日本健康教育学会誌
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28 巻, 2 号
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巻頭言
実践報告
  • 福田 久美子, 古閑 裕子, 福本 久美子, 尾島 俊之
    2020 年 28 巻 2 号 p. 72-80
    発行日: 2020/05/31
    公開日: 2020/07/09
    ジャーナル フリー

    背景:高校生への能動的学習による方法を用いて実施する認知症サポーター養成講座開講に至るまでの各関係機関の協力体制の構築と高校生の認知症に対する理解や意識の変化を評価することである.

    方法:2018年10月から2018年11月に協力高等学校の1学年生徒29名に能動的学習による認知症サポーター養成講座を3回実施した.第1回認知症サポーター養成講座の受講後の自由記述による調査と質問紙調査を第1回開催前と第3回開催後に実施した.質問紙調査の任意の同意者29名,そのうち2回の調査に回答した25名を分析対象とし,対応のあるt検定を行った.

    結果:各機関の関係者に対して本講座の協力を依頼し,能動的学習による認知症サポーター養成講座を開講するための協力体制を構築することができた.自由記述から,意識や態度の変化を表した意味のある単語として「優しく」が10文で使用されていた.質問紙調査は,認知症の方と接することの不安や抵抗(P=0.003),自分から声をかける(P=0.001)ことに関して,受講前と受講後の得点に有意差がみられた.

    考察:事業推進するためには,各機関の関係者と日頃から連携を図ることは重要なことである.また,能動的学習を用いた認知症サポーター養成講座は,高校生の認知症に対する知識を深め,不安や抵抗の軽減や肯定的態度につながる取り組みであることが示された.

  • 名草 みどり, 佐々木 綾子
    2020 年 28 巻 2 号 p. 81-91
    発行日: 2020/05/31
    公開日: 2020/07/09
    ジャーナル フリー

    目的:成熟期就労女性に対するプレコンセプションケア(preconception care: PCC)啓発のために,健康教育プログラムを実施し,評価を行うことを目的とした.

    方法:近畿圏,首都圏に居住する,20~35歳の就労女性84人に,リーフレットを用いて,小グループの「健康教育セミナー」と,「集団討議」「フィードバックコメント」による介入を行った.主要アウトカム指標は,「PCCの知識」「PCCに関わる意識と行動」「食物摂取頻度調査」とし,セミナー前と終了時・3か月後に調査を実施した.「PCCの知識」は,コクランのQ検定,ボンフェローニの多重比較,「PCCに関わる意識と行動」は,マクネマー検定,「食物摂取頻度調査」は,ペアードt検定を用い統計解析をした.

    結果:有効な回答が得られた75人(89%)を分析の対象とした.「PCCの知識」を有する者の割合は,セミナー前より終了時において増加し(P=0.020),3か月後もその水準が維持された.「PCCに関わる意識と行動」を有する者の割合が,3か月後に増加した項目は,「葉酸を含む食品を積極的に食べる」49人(65.3%)(P=0.038)「乳がんの自己検診をしている」20人(26.7%)(P=0.001)であった.

    結論:本健康教育プログラムは,3か月後に「PCCの知識」を定着させ,「乳がんの自己検診率」を高めるのに有効であることが示唆された.行動変容が見られなかったその他のPCCの行動については,今後,プログラムの内容を見直す必要がある.

特集/オリンピック・レガシーと身体活動促進
特別報告
  • 小熊 祐子
    2020 年 28 巻 2 号 p. 92-100
    発行日: 2020/05/31
    公開日: 2020/07/09
    ジャーナル フリー

    身体活動は多くの健康上の効果が認められているにもかかわらず,不活動者は世界的に増加している.蔓延する身体不活動の問題に世界レベルでより積極的に取り組むため,2018年5月の世界保健総会で決議され,6月に世界保健機関がGlobal Action Plan on Physical Activity 2018–2030(GAPPA)を発表した.GAPPAでは,身体不活動を減らし,健康的で持続可能な世界をつくるため,「アクティブな社会を創造」「アクティブな環境を創造」「アクティブな人々を育む」「アクティブなシステムを創造」という4つの戦略目標とそれぞれの目標に4–6項目,計20の政策措置が設定されている.これらの戦略目標及び政策措置はそれぞれ独立したものではなく,相互に関わり合っており,システムベースのアプローチにより,コベネフィットを生み出し得るものであり,各分野が協調して取り組むことで成し得るものである.アウトカムは健康だけでなく,持続可能な行動目標(Sustainable Development Goals, SDGs)の多くの項目にもつながっていく.長期的なオリンピック・レガシーを考えたとき目指すものが共有できそうだ.今後各レベルでステークホルダーが集まりGAPPAを咀嚼し自分たちに合ったシステム図を描き,実行・再評価・共有し,スケールアップしていく必要がある.

