日本顎口腔機能学会雑誌
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18 巻, 1 号
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特集記事
  • 川島 隆太
    2011 年 18 巻 1 号 p. 1-5
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/01/27
    ジャーナル フリー
    脳機能を維持・向上する,精神的な健康感を向上するための手法を開発研究するにあたり,我々は,認知神経科学の観点から,大脳の前頭前野の機能に注目をしている.人間の前頭前野は,もっとも高次な認知機能を司る場所として知られており,健全な社会生活を送るために必要な能力が宿っており,特に実行機能と呼ばれている機能(将来の計画・企画や意思決定,行動の選択や統制などの基幹となる機能)を持つ.我々は,60歳代くらいになると,心身のさまざまな機能の低下を自覚する.しかし,こうした心身機能,特に前頭前野が司る認知機能の低下は,20歳代30歳代からすでに始まっていることが知られている.この前頭前野が司る認知機能の低下に対して,最近の認知心理学研究で,認知トレーニングと呼ばれる方法が有効であり,特にワーキングメモリートレーニングによって,さまざまな前頭前野の認知能力を向上させることが可能であること,前頭前野を中心とした大脳の構築に可塑的な変化が生じることなどが証明されている.日常生活で行われている咀嚼運動自体には作動記憶トレーニングとしての要素はほとんどない.実際に機能的MRIによってさまざまな咀嚼運動と関連する脳活動を計測したが,多くの活動は運動・感覚野に限局し,前頭前野には有意な活動を見出すことはできなかった.したがって我々の研究仮説の延長上で咀嚼と脳を鍛える効果を結びつけるのは難しいと考えている.
原著論文
  • 向井 憲夫, 谷岡 款相, 久保 大樹, 龍田 光弘, 田中 順子, 田中 昌博
    2011 年 18 巻 1 号 p. 6-15
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/01/27
    ジャーナル フリー
    目的:近年,咬合違和感を訴える患者が増加している.しかし,感覚の異常を診断する方法は確立されていない.そこで,歯の感覚の測定に用いられてきたvon Freyの毛を用いて,健常有歯顎者の歯根膜触・圧覚閾値の臨床的参考値を求め,臨床応用することを目的とした.
    方法:健常被験者として,噛みしめ強度を規定したadd画像から咬合接触像に異常を認めず,咬合違和感を認めない成人有歯顎者32名(男性20名,女性12名,平均年齢26.1±3.7歳)を選択した.上下顎左右側中切歯から第二大臼歯までの計28歯を対象とした.座位,閉眼状態で測定した.歯根膜触・圧覚閾値の測定にはvon Freyの毛(touch test, North Coast Medical社)を用いて,唇・頬側面から舌側方向へ刺激した.閾値の決定には精神物理学的測定法の極限法の上下法を用い,本法を熟知・訓練した歯科医師1名が測定した.被検歯の歯根膜触・圧覚閾値の四分位範囲を求めた.
     その範囲の臨床的意義を確かめるために,矯正治療後に咬合違和感を訴えた成人男性(25歳)の歯根膜触・圧覚閾値を,矯正装置除去1ヵ月から,14日間隔で経時的に観察した.
    結果:健常被験者および臨床例ともに咬合接触像に異常を認めなかった.
     歯根膜触・圧覚閾値は前歯部から臼歯部にかけて増加していく傾向を示した.四分位範囲は,上顎では切歯部0.5~1.7g,犬歯1.5~3.0g,小臼歯部1.5~4.0g,大臼歯部3.7~8.8gであった.下顎では切歯部0.3~1.0g,犬歯部0.7~3.0g,小臼歯部0.8~5.0g,大臼歯部で3.0~11.6gであった.
     一方,矯正装置除去1ヵ月経過時の歯根膜触・圧覚閾値は,大臼歯部で最大190.0g,前歯部で最大7.0gであった.その後,値は減少し,装置除去3ヵ月経過時に四分位範囲内へ収束し,咬合違和感も消失した.装置除去7ヵ月においても歯根膜触・圧覚閾値ならびに咬合違和感に変化は認められなかった.結論:以上のことから,歯根膜触・圧覚閾値が歯の感覚の客観的指標となることがわかった.
