移植
Online ISSN : 2188-0034
Print ISSN : 0578-7947
ISSN-L : 0578-7947
56 巻, Supplement 号
選択された号の論文の360件中51~100を表示しています
  • 小原 弘道, 二方 幹弥, 中條 哲也, 暮地本 宙己, 石井 大介, 岩田 浩義, 絵野沢 伸, 李 小康, 松野 直徒
    2021 年 56 巻 Supplement 号 p. s62
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    器機能評価指標は極めて重要である。しかしながら,いまだその指標は確立されておらず、臨床利用の期待が高い恒温灌流保存においても乳酸値や胆汁の液性,臓器内の流動や逸脱酵素量が経験的に提案されているが,議論も多い.流動構造に着目した臓器機能評価指標は十分な検討がされていない。本報告では肝臓機能評価を行うためにICGを用いた時空間的な画像計測をおこない、肝臓内の流動と代謝に着目した評価手法を提案し,議論する.

    【方法】 臓器機械灌流装置に加え、高感度CCDカメラ,レンズ,光学フィルタ・ICG励起用LEDで構成される光学系を用いて実験を行った。WIT(温阻血時間)30分・ 60分のブタ肝臓に対して復温機械灌流を施し、体外血液再灌流時に門脈からICGを注入した.励起用LEを用い, ICGを励起し、灌流開始後1時間における蛍光画像用い,臓器内の流動,代謝を評価した.

    【結果】撮影された蛍光画像から、蛍光の観測される領域の全体に占める面積や蛍光の動態に差が見られた。また画像の上の蛍光値を用いて算出したICGの拡散係数を用いて肝臓上のICG代謝に対する定量評価を検討した。

    【結語】ICGの蛍光特性を利用し、ICG代謝能を工学の知見から評価した。また機械灌流中の迅速かつ低侵襲な臓器機能評価法提案の可能性を示した。

  • 吉本 周平, 虎井 真司, 笠松 寛央, 石川 潤, 大原 正行, 小林 英司
    2021 年 56 巻 Supplement 号 p. s63-s64
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    世界的なドナー不足の解消に向け、常温灌流器を用いた心停止後ドナー(DCD)肝臓の蘇生が試みられている。しかし、ポンプ等を用いて送液する場合、局所的に血管内圧が上昇することで組織破壊が生じるリスクを抑制するため、我々は、落差型送液での灌流機器を新たに開発しブタモデルで検証した。

    ブタDCD肝にて、ポンプ送液と落差型送液の門脈圧特性を比較すると、ポンプ送液では流量80ml/minで送液圧が20mmHgを超え、落差型送液では流量が800ml/minでも送液圧は10mmHg以下となり圧変動も1/10に抑えられることがわかった。開発した落差型の常温灌流器(図a, b)を用いてDCD肝に対し24時間の常温灌流を実施したところ、胆汁の継続分泌を誘導し、代謝機能の蘇生に成功した (図c)。

    ポンプレスを落差型送液で可能とし新たに開発した常温灌流装置は、DCD肝の利用拡大に貢献できることを期待する。

  • 寺奥 大貴, 齋藤 裕, 池本 哲也, 宮崎 克己, 山田 眞一郎, 森根 裕二, 三宅 雅人, 親泊 政一, 島田 光生
    2021 年 56 巻 Supplement 号 p. s65
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    【目的】我々はこれまでにヒト脂肪由来間葉系幹細胞(ADSC)から機能的細胞を誘導を報告し新たな細胞移植療法の確立を目指している。今回ADSCからの機能的な肝細胞様細胞HLCへの分化誘導について報告する。

    【方法】ヒトADSCから、3Step(GSK-3阻害剤による胚葉転換、FGF4, BMP2による肝芽細胞誘導、HGF, OSM, DexによるHLCへの誘導)でHLCを分化誘導した。

    検討1; HLC分化プロトコルの検討

    検討2; ADSC / 2D HLC / 3D HLC / 肝細胞の4群間での遺伝子発現比較

    検討3; 肝障害モデルマウスへのHLC移植

    【結果】検討1; 3D HLCは2Dと比し、各Stepでの特異的遺伝子発現が上昇し、Cytochrome P450活性、NH3代謝能が上昇した。OCA(FXR アゴニスト)追加で、肝細胞成熟遺伝子AAT、尿素サイクル遺伝子SLC25A1/OTC、尿素産生が上昇し、NH3代謝能がさらに上昇した。検討2; PCA解析で3D HLCはより肝細胞に近い分布を示し、2764 geneを肝細胞特異遺伝子として抽出し、ALB、HNF1a、FOXA2等を同定した。肝細胞と比しHLCに発現低下を認めるClusterのGO Top3はCell cycle、Mitotic cell cycle、Mitotic nuclear divisionであった。検討3; 2D HLC(n=5)、3D HLC(n=5)移植群ともに全例生存を認め、移植後2週間後のHE染色で移植細胞塊を認め、HLA染色で生着を確認できた。

    【結語】我々の分化誘導した3D HLCは、肝不全あるいは尿素サイクル異常症患者に対する新たな細胞治療源になり得る。

  • 山室 理, 茶谷 順也, 服部 渉, 白石 佳孝, 加藤 紀子, 友杉 俊英, 岡田 学, 平光 高久, 鳴海 俊治, 渡井 至彦, 三原 ...
    2021 年 56 巻 Supplement 号 p. s66
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    【目的】2014年にスウェーデンで世界初の子宮移植後の妊娠出産が報告され、その後各国で子宮移植による出産の臨床報告が相次いでいるが、日本では動物実験報告にとどまるのが現状である。今回手術の安全性と低侵襲性の向上を目指し、カニクイザルを用いて自家子宮移植手術研究を実施したので報告する。

    【方法】年齢9歳6か月、体重5.0kgのカニクイザル1頭を用い、全身麻酔下に開腹し子宮を摘出し、再び同一個体へ子宮を移植し、血流の再開を確認した。本研究は研究施設より動物実験計画の承認を得て、所定の動物実験の適正実施講習を受講し、動物実験の倫理規定を順守して行われた。

    【成績】カニクイザルの内腸骨動脈(両側内径2.0㎜)と卵巣静脈(内径右2.5㎜、左2mm)を吻合血管として選択した。血管走行を確認できるまで婦人科医が露出操作を行い、腟管切除後に移植外科医が血管を剥離切断し子宮摘出した。臓器灌流後、形成外科医が右内腸骨動脈を右外腸骨動脈へ、右卵巣静脈を右外腸骨静脈へと吻合を行い、右側からの血流の再開を血管拍動と色調にて確認した。総阻血時間1時間47分であった。

    【結論】サルをモデルとした子宮移植研究においては血管縫合にヒトにおいて要求される以上の細密な手術手技が必要であり、ヒトにおける臨床手技との乖離があることに研究の限界がある。適切な執刀医交代時期を含めたチーム医療の習熟が子宮移植成功の鍵と思われた。

  • 佐々木 健吾, 金井 哲史, 齋藤 純健, 松村 宗幸, 宮澤 恒持, 柏舘 俊明, 藤尾 淳, 戸子台 和哲, 宮城 重人, 亀井 尚, ...
    2021 年 56 巻 Supplement 号 p. s67
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    背景: 肝移植が救命に必要な状況において、生体ドナーが不在、あるいは脳死下臓器提供の機会がなく、肝移植の治療を受けることができず死亡する症例に遭遇することは少なくない。

    方法: 肝移植の機会が得られないことによる死亡を回避するため、2014年から2020年までに当院へ肝移植目的で紹介された患者、および生体肝移植ドナー評価を受けた親族を検討した。

    結果: 紹介されたレシピエント候補者は137例。平均年齢41.3±19.2歳、脳死肝移植登録例13例、肝移植例46例(生体46例、脳死0例)。最終転機は肝移植後生存42例(30.7%)、肝移植後死亡5例(3.6%)、肝移植未施行生存18例(13.1%)、肝移植未施行死亡34例(24.8%)、転機不詳35例(25.5%)。肝移植未施行死亡34例における未施行の事由は、脳死待機中死亡11例、生体ドナー不在7例、移植準備中状態悪化14例、移植適応無し2例。

    生体ドナー評価を受けた親族は114例。平均年齢40.1±11.9歳。生体ドナー適正例は56例(49.1%)。ドナー不適正の事由は、残肝不足30例(26.3%)、肝機能異常・脂肪肝15例(13.2%)、併存症12例(10.5%)、その他5例(4.3%)。ドナー候補者の年齢が高いほど、ドナー不適正となる率は高く、また、肝機能異常・脂肪肝または併存症を有する率は高い傾向にあった。

    結語: 慢性肝疾患患者(特に小児)では、成長による必要肝容量の変化の把握、親族に対する健康指導の実施などにより、生体肝移植の機会喪失を減らすことができる可能性がある。

  • 千葉 斉一, 落合 成人, 郡司 崇裕, 小林 敏倫, 佐野 達, 富田 晃一, 河地 茂行
    2021 年 56 巻 Supplement 号 p. s68
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    【背景】肝切除後の合併症には肝予備能と切除肝容積の2つの因子が大きく関与している。肝予傭能を正確に把握し許容肝切除量を決定することが安全に肝切除を行う上で重要であり、 特に生体肝移植ドナーにおける残肝予備能評価はDonor Saftyにおいて非常に重要である。

    【対象と方法】肝アシアロシンチにおけるGSA投与後15分での肝集積率LU15に、 SPECT画像から算出した機能的残肝率を乗じた残肝LU15によって残肝機能を評価し、残肝LU15値が13.0以上を残肝予備能良好とした(残肝LU15 Criteria)。 2012年から2019年までに施行した生体肝移植ドナー10例に対しても、 同様のCriteriaを適応して残肝予備能を評価し、

    その術後短期成績を検討した。

    【結果】年齢中央値は39歳、性別の内訳は 男性8例、女性3例であった。右葉切除は7例、 左葉3例であった。10例中9例で残肝LU15 Criteriaの範囲内であったが、1例でCriteria 範囲外の症例を認めた。その1例は術前脂肪肝を高度に認め、栄積状態の改善を待って予定通りの手術を行い術後合併症は認めなかった。全例で術後にClavien Grade IIIA以上の合併症は認めなかった。

