日本健康教育学会誌
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31 巻, 4 号
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巻頭言
原著
  • 北田 千晶, 信田 幸大, 小澤 啓子
    2023 年 31 巻 4 号 p. 191-200
    発行日: 2023/11/30
    公開日: 2023/12/22
    ジャーナル フリー

    目的:片手1杯分の野菜重量を60 gと仮定し,手ばかり法が野菜摂取状況を簡便に把握する指標としての利用可能かを評価することを目的とする.

    方法:調査会社のモニター登録者で20歳以上70歳未満の健常な男女を対象とし2020年4月にweb調査票を用いた横断研究を実施した.写真法による野菜摂取量調査(任意の平日2日,休日1日に摂取した全食(朝食,昼食,夕食,間食)の写真及び食事記録)と手ばかり法による野菜摂取量調査を行った.それぞれの推定野菜摂取量(生換算(g/日))からピアソンの相関係数を算出した.

    結果:全ての回答が得られた338名(男性168名,平均年齢44.3歳,女性170名,平均年齢44.9歳)を解析対象とした(有効率67.3%).写真法と手ばかり法の3日間の野菜摂取量の平均値の相関係数は0.63(P<0.001)であり,有意な正の相関を示した.一方,手ばかり法の野菜摂取量の推定値は,写真法のそれと比較して有意に少なく(P<0.001),手ばかり法では野菜摂取量を過少評価する傾向にあった.

    結論:写真法との比較より,手ばかり法は一定の妥当性が確認された.一方,手ばかり法では野菜摂取量は過少評価される傾向にあり,野菜摂取の多さ,少なさの目安としては利用可能だが,定量的に野菜摂取量を計測するには更なる検討が必要と示唆された.

  • 佐藤 清香, 河嵜 唯衣, 赤松 利恵, 谷内 ななみ
    2023 年 31 巻 4 号 p. 201-209
    発行日: 2023/11/30
    公開日: 2023/12/22
    ジャーナル フリー

    目的:地域在住高齢者の現在の食行動と,その食行動に影響を与えたライフイベントを探索した.

    方法:2022年5月から9月,地域在住高齢者27人を対象に,属性をたずねる質問紙調査と半構造化インタビュー調査を行った.調査日前日の食事状況(食事時刻,共食相手,食事内容など)をたずねたのち,聞き取った習慣的な現在の食行動と,以前の食行動から現在の食行動に変化したきっかけをたずねた.インタビューデータを基に,食行動の変化と,その食行動を始めたきっかけとなるライフイベントを抽出してコード化した.食行動の変化およびライフイベントのコードは,質的手法であるテーマティック・アナリシス法を用いてテーマおよびサブテーマに分類した.ライフイベントに対応する食行動の変化をテーマ別にまとめた.

    結果:対象者の平均年齢(標準偏差)は76.8(4.8)歳,男性は13人(48%),独居の者は3人(11%)であった.食行動の変化は7テーマ・29サブテーマに集約され,食事の計画から食品選択,調理,摂食,後片付けを含む多様な食行動が抽出された.食行動の変化に影響を与えたライフイベントは7テーマ・30サブテーマに集約され,主に職業関連・家族関連・健康関連のライフイベントが食行動の変化のきっかけとなっていた.

    結論:地域在住高齢者の多様な食行動は,職業関連・家族関連・健康関連のライフイベントの影響を受けていることが示唆された.

  • 大西 眞由美, 深江 優美, 川崎 涼子, 小坂 理子, 中尾 理恵子
    2023 年 31 巻 4 号 p. 210-220
    発行日: 2023/11/30
    公開日: 2023/12/22
    ジャーナル フリー

    目的:医療機関受療状況と特定健康診査(以下,特定健診)受診行動との関連について,医療機関で受療している疾患の種類についても考慮しながら明らかにすることを目的とした.

    方法:長崎県松浦市の40歳から74歳の国民健康保険被保険者の2019年度医療機関受療状況および特定健診受診状況に係るデータと2020年に実施された無記名自記式質問票を用いた横断研究への回答を二次分析した.特定健診受診の有無を従属変数,医療機関受療状況を独立変数とし,社会人口学的背景を調整した上で,年代別にロジスティック回帰分析によって分析した.

    結果:40歳から74歳の国民健康保険被保険者データと突合することができた「県民の健康調査」回答者のうち,データに欠損がない1927名について分析を行った.60歳から74歳では,性別,家族構成,教育年数,運動習慣,主観的健康感ならびに主観的経済状況に関わらず,「高血圧症または脂質異常症による受療あり」(P<0.001)および「高血圧症および脂質異常症以外の受療あり」(P<0.001)は,「受療なし」と比べて,特定健診を受診している割合が高かった.しかしながら,40歳から59歳では同様の統計的有意な傾向は認められなかった.

