日本健康教育学会誌
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27 巻, 4 号
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巻頭言
原著
  • 八巻 知香子, 高山 智子
    原稿種別: 原著
    2019 年27 巻4 号 p. 307-318
    発行日: 2019/11/30
    公開日: 2019/11/30
    ジャーナル フリー

    目的:がん相談支援センターはがんに関して誰でも無料で相談できる窓口であり,より一層の周知が必要であると指摘されている.エンターテイメント・エデュケーションの手法は,情報過多の社会における有効な啓発手段であるとされているが,日本では十分に活用されていない.本研究では,ラジオドラマおよび冊子を用いたがん相談支援センターの情報提供が,周知の手法としてどのような特徴があるのかを探索的に検討することを目的とした.

    方法:図書館利用者に対して,ラジオドラマ2種および冊子資料を用いてがん相談支援センターに関する情報提供を行い,介入後のがん相談支援センターの利用意向,知識量,介入前後のがん相談支援センターの利用に関する懸念の変化を非無作為化比較試験により検討した.情報量は文字数に換算して,ラジオドラマがいずれも約900字,冊子が約10,000字であった.

    結果:介入後のがん相談支援センターの利用意向に3群間の差はなく,いずれも9割の人が利用したいと回答した.がん相談支援センターに関する知識のうち,ラジオドラマ内で触れた内容については記憶している人の割合は冊子介入群と該当するラジオドラマ介入群でほぼ同じであった.

    考察:情報量が10分の1に限られるラジオドラマにおいても,がん相談支援センターの利用意向をもつ人の割合はほぼ同じであった.この手法は受動的な媒体を通じた,情報が伝わりにくい人への周知手段として活用できることが示唆された.

  • 脇本 景子, 岡本 希, 西岡 伸紀
    原稿種別: 原著
    2019 年27 巻4 号 p. 319-329
    発行日: 2019/11/30
    公開日: 2019/11/30
    ジャーナル フリー

    目的:本研究は,学校給食の残食に関わる要因として,献立内容,栄養量,気温を取りあげ,主食及び牛乳の残食量との関連を明らかにし,これら要因を変数とした残食推計モデルを得ることを目的とした.

    方法:兵庫県宝塚市の市立小学校12校(喫食者数は約7,000人)の学校給食の記録(2013~2016年度の593日分)を調査対象とした(横断調査).調査内容は,学校給食の残食量,献立,栄養量,気温である.米飯,パン,牛乳の1人当たりの残食量を従属変数とし,気温,提供時期,給食の提供量及び栄養量,ダミー変数に変換した献立の種類を独立変数として,ステップワイズ法による重回帰分析を行い,関連を検討した.

    結果:米飯の残食では,気温(.56),炊き込みご飯(-.40),カレー(-.39)等が関連し,調整済み決定係数R2=.62であった.パンの残食では,校内調理パン(-.55),セルフサンド(-.36),気温(.34),加工パン(-.33)等が関連し,R2=.53であった.牛乳の残食では,気温(-.63)が関連し,R2=.39であった.(括弧内 標準化係数β)

    結論:学校給食の主食の残食は,気温,主食の味付け,喫食方法の工夫と関連していた.牛乳の残食は気温と関連していた.米飯,パン,牛乳の残食量についてそれぞれ約6割,5割,4割の説明力を有する残食推計モデルが得られた.

短報
  • 行成 由美香, 玉浦 有紀, 赤松 利恵, 藤原 恵子, 鈴木 順子, 西村 一弘, 酒井 雅司
    原稿種別: 短報
    2019 年27 巻4 号 p. 330-338
    発行日: 2019/11/30
    公開日: 2019/11/30
    ジャーナル フリー

    目的:食物のレベルごとに,食行動変容のために設定された行動目標で使用された具体的状況の特徴を検討すること.

    方法:平成23~27年度に東京都東村山市の国民健康保険加入者で,特定保健指導積極的支援の初回支援時に食行動変容のための行動目標を設定した者252人を対象とした.行動目標を内容が類似するものでまとめ,さらに食行動変容の対象の食物のレベルを食事,料理,食品,栄養素に分類した.そして,内容分析により,行動目標で使用された具体的タイミング,頻度,場所,方法を抽出し,食物のレベルごとにその特徴を検討した.

    結果:行動目標は447個(1人あたり最小1~最大4個,平均(SD)=1.8(0.8)個)設定され,食事レベルが88個(19.7%),料理レベルが87個(19.5%),食品レベルが249個(55.7%),栄養素レベルが23個(5.1%)で,食品レベルが最も多かった.栄養素レベルのみ,具体的タイミング,頻度,場所を使用した行動目標がなかった.具体的方法では様々な内容があり,中でも「内容を変える」「休肝日をつくる」「気をつける」が多かった.

    結論:特定保健指導積極的支援において食行動変容のために設定された行動目標は食品レベルが最も多く,栄養素レベルの目標では行動のきっかけとなる具体的状況は使用されなかった.