    【結語】残肝LU15 Criteriaは生体肝移植ドナーに対しても術後肝不全を予測する因子として有用であるが、 1例でCriteria逸脱症例を認めた。術前の脂肪肝が影響していると思われたが、今後も症知の蓄積が必要と考えられた。

  • 上田 大輔, 伊藤 孝司, 奥村 晋也, 政野 裕紀, 影山 詔一, 小木曽 聡, 穴澤 貴之, 秦 浩一郎, 波多野 悦朗
    2021 年 56 巻 Supplement 号 p. s69
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    【背景】生体移植において、ドナーの健康と安全への最大限の配慮は重要な課題である。今回我々は、当院において生体肝移植ドナーとなった患者における合併症を検討した。

    【方法】対象は2006年4月より2019年3月までに当院にて生体肝移植ドナー手術を行った712例。患者背景、手術手技、術後合併症、グラフト所見について検討を行った。

    【結果】患者年齢は41.4±11.9歳、手術時間は406±85分、出血量は299±266mlであった。葉切除以上の手術を行った症例は517例であり、ドナー残肝は49.8±14.7%であった。術後、重篤な合併症(Clavien-Dingo Ⅲa以上)をおこした症例は46例(6.5%)であった。詳細は胆汁漏が26例、胸腹水貯留11例、術後遷延する高Bil血症220例などであった。ドナーゼロバイオプシーにて20%以上の脂肪肝を16例(2.2%)に認めた。ゼロバイオプシーにて脂肪肝を認めた症例のうち、肝切後肝不全(PHLF)至った症例は1例のみであった。高Bil血症を呈したドナーのうち3例に脂肪肝を認めたが、高Bil血症を呈した他のドナーと有意差は認めなかった。

    【考察】脂肪肝は肝切除のリスクファクターとして知られており、当院では術前CTにおけるL/S比や超音波検査、肝生検によってドナー脂肪肝を同定しているが、それをすり抜けてドナー手術を施行した例が16例あった。手術における手技の向上とともに術前検査においてドナー脂肪肝を見逃さないことがドナー安全に寄与すると考えられた。

  • 門久 政司, 猪股 裕紀洋, 嶋田 圭太, 磯野 香織, 蛭川 和也, 菅原 寧彦, 日比 泰造
    2021 年 56 巻 Supplement 号 p. s70
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    [背景と目的]生体肝移植においてはドナーの安全性が最優先されるが,ドナーの術後合併症は少なからず経験される.今回われわれは熊本大学における生体肝移植ドナーの術後合併症,特にClavien-Dindo分類gradeⅢa以上の重症合併症に関して検討した.

    [対象]1998年12月から2017年3月までに,当院でグラフト採取術を施行した生体肝移植ドナー470例を後方視的に検討した.

    [結果]ドナーの術後合併症は延べ167件認めた.重症度の内訳は,gradeⅠ(n=34),gradeⅡ(n=84),gradeⅢa/b(n=33/9),分類不能(n=8)であった.GradeⅢa以上の重症合併症の疾患内訳は,胆汁漏が最も多く(n=21),創感染(n=7),消化管通過障害(n=4),腹壁瘢痕ヘルニア(n=3)が続いた.GradeⅢa以上の重症胆汁漏に対する有意なリスクファクターは認めなかった.ただし,重症胆汁漏症例においては,右葉系グラフト採取症例(n=8)は全例ドレーン管理で改善したが,左葉系グラフト採取症例(n=13)では4例でENBD留置などの内視鏡的処置を,2例で再手術(胆管単純閉鎖術,胆管空腸吻合術)を要した.

    [まとめ] GradeⅢa以上の生体ドナー術後重症合併症は胆汁漏が最も多く,特に左葉系グラフト採取症例において,再手術や内視鏡的処置が必要な症例を認めた.

  • 田中 真之, 長谷川 康, 尾原 秀明, 篠田 昌宏, 北郷 実, 八木 洋, 阿部 雄太, 松原 健太郎, 山田 洋平, 堀 周太郎, 中 ...
    2021 年 56 巻 Supplement 号 p. s71
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    【背景】2010年に臓器移植法が改正され、国内脳死下臓器提供が年々増加しているものの、未だにドナー不足問題は解決していない。脳死肝移植における安全な受諾基準の拡大が目下の課題である。そこで、当施設で経験した受諾基準拡大症例について検討する。

    【方法】2013年3月から2021年2月までに当施設で施行した脳死肝移植症例40例を対象として、グラフト機能に関与する脳死ドナーの候補因子(脂肪肝、T-Bil、ドナー年齢、心停止、飲酒、グラフトサイズ、BMI)で最悪条件の症例をマージナル群とし、その他の症例と移植後成績を比較した。

    【結果】グラフト肝脂肪沈着30%、摘出前最終T-Bil:5.8mg/dL、ドナー年齢62歳、心停止時間48分、常習飲酒(焼酎2合)、分割肝(GW/BW:1.1)、BMI:45.1kg/㎡を認めた5症例をマージナル群とした。1症例は前者3条件を、1症例は心停止と飲酒の条件を、3症例は年齢、グラフトサイズ、BMIのそれぞれの条件を満たした。レシピエントにおいて、マージナル群でグラフトロスした症例はなく、非マージナル群との比較では入院期間(P=0.637)、全生存期間(P=0.510)に有意差を認めなかった。

    【結語】受諾にあたり症例ごとに慎重に検討することは重要であり、現在までに経験した拡大受諾条件は移植後グラフト機能への影響は明らかでなく、許容できると考えられた。

  • 田村 敦子
    2021 年 56 巻 Supplement 号 p. s72
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    【目的】生体肝移植を経験した思春期患者が病気をもち療養生活を行いながら、成人医療へ移行するために作成した自立支援プログラムを実施し評価する

    【対象】移植外科に通院する高校生の患者とその保護者

    【プログラムの内容】プログラムの具体的な内容は、自立度チェックリストを用いた自立支援のための面談(5~6回程度)、マイメディカルサマリーの作成、DVDの視聴による知識の提供(①「自立とは」②「肝移植後の長期合併症」③「服薬に関する講義」④「服薬行動に関する講義」⑤「性に関すること」)である。また、自立支援チームによる会議を適宜実施。プログラム実施前には、レシピエントを対象に自立準備状況評価質問紙(TRAQ)、レシピエントと保護者を対象に、プログラム前後に小児用生活の質に関する評価尺度移植モジュール(Peds QL)実施。プログラム前後で、子どもの自立や本プログラムに対する感想について保護者インタビュー実施。

    【結果】レシピエントのレディネスや保護者の自立に対する考えが、自立に影響を及ぼす。親の“いずれは子どもを自立させなければならない”という思いが、子どもの自立を後押しする。

    【臓器移植を受ける患児へのサポート】移植前から、移植後に必要な療養行動についてイメージできるよう、子どもの発達段階に合わせて説明する。また、いずれレシピエントを自立させるために必要な、保護者の発達段階毎のかかわりについて説明する。

  • 関 真奈美
    2021 年 56 巻 Supplement 号 p. s73
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

     現在の小児腎不全における治療目標は、健常児と遜色無く心身ともに健やかに育てることとされている。小児の慢性腎不全患者に対する治療法には、成人患者と同様に透析療法と腎移植治療の2つの選択肢があるが、透析に伴う合併症や成長障害・発達遅延を回避し小児腎不全における治療目標を達成するためには最善のタイミングで腎移植を受けることができるよう、患児と家族をサポートしていくことが必要となる。腎移植治療の決断には、献腎、生体腎移植のどちらにするか、生体の場合にはドナーは誰か、いつ移植を行うかといった問題が浮上する。小児患者はその後の長い人生を視野に入れて考える必要があるために、これらについての家族の悩みは非常に深い。また、小児腎移植は、国内において限られた施設でしか実施されていないため、時には両親共に仕事を含めた日常生活の調整を行い、家族総出で移植施設近辺に居住し、患児をサポートすることも必要となる。

     レシピエント移植コーディネーターとして小児腎不全患者とその家族と面談を行う度に、家族によって抱える問題が多様であり、医療者が解決することの困難さを実感する。医学的な問題と社会的な問題に対して、移植チームとしてどのようにサポートしていくべきか、当院の小児腎移植の経験をもとに検討する。

  • 田村 恵美, 前田 翔平, 井原 欣幸, 水田 耕一
    2021 年 56 巻 Supplement 号 p. s74
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    病気のこどもを目の前にした家族が抱く、“こどもを救いたい”という強い思いは、容易に想像することができ、移植医療において、自ら身体の一部を提供したことで、この状況から救えるのであれば、家族の心情としてはぜひとも助けたいと思うであろう。移植を必要とするこども・家族が、移植医療を選択する利益と危険性を十分に理解し、意思決定することが重要である。しかし、こどもの成長・発達上、こどもの認知能力からは理解することが困難なことも多く、家族の代理意思決定で移植治療へ移行することがほとんどである。

    しかし、現在、家族の現状は多様化しており、それぞれのこどもの家族にあった対応方法でかかわり方を検討し、家族自身が治療選択できるかどうかをアセスメントしながら、移植医療をすすめている。

     こどもは、成長発達とともに、身体の状況や今置かれている環境が自分自身でもわかるようになると服薬の自己管理、身体状況の管理を含めた人生設計を行いながら、自分の身体を認識していく。こどもの状況と家族の置かれている状況の変化を捉え、こども自身のセルフケア能力とそれを補完する家族としての状況を客観的に分析しながら、ケアを行っているのが現状である。家族が家族らしく決断でき、意思決定していくために、現状と課題を報告する。

  • 米道 宏子, 伊藤 麻衣, 阿部 啓子, 高橋 有希, 中里 弥生, 上遠野 雅美, 平野 加奈子, 阪本 靖介, 福田 晃也, 笠原 群生
    2021 年 56 巻 Supplement 号 p. s75
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    チャイルド・ライフ・スペシャリスト(以下CLS)とは、医療現場において心理社会的サポートを提供する専門職である。アメリカ小児学会はChild Life Programの必要性を明確に提言している。今回、急性肝不全症例の患者サポートに関して必要性・重要性をCLSの視点から報告する。当院へ紹介される小児急性肝不全の患児は転院後にICU管理となる重症症例がほとんどである。通常の移植患者と異なり小児劇症肝炎症例は鎮静管理下・人工呼吸・血漿交換治療を継続し、治療によって自己肝が回復しない場合は緊急肝移植手術が必要となる。そのため移植術前に患児への十分な説明が行えず、患児の理解や受容が欠けた状況の中で患児は術後に覚醒するため、医療的トラウマのリスクが高まる。これらの要因が、長期管理における患児の病識の欠落、内服コンプライアンスの低下の原因となると考えられる。当院の急性肝不全患者に対し、CLSは主に①ティーチング、②プリパレーション/ディストラクション、③治癒的遊び、④復学支援を行う役割を担い、病状や手術への理解促進・医療環境への適応・治療に対する患児の協力・ご両親の治療への理解・積極的介入を引き出すことに成功している。小児急性肝不全以外にも緊急で移植を行わなければならない状況は多い。しかし日本ではCLSの数や認知度が不十分な為、今後、患児と家族へのサービスの影響や効果を識別する研究を行いCLSの重要性を啓発してゆく必要がある。

  • 小川 絵里, 青木 光, 上林 エレーナ幸江, 園田 真理, 岡本 竜弥, 石橋 朋子, 岡島 英明, 波多野 悦朗
    2021 年 56 巻 Supplement 号 p. s76
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    【はじめに】小児期はインフォームド・コンセントに必要な能力が未熟とされるが,病気を知り治療内容を理解することは重要であり,子どもの基本的人権である.米国小児科学会は,7歳以上をインフォームド・アセントの対象としている.当院の小児肝移植におけるインフォームド・アセントの現状と課題を検討する.