    結論:60歳から74歳では,疾患の種類に関わらず「受療あり」の者は,特定健診を受診している傾向が示された.

特集:第31 回日本健康教育学会学術大会
  • 中村 正和, 川畑 輝子, 阪本 康子
    2023 年 31 巻 4 号 p. 221-225
    発行日: 2023/11/30
    公開日: 2023/12/22
    ジャーナル フリー

    第31回日本健康教育学会学術大会のテーマは,「エビデンスと実践のギャップに挑む」であった.本大会のねらいは,基礎研究や臨床研究,疫学研究により明らかになったエビデンスを,社会にいかに還元し実践につなげるかという視点で,健康教育やヘルスプロモーションの果たすべき役割と方法を考えることであった.新型コロナウイルスのパンデミック以降,初の対面開催となった.

    大会には,現地362名,オンライン61名,計423名が参加した.指定演題は,学会長講演をはじめ,環境整備の推進方策を議論する鼎談,アクションリサーチ等の4つをテーマとした「Meet the Expert」,たばこ対策のアドボカシー活動と実装科学に関する2つの教育講演,医療におけるヘルスプロモーションと質改善,ナッジとインセンティブに関する2つのシンポジウム,学会奨励賞講演で構成され,充実した内容であった.

    一般演題については,口演63題,ラウンドテーブル10題の計73演題の発表があった.口演63題の中から5演題が学会長賞を受賞した.共催セミナーは,ワクチン接種をテーマとしたイブニングセミナー,ナッジやICTの活用に関するランチョンセミナーが開催され,活気あふれる2日間となった.

    開催後のアンケートからも,大会への満足度は高く,様々な気づきや学びがあったことが伺えた.本学術大会が参加者それぞれの実践と研究のさらなる発展につながることを祈念する.

  • 中村 正和
    2023 年 31 巻 4 号 p. 226-233
    発行日: 2023/10/30
    公開日: 2023/12/22
    ジャーナル フリー

    研究成果を実社会で活用する社会実装が注目されている.たばこ対策は,喫煙の健康影響に関する研究成果を社会に還元し,健康被害を減らす取組である.たばこ対策はNCDs(Non-communicable diseases)対策のモデルと評価されるように,栄養や身体活動などの健康政策においても,たばこ対策から学べることは少なくない.具体的には,政策実現にむけた研究戦略手順,行動科学等の行動変容に関わる理論やモデルに基づく介入プログラムの開発,制度や法律等の変更を伴う環境整備を含む包括性の高い政策,政策化に必要なエビデンスの構築や政策実現後の評価を行う政策研究,政策実現のためのアドボカシー活動の重要性,本質的な障壁や圧力に対抗する根本的な対策の検討,枠組条約による国際的な協働の下での推進体制,などがある.

    健康政策の質の向上を図るためには,健康政策に関わる研究者が分野横断的に交流を図り,政策の進め方を議論するとともに,政策実現にむけて協働することが必要である.また,日本で取組が遅れているアドボカシーについては,学問的基礎の確立や方法論の開発とともに,市民運動から学術団体までを含めたさまざまな組織や団体が協働するネットワークの構築が必要である.

  • 武見 ゆかり, 吉池 信男
    2023 年 31 巻 4 号 p. 234-241
    発行日: 2023/11/30
    公開日: 2023/12/22
    ジャーナル フリー

    健康日本21(第三次)の開始に当たり,環境整備に焦点を当て,栄養・食生活,身体活動,たばこの3分野で,現状分析と今後の展開について分野横断的に議論を行った.国内外の施策整理の枠組みとして,ポピュレーションアプローチを介入内容や効果のレベル別に整理した「介入のはしご」を共通に用いた.国内外における環境整備の現状では,日本では海外に比べ「介入のはしご」で効果が小さいとされるレベルの取組が多く,取組が十分ではないことが示された.今後何をすべきかについては,3分野共通に,民間企業を含む多領域・他部門との協働,及び評価に関する課題が挙げられた.評価では,評価の仕組みづくりが重要で,それには学術分野の関与が必要とされた.国際的に環境整備対策がパッケージ化され体系化された例として,たばこ分野にはWHOのMPOWERがあり,政策評価の面でも国際的な評価の仕組みが複数あることが紹介された.健康日本21(第三次)において,より実効性を持つ取組の実現には,取組が目標(アウトカム)に至る筋道を明確に示すロジックモデルが必要とされた.本学会の環境づくり研究会では,現在,3分野で,好事例やエビデンスを参考にしたロジックモデルとアクションプランの作成を進めている.本鼎談の議論を環境づくり研究会の活動の中で発展させ,学術団体として,様々な場における健康教育・ヘルスプロモーションの実践の質向上に寄与したい.