実践報告
  • 木村 具子, 今枝 奈保美, 森 美親, 久田 李菜, 砂川(佐藤) 由香莉
    原稿種別: 実践報告
    2019 年27 巻4 号 p. 339-347
    発行日: 2019/11/30
    公開日: 2019/11/30
    ジャーナル フリー

    目的:重度身体障がい者の自立した生活及び地域包括について,学生が能動的に学べる授業を計画し,効果を検討することである.

    活動内容:重度の身体障がい者が訪問ヘルパーの支援を受けて自立して暮らす様子を,当事者2名の講話を中心にした90分のチーム・ティーチング授業として計画した.学修目標は地域での生活,住環境,通勤など街の移動手段,健康,ヘルパーの仕事とし,授業評価は66名を対象に管理栄養士が習得すべき知識スキル,介護者を増やす方策等を択一式質問票で尋ね,講話の感想は自由記述させてテキスト解析をした.

    活動評価:当事者は,当初の学修目標に加えて,進学,自由な時間の間食,当事者が考える施設給食のあり方などのエピソードを展開し,多くの学生が共感を示した.障がいへの共感,学修に対する意欲,介護ヘルパーへの興味,問題解決への態度を質問票から得点化した.自由記述では「障がいの有無に関係なく,みんな同じでやりたいことがある」といった感想があり,学生は当事者の講話から高次な欲求,自由な自己実現欲求を学修していた.

    今後の課題:当事者の講話を中心にした授業が,障がい者の自立した生活・地域包括の普及推進の起点となることは大きな意義がある.今回の実践で得られた実証済み授業展開が,今後さまざまな教育現場で活用され,学生の能動的な学びを引き出すことを期待する.

  • 坂本 達昭, 葛 萌々美, 中嶋 名菜, 近藤 秋穂, 湯池 咲子, 中村 早百合, 松田 綾子
    原稿種別: 実践報告
    2019 年27 巻4 号 p. 348-359
    発行日: 2019/11/30
    公開日: 2019/11/30
    ジャーナル フリー

    目的:食事提供に代わる食事支援の方法を検討するために,小学生を対象に調理スキルと自尊感情を高めることをねらいとした調理実習プログラムを実施し,その効果を検討した.

    事業/活動内容:2018年7~8月に小学4~6年生20名を対象にプログラム(全5回)を実施した.プログラムの内容は,スタッフの支援のもと子どもたちが食事作りを行なった後,一同で会食することである.プロセス評価は,各回終了時に参加者に当日の内容の難易度,満足度等をたずねた.第4回の終了後には,保護者に質問紙調査を実施した.プログラムの効果は,前後比較デザインにより,プログラム参加前後の調理スキルに関する項目や自尊感情得点(ローゼンバーグの尺度)の変化から検討した.

    事業/活動評価:プロセス評価によると,参加者および保護者の評価は良好であった.調理スキルに関する項目は,自分だけで作れる料理の数がプログラム参加後に増加した(P<0.001).自尊感情得点は,参加者全体でみるとプログラム参加前後で差は認められなかった.一方,プログラム参加前の自尊感情得点の中央値で2群(低群・高群)に分け,繰り返しのある二元配置分散分析により比較したところ,自尊感情低群のみプログラム参加後に自尊感情得点が上昇していた(P=0.002).

    結論:当プログラムは,調理スキルを向上させ,自尊感情が低い児童の自尊感情を高める可能性が示唆された.

第28回日本健康教育学会学術大会特集
特別報告
  • 深井 穫博
    原稿種別: 特別報告
    2019 年27 巻4 号 p. 360-368
    発行日: 2019/11/30
    公開日: 2019/11/30
    ジャーナル フリー

    人口構造の高齢化は医療費および介護給付費の増加をもたらす.これが日本の財政状況の悪化の要因の一つである.そのため健康長寿は社会保障制度を安定させるための政策目標となっている.

    国民レベルの口腔保健状態は改善してきているものの,健康格差や高い有病率という課題がある.この解決には歯科のみの取組みでは不十分であり,多職種・多分野連携によって推進されていく必要がある.一方,口腔保健と健康寿命の延伸との関連を示すエビデンスが蓄積してきている.歯科医療をはじめとする歯科口腔保健のアウトカムを口腔機能の維持・向上にとどまらずNCDsとフレイル予防におくという新たな政策枠組みの進展は,より効率的で効果的な保健医療介護サービスの提供に寄与する.

  • 近藤 克則
    原稿種別: 特別報告
    2019 年27 巻4 号 p. 369-377
    発行日: 2019/11/30
    公開日: 2019/11/30
    ジャーナル フリー

    日本でも「健康日本21(第2次)」で「健康格差の縮小」が政策目標となった.しかし健康教育は,深く考えずに推し進めれば,健康格差をむしろ拡大しかねない.低学歴,非正規雇用,低所得で困窮している人たちほど,健診や健康教室に参加せず,健康情報を得る機会が少なく,知識はあっても処理能力に余裕がない傾向があるからである.

    ではどうしたら良いか.その手がかりは,ヘルスプロモーションのオタワ憲章などで示された「健康的な公共政策の確立」「支援的な環境の創造」「コミュニティの活動強化」など環境への介入である.それを進めるためには,その重要性を健康・医療政策に留まらない公共政策,環境・コミュニティづくりを担っている人・部門に対して伝えることが必要となる.