    【対象と方法】2011年4月より2021年3月までの18歳未満肝移植181例を認知発達段階に沿って分類した.0−2歳の感覚運動期101例,2-7歳の前操作的思考期35例,7-11歳の具体的操作期22例,11-18歳の形式的操作期22例であり,インフォームド・アセントの現状を後方視的に検証した.

    【結果】感覚運動期では,親権者に説明を行い移植医療を決定していた.前操作的思考期では,決定は親権者が行い,看護師から児へプレパレーションが行われていた.具体的操作期では,児へも説明を行い理解を得るよう努めている.形式的操作期では,親権者・児に説明を行い親権者の決定と児の了解を得た.実際に同意書にサインした児は5名であり,術後,実は手術したくなかったと発言した症例が1例あった.

    【今後の課題】インフォームド・アセントには,認知発達段階に応じた適切な説明が必要であり,プレパレーションの担い手としてチャイルドライフスペシャリストや子ども療養支援士の充実が急務である.永続的な内服治療を要する移植医療であるからこそ,真に自己決定が行えるよう配慮が必要である.

  • 大角 明宏, 栢分 秀直, 田中 里奈, 山田 義人, 豊 洋次郎, 中島 大輔, 伊達 洋至
    2021 年 56 巻 Supplement 号 p. s79
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    本邦での肺移植は増加傾向にあり、当科でも累計273例の肺移植を行ってきた。院内の多くの診療科や部署との連携なくして成り立たない高度医療である。どのような協力体制で行っているのか、またその重要性について紹介したい。肺移植の適応評価は、当科のほか呼吸器内科・循環器内科・小児科を中心に行っており、原病がある場合は血液内科や免疫膠原病内科に、感染を併発している場合は感染制御部、判断困難な画像所見は放射線診断科に意見を仰いでいる。全例、耐術能については麻酔科・心臓血管外科に、生体ドナーも含めて精神科神経科に評価をお願いしている。脳死肺移植は緊急手術、生体肺移植は2人のドナーを要するため3つのチームが同時並行で手術を行う。麻酔科・手術室には多大なるマンパワーを要し、術中の体外循環は心臓血管外科・臨床工学技士の協力が不可欠である。移植後は当科がメインとなって24時間の管理体制を敷いているが、集中治療部、呼吸管理睡眠制御科、リハビリテーション部、疾患栄養治療部、薬剤部とは常に連携を取って治療に当たっている。我々は毎週、コーディネーターや呼吸器内科・ICTと共に臨床肺移植カンファレンスを行い、入院中の移植適応評価症例・移植後周術期症例、外来の初診・移植待機中症例・移植後の問題症例などについて詳細にディスカッションを行っている。また全例がハイリスク症例であるため、医療安全管理部への報告も行っている。

  • 福田 将一, 高橋 一広, 古屋 欽司, 臼井 丈一, 小関 美華, 小田 竜也, 山縣 邦弘
    2021 年 56 巻 Supplement 号 p. s80
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

     レシピエント移植コーディネーター(RTC)の理念に、「移植プロセスを円滑にするためにコーディネーションとコミュニケーションを促進する存在である。また、安全な移植医証の実践を支える存在である。」とある。

     これまでのRTCの取り組みについては、術後にフォーカスを置いた検討や考察がなされており、術後指導に関する知見はより深まっていると考えられる。一方で術前におけるRTCの取り組みについては術後介入に比べると報告は少ない。そこで当院の術前RTC介入について検討した。RTCの介入前と介入後の患者の退院時体重と術後約1年の体重を比較し体重増加率を評価した。RTC介入前の体重増加率は平均105.8%であったが、RTC介入後の体重増加率は平均99.8%であり体重の増加率を抑制できている結果となった。また、当院の術前体重管理基準BMI:28 kg/m2を目標に減量指導を行ったレシピエント・ドナーの体重減少率は平均-8.8%であった。

     移植医療は他職種で移植腎を長期生着させるために日々取り組んでいる。その中でRTCは患者のアドヒアランス低下を予防するために、治療意欲を引き出すことが求められる。術前から動機づけを高め、行動変容を促すコミュニケーションを図るRTCの役割は重要であり、術前からのRTC介入による関係性の構築は術後のモチベーション維持に有効であると考える。

  • 渡邊 美佳, 剣持 敬, 纐纈 一枝
    2021 年 56 巻 Supplement 号 p. s81
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    当院では2019年度から臓器提供施設連携体制構築事業に取り組み、患者・家族に寄り添い、意思決定支援を行う役割のスタッフ育成として、メディエーターチームの導入を検討している。このチームの目的は、臓器提供だけでなく、重症患者の診療などコンフリクトが起こりやすい場面に早期に介入することで問題を未然に防ぐことである。また、認定メディエーターは医療訴訟などに発展した際に重要な役割を果たすと言われている。生体肝移植においても、胆道閉鎖術後の肝移植へ治療方針を切り替えるタイミングや移植に至らずドナーの自費診療費が発生する事例などコンフリクトが起きそうな様々な場面が予測できる。日常診療やICにおいて、レシピエント・ドナー及び家族に寄り添っているRTCがメディエーションスキルを習得し、十分な介入ができると治療・看護を安心して受けることができコンフリクトを予防できると考える。また、コンフリクトが起こりそう、あるいは起こってしまった場合に院内のメディエーターチームに速やかに相談できるしくみがあると、コンフリクトの内容に適した医療従事者が患者・家族と対話を促進することができ、重大事例への発展を防止できるのではないかと考える。今後、RTCがメディエーションスキルを習得することはとても有益であり、院内の教育計画を立案し技術習得を目指すとともに、日常から多職種とのコーディネーション力を磨き習得したスキルを発揮していきたい。

  • 出澤 真理
    2021 年 56 巻 Supplement 号 p. s82
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    Muse細胞は生体内に存在する非腫瘍性の多能性修復幹細胞で、骨髄・末梢血・各臓器の結合組織に分布し組織恒常性に寄与している。傷害組織の産生する警報sphingosine-1-phosphateに対する受容体を使って傷害部位に特異的に集積し、「場の論理」に応じて組織を構成する細胞に分化し、傷害細胞を置換して修復する。特異な免疫特権を有するため、ドナーMuse細胞はHLA適合や免疫抑制剤無しに長期間、分化状態を維持して組織内で生存できる。

    Muse細胞は遺伝子導入による多能性獲得や分化誘導操作が不要で、点滴で傷害部位に選択的に集積するため、外科手術が不要である。現在、心筋梗塞、脳梗塞、表皮水疱症、脊髄損傷、新生児低酸素性虚血脳症、ALS, 新型コロナ急性呼吸逼迫症候群への治験が行われており、全てがドナーMuse細胞の点滴による投与である。

    脳梗塞のプラセボ対照二重盲検比較試験において、Muse細胞製剤が投与された群の約70%は寝たきり・失禁状態(mRS5)ないし歩行や身体的要求には介助が必要な状態(mRS4)から、一年後には公共交通機関を介助なしに利用できるなど身の回りの事が出来る状態(mRS2以下)となり、さらに約30%は発症前の生活にほぼ戻り職場復帰を果たした(mRS1)ことが明らかとなった。Muse細胞は今後の医療を大きく変える可能性があり、今後の展望について考察する。

  • 阿部 紘大, 長谷川 康, 篠田 昌宏, 宇野 俊介, 尾原 秀明, 北郷 実, 阿部 雄太, 八木 洋, 松原 健太郎, 山田 洋平, 北 ...
    2021 年 56 巻 Supplement 号 p. s83
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    【背景】急性肝不全治療においては感染症制御が肝要であり、なかでも侵襲性肺アスペルギルス症(Invasive Pulmonary Aspergillosis: IPA)は致命的感染症である。当施設の急性肝不全治療中におけるIPAの成績を報告する。【方法】2010年から2020年の期間に、急性肝不全の診断で紹介され肝移植の準備をした57例の成績を検討した。【結果】57例のうち、20例(35%)は内科的治療で改善、22例(39%)は肝移植を施行、15例(26%)は移植せずに死亡した。IPAは、上記群別で2:4:5例(10:33:18%)で発症した。肝移植施行例の4例は全て移植後にIPAを発症し、3例が死亡した。IPA発症例は非発症例に比し、当院入院時のCLIF-C SOFA scoreが有意に高値であり(11.6 vs 9.6, p=0.001)、年齢性別調整後のCLIF-C SOFA score 10.5以上がIPA発症リスク因子として抽出された(オッズ比18.3、95%信頼区間2.1-157.9、p=0.008)。IPA発症例の1年生存率も有意に低かった(74.8 vs 27.3 %, P=0.001)。【結語】急性肝不全に対する移植準備中や移植後において、CLIF-C SOFA scoreで反映される他臓器障害を持つハイリスク症例では、血清βDグルカンやアスペルギルス抗原と言ったマーカーとCT検査の併用を行い、IPA発症の評価を積極的にモニタリングすべきである。

