霊長類研究 Supplement
第76回日本人類学会大会・第38回日本霊長類学会大会連合大会
選択された号の論文の85件中51~85を表示しています
ポスター発表
  • 河野 礼子, 片桐 千亜紀, 土肥 直美
    原稿種別: ポスター発表
    p. 54-
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/07
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    石垣島・白保竿根田原洞穴遺跡では、2007 年の発見以来、更新世末の3 万年前ごろから近世にかけての文化層が確認され、計7 回の発掘調査でのべ74 m2 に及ぶ面積が発掘され、更新世末から完新世初頭の1100 点を超す人骨片が回収された。この中には「顔のわかる」保存のよい頭骨4 体分を含め、約20 個体分の骨が含まれていることが判明している。人骨の年代は、放射性炭素年代法によって、更新世末から完新世初頭を主体とすることが明らかになった。これらの人骨資料は世界的にも前例のない規模のものであり、更新世日本列島人の姿が今までにない精度で明らかになることが期待される。また、白保の洞窟が断続的に墓地として利用され、その葬法は琉球地方に近年まで受け継がれてきた「風葬」に類似するものであったこともわかってきた。今回の発表では、白保の人びとの形態学的特徴を明らかにする研究の一環として、歯牙資料について予報的に紹介する。発掘調査とその後の水洗作業によって遊離歯・植立歯合わせて200本を超える歯が回収されており、これらを歯種や形状、咬耗状態などから総合的に判断して4個体の頭骨分を含む27個体と、個体識別不可能分とに分けた。今回は主に更新世の層序出土資料について、齲蝕や咬耗の状態や、形成不全の見られる例などの観察所見を紹介するとともに、咬耗の軽微な資料についてスタンダードな歯冠径の計測を行った結果を報告する。特に咬耗状態については、頭骨のうち2個体について、上下歯の咬耗度がおおきく異なるなどの特殊な状況が認められた。また3根の小臼歯など原始的な特徴を有する個体も認められた。今後さらに分析を進めることで歯の特徴から白保人の姿を明らかにしていくことを目指す。

  • 岡 健司, 後藤 遼佑, 中野 良彦
    原稿種別: ポスター発表
    p. 55-
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/07
    会議録・要旨集 フリー

    脊柱起立筋は、ロコモーション時に活動して体幹姿勢保持に関与する体幹筋であり、霊長類では二足歩行時と四足歩行時に類似した活動パターンを示すとされている。我々はこれまでにシロテテナガザルを対象とした運動計測を行ってきた。現在は詳細な解析の途上であるが、二足歩行と垂直木登りの間においても脊柱起立筋の活動は概ね類似すると推測している。すなわち、ロコモーション様式の種類によらず、移動時の脊柱起立筋は特定のパターンで活動している可能性がある。一方で、常習的ロコモーション時と非常習的ロコモーション時では脊柱起立筋活動が異なることを示唆する先行研究もある。二足歩行と垂直木登りにおいても、重力負荷の方向、身体支持・推進における前肢使用の有無といった力学的条件も異なっており、筋活動には異なる点が存在しうると考えられる。今回、シロテテナガザル1頭の二足歩行と垂直木登りにおける脊柱起立筋の筋電図を解析し、筋電波形の定性的比較に加え、運動周期における筋活動量のピーク値、ピークを示すタイミング、周波数因子などの比較を運動間で行なった。これらを解析した結果から、シロテテナガザルの二足歩行と木登りにおける脊柱起立筋活動の類似点と相違点について報告する。

  • 木下 勇貴, 平﨑 鋭矢
    原稿種別: ポスター発表
    p. 56-
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/07
    会議録・要旨集 フリー

    頭部と四肢をつなぐ脊椎は身体骨格の中心部位であり、体軸に沿った異なる機能的要求に対応する。胸椎は、呼吸器官としての胸郭の一部で、肩甲骨の位置及び肋骨の形状を反映した形態をとる。それに対し、ロコモーションの要である腰椎は、体重支持や腰部の可動域制御といった役割を果たす。特に直立姿勢に適応した類人猿は、胸椎と腰椎でそれぞれ特異的な形態を示すことが知られている。そこで本研究では、胸腰椎形態の機能分化の様相が、類人猿と、伏位姿勢に適応したサル類とで異なるという仮説を立てた。具体的には、サル類では筋付着部位を反映して椎弓において機能形態的な分化が顕著である(形態変異が大きい)という仮説を検証した。テナガザル、ニホンザルそれぞれ4個体以上の骨標本を用いた。第一胸椎から最終腰椎の三次元形状データを取得し、各脊椎に解剖学的ランドマークとセミランドマークを定義した。その後、プロクラステスフィッティングを行い、形状とサイズ情報を分離した。また、ランドマーク及びセミランドマーク座標から、椎体関節面面積、棘突起長、横突起長、及び上関節突起の矢状面に対する角度を求めた。主成分分析の結果は、テナガザルと比較してニホンザルは胸椎から腰椎にかけての形態変異が大きいことを示した。胸椎から腰椎にかけての相対的な椎体関節面面積はニホンザルにおいてやや変化が大きかった。また、棘突起の背腹長及び頭尾長はニホンザルにおいて変化が顕著であった。特に胸椎で相対的に長く、胸部領域における固有背筋群(棘筋、最長筋)の発達を示唆していた。ニホンザルの椎弓部分における変異の大きさは四足歩行・走行への力学的要請であると考えられる。さらに、ヒトのデータを追加して胸腰椎の機能形態学について詳細に議論する。

  • 菊池 泰弘, 天野 英輝, 荻原 直道, 中務 真人, 中野 良彦, 清水 大輔, 國松 豊, 辻川 寛, 高野 智, 石田 英實
    原稿種別: ポスター発表
    p. 57-
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/07
    会議録・要旨集 フリー

    ナチョラピテクスの胸椎標本KNM-BG 48094は第3~5胸椎と推定され,化石化の過程で変形しているものの多くの部位を残している。このことから変形成分を除去して原型復元し,三次元幾何学的形態測定法により現生種との比較分析を行った。大型類人猿3種,小型類人猿1種,旧世界ザル13種(樹上性6種,地上性7種),新世界ザル2種の第3~第5胸椎を対象とし, CTスキャナーを用い三次元表面形状を計測した。標本数は各種1~2個体である。次に,KNM-BG 48094を含む各標本において相同点85点を決め,Procrustes法によるサイズの正規化と位置合わせを行い,標点座標を主成分分析で解析した。分析の結果,ナチョラピテクス胸椎は,アヌビスヒヒ,パタスモンキー,ムーアモンキーの胸椎に相対的に類似していたため,これら3種の第1~6主成分を用いて,変形成分の除去を行った。具体的には,形態空間においてこれらの椎骨標本分布を最適近似する超平面を計算し,それに対して垂直な成分を化石標本の土圧による変形成分として抽出し,選択的に除去する形状変換を行った。復元されたナチョラピテクス胸椎は,現生の旧世界ザルや新世界ザルとは異なり,椎体の尾側幅が広く,横突起はより背側を向きその基部も椎弓板の背側寄りから起きているが,類人猿ほど顕著ではなかった。ただ,横突起の長さはゴリラに似て長い。さらに,ナチョラピテクス胸椎は,ヒヒ、パタス、マカクといった地上傾向の強い旧世界ザルやゴリラのように椎体が頭尾方向に短い一方で,両側の上関節突起関節面がなす角度は樹上性サル類に近い値を示した。また,棘突起基部は尾側を向き,旧世界ザルと新世界ザルの中間的な値を示した。こうした上関節突起や棘突起基部の特徴は現生類人猿とは異なる。ナチョラピテクス上位胸椎は,多くの部位で現生類人猿とは異なるサル的な特徴を示す一方で、現生類人猿とサル類の中間的な特徴も有していることから,サル類とは異なる機能適応が示唆された。

