日本健康教育学会誌
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30 巻, 1 号
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巻頭言
原著
  • 脇本 景子, 横路 三有紀, 大倉 健太郎, 岸田 恵津
    2022 年 30 巻 1 号 p. 3-13
    発行日: 2022/02/28
    公開日: 2022/04/16
    ジャーナル フリー

    目的:本研究は,小学校高学年の児童の生きる力と食生活に関わる親の態度・行動との関係を明らかにすることを目的とした.

    方法:小学校4・5・6年生の児童とその親を対象に,児童の生きる力と食生活に関わる親の態度・行動に関する質問票調査を行った.生きる力(心理社会的能力,徳育的能力,身体的能力)の得点を従属変数に,食生活に関わる親の態度・行動を独立変数としてステップワイズ法による重回帰分析により関連を検討した.

    結果:生きる力の得点には,親の態度・行動として,子どもの運動不足に対する親の心配(β=−0.15 P=0.001),子どもの朝食欠食に対する親の認識(β=−0.10 P=0.018),食事時に食事の挨拶を教える(β=0.10 P=0.016)との関連が認められた.徳育的能力,身体的能力にも同様の関連がみられた.心理社会的能力の得点には,親の朝食欠食,朝食調理時間との関連も認められた.

    結論:児童の生きる力には,子どもの運動不足に対する親の心配,子どもの朝食欠食に対する親の認識が負の要因として関わり,食事時に挨拶を教えることが正の要因として関わっていた.食生活に関わる親の態度・行動の改善により,児童の生きる力の育成を促進できる可能性が示された.

  • 坂本 達昭, 野末 みほ, 岡部 哲子, 吉岡 有紀子, 齋藤 沙織, 高橋 孝子, 佐々木 ルリ子, 由田 克士, 石田 裕美, 緒方 裕 ...
    2022 年 30 巻 1 号 p. 14-25
    発行日: 2022/02/28
    公開日: 2022/04/16
    ジャーナル フリー

    目的:世帯収入と2020年4~5月の新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言期間(以下,緊急事態宣言期間)とそれ以前(2020年1~2月頃)を比べた幼児の食事内容の変化との関連を明らかにすること.

    方法:2020年9~12月に,全国5地区の公立または私立保育所等に在籍する3~5歳児の保護者2,041名に質問紙調査を依頼し,589名から回答を得た(回収率:28.9%).調査項目は,緊急事態宣言期間における幼児の食事内容の変化,世帯収入,属性等である.世帯員1人あたりの収入を算出し,3分位で収入低群,収入中群,収入高群に分け,世帯収入と緊急事態宣言期間の幼児の食事内容の変化との関連を検討した.次に,緊急事態宣言期間の幼児の食事内容の変化を従属変数,世帯収入(収入高群(基準))を独立変数としてロジスティック回帰分析を行った.

    結果:収入低群においては,ひとり親世帯ならびに最終学歴が高校卒業までの者が多かった.幼児の食事内容の変化は,収入高群と比較して収入低群では,緊急事態宣言期間に菓子や甘い飲み物,インスタント食品や缶詰の摂取が増えた者が有意に多かった.

    結論:世帯収入と緊急事態宣言期間中の幼児の食事内容の変化には関連が認められた.収入低群では,収入高群と比べて,緊急事態宣言期間に菓子や甘い飲み物,インスタント食品等の摂取が増えた者が多かった.

  • 大内 実結, 江田 真純, 赤松 利恵, 新保 みさ, 小島 唯
    2022 年 30 巻 1 号 p. 26-36
    発行日: 2022/02/28
    公開日: 2022/04/16
    ジャーナル フリー

    目的:ストレスと飲酒により食習慣が望ましくない者の,食習慣改善の支援に役立てるため,ストレスと飲酒状況の組み合わせによる食習慣の特徴を検討した.

    方法:2020年11月に実施したインターネット調査のデータを用い,男性2092人,女性1526人の飲酒者を対象とした.対象者を4群(高ストレス/高リスク飲酒:HS/HD群,高ストレス/適量飲酒:HS/MD群,低ストレス/高リスク飲酒:LS/HD群,低ストレス/適量飲酒:LS/MD群)に分け,これら4群と,菓子の摂取量,揚げ物の摂取頻度,バランスのとれた食事の頻度,1日あたりの野菜料理の皿数の関連を男女別にロジスティック回帰分析で検討した.

    結果:属性等を調整しても,LS/MD群を基準にHS/HD群には,揚げ物の摂取頻度週4回以上の者(男性の調整オッズ比:3.19,女性:3.68),男性で菓子の摂取量200 kcal以上の者(調整オッズ比:2.91)が多かった.女性では,バランスのとれた食事がほとんど毎日の者(調整オッズ比:0.68)が少なかった.LS/HD群には揚げ物,男性の菓子の摂取量で望ましくない食習慣の者が多く,HS/MD群にバランスのとれた食事がほとんど毎日の者が少なかった.

