日本健康教育学会誌
Online ISSN : 1884-5053
Print ISSN : 1340-2560
ISSN-L : 1340-2560
26 巻, 1 号
選択された号の論文の15件中1~15を表示しています
巻頭言
原著
  • 坂本 達昭, 早見(千須和) 直美, 細田 耕平
    原稿種別: 原著
    2018 年 26 巻 1 号 p. 3-12
    発行日: 2018/02/28
    公開日: 2018/02/28
    ジャーナル フリー

    目的:家の食事の楽しさと中学生と保護者の食事中のスマートフォン等の利用および共食頻度の関連を検討すること.

    方法:福井県内の中学2年生762名を対象に横断調査を実施した(有効回答者759名).調査内容は,基本属性,家の食事の楽しさ,中学生・保護者の食事中のスマートフォン等の利用,共食頻度とした.分析では食事中のスマートフォン等の利用は「週に1日以上使うことがある」群と「使うことがない」群に,共食頻度は「週4日以上」と「週3日以下」の2群に分けた.家の食事の楽しさを従属変数,食事中のスマートフォン等の利用,朝食・夕食の共食頻度を独立変数として男女別にロジスティック回帰分析を行った.

    結果:家の食事が楽しい者は,男子308名(82.6%),女子329名(85.3%)であった.多変量ロジスティック回帰分析の結果,男子の食事の楽しさには母親が食事中にスマートフォン等を利用しないこと(調整オッズ比(AOR):2.60,95%信頼区間(95%CI):1.29-5.25)が関連し,女子は父親が食事中にスマートフォン等を利用しないこと(AOR: 2.29,95%CI: 1.15-4.57),夕食の共食頻度(AOR: 2.62,95%CI: 1.37-5.04)が関連していた.

    結論:中学生が家の食事楽しいと感じるためには,保護者は食事中のスマートフォン等の利用を控えるべきであることが示唆された.

実践報告
  • 島袋 桂, 斎藤 美希, 島袋 愛, 金城 淳, 幸地 将希, 金城 太志, 金城 昇
    原稿種別: 実践報告
    2018 年 26 巻 1 号 p. 13-27
    発行日: 2018/02/28
    公開日: 2018/02/28
    ジャーナル フリー

    目的:本研究では楠木の戦略理論を参考に,コンセプトを「パートナーづくり」,しかけを「競走」とした健康づくりプロジェクト戦略モデルを作成し,戦略に沿って実践した運動キャンペーン「貯歩っとレース」のプロセス評価を行った.

    事業/活動内容:沖縄県A村では,平成20年度から健康づくりプロジェクトが展開され,ステークホルダーへのフォーマティブリサーチにより,地域住民のつながりが強い等の特徴が明らかにされた.その資源を活かすために,平成24年度から新しい戦略を導入した.一定期間の歩数を記録する「貯歩っとレース」の内容も地域の特徴を活かした形に変更された.その評価のために,戦略変更前後の参加者1,087名への調査と住民2名にインタビューを行った.

    事業/活動評価:戦略変更前後を比較した結果,「貯歩っとレース」の平均参加者数は46.8名から137.8名に増加し,記録シートの提出率は46.8%から75.3%に増加した.また,国が推奨する目標歩数を超えた参加者も増加した他,非活動的な住民も参加者に取り込めたことが示唆された.インタビューから,住民同士の呼びかけで参加者が集まっていたこと,特に「貯歩っとレース」後にウォーキングを実施する住民の増加が確認された.

    今後の課題:「パートナーづくり」と「競走」による戦略モデルの有効性が示唆され,参加者増加や事業後の運動実施等の成果があった.地域と関わりがない住民へのアプローチが今後の課題となる.

  • 竹林 正樹, 藤田 誠一, 吉池 信男
    原稿種別: 実践報告
    2018 年 26 巻 1 号 p. 28-37
    発行日: 2018/02/28
    公開日: 2018/02/28
    ジャーナル フリー

    目的:小児肥満が深刻な青森県下北地域において,下北ブランド研究所では,母親と子が健康意識を大きく変えなくても小児肥満を予防できる食環境の整備を目的とした健康中食のマーケティングを実施した.本稿ではPDCAサイクルを用いた評価内容を示した.

    事業/活動内容(PLAN・DO):保育園保護者へのインタビュー(n=11)や質問紙調査(n=441)等から,当地域では親子向け健康中食の市場創出機会ありと判断した(推定市場規模6,200万円).ターゲットを「中食の摂取頻度が高く,子にヘルシー中食を食べさせたいと考える母親」,ポジショニングを「親しみ」と「手軽さ」と設定した.保育園給食メニューを中心に5品を発売した.