  • 三輪 美樹, 鴻池 菜保, 中村 克樹
    原稿種別: ポスター発表
    p. 58-
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/07
    会議録・要旨集 フリー

    近年、医科学や生命科学など様々な領域でコモンマーモセットを用いる研究が活発に実施されている。実験に供している個体の大きさを国内外で比較すると、日本ではアダルトで300~350gの個体が多いのに対し、例えばドイツでは平均して400gを超える個体を使用しているなど、体重差が大きい。体重の重い個体の方が用いる実験手技の制限が少なく体力的に余力もあるため実験動物として好ましい反面、体重データだけでは真に体格が良い、すなわち筋肉量や骨量が多いのか、あるいは体脂肪が増えて肥満であるのかを判断することができない。そこで、飼育下における実験用コモンマーモセットの適正体重を知るため、小動物用DXA体組成・骨密度測定装置(OsteoSys製 iNSiGHT)を用いて体脂肪量、除脂肪量、骨密度を測定し、体重との相関を調べたところ、少なくとも450g付近までは体重と体脂肪量および除脂肪量が相関していた。骨密度と体重の間に相関は認められなかった。これらの結果から400g以上になっても肥満とはいえず、体重と体脂肪量および除脂肪量が相関している範囲内なら体重が重い方が実験利用に適しているものと考えられた。

  • 上田 悠一朗, 井上 英治
    原稿種別: ポスター発表
    p. 59-
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/07
    会議録・要旨集 フリー

    ヒトやラットにおいて、カテコールアミンの分解酵素であるCOMTの活性が低いと高い攻撃性を示すことが報告されている。ニホンザルでは、COMT遺伝子内にSNP(G/T)があり、COMTの酵素活性が低いとされるTアリルを持つと、糞中のコルチゾール濃度が高いこと、寛容性の程度が低い集団でTアリルの頻度が高い傾向にあることが報告されている。本研究では、そのSNPがニホンザル個体の行動に与える影響について、京都市の嵐山モンキーパークいわたやまにおいて、嵐山E群のニホンザルを対象に研究を行った。糞由来DNAを用いて110個体の遺伝子型を決定した後、5歳以上のメス14個体を観察対象とし、1分ごとの近接個体数、攻撃行動、セルフスクラッチ回数を記録した。一般化線形混合モデルを実行し、遺伝子型、年齢、順位、血縁者数の行動への影響を解析した。その結果、Tアリルを持つメスでは近接個体数が少なく、近接相手をオトナオスに限定した場合も、同様の結果が得られた。また、攻撃行動の解析では、Tアリルを持つメスの方が攻撃回数が少ないことが示され、またセルフスクラッチの解析では、遺伝子型を含むモデルは選択されなかった。以上の結果は、Tアリルを持つメスが他個体との距離を保ち、ストレスを回避していることを示唆している。また、先行研究の結果から攻撃回数が多く、セルフスクラッチが多いと予想したが、近接個体数が少ないことが影響し、攻撃回数は少なく、セルフスクラッチの頻度にも影響しなかったと考えられる。本研究により、Tアリルを持つメスは、近接個体数が多い環境を避けることで、攻撃交渉などストレスがかかる状況を回避していることが示唆された。嵐山群は餌まき時の個体の凝集性が低い集団であるが、Tアリルを持つメスが緊張度の高い状況を避けたことが影響しているのではないかと考えられる。

  • 濱嵜 裕介, 今村 公紀
    原稿種別: ポスター発表
    p. 60-
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/07
    会議録・要旨集 フリー

    ヒト特異的な表現型を生みだす分子基盤を理解するためには、ヒトと非ヒト霊長類、とりわけ近縁種である類人猿との発生過程を含めた種間比較解析が重要となる。しかし、ヒトや類人猿の発生過程の解析を行うことは技術的・倫理的な問題から困難が伴う。人工多能性幹細胞(iPS細胞)による分化誘導系は、培養下で発生過程を再現しながら目的の細胞種を誘導できることから、この障害を克服した強力な実験系を提供する。現在までにチンパンジー、ボノボ、ゴリラ、オランウータンと全ての大型類人猿でiPS細胞が樹立され、ヒト特異性の基盤を探る研究に利用されてきた。しかし、現生ヒト上科の中では唯一、テナガザルのiPS細胞のみが樹立されておらず、更に、他の大型類人猿で採用されたiPS細胞作成法では樹立が困難であることもわかっていた。今回は、ステルス型RNAベクター(SRV)を用いた線維芽細胞への初期化因子の導入により、テナガザル科の中でも異なる属に分類されるシロテテナガザル(Hylobates lar)と、シアマン(Symphalangus syndactylus)の二種のiPS細胞の樹立に取り組んだ。本発表では、今回樹立に成功したテナガザルiPS細胞とその特性解析の結果について報告する。

  • 今井 健司, 藏元 武藏
    原稿種別: ポスター発表
    p. 61-
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/07
    会議録・要旨集 フリー

    徳島県の3市町村境を遊動域とするニホンザルSKT-A群に対し、有害駆除が行動圏利用に与える影響を調べるため、2016年、2018年、2020年にGPS首輪を装着して行動圏の経年変化や生息地利用への影響について調査した。調査に用いたGPS測位データは、精査した2016年、2018年、2020年の3月-12月を用いた。その結果、調査期間中の有害駆除によって群れの個体数は2016年1月に153頭から2018年2月に100頭、2020年1月に63頭まで縮小したが、分裂行動は見られなかった。行動圏はカーネル法(95%、50%)により年毎のデータを用いて推定した結果、2016年と2018年では変化は見られなかったが、2020年には両者とも縮小した。次に月毎のデータで推定した面積を年間で平均して行動圏面積とした結果、50%カーネル行動圏の面積が頭数との間で有意な相関性を示した。また、月毎の生息地利用の選好性を植生カテゴリ別にベイズ推定で評価したところ、群れサイズ縮小とともに、常緑広葉樹林は10月-12月に、農耕地等は7月-8月にかけて選好性が高くなった。以上の結果から、泉山(2010)の報告と同様に、本研究でも有害駆除の実施によって、群れの行動圏は縮小した。特に月毎の50%カーネル行動圏に有意に影響を与えることが明らかになった。それに加え、本研究地域では、7月-8月の農耕地等への選好性が高くなることから、この時期の農作物被害対策を強化させる必要があると考えられた。

  • 川本 芳, 羽山 伸一, 近江 俊徳, 白井 啓, 田中 洋之
    原稿種別: ポスター発表
    p. 62-
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/07
    会議録・要旨集 フリー

    下北半島でニホンザルとの交雑が心配されたタイワンザル母群は2004年に全頭捕獲されひとまず根絶されたと考えられている。しかし、ニホンザルとの交雑の有無については母群根絶以降に追跡調査が行われていない。本研究では、種判別用に開発した常染色体SNP19標識、Y染色体マイクロサテライトDNA3標識、mtDNAの部分塩基配列(非コード領域の558 bp)、を利用し、根絶されたタイワンザル母群(捕獲した全69個体)ならびに近年の下北半島のニホンザル群(2012年7月から2017年11月に有害捕獲された305個体から選んだ検体)の遺伝子構成を比較した。常染色体分析では、タイワンザル母群の3個体(4.3%)だけが強く交雑していた(個体当たりのニホンザル由来遺伝子の割合で推定した交雑度は30〜50%)のに対し、ニホンザル群では一例も交雑が確認されなかった。Y染色体にはニホンザルに4タイプ、タイワンザルに1タイプの種特異的ハプロタイプが区別できたが、他の遺伝標識との組み合わせでは移住オスを介した交雑の証拠は認められなかった。また、タイワンザル母群内にmtDNAの個体変異は検出されず、台湾で報告されている58タイプとの分子系統比較から高尾市郊外の寿山自然公園が起源であることを示唆する結果が得られた。以上から、国内3箇所で起きた外来種交雑の事例のうち、下北半島の例は最も遺伝子浸透の程度が低い交雑の場合と考えられ、正逆交雑の起こり方、外来種母群内での交雑程度で他所とは異なる交雑であることが明らかになった。