  • 大杉 頌子, 長谷川 康, 尾原 秀明, 北郷 実, 阿部 雄太, 八木 洋, 山田 洋平, 堀 周太郎, 田中 真之, 中野 容, 高岡 ...
    2021 年 56 巻 Supplement 号 p. s84
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    【背景】臓器移植後は免疫抑制状態のため発がんの危険が高い。de novo 悪性疾患(DNM)は晩期合併症の一つである。移植医療が確立される中で、DNMの罹患率は上昇すると考えられる。DNMに対するスクリーニング検査(ST)は重要だが、まだ確立していない。【方法】対象は1997年4月から2021年3月まで当院で肝移植術を実施した症例。移植後DNMの症例について検討した。当院肝移植術後のST法は、定期受診時の血液検査、年に1度のCT検査と上部内視鏡検査を基本とした。【結果】27例のDNMについて検討した。内訳はpost-transplant lymphoproliferative disease (PTLD)が7例(25.9%)、肝細胞癌が4例(14.8%)、胃癌、喉頭癌、肺癌、甲状腺癌が2例(7.4%)、腎細胞癌、大腸癌、皮膚癌、乳癌、前立腺癌、胆管癌、原発不明癌、悪性リンパ腫が1例(3.7%)であった。STで発見された症例が10例(37.0%)、有症状で発見された症例が14例(51.9%)、その他が3例(原発不明癌、腎細胞癌、甲状腺癌)(11.1%)であった。STで発見されたのは肝細胞癌(3例)、肺癌、PTLD、胃癌、喉頭癌、前立腺癌、大腸癌(1例ずつ)で、有症状で発見されたのはPTLD(6例)、肝細胞癌、皮膚癌、乳癌、甲状腺癌、喉頭癌、肺癌、胆管癌、悪性リンパ腫(1例ずつ)であった。発見時、遠隔転移を認めた症例は5例(18.5%)であった。【結論】肝移植後DNMは定期STの実施にもかかわらず発見時に高頻度で遠隔転移を伴っていた。STを再検討する余地があると考えられた。

  • 長田 梨比人, 赤松 延久, 三原 裕一郎, 市田 晃彦, 裵 成寛, 河口 義邦, 石沢 武彰, 金子 順一, 有田 淳一, 田村 純人, ...
    2021 年 56 巻 Supplement 号 p. s85
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    【背景】生体肝移植は部分肝グラフトの特性を考慮した肝静脈再建が重要となる。当科では凍結保存静脈グラフトを使用しreservoirとしての機能をもたせ、狭窄、閉塞を防止しているが、流出路障害を発症した場合は主にinterventional radiology (IVR)によって対応し、必要時はステントを留置している。

    【対象と方法】1996年1月から2020年10月までの602例の成人生体肝移植症例のうち、肝静脈流出路障害に対してステント留置を行った7例を対象とした。治療前後で、肝静脈圧較差、グラフトの標準肝容積との比、血清アルブミン値の変化を検討した。

    【結果】グラフト種別は右肝4例、後区域3例であり、左肝系グラフトの症例はなかった。移植からステント留置までの日数の中央値と範囲(以下同様)は311(16-1229)日であった。2例は初回IVRで留置され、5例は先行するIVR治療歴を有していた。肝静脈圧較差は12.2(10.9-20.4)cmH2Oから3.9(1.4-8.2)cmH2Oへ(p=0.03)、グラフト容積は126.1(67.3-162.7)%から100.1(63.9-128.0)%へ(p=0.02)、血清アルブミン値は3.2(1.7-3.7)g/dlから3.7(2.9-3.9)g/dlへ(p=0.02)、いずれも改善した。施行に伴うClavien-Dindo分類IIIb以上の合併症はなかった。1例で留置後6ヶ月でのステント内血栓に対してIVR下の溶解療法を要した。全例生存しステント開存を維持している。

    【結語】肝静脈流出路障害へのステント留置は低侵襲下に十分な治療効果が得られ有用である。

  • 伊藤 心二, 原田 昇, 戸島 剛男, 利田 賢哉, 冨山 貴央, 森永 哲成, 小斉 侑希子, 冨野 高広, 栗原 健, 長尾 吉泰, 森 ...
    2021 年 56 巻 Supplement 号 p. s86
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    【はじめに】生体肝移植レシピエント手術において、術中の肝動脈解離は非解剖学的肝動脈再建への移行や、術後の重大な合併症を引き起こすことがあり、術中肝動脈解離の予防が重要である。我々は肝十二指腸靭帯の剥離の際に左および中肝動脈結紮処理を行わない手術手技を2014年より導入した。今回新たな手術手技の成績に関して検討を行なった。【対象・方法】2009年から2019年までに当院当科にて生体肝移植手術を施行したレシピエン365症例を対象とした。導入前195例と導入後170例の2群間で臨床因子および術後成績との関係について傾向スコアマッチングを用いて検討を行なった。【結果】導入前群でC型肝炎罹患症例(p=0.0020)、肝細胞癌合併症例(p=0.0497)が多かった。また、導入後群で糖尿病罹患症例(p=0.0238)、長期ステロイド投与症例(p=0.0026)が多かった。導入後群で術中肝動脈解離が有意に減少した(p=0.0021)。傾向スコアマッチングを行い、導入前132例、導入後132例で検討を行った。背景因子に差はなく、術中肝動脈解離が導入後群で有意に減少した(p=0.0295)。【まとめ】生体肝移植レシピエント手術において、肝動脈結紮を行わない新たな手術手技は術中肝動脈解離予防に有効である。

  • 曽山 明彦, 吉住 朋晴, 高槻 光寿, 原田 昇, 戸島 剛男, 大野 慎一郎, 足立 智彦, 日髙 匡章, 江口 晋
    2021 年 56 巻 Supplement 号 p. s87
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    【背景】生体肝移植における術後胆道合併症の発生率は施設によって差があり、15-30%という報告がみられる。2013年、Linらは、従来、胆道再建が外科用拡大鏡(2.5x-4.5x)を用いられているのに対して外科用顕微鏡(5x-15x)を用いた胆道再建により合併症発生率が6%台に抑えられることを報告した。【目的】生体肝移植における外科用顕微鏡を用いた胆道再建の有効性を、多施設共同ランダム化比較試験により明らかにする。【対象と方法】以下の条件を満たす患者を対象とする。胆管-胆管吻合による胆道再建を実施する患者、複数の胆道再建を必要としない患者、18歳以上の患者。外科用顕微鏡 (視野5x-15x)と拡大鏡(ルーペ)を用いて、胆管胆管吻合を実施する。グラフト種類、レシピエント原疾患、実施施設を割付因子として最小化法を用いて割付を行う。主要評価項目は、術後1年以内のClavien-Dindo分類III以上の胆道合併症(胆道狭窄、胆汁漏)の発生率とする。検出すべき差として、従来法の胆道合併症発生率を25%、顕微鏡による発生率を10%とし、αエラーを片側5%、検出力を80%として、必要な症例数を158例(各群79例)と設定した。【期待される効果】本研究により顕微鏡を用いた胆道再建の有用性が証明された場合、肝移植後の胆道合併症発生率の低下につながる手技の一つとして実施され、患者のQOLや長期予後の改善にもつながる可能性がある。

  • 長尾 吉泰, 冨山 貴央, 森永 哲成, 利田 賢哉, 小斎 侑希子, 冨野 高広, 栗原 健, 森田 和豊, 伊藤 心二, 原田 昇, 吉 ...
    2021 年 56 巻 Supplement 号 p. s88
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    【はじめに】

    生体肝移植術前の脾機能亢進症に対する治療法として、脾臓摘出術および部分的脾動脈塞栓術が、生体肝移植術の術中および術後成績に与える影響について検討した。

    【方法】

    1997年5月から2019年10月までに当科で施行した生体肝移植術785例のうち、術前に脾臓摘出術を施行された43例(Sp群)と部分的脾動脈塞栓術(PSE)を施行された16例(PSE群)、および生体肝移植術と同時に脾臓摘出術を施行した403例(LT-Sp群)を対象とした。術前因子、術中因子、移植後短期成績について比較検討した。

    【結果】

    術前因子として、Sp群とPSE群はLT-Sp群に比べ、MELDscoreが低く、(p=0.005)門脈血栓を有する割合が高かった(p=0.01)。術中因子はSp群で、LT-Sp群に比べ手術時間が長い傾向を示した(p=0.01)。術後成績は、PSE群においてSp群やLT-Sp群に比べ、菌血症(p<0.001)・敗血症(p=0.01)を合併する割合が高かったが、1年生存率を含め、その他の術後因子には差がなかった。

    【結語】

    移植術前より脾臓摘出術やPSEを施行することで、手術時間が延長する傾向を示した。移植後1年生存率に差は無かったが、PSE後の生体肝移植術は術後菌血症および敗血症に陥る割合が多く、周術期における門脈血流量および門脈圧の制御が不十分であった可能性が示唆された。

  • 小寺 由人, 加藤 孝章, 本田 五郎, 山下 信吾, 平田 義弘, 根本 慧, 有泉 俊一, 江川 裕人
    2021 年 56 巻 Supplement 号 p. s89
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    2019年の移植学会の報告によると移植された膵臓の1年、3年、5年、10年生着率はそれぞれ85.9%、80.6%、 76.2%、67.4%と決して高い数字ではない。(対象と方法)2001年から当院にて施行した膵移植74例(膵腎同時65例 腎移植後膵移植9例)の経過を検討し長期生着を目指した治療戦略を検討した。(結果)対象74例の平均年齢は44.0歳、平均BMIは20.9、男性24例、女性50例であった。ドナーの平均BMIは21.5、HbA1cは5.2%、手術時の総虚血時間は平均610分であった。移植膵の1年、3年、5年、10年生着率はそれぞれ93.2%, 84.8%, 79.3%, 76.1%であった。経過中に合併症は43例(58.2%)に認めた。 血栓・縫合不全は8例に認め1例を除き移植膵摘出となっていた。また膵炎併発症例を26例認め、うち7例で膵機能が廃絶していた。膵炎併発例には拒絶反応を認めない18例が含まれており、うち3例に膵機能の廃絶を認めた。これら膵機能廃絶14症例の平均膵生着期間は、血栓例で4.6日、縫合不全例で72.5日、膵炎例で928.5日であった。(考察)膵移植直後のグラフト血栓症や縫合不全などを予防する事は重要である。今回の検討では繰り返す移植膵の炎症もグラフトロスの一因となり得る事が示唆された。術後の中長期的な管理として移植膵をコントロールする事も重要であると考えられた

