景やEVLの服用量・血中濃度等が血清KL-6変動に与える影響について解析を進めている。

    【結語】心移植後にEVLを投与した患者では、血清KL-6が上昇する可能性が示された。血清KL-6はEVLによる薬剤性IPの発症予測に有用である可能性があるため、EVL導入後は血清KL-6を慎重にモニターし、血清KL-6が上昇した場合には減量・中止といった対応も考慮すべきと考えられる。

  • 箱田 啓志, 田中 友加, Saparbay Jamilya, 田原 裕之, 谷峰 直樹, 大平 真裕, 井手 健太郎, 大段 秀樹
    2021 年 56 巻 Supplement 号 p. s191
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    【目的】

    mTOR阻害剤は、HCC肝移植患者の予後に有効であることが報告されているが、自然免疫系に与える影響については不明な点が多い。本研究では、mTOR阻害剤であるエベロリムス(EVR)の肝内在性および脾臓NK細胞への影響についてマウスモデルを用いて解明した。

    【方法と結果】

    B6マウスにEVR(0.0125~0.25mg/kg/day)を7日間腹腔内投与した。EVR投与で、肝臓内のTRAIL表出NK細胞の割合は有意に上昇したが、脾臓では上昇を認めなかった。細胞傷害性試験では、Hepa1-6細胞に対して高い傷害活性を誘導した。次に、NK細胞の分化成熟過程へのmTOR阻害剤の影響について解析した結果、EVRは肝臓内NK細胞に対して、未成熟~中間段階におけるNK細胞のTRAIL発現を誘導するが、後期段階のNK細胞には影響しないことを確認した。肝臓のNK細胞成熟抑制へのmTOR阻害の分子経路についてmTOR依存性ネガティブレギュレーターを探索した結果、NK細胞のFoxO1は、mTOR依存性のAKTリン酸化障害の結果として活性化され、活性化されたFoxO1はTRAIL発現を誘導し、また、NK細胞の成熟を阻害することで、肝臓未成熟NK細胞の抗腫瘍活性を促進した。

    【結語】

    EVRは未熟な肝臓内NK細胞の抗腫瘍活性を高めることで臨床における抗腫瘍効果が期待されることが示唆された。

  • 今村 亮一, 田中 亮, 谷口 歩, 山中 和明, 難波 倫子, 阿部 豊文, 高尾 徹也, 岸川 英史, 野々村 祝夫
    2021 年 56 巻 Supplement 号 p. s192
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    エベロリムス(EVR)は、わが国では2011年12月に「腎移植における拒絶反応の抑制」が効能又は効果として追加された。腎移植後の死亡原因に直結する感染症、de novo癌、心血管系合併症のリスクを軽減する可能性や、併用するカルシニューリン阻害剤投与量の減量を通じて薬剤性腎毒性を抑制しうるという大きなメリットを有するといわれている。一方で、創部治癒遅延や脂質異常症のリスクを増大させる等、多くの副作用も指摘されている。尿蛋白排泄量の増加は拒絶反応や再発性腎炎の診断を困難にする可能性があり、口内炎は時に難治性となり、レシピエントのQOL低下につながる。このように相反する多くのメリット、デメリットを有する薬剤であるが、当科ではこれまで術直後からEVRを積極的に導入し、2021年5月までに210件の腎移植症例に維持免疫抑制剤として使用した。大部分の症例において副作用で中断することなく継続使用可能であった。従来施行していたEVR非使用プロトコル症例と比較し、1年目の移植腎生検では明らかにEVR使用症例で拒絶反応および薬剤性腎毒性の発症率は低下していた。また長期生存率・生着率に関する多施設解析を施行したところ、EVR使用群では非使用群に比し有意に腎生着率が高かった。さらに予後に大きく関連すると考えられるde novo癌の発症において、累積罹患率は低下していた。EVRの副作用の多くはコントロール可能であり、そのメリットが大きく上回ると考えられた。

  • 市丸 直嗣
    2021 年 56 巻 Supplement 号 p. s193
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    エベロリムスは本邦では2007年に心移植領域で最初に保険収載された。その後に腎移植領域において日本で治験が実施された後に2011年12月に保険収載され,今年で10年となる。エベロリムスは臨床腎移植でそれまで用いられていた他の免疫抑制薬と違う作用機序をもち,mTORと結合して細胞増殖シグナルを阻害することで免疫抑制作用や細胞増殖抑制作用をもつ。また,血管内膜肥厚を抑制することにより長期予後改善が期待できるという特徴的な長所を有する。高用量では腎癌などで保険収載されている。

    欧米では当初カルシニューリン阻害薬(CNI)との代替や切替えの報告が多く,限定的な使用に留まった。本邦では欧米の臨床試験結果から学び,CNIやステロイドの長期使用による副作用を軽減することにより,移植腎および患者の長期予後改善を目指して用いられた。従来の多剤併用免疫抑制療法にadd onし,長期移植腎障害が問題となるCNIを低用量化する,ステロイド中止などの種々の免疫抑制レジメンが採用されている。

    エベロリムスの副作用として問題となる蛋白尿,腎機能低下,脂質異常症について,機序の解明や適切な症例選択についての知見が集積され,安全に使用できるようになってきている。長期間観察が必要な悪性腫瘍についての知見も近年蓄積されつつあり,エベロリムスによる腎移植患者の長期予後改善が期待されている。

  • 堀見 孔星, 澁谷 祐一
    2021 年 56 巻 Supplement 号 p. s194
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    近年の免疫抑制療法や周術期管理、合併症対策の向上により、腎移植後生着率は10年90%を凌駕するほどの成績となり長期生着症例が増加している。しかしその一方で、長期生着症例では移植腎機能が維持されたまま合併症により死亡する、DWFG(death with functioning graft)が増加傾向にある事が問題となっている。今回我々は、腎移植後の死亡原因として多い感染症や心血管系合併症の減少を期待して、エベロリムス早期導入によるステロイドフリーレジメンによる免疫抑制療法を行っている。レジメンは、バシリキシマブ・タクロリムス・ミコフェノール酸モフェチル・ステロイドの4剤併用療法にて導入、2週間でステロイド漸減し中止、同時にエベロリムスをadd onするといったレジメンである。mTOR阻害剤であるエベロリムスは、in vitroではあるが血管内皮細胞上で抗HLA抗体の発現を抑制するとの報告もあり、血管内皮細胞障害阻害作用による長期の腎保護を期待する。そして耐糖能異常や高脂血症・易感染性・血栓傾向・骨密度低下等のステロイド関連合併症の軽減からの長期生着・長期生存を目標とする。

    今回、高知医療センターで行った腎移植180例のうち、2017年3月以降のエベロリムス早期導入によるステロイドフリーレジメン66例について、生着率・生存率、合併症、de novo DSAの検出率等について検討したので文献的考察も含めて報告する。

  • 富田 祐介, 上原 咲恵子, 滝口 進也, 中村 道郎
    2021 年 56 巻 Supplement 号 p. s195
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    2011年にエベロリムス(EVR)の使用が腎移植に適応拡大したことに伴い、当科では術2週間後にEVRのadd-onを行う免疫抑制プロトコールを積極的に導入してきた。われわれはEVRを併用することにより移植腎の線維化を抑制できることを報告したが、末梢血リンパ球の特性については不明な点が多い。今回、2012年4月から2020年12月の間に当科で施行した腎移植の138症例に対して、EVR併用療法の中止率やその原因をretrospectiveに解析した。また、制御性T細胞(Tregs)や免疫チェックポイント蛋白に着目し、末梢血リンパ球をフローサイトメトリーで解析することでEVR併用療法のメリット、デメリットについて検討した。138例中の115例にEVRのadd-onを行ったが、8例(7.0%)で中止した。その理由は、尿蛋白の増加が5例、浮腫が2例、間質性肺炎が1例であり、中止後に全例で症状は軽快した。末梢血リンパ球の解析では、Tregsに対するactivated Tregs (CD45RAneg Tregs)の割合が、EVR群で有意に高値であった(P = .01)。また、non-TregsにおけるPD1の発現はEVR群で有意に上昇していた(P = .03)。さらに、DSAの産生に関わるとされる濾胞性T細胞に対するPD1の割合は、EVR群で高い傾向にあった(P = .07)。EVRの副作用により中止せざるをえない症例が見られるものの、末梢血リンパ球の解析からもEVR併用療法が移植腎予後に有利である可能性が示唆された。

