移植
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57 巻, Supplement 号
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  • 栗原 啓, 剣持 敬, 伊藤 泰平, 會田 直弘
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s188_2
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    [背景]

    膵臓移植の標準的な維持免疫抑制療法はミコフェノール酸モフェチル(MMF)を含む3剤併用が一般的であるが、新型コロナウイルス感染時にはMMF減量・中止、エベロリムス(EVL)へのconvert等が推奨されている。当科では、以前より感染症などにより、MMF減量あるいは中止が必要な場合、EVL add onもしくはconvertを選択している。膵臓移植におけるEVL投与と移植成績について検討した。

    [方法]

    当科で2012年から2021年まで実施した膵臓移植のうち、1年以上が経過し抗HLA抗体測定が可能であった60人を対象とし、後方視的検討を行った。

    [結果]

    60人の患者のうち、初期投与量のMMF1500mg/日が維持可能であったのが26例(MMF維持群)、MMF単純減量・中止した23例(MMF減量群)、MMFの減量・中止に対しEVLの投与を行ったのが11例(EVL群)であった。移植後13人の患者にDSA産生がみられたが、MMF維持群3例(12%)、MMF減量群8例(35%)、EVL群2例(18%)、であった。DSAはグラフト生着率に影響し、DSA陰性例の3年グラフト生着が100%であったのに対して、DSA陽性例は60.6%であった。また、EVL は副作用として耐糖能異常が指摘されているが、投与前後の糖負荷試験、内分泌機能検査では変化なく、膵臓移植後の免疫抑制療法として問題無く、使用可能であった。

    [まとめ]

    EVLは、膵臓移植においてDSA産生を抑制し、耐糖能にも影響を与えなかった。新型コロナウイルス感染時の免疫抑制療法として有用であると考えられた。

  • 簗瀬 正伸, 船戸 優佑, 井澤 英夫
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s189_1
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

     藤田医科大学病院は非心臓移植実施施設であるが、日常診療の中で心臓移植内科医の役割は大きいと感じる。その役割を具体的には、(1)心臓移植適応のある重症心不全患者を見逃さないこと、(2)近隣の地域で暮らす心臓移植患者を診療を通じて支えること、(3)他臓器の移植適応患者や移植待機患者を診ること、(4)脳死下臓器提供に貢献すること、(5)心臓移植の適応がない重症心不全患者に対するDestination Therapy(DT)の適応を検討し、適応があれば提案すること、などがあげられる。脳死下臓器提供が少ない我が国において、ステージDの末期重症心不全患者に心臓移植という治療選択肢を、自信を持って薦められる循環器内科医は多くない。しかし心不全患者の多くは循環器内科医が診療しており、これらの医師から積極的にコンサルトを受け、必要であれば心臓移植治療について患者及び患者家族に心臓移植治療の情報を提供することは移植内科医の使命と考える。心臓移植実施施設は全国に11施設(成人は10施設)しかなく、実施施設から遠方に居住している心臓移植者は多い。新型コロナ感染症の流行もあって県をまたぐ移動を伴う受診を恐れたり、経済的な理由で近隣の病院での診療を望む者もいる。しかし心臓移植者は除神経心であるため虚血性心疾患であっても胸痛はなく、拒絶反応を疑う所見も見つけにくい。免疫抑制剤の用量調整にも幾ばくかの経験が必要となる。

     心臓移植内科医は手術はできないが、心臓移植手術の前後を問わず心臓移植医療の中心的な存在であり、加えて他臓器の移植医療や脳死下臓器提供の場においても貢献し得る重要な役割を担っている。

  • 宇井 雅博, 平間 崇, 岡田 克典, 野田 雅史, 新井川 弘道, 大石 久, 渡辺 有為, 渡邉 龍秋
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s189_2
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    日本における肺移植実施施設は10施設ある。日本の医療機関の多くが近隣に移植施設を持たず、移植医療に携わる機会は少なく、私が従事していた新潟県も同様であった。しかし新潟県をはじめ、北陸地方にも肺移植を必要とする患者は多くいる。そこで、移植内科医の研修プログラムに応募し、現在、東北大学呼吸器外科で移植内科医として肺移植診療に従事している。肺移植医療は、①かかりつけ医療機関からの肺移植実施施設への紹介、②移植登録、③肺移植手術、④周術期管理、⑤慢性期管理、から成立する。肺移植内科医としての診療業務は、上記における③以外すべての診療であった。考えていた以上に、外科的処置が必要な期間は限られており、むしろ内科的な対応を要する医療であることを実感した。待機患者の呼吸器感染症の治療(移植手術を見据えた対応)、日本臓器移植ネットワークとの連携、術後ICU管理、免疫抑制薬の調整、拒絶反応や感染症予防、さらには、移植患者の終末期緩和ケアなど、移植施設で勤務して初めて経験する診療も多くあった。免疫抑制剤の薬物相互作用はすべての過程で注意を払う必要があり、この分野における専門的内科医の存在は極めて重要であると実感した。

    本ワークショップにおいて、肺移植医療における呼吸器内科の業務・役割を紹介するとともに、移植実施施設以外での呼吸器内科医としての役割に関して考察を行う。

  • 上田 佳秀
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s190_1
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    肝移植後患者の長期予後の改善のためには、外科医のみならず内科医を含む各専門医ならびに他の医療スタッフがチームとして患者診療にあたることが不可欠である。今回、以下の2点から日本の肝移植患者診療における内科医の役割と今後の移植内科医育成方法について考察する。(1)日本の肝移植におけるチーム医療の実際: 肝移植適応となる肝不全患者診療は肝臓内科医が行っており、適切な時期に適応を判断して外科医に紹介し、肝移植に向けて治療を継続する必要がある。この部分は、広く肝臓内科医が持つべき知識・経験であり、現在肝臓学会ホームページに情報を公開し啓蒙活動を行っている。一方、肝移植後の原疾患再発対策、免疫抑制療法、生活習慣病治療などについては、専門知識を持つ肝臓移植専門内科医が必要であり、今後の積極的な育成が必要である。(2)米国におけるTransplant Hepatologistとの比較:米国ではTransplant Hepatologistという職種が定着しており、移植患者の診療に内科医が中心的な役割を果たしている。一方で、日本では肝移植患者のみを診療する内科医はほとんどいない。この相違を生み出している原因は何か、米国のシステムを日本に取り入れるべきか、についてMayo Clinic Floridaの移植現場の視察経験から考察する。現時点では、米国の移植医療から学ぶべきものはあるものの、日本にそのまま取り入れるには多くの問題があると考える。肝移植前後には内科医の関与が重要であることは明白であり、日本における最適な内科医の関与方法や肝臓移植専門内科医の育成方法を検討する必要性がある。

  • 四馬田 恵, 平塚 いづみ, 鈴木 敦詞
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s190_2
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    膵臓移植を希望する1型糖尿病患者の多くは、重篤な低血糖発作や高血糖により血糖コントロールが不安定な状態が継続し、さらに合併症の進行もあり、著しいQOLの低下を認める。膵臓移植はインスリン分泌の回復により血糖コントロールが改善するのみならず、生命予後を改善し、ADL、QOLを大きく改善することができる。一方で、移植後は糖質コルチコイドや免疫抑制剤による糖代謝ならびに骨代謝の悪化が懸念される、

    移植患者は複数の進行した合併症を抱えており、待機期間中も細心の注意を払った全身管理が必要になる。また、移植後、インスリン治療を離脱し、血糖の正常化を得られたとしても、75gOGTT負荷試験を行うと、インスリン分泌の様々なパターンが認められ、移植後に反応性の低血糖を認めることもある。また、移植後に定期的な末梢神経障害や骨代謝の観察も行い、併存疾患へのケアも行うことを目指している。移植患者の長期予後改善にともない、慢性期管理の重要性も増していく。今後も膵臓移植に携わる内科医として、長期予後を見据えた内科的管理を行い、1型糖尿病の根治治療となり得る膵臓移植の適応や有用性について、啓発活動をおこなうことも重要であると考える。

  • 豊田 麻理子, 川端 知晶, 石塚 俊紀, 濱之上 哲, 日高 悠嗣, 山永 成美
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s191_1
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    免疫抑制剤や免疫学的検査の進歩などにより腎移植の成績が着実に向上している一方で、高齢者や糖尿病などハイリスクの移植患者が増加し、生活習慣病、心血管合併症、悪性腫瘍、感染症などの合併症が問題となっている。術前評価や移植後の管理において、これらの非免疫学的合併症には内科医の知識と経験が必要とされている。

    術前においては、近年透析未導入の移植(PEKT)が増加しており、移植までの全身管理についてはかかりつけの腎臓内科医との協力が欠かせない。当院では、腎臓内科医が窓口となって移植の相談を受けることによって、移植施設への紹介のハードルが下がりコミュニケーションがとりやすくなっている。また、腎不全患者の高齢化に伴いドナーも高齢化しており、マージナルドナーの適応には慎重な判断が求められる。ドナーの安全性を担保するためには、術前評価だけでなくフォローも腎臓内科医の重要な役割である。術後においては、血圧や血糖といったCKD管理が長期生着には大きな影響を与えることは言うまでもない。最近はCKD領域において腎保護作用が認められた新しい薬剤が登場しており、これらの薬剤を使いこなすことにより移植患者においても腎保護作用が期待される。

    移植患者の増加に伴い腎臓内科医の関与は必然となっている。多くの腎臓内科医にとって移植医療はチャレンジングな分野かもしれないが、保存期から移植まで腎臓内科医が一貫して関わることは、トータルケアの充実や腎臓内科医としての診療の幅を広げるきっかけにつながる。腎臓内科医の立場から、今後の移植における内科医参画の展望と課題について考えてみたい。