  • 加来 啓三, 岡部 安博, 佐藤 優, 目井 孝典, 野口 浩司, 中村 雅史
    2021 年 56 巻 Supplement 号 p. s90
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    【背景】膵臓移植後の治療成績に影響を与える因子としてドナー、レシピエント因子のほか手術因子が考えられるが、関連性は明らかではない。今回、手術時間に着目し治療成績との関係を検証した。

    【対象と方法】2001-2019年の本邦脳死下膵腎同時移植308例中、腎臓移植を先行した225例を対象とした。膵移植時間 (OT: operation time)は膵TIT – 腎TIT(分)と定義した。中央値217分でShort-OT群、Long-OT群の2群に分けKaplan Meier法によるグラフト生存解析を行った。OTと合併症の関連について検証した。膵グラフト生着をアウトカムとし、ドナー因子 (PDRI: pancreas donor risk index)、OTについて多変量解析を用い検証した。

    【結果】膵グラフト1年生着率はLong-OT群で有意に予後不良であった (86.7% vs 95.6%; p=0.02)。両群ともにグラフトロスの8割がグラフト血栓症によるものであった。短期合併症(出血、血栓症、グラフト十二指腸穿孔)に関しては両群間で有意差を認めなかった。PDRI平均値はLong-OT群で有意に高値であった(2.00 vs 2.29; p=0.04)。多変量解析ではOT (p=0.04)、PDRI (p=0.01)が独立した予後因子であった。

    【結論】ドナー因子に加え、手術時間が膵グラフト短期予後に関与する可能性が示唆された。

  • 富丸 慶人, 小林 省吾, 伊藤 壽記, 佐々木 一樹, 岩上 佳史, 山田 大作, 秋田 裕史, 野田 剛広, 後藤 邦仁, 剣持 敬, ...
    2021 年 56 巻 Supplement 号 p. s91
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    【背景】膵臓移植の長期成績向上を目的として,本邦膵臓移植症例登録データを用いて,膵グラフト喪失の原因別に膵臓移植後の膵グラフト喪失の詳細を検討したので報告する.【対象・方法】本邦において2019年までに施行され,日本膵・膵島移植研究会に登録された脳死・心停止下膵臓移植症例410例を対象とし,対象症例における膵グラフト喪失の詳細(好発時期,危険因子)を,グラフト喪失の原因別に検討した.【結果】膵グラフト喪失は全410例中94例(22.9%)に認められた.膵グラフト喪失の原因はDeath with functioning graft(DWFG)27例,グラフト血栓症24例,慢性拒絶19例,その他24例であった.グラフト喪失時期については,DWFGによるグラフト喪失は移植後の期間に関わらず認められていたのに対して,グラフト血栓症によるグラフト喪失の殆どは術後2か月以内に認められ,慢性拒絶によるグラフト喪失の殆どは術後5年以内に認められていた.それぞれの場合のグラフト喪失の危険因子は,多変量解析の結果,DWFGの場合はレシピエントの糖尿病罹患期間,グラフト血栓症の場合はドナーのBMI,慢性拒絶の場合は膵移植術式(SPK/PAKまたはPTA)であった.【結語】膵グラフト喪失の原因によって,膵グラフト喪失の好発時期や危険因子は大きく異なっていた.膵臓移植の長期成績向上を目指す上では,このような原因別の膵グラフト喪失の特徴を踏まえた移植後経過観察が重要であると考えられた.

  • 田原 裕之, 小野 紘輔, 望月 哲矢, 井出 隆太, 築山 尚史, 山根 宏昭, 佐藤 幸毅, 今岡 祐輝, 谷峰 直樹, 大平 真裕, ...
    2021 年 56 巻 Supplement 号 p. s92
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    膵臓移植後のさらなる成績向上のためには長期生着症例の全身管理に改めて注目する必要がある。2020年本邦膵移植症例登録報告によると、術後6か月以降の死因のうち、心血管疾患(CVD)関連死亡は30%を占めており、移植後CVD発症の対策が重要であると考える。当院で施行した膵臓移植13症例(SPK10例、PAK3例)において、術後CVD発症頻度と術前のCVD発症リスク予測値について解析し検討を行った。ASCVD(アテローム動脈硬化性心血管疾患) Risk Calculatorを用いて10年後ASCVD発症予測リスク率(10yr-ASCVD risk)を膵移植直前のデータにより算定した。移植後ASCVDを認めた2例の10yr-ASCVD riskは17.9%, 3.1%であり、ASCVDを認めていない11症例の10yr-ASCVD risk平均値1.36±1.15%と比較し高値を示した。この結果は、膵臓移植施行時点で将来的なCVD発症が予測できる妥当性を示しており、移植前の待機期間中にCVD発症を見据えた管理が必要であると考えられた。ASCVD発症の1次予防に関しては10yr-ASCVD risk値に応じてスタチンの投与、厳密なLDL-Cのコントロールが推奨されている。ASCVDを発症した2例は術前スタチン投薬未介入であったことからも、術前の生活環境改善やLDL-Cコントロールが課題と考えられた。

  • 高市 翔平, 富丸 慶人, 小林 省吾, 伊藤 壽記, 遠矢 圭介, 佐々木 一樹, 岩上 佳史, 山田 大作, 秋田 裕史, 野田 剛広, ...
    2021 年 56 巻 Supplement 号 p. s93
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    【背景】脳死膵臓移植における腹部大動脈石灰化(AAC)の意義は明らかにされていない.今回,AACが脳死膵腎同時移植(SPK)後の予後に与える影響について検討したので,報告する.【対象・方法】2019年12月までに当院にて施行した脳死膵臓移植54例のうち術前のAACの定量化(Agatston score法)が可能であったSPK39例を対象とした.AACの値に基づいた術後成績を累積生存率,膵グラフト生存率の点から評価した.【結果】対象症例におけるAACの中央値を用いて低AAC群(19例)と高AAC群(20例)に分けたところ,累積生存率は,高AAC群において低AAC群よりも有意に低値であった(10年累積生存率75.0% vs. 100%,p=0.04).膵グラフト生存率は,Death with functioning graft(DWFG)を含まない場合は両群間に有意差を認めなかったが(10年膵グラフト生存率76.5% vs. 88.8%,p=0.43),DWFGを含む場合は高AAC群において低AAC群よりも有意に低値であった(50.4% vs. 88.8%,p=0.04).膵グラフト喪失の理由は,高AAC群でDWFG4例,グラフト血栓症3例,グラフト十二指腸穿孔1例であり,低AAC群で拒絶1例,グラフト血栓症1例であった.DWFGを含む膵グラフト生存率に関する多変量解析では,AACのみが独立した規定因子であった.【結語】脳死膵臓移植症例において,AACが著明な症例では術後にDWFGが多く認められた.同術前の高AAC症例に対する,より緻密な術後フォローが重要である可能性が示唆された.

  • 栗原 啓, 剣持 敬, 伊藤 泰平, 會田 直弘
    2021 年 56 巻 Supplement 号 p. s94
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    <背景>心血管イベント(CVD)はI型糖尿病の最たる死因であり、膵臓移植の長期成績に強い影響を及ぼす。I型糖尿病患者のCVD発症の予測モデルであるSteno Type 1 Risk Engine (STENO T1)を用いて膵臓移植によるCVD発症軽減効果について検討した。

    <対象と方法>2012年4月から2020年6月までに当科で施行した70例の膵臓移植のうち、移植前よりCVDの加療後であった2例、及び観察期間が1年未満となった4例を除外した64例を対象とした。CVDを、積極的治療介入を要した虚血性心疾患、脳卒中及び大血管疾患と定義し、年齢・性別・喫煙歴・糖尿病歴・LDL・HbA1c・腎機能・たんぱく尿の各項目をSTENO T1の計算式に入力してCVD発症確率の予測値を概算し、移植前と移植後1年目で比較した。

    <結果>対象の年齢から計算されたコントロールとなる健康成人のCVD発症確率は3.3%であった。一方、膵臓移植後のCVDは2例発生しており、術前のリスクはそれぞれ75.1%、61.3%と非常に高い値であった。対象膵臓移植患者のCVD発症平均確率は移植前:45.2%に対し、移植後1年:8.6%と著明な改善がみられた。

    <まとめ>STENO T1から予測される膵臓移植によるCVD発症軽減効果は明らかであった。特に、膵腎同時移植における移植腎機能改善や耐糖能改善による腎保護効果が,CVDリスクの改善に寄与しており、長期成績向上が期待された。

  • 米田 龍生, 堀 俊太, 藤本 清秀
    2021 年 56 巻 Supplement 号 p. s95
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    イスタンブール宣言では「生体ドナーによる臓器移植における成功とはレシピエントとドナーの両方が順調な経過をたどることを意味する」として臓器提供後のドナーのケアの必要性を謳っている。本邦の移植関連学会の生体腎移植ドナーの集計では2009~2018年に2名の透析導入症例が示されている。一方、日本透析医学会の2019年末の集計では腎提供後の透析患者は181名であり。腎提供時期が導入後である等一部誤解された可能性はあるものの大きな差がある。前者は2009年からの前向き調査で、後者は後ろ向き調査であるという違いが一因となっているものの、ドナーの登録に関しては、不明、未入力のものが多く、適正なケアが出来ていないドナーが多いことも大きな問題と言える。

    腎移植ドナーの提供後の腎機能は、術前の60~70%となり、慢性腎臓病のstage3(eGFR<60mL/min/1.73m2)となる症例が多い。術前評価をクリアした健康体のドナーは一般人口と比較して生命予後や透析導入のリスクは上がらないとされてきたが、観察期間を延ばし、背景を揃えるとドナーは透析導入や全死亡、心血管系死亡は非常に低い割合ではあるいがコントロールに比べて高いという報告が出てきている。