  • 澤田 亨
    2020 年 28 巻 2 号 p. 101-106
    発行日: 2020/05/31
    公開日: 2020/07/09
    ジャーナル フリー

    これまでにオリンピアンの健康について調査した欧米の研究は,オリンピアンは一般人と比較して糖尿病,高血圧,虚血性心疾患といった非感染性疾患の罹患率が低く寿命が長い傾向にあることを報告している.日本においても1964年東京オリンピック出場選手が追跡調査され,「東京オリンピック記念体力測定の総括」として追跡データの解析が進められている.また,オリンピアン以外を対象に調査した研究は,オリンピアンに限らず,青年時代にスポーツを経験した人は成人後の非感染性疾患の罹患率が低く,寿命が長い可能性があることが報告されている.2020年東京オリンピック・パラリンピックを契機に今まで以上に多くの青年がスポーツを定期的に楽しむようになり,世界の人々の健康度がさらに向上することが期待される.

  • 鎌田 真光
    2020 年 28 巻 2 号 p. 107-115
    発行日: 2020/05/31
    公開日: 2020/07/09
    ジャーナル フリー

    オリンピック・パラリンピックの開催にあたっては,そのレガシー(有形・無形の遺産)の一つとして,より多くの国民が身体活動(運動・スポーツ含)に取り組むようになるという,副次的な効果が期待されている.しかし,オーストラリア(2000年夏季シドニー),カナダ(2010年冬季バンクーバー),イギリス(2012年夏季ロンドン)など近年のオリンピック開催国における検証では,いずれもオリンピック開催前後で国民の身体活動・スポーツの実施率は変わらなかったことが明らかになっている.こうした「する」スポーツの普及は挑戦的な課題であり,長期的な計画に基づく普及戦略と評価検証が必須である.ごくわずかなトップアスリートに限定せず,「すべての個人」に「スポーツを行う機会」の保障を求めるオリンピック憲章の理念をどう実現するのか.

    本稿では,これまでの知見に基づき,東京2020オリンピック・パラリンピックやその後の大会を通して日本と世界で身体活動・運動・スポーツ実施率の向上を実現するために必要と考えられる取り組みを整理した.

特集/口腔保健と栄養
論説
特別報告
  • 岩崎 正則
    2020 年 28 巻 2 号 p. 118-125
    発行日: 2020/05/31
    公開日: 2020/07/09
    ジャーナル フリー

    「口腔疾患・歯の喪失→口腔機能の低下→栄養・食生活への悪影響→全身への悪影響」というシナリオは古くから提唱されてきたものであり,栄養・食生活は口腔と全身の健康を結びつける主要な経路の1つである.近年のエビデンスもこのシナリオを支持している.非感染性疾患(NCDs),フレイル,認知症のリスクを抑制する健康な食事は健康長寿の鍵であり,口腔の機能を維持する歯科保健は,健康な食事に繋がり,最終的にはNCDsなど種々の疾病のリスク低減,健康寿命の延伸に寄与する.さらには口腔と栄養の関連は双方向的であることが分かってきた.口腔機能の低下が健康な食事を阻害するだけではなく,不健康な食事・不良な栄養状態がう蝕や歯周病など口腔の疾患のリスク因子であることを示す知見が蓄積されてきた.

    また,歯科治療が口腔機能の改善のみならず,健康な食行動の獲得,栄養状態の改善に繋がるには栄養指導を組み合わせる必要性が示唆されている.

    これまでのエビデンスは歯科関係者が十分な栄養の知識を持つこと,また必要に応じて栄養の専門家と連携することの重要性を示している.今後は歯科と栄養との連携による学際的研究のさらなる進展とともに,歯科医師・歯科衛生士などに対する栄養に関する卒前・卒後教育の充実が必要である.

  • 柳沢 幸江
    2020 年 28 巻 2 号 p. 126-133
    発行日: 2020/05/31
    公開日: 2020/07/09
    ジャーナル フリー

    咀嚼機能形成期にある乳幼児期や,咀嚼機能の低下が生じやすい高齢者の食事においては,咀嚼機能に対応した食物の形態・物性の考慮が欠かせない.本稿では咀嚼に影響する食物物性を中心に,咀嚼と食事の関連を,食物物性の観点から検証した.

    咀嚼機能はライフステージに伴って変化するが,乳幼児期の食べる経験の不足や,歯の喪失,舌・口唇等の機能低下によって咀嚼機能の発達遅延や低下が生じる.これらに伴って,摂取栄養素量の低下や望ましい食事構成の減少等が起きている.食物摂取においては,食物の栄養的配慮に加え物性的配慮が不可欠となるが,筆者らは食物物性の指標として,「噛みごたえ」指標を提案し,咀嚼量(咀嚼筋活動量)の観点から摂取食品を評価することを可能とした.その結果,食事の評価に咀嚼の観点を取り込むことができるようになった.また飯島らのフレイル研究によって,サルコペニアと摂食可能な食物物性との関連性が示され,関連研究の成果から,フレイル予防にむけたセルフチェックシートである「イレブンチェック」に噛みごたえの高い食品が加えられた.