  • 成田 円
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s192_1
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    移植医療は、人の意思を尊重した高い倫理性を問われる医療であるにも関わらず、基礎教育の中で講義に取り上げられることは少ない。また、移植施設でない限り携わることはなく、入職してから移植医療や移植看護、(ドナー/レシピエント)移植Coの役割を初めて知り、患者さんやドナーさん、それらのご家族と関わることで移植看護の奥深さを実感するのが現状ではないだろうか。移植医、提供医、移植看護や移植Coの先駆けを担われた諸先輩方、関係するメディカルスタッフ、JOT、ドナーファミリー等のご尽力により移植医療体制が法律等により整備された今、現状維持にとどまらず今後の移植医療の発展には後進育成は欠かせない。私は看護師1年目で移植病棟に配属され、プライマリーナースとしてIgA腎症の患者さんに関わったところから移植医療に携わることができた。その後、縁あって移植医療に関する多くの経験をさせていただいた。移植病棟での研究活動、移植Coの先駆者達との出会い、看護教員、院内移植Coの立ち上げのサポート、スペインへのDAP研修の参加、JATCOでの教育活動、造血幹細胞移植医療での移植Coの立ち上げ等々である。現在は、造血幹細胞移植医療の中で、レシピエント移植Coとして勤務している。多くの経験をさせていただいた中で移植Coの後進育成を考えた時に、個人の努力も必要ではあるが、社会や組織の仕組み作りも重要であると感じる。ワークショップでは、いままでの経験知から得た育成についての考えと造血幹細胞移植領域での育成も紹介しながら、移植Coがより発展し専門性をもって活動できるような育成のあり方について、皆様とのディスカッションを通して考えていきたい。

  • 河野 恵
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s192_2
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

     認定制度開始以後10年を過ぎ、現在約150名のRTCがいるが、資格取得者数も減少しており後進育成は課題である。要因としては施設基準にRTCの配置が謳われているが医療界・院内におけるRTCの認知度は低く、業務が多岐にわたるRTCは業務過多というイメージが強いことや、疲弊や移植と関係のない部署異動による役割遂行の中断等が考えられる。また在院日数短縮化により外来看護の充実が求められ外来での限られた時間での関わりなど後進教育の環境の変化等も挙げられる。

     当院では4人目がRTC取得を希望しているが、現在RTC3名で行っている活動とRTC1期生としてまた管理職として、これまで取り組んできた後進育成について紹介する。決して恵まれた環境とは言えないが自身の振り返りも含め、やりがいを感じること、自身のキャリア形成に組み込めること、施設を超えた支え合えるネットワークも刺激となり、モチベーション維持につながり今日に至っている。

     今後は施設内に留まらない、指導ツールや指導内容・知識の共有化を図ることで後進の負担軽減や移植医療の向上に寄与できると考える。そのためには組織的なRTCネットワーク構築や教育・管理の支援体制が必要と考える。それによりRTCの認知度が向上し、時間の確保や業務負担の軽減につながり、RTC希望者増員へと好循環するのではないか。さらには自己管理や長期生着に貢献できているというRTCの存在意義を明らかにし、国が目指すCKD医療への貢献に繋げるべきである。

  • 柏浦 愛美, 山本 真由美, 中野 政子
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s193_1
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    【はじめに】

     当院は各臓器2名のレシピエント移植コーディネーターと造血細胞移植コーディネーターがおり、チームを構成している。やりがいや困難さを感じながら成長してきた過程を振り返り、後進育成について検討する。

    【成長過程】

     配属後の指導は先輩からOJT教育を受け、移植の過程や背景にある倫理的な問題とRTCが果たすべき役割を学んだ。院外研修で知識を深め、先輩の支援を得ながら移植看護の経験を積み、認定を取得した。一方、成長過程では多様なRTC業務の習得、代わりのない役割による責任の重さに大変さを感じる事があった。大変さを感じつつも、RTCを続けられたのは、患者支援を通し得るやりがいや役割を果たせた時の充実感が励みになり、悩みや辛さを共有できる周囲の支えもあったからである。

    【展望】

     今後の後進育成は新任RTCが移植看護にやりがいを持ち、負担感少なく働けるように取り組んでいきたいと考える。当院は担当臓器によらず、チーム内で業務をシェアし、患者支援の問題をチームで解決している。経験豊かなチームである強みを活かし、チームで新任RTCを育てる試みは移植看護の魅力をより伝えられ、成長のサポートに繋がると考える。そして、チーム内の支え合いは新任RTCが抱く負担感を緩和できると共に、RTCを続ける上での支えになる。これからは、新たな人材の育成等の残る課題を整理し、各施設の取り組みを参考にしつつ、後進育成をチームで取り組んでいきたい。

  • 纐纈 一枝, 林 未佳子, 加藤 櫻子, 剣持 敬, 星長 清隆
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s193_2
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    本学では、2012年移植医療支援室を設置し, 毎年移植コーディネーター(Co)を増員し、現在、院内ドナーCo13名(愛知県Co2名、認定組織移植Co3名),レシピエントCo7名(認定RTC3名)である。Coは多職種で構成され、臓器提供発生時、移植医療施行に対応している. 今回本学のドナーCo育成の取り組みにつき報告する。

    【方法】本学は、2022年5月時点で、臓器提供263件、臓器移植680件(腎移植498、膵移植98件、肝移植84件)の実績を有する。移植医療支援室メンバーは、医師,看護師,薬剤師,検査技師,院内Co、認定RTC、組織認定Coで構成されている.ドナーCo教育は、1.院内の教育プログラム(新人Co研修、シラバスに基づいた教育、シミュレーション、勉強会等)、2.県内の院内Co研修、3.本学、連携施設での脳死・心停止臓器提供事例への参加、4.学会等への参加、を行っている。本学では2016年、ドナーCo、レシピエントCo養成の大学院を開設し、体系的なCo教育の実践と学位取得を実現した。このような活動を広く学内に周知し、新たにCo希望者を募っている。

    【結果・考察】種々の取り組みにより、ドナーCoの育成を行っているが、職種によらず、患者家族に寄り添える人材を育成していくことが重要であり、私の使命である。座学や講義による知識の習得のみならず、ロールプレイングや実際の提供現場での経験が最も大事であり、臓器提供数の増加対策が急務である。

  • 小川 真由子, 井浦 裕子, 塚本 泰正, 福嶌 教偉, 福嶌 五月, 今村 友紀, 渡邉 和誉, 藤田 知之, 北村 惣一郎
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s194_1
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    【背景】西日本組織移植ネットワーク(事務局:国立循環器病研究センター)では、臓器・組織・眼球提供に際しご家族や施設への負担軽減には、臓器移植Co.、組織移植Co.、アイバンク関係者等(以下Co.等)による知識の共有や連携が必須という姿勢から、組織提供が可能な兵庫県におけるCo.等間の勉強会を発端に、西日本におけるCo.等が一同に集まる対面の研修会を実施してきた。更に2020年度からはオンライン形態とし参加対象を全国に拡大し、それぞれの知識、経験を互いに教え、学びあう研修会を継続実施している。これまで研修会で実施してきた内容について報告すると共に今後の研修会の在り方について検討したい。

    【内容】対面:'15年~'19年度、7回 第一報受信での情報収集、関係各所への連絡と調整、ドナー家族への対応、摘出手術対応等について実践

        オンライン:'20年~'21年度、25回 膵島提供の流れ、ケーススタディ、臓器移植法・関連法、医学的知識等について講義および質疑応答

    【考察】様々な立場のCo.等が研修会に参加することで、必要な知識やそれぞれの体制、適応判断の相違、臓器・組織・眼球が共に提供となる場合の留意事項等についての理解が深化した。また平時から顔の見える関係を築くことにより、情報発生時の連携がスムーズに進むケースが増えつつある。今後も参加Co.が主体的にその形態、内容を共に考え実践する研修会が継続実施できることを目指していきたい。

  • 内田 孟, 小峰 竜二, 中尾 俊雅, 児玉 匡, 岡田 憲樹, 清水 誠一, 福田 晃也, 阪本 靖介, 笠原 群生
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s195_1
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

     乳児期低体重の症例に対しては、手術手技やグラフトの選択などに注意が必要である。今回、乳児胆道閉鎖症に対する当院での典型手技をビデオ供覧し、当院における手技の工夫を紹介する。

     胆道閉鎖症の患児は葛西手術を受けているため、癒着剥離を要するが、十二指腸損傷には十分注意が必要である。繰り返す胆管炎や門脈圧亢進症のため、門脈血流が低下している症例が多く、十分な門脈血流確保のために無肝期門脈圧を25mmHg以上になるように側副血行路処理を行う。下大静脈は肝静脈の頭尾側でクランプし、十分なスペースを確保したうえで左中右肝静脈を1穴の吻合口として形成する。門脈吻合では、門脈内腔の門脈硬化・狭小化を認める場合は、血管間置グラフトを使用することも多いが、適切な硬化部のトリミングと、斜切開による吻合口の確保で直接吻合が可能である。動脈吻合では、動脈周囲の結合組織剥離範囲は吻合部周囲のみとし、無用な剥離操作は避けて吻合する。胆管空腸吻合は、胆汁鬱滞を避けるために盲端が尾側になるように吻合する。B2肝管内にステントチューブを挿入している。閉腹時はグラフトが圧迫されないよう、以前は皮膚のみで閉じることもあったが、近年は減量グラフトを使用することで通常通り筋膜を合わせる閉腹が可能となっている。

     当施設では2022年5月までに1歳未満かつ体重6kg以下の肝移植は106例で行っており、観察期間5.2年(中央値)で92例が生存と良好な成績であった。

  • 原田 昇, 伊藤 心二, 冨山 貴央, 森永 哲成, 利田 賢哉, 中山 湧樹, 武石 一樹, 戸島 剛男, 長尾 吉泰, 冨野 高広, 栗 ...
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s195_2
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    【背景】生体肝移植における門脈走行異常や肝動脈破格、胆管に対する再建術は高度な手技が必要とされる。【目的】今回静脈グラフトを用いた門脈再建術、バックテーブルでの肝動脈形成を用いた再建術及び動注療法によりレシピエント肝動脈が使用不可能であった症例及び顕微鏡下胆管再建について報告する。【方法】症例1:先天性門脈欠損症に対して拡張右胃大網静脈-左内頸静脈グラフトを用いて門脈再建した。症例2:アラジール症候群の1歳男児に対して、外側区域グラフトを用いて生体肝移植を施行した。肝グラフトにおいてA2(右胃動脈から派生)及びA3+4+胆嚢動脈の2本の肝動脈を認めた。症例3:肝癌に対する動注療法後肝動脈が再建不能であった症例を報告する。【結果】症例1では門脈再建後血流量は460mL/min、術後1年3ヶ月で経過良好である。症例2ではバックテーブルで顕微鏡を用いて1穴に形成し、レシピエント右肝動脈とin-situで再建した。再建後エコー血流は良好だった。症例3では術中判断で右胃大網動脈を用いた再建を施行し、肝動脈血流量は110mL/minと良好だった。胆管再建について顕微鏡下胆管再建を供覧する。【まとめ】門脈再建には十分な術前評価と術中所見に基づいた再建が必要とされる。肝動脈複数再建の必要な生体肝移植において、顕微鏡下バックテーブル動脈形成は有効である可能性があり、複数回の動注療法後では、他の再建動脈を常に選択肢としておく必要がある。

  • 長谷川 康, 尾原 秀明, 松原 健太郎, 阿部 雄太, 北郷 実, 八木 洋, 山田 洋平, 堀 周太朗, 田中 真之, 中野 容, 黒田 ...
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s196_1
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    【はじめに】生体肝移植術前に門脈血栓症を有する症例では,門脈再建に難渋することがある.今回われわれが施行した術前門脈完全閉塞例に対する門脈吻合方法の工夫について報告する.