  • 木原 優, 今野 理, 沖原 正章, 赤司 勲, 松野 直徒, 岩本 整
    2021 年 56 巻 Supplement 号 p. s199
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    移植待機患者数と提供される臓器数との差は大きく、臓器不足は深刻な課題である。この課題の解決のために、移植可否の判断の難しい臓器の機能を診断する技術、臓器機能を維持し機能改善をはかる技術など、新しい医療技術開発が求められている。こうした背景の中、機械灌流保存が注目されている。当科では2020年から献腎グラフトに対し可能な場合に灌流保存装置を使用する事としている。これまで2例に灌流保存装置を使用して献腎移植を施行したため経過を報告する。灌流装置として、腎臓用臓器保存庫(CMP-X08)を使用した。(症例①)脳死下提供。レシピエントは57歳男性。当施設で2腎の提供であったため、1件目の移植を行っている際に機械灌流を行った。灌流時間は220分で灌流は良好であった。術後のATNはなく尿量は維持され、術後第16病日に退院された。退院時S-Cr1.1であった。(症例②)心停止下提供。心停止後に心マッサージ開始から心拍再開まで74分かかったいわゆるマージナルドナーであった。レシピエントは66歳女性。灌流時間は、143分で灌流は良好だった。術後のATNは8日間で透析離脱となった。合併症なく経過し、術後第23病日に退院となった。退院時S-Cr1.66であった。2症例のレシピエントの経過に関しては問題なく順調である。灌流装置への様々な不安があったが、手術に大きな支障をきたす事はなかった。症例がまだ少ないため件数を重ねたうえで今後も報告をしていきたい。

  • 山田 祐介, 野島 道生, 樋口 喜英, 長池 紋子, 田畑 あさひ, 友野 雅人, 松尾 勇樹, 田口 元博, 嶋谷 公宏, 長澤 誠司, ...
    2021 年 56 巻 Supplement 号 p. s200
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    【諸言】経皮的心肺補助(PCPS)は鼠径部から挿入したカテーテルを介し、遠心ポンプで血流を作り、膜型人工肺で酸素化を行う人工心肺装置である。近年、PCPSを施行したドナーからの腎移植の報告が散見される。今回われわれはPCPS装着ドナーに工夫を加え、良好な経過を得た2例を経験したので報告する。【症例】ドナーは40歳代女性と50歳代男性。ともにクモ膜下出血を発症後に心停止となりPSPCを装着した。心拍は再開したが救命不可能と判断。臓器提供希望があり心停止下の臓器提供が承諾となった。心停止後一旦PCPSを止め、死亡確認したのちにPCPSを再開し酸素化を継続しながら手術室へ搬送し、採取術を施行した。腎の灌流状態は良好であった。移植された4腎とも術後3-7日目には透析を離脱し、良好な経過を得ている。【考察】近年、PSPCを用いた腎移植の報告が散見されるが、提供腎の状態は良好から不良と報告されている。報告ではPCPS回路を灌流目的で使用しているが、PCPSを再開することで酸素化を継続できるという利点があると考えられる。また、大動脈バルンを挿入するために大腿動脈を結紮する必要もなく、下肢の色調変化を心配する必要もないと考えられる。【結語】PCPS装着心停止ドナーからの腎提供を2例経験した。死亡確認後にPCPS回路を再開し、酸素化を行う今回の方法は有用である可能性が示唆された。

  • 大木 里花子, 海上 耕平, 八木澤 隆史, 神澤 太一, 北島 久視子, 田邊 一成, 石田 英樹
    2021 年 56 巻 Supplement 号 p. s201
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    近年の腎移植件数増加に伴い術前評価、術後の長期フォロー、移植後合併症等の管理に腎臓内科医参画の必要性が高まっている。2021年4月より半年間、週2日(火曜、水曜)東京女子医科大学泌尿器科にて医師8年目の腎臓内科医として研修を行なった。主な研修内容はカンファレンスの参加、移植前後のレシピエントおよびドナーの周術期管理、移植後合併症加療、移植後透析再導入、移植腎生検等であり、移植チームの一員として診療に参加した。移植後合併症はサイトメガロウイルス感染症、拒絶、再発性腎炎等の移植後特有の疾患のみならず、糖尿病教育入院や腎不全の進行に伴う体液過剰といった内科が得意とする慢性腎不全管理の占める割合も多い。腎移植が無事完了した後もCKDとしての保存期管理は必要であり、免疫抑制剤の調整のみならず高血圧や動脈硬化、脂質異常症、耐糖能異常等の内科的管理が必須となる。また、再発性腎炎に対する血漿交換療法や移植後透析再導入までのステップも腎臓内科医の介入によりスムーズな治療展開が期待できる。1週間に平均3-5件の生体腎移植を施行しているハイボリュームセンターでは、週2日の研修期間でも豊富な移植症例経験が可能である。具体的なフェローの1日や研修体制についての紹介を含め、移植内科医育成のためには何が必要か研修を受けた立場から考察する。

  • 中村 緑佐
    2021 年 56 巻 Supplement 号 p. s202
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    American Society of Transplant Surgeons(ASTS)が認定するtransplant surgical fellowshipへの申請後のオンライン面接について報告する。

    ECFMG取得後、fellowship position取得の為、腹部臓器移植外科についてはSF matchを通して希望施設に応募する。Contact, Education, Exam/License, Employment, Publications, Honors, Outside Interestを直接入力し、書類としてECFMG, USMLE step1, 2CK, 2CS, 及び3 score reports, 推薦状3通, personal statement, curriculum vitaeを用意し、希望施設に応募する。

    2021年2月から5月にかけて移植外科医師35名、移植内科医師2名と計905分(中央値25分、14-50分)、現役fellows 8名と計229分(中央値30分、14-40分)、Advanced Practitioner, Nurse Practitioner 4名と計79分(中央値20分、14-25分)とオンライン面接を実施した。医師からの質問は応募動機、将来像の2つが81%の面接であり最多の質問事項であった。施設により一般就職面接内容と考えられる標準質問事項を受ける場合がある。

    ASTS発表によると2010-2019年のInternational Medical Graduatesの就職決定率は37-57%(中央値46%)と決して高くなく、fellowship position取得を希望する場合、十分な準備が望まれる。

    COVID19で特殊な状況での完全オンライン面接となったが、今後も一部採用される可能性は十分にあり、オンライン面接に対する準備は必要であると考えられた。

  • 中江 昌郎, 吉岡 大輔, 戸田 宏一, 宮川 繁, 齊藤 哲也, 河村 拓史, 河村 愛, 樫山 紀幸, 松浦 良平, 平 将生, 島村 ...
    2021 年 56 巻 Supplement 号 p. s203
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    【背景・目的】左心補助人工心臓(LVAD)装着患者において、LVAD関連感染症は頻度の多い合併症である。人工物感染であるがゆえに、抗生剤治療に対して抵抗性を示しやすく、特にポンプポケット感染に至るとしばしば治療に難渋する。かかる症例に対する心臓移植は、感染源の除去が可能となる反面、術後免疫抑制剤による免疫能低下による感染症増悪も懸念される。治療抵抗性LVADポンプポケット感染患者に対し心臓移植を施行した9例を検討した。【結果】平均年齢は43±11歳、LVAD装着期間は、1325±279日であった。原疾患は虚血性心筋症2例、拡張相肥大型心筋症3例、拡張型心筋症4例であった。全例移植時に、抗生剤治療および感染巣の開放ドレナージを行っていた。術直前平均CRPは3.2±3.7 mg/dlであった。移植心不全を起こした1例を除いた8例で心臓移植時に大網充填を同時に施行し、タクロリムス・ミコフェノール酸モフェチル・プレドニゾロンの3剤による免疫抑制療法を行いながら、術前と同様の抗生剤を継続した。全例で感染の再燃を認めず、局所陰圧閉鎖療法を併用する事で、移植後の創部治癒も良好であった。術後細胞性拒絶反応は全例でGrade 1R以下に抑えられていた。【まとめ】治療抵抗性LVADポンプポケット感染患者に対する心臓移植は、免疫抑制剤使用下に十分な感染コントロールが可能であり、有用な治療選択肢となりうる可能性が示唆された。