    事業/活動評価(CHECK):業者は健康中食を安定的に製造せず,ターゲット層の利用は推定市場規模の0.1%で,当地域での小児肥満予防に与える影響は極めて限定的であったと推測された.消費者ニーズがあったにもかかわらず業者を製造へと動かせなかった原因を「業者の心理を十分考慮しないまま戦略設計し,業者に事業の魅力が伝わらなかったため」と分析した.

    今後の課題(ACT):改善策として,業者と消費者が直接対話できる場を設定した.この策はナッジ(強制を伴わずに行動を促す仕組みやシグナル)によるものであり,業者は健康中食への愛着が高まり,製造へと一歩踏み出すことが期待される.

第26回学術大会特集1
特別報告
  • 荒尾 孝
    原稿種別: 特別報告
    2018 年 26 巻 1 号 p. 38-39
    発行日: 2018/02/28
    公開日: 2018/02/28
    ジャーナル フリー
  • ―原点はWHOオタワ憲章―
    島内 憲夫
    原稿種別: 特別報告
    2018 年 26 巻 1 号 p. 40-46
    発行日: 2018/02/28
    公開日: 2018/02/28
    ジャーナル フリー

    目的:WHOのヘルスプロモーション(HP)に関するオタワ憲章は世界の保健医療関係者にとってのバイブルであり,理念である.本報告は,1.HPの基本理念,2.HPを支える理論,3.HP推進の立役者,4.日本でのHPの登場・展開,5.国際的なHPの動向,6.今後のHP戦略について論じた.

    内容:ヘルスプロモーションとは,人々が自らの健康とその決定要因をコントロールし,改善することができるようにするプロセスである(オタワ憲章:1986年,バンコク憲章:2005年).HPの立役者は,Kickbusch IとNutbeam Dの二人である.

    HP活動は,人々の健康課題を共有し,解決し,共に推進することに焦点を置いている.その理由は,「共に生み出すものだ」と考えているからである.

    21世紀を生きる我々は,未来をコントロールし,人生をあらゆる面において豊かなものとすることが求められている.それゆえ,我々人間は自分の能力を全面的に発揮し,人生を楽しみながら,世界のすべての人々と共にヘルスプロモーション活動を実践しなければならない.

    結論:そのためには,HPと協働できる健康と幸福を目指した新しい健康教育理論の構築に向かっての努力が必要である.

  • ―集団的健康づくりに必要な実践戦略―
    蝦名 玲子
    原稿種別: 特別報告
    2018 年 26 巻 1 号 p. 47-53
    発行日: 2018/02/28
    公開日: 2018/02/28
    ジャーナル フリー

    目的:近年,地域組織活動やソーシャル・キャピタルの向上の重要性が研究・施策の両方において示されている.ヘルスコミュニケーションは効果的かつ持続可能な集団的健康づくりに役立つ.そこで本稿では,ヘルスコミュニケーションの定義及び,集団的健康づくりへの活用方法を解説した.

    内容:解説のための事例には,健康教育とヘルスプロモーション実践者育成を目的とした3年制の市民大学とヘルスプロモーション実践者(大学卒業生)の地域組織を用いた.いずれも筆者が2005年からの4年間,アドバイザーとして関わった宮崎県串間市で,2006年から始まり12年経った現在もなお継続している活動である.本事業は,1)エンパワメントの連続体モデルに基づきデザインされたプログラム,2)社会認知理論に基づく教育方法,3)社会認知理論に基づく卒業後の支援体制,4)住民による健康格差問題へのポジティブなアプローチ,5)ヘルスプロモーションのアウトカムモデルを用いた評価の5つから成る総合的な戦略であった.本事業の健康教育とヘルスプロモーションへの効果は,ヘルスプロモーションのアウトカムモデルの4つの側面から確認された.また大学創設以来,計451名の卒業生を輩出してきた.

    結論:健康教育の効果を高め,健康教育をヘルスプロモーションの実践へとつなげ,継続させるためには,ヘルスコミュニケーションの視点を持つことが重要である.

  • ―身体活動の促進を目指して―
    甲斐 裕子
    原稿種別: 特別報告
    2018 年 26 巻 1 号 p. 54-58
    発行日: 2018/02/28
    公開日: 2018/02/28
    ジャーナル フリー

    目的:身体活動を高く維持することは心身の健康づくりに有益である.しかし,身体活動不足は世界的に広がっている.では,身体活動促進のためには,地域でどのような集団戦略が有効なのだろうか?身体活動促進のための地域集団戦略について概説する.