    結論:ストレスが高く飲酒量が多い者で望ましくない食習慣がみられた.ストレスと飲酒量の組み合わせにより,留意すべき食習慣の内容は異なることが示された.

実践報告
  • Itsuko HORIGUCHI, Yoshiki ISHIBASHI, Hajime TAYA, Yuriko ANPO, Shiori ...
    2022 年 30 巻 1 号 p. 37-45
    発行日: 2022/02/28
    公開日: 2022/04/16
    ジャーナル フリー

    Objective: A Twitter account called “Experts of the COVID-19 Cluster Taskforce” was created by a communications team belonging to the “Cluster Taskforce” organized by the Japanese Ministry of Health, Labor, and Welfare. Here, we report on the operation and issues involving this Twitter account.

    Field activity: The Twitter account, which was used for emergency risk communication, had up to 400,000 followers in Japan. The account disseminated information on risk management based on epidemic forecasting and cluster analysis. Researchers created tweets in the form of text and media (videos and images). On June 10, 2020, we acquired data from Twitter, Inc. using the Twitter analysis function to analyze the tweets. Within a 55-day period, from April 3 to May 29 of 2020, 89 tweets were posted. The first day generated the highest number of tweets for a single day (17 tweets). Out of the 89 tweets, 42 were text-only, 28 contained images, and 19 contained videos. The leading tweet had more than 10 million impressions. Additionally, the tweets up to the fifth rank had videos or images attached.

    Future implications: The Twitter account enabled professionals to communicate directly with the public without going through the media, and thus share information with large audiences. For this account to work, public trust in the experts was required. We found that effective operation of this account necessitated prior discussion of how to deal with inappropriate posts.

短報
  • 満崎 雅咲, 吉井 瑛美, 外園 海稀, 赤松 利恵, 新保 みさ, 小島 唯
    2022 年 30 巻 1 号 p. 46-53
    発行日: 2022/02/28
    公開日: 2022/04/16
    ジャーナル フリー

    目的:家族との共食頻度の増加に向けて,成人の就労者を対象に,在宅勤務と家族との共食頻度との関連を検討すること.

    方法:2020年11月,全国の成人男女を対象に実施されたインターネット調査のデータを用いた.対象者6,000人のうち,非就労者および一人暮らしの者を除外した3,507人を解析対象とした.解析項目は,属性(年齢,性別,最終学歴,世帯年収,婚姻状況,子どもまたは高齢者との同居との有無,就業形態),在宅勤務,家族との共食頻度とした.従属変数は,家族との共食頻度(毎日2回以上/毎日1回/毎日1回未満(参照カテゴリ)),独立変数を属性および在宅勤務とし,多項ロジスティック回帰分析を行った.

    結果:在宅勤務が,「ほぼ毎日」は904人(25.8%),「週4日以下」は2,603人(74.2%)であった.多項ロジスティック回帰分析の結果,在宅勤務と家族との共食頻度「毎日1回」「毎日2回以上」のどちらとも関連は認められなかった(各OR [95%CI]=0.95[0.78, 1.16],1.20[0.99, 1.46]).

    結論:本研究において,在宅勤務と家族との共食頻度との関連は示されなかった.このことから,単に在宅勤務を推進するだけでは,家族との共食頻度を増やすことはできない可能性が示唆された.

特集:第29 回日本健康教育学会学術大会
  • 吉池 信男, 竹林 正樹
    2022 年 30 巻 1 号 p. 54-58
    発行日: 2022/02/28
    公開日: 2022/04/16
    ジャーナル フリー

    第29回日本健康教育学会学術大会のテーマは,「わかっているけれど実践しない相手を動かすには?」とした.このことは健康教育の実践及び研究において重要な命題である.特に開催予定地の青森県は,かねてより平均寿命が全国最短であり,その背景として不健康な生活習慣が指摘されている.そこで,「現場×研究の力で,健康社会を実現する」ことにつながる大会を目指した.当初は2020年7月開催の予定であったが,新型コロナウイルス感染症の拡大と繰り返される緊急事態宣言等のために,2度の会期の延期を経て,2021年9月11日,12日に完全オンラインで開催した.

    大会には,約400名が参加した.2日間のプログラムでは,一般演題発表におけるディスカッションと,参加者間の交流に力点を置いた.98題の一般演題におけるより活発なディスカッションを期待して,口演及びポスター発表には優秀演題発表賞を設け,10題が選ばれた.メインシンポジウムは,「わかっていてもなかなか実践しない相手をどう動かす? ─身体活動促進へのナッジ─」について活発な討論が行われた.

    青森に皆さまをお迎えするということを目指して,2度の延期と開催形態の検討を行ったが,最終的には完全オンラインでの開催となった.その中にあっても,相互の「顔の見える関係」を大事にしながら発表・討論,交流を行い,新たな学術活動の可能性を見いだすことができた.

  • 吉池 信男
    2022 年 30 巻 1 号 p. 59-67
    発行日: 2022/02/28
    公開日: 2022/04/16
    ジャーナル フリー

    目的:健康教育やヘルスプロモーションにおいて,人々の食行動への介入を行うことの倫理性及び効果的な手段について,社会的変化や急速に進む技術革新を踏まえて考察すること.