  • 井之口 慶太, 戸田 宏一, 宮川 繁, 吉岡 大輔, 齋藤 哲也, 河村 拓史, 樫山 紀幸, 河村 愛, 松浦 良平, 澤 芳樹
    2021 年 56 巻 Supplement 号 p. s204
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    【背景】我が国における心移植は2010年の法改正後増加傾向であるが、依然として慢性的なドナー不足であり、移植待機日数は年々延長している。ドナー不足を解消すべく、海外では心停止ドナー(Donation after Circulatory Death: DCD)心移植を実施している地域がある。近年の報告では、DCD心移植は脳死ドナー(Donation after Brain Death: DBD)と遜色ない治療成績であり、ドナー不足解決の一助となる可能性がある。一方で、DCDについては、摘出前の心機能をDBDと同様に評価することは困難であり、評価方法の構築が必要となる。当科では、DCD心移植後の心機能評価方法について検討するため、大動物のDCDモデルを作成した。

    【方法、結果】家畜ブタ(5頭、44.5±8.7kg)を全身麻酔下に穿頭してバルーンを挿入・拡張させ、脳ヘルニアを惹起し、脳死モデルを作成した。脳死確認後、人工換気を停止すると8.8±3.5分で心停止となった。温阻血のまま静置し、心停止後0分、5分、15分、30分、60分にECMOにより全身灌流したところ、心停止後60分が経過した1頭を除く4頭は、電解質補正や輸血なしに、4.8±1.5分で自己心拍が再開した。

    【結語】大動物脳死モデルから、人工換気停止によりDCDモデルが作成可能であり、心停止後温阻血30分までは全身灌流のみで心臓を蘇生できることが明らかとなった。今後はECMO補助下の蘇生後心機能の評価と、移植後の心機能予測因子の検討を計画している。

  • 羽田 佑, 渡邉 琢也, 瀨口 理, 岩永 光史, 米山 将太郎, 岩崎 陽一, 望月 宏樹, 下島 正也, 田所 直樹, 塚本 泰正, 福 ...
    2021 年 56 巻 Supplement 号 p. s205
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    わが国では臓器提供が少なく、マージナルドナー(MD)からの心臓移植は避けられない。今回我々は、JOTのドナー情報では移植適応の可否が決定できず、摘出チームに先行して医師を派遣し、ドナー管理をして心機能を改善させ、移植後順調に退院した症例を経験した。症例は60歳代男性。拡張型心筋症による心不全に対し、至適薬物療法、カテーテルアブレーション、両心室ペーシング、僧帽弁置換術施行も強心薬依存状態。諸事情で植込み型補助人工心臓(iVAD)適応がなく、強心剤投与下で移植待機。待機2年後ドナー情報あり。ドナーは40歳代男性。原疾患は脳出血。心肺蘇生はないが、二次評価では心エコーで左室肥大、左室収縮能低下[駆出率(EF)38%]を認めた。しかし、症例の心不全は進行性で、iVAD適応がなく、待機順位は下位であり、ドナー年齢、基礎疾患から治療介入で心機能改善の可能性があると判断し、摘出チームに先行して循環器内科医を派遣。提供施設医師と連携しながらドナー管理を行い、心機能が正常化し、心臓移植を実施。移植1日目の左室拡張/収縮末期径 41/29 mm、EF 54%、5週目にはEF 65%まで改善し、移植7週目に退院。現在患者は移植後10週を経過し、拒絶反応もなく経過良好である。提供施設医師と連携し管理することで、よりマージナルなドナー心でも移植可能となることが示唆された。

  • 遠藤 奈津美, 布田 伸一, 菊池 規子, 服部 英敏, 野本 美智留, 石戸 美妃子, 市原 有起, 齋藤 聡, 新川 武史, 石田 英樹 ...
    2021 年 56 巻 Supplement 号 p. s206
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    背景と目的:2020年初頭より始まったCOVID-19感染症パンデミックの状況において、免疫抑制下にある心移植患者の管理方法を検討し、実施した結果を報告する。実施方法:①外来受診頻度・方法、定期入院の検討、②心不全・心移植カンファレンスの実施方法、③患者自身の感染が確定した場合・周囲に感染者が発生した場合の対応について、日本移植学会の基本指針をもとに移植チーム内で検討し、対応方法を決定した。結果:患者の通院間隔、定期入院を延ばすと同時にメール等で補填し、心不全・心移植カンファレンスをWEB開催に変更した。当院通院中の約70名のうち、患者家族に感染の発生事例は1例、患者家族が濃厚接触者事例は1例、患者の職場内で感染者発生の事例は1例、患児の通う学校で複数感染者を認めた事例は2例あった。家族感染例、家族が濃厚接触者となった事例では、患者のホテル隔離を即時実施し、職場や学校で感染者を認めた事例では、患者を一定期間欠勤・欠席させた。どの事例においてもメールや電話などで日々の体調や周囲状況の確認を密に行い、隔離解除、社会生活への復帰や外来受診のタイミングを決定し、移植患者の感染はなく経過した。結語:管理方法を検討・実施し、当院の心移植患者は、感染に至ることなく経過している。しかし、今後ワクチン接種の拡大や変異株の流行などにより状況は変化するため、管理方法も流動的に再検討する必要がある。

  • 安藤 政彦, 木下 修, 友成 崇葵, 高橋 秀臣, 金子 寛之, 尭天 孝之, 星野 康弘, 小前 兵衛, 嶋田 正吾, 木村 光利, 山 ...
    2021 年 56 巻 Supplement 号 p. s207
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    背景) PHMRが心臓移植後の生存率に与える影響を解析。

    方法) 2006年5月-2021年3月の18歳以上の移植141例のうち、ドナー (D)身長不明例を除いた137例が対象。Weight ratio (WR)<-20%のUnder、-20%≦WR<+20%のMatch、WR>+20%のOverで比較。PHMRでも同様に比較。

    結果) Under vs Match vs Overで9 vs 95 vs 33例。体重は69.7 vs 60.7 vs 53.0kg (p<0.001)。D体重は51 vs 60 vs 72kg (p<0.001)。±20%でのGroupingでは生存率に有意差なし (図)。PHMR<−20%のUnderは予後不良の傾向 (p=0.212)。

    結語) PHMRはWRよりも予後に関連し得る。生命予後の観点からは、ある程度のOversizeは許容され得るが、PHMR<-20%のUndersizeでの移植は慎重になるべき。

  • 加藤 倫子, Mirabet Sonia, Kapadia Nandkishore, Sivathasan Cumara, 中谷 武嗣, T ...
    2021 年 56 巻 Supplement 号 p. s208
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    背景:コロナ禍で国際学会での各国との交流が困難となり、2020年4月以降は殆どの移植関連国際学会は延期やWeb開催を選択せざるを得ない状況となった。そのような状況のなか、国際心肺移植学会は2021年4月に全会員70%以上が参加する形でVirtual meetingを行い、We are the world: Building Transplant Program Internationallyと題したシンポジウムを開催した。企画から開催までを通して得た知見を報告する。

    報告事項:本シンポジウムは移植先進国ともいえる欧米諸国とアジア・南米など移植新興国のいずれもが直面している臓器提供数の伸び悩みや待機期間の延長といった課題、さらに各々の国ごとが抱えるジレンマを皆で話しあう事が、相互に有益で、新たな視点での課題解決に繫がるのではないかとの期待から企画された。

    『Nothing’s Gonna Stop Us Now: Challeges of Growing a Transplant Program』と題した情報提供から始め、インド、中国、東南アジア、韓国、日本、中南米での取り組みを紹介し、移植新興国でプログラム構築指導についての『We are Family: How developed and Developing Nations Can Work Together』と題した発表で幕を閉じた。