    この透析導入や死亡のリスクの影響因子には、喫煙や肥満、高アルブミン尿症やeGFR低下、高血圧、糖尿病など術後の管理が重要となるものが多く、腎移植ドナーに対する腎臓内科医の管理を含めた包括的なケアが重要となる。

  • 吉川 美喜子
    2021 年 56 巻 Supplement 号 p. s96
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    【背景】我が国の腎移植の過程で、およそ3万3000人が自らの腎臓を提供し末期腎不全の家族を救ってきた。しかし他国からは生体ドナーの長期予後についての報告を散見し、生体ドナーの安全のため、また生体ドナー候補者に対して腎提供に関する正しい情報提供を行うためにも、我が国も生体ドナーの長期フォローアップと長期予後の調査が望まれる。

    【我が国の生体ドナーの長期予後と現状】腎移植臨床登録集計報告では、移植後7年間の観察期間で末期腎不全に至ったドナーはいらっしゃらない。しかし腎移植施設によっては生体ドナーの長期フォローをプライマリケア医に委任することがあり、ドナーの正確な予後の把握が困難である。医療ビッグデータ(リアルワールドデータ)を用いても、生体腎移植ドナーの予後の把握は困難であった。

    【今後の展望】生体腎移植ドナーの健康とwell-beingのためには内科医の参画、地域との連携強化、有効なレジストリの構築が望まれる。我が国において可能な方法を検討する。

  • 内田 啓子, 大木 里花子, 海上 耕平, 石田 英樹, 高木 敏男, 新田 孝作, 田邊 一成
    2021 年 56 巻 Supplement 号 p. s97
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    我が国の腎臓移植件数は増加しているが、内訳は生体腎移植が増加した結果である。臨床腎移植統計によると2019年度のレシピエントの平均年齢は48才、ドナー58才(70才以上は15.9%)と高齢化している。当院では2005年より生体腎移植ドナー評価を腎臓内科医が担当しているが、高齢ドナーの適応は、加齢による腎機能低下や既往歴の判断に迷うことが多い。今回はドナーの高齢化に焦点をあて、術前の腎機能評価、術前後の腎機能の変化に与える因子(含む腎生検)の検討を行う。方法は2008-2018年に当院泌尿器科で生体腎移植を施行した成人患者873名のドナーデータを後方視検討する。解析全患者(N=873)の平均年齢は59.3±9.7歳、男性34%、女性66%であった。移植時のCr (mg/dl) /eGFR(mL/min/1.73m2) の中央値は男性0.81 /75.4、女性0.62/75.2でBMIは男性が女性に比して有意に高かった(23.5 vs 21.6、p<0.01)。移植後1年の腎機能をフォローアップできた523名については、1年後Cr値(中央値)男性1.25mg/dl、女性0.93mg/dl(p<0.01)、eGFR値(中央値)46.3、48.0(p=0.03)と男性は有意に腎機能低下を認めたが、ΔGFRは男女で差を認めなかった。これらの基礎データに加え、生活習慣病関連因子、基礎疾患、0時間腎生検の病理組織とドナー年齢、ΔCrの検討を加え、ドナーの年齢により影響因子に差があるかどうかも含めて報告し、今後の高齢化ドナーの適応について考察したい。

  • 堀田 記世彦, 大澤 崇宏, 横田 勲, 稲尾 翼, 田邉 起, 岩原 直也, 篠原 信雄
    2021 年 56 巻 Supplement 号 p. s98
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    【背景】生体腎移植ドナーは、近年の報告においてCKDリスクの増加とともに長期的には生命予後に悪影響を与える可能性も指摘されている。【対象】1965年から2015年までに腎提供が行われた299例中、追跡可能であった230症例を対象とし、生存率と術後の腎機能推移について検討した。また、当コホートと年齢と性別で調整した一般人の生存率を厚生労働省から出されているデータより算出し、比較検討した。【結果】提供時年齢は中央値54歳(26-78)、性別は女性154、男性76例、観察期間の中央値11年(1-41)であった。死亡例が15例で、死因は悪性腫瘍9例、急性心筋梗塞2例、自殺1例、誤嚥性肺炎1例、消化管穿孔1例、腎不全1例であった。10年、20年、30年全生存率はそれぞれ95.3%、90.7%、80.9%であり、年齢、性別を調整した一般人の生存率と同等であった。次に術後の腎機能の推移について186症例で検討した。全例術前のeGFRは60ml/min以上であったが、術後38例がCKDステージ3b以上(eGFR45ml/min未満)となり、このうち2例で術後それぞれ24年、26年目に透析導入となった。一方で、この術後eGFR45未満となった症例とeGFR45ml/min以上の症例の生存率は同等であった。【結語】腎移植ドナーと一般人との比較では長期生存率は同等であった。また、CKDステージ3b以上の腎機能低下となる症例を認めるものの、術後の腎機能は生存率に影響を与えなかった。

  • 平光 高久, 二村 健太, 友杉 俊英, 岡田 学, 後藤 憲彦, 一森 敏弘, 鳴海 俊治, 渡井 至彦
    2021 年 56 巻 Supplement 号 p. s99
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    はじめに

    本邦では生体腎移植術が腎移植術の大部分を占めている。生体腎移植において、最も大切なことは生体腎移植ドナーの将来的な腎予後である。生体腎移植ドナーの腎提供後の腎機能、透析導入リスク、生命予後について検討した。

    方法

    2008年1月から2018年12月までに生体腎移植術のために腎採取術を受けた生体腎移植ドナーのうち、805例を対象として検討を行った。生体腎移植ドナーを年齢層別に30-49才、50-69才、70-89才に分けて背景因子、baseline biopsy結果、eGFR、透析導入率、生命予後について検討を行った。

    結果

    患者背景では、年齢層が高くなるに従って、術前合併症(高血圧、脂質代謝異常、耐糖能異常)が多くなり、血圧、LDL cholesterol、triglyceride、空腹時血糖などのデータも悪化を認めた。Linear mixed model analysisによりeGFRを検討すると、30-49才>50-69才>70-89才の順に有意にeGFRが低く推移することが示された。さらに、baseline biopsyにおいても30-49才<50-69才<70-89才の順に、IF/TA、細動脈硬化病変、荒廃糸球体病変などの所見を有意に多く認めた。透析導入例は認められなかった。生命予後に関しては、観察期間内に生体腎移植ドナー11人の死亡を認めたが、Kaplan-Meierで検討すると年齢層間で有意差を認めなかった。

    結語

    生体腎移植ドナーの腎採取後のeGFRは年齢が高くなるに従って、低い値で推移するが、透析導入、生命予後には影響を与えないと考えられた。

  • 山永 成美, 日高 悠嗣, 豊田 麻理子, 椛 朱梨, 高野 雄一, 山本 泰弘, 稲留 彰人, 伴 英樹, 横溝 博, 宮田 昭
    2021 年 56 巻 Supplement 号 p. s100
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    腎提供後、生体ドナーの腎機能は代償性肥大により6,7割まで回復するが、末期腎不全への進展を回避するためには、術後腎機能を予測することは重要である。我々は、当院で行われた生体腎移植ドナーの術前データより、①術前CTから得られた残存側腎容積/ドナー体重の比、②年齢、③性別、④高血圧の有無が、術後1年目の腎機能の予測因子として同定した(Okumura, BMC Nephrology 2019) 。更に、術後データであるベースライン1hr生検結果及び、術前生活習慣病の生化学的データを加え詳細に解析したところ、①ah≧1かつct+ci>1,及び②術前高尿酸値が術後1年目の腎機能回復に寄与している可能性が示唆され、生物学的な老化ともとれるah≧かつct+ci>1で示される慢性化スコアが、実年齢のリスクを上回っていた(Nishida, BMC Nephrology 2019)。そこで、実年齢と生物学的年齢の差の非侵襲的な指標として、大動脈石灰化と慢性化スコアが関連あることを証明した(Tanaka, J Clin Med 2021)。更に、術前高尿酸値である場合、術後5年以内までの代償性肥大が働きにくく、術後に高血圧、糖尿、高尿酸、高脂血症などで投薬が必要となったり、CVDリスクが上昇したりすることが示された (Tanaka, BMC Nephrology 2021)。

    これまでに得られた生体腎移植ドナーの残存腎における代償性肥大に影響を及ぼす因子について、文献的報告を加え共有したい。

  • 松本 美香, 高橋 瑞穂
    2021 年 56 巻 Supplement 号 p. s101
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

     肺移植後の管理・患者指導は、拒絶反応の早期発見や感染症の予防、内服管理、精神的援助等、専門的な知識が必要であり介入が難しいと感じる場面が多い。当病棟は混合病棟のため肺移植以外の領域も担当しており、時間を要する肺移植後患者への指導は、移植コーディネーター(RTC)に委ねていた部分が多かった。しかし、患者と最も長い時間を過ごすのは病棟看護師であり、患者への指導者的役割、自己管理獲得のモデルになり得る看護師の意識、知識の向上は、患者指導の質を深めるために必要不可欠と考えている。

    そこで、RTCと協同し「看護師用マニュアルと患者用オリエンテーションブックの作成」「多職種連携の体制づくり」に力を入れた。以前は、退院直前にRTCからオリエンテーションを行うのみであったが、看護師が早期から繰り返しオリエンテーションを行うことで、自己管理習得へ働きかけることができた。多職種連携に関しては、栄養指導、薬剤指導、多職種による患者ラウンドの導入に加え、移植待機患者やCLAD患者の呼吸困難等苦痛緩和を目的に、サポーティブケアチームの介入も積極的に導入した。

     以上の取り組みにより、看護師は多職種のスタッフと直接関わる時間が増え、相談が行いやすくなった。また、治療方針の明確化と多職種間での情報共有も可能となり、看護師は助言を受けながら主体的に患者指導に取り組むよう変化し、タイムリーに患者のニーズへ対応できるようになった。

  • 石原 恵, 杉本 誠一郎, 石上 恵美, 鶴園 真理, 山下 里美, 難波 由美子, 富岡 泰章, 田中 真, 三好 健太郎, 大谷 真二, ...
    2021 年 56 巻 Supplement 号 p. s102
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    背景:新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策として,岡山大学病院(当院)では独自に指定している多発発生地域からの受診を原則見合わせている。当院の肺移植後患者(患者)の居住地は全国に渡るため,日常診療はかかりつけ医に依頼し,年1回は肺移植後検診のために当院を受診するようにしているが,COVID-19流行下では多くの患者が当院への受診が困難となった。COVID-19流行下での患者フォローの工夫と課題について検討した。

