現代の生物学において、遺伝子やタンパク質、薬剤などの分子の大規模な相互作用を可視化することは一般的である。しかし、それらのネットワークを単純なノードリンク図として可視化する場合、いわゆる「毛玉問題」に陥り、可視化の結果から新たな生物学的知見を得ることは困難である。この問題に対処するため、我々はHiViewと呼ばれるウェブベースのネットワーク構造ブラウザを開発した。これは、各種クラスタリングやコミュニティ検出アルゴリズムによるネットワークの階層構造を入力とし、それをサークル・パッキング図として可視化する。利用者は、その可視化をガイドとし、大規模な相互作用を部分構造ごとに閲覧することが可能で、それにより専門家が複雑な生物学的ネットワークを理解することを助ける。また、既知の遺伝子の機能情報などを、外部データベースと接続して表示することも可能で、生物学者向け情報ダッシュボードとしても機能する。
オミクス研究データの増加により,それらとパスウェイの統合と可視化をソフトウェアで自動化することが必要になっている.パスウェイ可視化はカスタマイズ性の高さとウェブアプリケーション化が求められるが,多くの生命科学研究者にとってその開発で用いられるJavaScriptは敷居が高い.また多くのパスウェイ可視化ウェブアプリケーションは公開後の第三者による改変や新たな応用を見据えた設計にはなっていない.我々はWebコンポーネントのように再利用可能でカプセル化されたパスウェイ可視化ライブラリをPythonのダッシュボードフレームワークDash用に開発した.本稿ではパスウェイ可視化がいかなるものかに加え,従来のウェブアプリケーションとDashを用いたものがどう異なるかを我々が開発したソフトウェアDash-Pathwayの機能,応用を交え紹介する.
ゲノムの個体間の差異に着目し、数学的なグラフ構造としてゲノムを可視化するためのツールであるグラフゲノムブラウザを開発した。ゲノム科学の研究において、遺伝情報の総体であるゲノムを可視化することは、その差異を検証し、解釈する上で重要である。このとき、複数のゲノムを数学的なグラフ構造で表現するグラフゲノムをデータ構造として用いることで、ゲノム間の様々な差異をより自然に表現することが可能となる。ここでは、グラフゲノムの可視化をするためのゲノムブラウザであるグラフゲノムブラウザとして、MoMI-Gを紹介する。このツールでは、差異の可視化に必要となる様々な情報を表現するための可視化モジュールを実装した。またこれを用いて、がん培養細胞において発見されている融合遺伝子の可視化を行った。グラフゲノムブラウザは、複雑な差異に対し、可視化を通した探索的な解析を可能にする。
バイオイメージ・インフォマティクス技術の発展により、さまざまな生命現象における時空間動態を定量的に計測することが可能になった。これらの定量データを可視化して観察するにより、生物学における新しい知見や発見を得ることが期待されている。本稿では、最初に、生命現象の時空間動態に対する定量データを記述するためのオープンデータフォーマットBDML(Biological Dynamics Markup Language)を紹介する。次に、BDMLで記述された定量データの可視化およびネットワークを介した可視化の現状について紹介する。これらの現状をふまえ、可視化研究に期待されるバイオイメージ・インフォマティクス分野に対する貢献と今後の方向性について議論する。
本稿では、顕微鏡により計測された細胞の時空間動態を自動的に計測するバイオイメージ・インフォマティクス技術により取得された線虫(C. elegans)の発生ダイナミクスのデータに対して,データ駆動型アプローチの促進を目指した視覚的分析の取り組みを紹介する。線虫の発生過程で現れる細胞の表現型特徴の関係性を示す表現型特徴ネットワークの探索システムや、表現型特徴と遺伝子ネットワークの横断的探索を支援し、生命科学分野における新規知見発見や仮説構築に資する視覚的分析システムを紹介する。これらの可視化システムは、実験データから構築されたネットワークに対して、専門家の知識や生物学データベース情報、ユーザー操作をもとにネットワークを絞り込み、生物学者が興味を持つ「検証可能な仮説」の導出を支援するインタラクティブな可視化システムであり、データ駆動型科学の基礎となるユーザー主導型のデータ理解を促進させる。