    【症例】患者は50歳代男性,C型肝炎による非代償性肝硬変および肝細胞癌・脾動脈瘤と診断され,生体肝移植を予定した.門脈血栓による完全閉塞を認め,血栓摘除の危険性が高いと判断し,上腸間膜静脈から移植片門脈へのバイパスを計画した.肝授動後に回結腸静脈から左腋窩静脈への体外循環を行った.膵下縁でSMV前面を露出したが,側副血行路発達や組織の硬化のため,全周性の剥離は困難と判断し,サイドクランプで吻合する方針とした.右大腿静脈を採取し,SMVと端側吻合した.グラフト長が不十分であったため,大腿静脈末梢を形成して延長した.レシピエント肝全摘を行い,プットインして肝静脈および門脈を再建して再灌流した.間置グラフトを用いた門脈の血流は良好であった.また,長期経過後も血流良好である.

    【まとめ】大腿静脈グラフトはグラフト長の面から,生体肝移植における血行再建に有用であると考えられた.

  • 赤松 延久, 市田 晃彦, 西岡 裕次郎, 渡邊 元己, 金子 順一, 長谷川 潔
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s196_2
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    本邦の肝移植は生体肝移植の手技に基づいて発展しており、私自身の肝移植手技も成人生体肝移植術のそれが原点である。生体肝移植では部分肝であるがゆえに、再建する脈管が細径・短小のため様々な工夫を要し、術後管理も困難なことが多い。私が考える高難度肝移植は二分される。第一に手術手技的に困難な症例、第二に術前術後管理が困難な症例である。まず手技的に困難と考えるのは、グラフトに破格がある場合(門脈、動脈複数開口、胆管3穴以上)、胆道閉鎖症キャリーオーバー症例、メジャー肝切除後の肝移植、高度門脈血栓症、再肝移植などである。解剖学的破格に対しては肝胆膵外科、マイクロサージェリーの手技を駆使して克服する。葛西手術やメジャー肝切除後に肝硬変肝不全に進行した症例では、肝の線維化とともに周囲の癒着も強固となり、大量出血や剥離困難に陥ることが多い。高度門脈血栓症例における門脈再建や再肝移植の肝全摘も高難度肝移植となる場合がある。次に生体肝移植においては、術前術後管理困難症例との対峙も重要である。豊富な経験と知識に基づいたレシピエント管理なくしては救命し得ない症例は多い。いわゆるACLFのように肝不全に加えて腎不全、呼吸不全を併発する多臓器不全患者の移植前後管理、周術期ECMOを要する症例、術後大量胸腹水症例、難治性拒絶症例などがそれにあたる。近年の当科の肝移植成績は1年生存率97%に到達しているが、さらなる短期成績の向上のためには、これら管理困難症例の克服が肝要と考える。今回の発表では、私が経験した印象深い高難度肝移植症例を手術動画や画像とともに供覧する。

  • 佐久間 康成, 眞田 幸弘, 大西 康晴, 平田 雄大, 岡田 憲樹, 堀内 俊男, 大豆生田 尚彦, 水田 耕一, 佐田 尚宏
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s197_1
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    症例は17歳男性。原疾患は胆道閉鎖症で、過去に2回生体肝移植を受けているが、グラフト不全となり脳死ドナーからの全肝移植を行った。

    肝静脈狭窄に対して挿入された静脈ステントは一部IVCかかっており、心嚢を開放して下大静脈を確保した。側副血行や高度癒着のため剥離操作に難渋し、門脈損傷以降出血量が増え、最終的に門脈断端は縫合閉鎖した。肝静脈再建後、阻血時間を考慮し左胃大網静脈に挿入したカテーテルをレシピエント門脈へ挿入し門脈血流を再開した。肝動脈再建は脳死ドナーの総腸骨動脈を用い、レシピエント右胃大網動脈と固有肝動脈へ間置した。出血量が多くなり胆管は外瘻とし、グラフト周囲をパッキングしてopen abdomenでICU入室とした。しかし手術終了後まもなくして門脈血流が微弱となり再手術となった。門脈に挿入していたカテーテルを中心に血栓を認め、血栓除去後に脳死ドナーの総腸骨静脈を間置して、左胃大網静脈とグラフト門脈の吻合を行った。術後2日目に、腹腔内出血で再々手術を行ったが、目立った出血源はなく腹腔内洗浄後閉腹した。その後、腹腔内感染による敗血症を契機に呼吸状態が悪化し、肝肺症候群もあったことからNOを併用しつつ、ベットサイドで開腹洗浄ドレナージを行った。その後、呼吸が安定した後mesh  traction法で徐々に閉腹を行い、術後第86病日にICU退室となった。胆管外瘻は術後2年目に内瘻化に成功した。

    本症例における反省と工夫した点について報告する。

  • 日比 泰造, 嶋田 圭太, 蛭川 和也, 櫻井 悠人, 入江 友章, 磯野 香織, 本田 正樹, 菅原 寧彦
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s197_2
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    緒言:日本はprecision anatomyに立脚した精緻な肝臓手術で世界を先導.当科はGlisson一括確保+hanging maneuverが生体肝移植ドナーの標準術式.門脈/肝静脈の変異で極めて高度な手技を要した2例を提示.

    1)50代レシピエントと20代ドナー何れも門脈後区域枝(Ppost)単独分岐(Nakamura C),肝全摘時にレシピエント門脈本幹を切離.ドナー側は門脈前区域枝(Pant)/Ppostを別々に切離し右肝グラフト採取(出血量35g).バックテーブルで摘出肝から採取した自家門脈とグラフト肝のPant/postを各々吻合後put in,再灌流(図1:CIT/WIT 190/40 分).

    2)30代ドナーのPantが臍部から分岐(Nakamura D)かつRHV,IRHV2本,V5,V8全て再建しても肝容積不足のため左肝3区域+尾状葉グラフトを採取(出血量282g).バックテーブルでPantと門脈左枝を再建後60代レシピエントにput in,再灌流(図2:CIT/WIT 89/48分,Ibuki et al. Liver Transpl 2019).2例とも元気に外来通院中.

    結語:Precision anatomyに基づく高難度生体肝移植手術で救命が叶う.

  • 吉岡 大輔, 川村 匡, 斎藤 哲也, 河村 拓史, 松浦 良平, 三隅 祐輔, 島村 和男, 坂田 泰史, 戸田 宏一, 宮川 繁
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s198_1
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    左室補助人工心臓(LVAD)治療成績の向上に伴い、心臓移植待機患者数はさらに増加し、結果的にドナー不足および移植待機期間の著明な延長を引き起こすことになった。2022年の時点で心臓移植患者の平均待期期間は5年近くとなり、7年以上に達するとも想定される。結果的に、LVAD装着により非常に安定した患者のみが心臓移植に到達し、移植以外に治療が困難な症例に関しては救命困難な状態となっている。

    LVAD装着患者の移植待機の長期化によるLVAD関連合併症として問題となりうるのは、現時点では①難治性右心不全②LVAD関連感染症③遅発性大動脈弁閉鎖不全症(AR)などが挙げられる。①について、当院ではLVAD装着後3か月以上の右心補助を必要とした両心不全が10例あり、6例が平均659(109-1245)日で心臓移植に到達できたが、4例を平均505日で失った。②255例のLVAD中、現在までに32例のLVADポンプ感染症を認め、LVAD装着から発症日までの中央値は390日であった。充分なドレナージ療法ののちに14例でポンプ交換を施行し、ポンプ感染後の2年生存率は61%となっている。③現在までに術後慢性期に遅発性ARによる心不全に対して12例に再開胸大動脈弁閉鎖術を施行した。全例生存退院が可能であり、術後3年生存率は83%と良好である。

    LVAD長期化に伴い、LVAD関連合併症がさらに多く発生することが懸念される。難治性右心不全に関しては治療介入が非常に困難であり、マージナルドナーでの早期移植以外に救命が困難であるが、感染症や遅発性ARに関しては手術介入によりさらに長期待機が可能になる症例もあると考えられた。

  • 瀬口 理, 米山 将太郎, 羽田 佑, 望月 宏樹, 渡邉 琢也, 甲斐沼 尚, 福嶌 五月, 藤田 知之, 塚本 泰正
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s198_2
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    長期待機は本邦心臓移植の最大の課題である。1999年に実施された国内第1例目の心臓移植以降、移植待機期間は長期化し、2010年のStatus 1平均待機期間は915日を数えるようになった。そのため、患者のみならず、我々心臓移植に関わる医療者も2010年の臓器移植法改正に大きな期待をかけ、その施行を心待ちにしてきた。実際臓器移植法改正によりその後の国内心臓移植数は増加し、2019年には84例の心臓移植が行われたが、心臓移植希望登録者の増加もあり、待機期間の長期化には歯止めがかからず、2021年の平均移植待機期間は1718日と更なる長期化を示している。

    国立循環器病研究センターにおいても全国的に待機期間が上昇傾向を示す2016年以降とそれ以前を比較するとStatus 1平均待機期間は891日から1306日に長期化していた。そのような状況のなか、2011年の植込型補助人工心臓の保険償還は多くの心臓移植待機患者の生活の質を高く保ち安全に待機することを可能としたが、その一方で待機期間中の様々な合併症などの医学的問題や、ケアギバーを含む社会的問題の増加は待機期間の長期化と無関係ではなく、iLVADの適応とならない患者については5年を超える待機期間を病院で過ごすことも珍しくない。