    従来型の健康教育から「健康格差の縮小」に寄与する21世紀型の「健康教育21」にしていくには 3つの見直しが必要である.1)生活習慣・行動変容を本人に迫る内容から,暮らしているだけで健康になる環境づくり「ゼロ次予防」への内容の拡大,2)ヘルスセクターや一般の人たちに留まらず,非ヘルスセクターや民間事業者への対象の拡大,3)教育方法の研究・開発・普及において,知識伝授型教育から行動経済学などの知見を踏まえた認知・処理能力を重視した方法への変革である.

    ヘルスプロモーションを実現するために,21世紀型「健康教育21」へのシフトが必要である.

第23回ヘルスプロモーション・健康教育国際連合(IUHPE)世界会議2019特集
特別報告
  • 福田 洋
    原稿種別: 特別報告
    2019 年27 巻4 号 p. 378-386
    発行日: 2019/11/30
    公開日: 2019/11/30
    ジャーナル フリー

    目的:本稿では,2019年4月7日~11日にニュージーランド・ロトルア市で開催された第23回IUHPE国際会議の概要とNPWP(北部西太平洋地域)の動向について紹介する.

    内容:国際会議のテーマは「WAIORA: Promoting Planetary Health and Sustainable Development for All(すべての人々に地球規模の健康増進と持続可能な開発を)」で,約1200人(日本からは約40人)が参加した.基調・準基調講演では,健康格差,健康の社会的決定要因,気候変動,世代間の健康,ヘルスリテラシー,デジタル時代のスマートヘルスプロモーションなどが取り上げられた.シンポジウムや口演,ポスターに加え,Master Classなどの新しい議論形式も用意された.最終日には「健康の公平性の確保」「都市・居住環境の持続可能な開発」「気候変動への適応戦略」「参画・平和・正義・人権・世代間の健康の平等のための包括的なガバナンス・システム・プロセスを構築」の4つの戦略への行動を呼びかけたロトルア声明が採択された.3年に1度の理事選挙及び地域副会長選挙が行われ,会長にMargaret Barry氏,NPWP地域副会長に神馬征峰氏が選出された.次回2022年はカナダのモントリオールで開催予定である.

    結語:第23回IUHPE国際会議の概要を報告した.今後も日本からの積極的な情報発信が期待される.

  • 江川 賢一
    原稿種別: 特別報告
    2019 年27 巻4 号 p. 387-391
    発行日: 2019/11/30
    公開日: 2019/11/30
    ジャーナル フリー

    目的:非感染性疾患(Non-communicable diseases,以下NCDs)は依然として世界の主要死因である.本報告はNCDs対策の現状を概観し,第23回ヘルスプロモーション・健康教育国際連合(IUHPE)世界大会におけるNCDsの予防と管理に関する研究動向を報告する.

    結果:2030年までにNCDsによる早世を3分の1に減少させる国際連合(UN)の持続可能な開発目標(Sustainable development goals, SDGs)の枠組みとともに世界保健機関(WHO)は国,地域,民間レベルでの取り組みを推進している.IUHPEは2018年にこれらの取り組みを加速するためにBeating NCDs equitablyと題した声明を発表した.IUHPE世界大会はプラネタリーヘルス(planetary health)をテーマとした.この声明に続く研究や実践を促すためのシンポジウム,パラレルセッションおよびラウンドテーブルでは健康格差を解決し,公平性のある取り組みが強調された.

    結論:公平性のあるNCDs対策を進めるには,社会全体のシステムアプローチが重要である.SDGsの枠組みにおいては個人のヘルスリテラシー,地域のエンパワメントに加えてマルチセクターによるアドボカシー研究が必要である.

  • 中村 千景
    原稿種別: 特別報告
    2019 年27 巻4 号 p. 392-397
    発行日: 2019/11/30
    公開日: 2019/11/30
    ジャーナル フリー

    目的:著者らが所属する「National Network of Yogo teachers in Japan」は,IUHPE世界会議に1995年の第15回大会から継続して参加し,養護教諭の実践をポスター報告している.IUHPE世界会議に継続参加してきた経緯と,2019年第23回ニュージーランド大会の発表での状況ならびに今後の課題を紹介する.

    内容:2019年第23回IUHPE世界会議において,著者らが発表した7演題のポスターの内,「自殺」「メンタルヘルス」「性」をテーマにした3演題がポスターを利用した口頭発表に選出された.著者らのポスター発表の聴衆者にアンケートをとった結果,子どもの健康問題として「メンタルヘルス」が多く,「性」や「肥満」「むし歯」「虐待」「不登校」「アレルギー」「喫煙・飲酒・薬物」といった問題があげられ,子どもの健康問題は世界で共通している部分もあることがうかがわれた.

    まとめと今後の課題:子どもの健康問題は世界共通の部分がうかがえることから,養護教諭の仕事のあり方が世界の子どもたちの健康問題解決のために活用できるということを,国際学会の発表を通して伝え続けていくことが今後の課題である.

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