日本健康教育学会誌
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31 巻, 3 号
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巻頭言
原著
  • 濱下 果帆, 赤松 利恵
    2023 年 31 巻 3 号 p. 110-116
    発行日: 2023/08/31
    公開日: 2023/09/17
    ジャーナル フリー

    目的:ゆっくりよく噛んで食べる要因として,主食・主菜・副菜をそろえた食事の頻度が関係するかを検討すること.

    方法:2018年に農林水産省が実施した「平成30年度食育に関する意識調査」で得た,満20歳以上1,824人分のデータの二次解析を行った.対象者を咀嚼習慣によって2群に分け,カイ二乗検定,ロジスティック回帰分析を用いて主食・主菜・副菜をそろえた食事の頻度を調べた.なお,ロジスティック回帰分析では,ゆっくりよく噛んで食べることに影響を与える可能性のある属性,時間のゆとり,健康を意識した食生活の実践の項目を含めて検討した.

    結果:解析対象者1,813人(解析対象率:99.4%)のうち,ゆっくりよく噛んで食べている群は914人(50.4%)であった.ゆっくりよく噛んで食べている群には女性が多く,時間のゆとりがある,健康を意識した食生活を実践している,主食・主菜・副菜をそろえた食事の頻度が高い者が多かった.またこれらすべてを同時に投入したロジスティック回帰分析の結果でも,主食・主菜・副菜をそろえた食事の頻度が「毎日」ではゆっくりよく噛んで食べているオッズ比が高かった(オッズ比[95%信頼区間]:1.28[1.04, 1.57],P=0.017).

    結論:時間のゆとりや健康意識を考慮しても,ゆっくりよく噛んで食べていることと主食・主菜・副菜をそろえた食事の頻度の高さは関連していた.

  • 山田 智子, ハフマン ジェフリー, 田口 円裕, 石上 和男, 永井 徹, 木下 直彦, 瀧口 徹
    2023 年 31 巻 3 号 p. 117-126
    発行日: 2023/08/31
    公開日: 2023/09/17
    ジャーナル フリー

    目的:国際専門機関が共通して認める水道水フッ化物添加(CWF: community water fluoridation)は優れた公衆衛生的う蝕予防対策である.CWFに関する決定は住民に責任を負託された代表者によって州,もしくは地方政府レベルで行われ,多くの政府決定は個人の選択レベルにある程度影響される.そのことから先進国のうち全国規模で地域格差が少なく高率にCWFを行っている豪州とCWF未実施の日本において各種う蝕予防法の知識と認識および実践(経験)状況の比較を目的とした.

    方法:両国のweb調査会社モニターを対象として,性別,年齢階層別に抽出した日本人1,008名,豪州人1,020名を対象に自己入力式web調査を行い,日豪の比較分析を行った.モニターの回答回収期間は2021年7月10日から8月25日までの47日間であった.

    結果:日豪間で歯みがきの励行以外は大きな差があり,日本が高いのは女性の40~64歳の歯みがきおよびフロス・歯間ブラシの実施者率のみであった.CWF等フッ化物利用の知識・実践(経験)者率は豪州に比べ日本は極めて低く,CWF関連情報の入手先は豪州では歯科医師からの比率が高い状況であった.

    結論:本研究では日豪においてう蝕予防のために行っている口腔保健行動およびフッ化物の知識・実践(経験)の状況に差異が存在することを明らかにした.

  • 久保 元芳, 赤荻 冴
    2023 年 31 巻 3 号 p. 127-141
    発行日: 2023/08/31
    公開日: 2023/09/17
    ジャーナル フリー

    目的:小・中学校におけるWBGTの測定状況とそれに応じた熱中症予防の取組,WBGTの活用の利点や課題等を明らかにすること.

    方法:横断的実態調査研究として,関東地方A県内で無作為抽出した小・中学校の保健主事を対象に質問紙調査を実施し,小学校65校,中学校64校分を分析した.WBGTの測定状況や場所について,校種等によるクロス集計を行った.自由記述項目のWBGTに応じた対応例,WBGT活用の利点と欠点については,その意味を吟味したカテゴリー化を行った.

    結果:小・中学校ともに約90%でWBGTを測定しており,校庭・グラウンドや体育館が多い一方,教室,プール等は少なかった.WBGTに応じた対応を行っている小学校は81.5%,中学校は64.1%であり,21°C以上から水分補給や休憩の呼びかけがみられ,WBGTの上昇に伴って対応が多様化し,31°C以上では多くの学校で屋外の運動や活動を中止していた.WBGT活用の利点として,各種教育活動の実施程度について妥当な判断ができたり,児童生徒や教職員の熱中症予防への意識向上が図れたりすること,欠点として,WBGTに応じた対応で教育活動の計画的な実施に支障が出る場合があること,児童生徒の観察が疎かになること等が挙げられた.

    結論:小・中学校の多くでWBGTが測定,活用されているが,教育活動の計画的な実施との調整など,活用上の課題も明らかとなった.