    本シンポジウムでは心臓移植待機の長期化により患者ならびに移植施設が直面する様々な課題について当院での経験に基づき報告する。

  • 石田 秀和, 石井 良, 廣瀬 将樹, 橋本 和久, 長野 広樹, 成田 淳
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s199_1
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    我が国における小児心臓移植の待機期間は成人に比べると短いものの、2021年までの国内移植例でのStatus 1待機期間は598±368日であり、乳幼児期だけでなく学童期や思春期における長期待機の影響は非常に大きい。学童期以降の拡張型心筋症症例では、植込み型補助人工心臓装着により、退院および復学しての移植待機が可能であるが、拘束型心筋症のような補助人工心臓装着が困難な病態におけるカテコラミン持続静注療法による待機では、2~3年以上におよぶ入院が必要であり、思春期の長期入院生活がもたらす精神的な問題とともに学業をどのように維持するかという問題も大きい。当院では2022年5月現在、学童期のカテコラミン持続静注療法による待機患者が6名(小学生2名、中学生2名、高校生2名)入院中である。原疾患は、拘束型心筋症3名の他、不整脈源性右室心筋症、大血管転位症、拡張型心筋症である。小中学生は院内学級へ通学しているが、院内学級は義務教育までしか対応しておらず、中学卒業後の学業の維持が問題となる。通信制高校という選択肢はあるが、通信制でも年間数日の登校が原則的に求められるため単位取得や卒業にはハードルがある。今回、学校や教育委員会との連携により他県の公立高校の入学試験を病棟内で行い、オンライン授業を導入して地元公立高校での学習を可能にした症例を経験したことで、特に学童期における長期入院待機が引き起こす問題点を総括し、当院での取り組みを紹介したい。さらに、補助人工心臓治療が困難で、かつ予後が非常に悪い、小児拘束型心筋症における臓器配分の見直しの可能性について、議論の土台を提供したい。

  • 安藤 政彦, 井上 龍, 石井 大介, 金子 寛行, 寺川 勝也, 八鍬 一貴, 尭天 孝之, 柴田 深雪, 小前 兵衛, 木村 光利, 嶋 ...
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s199_2
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    背景/方法)本邦の心臓移植優先度は主に医学的緊急度(Status)と待機期間で規定されるが、原疾患によってはVAD装着が困難で、長期の待機期間を生存することも難しい。当院で移植登録した511例の待機患者を原疾患で分類して比較。

    結果)拡張型心筋症/拡張相肥大型心筋症 vs 虚血性心筋症 vs 拘束型心筋症 vs 先天性心疾患 vs その他群で348 vs 60 vs 12 vs 16 vs 75例。登録時年齢の中央値は41 vs 51 vs 12 vs 20 vs 41歳(p<0.001)。登録後観察期間は4.1年、移植到達率は37 vs 28 vs 17 vs 13 vs 35%、移植前死亡率は18 vs 32 vs 50 vs 44 vs 15%(p<0.001)、VAD装着率は87 vs 90 vs 25 vs 69 vs 73%(p<0.001)。

    結語)拘束型心筋症と先天性心疾患の待機患者は若年の割に予後不良。拘束型心筋症はVAD装着率が低く、待機期間3年から死亡率が上昇。原疾患を医学的緊急度に加味すべきか、患者間の公平性に配慮しつつ慎重に議論する必要あり。

  • 木下 修, 中嶋 博之, 土屋 美代子, 吉武 明弘, 中埜 信太郎
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s200_1
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

     2010年の臓器移植法改正まで心臓移植は年間0~11例だった。植込型VADの保険適応は2011年からである。待機患者は予後1年以内と見込まれる重症心不全患者であり、2009年以前は移植数の2倍以上の待機中死亡があった。

     臓器移植法改正後、心臓移植数は年間50例以上にまで増えた。植込型VADの保険適応により年単位で移植待機できる患者が増えたことも加わり、待機中死亡は減少し2010~2015年は年間20人程度になった。心臓移植希望者は増加し、ここ数年は年間200人程度が新規登録されている。その結果、移植待機期間は長期化し続け、今や5年を超え、これから移植希望登録する患者は8年以上になると見込まれる。VAD治療が行えない患者はほとんど移植に至らず、移植を受けられるのはVAD装着患者ばかりである。日本の植込型VAD治療は4年生存率が8割程度で、8年生存率は6割程度になる可能性もあり、移植待機期間の長期化とともに待機中死亡が増えると思われる。実際ここ数年の待機中死亡は年間40人前後に増え、さらに増えることが懸念される。

     心臓移植適応判定時には悪性腫瘍を含めた心臓以外の疾病が移植に不適当でないことを確認しているが、移植希望登録から8年以上も経過すると、適応判定時とは変わっている患者も出てくる。移植が不適当な状態が潜んでいても、気が付かずにそのまま移植が行われてしまえば移植後成績は悪化する。移植時年齢がより高齢になることも移植後成績に影響しうる。en-copyright=

  • 酒井 謙, 中元 秀友
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s201_1
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    日本腎代替療法医療推進協会では、日本腎臓学会、臨床腎移植学会、移植学会、腎臓病薬物療法学会、腎不全看護学会、病態栄養学会、腹膜透析医学会、臨床工学技士会と共同で、標準的な腎代替療法の選択・指導を現場に浸透させることを目的に「腎代替療法専門指導士」制度を立ち上げた。国の方針が示す如く、腎代替療法推進の方向性は、在宅治療である、腹膜透析・腎移植医療の発展普及にある。

    「腎代替療法専門指導士」の対象は医師、看護師・保健師、管理栄養士、薬剤師、臨床工学技士、移植コーディネーターに加えて、腎臓病療養指導士の方々である。レシピエント移植コーディネーターの方々は、応募時に資格取得後3 年以上経過し、腎代替療法選択の医療に携わっている方を想定しており、この点で移植学会との連携が必要である。例えば導入期加算1,2の施設では、紹介元での腎代替療法説明の推進と移植施設への生体・献腎移植紹介事例が増えるよう、導入期加算3の施設が指導的役割を担う。今までの紹介~移植という1:1の医療連携から、移植施設である導入期加算3の施設が多くの導入期加算1,2の施設と症例検討、研修を行っていくことが必須である。感染症加算と同様の立て付けは、全ての医療機関の腎代替療法の推進への意識変革を促し、我が国の少ない移植選択を広げる実体的な役割を持つ。

  • 谷澤 雅彦, 大迫 希代美, 寺下 真帆, 櫻井 裕子, 田中 真純, 斉藤 由美子, 篠田 和伸
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s201_2
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    腎移植医療における腎代替療法専門指導士設立の目的は①移植医療の推進、②移植患者のADL・QOL向上を目指すものであると資格設立の経緯として記されている。その他、ドナー登録者の増加に努めることも求められる。適正な腎移植のオプション提示が行われれば移植数、献腎登録数、先行的腎移植数の増加に繋がり、高齢・多併存疾患を持った移植希望者が増えている現状ではテーラーメード化、リハビリテーションの重要性が増している。またグラフトロスする患者も一定数存在するため、透析再導入・再移植時の心理的葛藤への対応も求められる。臓器移植は死体臓器提供によるものが基本であるために、ドナーアクションプログラムに参画することも必要である。移植専門医やコーディネーター以外の指導士が資格取得後に全てを担うことは難しいが、上記のいずれかに参入するだけでも目的を達成できると考えている。また、本制度は今までの職種縦断的な対応から、職種横断的にアプローチする画期的な取り組みといって良い。当院は透析導入期加算Ⅲが請求できる施設として、特に腎移植に関わる医師のみならず他職種の後進育成と、加算Ⅰ・Ⅱの施設との連携を重視している。また移植専門医・コーディネーターとして上記を臨床現場で行ってきたことを、制度設立に伴い腎移植医療への取り組みを体系的に作り替えた。今後の腎代替療法専門指導士に求められる事と当院の取り組みをご紹介する。

  • 野口 文乃, 石井 大輔, 岩村 正嗣, 吉田 一成
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s202_1
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    令和4年の診療報酬改定に向け標準的な腎代替療法(以下RRT)の選択・指導を現場に浸透させることを目的として、2022年2月に「腎代替療法専門指導士」(以下、RRT専門士)制度が立ち上がった。このRRT専門士は、職種横断的なCKDの腎代替療法の選択・療養指導に関する基本知識を有した者の資格で、対象は看護師・保健師、管理栄養士、薬剤師、臨床工学技士、腎臓病療養指導士、移植コーディネーター(以下、RTC)および医師などが該当する。このRRT専門士は透析医療だけでなく移植医療や保存的腎臓療法にも係り、その目的は「腎代替療法の適切な選択を推進し、透析・腎移植患者のADLやQOL向上を目指すこと」である。RRT選択支援とは、適切なRRTの情報提供と共同意思決定(以下SDM)を重要としている。これはCKD患者が選択後も自身の治療や療養生活を満足のいく形で送れるためでもある。このRRT専門士の存在により移植医療の推進が期待される一方で、RTCが今後果たす役割について考えてみたい。療法選択外来などで移植医療の専門家として腎移植について情報提供を行う「事前療法説明」と、腎移植を選択したのち、移植施設の初診時から、SDMや意思決定の過程を振り返りながら行う「選択後療養説明」の2つの役割がRTCにはある。そしてさらにRTCは、腎移植の現場において多職種が共同して課題に対する多職種連携や、シームレスに行われるCKDトータルケアの患者支援のマネンジメントなどを担う。今回RTCを基本職種とした腎代替療法専門指導士として、RRT選択支援の現場で期待されること、そして今後どのようにRTCとして多職種と連携し活動していくのか再考していきたい。

  • 内田 明子
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s202_2
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

     本資格の認定を実施している「日本腎代替療法医療専門職推進協会」は、設立の目的を「患者との共同意思決定とアドバンス・ケア・プランニングを基本として、多職種によるチーム医療で適切な腎代替療法の選択を推進すること、透析患者および腎移植患者のADL、QOLの向上を目指すこと」としている。

     超高齢社会を迎え、多くの高齢者の医療やケアに携わることで、私たちは「人は単なる延命や長寿ではなく、人としての尊厳をもってより健康的な老年期(人生の最終段階)の安寧な暮らしを望んでいる」と気づかされた。そして私たちは、あらためてEBM(Evidence Based Medicine)根拠に基づく医療も、最善の根拠と医療者の経験、そして患者の価値観を統合した、患者にとっての最善の医療を目指すことと再認識した。それにより患者にとっての最善の医療を考える上で、患者の個人的特性への関心が高まっていると考える。