  • 山海 直, 小原 実穂
    原稿種別: ポスター発表
    p. 63-
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/07
    会議録・要旨集 フリー

    子宮は子宮体や子宮角の形態・構造により解剖学的に分類されており、サル類はヒトと同じ単一子宮の動物である。また、卵巣機能においてもヒトと類似しているところが多く、成熟個体では月経を定期的に繰り返し、いずれ閉経となる。これらのことは経験から理解されていることが多く、サル類の初潮、閉経等に関する報告は極めて少ない。そこで長年にわたり室内繁殖、育成、成熟個体および老齢個体の管理が実施されている医薬基盤・健康・栄養研究所のカニクイザルの月経に関わる記録を調査した。カニクイザルの月経は、29.4±4.3日間隔の周期を示していた。また、月経発現から排卵までの日数を内分泌学的に解析したところ、若齢個体で13.2±1.6日目、高齢個体で13.5±2.0日目であった。初潮は脳、卵巣、子宮のそれぞれの成長とともに各機能が相互に関連づけられることで発現するが、カニクイザルの初潮は1195±209日齢(約3歳)であった。初潮確認後も体重は増え続け、生理的安定を意味する定期的な月経周期を示すようになるのは、初潮から1年後の1490±333日齢(約4歳)であった。また、交尾が成立して妊娠が確認されるのは初潮から2年後の1987±447日齢(約5歳)であった。高齢の個体では卵巣機能の低下により子宮内環境の周期的変化がなくなり閉経となるが、最後の月経を認めたのは、9288±1532日齢(約25歳)であった。寿命は11848±2095日齢(約32歳)であったことから閉経後においても約7年間生存していることがわかった。このように、初潮から初めての妊娠を確認するまでに2年を要しており、肉体的成熟と精神的成熟を区別して理解する必要があると思われた。また、これらの生殖現象の発現時期は個体差が大きく複雑なメカニズムの結果であることから、初潮を伴う性成熟期、成熟期、閉経を伴う更年期、さらに高齢の老年期といったように、それぞれの現象を点ではなく期間で示すほうが適格であると思われた。

  • 藤原 遼人, 小柳 香奈子, 渡邉 日出海
    原稿種別: ポスター発表
    p. 64-
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/07
    会議録・要旨集 フリー

    非ヒト霊長類の多くは低緯度の熱帯および亜熱帯地域の森林に生息し、主に果実や昆虫などを食べて生活する。一方、非ヒト霊長類中でニホンザルのみが、下北半島を北限とする積雪・落葉・気温低下により果実や昆虫を得られなくなる冬季を有する高緯度地域にも生息している。本研究では、そのようなニホンザルの特異的高緯度環境適応を可能にした要因を明らかにするために、2012年より下北半島に生息する野生ニホンザルの糞便を収集してきた。初秋季および冬季に得たニホンザル糞便試料よりDNAを抽出し、PCR等によるターゲット選択をすること無くOxford Nanopore社のMinIONシステムによる塩基配列決定を行った。その結果得られた計111.1メガ塩基対となる131,120 リード配列データを国際塩基配列データベースに対して相同配列検索を行い、各リード配列の由来生物を推定した。さらに、霊長目以外の真核生物に分類されたリード配列の分類群頻度解析を行うことで、秋季と冬季において下北半島生息ニホンザル集団が摂取している主要食物を推定した。その結果、秋季中は、下北半島に自生しているマタタビ、ヤマブドウなどの高カロリー食を大量に食べ、冬季はアジサイやニシキギなどに依存しているということが示唆された。また、タンパク質源として、海産魚も摂っている可能性や、住血胞子虫などの寄生虫に冒されている可能性も示唆された。これらの結果に基づき、ニホンザルの高緯度地域への適応要因について考察する。

  • 毛利 惠子, 橋本 千絵, 柴田 翔平, 戸田 和弥, 清水 慶子
    原稿種別: ポスター発表
    p. 65-
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/07
    会議録・要旨集 フリー

    冷蔵・冷凍等の電気設備のない調査地において、ホルモン等を測定する目的で野生動物の尿サンプルを採取・保存する際は、その成分の安定性が課題である。これまで私共はろ紙を用いた尿保存法による成熟メスチンパンジーやボノボのエストロゲン・プロゲステロン代謝物の測定が排卵の特定に有効であることを報告したが、ろ紙自体の尿保持量が少ないこと等から、テストステロンやコルチゾールの測定は困難であった。本研究では、飼育下の成熟チンパンジーの尿を、逆相カラム中に長期間保存し、その有効性を確かめた。カラム保存と冷凍保存の尿中cortisol, testosterone, estrone-conjugates, pregnanediol-glucuronideを測定し比較したところ、両者の動態に違いはなかった。また、カラム保存した尿のコルチゾール量は冷凍保存の結果より高濃度であった。さらに、野生のメスボノボの尿を逆相カラムとろ紙で長期保存し、その溶出液中のステロイドホルモン量から排卵日の特定をしたところ、予想される排卵日に差はなかった。これらのことから、本方法は、従来のろ紙での保存方法では困難だったステロイドホルモンの測定にも有効な保存方法であることがわかった。

  • 日比野 久美子, 竹中 晃子, 鈴木 樹理, 田中 洋之, 釜中 慶朗, 中村 伸, 光永 総子, 川本 芳, 森本 真弓, 愛洲 星太郎, ...
    原稿種別: ポスター発表
    p. 66-
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/07
    会議録・要旨集 フリー

    血中コレステロール(CH)値が高くなると動脈硬化を引き起こし、心筋梗塞や脳梗塞の原因となる。これまでインド産アカゲザルの低リポタンパク質受容体(LDLR)にCys82Tyr変異を有する家系を維持し、7頭のヘテロ個体、1頭のホモ個体を産出した。この変異によるLDLRの活性はヘテロ個体では72%に、ホモ個体では42%に低下し、血中低密度リポたんぱく質-CH(LDL-C)はヘテロ個体で50mg/dL増加していた。CH投与実験を行い、LDL-Cが上昇した2個体の全遺伝子検索とその他の個体のジェノミック変異解析を行ったところ、2頭のオスのみでMBTPS2遺伝子(X染色体上)にG→Aのヘミ接合体が観察された。このMBTPS2はゴルジ体に運ばれてきたSREBPsを加水分解する酵素(S2P)の遺伝子で、低い細胞内CH濃度において作動する。切断されたN末端は核に運ばれ、LDLR遺伝子の転写を促進する。そこで、0.3%CH投与下でのmRNA発現レベルを測定した。変異の有無に関わらず、CH投与4週間まではmRNAレベルは上昇したが、変異を有する個体のmRNAレベルは、変異のない個体の8割に低下し、LDL-Cはさらに50mg/dL高くなった。ヒトでは、卵2.5個/日に相当するCH投与により、虚血性心疾患を引き起こす危険レベルにまで上昇することに匹敵する。CHの生合成の律速酵素であるHMGCRのmRNAに大きな変化はなかったことから、LDLRのCys82TyrとMBTPS2のVal241Ile変異のポリジェニック変異が血中CH上昇を引き起こすことが明らかになった。6週を越えるとmRNAレベルは突如日常のレベルまで低下した。0.3%CH投与6週目以降血中CHが虚血性心疾患の危険レベルを超えたのはこの2頭を含む3頭であったが、その原因遺伝子は明らかにできなかった。この3頭には細胞内CHを排出する機構に障害があり、6週目で細胞内CH上昇によるLDLRのmRNAの転写抑制が働き、mRNAレベルが急激に低下したものと考えている。(京大・霊長研共同利用研究2021-B-38)