    各発表者の了承のもと、本シンポジウムでのKey messageを紹介する。

  • 武城 千恵, 波多野 将, 網谷 英介, 石田 純一, 辻 正樹, 上原 雅恵, 角田 昇隆, 磯谷 善隆, 小室 一成, 小野 稔
    2021 年 56 巻 Supplement 号 p. s211
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    背景:心臓移植後の拒絶の評価としては今なお心筋生検がgold standardであるが、心筋生検自体のリスクや、頻回な心筋生検による三尖弁閉鎖不全症や右心不全のリスクもあり、非侵襲的に可能な拒絶の評価方法の確立が求められている。

    方法:当院にてフォローしている移植後1年以上の128例において生検直前の高感度トロポニン値(TnI)を生検結果と比較した。また2020年1月以降の心筋生検にて中等度以上のACRが認められた症例で治療前後の心臓MRIが撮影可能であった5症例においてNative T1 値を検討した。

    結果:中等度以上の細胞性拒絶(ACR)が見られた症例ではTnI>10pg/mLに上昇する症例が多く(ACR有vs無: 47.1% vs 14.3%; p=0.0034)、感度は低いものの特異度は85.7%と高い結果であった。一方心臓MRIにおけるACR症例でのNative T1値は1374±88.1msと高値であり、拒絶治療後は1285.8±62.9msといずれの症例でもNative T1値の低下が見られた。

    結語:TnIの上昇がないことや、MRIにおけるNativeT1値の上昇が見られることはACRの非侵襲的診断に有用である可能性が考えられた。近年報告されているmicro RNAを始めとしたその他の非侵襲的モダリティによる拒絶の評価方法も含めて文献的考察を行う。

  • 渡辺 有為, 平間 崇, 渡邉 龍秋, 大石 久, 新井川 弘道, 秋場 美紀, 春藤 裕樹, 田中 遼太, 野津田 泰嗣, 鈴木 隆哉, ...
    2021 年 56 巻 Supplement 号 p. s212
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    肺移植後の生存率は全ての固形臓器移植の中で最も低い.これは肺が外界に暴露され,感染を合併する危険性が高いこと,慢性移植肺機能不全(CLAD)の根本的な治療法がないことが理由である.また急性期の移植肺機能不全 (PGD)もいまだ少なくない死因である.こうした死亡を防ぐためには,早期の診断と可及的な治療が必要であるが,肺移植患者では確定診断に必要なSolid biopsyが難しい場面も少なくない.このため肺移植領域でも血液など低侵襲に採取できる検体を用いるLiquid biopsyに関心が高まっている.

    PGDは移植前に予測,診断することで避けられる可能性がある.近年ドナー肺体外灌流システム(EVLP)が実用化され,EVLPの灌流液中の炎症性サイトカイン,細胞死マーカー,ドナー由来のCell-free DNA(cfDNA)を解析し,PGDに陥る危険性のある肺を見極める試みがされている.急性拒絶と感染の鑑別は,肺移植後にしばし問題となる.近年,血液中のドナー由来のcfDNAを解析することで,拒絶の診断と広範な感染症のスクリーニングを同時にできる可能性が示されている.CLADは不可逆性であり,進行を防ぐためには早期の診断が必要である.最近,肺胞洗浄液から採取したcfDNAと炎症性サイトカインの解析によりCLADのサブタイプまで診断できる可能性が示されている.

    リキッドバイオプシーは肺移植後のPGD,急性拒絶と感染,CLADを診断できる可能性があり,今後益々の発展が望まれる.

  • 金森 洋樹, 山田 洋平, 長谷川 康, 篠田 昌宏, 井ノ上 逸朗, 尾原 秀明, 北川 雄光, 黒田 達夫
    2021 年 56 巻 Supplement 号 p. s213
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    【背景】

    臓器移植の歴史は成熟期を迎え、グラフト機能維持を含む長期成績の向上が大きな課題である。今回我々はドナー由来血中遊離DNA(donor-derived cell free DNA;ddcfDNA)に着目し、肝臓・小腸でのグラフト機能評価に対する新規バイオマーカー研究に着手したので進捗を報告する。

    【方法】

    肝移植・小腸移植レシピエントを移植後1年未満の急性期群と1年以上経過した長期経過群に分類した。各プロトコールに沿って採血しcfDNAを抽出、次世代シークエンサーを用いたSNP解析の手法をもとにddcfDNA比率を算定し、採血データ・組織生検結果(線維化スコア・C4dスコア)との相関を評価した。

    【結果】

    2021年6月時点で研究参加者は69例(肝64例【急性期群、長期経過群各10、54例】、小腸5例【同各2、3例】) で、ddcfDNA解析が終了したのは肝移植急性期群1例(小児)、肝移植長期経過群24例。急性期群では虚血再灌流障害の影響でddcfDNAは高比率となるが、その後減少に転じ、拒絶反応時の上昇や治療後の反応等、既報で見られるような推移を得た。長期経過群24例ではddcfDNAとC4dスコア、ALT、γGTPと相関が見られた。小腸移植群は現在解析中である。

    【結語】

    更なる検体解析を進め、肝臓・小腸移植後グラフト機能評価に対するddcfDNAの有用性を検討する。

  • 西郷 健一, 中岡 博史, Nguyen Phuong Thanh, 早野 崇秀, 北村 博司, 井ノ上 逸朗
    2021 年 56 巻 Supplement 号 p. s214
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    移植臓器からレシピエント血中に放出されるドナー由来cell-free DNA(ddcfDNA)の移植臓器障害に関するbiomarkerとしての臨床応用は海外に於いては既に開始されつつある。実際には拒絶反応の非侵襲的モニタリング及び抗免疫療法のモニタリングへの応用であり、我々も2016年より腎移植症例においてddcfDNAのbiomarkerとしての可能性について検討してきた。対象・方法;生体腎移植39症例を対象にドナー・レシピエントの識別可能なSNPsを選定、次いでレシピエント血液中のcfDNAに対しSNPsに対するプローブでキャプチャーを行い次世代シーケンシングを用いddcfDNAを定量しその測定値変化の拒絶反応など移植臓器モニタリングの指標としての可能性について検討した。結果・まとめ;識別のため1000SNPを選定し総ての症例でinformative SNP100以上が確保できた。確立したシステムは、レシピエント血中よりddcfDNAの検出が可能で術直後をピークに術後2週目で定常値となる。病理学的に拒絶と診断された際にddcfDNAは増加し治療により定常状態へ回復し、また血液検査データの悪化前にddcfDNAの増加を認め免疫抑制剤調節により検査データとddcfDNAの改善した症例もあり、拒絶反応のみならず抗免疫療法の非侵襲的モニタリングとしても有用な検査法と考えられた。

  • 原田 浩, 辻 隆裕
    2021 年 56 巻 Supplement 号 p. s215
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    【目的】移植腎障害(KGI)を非侵襲的に診断しうるバイオマーカーの探索を尿中のエクソソーム・微小嚢胞(EV)中のmRNA解析により行った。【方法】全国11施設にて計127症例の腎移植後の尿検体からEV RNAを抽出し定量RT-PCR測定を行い、腎生検を含む病理診断結果と比較しマーカー候補遺伝子並びに複数候補による診断式の診断性能を検証した。【結果】拒絶反応の鑑別では以前に報告したANXA1の上昇は確認できなかったものの、CXCL9、CXCL10、UMODがT細胞性拒絶反応(TCMR)で上昇し、慢性抗体関連拒絶反応(cABMR)ではSPNS2の上昇が確認された。Sparse Logistic Regression(SLR)解析による複数マーカー候補からなる診断式にてcABMRと他のKGI群とAUC 0.875で鑑別できることを確認した。また、臨床上判定が困難な慢性カルシニューリン毒性に比しても、SLR解析でAUC 0.886でcABMRの鑑別が可能であった。加えて、間質線維化・尿細管萎縮や慢性腎障害重症度と相関がみられるマーカー候補POTEMを確認し、SLR解析による診断式で各々AUC 0.830、0.850で鑑別できた。【結論】尿中EV RNA解析によりKGIを非侵襲的に診断できうる可能性を示した。

  • 蛭川 和也, 嶋田 圭太, 門久 政司, 磯野 香織, 平尾 洸樹, 奥村 祐生, 菅原 寧彦, 日比 泰造
    2021 年 56 巻 Supplement 号 p. s286
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    【背景】

    生体ドナー肝切除の術後胆汁漏の根絶を目指し,当科では2017年よりglissonean approach + liver hanging maneuver法(GA+LHM法)を導入した.