     看護は、人間としての尊厳を維持し、健康で幸福でありたいという人間の普遍的なニーズに応え、生涯を通して最期まで、その人らしく生を全うできるようその人の持つ力に働きかけながら支援することを目的としている。そして看護では、患者個人の習慣、態度、文化的背景、思想などを患者の個人的特性と考えている(日本看護協会 看護者の倫理綱領より)。

     腎代替療法専門指導士には、患者本人にとっての最善の医療やケアの実現のため、患者の意思決定の権利や個人的特性を重視するという看護の視点を取り入れ、アドバンス・ケア・プランニングの推進や療法選択支援、ADLやQOLの向上のための活動を期待する。

     

  • 秋野 公造
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s203_1
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    腎代替療法に係わる医学会の先生方と協同して、平成28年度診療報酬改定における「下肢末梢動脈疾患指導管理加算」、平成30年度改定における人工腎臓の「導入期加算Ⅱ」「腎代替療法実績加算」、令和2年度改定における「腎代替療法指導管理料」「在宅自己腹膜灌流指導管理料」及び同種死体腎移植術「移植臓器提供加算」を実現して腎移植を推進してきた。

    国においても平成28年1月の参院本会議にて秋野の質疑に対して、塩崎恭久厚労相(当時)が「腎移植は患者の生活の質を上げるだけでなく、財政上の効果もある」と財政についても初めて答弁して改定を後押しした。

    聖マリア病院の谷口雅彦院長らの厚労研究における腎移植群と透析群の心・脳血管疾患による死亡率には有意差がある等の合併症予防を含む重症化予防に向けた「エビデンス」と、医療者と患者の「コンセンサス」に基づいた改定が行われたことは、佐藤博通様、松村満美子様はじめ患者の意思を尊重してきた結果であるものの、お二人とも腎移植を受けることなく鬼籍に入られた。

    近時、透析の見合わせを含めた人生の最終段階にない患者の意思をどう尊重するかというアドバンスドケアプランニングの本質が浮き彫りになり、腎移植を希望する方の選択を叶えるため、累次の改定に連携してきた医学会により日本腎代替療法医療専門職推進協会が設立された。

    その結果、多職種によるチーム医療で腎移植を推進する「腎代替療法専門指導士」の創設を根拠として、令和4年度改定において人工腎臓の「導入期加算Ⅲ」が実現した。

    これから腎代替療法専門指導士を先頭に重症化予防と共同意思決定を推進して、腎移植を選択できる成果が期待される。

    先生方の変わらぬご指導を伏してお願いする。

  • 松久 宗英, 黒田 暁生
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s204_1
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    1型糖尿病治療において、厳格な血糖管理を通じ血管合併症の発症および進展を予防することが重要である。その大きな障壁が、回復に第三者の助けを必要とする重症低血糖である。日本糖尿病学会の調査報告では、本邦では年間2万件近くの重症低血糖が発症し、その3分の1が1型糖尿病患者であった。

    このため、1型糖尿病治療の目標は、低血糖リスクを最小にし、良好な血糖変動を達成することにある。インスリン製剤の開発および血糖制御関連テクノロジーが進められ、1型糖尿病の内科治療は大きく改善してきた。特にリアルタイムに皮下間質液のグルコース濃度を計測する持続血糖モニタリング(CGM)は、高血糖と低血糖を予測して警告を発することができ、患者の対処行動を促す。また、インスリンポンプはCGMと連動し、高血糖ではインスリンが自動注入され、低血糖ではインスリン注入が停止することにより血糖変動を最小化することが進められている。しかし、これらの技術だけでは重症低血糖を完全に抑制できない症例がある。

    このため、1型糖尿病治療において、根治から重症低血糖を回避させることが期待される膵島移植及び膵臓移植のもつ臨床的意義は高い。侵襲性の高い膵臓移植では、移植膵グラフトの高い長期生着と生命予後改善の点から、末期腎不全1型糖尿病患者への膵腎同時移植が最も良い適応となる。一方、1回の移植ではインスリン離脱が困難な膵島移植は重症低血糖の高リスク症例に対する低血糖予防のための治療と位置づけられる。

    本シンポジウムでは、最新の1型糖尿病治療の現状と移植医療の適応と意義について、最新のエビデンスを含めて紹介する。

  • 廣田 勇士
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s204_2
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    インスリンの発見以来、1型糖尿病に対する内科的治療が可能となり、糖尿病ケトアシドーシスなどの急性合併症が回避可能となった。その後、高血糖を原因とした慢性合併症の予防のために、インスリン治療による治療強化が行われてきた。一方で、外因性インスリンの過剰から生じる低血糖は、場合によっては死に至ることもあり、インスリン治療の最大の問題である。このように1型糖尿病の内科的治療には困難さを伴うことも多く、根治的治療として位置づけられる膵臓移植、膵島移植の意義は大きい。従来、膵臓移植、膵島移植は、内因性インスリン分泌能が著しく低下し、専門的治療によっても重症低血糖などを伴い血糖マネジメントが困難な1型糖尿病患者に対する治療として実施されてきた。一方、近年のデバイス技術の進歩を含む1型糖尿病診療の進歩により、1型糖尿病の内科的治療成績は向上している。持続血糖モニタリング(CGM)の進歩は、低血糖の減少をもたらした。常にグルコースデータが表示可能なリアルタイムCGMでは、アラート/アラームによる低血糖への警告が可能であり、有効性が高い。さらには、リアルタイムCGMとリンクしクローズドループ機能をもつインスリンポンプの登場で、より低血糖の少ないインスリン治療が可能となってきている。ただ、このような進歩があるものの重症低血糖を完全に回避することが困難であることも事実である。本シンポジウムでは、先進デバイスの進歩を始めとした1型糖尿病診療の進歩を踏まえ、膵・膵島移植の適応について考えてみたい。

  • 穴澤 貴行, 伊藤 孝司, 長井 和之, 山根 佳, 江本 憲央, 出羽 彩, 秦 浩一郎, 藤倉 純二, 稲垣 暢也, 波多野 悦朗
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s205_1
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    【緒言】膵島移植が一般的な治療オプションとして確立されたことで、欧米では膵臓移植と膵島移植の適応についての提言が出されている。一方、本邦では膵・膵島移植を選択する明確な適応についての見解は示されていない。本邦の現状をふまえた両移植の適応の再考の必要性について検討する。

    【現状と展望】本邦では、インスリン依存糖尿病に対し移植医療を選択するにあたり、膵・膵島移植の適応を明確に分ける基準は腎機能低下の有無のみである。腎不全を伴う場合は膵腎同時移植が選択されるが、腎不全を伴わない症例では、患者希望あるいは担当医判断で膵臓移植か膵島移植かが選択される。自験例では、膵島移植では移植術に伴う周術期合併症はほぼ認めず高い安全性が確認されている。心血管系合併症や腸骨動脈高度石灰化症例にも安全に移植可能であり、高侵襲手術に対しリスクを有する症例は膵島移植を選択すべきと思われた。一方、移植前インスリン必要量の多い症例や高体重症例では、十分な臨床効果が得られにくい場合があることが膵島移植の課題であった。海外では、レシピエントの併存疾患、年齢およびBMIによって両移植の選択基準が提言され、膵島・腎同時移植も選択肢とされつつあることは注目すべき見解であった。

    【結語】レシピエントの病状に対し適切な移植医療を提供するために、膵・膵島移植の適応基準を再考し、より明快な基準を構築することが望まれる。

  • 吉松 軍平, 坂田 直昭, 牟田 芳実, 高士 祐一, 横溝 久, 川浪 大治, 小玉 正太
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s205_2
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    2020年に膵島移植が保険適応となり、1型糖尿病に対する治療手段は、内科的治療に加え、膵臓移植、膵島移植の3つに増えた。近年、内科的治療では、SAPによるコントロールの改善、スマートガード機能の搭載など著しく進歩している。また、膵臓移植では、膵腎同時移植によりインスリン離脱が達成され非常に効果が大きい。しかしながら、膵単独移植成績は芳しくない割に、侵襲度が高い。このような中、膵島移植がどのような役割を果たすのか、今後の適応について考える必要がある。

    先の先進医療では重症低血糖発作を抑えることがプライマリエンドポイントとして行われ、良好な成績が示された。当院の施行症例でもHbA1cの減少が認められ、神経障害や網膜症の進行は見られていない。

    膵腎同時移植での治療効果は大きいものの腎不全症例での適応と考えると、より早期の段階から行える治療としては、インスリン治療と膵島移植になる。インスリンポンプが進歩していく中でコントロールが改善する症例が増えているが、一方で、何らかの理由でうまくいかない症例も存在する。膵島移植では細胞の持つ血糖値の自己調整能が加わることで血糖値の変動性を十分に抑えることができる。すなわち、1型糖尿病患者においてインスリンポンプでの治療困難例であれば、重症低血糖発作の有無に関わらず、より早期に膵島移植を行うことで安定した血糖コントロールを実現することができると考える。

  • 戸子台 和哲, 藤尾 淳, 柏舘 俊明, 宮澤 恒持, 佐々木 健吾, 松村 宗幸, 宮崎 勇希, 山名 浩樹, 宮城 重人, 和田 基, ...
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s206_1
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    本邦における膵臓移植は、欧米では使用が回避される厳しい条件の膵グラフトを積極的に使用しつつも良好な成績を残してきた。当施設ではこれまで15例の膵腎同時移植(SPK)を施行しているが、他施設と同様、様々な手術手技・周術期管理の工夫により、厳しい条件のドナーにおいても良好な成績を維持することができていると考えている。一方で、膵臓移植に関連した深刻な合併症や早期グラフト廃絶も経験しており、膵島移植の成績が向上し保険収載された現在、膵臓・膵島移植の適応判定やドナー選択について再考する時期にきていると考えている。膵単独移植に関しては、本邦においても生着率が十分でないことから、当施設における膵臓移植の適応は末期腎不全を伴う症例に対するSPKのみとしており、腎不全を伴わない症例に対しては膵島移植のみを治療選択肢としてきた。さらに現在は、末期腎不全に至った症例においても、SPKだけでなく生体腎移植+膵島移植を治療選択肢として提示しており、侵襲性を考慮し後者を希望される患者も経験している。

    膵臓移植と膵島移植は侵襲性などに相違点も多いことから、同一の基準で適応判断することは困難であると思われるが、貴重な社会資源であるドナー臓器の恩恵を最大化し、かつ患者のニーズに応えるという観点から、膵臓移植・膵島移植両者における適応判定基準およびドナー選択基準を議論していくことが求められていると考えている。