  • 打越 万喜子, ユ リラ, 服部 裕子
    原稿種別: ポスター発表
    p. 67-
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/07
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    これまで様々な霊長類種で認知研究が行われてきたものの、テナガザルを対象にした研究は非常に数が少ない。過去十数年の間、チンパンジーなどを対象にした視線計測の研究が参加個体に負担のない、自由参加できるスタイルで確立されてきた。本研究では初めてテナガザルを対象に、アイ・トラッキング実験場面を試験的に構築した。ヒト行動進化研究センターで飼育される大人雄のテナガザル3個体(ツヨシ・ラジャ・マミー)を対象に2021年より馴致を開始した。計測にはTobiiTX300とTobii Pro labを用いた。将来的に動物園で採用しやすい環境設定になるように工夫した。現在までに1個体で安定的なデータ収集ができている。テナガザルが顔写真をどのようにみているか、1個体を対象に実験した。見知らぬヒト・テナガザルの顔写真を計48枚用いて、それぞれ3秒間ずつ呈示した。1日に2枚ずつ、計24試行おこなった。対象個体の各注視は平均200msec、サッケードの振幅は平均6°で、ヒト・テナガザルの写真刺激の両方で、目の領域を最も長く注視した。その他、注視の順序等、分析結果を報告する。

  • 田中 正之, 吉田 信明
    原稿種別: ポスター発表
    p. 68-
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/07
    会議録・要旨集 フリー

    京都市動物園では、1群6個体のチンパンジーが認知課題に参加する「お勉強」の時間を、週に1~3回程度設けている。動物園類人猿舎の1室に15インチタッチモニターが3台設置され、各モニター上の小型IPカメラで画面に向かうチンパンジーを記録した。課題はタッチモニターに提示されるアラビア数字を昇順に指で触れる系列学習で、すべての数字を正しい順序で触れれば小片の食物報酬が得られた。各個体習熟度に合わせて問題の難易度(系列長)を調整し、成績が学習基準に到達すれば、数字をひとつ増やした。チンパンジーは3台のモニターのうちどの画面に向かってもよく、時には問題が継続していても場所を離れ、その後に他個体が入れ代わって問題に向かうことなどがあった。その時、当該個体が学習している問題より難しい(系列長の長い)問題を見ただけで、問題を始めずに場所を離れることが見られた。これらの事例を、過去の記録から集めて、当該個体の学習レベルとの関係を調べた。

    2021年5月から2022年5月までの間に実施した「お勉強」時間の映像を解析対象として、既存の深層学習モデル(Keypoint RCNN)をチンパンジーの顔領域の検出と個体分類向けにファインチューニングした上で、タッチモニターの反応データと照合した。開始された試行が完了しなかった、つまりチンパンジーが途中で場を離れた事例を対象として、顔が検出されなくなるまでの時間を算出した。当該個体がその時点で学習している系列長の場合と、それより長い(当該個体には困難な)系列長の場合を比較したところ、45歳の1個体で、困難な問題のときに顔が検出される時間が有意に短い、つまり早く場所を離れることが示唆された。

  • 大橋 岳, スマオロ プロスペール, サンガレ アグネス, ズル ローレンス, カウォン シェリー, ゴル ブラマー
    原稿種別: ポスター発表
    p. 69-
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/07
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    リベリア共和国パラの森に生息する野生チンパンジーはパントフートとともにおこなう板根叩きの文脈で板根へ投石し、森に響く音をたてる。その行動の特徴を知るために、2019年2月から3月にかけて、板根とそこに残された石について調査した。調べた板根は190本だった。それらの木について、GPSによる位置情報、樹木の胸高直径、板根への投石による痕跡の有無、チンパンジーが使用したと思われる石のそれぞれの重さ、樹木のロケーション(平地か斜面か)について記録し分析した。190本中39本(平地25本、斜面14本)には石を当てた痕跡がなかった。遊動域内であっても使われないものもあり、また一部は遊動域を外れている可能性がある。134本には根元に石があり、その合計は1398個あり、平均3.62kg、中央値3.0kg、最小値0.1kg、最大値16.3kgだった。胸高直径の大きさと石の数には相関があった。使用後の石の位置の不安定さから斜面で石の数が少ない可能性が考えられたが有意差はなかった。板根に痕跡があるにもかかわらず、根元に石がない木が平地で66本中8本、斜面で85本中9本あった。斜面で投石後の石が滑り落ちてしまう事例も考えられ斜面での割合が多いと予想していたが、実際には平地と斜面で有意差がなかった。パラのチンパンジーはナッツ割りにも石を利用する。平地で石がなかったところでは、チンパンジーがあらためて別の場所へ石を運んだ可能性が考えられる。

  • 山梨 裕美, 一方井 祐子, 徳山 奈帆子, 赤見 理恵, 本庄 萌
    原稿種別: ポスター発表
    p. 70-
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/07
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    近年動物の倫理的な扱いに関する関心が高まっている。世界各地の動物園でガイドラインの制定などが進められている。動物に関する倫理的な考え方は個人や文化によって異なる一方で、ガイドラインにはある程度の一貫性が求められる。差異を超えた冷静な議論のためには、こうした差異がどこに、またどのように生まれるのかについて定量的に検討することは重要であると考えられる。

    今回、動物園において捕食動物のために生きた動物を与える(生餌)という、見方によって倫理的な判断がわかれると考えられる事象について、その許容度が対象種や年齢によってどのように変化するかを検討した。動物園(京都市動物園及び公益財団法人日本モンキーセンター)の来園者1000人(3~86歳)を対象にアンケート調査を行った。ウサギ・マウス・ヒヨコ・カエル・金魚・イワシ・タコ・ザリガニ・アサリ・コオロギ・ミミズについて、それぞれ動物園において他の動物に生きたまま餌として与えることについて同意できるかどうかを選択式で尋ねるとともに、その選択の理由についても尋ねた。

     結果として、哺乳類や鳥類を生餌にすることに対する許容度は低く、爬虫類・魚類・無脊椎動物になるに従いあがっていくことがわかった。12歳以下のこどもは特に許容度が低く、年齢があがるに従い許容度はあがり、20歳以上になると年齢によって変わらない許容度となった。すべての動物種において許容できるとした人は27.2%いたがその多くが、理由として自然の摂理・弱肉強食・食物連鎖・仕方がないといったものをあげていた。対象種によって回答が異なった場合には、動物への愛着や好みなどが影響しており、動物の苦痛についての言及は少なかった。大人になるに従い、純粋に食べられる動物が可哀そうという立場から、少しずつ許容していくこと及びその理由の多くが感覚的な判断によるものであることが示唆された。