    内容:地域レベルでの身体活動促進には,メディア戦略や環境戦略などを組み合わせた複合的な集団戦略が推奨されているものの,その有効性を示すエビデンスは不足している.国内では,特に高齢者をターゲットにした地域集団戦略の研究がいくつか行われている.ソーシャルマーケティングの活用,自治体・住民・地域組織との連携,人のつながりを含めた環境整備を行うことで,地域レベルの身体活動促進が可能になるのかもしれない.ただし,効果が表れるためには,少なくとも3年~5年にわたる取り組みが必要である.一方,集団戦略によって健康格差が広がる可能性もある.集団戦略を実施する際は,健康格差との関連を常に頭に置いたアプローチをとるとともに,社会経済的な指標もモニタリングすることが重要であろう.

    結論:地域における集団戦略による身体活動促進については,結論が出せるほどのエビデンスはないものの,少しずつ成果が出てきている.特に,自治体や住民とのパートナーシップ戦略は,健康格差の視点からも有効でありうる.しかし,社会は一歩先に動き出している.今後は,社会の動きと連動してエビデンスを蓄積していくべきである.

  • ―有効で感謝される働き盛り世代の健康支援とヘルスリテラシーの向上を目指して
    福田 洋
    原稿種別: 特別報告
    2018 年 26 巻 1 号 p. 59-68
    発行日: 2018/02/28
    公開日: 2018/02/28
    ジャーナル フリー

    目的:本稿では,シンポジウムⅠでの職域からの話題提供者として,職域ヘルスプロモーション(以下WHP)の変遷と成果について,世界の動向と日本の現状について解説した.さらに今後の展望について,健康経営やヘルスリテラシーの視点から述べた.

    内容:国際産業衛生学会(ICOH)やWHOのHealthy Workplace Framework and Model等では,働く人の健康確保のために安全衛生とヘルスプロモーションを統合すべきと叫ばれており,WHPの重要性は増している.日本の政策からも,健康増進法(2003年),高齢者医療確保法(2008年),健康経営銘柄(2014年),ストレスチェック制度(2015年)とWHPの動きは加速しているように見える.ヘルスプロモーション・健康教育国際連合(IUHPE)のエビデンスブックでは,WHPに関する論文が58題取り上げられており,禁煙,高血圧,フィットネス/運動,体重コントロール等の分野で介入効果があるとしている.日本におけるWHPのエビデンスは不足しているものの,健康経営に取り組む企業では,経営層や社員の参画により,健康を大事にする風土の醸成や健康関連指標の改善,ヘルスリテラシーの向上につながる良好実践が蓄積されつつある.

    結論:WHPのゴールは,医療費適正化や単なる疾病予防だけでなく,社員と組織のヘルスリテラシーを高めることである.少子高齢化・低成長・健康格差拡大の時代に,企業の生産性(productivity)も見据えつつ,新たな労働と健康の調和が求められている.

第26回学術大会特集2
第26回学術大会特集3
特別報告
  • 岡 浩一朗
    原稿種別: 特別報告
    2018 年 26 巻 1 号 p. 74-75
    発行日: 2018/02/28
    公開日: 2018/02/28
    ジャーナル フリー
  • 河村 洋子
    原稿種別: 特別報告
    2018 年 26 巻 1 号 p. 76-85
    発行日: 2018/02/28
    公開日: 2018/02/28
    ジャーナル フリー

    目的:本稿では,本年度の学術大会シンポジウムIIIで担当したヘルスコミュニケーションの世界的な動向を紹介する内容を,読者にとってヘルスコミュニケーションについて知るための資料になるように再度整理した.さらに,その内容を考察しこれからの日本におけるヘルスコミュニケーションの発展の方向性について提案を試みた.

    内容:最初に,「ヘルスコミュニケーション」について初めて耳にされる読者に対して,触れておくべき内容を概論的にまとめた.次に,主に米国とインド及びアフリカ諸国のヘルスコミュニケーション分野の発展の歴史と現在の動向を示した上で,ヘルスコミュニケーションの分野としての特徴やあるべきかたちを考察した.最後に,日本の社会的枠組みに適したヘルスコミュニケーションのこれからを考える上で重要であると思われるポイントを提案した.

    結論:日本には諸外国にはない,保健医療福祉分野の盤石な社会的インフラがある.しかし,急速なスピードで変容し続ける社会とその要請に応えていくために,ヘルスコミュニケーションが備える実践性と学際性の高さは極めて有用である.その実践をかたちにしていくことは多分野の協働関係の構築を促進し,社会の対応力を高める.ヘルスコミュニケーションを実践できる人材育成についても議論を始めることも,分野そのもの発展に有用であると思われる.そしてこれらの実践,研究,教育に関する議論において,多様な分野の貢献,視点が必須である.