    【方法】

    GA+LHM法:1)右葉グラフトは右一次グリソン+G1r,左葉系グラフトは左一次グリソン+G1lを一括確保.2)胆管造影により切離予定位置をマーキング.3)右葉,左葉+尾状葉グラフトは尾状葉峡部背側~IVC前面~右,中肝静脈間をテーピング,左葉,外側区域グラフトは門脈臍部のArantius管起始部末梢側(*)で左一次グリソンを一括確保し,右,中肝静脈間から*へテープを誘導.4)テープをガイドとして肝実質を離断.5)左葉,外側区域グラフトでは左一次グリソン+G1lのテープから左一次グリソンを引き算し,残ったG1lを処理.6)肝離断終了後にグラフト肝側の肝動脈,門脈,胆管を含む肝門板を個別に確保,胆管造影後に肝門部脈管を切離,続いて肝静脈を切離しグラフト肝摘出.

    当科の生体ドナー肝切除におけるGA+LHM法の有用性を評価すべくClavien–Dindo分類に従い術後短期成績を解析した.胆汁漏の診断はISGLSの定義に従った.

    【結果】

    GA+LHM法は41名すべて(右肝25例,左肝15例,左肝3区域+尾状葉1例)で安全に施行可能で初回退院までIIIa以上の合併症なく,胆汁漏の発生を認めず.1例(2%)で胆管狭窄を来し,再入院後に内視鏡下ステント留置を要した.

    【考察】

    GA+LHM法は肝門板周囲の剥離を必要最小限に留めることで,残肝胆管の熱損傷・機械的損傷を回避し胆汁漏を根絶し得る.

  • 大野 康成, 三田 篤義, 増田 雄一, 野竹 剛, 窪田 晃治, 清水 明, 副島 雄二
    2021 年 56 巻 Supplement 号 p. s287
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    【背景】わが国は、いまだ生体肝移植が主流であり、生体肝移植ではドナーの安全性確保が最優先事項である。【対象と方法】生体肝移植ドナー321人のうち、ドミノ肝移植第一レシピエント9例を除く312例を対象とし、後方視的に術後合併症について検討した。【結果】グラフトは外側区域113例、左葉188例、右葉10例、後区域1例。術後早期合併症は、Clavien-Dindo(CD)分類IIIA(n=37: 11.8)%、IIIB(n=1: 0.3%)、IV(n=1: 0.3%)。胆汁漏はn=18(5.7%)、胆管狭窄はなかった。CD IV(n=1)はドレーン感染による敗血症性ショックでICU入室となったが、循環管理、抗生剤投与により改善し、保存的治療により完治した。CD IIIB(n=1)は術中大量出血に対し開胸、体外循環を要したが、術後25日で軽快退院した。本症例のみ術中に日赤血による輸血を要した。CD IIIA症例の約9割(n=33)は胃軸捻転症で内視鏡的整復術により軽快し、その他、胸水等4例に胸腔穿刺を行った。胃軸捻転予防に胃十二指腸に癒着防止剤を貼付し、最近8年間CD IIIA以上の合併症は認めていない。術後1年以内の再手術症例はなく、それ以降に腹壁瘢痕ヘルニア、イレウスに再手術を行った。【結語】CD IIIB以上の重篤な合併症を認めたが、死亡や重篤な後遺症を認めず、安全に手術を行い得た。

  • 藤尾 淳, 宮城 重人, 戸子台 和哲, 柏舘 俊明, 宮澤 恒持, 佐々木 健吾, 松村 宗幸, 斎藤 純健, 金井 哲史, 海野 倫明, ...
    2021 年 56 巻 Supplement 号 p. s288
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    【背景】当科における生体肝移植ドナーの適応基準を紹介し、安全性、適応、グラフトの選択の妥当性を明らかにする。【ドナー適応】年齢は20-65歳、グラフト容量はレシピエント標準肝容積比40%以上あれば拡大左葉切除を選択し、そうでない場合はドナー残肝が40歳以下で全肝の30%以上、40歳以上で全肝の35%以上を満たすことを条件としている。また2018年よりドナーへの負担軽減のために右葉グラフトの際に腹腔鏡を用いたHybrid手術を導入した。【方法】1991年7月より2021年5月まで当院で行われた205例の生体肝移植ドナー手術を対象とした。【結果】右葉100例、左葉51例、外側区域53例、後区域1例であった。手術時間、出血量、術後在院日数の中央値はそれぞれ461分、597ml、14日であった。Clavien-Dindo IIIaが14例 (6.8%)、IIIbが2例 (1.0%)、IV以上の合併症は認めなかった。グラフト種類による在院日数の違いは認めなかったが、外側区域グラフトの出血量が有意に少なかった。術後ビリルビンの最高値とPTの最低値は右葉グラフトが有意に悪かった。右葉のHybrid手術は28例認めた。Hybrid手術は従来型の右葉グラフト採取術と比較して、出血量が少なく、手術時間と在院日数の有意な軽減を認めていた。【結語】当施設では、現行のドナー選択基準で安全に生体肝移植が施行できていると考える。今後もチーム全体でドナーの安全性を確保するべきと思われた。

  • 大西 康晴, 佐久間 康成, 眞田 幸弘, 岡田 憲樹, 平田 雄大, 堀内 俊男, 大豆生田 尚彦, 清水 敦, 水田 耕一, 大柿 景子 ...
    2021 年 56 巻 Supplement 号 p. s289
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    【はじめに】生体肝移植においてはドナーの安全性が最優先されるべきである。今回、当院で経験した生体肝移植ドナーについて報告する。【対象と方法】当院で施行した生体肝移植ドナー339例を対象とし、術後合併症に関する検討を行なった。【結果】男性165例 、女性174例 、年齢中央値34歳。身長、体重、BMIの中央値は各々165cm、59.7kg、21.8kg/m2。レシピエントは小児313例、成人26例で、レシピエントとの関係は、母161例、父147例、その他31例であった。グラフトタイプは外側区域206例、減量外側区域15例、左葉70例、尾状葉付き左葉15例、単区域15例、右葉16例、後区域2例であった。手術時間5時間21分、出血量600ml、術後在院日数11日であった。ドナー術後合併症は95例 (28%) に発症した。胆汁漏46例で、グラフト別では外側区域30例、左葉8例、尾状葉付き左葉2例、単区域6例であった。創感染26例。消化管通過障害は31例で、4例が退院後再入院を要した。輸血を要する術後出血、深部静脈血栓、房室ブロック、右内頸静脈血栓、ロクロニウムアナフィラキシーが各々1例、ドレナージを要する腹腔内膿瘍2例、肝膿瘍疑い2例を認めたが、治療介入により全て改善した。【結語】丁寧な手術手技と適切な周術期管理により術後合併症を最小限にとどめれば、生体肝移植ドナーの安全性向上につながる。

  • 日高 匡章, 曽山 明彦, 原 貴信, 松島 肇, 今村 一歩, 松隈 国仁, 田中 貴之, 足立 智彦, 金高 賢悟, 江口 晋
    2021 年 56 巻 Supplement 号 p. s290
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    【背景と目的】これまで当科では2010年より生体ドナーの負担軽減を目的に上腹部正中切開アプローチによるハイブリッド肝採取術を導入してきた。これまでの通常開腹と比較し、安全性を含めた短期成績を報告する。

    【対象と方法】2021年までに施行した生体肝移植306例中、半年以上経過した301例を対象に開腹群(O,n=141)とハイブリッド群(H,n=160)で周術期成績を比較検討した。

    【結果】手術時間(O 420分, H 403分), 出血量(O,670g, H 450g), 術後在院日数 (O 15日,H12日)は、有意にH群で良好であった。術後合併症(Clavien III以上)の発生は、O群 14.1%, H群8.1%であり、H群でやや良好であったが有意差は認めなかった。合併症の症例率を時期で比較すると、1-100例 17%と比較して、101-200例 8.0%, 201-301例 8.9%と有意に低くなっていた。