  • 高野 智, 赤見 理恵
    原稿種別: ポスター発表
    p. 71-
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/07
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    人類学や霊長類学の振興のためには,若い世代の興味,関心を引き出すことが欠かせない。高等学校では,総合学習や理科で生物を選択している生徒を対象に,専門家が関与する多くの事例がある。しかし,より裾野を広げるには義務教育との継続的な連携を模索する必要がある。継続的な連携には学校カリキュラムとの連携を図ることが望ましいが,学習指導要領の改訂にともない,小学校では2020年度から,中学校では2021年度から新課程が導入されている。小学校では基本的に旧課程の単元構成が踏襲されたため,4年生理科「人の体のつくりと運動」や6年生理科「生物と環境」などの単元で引き続き接点を作ることができる。中学校においては,旧課程では理科第2分野で2年生が学習する動物関連分野での連携が可能だったのだが,新課程では1年生で生き物の分類,2年生で体のしくみ,3年生で進化を学ぶように大幅なカリキュラムの再編がおこなわれ,従来の連携が困難になった。日本モンキーセンターでは長年にわたって地域の小中学校と連携してきたが,新課程の導入に伴い,中学校向けの新たなプログラム作りに取り組んでいる。現在までに,学校教員との協働により1年生の「生き物の分類」に関連するプログラムを開発し,改善しながら実践を重ねている。本プログラムでは,10種程度のヒトを含む霊長類について,観察を通して自分なりの分類に取り組む。霊長類の系統分類について予備知識をもつ中学生はほとんどいない。予備知識の少ない霊長類について自ら分類基準を考案し,仲間分けをすることにより,自ずと細部まで観察するようになる。それによって分類の意義について理解を深め,関心を高める効果が得られていると思われる。

  • 赤見 理恵, 杉山 茂, 星野 智紀, 伊谷 原一
    原稿種別: ポスター発表
    p. 72-
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/07
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    動物園は「自然への窓」としての役割を持つ。飼育動物を見てわかることだけでなく、野生のくらしや生息環境、調査の様子などを来園者に伝えるため、特別展「妙高高原のスノーモンキー~冬の笹ヶ峰でニホンザルをさがす~」を開催した。日本モンキーセンターのビジターセンター内特別展示室にて2021年9月18日~2022年2月28日の会期で、京都大学・霊長類学・ワイルドライフサイエンス・リーディング大学院の共催、日本霊長類学会、妙高市、犬山市、両市教育委員会の後援、トヨタ環境活動助成プログラムの協力で開催した。展示は、①ニホンザルの分布と調査地マップ、②ドローン映像コーナー、③妙高市笹ヶ峰での調査概要、④調査用具の紹介、⑤サルの食痕などの紹介、⑥妙高高原への誘い、⑦“下北産”ニホンザル剥製、より構成した。展示評価のため会場出口でアンケートへの協力を求め、会期中に98件の回答を得た。満足度(おもしろかったか・ためになったか)は5段階評価でともに平均4.6で、おおむね好評だった。興味を引かれた展示を複数選択する設問への回答は、②ドローン映像コーナー(53%)、①ニホンザルの分布と調査地マップ(49%)、⑤サルの食痕などの紹介(48%)が上位だった。「野生のニホンザルを見たことがあるか」には75%が「ある」と回答し、年齢層が高いほど見たことがある割合も高かった。見た場所は「森林」が多かったが、「田畑」や「市街地」、「その他」で園内を示す回答も10件あった。園内で野生のニホンザルを見たという回答は低い年齢層で多かった。大きなスクリーンを使った②や実物を展示した⑤に興味を引かれるのはうなずけるが、パネルのみで構成した①にも興味を引かれたのはなぜか。自由記述では、自分の居住地やサルを見た経験と重ね合わせた記述や、研究者・調査者のコメントに共感する記述が見られ、このような自分との関わりや共感が興味を引く要因になったと考えられた。

  • 平田 和葉, 久保 麦野, 高井 正成
    原稿種別: ポスター発表
    p. 73-
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/07
    会議録・要旨集 フリー

    ニホンザルに限らず、ほとんどの動物の歯のエナメル質表面に残るマイクロウェアは、その個体が生前に摂食した食物を咀嚼した際に付けられたものである。本研究では、ニホンザルの大臼歯の咬合面に残っている微細な咬耗痕(マイクロウェア)の形状や深度などを工業用の共焦点レーザー顕微鏡を用いて解析し、ニホンザルの地域個体群間の食性の違いとの相関性を検討した。歯の咬合面のマイクロウェアはミクロン単位の大きさであるため、長い間、走査形電子顕微鏡(SEM)の2次元画像データとしての解析しかできなかった。しかし、近年では咬合面の微細な凹凸等の特徴を数値化する手法(DMTA: Dental Microwear Texture Analysis)が開発され、従来の手法で問題となっていた観察者間誤差を最小にとどめ、傷の形状だけでなく深度による解析も可能となっている。本研究では、DMTAを用いて食性について既に詳しい調査が行われているニホンザルの地域個体群におけるマイクロウェアの形状を統計的に解析し、個体群間の違いと食性との相関性を検討した。具体的には、下北、金華山、栃木、房総、幸島、屋久島の6集団における死亡個体の上顎第2大臼歯のエナメル質咬合面のマイクロウェアを計測し、工業用基準であるパラメータを元にデータ化した上で、各個体群における生前の定量データとの相関関係を統計的に検討した。その結果、各個体群における食性の傾向と各パラメータの値には強い相関性がみられた。葉や茎など「丈夫」な物性の食物を多く採食する個体群では咬合面が比較的平坦な表面形状を示したのに対し、堅果や種子など「硬い」食物の消費割合が高い個体群では、起伏の激しい咬合面形状を示すことが明らかになった。ニホンザルの大臼歯のマイクロウェアの形状は、生前の食性を強く反映していると考えられる。

  • 伊藤 辰光, 中 伊津美, 大橋 順
    原稿種別: ポスター発表
    p. 74-
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/07
    会議録・要旨集 フリー

    COVID-19の原因ウイルスである SARS-CoV-2 は、2019 年 12 月、中国湖北省で最初に確認されて以来、瞬く間に世界中に拡散し、6 ヶ月以内に 200 以上の国と地域で感染が確認されるパンデミックを引き起こした。SAR-CoV-2 はコロナウイルス科の一本鎖 RNA+ 鎖ウイルスで、同科内では SARS-CoV-1 、MERS-CoV に次いで高い病原性をもつとされる。一般に、変異修復機構が欠如しているせいで、RNA ウイルスは DNA ウイルスや他の生物と比べ変異速度が速いが、コロナウイルスは RNA ウイルスとしては例外的に変異修復機構をもつ。それにもかかわらず、 SARS-CoV-2 はアウトブレイクから 1-2 年で多くの変異株を生み出し、感染を広げ続けるなど、速い速度で変異し続けている。そこで本研究では、SARS-CoV-2分子進化機構の一端を解明するため、 SARS-CoV-2 遺伝子に作用する自然選択の痕跡を探索した。オミクロン株など、いくつかの変異株では、スパイクタンパク質 (S) 遺伝子において、非同義置換に対する同義置換の比(KA/KS)が1より大きく、強い選択がかかったことが示唆された。また、遺伝子ごとに系統解析を行うと、互いに異なる系統関係が推定された。今後、各遺伝子について、機能ドメインなどのより短い領域で KA/KS 比を求めることで、より重要な領域が明らかになると考えられる。このことは、新たな変異株出現を監視する上で重要であり、またウイルスタンパク質やその製造を標的とした創薬にも役立つ可能性がある。

  • 堀川 武志, 今村 公紀, 仲井 理沙子, 久我 明穂, 中村 友香, 渡部 裕介, 小金渕 佳江, 勝村 啓史, 石田 貴文, 太田 博樹
    原稿種別: ポスター発表
    p. 75-
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/07
    会議録・要旨集 フリー