実践報告
  • 辰田 和佳子, 山中 恵里香, 稲山 貴代
    2023 年 31 巻 3 号 p. 142-150
    発行日: 2023/08/31
    公開日: 2023/09/17
    ジャーナル フリー

    目的:視覚障害者は,身体活動量が少ないことが報告されている.本研究では,参加者の身体活動実践の際の工夫と,その実践に必要だと考える支援についてのなまの声を,マルチレベルモデルを参考に各レベルに整理し,レベルに応じた介入計画を検討することを目的とした.

    方法:成人視覚障害者10人を対象に,フォーカスグループインタビューを実施した.逐語録から切片化した情報を簡潔かつ適切なコードにまとめ,カテゴリーを作成した.

    結果:身体活動実践の工夫は,個人内・個人的レベルでは【活動強度をあげる】など6個,個人間レベルでは【仲間との実践行動】など2個,組織,コミュニティ・地域レベルでは【団体への所属】の計9個のカテゴリーにまとめられた.身体活動実践のために必要な支援は,個人内・個人的レベルでは【自身の知識・スキル】など2個,個人間レベルでは【誘ってくれる仲間の存在】など3個,コミュニティ・地域レベルでは【介助なしで利用可能な施設】など7個,公共政策的レベルでは【地域の道路整備】の計13個のカテゴリーにまとめられた.

    結論:視覚障害者の身体活動促進には,個人レベルの情報や個人への教育成果を当事者間で共有できるネットワークづくりが求められる.さらに,スポーツクラブなどの地域にある組織に対し,視覚障害者の身体活動促進を支援するための具体的なサービスやガイドの提案が必要であることが示唆された.

  • 吉井 瑛美, 會退 友美, 赤松 利恵, 長谷川 智子, 福田 一彦
    2023 年 31 巻 3 号 p. 151-162
    発行日: 2023/08/31
    公開日: 2023/09/17
    ジャーナル フリー

    目的:家庭や保育施設で,遊びを通して知識を身につけ日々の生活を振り返り,生活改善に取り組むことを目指した総合的な健康教育教材「けんこうニコニコカード」を開発した.本研究では,小学校入学を控えた幼児とその保護者による生活改善への取組に利用可能であるかを検討する.

    活動内容:2022年2月下旬~3月下旬の計4週間,小学校入学を控えた幼児と母親54組を対象に,教材を用いたプログラムを実施した.対象者には事前に教材(カード,サポートブック等)を郵送し,家庭において親子で遊び,生活改善に取り組んでもらった.週に1回計4回,オンラインでの無記名自記式質問紙調査によるプロセス評価を行った.

    活動評価:プロセス評価の結果,第1週に教材が最も活用され(98.1%),生活改善へのチャレンジは第4週に最も取り組まれ(88.9%),1週間以上取り組んだ親子の割合は96.3%であった.約9割の母親が「子どもがカード遊びを楽しんでいた(94.4%)」「生活改善チャレンジに意欲的だった(88.9%)」「母親自身も遊び・チャレンジにおける子どもとのやりとりを楽しめた(90.8%)」と回答した.自由記述においても,生活改善のきっかけになった等肯定的なコメントが得られた.

    結論:作成した教材が,小学校入学を控えた生活改善に関心のある親子の生活改善への取組に利用可能であることが示された.

コメンタリー
特集:健康教育・ヘルスプロモーション研究のための方法論講座
  • 青柳 健隆
    2023 年 31 巻 3 号 p. 166-172
    発行日: 2023/08/31
    公開日: 2023/09/17
    ジャーナル フリー

    学術誌等において質的な手法を用いた研究を目にする機会も増えてきたが,いまだに質的研究が広く,そして適切に理解されているとは言い難い.本稿では,質的研究と量的研究の比較を通して,質的研究の特長を明示することを主目的とした.また,エビデンスレベルや質的研究の特長に基づく量的研究との使い分け,混合研究法としての質的研究と量的研究の相互補完的な活用方法についても報告する.加えて,そもそも「質的」とはどういうことなのかについても検討した.まとめると,質的研究とは探索的・仮説生成的であり,俯瞰的・抽象的な範囲を取り扱うことを得意とし,要素や関係性の「存在」を重視するという特徴を持っている研究手法であった.対する量的研究は,検証的・確認的で,限定的な範囲について結論づけることに適しており,「数」を重要視するパラダイムを有していることが確認された.両者それぞれに特長があるため,研究分野のエビデンスレベルや研究目的,データの性質などに応じて妥当かつ信頼性の高いものを選択または組み合わせて用いることで研究のクオリティを高めることが可能となる.

  • 緒方 裕光
    2023 年 31 巻 3 号 p. 173-179
    発行日: 2023/08/31
    公開日: 2023/09/17
    ジャーナル フリー

    統計的多重性の問題と多重比較の方法は,データ解析における重要課題の1つである.1950年代から現在に至るまで,一元配置分散分析の結果に応じて複数群の平均値を比較する方法として,様々な多重比較の方法が開発されてきた.近年,臨床試験において複雑な研究デザインが用いられるようになり,統計的多重性の問題はさらに重要になっている.多重比較は統計的多重性の問題を解決するためのアプローチであり,研究の科学的意義を高めるためにも研究計画の段階から適切な多重比較の方法を選択する必要がある.本稿では,統計的多重性の問題の基本的考え方を述べるとともに,多重比較の代表的方法の特徴と留意点について概説する.

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