  • 加藤 一晴
    2023 年 31 巻 4 号 p. 242-248
    発行日: 2023/11/30
    公開日: 2023/12/22
    ジャーナル フリー

    かつての高度経済成長期にいくつかの地域で,環境破壊・水質汚染・大気汚染は進んだ.それぞれの自治体は,環境破壊に対し独自の調査・検証を行い,規制を含む条例制定に取り組んできた.国が動いたのはおよそ10年後である.昨今,社会的問題になっている喫煙規制であるが,この点でも我が国は後手に回る施策しかでできない.地方における諸問題の解決には,官民一体で立ち向かうのが望ましい.残念ながら地域住民は自ら動いて,草払いや整地に心血を注がねばならない.そういう姿を眺め続けた地方行政は,積極的な支援をしてくれる.Think globally, act locally(1960–1970年代の米国活動家:René Jules Dubo)とはそう云うことを意味する.我々は浜松市に於いて23年前から喫煙問題と対峙してきた.この間,社会環境に禁煙化を目論み様々なアクションを続けてきた.結果,喫煙場所が減少し,市民喫煙率は10%を割り込み,健康寿命延伸に寄与することができた.

  • 島津 太一
    2023 年 31 巻 4 号 p. 249-257
    発行日: 2023/09/30
    公開日: 2023/12/22
    ジャーナル フリー

    エビデンスに基づく介入(evidence-based intervention, EBI)の普及と実装を科学的に進めるための学問分野を実装科学(implementation science)という.実装科学が扱うリサーチクエスチョンは,エビデンス・プラクティスギャップに対処するために答えるべき質問そのものである.具体的には,1) EBIを現場で日常のプラクティスとして実施するときの阻害・促進要因は何か,2) EBIを実装するには,阻害・促進要因に合わせどのような働きかけ(実装戦略)を用いるべきか,3)実装戦略の追加により実装に関連したアウトカムが改善するか,4) EBIの効果を損なわずに現場の阻害・促進要因に合うようEBIを修正するにはどうすればよいか,などである.実装科学の方法論は体系的に整理されたものである.現場のステークホルダーが普及を強く望むような,住民・患者によって有益なプラクティスがあり,それを普及させたいときに実装科学は有用なガイドとして機能するであろう.また,そのような実践活動を学術的に整理し新たな知見として報告する機会も与えてくれるであろう.本稿では,まず実装研究について総論的な解説を行い,次に現在国立がん研究センターの実装科学チームが実施している中小企業における喫煙対策の実装研究について紹介する.最後に,実装科学の普及という観点から行っている活動を紹介する.

  • 日本健康教育学会若手の会運営委員
    2023 年 31 巻 4 号 p. 258-264
    発行日: 2023/11/30
    公開日: 2023/12/22
    ジャーナル フリー

    背景:日本健康教育学会若手の会は,2015年に発足し,若手の交流や資質向上を目的として,様々な活動を行っている.本稿では,第31回日本健康教育学会学術大会で開催した「Meet the Expert」企画について報告する.

    内容:4人の講師をお迎えし,4つの企画を実施した.テーマと講師は,1. アクションリサーチの論文化(助友裕子氏),2. 学校保健における性教育(上地勝氏),3. 健康教育・ヘルスプロモーションにおけるナッジ(竹林正樹氏),4. 働き盛り世代のヘルスリテラシー(福田洋氏)であった.各企画で講師による講義のほか,質疑応答やグループワーク,個人ワーク等を実施した.参加者は,のべ314名であった.企画に対するアンケートの結果,4つの企画すべてで「非常に満足した」または「まあ満足した」と回答した者が95%以上と高い満足度を得た.感想には,学びやモチベーションの獲得,企画の内容や構成の良さ,来年の開催に対する期待や,より活発な交流を求める要望や提案があった.

    結論:本企画は,各専門分野に対する参加者の理解を深め,今後の活動につなげる機会を提供できた.今回得られた改善策を踏まえて,来年の学術大会における若手の会企画の準備を進めていきたい.

特集:健康教育・ヘルスプロモーション研究のための方法論講座
  • 青柳 健隆
    2023 年 31 巻 4 号 p. 265-272
    発行日: 2023/11/30
    公開日: 2023/12/22
    ジャーナル フリー

    これまでの研究により,質的研究論文を執筆および査読する際に用いることができるチェックリストが複数作成されている.本稿では論文執筆者や査読者が共通認識を持って質的研究論文に対峙できるようにするため,主要なチェックリストであるJARS-Qual(日本語版)を示し,チェックリストの使用に対する批判的な指摘も含めて要点を整理した.また,筆者がこれまでに実施してきた質的研究を通じての学びや経験をもとに,質的研究を実施する際の実践的なテクニックを報告する.質的研究と量的研究は,広く科学を捉えれば「普遍的真理を追究する」という共通の目的を志向している.研究者には質的研究と量的研究の双方を理解し,補完的・相乗的に両者を用いていくリテラシーとマインドが求められる.

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