    東アジア人類集団においてエタノール代謝に関連する複数の遺伝子の多型で正の自然選択のシグナルが報告されている。これらのアレルはエタノール代謝で生じるヒトにとって有毒なアセトアルデヒドの血中濃度を上昇させるので、その選択圧は謎である。病原体への抵抗性でこの正の選択を説明する仮説が提示されているが、いまだ実験的な証拠はない。私達の先行研究は、この仮説を検証する目的で8ラインの不死化リンパ球細胞にエタノール添加する実験を行った。トランスクリプトーム解析の結果、エタノール添加前に比べ発現量の低下を示した遺伝子数が64個なのに対して上昇した遺伝子数は59個とほぼ同数あり、発現量が低下した遺伝子の内17%に当たる11個が免疫応答に関わっていた。この結果は飲酒時に病原体への抵抗性が下がる可能性を示唆するが、しかし生体でのエタノール代謝は主に肝臓で行われており、肝細胞における発現変動のデータが求められる。生体からの肝細胞を用いる実験が望ましいがバイオプシーは極めて侵襲的である。iPS細胞は、比較的侵襲性の低い手法で入手可能な血球細胞や皮膚細胞などをリプログラミングすることで作成できるため有効である。そこで私達はヒトiPS細胞から分化誘導した肝細胞を用いる実験系構築に着手した。本発表では、この予備実験の結果を報告する。まず、2つの目標を立てた。1つは、不死化リンパ球細胞からのiPS細胞樹立。もう1つは、既存のiPS細胞からの肝細胞分化誘導の確立である。前者はSRV iPSC-4 ベクターを用いて17株の初期化誘導に成功した。今後そのうち7株の増幅維持培養と解析に取り組み、さらに肝細胞の分化誘導を試みる。後者の理研から分与された標準的なiPS細胞を用いた分化誘導実験については、市販のキットを用いてまずは1ラインで内胚葉の分化を行い、次に肝細胞の分化を試みた。今後これらの成否を免疫染色と定量PCRで確認する。

  • Tianmeng HE, Wanyi LEE, Goro HANYA
    p. 76-
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/07
    会議録・要旨集 フリー

    Chewing reduces digesta particle size and is critical for herbivores to obtain nutrients. Previous studies of domestic animals have shown that reducing digesta particle size leads to more efficient digestion. Accordingly, the expectation is that increased digesta particle size should be a sign of an animal consuming challenging food and experiencing compromised nutritional intake. However, for some primates that are dietary generalists, digesta particle size has been shown to increase when consuming preferred foods, which raises doubts about the role of chewing in digesting such foods. This uncertainty makes it difficult to understand the connection between diet, chewing, and digestion through digesta particle size in dietary generalists. In this study, using five typical food items from the Japanese macaque diet, we conducted in vitro digestibility and fermentation assays to explore the effects of particle size on enzymatic and microbial digestion. For the fermentation assays, we used feces from captive Japanese macaques as inoculum. We found that particle size has a stronger influence on the digestibility of seeds and mature leaves compared to young leaves and pulp. The influence of particle size on fermentation speed was stronger in pulp and seeds compared to that in leaves. Physical structure, texture, digestion barriers, and soluble components may play important roles in such differences. These results support the hypothesis that reducing food particle size is less important for consuming fruits than for consuming leaves. The limited effects of particle size on digesting fruits suggest that they are cost-effective in food processing and chewing, which provides new insight into the preference of fruit in the diet of generalist primates.

  • LEE Boyun , FURUICHI Takeshi
    原稿種別: ポスター発表
    p. 77-
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/07
    会議録・要旨集 フリー

    Infant Japanese macaques living in Yakushima (Macaca fuscata yakui) are gently handled as usual. Infants tend not to show rejection toward those gentle handlings and sometimes approach or physically contact the handlers. In contrast to this general trend, we found asymmetric interactions according infants’ developmental stages. some handlings make infants squirm, squawk and cry. Over half of them tend not to be stopped even after the infants’ obvious negative responses, which make infants more panicky. Those excessive handlings are found when infants are around 2 months old the most frequently, when infants become to have more developed locomotion abilities. This study has investigated the patterns of the excessive handlings and their relationship with infants’ physical development during the first 12 weeks after birth.

  • 小川 春子, 小川 秀司
    原稿種別: ポスター発表
    p. 78-
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/07
    会議録・要旨集 フリー

    ニホンザルの姿が人々にどう認識されてきたかを探るため、絵画や服飾に描かれた霊長類について調査した。ニホンザルやテナガザルが写実的に描かれた作品が桃山時代や江戸時代には存在した一方で、江戸時代の刀の鍔や浮世絵に描かれた人物が着ている衣服などには、ニホンザルを極めて単純な図で表した意匠が存在し、それは「括り猿模様(文様)」などと呼ばれている。括り猿模様は、座った姿勢のサルを横から眺めた状態を表現しており、頭部は半円、頭部から下は三日月型で、三日月の両端が前肢と後肢を示している。

    括り猿模様は家紋にも用いられており、サルを題材とした家紋は括り猿模様を円で囲った「細輪に括り猿」や括り猿模様を3つ組み合わせた「三つ括り猿」などに限られる。「括り猿」という名称は布小物に由来する。例えば京都の八坂庚申堂には欲に走ろうとする心を戒めるためにサルの四肢に見立てた布の四隅が括られて吊り下げられている。この布小物の名称は様々で、奈良では「身代わり申」「庚申さん」とも呼ばれている。江戸時代にはこうした布小物は縁起物や玩具としても親しまれていたことが当時の浮世絵や文献から伺える。この布小物をさらに単純化した意匠が括り猿模様であろう。現代の着物や手ぬぐいにも「三つ猿紋ちらし」と呼ばれる「三つ括り猿」と類似した柄が存在するが、それを見ただけではサルだとは伝わりにくい。しかし江戸時代の人々にとっては、括り猿模様という意匠や布小物の括り猿こそがニホンザルをわかりやすく表したものだったようである。

  • 関澤 麻伊沙, 沓掛 展之
    原稿種別: ポスター発表
    p. 79-
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/07
    会議録・要旨集 フリー

    霊長類の多くの種では、母親以外の個体がアカンボウに接触する行動が日常的に観察される。この行動はinfant handling(IH)、アカンボウに接触する個体はハンドラーと呼ばれる。IHは多くの場合、ハンドラーに大きな負担のかかる行動でないが、ハンドラーはときにアカンボウを長時間拘束するなど、アカンボウに悪影響を及ぼすことがある。また、ハンドラーはアカンボウの母親から攻撃されることもある。では、ハンドラーはなぜIHを行うのだろうか。本研究では、野生ニホンザルを対象に、IHの機能について、子育て練習仮説、血縁選択仮説、メス間競争仮説の3つの仮説を検討した。宮城県金華山に生息する野生ニホンザル群を3年間観察し、観察期間中に生まれたアカンボウとその母親24組を対象に、誕生から12週齢まで約1000時間の行動データを収集した。また、普段から母親により近づいている個体がより多くのIHを行う可能性を検討するため、母親の1m以内に出入りした近接個体も記録し、母親とハンドラーが1m以内にいた時間の割合(近接率)を算出した。分析の結果、IHは主にメスによって行われていた。また、メスによるIHでは、近接率が高い未経産個体と血縁個体が、とくに高頻度でIHを行っていた。さらに、血縁個体は非血縁個体よりもより丁寧にアカンボウを扱っていた。経産メスのハンドラーによるIHでは、アカンボウは非血縁個体よりも血縁個体からより高頻度でIHを受け、乱暴な扱われ方の割合には、ハンドラーの血縁の有無で有意な差はなかった。これらの結果から、子育て練習仮説と血縁選択仮説の予測が支持された。また、アカンボウの母親との近接率が低いメスは、未経産・血縁メスであってもIHの頻度が低かったことから、アカンボウに接触するためには、日ごろからの母親との付き合いが重要である可能性が示唆された。

  • 中塚 雅賀
    原稿種別: ポスター発表
    p. 80-
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/07
    会議録・要旨集 フリー