    方法:当院にて2021年5 月までに施行した肺移植205例のうち,2020年5月以後に生存中の患者133名を対象に後方視的に検討を行った。

    結果:当院への受診が可能だった患者は48名(36.1%)であり,85名(63.9%)の患者は受診が困難であった。受診が困難だった患者については,かかりつけ医に肺移植後の定期検診と,検診結果の当院への郵送を依頼した。当院の主治医が検診結果を確認し,レシピエント移植コーディネーターは患者への問診や指導,相談に応じ,翌年の当院での検診を予約した。検診結果に応じた薬剤変更などをかかりつけ医に依頼し,拒絶や肺炎と診断された場合にはかかりつけ医と連携し治療を行った。移植後特有の検査や治療をタイムリーに行えないなどの課題もあった。

    結論: COVID-19流行下で当院への受診が困難な状況下では,より一層かかりつけ医と緊密な連携を取ることが重要であると考えられた。

  • 安井 健, 藤原 清香, 玉城 七海, 今井 博子, 嶋田 朝子, 岡 奈緒美, 加賀美 幸江, 佐藤 雅昭, 中島 淳, 緒方 徹
    2021 年 56 巻 Supplement 号 p. s103
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    はじめに:臓器移植医療では多職種が連携して治療にあたるが、その全体像や介入目的の特徴は明らかではない。そこで、東大病院における各種臓器移植の術後から退院までに必要とされた連携治療を、後方視的に調査した。

    対象:2018年1月~2020年12月に、当院で肺、心臓、肝臓の移植手術を受けた患者を対象とし、リハビリテーション部(リハ)の介入なく死亡退院となった患者は除外した。

    調査項目:理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、精神科リエゾンチーム(リエゾン)が関与した患者数と主な介入理由を、移植臓器別に調査した。

    結果:対象患者は、肺57名(脳死46名、生体11名)、心臓59名、肝臓122名(同21名、101名)であった。調査結果を表に示す。

    考察:各臓器移植術後に生じた介入目的には特徴があった。当日は肺移植のリハの課題を中心に考察し発表する。

  • 池田 政樹, 中島 大輔, 大島 綾子, 大島 洋平, 栢分 秀直, 田中 里奈, 山田 義人, 豊 洋次郎, 大角 明宏, 濱路 政嗣, ...
    2021 年 56 巻 Supplement 号 p. s104
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    背景:肺移植後の栄養管理では, 体外循環使用に伴う腸管浮腫, 誤嚥, 肺水腫に注意が必要で, 既存のプロトコルは無い. 今回プロトコルを作成, 導入したので, その成果を報告する.

    対象と方法:2019年1月から2020年12月に当院で実施した18歳以上の肺移植43例を対象とした. プロトコルは, 術後2-3日に経腸栄養または中心静脈栄養を開始し, 術後7日目の目標エネルギーを標準体重×25 kcal, 蛋白量を標準体重×1 gとし, 極端なやせは現体重を用いた. プロトコル開始前28例(前群)と開始後15例(後群)で, 栄養開始日, 術後7日目の栄養充足率, 体重・体組成の変化, 脊柱起立筋の筋量(CT断面積)を比較した.

    結果:経腸栄養は中央値で前群71%, 後群100%, 中心静脈栄養は前群79%, 後群100%に実施された. 栄養開始は後群で早かった(前群4日, 後群3日, p=0.004). 術後7日目のエネルギー充足率は前群69%, 後群83%(p=0.010), 蛋白充足率は前群74%, 後群95%(p=0.008)であった. 術後1か月, 3か月の体重減少は後群で有意に抑制された(-3.7 kg vs -1.4 kg, p=0.031; -4.4 kg vs -0.1 kg, p=0.013). 術後2か月で細胞外水分率に差はなく, 体重に対する浮腫の影響は否定的であった. ICU退室時に見られた筋量減少(前群-16%, 後群-12%)は, 術後3か月で後群において有意に回復していた(前群-14%, 後群-4%, p=0.009).

    結語:早期栄養介入により, 術後早期の体重減少, 筋量減少が抑制された可能性がある.

  • 中村 彰太, 六鹿 雅登, 後藤 和大, 仲西 慶太, 杉山 燈人, 門松 由佳, 上野 陽史, 後藤 真輝, 尾関 直樹, 福本 紘一, ...
    2021 年 56 巻 Supplement 号 p. s105
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    【背景】脳死ドナー臓器摘出では、外科医だけでなく臨床工学技士(ME)・看護師・コーディネーター等多職種が関わる医療で、実際の手技を知っていればよりよい連携が可能かもしれない。献体されたご遺体の固定方法は進化しており、特殊な保存液で固定された状態は生体と類似しているため、手術トレーニングに用いることが可能となった。肺移植実施施設でない当院での実施施設へのとり組みの一貫として、心臓外科医・ME・医学生と合同で臓器摘出トレーニングを実行したので報告する。

    【トレーニング概要】開胸・心嚢切開し臓器評価方法を全員で確認した後、心灌流液注入用と肺灌流液ドレナージ用のカテーテルを各留置し、大血管を遮断し心臓摘出、続いて肺摘出を行った。続いてバックテーブルにて肺の植え込みができる状態にまで処理を行いトレーニング終了とした。心肺摘出に際して重要となる左房の処理については、操作を止め指導医にポイントを解説してもらいつつ、心臓外科・呼吸器外科の双方の考えを伝え、解剖を確認しながら行った。また、MEと肺灌流液ドレナージ経路の方法や肺灌流のタイミングなど細やかな部分まで共有できた。

    【結語】本トレーニングは多職種での手技と順序の確認に有用で、臓器摘出の際互いに心がけているポイントや考えも共有・理解できた。今後はプログラムを定型化し、実践に対応できるレベルに質を高めつつ、看護師やコーディネーターも含めて行う予定である。

  • 塚本 泰正, 瀨口 理, 渡邉 琢也, 望月 宏樹, 下島 正也, 羽田 祐, 大郷 恵子, 池田 善彦, 畠山 金太, 福嶌 五月, 藤田 ...
    2021 年 56 巻 Supplement 号 p. s106
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    急性細胞性拒絶反応(ACR)は心臓移植後の主要な合併症であるが、病初期には無症状かつ非侵襲検査で特異的所見が得られづらく、定期的な心内膜心筋生検による評価が必要である。一般に遠隔期にはACRによる死亡頻度は低下するとされているが、適切な生検頻度などスクリーニング法について明確なエビデンスに乏しい。今回我々は当院でのACRの実態を後方視的に解析したので報告する

    【対象と方法】対象は1999年5月から2020年4月までに当院で心臓移植を受けた移植時18歳以上の129症例(男性74%、移植時年齢41.8±12.9歳、観察期間7.4±5.0年)。現在の心筋生検のスケジュールは1,2,3,5,7,11週目4.5,6,9ヶ月目、2年まで2/年、10年まで1/年、それ以後1/ 2年で免疫維持療法はタクロリムス(Tac)(2005年以前はシクロスポリン(Cys))、ミコフェノール酸モフェティル、プレドニゾロンである。腎機能低下、高齢、抗ドナー抗体陽性例等でバキリキシマブを使用。

    【結果】129例中13例にGrade 2R以上のACRを認めた。心不全発症は抗体関連拒絶も合併したGrade 2Rの1例(術後3.5年)のみで、全例で治癒しACRによる死亡例は認めなかった。Grade 2R以上ACR発症症例は移植後3ヶ月未満0%、3-6ヶ月2.3%、6ヶ月-1年2.4%、1-3年4.2%、3-5年4.3%、5-10年3.3%、10年以上0%であった。手術後初回カルシニューリン阻害薬がCysであった15症例ではACR発症頻度が40%とTac症例(114症例、ACR6.1%)に比して有意に高頻度であった(p<0.05)。

  • 網谷 英介
    2021 年 56 巻 Supplement 号 p. s107
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    重症心不全に対する治療である心臓移植について、その後の管理としては移植心を拒絶から守ることが最も肝要となる。拒絶には細胞性拒絶と抗体関連拒絶があるが、グラフト機能を保持するためには拒絶の状況をもれなくスクリーニングすることと、これに対する適切な治療が重要である。

    移植心の拒絶の診断のゴールデンスタンダードは心筋生検組織による病理組織学的診断になるが、心筋生検は侵襲的な検査のため、頻度多く行うのも困難でありサンプリングエラーもあり得る。血液検査・心電図や心臓超音波をはじめとした生理学的検査によっても拒絶を示唆する所見をえることもできるが、抗体関連拒絶に関しては抗HLA抗体の存在も示唆的な所見である。また最近では心臓MRIの技術によって拒絶のスクリーニングを行う試みもはじめられている。

    文献的な検討を交えながら、当院での拒絶のスクリーニング法について再考し、より適切な方法論について検討する。

  • 菊池 規子, 長尾 充展, 服部 英敏, 野本 美智留, 市原 有起, 斎藤 聡, 新浪 博士, 萩原 誠久, 布田 伸一
    2021 年 56 巻 Supplement 号 p. s108
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    【背景】移植心冠動脈病変(CAV)は、細胞性拒絶、抗体関連型拒絶の免疫反応をもとに、その他の修飾因子も加わり、冠動脈の内膜が肥厚し、びまん性内腔狭窄を来たす。冠動脈造影(CAG)や血管内超音波法(IVUS)が診断のゴールドスタンダードであるが、微小血管の変化は検討できない。アンモニアPET検査は、心筋血流や血流予備能を定量化することができる非侵襲的な検査であり、移植後拒絶の総括病態を示すCAVにおける有用性について評価した。

    【方法・結果】41名の心臓移植患者(平均年齢39歳、移植後平均11年)のアデノシン負荷アンモニアPET検査のデータを解析した。Myocardial flow reserve (MFR)はstress/rest Myocardial blood flow (MBF)で算出した。MFRが2.0未満を有意な虚血と定義した。移植患者の平均MFRは2.3 ± 0.7であり、コントロール群(3.1 ± 0.7)と比較し有意に低かった(p<0.001)。移植患者のCAG・IVUS所見とMFRを比較したところ、CAGで狭窄病変のない患者のMFRは低下から保持まで様々であったが、IVUSでCAVを認めるほとんどの患者ではMFRは2未満と低下していた。