  • 伊藤 泰平, 剣持 敬, 栗原 啓, 會田 直弘
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s206_2
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    2020年4月から膵島移植が保険収載された。1型糖尿病患者に対し、膵臓移植と膵島移植のどちらかの移植医療が保険診療下で選択できる時代が到来したが、その適応基準は異なる。両者とも、内因性インスリン分泌能の枯渇の証明が必要であるが、膵臓移植では、「空腹時血清Cペプチド 0.3 ng/ml 以下、かつ、グルカゴン負荷後血清Cペプチド 0.5 ng/ml 以下」あるいは「グルカゴン負荷前後の血清Cペプチドの差 (Δ 血清Cペプチド)が 0.3 ng/ml 以下」を目安するとし、膵島移植では「随時血清CPR<0.2ng/mL」と定義されている。

    また、膵・膵島移植では長らく、血清CPR<0.3 ng/mLという基準を持って、グラフト機能廃絶としてきたが、グラフト機能の維持が前提となる膵島移植の複数回移植の基準は血清CPR≧0.1ng/mLとなっている。

    一方で、海外では2型糖尿病、慢性腎不全患者に対する膵腎同時移植も行われ、生命予後改善効果が報告されており、国ごとの臓器提供の状況によって、膵・膵島移植の適応は大きく異なる。

    本邦における臓器提供の推移、膵・膵島移植の実施状況、さらにはその成績から今後目指すべき膵・膵島移植の適応について考察する。

  • 平光 高久, 二村 健太, 岡田 学, 後藤 憲彦, 一森 敏弘, 鳴海 俊治, 渡井 至彦
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s207_1
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    膵移植では、周術期になんらかの合併症をおよそ60%で認めている。特にgraft lossに直結するような重症合併症も、およそ30%で認められている。そのような状況の中で、いかに合併症を予防するかがgraft lossを避けるために大切になってくる。これまでの報告で膵臓のCITが長くなると合併症のリスクが高くなることが報告されており、当院では、膵臓のCITを短くするために、bench surgeryでリガシュアーを使用することによりbench surgeryの時間を短縮し、さらに膵臓を先行して移植している。これにより膵臓の血流再開までの時間が短縮でき、膵臓の血流再開時の出血も減らすことが可能である。さらに、移植十二指腸をbench surgeryで処理せず長めに残しておくことで、膵血流再開後、産生された膵液を長めに残した移植十二指腸内にドレナージすることで十二指腸が緊満することを防ぎ、出血を予防し、さらには膵臓からの出血を良好な視野のもとで止血できるため出血量を減らすことが可能である。また、移植十二指腸を血流良好な部分で切除することができ、移植十二指腸断端からのleakageを予防することも可能である。門脈血栓対策として、レシピエントの外腸骨静脈を外腸骨動脈の外側にスイングしてから門脈と吻合しており、これにより現在までのところ、門脈血栓でgraft lossとなった症例は認めていない。以上、膵臓移植の手術手技について検討する。

  • 富丸 慶人, 小林 省吾, 伊藤 壽記, 佐々木 一樹, 岩上 佳史, 山田 大作, 野田 剛広, 高橋 秀典, 土岐 祐一郎, 江口 英利
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s207_2
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    膵臓移植は1型糖尿病に対する確立された根治療法である.当院では2022年3月末までに61例の膵臓移植を行っており,今回,膵臓移植手術におけるこれまでの我々の手術手技の工夫を報告する.

    【Bench Surgery】

    ①グラフト膵臓周囲組織のトリミング:Vessel sealing deviceを用いて行い,手術時間の短縮に努める.

    ②動脈再建:上腸間膜動脈から保存液を流した際に胃十二指腸動脈断端からのバックフローが十分でない場合には,ドナーの腸骨動脈や空腸動脈などを動脈グラフト(Iグラフト)として間置する形で総肝動脈と胃十二指腸動脈を吻合する.

    ③リークテスト:Bench surgeryの最後に,インジゴカルミンを含んだ保存液によるグラフトの灌流を行う.保存液が可視化されることで,未処理の血管の検索が容易となる.

    【レシピエント手術】

    ①腸骨動静脈の剥離・配置:レシピエントの腸骨動静脈を,必要に応じて分枝を処理しつつ周囲組織から十分に剥離し,腸骨静脈が外側,腸骨動脈を内側に位置するようにし,その位置で血管吻合を行う.これにより,グラフト門脈および静脈吻合部位が腸骨動脈に圧排されないような配置が可能となる.

    ②グラフト十二指腸減圧チューブ:グラフト十二指腸と吻合する挙上回腸より,グラフト十二指腸内に先端を置く形でチューブを留置し,グラフト十二指腸内の減圧を行う.

    現在,これら症例を集積し,各々の手術手技の工夫の結果を評価しており,この結果に基づき今後の継続の可否を検討する予定である.

  • 松村 宗幸, 戸子台 和哲, 柏舘 俊明, 藤尾 淳, 宮澤 恒持, 佐々木 健吾, 宮城 重人, 海野 倫明, 亀井 尚
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s208_1
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    膵臓移植は移植手術手技の困難性から、手術手技に起因する合併症が多く報告され、グラフト血栓症、グラフト十二指腸出血、グラフト十二指腸縫合不全はグラフトロスに繋がりやすく予防と早期発見が極めて重要である。東北大学病院ではこれまで15例の膵腎同時移植を施行してきた。3例にグラフト血栓症(医学的治療必要例1例)、3例にグラフト十二指腸出血(うち1例はグラフト十二指腸拒絶)を認めた。グラフト血栓症に対して、2例は抗凝固薬で経過観察できたが、1例ではグラフトロスとなった。グラフト十二指腸出血は1例で放射線科の血管内治療を行い止血が得られた。1例では出血を繰り返し、十二指腸穿孔から再手術も繰り返しグラフトロスとなった(最終的にグラフト十二指腸拒絶と診断)。当院では、外腸骨動静脈への移植、外腸骨静脈の可動域改善・圧迫閉塞予防として内腸骨静脈切離、膵炎膵漏発生時の経口経路確保のためのRoux-Y再建を行っており、さらなる手術手技の標準化に取り組んでいる。筆者はマイアミ大学腎移植外科へ留学し膵腎移植外科の研修を行った。マイアミ大学では1000例を超える膵移植を行っており、ドナー選択、手術手技、免疫抑制剤、周術期の輸液管理はすでに標準化されている。マイアミ大学での経験をマージナルドナーが多い本邦の実情に合わせて応用することで、当院における手術手技のさらなる改善と標準化を試みており、現状と課題、今後の展望について報告したい。

  • 平田 義弘, 小寺 由人, 加藤 孝章, 本田 五郎, 江川 裕人
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s208_2
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    脳死膵臓移植における最大の合併症の一つとしてグラフト十二指腸関連の合併症がある。当院で2020年11月から2022年3月までに8例の脳死膵移植を施行した。6例目までに4例の十二指腸関連合併症を経験したため、7例目より十二指腸回腸吻合を自動縫合器による側々吻合からRoux-en-Y再建に変更した。合併症4例の詳細および、現在の再建の工夫を紹介する。

    症例1:術後7日目に十二指腸断端の縫合不全を認め十二指腸内減圧用のバルーンカテーテルを留置した。カテーテル部を瘻孔化し抜去したが、術後6ヵ月で膿瘍形成しドレーン留置して外来で経過観察中である。

    症例2:術後3日目に吻合部出血を認めたがFFP投与により止血。

    症例3: Yグラフト再建の結果GDAを結紮、十二指腸の色調がやや悪く、術後2日目に縫合不全を認めた。グラフト十二指腸の壊死部を切除しレシピエント回腸壁を用いて再吻合、Roux-en-Y再建した。しかし再度縫合不全を起こし吻合部皮膚瘻となり、管理に難渋している。

    症例4:術後7日目に十二指腸断端の縫合不全を認めた。断端を閉鎖しRoux-en-Y再建。

    7例目以降のRoux-en-Y再建について:Y脚は30~40㎝とし、十二指腸回腸吻合部は5mm径とする。膵液は通過可能かつ、Y脚に腸管内容物が逆流しても十二指腸内には流入せず十二指腸内圧は上昇しない。このため吻合部および十二指腸断端の縫合不全が予防できる。

    以降十二指腸関連合併症は認めていない。

  • 栗原 啓, 剣持 敬, 伊藤 泰平, 會田 直弘
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s209_1
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    膵移植は血栓症に代表される合併症も多く拒絶後の生着率も不良である。膵グラフト摘出・廃絶となった症例は2回目の膵臓移植および膵腎同時移植(SPK)を希望されることも多く当科において80例の膵移植を行ったうち12例が膵臓の多次移植症例であった。当科における多次移植の問題点と工夫について述べると共に、多次移植の移植成績について検討する。

    移植時の問題点として移植床、吻合血管の確保がある。当科では移植前に造影3D-CTで血管系を評価し吻合可能部位を設定している。しかし手術では吻合血管の強固な癒着や血管の狭小化を認めることが多く、下腹部正中切開で開始し腹腔内から吻合可能な血管長を確保している。吻合血管長はほとんどの例で非常に短く、可動性が確保できないことからintraluminal technique吻合することが多い。一次移植のグラフトは移植床が確保できれば原則触っていない。また多次移植の場合は、既存抗体陽性例が多く免疫学的high riskであるが導入療法としてATGやIVIGを使用している。

    多次移植12例のうち腎移植後SPK8例、膵移植後SPK4例であった。11例は右腸骨窩に膵移植し、1例は左腸骨窩に膵・腎を移植した。1年患者生存率は初回移植94.1% vs多次移植91.7%(P=0.59)、1年膵グラフト生着率は初回移植91.7% vs多次移植89.7%(P=0.28)であり両群に差を認めなかった。

    多次膵移植は難易度が非常に高いが成績も比較的良好であり、1次膵グラフト廃絶後の治療選択の一つになり得ると考えられる。

  • 此枝 千尋, 高田 潤一, 山口 美保, 山谷 昂史, 叢 岳, 中尾 啓太, 長野 匡晃, 川島 光明, 佐藤 雅昭, 中島 淳
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s210_1
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    はじめに:日本の脳死肺移植平均待機期間は900日と長期に及ぶ。当院は体外灌流システム(Ex Vivo Lung Perfusion)を有さず、同システム無しで移植に適するドナー肺を見極める必要がある。