    ダンバーとダンバー(Dunbar and Dunbar, 1988)は、ゲラダヒヒのオトナメスの研究から食物環境が霊長類の親和的社会交渉(毛づくろい)に時間的制約を与えることを示した。遊び行動は多くの霊長類において未成熟期にのみみられ、また他個体とのあいだでおこなわれる社会的遊びは未成熟個体にとって主要な社会交渉のひとつである。代表的な社会的遊びであるわんぱく遊びは、エネルギーコストが非常に大きい点で毛づくろいとは異なるため、毛づくろいとは異なる制約を食物環境から受けている可能性がある。本研究は、食物環境の季節変化が大きい温帯に生息する野生ニホンザル(Macaca fuscata)のコドモを対象に、わんぱく遊びと毛づくろいの頻度が食物環境の変化によってどのような影響を受けるのかを明らかにすることを目的とした。調査は2020年11月~2021年2月および2021年8月~10月に鹿児島県熊毛郡屋久島町西部海岸域でおこなった。その結果、毛づくろい頻度については、ダンバーとダンバーがゲラダヒヒのオトナメスで見い出したのと同様、食物環境の悪化によって採食・移動時間割合が増加しても最初は維持されるが、さらに増えると減少した。一方、わんぱく遊びは、採食・移動時間割合が大きく増加するような季節ではそもそもほとんど生起せず、採食・移動にかける時間が少なくてすむ季節には、採食・移動時間割合が減ることによって生起頻度が増加した。このことから、わんぱく遊びは、食物環境から、時間的制約というよりもむしろエネルギー的制約を受けたと考えられる。すなわち、わんぱく遊びは、最低限のエネルギーを得るための時間的制約は充分クリアーして、さらに余剰エネルギーがあるときにはじめて生起し、増加したのではないかと考えられる。エネルギーを多く使うという点でコストが大きい分、他の行動に比べて発現のための条件が比較的厳しい「贅沢な」行動である、ということが、わんぱく遊びが「遊び」であるための重要な特徴なのかもしれない。

  • 糸井川 壮大, 戸田 安香, 石丸 喜朗, 今井 啓雄
    原稿種別: ポスター発表
    p. 81-
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/07
    会議録・要旨集 フリー

    味覚は摂食の際に食物の栄養価や有毒性を評価する重要な感覚である。味は基本五味(甘味、旨味、苦味、酸味、塩味)に分類され、舌や口蓋に発現する各味質に対応した味覚受容体を介して知覚される。そのため、個々の動物はその食性や生息環境に応じて味覚受容体を進化・適応させてきたと考えられている。中でも甘味は炭水化物の指標であり、ほとんどの霊長類が嗜好性を示す味質である。しかし、近年の研究で葉食性のコロブス類はスクロースなどの天然の糖類に対する嗜好性が弱く、甘味受容体(T1R2/T1R3)の糖感受性が著しく低下していることが明らかになった。そこで、本研究では、この現象が葉を主食とする霊長類系統に共通する味覚特性なのかを明らかにするため、コロブス類と系統的に遠縁な葉食性曲鼻猿類のインドリ科(Propithecus属、Indri属、Avahi属)を対象に甘味受容体の糖感受性を細胞アッセイによって分析した。受容体の機能評価には、スクロースなどの天然糖類に加えて、人工甘味料やDアミノ酸を使用した。2属はスクロースに応答が見られた一方で、Indri属とAvahi属は、一部の人工甘味料には応答するものの、天然糖類には全く応答が見られなかった。従って、葉食性霊長類では、遠縁な系統間で平行的に甘味受容体の糖感受性低下が起こっていることが示唆された。また、糖感受性に寄与する受容体部位を探索するために、属間で一部の受容体領域を入れ替えたキメラ変異体の解析を実施した。本発表では、インドリ科における甘味受容体の機能進化を考察するとともに、インドリ科の食性と甘味受容体の糖感受性の関連を議論する。

  • 田伏 良幸
    原稿種別: ポスター発表
    p. 82-
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/07
    会議録・要旨集 フリー

    動物界では広く、体温調節をするために休息場所の選好性がみられることが知られており、外気温と行動との関連には多くの霊長類で報告されている。たとえば、気象条件に応じて気温が低いときには日向で日光浴をしたり、暑いときには洞穴で涼んだりする。このように、個体レベルで見ると気象条件に応じて霊長類は自身の体温が快適になるように休息場所を変えている。そのため適した休息場所が限られると、競合する資源となりうる。これは、群れを形成する個体にとってコストである。しかし、この個体レベルでみられる場所の選好性が競合する資源となりうるのか、なりうるならば群れ個体の休息中の近接個体数(以下、凝集性)にどう影響しているのかは明らかではない。そこで本研究では、屋久島のニホンザルでの休息場面に着目し、外気温に応じた休息場所の選好性と凝集性が関連しているのかを解明することを目的とした。鹿児島県屋久島の西部海岸域に生息するニホンザルであるUmi-A群を対象に、2020年10月から2021年10月までの期間をデータ解析対象とした。外気温は、個体追跡中に気象計を用いて5分間隔で自動測定し、休息場所の選好性と凝集性についてのデータはオトナメス・ワカモノメス合計24頭を個体追跡したものを用いた。休息場所の選好性については、個体追跡中に1分間隔の瞬間サンプリングを行い、休息または毛づくろいの行動時にどの場所を選択したのかを記録し、凝集性は休息または毛づくろい中に5分ごとの追跡個体半径5ⅿ以内の周辺個体数を記録した。その結果、まず外気温に応じて休息場所に選好性がみられ、暑い時期には相対的に冷えた岩場を、寒い時期には相対的に暖かい地面を選好していることがわかった。そして、岩場と地面では凝集性が異なることが明らかとなり、選好場所と凝集性には関連があることが示唆された。

中高生発表
  • 金谷 旺次朗, 馬場 壮志, 北川 愛莉, 福田 王子, 大野 孝斗, 山内 健心, 津田 涼榎, 濱口 天弥, 三輪 玲温
    原稿種別: 中高生発表
    p. 83-
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/07
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    岐阜県関市では3人の鵜匠の手により鵜飼漁法が行われている。使役されるウミウは茨城県で捕獲された野生種であり、若鳥のうちに鵜匠宅に運ばれ独特の漁法を教え込まれる。ウミウは人に慣れ難い生物であるが、日々接する鵜匠との関係は緊密である。コロナ禍により動物園での霊長類観察ができなくなった我々は、昨年5月から鵜匠の協力を得てウミウ13羽の行動観察を開始した。鵜飼には体の大きいオスが適しているため、1羽をのぞきすべてオスである。さらに11月、その年生まれた若鳥(シントリ・新鳥)2羽が群れに加わった。飼育ウミウは2羽を単位に同じ鵜籠の中で飼育される。このペアをカタライ(語らい)と呼ぶ。我々は、カタライ同士の動向や、シントリとその他のウミウの関係性に注目し観察を行ったが、外観による個体識別は困難であった。通年でも変化のない裸出部・嘴部・脚部の観察で得られる知見に加え、足につけたリボンによる判別を手掛かりにした観察を続けようやく識別が可能となり、同時に行動カタログの作成を行った。カタログ作りでは、特徴的な行動を抽出・命名・定義し、限られた観察時間の中でそれぞれの行動が発生した回数や時間、行動をめぐる個体間関係などを記録した。この方法により、個体間に生じる優劣や親疎等、飼育下のウミウ群の社会関係についての分析を進めることが本研究の課題である。個体識別や行動カタログ作成に関しては、林美里准教授(中部学院大学、公益財団法人日本モンキーセンター学術部長)の指導を得た。