    【結語】生体肝移植ドナーにおけるハイブリッド肝採取術は通常開腹と比較して短期成績良好であり、安全に施行できると思われた。

  • 高原 武志, 新田 浩幸, 片桐 弘勝, 梅邑 晃, 菅野 将史, 武田 大樹, 真壁 健二, 小島 正之, 佐々木 章, 須田 康一
    2021 年 56 巻 Supplement 号 p. s291
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    (背景)

    2002年に小児生体肝移植において完全腹腔鏡下外側区域グラフト採取が施行されて以来、海外を中心に成人生体肝移植において、完全腹腔鏡下左葉グラフト、右葉グラフト採取術が施行されている。

    (対象・方法)

    今回、完全腹腔鏡下ドナー肝切除のラーニングカーブを検討するうえで、悪性腫瘍に対する腹腔鏡下肝葉切除の症例を比較対象とした。岩手医科大学で2010年から2019年に施行した悪性腫瘍に対する腹腔鏡下肝葉切除症例61例(Group M)と2012年から2020年に施行した完全腹腔鏡下ドナー肝切除48例(Group D)を対象とした。Group MとDをそれぞれ、右葉切除・左葉切除にわけてその短期成績を検討した。

    (結果)

    左葉切除において、この2群間で合併症の頻度において有意な差はなかった。右葉切除において、悪性腫瘍に対する腹腔鏡下肝右葉切除の導入時期に、いくつかの合併症を経験した。Group Dの平均在院日数は、Group Mと比較して有意に短かった。完全腹腔鏡下左葉グラフト採取術の手術時間は、右葉グラフト採取術と比較して、導入時期と比較して、悪性腫瘍に対する腹腔鏡下肝葉切除の手術時間に近づく傾向にあった。

    (考察)

    悪性腫瘍に対する腹腔鏡下肝葉切除の充分な経験数をもって、安全に完全腹腔鏡下ドナー肝切除の導入が可能である。完全腹腔鏡下左葉グラフト採取術は、悪性腫瘍に対する腹腔鏡下左葉切除の手術時間に近づく傾向にあり、標準術式として確立される可能性がある。

  • 丸橋 繁
    2021 年 56 巻 Supplement 号 p. s292
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    生体からの臓器移植は、「健常な提供者に侵襲を及ぼすことから、やむを得ない場合に例外として実施されるもの」(厚労省指針)と規定されている。生体ドナー保護の観点から、ドナーとしての適格性の判断が最も重要であり「ドナーは健常人である」ことを含めた生体ドナー要件をすべて満たすことが必要である。その上で、生体移植では、ドナーの健康と安全が最優先される。

    生体肝ドナー手術では、できるだけ創部痛やその他の後遺症のない満足のいく術後状態が理想であり、世界的には体壁破壊の少ない腹腔鏡を用いたドナー肝切除が広まってきている。一方で、我が国では、生体肝移植の比率が約95%と極めて高いが、腹腔鏡下ドナー手術は依然保険適用外である。仮に今後保険適用となっても新規高難度手技を実施する際には一般にラーニングカーブが存在するため、結果的にドナーの不利益にならないよう、慎重に行う必要がある。近年はロボット支援下ドナー手術も施行されているが、まだごく限られた施設で行われているのみであり、その安全性や意義に関しては今後慎重に判断する必要がある。

    腹腔鏡を用いたドナー肝切除は、ドナーの術後回復速度が早く満足度が高いことが予想され、リスクを従来の開腹術と同等まで下げることができれば、安全かつ満足度の高い理想とすべきドナー手術となるであろう。実際の評価には、短期成績だけでなく長期フォローアップを含めた全成績の検討が必要である。

  • 吉川 美喜子
    2021 年 56 巻 Supplement 号 p. s293
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    【背景】現在日本国内で実施されている移植前後の評価や管理を主に外科医が行っている。しかし腎移植長期予後や腎不全患者のQOL、また腎移植以外の臓器移植後の腎障害に対し、腎臓内科医の参画は、移植患者の予後改善につながることが期待されるだけでなく、臓器不全患者の移植医療への道のりをサポートできる可能性がある。

    【腎臓内科医の移植医療参画と、移植腎臓内科医の育成】令和2年度に腎移植施設を対象に実施した意識調査では、腎臓内科医が腎移植医療に参画することによって①腎代替療法の情報提供の質の向上②移植後の合併症に対する治療③移植腎廃絶時④生体腎移植ドナーの評価に関して改善が予想されるという回答が多かった。また腎臓内科医の参画、さらに移植腎臓内科医の育成には教育システムが必要という回答が多かったことから、移植の適応や経過などの基礎的知識の提供やon the job trainingなど、教育プログラム構築の必要がある。この場を借りて、今後の移植医療の腎臓内科医教育の在り方について検討する。

  • 佐藤 琢真, 服部 英敏, 布田 伸一
    2021 年 56 巻 Supplement 号 p. s294
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    治療抵抗性難治性の65歳未満の重症心不全患者は、心臓移植の適応となりうる。ドナーの数が限定的である我が国においては、ほとんどの移植待機患者は植込型補助人工心臓を装着した上で、5年以上の待機を余儀なくされる。重症心不全患者において常に最大限の内科的治療を継続することのみならず、移植申請および補助人工心臓装着の至適時期を見極めることも循環器内科医の重要な責務である。また、補助人工心臓装着中は様々な合併症発症のリスクがあるため、待機中の繊細な循環動態の管理や継続的な全身状態の評価は必要不可欠である。人工心臓装着術や合併症に伴う輸血、繰り返す感染症により移植前に高度に感作される可能性が高く、個々の患者における腎機能、感染症、感作の程度を正確に評価した上で、移植周術期における免疫抑制療法および感染制御の戦略を練ることが重要である。移植後急性期は血行動態の評価、心筋生検による拒絶反応の評価、感染症対策、免疫抑制療法の管理を行っていく。移植後慢性期には患者の予後に大きく関与する腎機能障害や悪性腫瘍、移植心冠動脈病変などに対する早期介入と継続した管理が生涯を通じて必要となる。心臓移植を見据えた重症心不全患者の長期にわたる一連の治療・管理をシームレスに行っていく上では、循環器内科医(心臓移植内科医:Transplant Cardiologist)の関りは必須である。心臓移植における移植内科医育成の問題点と対策について報告する。

  • 春藤 裕樹, 平間 崇, 渡邉 龍秋, 渡辺 有為, 大石 久, 新井川 弘道, 岡田 克典
    2021 年 56 巻 Supplement 号 p. s295
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    慢性進行性の肺疾患は、薬物療法を含む治療法が十分に確立していないものが多く、呼吸器内科医に無力感を感じさせることがしばしばある。日本呼吸器学会において非がん性呼吸器疾患に対する終末期ケアは一つのトピックとなっているほどである。一方60歳未満の患者においては、肺移植は唯一状況を一変させる可能性のある治療法であると言える。2010年に臓器移植法が改正され肺移植実施件数は大幅に増加してきているとはいえ、肺移植は呼吸器内科医にとってまだ身近な治療法ではなく、広く浸透しているとは言えない。昨年の本学会で肺移植内科医の役割について東北大学より呼吸器外科・呼吸器内科双方へのアンケートをまとめた発表が行われた。その結果から呼吸器内科医は移植前、移植後への介入に関心があるが参加する機会や教育の場が少ないことがわかった。本年度より東北大学では新たに肺移植内科医育成プログラムが始まった。これまで慢性進行性肺疾患の診療は行なっていたものの移植実施施設での勤務経験がない呼吸器内科医が、肺移植内科医育成プログラムに参加して肺移植医療をどう感じたのか、率直な意見を述べたい。そして肺移植内科医育成に何が障壁となっているのか、肺移植内科医を増やすために何が必要なのかを検討したい。加えて、肺移植医療を呼吸器内科医に浸透させるための取り組みについても検討したい。

  • 蔵満 薫, 小木曽 智美, 服部 英敏, 佐藤 琢真, 平間 崇, 吉川 美喜子, 海上 耕平, 高原 史郎, 酒井 謙, 布田 伸一
    2021 年 56 巻 Supplement 号 p. s296
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    背景;日本国内の多くの移植施設では外科医が移植患者をフォローしているが、移植後長期経過した患者では高血圧や脂質異常症、耐糖能や腎機能障害等の管理が必須となる。国内における移植医療に携わる内科医の現状と課題を抽出すべく、日本移植学会内に2020年transplant physician委員会が設置された。