    当院の経験:胸部X線異常や重喫煙歴を有するいわゆるマージナルドナーを慎重に検討し可能な限り受諾しているが、全国平均に比し劣らない生存率を示している。2015年1月から2021年12月末までに82例の脳死肺移植を施行したうち、ドナーのBrinkman index が1000を超える症例が7例あった。重喫煙歴を有するドナー肺の移植後は、痰が多く頻回な気管支鏡吸痰を要する傾向があり周術期管理に労力を要したが、7例のうち6例で良好な長期生存を得ている。ドナーの受傷機転については、溢頸は一般的に予後不良とされてきたが、当院の82例の脳死肺移植中10例が溢頸ドナーからの移植であり、周術期や長期予後に他と差を認めなかった。一方、胸部X線異常を認めるドナーの場合、ドナーの原疾患、経時的なX線変化、体液バランスの推移、血液検査炎症反応の推移等から、X線異常の原因(神経原性肺水腫、胸水や受動無気肺、肺炎など)を考え、肺炎であれば改善傾向にあるか否かを検討する。その際ドナー年齢は重要な要素である。

    まとめ:当院のマージナルドナー使用経験を踏まえ、グラフト肺評価について文献的考察を交えて報告する。

  • 中島 大輔, 栢分 秀直, 田中 里奈, 山田 義人, 豊 洋次郎, 濱路 政嗣, 大角 明宏, 芳川 豊史, Keshavjee Shaf ...
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s210_2
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    EVLPは、正常体温(37℃)下のより生理的環境に近い、すなわち換気と灌流が維持された状態で臓器を保存することにより、移植前に体外での的確な肺機能評価と臓器保存時間の延長を可能にした。世界各国の臨床試験にて、EVLP評価により、移植適応ありと判断されたマージナルドナー肺を用いた肺移植は、EVLPを必要としない通常の脳死肺移植と同等の良好な移植後成績を示しただけでなく、ドナー肺の使用率を倍増させることに成功している。本邦においても、EVLPを用いた肺移植は、岡山大学にて単発で行われた後、2020年に京都大学にて再導入された。2020年に京都大学に斡旋された脳死ドナー肺41例中、肺移植を行ったのは19例で、内、EVLPによる肺機能評価を必要としたのは2例であった。他施設にて移植が完全に断念されたマージナル肺を、EVLPにより的確に評価することで救い上げ、移植に成功することができた。

     また、移植の適応外と判断された理由で最も多かったのは、肺炎であった。EVLP中の広域抗生剤治療は、ドナー肺から検出された細菌数、灌流液中のエンドトキシンレベル、早期移植肺機能不全に関連した炎症性サイトカインを有意に減少させ、EVLP中の肺機能を改善することが証明されている。今後は、このようにEVLPシステムを、マージナル肺の単なる機能評価から、障害肺の治療・修復のプラットフォームとして用いることで、さらなるドナープールの拡大が期待される。

  • 田中 真, 石上 恵美, 石原 恵, 松原 慧, 橋本 好平, 枝園 和彦, 諏澤 憲, 三好 健太郎, 山本 寛斉, 岡﨑 幹生, 杉本 ...
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s211_1
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    日本のドナー不足は深刻であり肺移植待機患者の約1/3は移植を受けることができず死亡している。諸外国においてはドナー不足の解決策として心停止ドナー(Donation after Cardiocirculatory Death, DCD)からの肺移植が全体の約10%行われるようになっており、その割合は増加している。DCDには二つのタイプがある。一つはcontrolled DCDで、病院内で人工呼吸器を停止させ心停止後に臓器を摘出するもので世界的に普及している。しかし日本では倫理的にも十分な議論が進んでなく実現には時間がかかる。もう一つはuncontrolled DCD(uDCD)で、病院外で心停止になり心肺蘇生にもかかわらず死亡が確認された患者をドナーとする方法である。日本では倫理的に許容しやすくuDCD腎移植は1971年から本邦でも施行されており、肺移植での普及が待たれている。しかしながらuDCD肺移植はドナー管理が煩雑で世界的に浸透しておらず、その経験のほとんどはスペインに集中している。以前スペインのuDCD肺の機能評価はドナー左心房内の血液ガス分析という簡便な方法に頼っていた。しかし、この評価方法ではグラフトの呼吸・循環動態に関する不確実性あり、肺移植後の予後不良に繋がっている可能性を指摘されていた。そこで我々はuDCDドナーに対する生体外肺灌流(Ex Vivo Lung Perfusion, EVLP)システムの導入とドナー管理プロトコルを改訂することでその後uDCD肺移植の良好な結果を得ることができた。これらの経験において、EVLPのuDCD肺においての役割を考察する。

  • 狩野 孝, 松井 優紀, 宮下 裕大, 福井 絵里子, 木村 亨, 大瀬 尚子, 舟木 壮一郎, 新谷 康
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s211_2
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    虚血再灌流肺傷害による細胞死は移植後のグラフト機能ならびに治療成績に影響をおよぼすことから、その発生を抑制する保存方法の開発が必要である。筆者らはこれまで、肺移植における虚血再灌流肺傷害にネクロプトーシスが関与することを報告しており、その主要なシグナル因子であるRIPK1の活性化を抑制することでグラフトを改善することを報告した。しかし、臓器保存中の薬剤添加による治療のみでは臓器機能の改善が不十分という課題が残っている。

    その課題を克服する方法としてカルパイン阻害薬(ALLN)に着目し、ラット肺移植モデルを用いて効果を検証したところ、ドナー肺への投与(保存灌流液への添加)のみで虚血再灌流肺傷害に対する治療効果を証明することができた。細胞死としてはアポトーシスよりもネクロプトーシスをより強く制御しているものと考えられた。その効果発現のメカニズムは、従来報告されているRIPK1-RIPK3-MLKL経路を主体としたdeath receptor-dependent pathway ではなく、calpain-STAT3-RIPK 経路を主体とした death receptor-independent pathway を制御することで虚血再灌流後のネクロプトーシスを抑制していると考えられる。

    このような臓器保存法の改善を臨床へのフィードバックにつなげることが次の課題である。最近の知見と現在我々がすすめている研究成果を含めて報告したい。  

  • 渡辺 有為, 村井 翔, 上田 和典, 渡邉 龍秋, 新井川 弘道, 大石 久, 鈴木 隆哉, 平間 崇, 宇井 雅博, 小野寺 賢, 野津 ...
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s212_1
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    肺グラフト評価法:ドナー肺の性状は全ての肺葉で一様ではなく,移植に不適応と判断されたドナー肺でも,肺葉によっては良好な機能を維持し移植可能であることがある.大柄なドナーの肺葉を用いて小柄なレシピエント,特に小児への肺葉移植数が増加すれば,待機中死亡率を減少させることができる.われわれは50kgの大型の家畜ブタの左上葉または左下葉を,30kgの小型の家畜ブタの左肺として移植するモデルを確立し,肺葉ごとのグラフト評価法を検索している.

    肺グラフト保存法:臓器保存の究極の目標は,細胞の代謝を極力抑え,代謝停止に近い状態にすることである.哺乳類の仲間であるリスやクマなどは,冬眠という能動的な低代謝状態に入ることで基礎代謝を平常時の 1-25%にまで低下させ,エネルギー消費を節約することで冬期や飢餓を乗り越える.通常では個体が死に至るような低代謝状態になりながらも,冬眠から目覚めると再び通常の活動を始めることから,冬眠は可逆的な変化といえる.最近,このような可逆的な低代謝状態を,細胞レベルで薬理学的に導入可能なことが明らかになった.低代謝状態を固形臓器に安全に導入できれば,現在では難しい移植臓器の長期保存を実現できる可能性がある.われわれは肺保存液へ冬眠導入薬剤を加えることで保存時間を延長できないか,さらにはEx Vivo Lung Perfusion(EVLP)の灌流液へ冬眠導入薬剤を加えることで灌流時間を延長できないかを検討している.また長時間の灌流に適したEVLPの開発も併せて行なっている.

  • Nagai Shunji, Miyake Katsunori, Abouljoud Marwan S
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s213_1
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    背景: 米国では移植機会の公平性を保つため、肝細胞癌(HCC)患者はMilan基準を満たすことが待機優先(MELD exception)を得る条件である。2019年にNational Liver Review Board(NLRB)が導入されMELD exceptionの適否をより厳密にした。本研究では日本の5-5-500基準導入に伴う影響を米国の移植状況に照らし合わせ検討した。

    方法: UNOS transplant registryから、2015~21年にHCCでMELD exceptionを得た患者を抽出、移植時摘出肝病理所見に基づきMilan基準と5-5-500基準の内外の5年生存率を比較した。また、NLRB導入前後でのそれぞれの基準外の比率を比較した。

    結果: 対象は6175名、Milan基準外1582名(25.6%)、5-5-500基準外930名(15.1%)であった。それぞれの5年生存率はMilan基準内・外で74.2% vs 59.2% (p<0.001)、5-5-500基準内・外で71.1% vs 63.9% (p<0.001)であった。Milan基準内とMilan基準外/5-5-500基準内の生存率は74.2% vs 58.5%(p<0.001)で有意差を認めた。NLRB導入前後で5-5-500外は15.5% vs 14.0%と低下し(p=0.156)、Milan基準外は26.6% vs 23.3%と有意に低下した(p=0.007)。

    考察: 米国での移植成績を検討した結果、5-5-500基準内で良好な移植後生存率が担保されていたが、Milan基準内に対しては悪化を認めた。またMELD exceptionの適応を厳格化したことで基準外の移植は減少傾向にあった。術後予後の点で5-5-500基準はacceptableだが、日本におけるHCC患者に対する死体ドナー利用の待機優先ルール制定に向けてはさらなる議論が必要と考えられる