  • 高橋 敬一, 伊奈 慶典, 依田 信裕, 冨士 岳志, 佐々木 啓一
    2011 年 18 巻 1 号 p. 16-25
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/01/27
    ジャーナル フリー
    目的:全部床義歯装着者の咀嚼能力向上を目的とし,これまで様々な形態の人工歯が考案されてきた.そのなかの一つにブレードティースがある.しかしながらブレードティースが咀嚼能力の向上,義歯の安定にどの程度寄与するのか,必ずしも明確ではない.そこで,本研究では,ブレードティース義歯装着者の咀嚼能力を検証することを目的とした.
    方法:被験者は一般歯科診療所にて,上下顎全部床義歯を装着した無歯顎患者のうち,ブレードティースを排列した義歯を装着した患者4名(以下,ブレード義歯群),解剖学的形態を有する一般的な硬質レジン人工歯を排列した義歯を装着した患者5名(以下,ノーマル義歯群)の合計9名とした.評価方法として,最大咬合力測定,摂食可能食品アンケート法を利用した咀嚼能力評価,義歯満足度調査を行い,ノーマル義歯群,ブレード義歯群間で比較検討した.
    結果と考察:ノーマル義歯,ブレード義歯群間の比較で,最大咬合力,咀嚼スコアに有意差は認められなかったが,咀嚼時に特に剪断力が必要な食品群内の食品間,義歯群間の比較において有意差が認められ,ブレード義歯の方が,剪断力に優れることが示された.またノーマル義歯群では最大咬合力と咀嚼スコアには有意な相関関係が認められたのに対し,ブレード義歯群に関しては最大咬合力と咀嚼スコアとの間に相関関係は認められなかった.よってブレード義歯は咀嚼時に剪断力を必要とする食品の咀嚼,最大咬合力の小さい患者に対し,臨床的に高い有用性がある可能性が示唆された.
  • 森田 匠, 藤原 琢也, 高須 寛貴, 齋藤 恵介, 後藤 滋巳, 平場 勝成
    2011 年 18 巻 1 号 p. 26-42
    発行日: 2011年
    公開日: 2012/01/27
    ジャーナル フリー
    咀嚼運動機能の生後発達において,発育時期に応じて適切な食品を咀嚼することによる運動学習の側面があると推測される.そこで本研究では,ウサギを用いて離乳後(6週齢)から成獣(33週齢)に至るまでの生後発達の過程で,固形飼料で長期間飼育した群と粉末飼料で長期間飼育した群の2群を用いて.咀嚼器官の特に咀嚼運動機能面に及ぼす影響を検討した.各群においては,離乳後から与えてきた本来の飼料を摂取している時の下顎運動や咀嚼筋筋電図を記録することに加えて,固形飼料飼育群にはこれまで咀嚼経験のない粉末飼料を,粉末飼料飼育群には固形飼料を実験終了時に短期間咀嚼させて,下顎運動パターンや咀嚼筋筋電図を比較検討した.その結果,粉末飼料飼育群のウサギは固形飼料を全く躊躇することなく咀嚼し,その時の下顎運動はグラインド運動が主体であった.さらに,咀嚼回数が増加する,あるいは咬合相の持続時間が延長するなどの咬合力の負荷補償機序の発達不良を示唆する所見は,粉末飼料飼育群では認められなかった.以上のことから,固形飼料を咀嚼するのに適しているグラインドタイプを選択し,且つ実行する基本的な咀嚼機能は,長期の粉末飼料飼育によっても大きく阻害されないことが判明した.しかしながら,両群の咀嚼機能は全く同一ではなく,以下に示す機能的相違点も存在した.1)粉末飼料飼育群では,開口相の持続時間が固形飼料飼育群に比して短かった.2)固形飼料飼育群ではみられない咬筋の開口相での活動が粉末飼料飼育群では存在し,この咬筋活動に対応して両群では下顎運動軌跡が一部分異なっていた.
事後抄録
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