    方法;2020年6月、委員会から移植実施施設に所属する全臓器の内科医と外科医を対象にアンケート調査が実施された。

    結果;内科医の移植医療への参画は臓器によって大きく異なり、心臓>腎臓>肝臓>肺の順であったが、全臓器で共通した課題は自施設内での人材育成・他診療科や他職種との連携体制・他施設との情報共有であった。肝臓移植において、移植患者は全施設の63%で外科に紹介されており、移植前面談/評価・ドナー術前評価・移植後病棟/外来管理/肝生検は主に外科で実施されていたが、外科医が認識している以上に内科医も移植前後の管理に関与していることが明らかとなった

    考察;今回のアンケートの結果移植施設に所属する内科医は少なからず移植医療に興味を持っていることが明らかとなった。今後内科医との連携をさらに進めるためには、肝臓学会や内科学会のような内科系学会経由での広報活動と教育システム構築による継続的な人材育成、レシピエント移植コーディネーターを含めた他職種との連携体制の強化、OJTも含めた移植施設によるネットワークシステムの構築が必須である。

  • 海上 耕平, 大木 里花子, 石渡 亜由美, 小木曽 智美, 平間 崇
    2021 年 56 巻 Supplement 号 p. s297
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    本邦において、移植症例が増え、成績が向上し、長期生存者が増える中で、術前評価、適応決定、周術期管理、慢性期管理ができる移植内科医を育成することを目的として2020年に日本移植学会・Transplant physician委員会が設立された。今後、移植医療に関して内科医の更なる参画が期待されているが、内科医による介入は生体レシピエントに対してだけでなく、生体ドナーに対しても同様に必要と考えられる。特に献体移植が依然少ない日本において、生体ドナーの管理は、移植医療を安全に行っていくうえで重要である。今回、日本における生体移植として腎移植、肝移植、肺移植ドナーに対して、腎臓内科医、消化器内科医、呼吸器内科医、あるいは内科専門医としての観点から、その管理に関して述べる。

  • 星川 康, 芦刈 淳太郎, 松田 安史
    2021 年 56 巻 Supplement 号 p. s299
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    2020年末現在、本邦の肺移植実施数は計838件となり、2020年1年間の脳死肺移植は58件であった。一方、新規待機登録者数は肺移植実施数を遥かに上回り、2020年は173名であった。2021年5月末現在の累積登録者1,856名のうち35%が肺移植を受けたが、38%が待機中死亡している。ドナー肺不足は依然として深刻である。本邦では、マージナルドナー臓器を適切に評価・管理して積極的に移植に供することを目的に、2002年から心臓移植医をメディカルコンサルタント (MC) として1回目脳死判定後に提供病院に派遣する制度が運用され始めた。2006年からはMCが主治医に依頼し積極的な気管支鏡治療を開始し肺提供率、グラフト生着率が向上した。2011年2月からは肺移植医が肺MCとしてドナー肺評価・管理に従事している。この制度の効果を、前述の気管支鏡治療開始前のI期44例、開始後のII期64例、肺MC参入後2年間のIII期79例に群分けして解析した結果、肺提供率は61、72、75% (per donor)、51、65、68% (per lung, p=0.03)、移植肺機能不全によるグラフト機能廃絶は13.3、3.6、3.7% (per lung, p=0.04)であった。今回2020年6月から1年間に肺提供の承諾があった脳死ドナー63例を解析した結果、肺提供率はper donor 83%と極めて良好であった。最近はMC介入前から主治医による気管支鏡治療・腹臥位療法などのドナー肺管理がしばしばなされている。肺MC制度導入から約10年を経過した現状と課題について考察したい。

  • 此枝 千尋, 佐藤 雅昭, 川島 峻, 柳谷 昌弘, 長野 匡晃, 北野 健太郎, 中島 淳
    2021 年 56 巻 Supplement 号 p. s300
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    日本臓器移植ネットワークによる本邦の脳死肺移植までの平均待機期間は900.7日と長期に及ぶ。脳死臓器提供者から可能な限りの肺を受諾するためには移植に適する肺か否かの的確な判断や、マージナルドナーである場合はそのリスクに見合ったレシピエントの決定が重要と考える。再びチャンスがあると予想される待機順位上位の患者にはハイリスクすぎるマージナルドナーであっても、病状進行した下位の患者では、利益がリスクを上回ると考えられる場合がある。当院で肺移植を受けた患者の臓器斡旋時の順位と、登録から移植までの期間を調べた。

    対象は2019年4月から2021年3月までに当院で脳死肺移植を受けた患者40名。肺受諾時の斡旋順位は2位から79位までと幅広く(平均15位)、21位より下位での受諾は6名あったが、6名とも周術期経過良好であった。一方、肺移植までの平均待機期間は25-2083日(平均677日)であった。

    当院では待機患者の状態を適時把握しマージナルドナーというリスクを許容すべき状態かどうかを常に検討している。待機期間が長くとも病状が安定している患者では、肺移植後の長期予後が決して良好と言えない現状では、マージナルドナーを移植することはリスクが利益を上回る可能性があると考える。長期予後に関しては今後更なる検討が必要であるが、待機中死亡を減らすためにマージナルドナーの可能な限りの受諾とリスクに見合うレシピエント選択が重要と考える。

  • 中島 大輔, 栢分 秀直, 田中 里奈, 山田 義人, 大角 明宏, 伊達 洋至
    2021 年 56 巻 Supplement 号 p. s301
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    当院でのドナー不足に対する取り組みを紹介する。①生体肺移植における術式の工夫:生体肺移植では、最適なサイズマッチングを満たす2人のドナーを見つけるのが、しばし困難である。当院ではアンダーサイズグラフトに対し、自己肺温存移植や反転移植を行い、オーバーサイズグラフトに対し、主に片肺葉移植を行っている。生体肺移植の新しい術式は、サイズミスマッチングを克服することにより、これまで移植の適応外と判断された症例に対し、肺移植を可能にするだけでなく、通常の生体肺移植と良好な移植後成績を示している。②脳死肺移植におけるマージナルドナー肺の使用拡大:摘出前に傷害を受けているマージナル肺は、早期移植片機能不全のリスクを高めるため、その使用には慎重となる。当院ではマージナル肺を摘出後、ex vivo lung perfusion (EVLP)を用い、移植前に的確に機能評価することにより、その移植適応を判断している。昨年、当院に斡旋された脳死ドナー肺42例中、脳死肺移植を行ったのは19例で、EVLPによる肺機能評価を必要としたのは2例であった。他施設にて移植が断念されたマージナル肺を、EVLPにより的確に評価することで救い上げ、移植に成功することができた。③重症待機患者に対し、脳死マージナルドナー肺を用いた脳死片肺移植と、生体片肺葉移植を組み合わせたハイブリッド肺移植を施行することにより救命しえた。

  • 田中 真, 石上 恵美, 石原 恵, 富岡 泰章, 枝園 和彦, 諏澤 憲, 三好 健太郎, 山本 寬斉, 岡崎 幹生, 杉本 誠一郎, 山 ...
    2021 年 56 巻 Supplement 号 p. s302
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    日本では2010年に臓器移植法が改正され脳死ドナー数は増加傾向にあるがドナー不足は未だに深刻な問題である。諸外国においてもドナー不足は問題とされており、その解決策として近年、心停止ドナー(Donation after Cardiocirculatory Death, DCD)からの肺移植が普及してきておりドナー不足の改善に寄与している。DCDには大きく分けて二つのタイプがある。一つはcontrolled DCD (cDCD)で、病院内で人工呼吸器を停止させ心停止後に臓器を摘出する方法で、DCD肺移植全体の94%と世界的に普及している。スペインを含むヨーロッパ諸国ではnormothermic regional perfusion(NRP)と言って心停止後にECMOを使用し腹部に局所的に潅流を行うことで腹部ドナー臓器使用率を向上させている。もう一つはuncontrolled DCD (uDCD)で、病院外で心停止になり心肺蘇生にもかかわらず死亡が確認された患者をドナーとする方法であるが、このuDCD肺移植は世界的に最も多く報告されているスペイン以外は報告が少ないのが現状である。今回、上記二つのタイプのDCDを積極的に施行しているスペインの肺移植施設に2年半、臨床留学しDCD肺移植の実際を経験してきたのでその経験について述べ、日本での導入に関して考察する。日本の肺ドナー不足解決の一助になり得ると考えている。