    離乳食や幼児食における咀嚼機能発達を配慮した食物物性の在り方,さらにフレイル研究の成果によって,栄養学・調理学の分野と歯学との共同の有用性が明確となってきている.今後は,相互の研究や現場連携により,健康寿命の延伸を目指すことが望まれる.

  • 中西 明美, 深井 穫博
    2020 年 28 巻 2 号 p. 134-139
    発行日: 2020/05/31
    公開日: 2020/07/09
    ジャーナル フリー

    口腔保健分野と栄養・食生活分野が協働していくための方策について,①ライフコースにそった最終アウトカム,②ライフコース別の協働できる場,③スクリーニング・アセスメントの項目の3点についてライフコースアプローチの観点から,検討することとした.健康日本21の目標として掲げられている「健康寿命の延伸」と「格差の縮小」は,歯科口腔分野と栄養・食生活分野共通のアウトカムである.歯科口腔分野と栄養・食生活分野が協働できる場は,乳幼児・小児期は,地域保健センターや学校であり口腔機能の獲得やう蝕(むし歯)の予防のための食育が実施されている.成人期は地域保健センターや特定健診・保健指導の場で,生活習慣病やメタボリックシンドロームの予防の取り組みが行われている.高齢期では,病院および介護保健施設や特定施設における介護予防の場で行われている.また,歯科医療機関では,栄養士・管理栄養士が歯科に関わる保健指導を実施する事例もみられる.口腔保健分野と栄養・食生活分野はいずれも生活習慣病とフレイル予防に関連している.専門家が評価指標やアウトカムを共有し,「よく噛めるようにする歯科治療」と「何でもよく噛んで食べるという食に関する支援」を合わせて行うという協働は,わが国の上記のアウトカムの達成に寄与する.

論説
特集/第28回日本健康教育学会学術大会報告
特別報告
  • 北畠 義典, 相田 潤, 根本 裕太
    2020 年 28 巻 2 号 p. 142-149
    発行日: 2020/05/31
    公開日: 2020/07/09
    ジャーナル フリー

    わが国はこれまでに人類が経験したことのない早さで超高齢社会に突入し,今後も高齢者人口の割合がさらに増加することが予想される.このことは日本の社会保障制度を圧迫する要因である.このような状況を緩和するためにも,社会環境の改善と共に,高齢者の健康リスクを減らし,元気な高齢者を増やすことは重要な課題である.これまで高齢者の健康づくりは機能回復に主眼が置かれる傾向にあった.小さな集団を対象に機能改善のためのプログラムの有効性の検証は重要であり,このことは今後も必要な部分である.一方,日本においても所得や学歴が高いほど健康状態が良いといった健康格差や,幼少期の生育環境が高齢期の健康に影響を及ぼすことなど,個人の健康は,個人の努力だけで規定されているわけでは無いというエビデンスが報告されている.このようなことから,健康づくりを目指す際には社会環境の要因を考慮することも重要である.そして,現場で実施可能な健康づくりプログラムの開発のためにも,より大きい集団を対象とした健康づくりプログラムの実用性および有効性の高い科学的エビデンスの蓄積が引き続き必要である.

特集/厚生労働省「健康寿命をのばそう!アワード」受賞事例
特別報告
  • 伊藤 ゆり
    2020 年 28 巻 2 号 p. 150-157
    発行日: 2020/05/31
    公開日: 2020/07/09
    ジャーナル フリー

    2020年4月に改正健康増進法および東京都受動喫煙防止条例が施行され,飲食店は原則屋内禁煙となる.しかし,敷地面積や従業員の有無などの除外条件により,約2~5割程度は屋内禁煙の対象外となる.本特別報告では「第8回健康寿命をのばそう!アワード・厚生労働省健康局長優良賞」を受賞したケムラン~屋内完全禁煙の飲食店を応援する会~の飲食店における受動喫煙防止活動としてのアクション・リサーチについて紹介する.ケムランは法施行に先行して屋内完全禁煙で営業している美味しい飲食店を紹介するウェブサイトで,公衆衛生系研究者が運営し,一般市民のボランティア特派員により,店舗が登録されている.2020年3月末現在,全国で約200名の特派員により約850店舗が掲載されている.ケムランは飲食店が禁煙化に踏み切ることを後押しするために,先行して禁煙にしている飲食店の事例をウェブサイトにより共有することを目的としている.例えば,禁煙化のきっかけや禁煙に変更後の売り上げの変化,禁煙化のメリット,喫煙者への対応などの情報を共有している.文京区では住民参加型の協働事業として,地域密着型ケムランが初めて誕生した.文京区生活衛生課をはじめ,区の関連部局のみならず,様々な関係団体,区民,企業との協働を通じ,住民参加型のヘルスプロモーション活動を実施した.今後,他自治体への横展開やさらなる発展が期待される.

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