  • 鞍貫 心美, 佐藤 夏妃
    原稿種別: 中高生発表
    p. 84-
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/07
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    2つの食品を組み合わせて味が変化する現象はさまざまなものが知られている。その中で、お餅を食べた後にアクエリアスを飲むと、灰汁っぽい苦みが残るという話を聞き、味覚のひとつである苦味について興味を持ったためこのテーマの研究に着手した。私たちはお餅に苦味を生じさせる原因があると考え、2つの仮説を立てた。その後、それぞれの仮説に基づいた実験を行った。1つ目はお餅の粘り気が舌の甘味受容体を塞ぐと考え、実験1を行った。実験1は、粘り気のある食べ物を口に含んだ後に、アクエリアスを飲み、味の変化を確かめた。2つ目は、お餅の成分であるアミロペクチンがアクエリアスの甘味を抑えるはたらきをすると考え、実験2を行った。実験2は、アミロペクチンを口に含んだ後に、アクエリアスまたはアクエリアスに含まれている苦味成分や甘味成分を組み合わせて作成した溶液を飲み、味の変化を調べた。実験1では、アクエリアスの甘味が減じ、苦味がより強く感じたという結果を得た。実験2も同様に、アクエリアスの甘味を感じなくなった。もしくは、

    苦味を感じるという結果を得た。結果よりお餅の粘り気や成分であるアミロペクチンが、アクエリアスの甘味を抑えるはたらきをする可能性が考えられる。そのため、お餅を食べた後にアクエリアスを飲むと苦味を感じる原因は粘り気のみか、アミロペクチンのみか、もしくは両者による増幅効果だと考えられる。

  • 鈴木 史麿
    原稿種別: 中高生発表
    p. 85-
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/07
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    この研究では”人に注意をするとき、どのように言葉をかければ相手を行動に移させることが出来るのだろうか”ということについて発表する。他者にかける効果的な注意方法が定められていないという問題に対して、より効果的な注意方法を実験、アンケート調査、資料を用いて模索した。実験では実際に対象に様々な注意をしたときの行動の変化を観察した。アンケート調査では、いくつかの注意をされる際にかけられる言葉を提示し、より好ましいと感じられる言葉を調査した。結果として判明したことは、否定的な言葉と自身の現状を強く意識させられる言葉をかける注意は、好まれず、時には拒絶されることもあるが、自身の現状をそのまま伝えられる言葉と、肯定的な言葉をかける注意はより効果的に働くということだ。この結果が導き出された要因として、人の認知から感情が引き起こされるプロセスや、人の防衛機制を注意と関連づけて考える。両者とも、人が注意を受けて行動に移す過程でマイナスの思考を引き起こすものであり、自身の現状をそのまま伝えられる言葉と肯定的な言葉は、注意の受ける側に注意をされているという意識を薄めさせることで、効果的に作用するのではないかと考えた。

  • 吉田 千晴
    原稿種別: 中高生発表
    p. 86-
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/07
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    在日ネパール人、日本人向けに北インド料理を提供するインド・ネパール料理店の全国的な増加が指摘される一方、北新宿一丁目、北新宿三丁目、百人町一丁目、百人町二丁目、大久保一丁目、大久保二丁目(以下、大久保地域と総称する。)では他地域では稀なネパール料理を中心に扱う料理店が多数展開している。本稿では、大久保地域のネパール人エスニック・ビジネスの現状、今後のネパール料理専門店の一般市場への拡大の可能性、そのためにどのようなエスニック戦略が有効であるのかを明らかにすることを目的とし、大久保地域でネパール料理を提供する27店のうち、9店に聞き取り調査を実施した。同胞相手では既に規模が頭打ちになっており、ネパール料理店というエスニック・ビジネスは全体として同胞相手のビジネスから日本人も対象としたビジネスへ緩やかに転換している。日本人は非日常を求めてネパール料理店に来店し、日本人向けに加工された北インド料理も提供する店の方が日本人の集客に成功していることが分かった。人的資本として日本語能力が重要だが、従業員はネパール人コミュニティで募っているため日本人従業員の居ない店が大半で、SNSの導入も遅れている。イベントへの出店等により日本人との社会関係資本を充実させること、よりエスニック財の独自性を強調したサービスを提供することが日本人の集客に有効なエスニック・ビジネス戦略であることが明らかになった。

  • 能勢 あすか
    原稿種別: 中高生発表
    p. 87-
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/07
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    英語を第二の母語とする帰国生である私は、周りの友人たちが「豚が”oink oink”なんて鳴いているようには聞こえないよ!」と言っているのを聞いて驚いた。何故母語によって他言語オノマトペの再現度への納得度が変わってしまうのだろうか。この疑問を解くこと、さらに翻訳機能やAIの言語発音などの開発や研究に貢献することが最大の目的である。そこで、音を言語に落とし込む時どのような過程と理由で擬音語に違いが生まれるのか。そして育った環境や母語とする言語の違いによって、音の聞こえ方が根本的に違うのか否か。この2つの問いを立て研究を進めた。進めると同時に2つの仮説を立てた。まず、音を言語としてアウトプットする際、母語というフィルターを通さざるを得ないため言語によってどれ程忠実に音を再現できるかが異なることから言語間の擬音語に違いが生じるという事。そして2つ目は、音は母語に関わらず全人類ほぼ同じ聞こえ方をしているが、社会的に定められたオノマトペが存在する音は既に「ふりがな化」されてしまっているという事。これらの仮説に基づいて、2つの検証を行った。1つ目に、辞書で定義されているオノマトペとされていないもののオーディオデータを各5個ずつ用意し、日本語話者と英語話者に聞いてもらい、母語で文字として書き出してもらう。両者を発音記号に落とし込み、母語内のばらつきや言語間の違いをみる。2つ目に、定義されていない擬音語を日本語からの言語的距離が比較的近い2カ国語で発音した録音を用意し、どちらのほうがより実際の音に忠実に聞こえるかを検証する。この際、用意する2言語は音素数に大きな差があるものを選ぶ。英語話者へも同様の検証を行った。結果、擬音語の違いは音の聞こえ方の差からではなく言語の再現力から生じるものであり、音の「ふりがな化」とは根深く存在するものであることが分かった。

  • 岩永 航, 池田 太陽, 岩屋 円, 大津 華奈, 斎藤 智亜, 鈴木 麻希
    原稿種別: 中高生発表
    p. 88-
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/10/07
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    高崎山に生息するニホンザルは、餌付けの影響でヒトに警戒しなくなったとされている。しかし、私たちの観察によると、警戒はしないが、ヒトが近づくことでストレス行動を行っている様子が確認できた。本研究では、この点に着目し、高崎山におけるサルのストレス要因とヒトが与えるストレスを、スクラッチとセルフグルーミングをストレス指標として検討した。調査は、令和4年5月~8月にかけて高崎山のサル寄せ場で、ニホンザルB群の個体に対し、追跡調査及び干渉調査を行った。調査1は、サルと調査員の距離を約30分の間、1mと5mで維持してサルを追跡し、観察した。その結果、1mで追跡した場合に頻繁にスクラッチが確認され、5mで追跡した場合はスクラッチがあまり確認されなかった。調査2は、観光客の行動を調査員が疑似的に真似たときのサルの行動を観察した。その結果、対象のサルの視界内で干渉した時にストレス行動を多く行っていた。調査3は、5m以上離れた距離から調査員が干渉してない状態のサルを観察し、サルがストレス行動を行う前後5分の周囲のサルと観光客の状態を調査した。その結果、周囲にサルの個体数が増えたときや、グルーミングの交代時にストレス行動を行う個体が多く観察された。以上の結果から、高崎山のサルは調査員が長時間、近距離で干渉した場合やサルの視界内で干渉した場合にストレスを感じると考察した。また、高崎山のサルは、周囲の個体数の増加によってストレスを感じると考えられた。今後は、高崎山のサルのストレス要因をより明らかにしながら、個体による違いや他地域のニホンザルとの比較を行っていきたい。

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