  • 佐原 寿史, 関島 光裕, 岩永 健裕, 市成 ゆりか, 渡邉 洋之助, 清水 章
    2021 年 56 巻 Supplement 号 p. s303
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    ヒト以外の動物をドナーとする異種移植は、ドナー臓器不足に対する実践的な解決策と考えられる。解剖・生理学的類似性、動物数の確保、微生物管理法の確立などの点からブタがドナーとして最適とされるが、ゲノム編集技術の進歩による遺伝子改変が飛躍的に進んだ結果、異種移植の直近5年間の成績向上は目覚ましく、ヒヒへの移植により腎臓では6-8ヶ月、同所性心臓移植でも6ヶ月以上にわたる生命維持が可能であるという結果が複数施設から報告されており、また米国では医療用途の遺伝子改変ブタがFDAに認可されるなど、臨床試験開始の機運が高まる。一方、外界と直面し、自然免疫系や獲得免疫系相互の働きにより強い拒絶反応を惹起しうる異種肺移植の最長生存は、我々の既報の14日と大きく劣る。臓器による解剖・生理学的な特殊性や免疫学的特異性に基づき、どのようにして異種肺移植の成績を向上させるべきか?という点は、肺移植領域だけでなく、全ての臓器移植にとって、異種移植の特徴を明確にし、安心・安全な医療として認知されることに直結する。異種肺移植の成績をはかるための標的因子の解明やその対策とともに、日本で異種移植研究と実用化を進めるための国内における遺伝子改変ドナーブタ供給システムの整備などについて、これまでの成果、および今後の展望について報告する。

  • 大岡 智学, 櫛引 勝年, 加藤 美香, 加藤 伸康, 加藤 裕貴, 新宮 康栄, 若狭 哲
    2021 年 56 巻 Supplement 号 p. s304
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

     2018年10月18日、UNOS(全米臓器分配ネットワーク)の臓器分配ルールが改変された。約3年が経過し、単施設のレジストリもしくはUNOSレジストリデータに基づく、改変前後の心移植の状況を比較した報告が散見されるようになった。Patelらは、UNOSレジストリデータから最多の症例を対象とした解析を行い、新ルールの下では、IABP症例増加、植込型LVAD症例減少、すべてのカテゴリーでの移植待機期間の減少、temporary MCSを除く全てのカテゴリーで移植待機中の死亡率減少、植込型LVADを除く全てのカテゴリーでの移植到達率改善を報告した。また、新旧ルールにおける移植後の短期成績の比較では、心虚血時間は延長したものの、移植後生存率は同等か改善したとする報告が多い。これらの報告から、米国では重症心不全に対するMCS戦略が変わりつつあると解釈できる。

     本邦の植込型VADの成績、言い換えると移植待機中死亡率は、欧米に比して良好である一方、移植待機期間は長期化の一途をたどっている。待機日数に基づく本邦の臓器分配ルールを再考する際には、移植待機及び移植後成績を統合したビッグデータの作成と解析から導かれたリスク因子を反映したIncentivesを盛り込むことで、待機中死亡率改善及び移植後成績改善が得られると期待される。一方、IABPもしくはECMO装着例の優先度を高めた場合、本来であれば移植非適応症例に移植が実施されるリスクが生じることを配慮すべきと思われる。

  • 波多野 将
    2021 年 56 巻 Supplement 号 p. s305
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    我が国における心臓移植は移植後10年生存率が約90%と極めて優れている一方で、1年間当たりの新規待機登録患者数約200人に対して移植実施件数は50~60人と、ドナー不足はますます深刻になっている。この間ほとんどの患者は植込型左室補助人工心臓(LVAD)を装着して待機しているが、今後植込型LVAD装着下での待機期間は6年にも7年にも及ぶことが想定されている。我が国における植込型LVADの治療成績も極めて優れているが、一方で植込型VAD装着後の生存率が劣る基礎疾患もあるし、そもそも植込型LVAD装着に適さない基礎疾患もある。拘束型心筋症や先天性心疾患は植込型LVAD装着後の生存率が拡張型心筋症と比較して劣るとの報告もあるし、不整脈原性右室心筋症などは基本的にはLVAD装着には適さないと考えられる。植込型LVADによるDestination Therapyも始まり、従来のBridge to Transplantationとしての使用以外にも植込型LVAD治療の恩恵に与れる患者が今後ますます増えていくと考えられるが、一方で植込型LVADによる予後の改善を見込むことが難しい患者に対して、いかに適切に心臓移植を受ける機会を提供できるかが大きな問題と思われる。そこで本シンポジウムでは、我が国における心臓移植待機患者の現状をふまえ、日本版の心臓移植におけるallocation systemがどうあるべきかについて議論したい。

  • 戸田 宏一, 吉岡 大輔, 中本 敬, 斎藤 哲也, 河村 拓史, 樫山 紀之, 河村 愛, 松浦 良平, 久保田 香, 世良 英子, 坂田 ...
    2021 年 56 巻 Supplement 号 p. s306
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    本邦の心移植は2020年末で566例に達し、移植後10年生存率は90%と良好であるが、ドナー不足のため心移植に至った症例の内3年以上の植込型LVAD補助を要した症例は2018年以降毎年70%を超えている。一方で心移植前提のLVAD-BTT症例数は1100例を超え、primary LVADの2年生存率は91%と海外のどの成績より優れており、移植を前提としない重症心不全治療:LVAD-Destination Therapy (DT)も2021年より保険適応となった。心移植と植込型LVAD治療は末期重症心不全治療の両輪を成すと考えられるが、植込型LVADでは十分治療できないLVAD術後慢性右心不全も少なからず経験される。当院のデータでもかかる症例の植込型LVAD治療成績は不良だが、心移植に到達すれば心移植後の成績は右心不全のない症例同等に良好であった。長期に強心剤や機械的右心補助を要するLVAD症例がLVAD植込み後1年で心移植に到達できると想定すると植込型LVAD単独でサポートできる症例と同等の予後が期待された。一方臨床研究において2つの植込型VADを用いた植込み両心補助を6例経験したが、4例は平均824日(1245 - 553日)で心移植に到達したが、2例は284日、511日で失った。以上より、機械的補助を要するLVAD植込み後慢性右心不全であってもLVAD植込み後1年で心移植が斡旋されるallocation systemが構築されれば、長期機械的右心補助を要するLVAD-BTT症例にも希望の光が差すのではないかと思われる。

  • 齋木 佳克
    2021 年 56 巻 Supplement 号 p. s307
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    心臓移植実施数が世界で最も多い北米のUnited Network for Organ Sharing (UNOS) は、2018年10月にドナー心のallocation systemを更新した。その概略としては、より差し迫ったリスクに曝されているレシピエント候補に対して、より広いエリアからドナー心を融通する方向性ととらえられる。日本の心臓移植レシピエント選択基準は、1997年に制定され、医学的適応の見地から移植の実効性を担保し、移植機会の公平性を確保するための基準として運用されている。その後、臓器移植法の改正や、心臓移植医療の進歩と実績の積み重ねにより、心臓移植の基準等に係る作業班と臓器移植委員会での議論を経て、過去6回の改定が行われている。具体的には、虚血許容時間、親族、ブロックの取り扱い、医学的緊急度の定義における強心薬の規定、親族優先提供、18 歳未満ドナーの場合の18 歳未満のレシピエントへの優先提供、年齢、血液型、待機期間の取り扱い、レシピエントの年齢上限の拡大に伴う具体的選択方法等についての改定が行われてきた。我が国の心臓移植事情としては、心臓移植希望者数は北米に比較し少ないが、心臓提供者数がさらに少ない現状があり、また、国土としてエリア全体が狭いという特徴があるため、それらを勘案し現状に沿った我が国独自のallocation systemが今後も必要である。

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