  • 渡辺 正明, 嶋村 剛, 後藤 了一, 川村 典生, 太田 拓児, 武冨 紹信
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s213_2
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    肝癌治療における肝移植の位置付けと適応基準は密接な関係にある。本邦では他の治療が困難になった時に主として生体肝移植が実施されてきたため、1998〜2009年に実施された肝癌に対する生体肝移植965例で、5年再発率・生存率=10%以下・70%以上を担保しつつ適応症例数が最大となる腫瘍要件が検討された。腫瘍径5cm以下・腫瘍個数5個以下・AFP 500ng/mL以下(5-5-500基準)が候補となり、ミラノ基準もしくは5-5-500基準を満たすJapan criteria(JC)で5年再発率・生存率=9.1%・74.8%となり、JCが移植適応基準として採択された(脳死移植:2019年8月、生体移植:2020年4月)。JC導入により、生体移植症例が19%増加すると予想されたが、2017〜19年の肝癌症例は成人症例全体の18.1%、JC導入後では全体の14.8%と増加は明らかでなかった。一方、脳死移植では2018年末までの肝癌症例は全体の8.2%であったが、JC導入後は4.0%にとどまった。肝癌症例は待機3ヵ月毎に2点のMELD exception pointが付加されるが、肝癌症例の割合はなお低い。全国集計データでChild C症例のMELD最頻値16点、脳死移植の72%がMELD 25以上で実施されることから、登録後1年以降(8点付与)で移植が現実的となるが、その恩恵を受ける症例は限られる。当院で待機中に腫瘍因子により適応外となった3例では、逸脱時MELDは10、12、16と低いままであった。生体、脳死移植とも、現行制度の共通認識に基づいた肝臓内科との連携、待機中の管理が重要であるが、脳死移植では腫瘍側因子のみならず、年齢や肝不全度の許容拡大なども考慮されるべきである。

  • 奥村 晋也, 伊藤 孝司, 政野 裕紀, 小木曾 聡, 穴澤 貴行, 内田 洋一朗, 福光 剣, 秦 浩一郎, 波多野 悦朗
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s214_1
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    背景

    肝癌に対する肝移植の保険適応基準は、Japan基準が導入され適応拡大がなされた。Japan基準適応後の当科での肝癌に対する肝移植の現状を示し、今後の展望について議論する。

    方法

    1999年1月より2021年12月までに当院で施行した肝癌に対する肝移植症例250例を対象に後ろ向き検討を行った。当院における肝細胞癌に対する移植適応は、2006年以前は大きさ個数に制限を設けず。2007年以降は京都基準内とした。保険適応外は私費で施行。ミラノ基準・京都基準・Japan基準による、移植後生存率・再発率・予後因子の解析を行った。Japan基準導入による保険適応内症例数の変化について検討した。再発形式と再発後の治療について検討した。

    結果

    各規準を満たす症例の成績は良好であるのに対し、各規準をすべて満たさない症例での再発率は3年で65%と極めて高かった。術前治療で基準内にダウンステージ出来た症例の予後は良好であった。再発危険因子は、京都基準外(ハザード比:2.7、P < 0.01)と術後病理での低分化型肝細胞癌(ハザード比:2.2、P <0.01)であった。京都基準内での後ろ向き検討では、Japan基準導入により保険適応となる患者数は18%増加した。全検討期間内で14%に再発を認めたが、切除も含めた集学的治療により再発後5年以上の長期予後が得られている症例が複数存在した。

    結語

    Japan基準導入による適応拡大に伴い、保険適応となる症例数の増加が見込まれる。再発抑制や再発後治療が、長期生存の鍵となると考えられる。

  • 蛭川 和也, 嶋田 圭太, 櫻井 悠人, 入江 友章, 磯野 香織, 本田 正樹, 菅原 寧彦, 日比 泰造
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s214_2
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    【背景】

    肝細胞癌に対する移植適応基準としてMilan基準と5-5-500基準をあわせたJapan criteriaが本邦で適応されたが、その妥当性および基準内症例の予後予測因子については不明である。当院における肝細胞癌に対して移植を行った症例について、Japan criteriaの妥当性と基準内症例の再発に関する予後因子を検討した。

    【方法】

    2004年から2022年5月までに当院で肝細胞癌に対して肝移植を施行した症例について、病理診断でJapan criteria内の症例の臨床的特徴、全生存率、無再発生存率および再発因子について検討した。

    【結果】

    肝細胞癌に対する肝移植は88例、うち病理診断におけるJapan criteria内症例が66例(生体58例、脳死1例、ドミノ7例)、38例がsalvage移植であった。癌診断から移植までの期間中央値は10 (1-114)ヶ月、移植後5年患者生存率および無再発生存率はそれぞれ86.2%、83.2%であった。再発症例は5例で再発までの期間中央値は21(12-93)ヶ月、全例単発、3例で切除(全て腹膜再発)、1例で化学療法(sorafenib)、1例で化学放射線療法(sorafenib)を行うもいずれも癌死(術後生存期間36 (20-114)ヶ月)。再発群と非再発群の比較では、vpを有する症例が再発群で有意に多く(5(100%) vs 10(16.4%), p<0.001)、腫瘍数・腫瘍最大径、分化度、AFP、PIVKA-II、NLRなど既報にある予後因子はいずれも有意差を認めなかった。

    【結語】

    Japan criteriaを満たす症例は短期・長期予後いずれも満足すべき結果であった。唯一の再発予測因子として同定されたvpを術前に評価可能なsurrogate markerの探索と、再発高リスク症例への術前後の補助化学療法の確立が急務と考えられた。

  • 高瀬 洪生, 上野 豪久, 松木 杏子, 東堂 まりえ, 岩崎 駿, 出口 幸一, 正畠 和典, 野村 元成, 渡邊 美穂, 神山 雅史, ...
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s215_1
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    【目的】腸管不全関連肝障害(IFALD)の当院での経験を提示し、早期発見及び適切な管理方法ついて考察することを目的とした。

    【方法】脳死小腸移植登録を行なった患者のうちIFALD発症例について、血液検査や肝生検所見、小腸・肝移植施行、経過について検討した。IFALDは総ビリルビン>2.0mg/dlと定義した。

    【結果】対象は3例であった。1例は15歳時に上腸間膜静脈血栓症を契機に短腸症に至った。21歳時にIFALDを発症、肝硬変に至り発症後9ヶ月後に生体肝移植を先行したが、液性拒絶を合併し肝不全が進行し、肝移植から6ヶ月後に死亡した。1例は先天性微絨毛萎縮症に対して16歳時に生体小腸移植を施行したが、慢性拒絶にて29歳時に移植小腸を摘出し短腸症となった。31歳時に感染症を契機にIFALDに至り、肝不全が進行し2ヶ月で死亡した。1例は7歳時に中腸軸捻転を契機に短腸症に至った。21歳時よりIFALDを発症し、腎不全も併発したため多臓器移植目的に22歳時に当院転院となったが、多臓器不全が進行し転院後2ヶ月で死亡した。これらの経験からIFALDは発症すると急速に進行し治療困難となるため、現在は小腸移植待機患者に対して、3ヶ月毎に肝線維化マーカーであるMac-2結合蛋白糖鎖修飾異性体(M2BPGi)を測定、また1年毎に経皮肝生検を施行し肝線維化の早期発見に努めている。

    【結論】IFALD発症後急速に進行し死亡した症例を経験した。現在はIFALD発症前から肝線維化の早期発見に努めている。

  • 松浦 俊治, 内田 康幸, 梶原 啓資, 鳥井ケ原 幸博, 白井 剛, 河野 雄紀, 近藤 琢也, 栁 佑典, 永田 公二, 田尻 達郎
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s215_2
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    【背景】腸管不全患者の予後を規定する合併症の一つに肝障害があり、重症例では肝小腸移植が必要となる。しかし、わが国における脳死肝小腸同時移植はallocation systemからも現実的には困難であり、また、composite graftとして移植することも不可能であるため手技的優位性も感じにくい。わが国におけるこれまでの肝小腸移植はほぼ異時性移植であり、当科の経験症例からその課題について検討する。

    【症例】症例は8歳10か月、体重11kgの女児。1歳時に微絨毛封入体病と確定診断され、TPN管理下においても体重は-3SD、身長は—5SDで推移した。7歳頃から肝障害の進行とともに出血傾向や病的骨折が出現。8歳9か月時にMELDスコア19点、小腸はstatus 2で脳死肝小腸同時移植の登録をしたが、急激な肝不全の進行により父親をドナーとする生体肝移植を施行、現在、TPN管理継続下に異時性脳死小腸移植待機中である。先行した肝移植において、のちの小腸グラフトを門脈系へ吻合することを念頭にduct-to-ductでの胆道再建を行った。現在、グラフト肝機能は保たれているが、著明な脂肪肝を呈している。

    【結語】脳死肝小腸同時移植推進の議論と並行して、異時性肝小腸移植の治療戦略について、特に、先行移植すべき臓器選択とドナー選択、想定される手術手技と容認でき得る移植間隔など検討しておくべき課題は多い。

  • 工藤 博典, 佐々木 英之, 福澤 太一, 中村 恵美, 安藤 亮, 大久保 龍二, 櫻井 毅, 中島 雄大, 多田 圭佑, 佐藤 則子, ...
    2022 年 57 巻 Supplement 号 p. s216_1
    発行日: 2022年
    公開日: 2023/02/23
    ジャーナル フリー

    【症例1】10歳、男児

    現病歴:日齢4発症の中腸軸捻転による超短腸症例。7歳時に重症腸管不全関連肝障害(IFALD)に陥り、小腸移植を考慮した精査加療目的に当科に紹介された。

    経過:内科的管理により一旦は改善も、消化管出血、敗血症を契機にIFALDは急速に進行、肝小腸移植の適応と判断した。検討の上、血液型一致の父をドナーとする生体肝移植を先行し脳死小腸を短期間待機、適合ドナーが現れない際には血液型一致の母をドナーとする生体小腸移植を行う方針としたが、肝移植2カ月後に脳死小腸移植を施行した。

    【症例2】23歳、女性

    現病歴:新生児期発症の広域型ヒルシュスプルング病。静脈栄養に依存し、22歳

    時の残存腸管切除後にIFALDが増悪し肝不全に移行したため、肝小腸移植を目的に当院に紹介された。

    経過:患者は下大静脈欠損、右腎欠損、腸管皮膚瘻を認め、脳死肝小腸同時コンポジットグラフト移植の適応と判断した。脳死肝/小腸移植適応評価、高難度新規医療技術の申請を行い、厚生労働省へもコンポジットグラフト移植の可否を確認した。各々承認され移植登録、待機したが、肝・腎障害が進行し移植には至らなかった。

    【まとめ】本邦で施行し得た肝小腸移植は、二名の生体ドナー、あるいは生体と脳死ドナーを組み合わせた移植であった。しかし脳死同時肝小腸、特にコンポジット移植でしか救えない症例も存在し、早急な制度的対応が必要である。

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