    内容:1)基本的人権としての「食べること」と介入の倫理性,2)栄養と健康を捉える視点(栄養学的観点),3)食行動を規定する様々な要因,4)ヒトの食行動の生理学的な理解,5)食行動の社会経済的な規定要因,6)デジタルトランスフォーメーション時代における新たな展開,という6つの視点から考察を行った.

    展望:基本的人権としての栄養や食物選択の自由を前提として,それらに何らかの介入を加えることの倫理性や社会的な正当性を考えることが必要である.また,食品企業等の経済活動に対して,国民の健康保護を目的として政府が介入を行う際には,その理論的根拠を考えつつ,食品選択に関して自己責任に委ね難い子ども等への特段の配慮が必要である.一方,デジタル技術を中心とした技術革新が急速に進む中で,新たな視点から食行動に関与する要因やメカニズムを理解し,社会におけるヘルスリテラシー促進の努力もさらに必要である.食と栄養の未来を予測しながら,新たな価値の創造につながるような健康教育やヘルスプロモーションの実践と研究を行いたいと考えている.

  • 山根 承子
    2022 年 30 巻 1 号 p. 68-72
    発行日: 2022/02/28
    公開日: 2022/04/16
    ジャーナル フリー

    近年政府や自治体・企業の取り組みとして注目を集める「ナッジ」だが,誤解も多く,危険な使われ方も散見される.本稿ではナッジの根本に存在する経済学の考え方を改めて示し,主に倫理的な問題点を整理することで,よりよいナッジの普及に貢献しようとするものである.本稿では,インフォームド・コンセントの倫理的な重要性と,同意のあるデフォルトナッジの効果が大きいことから,「本人が知らぬ間に行動変容させる」ようなナッジは慎むべきであると主張する.また,サンスティーンらの著書で「慎重型ナッジ支持国」に分類されている日本でナッジを行うことに対する注意を喚起する.最後に,昨今のパーソナライズドナッジの流れを汲み,健康行動に関わるいくつかの研究を紹介する.パーソナライズドナッジは一律に与えるナッジよりも効果的であるという研究が多いが,パーソナライズするということは距離の近い介入を行うということであり,より倫理的な観点が必要になるだろう.

  • 竹林 正樹, 甲斐 裕子, 江口 泰正, 西村 司, 山口 大輔, 福田 洋
    2022 年 30 巻 1 号 p. 73-78
    発行日: 2022/02/28
    公開日: 2022/04/16
    ジャーナル フリー

    目的:第29回日本健康教育学会学術大会シンポジウム「わかっていてもなかなか実践しない相手をどう動かす? —身体活動促進へのナッジ—」における発表と討議の内容をまとめることで,今後の身体活動・運動促進支援に資することを目的とする.

    現状と課題:心理・社会的特性に沿った行動促進手法の1つに「ナッジ」がある.ナッジでの身体活動・運動促進に関する先行研究では,「プロンプティング(例:階段をピアノの鍵盤模様にし,利用時に音が鳴る)」に一定の効果がある可能性が示唆されている.しかし,日本では,ナッジによる身体活動・運動促進に関する先行研究が少なく,特に行動継続に関する見解が十分とは言えない状況にある.

    知見と実践事例:身体活動・運動促進には,ナッジの枠組みである「FEAST(Fun: 楽しく,Easy: 簡単に,Attractive: 印象的に,Social: 社会的に,Timely: タイムリーに)」とヘルスリテラシー向上を組み合わせた介入が効果的と考えられる.この実践例に,青森県立中央病院が実施する「メディコ・トリム」事業がある.この事業では「笑い」を取り入れた健康教室を行った後,参加者が生活習慣改善を継続した可能性が示唆された.さらなる研究・実践を蓄積していくことにより,継続性のある身体活動・運動促進に関する方略の確立が求められる.

  • 塚本 昌彦
    2022 年 30 巻 1 号 p. 79-85
    発行日: 2022/02/28
    公開日: 2022/04/16
    ジャーナル フリー

    健康,ダイエット,禁煙などのために多くの人がそれぞれ自分の行動変容を望んでいるが,だいたい思うようにいかないものである.勉強や仕事,その他の社会活動においても,社交的になりたいとか積極的になりたい,悲しみから逃れたいなど,心のありように関わる自己の変容を望む人は多い.このような人々の行動や生活態度を把握,記録し,変容を促すうえで,ウェアラブルデバイスは強力な武器となる.ここでウェアラブルデバイスとは,スマートウォッチ,スマートグラス,ヒアラブル,その他,身体に装着する情報機器のことをいう.従来のデスクトップやモバイルの情報機器と比べるとユーザが常時利用できるため,仕事や日常生活の中での新たな使い方が可能となる.本稿ではこれらのウェアラブルデバイスが人々の行動変容を促進するためにどのように有効に活用できるのかについて,最近のウェアラブル動向を交えて論説する.

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