  • ―マスメディアに着目して―
    宮脇 梨奈
    原稿種別: 特別報告
    2018 年 26 巻 1 号 p. 86-92
    発行日: 2018/02/28
    公開日: 2018/02/28
    ジャーナル フリー

    はじめに:欧米では,健康増進に必要な情報を提供し,意思決定を支援するヘルスコミュニケーションが積極的に活用され成果をあげている.そこで本稿では,がん予防情報の普及・啓発,マスメディアに焦点を当て,欧米での研究動向や日本の現状を紹介しながら,日本でヘルスコミュニケーション戦略を構築する手がかりを示すことを試みた.

    内容:がん情報源として重要な役割を果たす機能をマスメディアがもっていることから,欧米では,現状について検討を繰り返しながら,ヘルスコミュニケーション戦略に活用している.そして,大多数に対し効率よくがん情報や知識を普及できる有効な手段であると位置づけている.日本のがん情報を受発信する双方の現状をデータとして包括的に捉えると,がん予防情報は,潜在的ニーズがあるにもかかわらず,マスメディアでの取り扱いは少ない.また,発信されているがん予防情報だけでは予防・検診受診行動を促すには不十分である可能性が示唆された.

    まとめ:効果的ながん予防情報を普及・啓発するためには,情報を創出するマスメディア関係者と協働し,ヘルスコミュニケーション戦略を構築・実施・評価していくことで,実践と研究が一体化した有効性の高い実績を積み重ねていく必要がある.

  • ―がんの教育・普及啓発の事例―
    助友 裕子
    原稿種別: 特別報告
    2018 年 26 巻 1 号 p. 93-99
    発行日: 2018/02/28
    公開日: 2018/02/28
    ジャーナル フリー

    はじめに:Learning Partner Model(以下,LPM)とは,科学的根拠に基づいた学習知識が,日常的な文脈において人から人へ伝達される一連のプロセスである.本報告では,第26回日本健康教育学会学術大会シンポジウムⅢ「日本版「ヘルス・コミュニケーション」のかたち:実践と研究の融合」における報告の代表的なスライドを抜粋し,がんの教育・普及啓発におけるLPMの適用事例を取り上げ,健康教育によって得られた知識を国民に普及させるための手立てについて,その方法論の一端を示すことを試みた.

    内容:LPMを適用したがんの教育・普及啓発の事例として,学校におけるがん教育および地域における成人向けがん教育を示した.学校におけるがん教育では,学校というコミュニティ特性に合ったモデルの適用方法を検討することの重要性を示した.地域における成人向けがん教育では,住民の社会的ネットワークに着目し,日常場面で特定の人々に対しメッセンジャーの役割を期待される人々‘natural helper’の同定が鍵となることを示した.

    まとめ:学校と地域において,がんの教育・普及啓発の方法は変える必要がある.LPMを用いることによって,いずれの場所においても健康情報をよりよく普及することが可能になることを示した.

  • 秋山 美紀
    原稿種別: 特別報告
    2018 年 26 巻 1 号 p. 100-108
    発行日: 2018/02/28
    公開日: 2018/02/28
    ジャーナル フリー

    緒言:効果的なヘルスコミュニケーションプログラムは,個人はもとより,組織,コミュニティ,そして社会全体を健康な方向に変えていく影響力を持つ.本稿は,健康課題を抱える人を取り巻くマクロな環境を変えることを念頭に置いたヘルスコミュニケーションの実践例や教育プログラムを紹介しながら,人と環境との交互作用の重要性を再確認する.

    内容:コミュニケーションは単体でも,当該社会における健康課題や優先課題を知らしめたり,組織間関係を強化することが可能である.しかしながら,起きた変化を持続させたり,より複雑に絡み合う課題を解決するには,他の戦略と組み合わせる必要があることが知られている.このことから,ヘルスコミュニケーションの研究,実践,教育は,他分野と融合しながらダイナミックな広がりを見せており,例えば,欧米の公衆衛生大学院ではアドボカシーや住民参加型ヘルスリサーチ等を関連科目として教授するようになっている.最近のヘルスアドボカシーの顕著な成果として,糖分を多く含むソーダ飲料への課税が挙げられる.Berkeley市を筆頭に米国の複数の都市で導入されることになったものである.親の会,学校,公衆衛生の専門家らによる効果的なパートナーシップが,キャンペーンを成功に導いた事例である.

    まとめ:日本でも多分野の知見を導入しながら多層的に健康活動が展開されていくことが求められている.そのためにはヘルスコミュニケーションの裾野をさらに広げていく必要がある.

feedback
Top