    【結論】アンモニアPETで算出したMFRは移植患者の1/3で2.0未満を示した。移植後拒絶の総括評価としてのアンモニアPET検査の有用性を詳細に評価するためにさらなる検討が必要である。

  • 藤野 剛雄, 石北 陽仁, 石川 裕輔, 橋本 亨, 絹川 真太郎, 牛島 智基, 田ノ上 禎久, 塩瀬 明, 筒井 裕之
    2021 年 56 巻 Supplement 号 p. s109
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    心臓移植後の定期的な心筋生検によるフォローアップは、細胞性拒絶を早期に検出する最も確立したスクリーニング法として位置づけられている。また抗体関連拒絶の診断においても、心筋組織の病理学的・免疫学的変化は重要な所見である。しかし、心筋生検では有意な拒絶反応の所見を検出できないにもかかわらず臨床的に拒絶と判断される例はしばしば経験され、抗体関連拒絶のみならず細胞性拒絶の診断においても心筋生検による診断精度には限界がある事が示唆される。さらには、侵襲的検査である心筋生検を繰り返すことに伴う合併症のリスクも無視することはできない。そうした中、治療が必要な拒絶反応を見逃さないために、心筋生検に代わる新たなスクリーニング法が探索されている。現在有望な方法の一つとして、海外では血中に存在するドナー由来のcell-free DNAを測定することでグラフト障害を検出する方法が報告されている。また我々は、画像診断を用いて拒絶反応を検出できる可能性についても検証している。心筋生検の限界を補う新たな拒絶反応診断方法の現状と今後の展望について考察する。

  • 佐藤 琢真
    2021 年 56 巻 Supplement 号 p. s110
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    患者管理・薬物療法の目覚ましい発展により心臓移植後の長期予後は改善してきたが、依然として拒絶反応は心臓移植後患者の重要な予後規定因子の一つである。免疫抑制剤の発達により急性期の拒絶反応発症頻度は減少したものの、移植後1年以内の発症は約12%と報告されている。拒絶反応としては急性細胞性拒絶反応(ACR)、抗体関連型拒絶反応(AMR)があり、どちらも早期死亡や移植心冠動脈病変の発症に関連することが知られている。これまで心臓移植における拒絶反応は心筋生検による病理学的所見により診断されてきたが、その検査侵襲性や合併症、実施のタイミング、正診率が課題であった。このことから近年は従来の病理学的診断に加えて、血清あるいは組織を用いた分子診断にて拒絶反応を診断しうる手法が新たに確立され始めている。代表的なものとして、遺伝子発現プロファイリングを用いて血液中の20種類のRNA検出を行うことで国際心肺移植学会(ISHLT)grade 2R 以上のACRを予測することを可能とした方法(AlloMap®検査)、ドナー心が傷害された際に放出される血漿中のドナー由来のDNA(cell-free DNA)を検出し定量化することでAMR/ACRを診断する方法、心筋生検組織や血漿から抽出されたmRNAを用いてリアルタイムPCRを行うことで拒絶反応に特徴的な炎症性サイトカインを検出しACR/AMRを診断する方法等が開発されており、欧米では実臨床において有用性の確認が進められている。

  • 西村 慎吾, 荒木 元朗, 和田 耕一郎, 関戸 崇了, 吉永 香澄, 和田里 章悟, 丸山 雄樹, 山野井 友昭, 山下 里美, 佐古 智 ...
    2021 年 56 巻 Supplement 号 p. s112
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    【緒言】ABO血液型不適合腎移植では脱感作療法が不十分な場合や、移植後導入期の感染症がaccommodationの誘導・成立を妨げる大きな因子といわれている。

    【対象と方法】2009年から2021年3月までに当科で施行された生体腎移植122例のうち、ABO血液型不適合移植46例について、細菌感染症が急性抗体関連型拒絶反応AMRの発生に与える影響を後方視的に検討した。発熱を伴いGram陰性菌を分離し、治療を要した場合を細菌感染症と定義し、脱感作療法は全例でリツキシマブ200mg、DFPP2回、PEX1回が実施された。

    【結果】細菌感染症は10例(甲群)で、拒絶反応は1例もなかった。術直前抗A抗B抗体価IgG、IgM(中央値)はそれぞれ、1倍(1倍以下-64倍)、2倍(1倍以下-8倍)、感染後は、1倍(1倍以下-32倍)、2倍(1倍-2倍)であった。

    残りの36例(乙群)のうち、2例は術後1週間でAMR、2例は2ヶ月以降にACRを発症していた。甲・乙群で脱感作療法前の抗体価IgMが64倍vs16倍(p=0.049)と有意差を認めたが、その他の背景や、脱感作療法以降の抗体価、術後腎機能に有意差は認めなかった。

    【考察】移植後に発熱を伴う細菌感染を疑った場合は即座に培養、empiricな抗菌薬投与を行うことで、移植後1~2週間のcritical periodにGram陰性菌への暴露により発症するとされるⅡ型のAMRを抑制している可能性が示唆される。

    【結語】ABO血液型不適合生体腎移植後の細菌感染症への迅速な対応によりAMRは認めなかった。

  • 野口 浩司, 植木 研次, 松隈 祐太, 土本 晃裕, 加来 啓三, 中村 雅史
    2021 年 56 巻 Supplement 号 p. s113
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    【背景】2017年のBanff分類よりi-IF/TAや尿細管炎の程度に代表される慢性活動性T細胞性拒絶反応(CA-TCMR)というテゴリーが導入されたが、その予後や治療効果については明らかではない。

    【対象・方法】当科で腎移植を行い、2018年から2020年12月までに移植腎生検でCA-TCMRと診断された34例を後方視的に検討した。

    【結果】診断時の平均年齢は45.1才、移植後16.7ヶ月、発見契機はepisode生検が16例(47%)であった。4例が廃絶しており、診断後の一年生着率は86.8%であった。30例にステロイドパルス、サイモグロブリン、維持免疫抑制剤変更/増量治療の単独または併用による治療が行われた。それらの治療後13例に確認生検を行ったところ、4例はCA-TCMRの所見が残存し、5例がborderline change、4例が拒絶なしの所見であった。治療効果に対する診断時のリスク因子についての単変量解析では、episode生検で診断されたもの、移植後の期間が長いもの、尿蛋白クレアチニン比高値、eGFR低値が有意であった(それぞれP=0.0003, P=0.001, P=0.0006, P=0.0244)。

    【結語】腎機能に影響を認めない早期に診断されたCA-TCMRに関しては、積極的な治療を行うことで病理所見が改善する傾向にあり、その後の生着率向上につながる可能性が示唆された。

  • 岩藤 和広, 平田 真依子, 片岡 浩史, 望月 俊雄, 土谷 健, 新田 孝作
    2021 年 56 巻 Supplement 号 p. s114
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    【目的】拒絶反応は移植腎機能廃絶の主たる要因の一つである。拒絶後の移植腎が機能低下するか否かを機械学習によって予測することを試みた。

    【方法】2008~2015年に東京女子医科大学腎臓外科で施行した腎移植774例から腎生検で拒絶と診断した132例を対象とした。目的変数Yは拒絶から5年後のCDK stageが拒絶時より上がっていれば1、いなければ0とした。拒絶時にstage 5の場合は透析再導入で1とした。説明変数Xは、移植前、移植~拒絶、拒絶時、拒絶後一年以内の免疫、病理、生化学など158項目とした。Permutation testなどでYと関連の強いX’を選び、8つの機械学習モデルから最も高精度のモデルMを選び、X’とYから予後予測モデルM’を作成した。

    【結果】stage上昇(SU)群は64例(48.5%)で、移植~拒絶の期間と各種Banff scoreが有意に高く、拒絶後のTacrolimusの濃度が有意に低かった。またSU群でCA-AMRの頻度が有意に高く、拒絶前のMMFやMedrolの投与量が有意に低かった。Symbolic Regressionが最も予測精度が高く、leave-one-outの交差検証でAUC 0.773の予測モデルM’が得られた。頻用された予測因子は、Banff g、ptcbm、拒絶後の免疫抑制剤濃度、Hb値などだった。

    【考察】慢性期の拒絶の予後が悪く、Banff scoreは有用な予後予測因子で、拒絶後の免疫抑制剤の濃度を高めに保つことが予後を改善する可能性が示唆された。

  • 藤原 拓造, 窪田 理沙, 太田 康介, 高橋 雄介
    2021 年 56 巻 Supplement 号 p. s115
    発行日: 2021年
    公開日: 2022/05/12
    ジャーナル フリー

    【背景】移植腎生着延長、レシピエント高齢化を背景に生着死亡例は増加している。【対象・方法】1988年11月より2019年3月までに当科で施行し観察打ち切り時点まで当科に通院した18歳以上の腎移植レシピエントのうち、1年未満の死亡・機能廃絶例を除いた302症例(生体236、献腎66例)を対象とし、2021年3月31日時点で当院診療録より評価した。生着群(n = 193)、機能廃絶群(n = 83)、生着死亡群(n =26)の3群に分け、比較検討した。3群間で有意差を認めた臨床項目を用い、多変量解析にて生着死亡の危険因子を求めた。【結果】移植から死亡までは平均8.0± 5.7(中央値;7.6年)で、死因は悪性疾患11、心血管疾患3、脳血管疾患2、感染症6、突然死4例であった。3群間で有意差を認めた項目はレシピエント年齢、ドナータイプ、移植施行年、ABO血液型不適合性、1年以内の拒絶反応の発症、1年後の移植腎機能、悪性疾患の発症であった。生着死亡の多変量解析で有意差を認めたのはレシピエント年齢(相対ハザード; 1.062, 95% 信頼区間; 1.024 – 1.102, p = 0.001)と悪性疾患発症(相対ハザード; 3.165, 95% 信頼区間; 1.565 – 8.632, p = 0.003)の2項目であった。【考察・結語】高齢レシピエントにおいては悪性疾患スクリーニング、心血管疾患対策、適切な免疫抑制療法等が肝要と思われた。

feedback
Top