日本顎口腔機能学会雑誌
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18 巻, 2 号
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総説
  • 山本 隆
    2012 年 18 巻 2 号 p. 107-114
    発行日: 2012年
    公開日: 2014/01/30
    ジャーナル フリー
    味覚には,甘い・苦いといった味の質の認知的な分析の側面と,おいしい・まずいといった情動性の側面がある.日常の食卓では複雑な味の組み合わせから成る料理を味わうのであるが,その際,味の詳細な分析は難しくても,おいしい・まずいの判断はただちに行うことができる.口からの味覚情報は大脳皮質の第一次味覚野に送られ,味の質や強さの認知的識別がなされる.第一次味覚野からの情報は2つのルートに分かれて脳内を流れる.1つは前頭連合野の第二次味覚野へ行くルートで,もう1つは扁桃体へ行くルートである.この両ルートでおいしさが実感される.また,同時に脳内物質としてのβ-エンドルフィンやアナンダマイドなどの放出を促し,持続したおいしさ,陶酔感,満足感などが生じる.「おいしいものはもっと食べたい」この欲求を生じさせるのは,報酬系といわれる脳部位である.中脳の腹側被蓋野から側坐核,腹側淡蒼球を通って視床下部外側野(摂食中枢)に至る経路が報酬系で,ドーパミンが神経伝達物質として重要な働きをする.「おいしいものをどんどん食べさせる」のは視床下部の摂食中枢の活動による.この中枢には,甘味などの快感を生じさせる味覚情報が入力し,活動性を高めることが知られている.摂食中枢は副交感神経系の活動を高める作用や,オレキシンなどの食欲促進物質を産生し,脳の各部に送る働きもある.咀嚼運動も活発になる.このように,おいしいものの摂取に際して,各種の脳内物質が放出され,活発な咀嚼運動ともあいまって,脳細胞は活性化され,生き生きと元気になる.おいしいものを規則正しく適量食べることは健康の源である.
原著論文
  • 金城 篤史, 河野 正司, 昆 はるか, 佐藤 直子, 甲斐 朝子, 小林 博, 櫻井 直樹, 野村 修一
    2012 年 18 巻 2 号 p. 115-124
    発行日: 2012年
    公開日: 2014/01/30
    ジャーナル フリー
    【目的】下顎がタッピング運動をする際,頭部と体幹はどのように動いているのか,また下顎の運動量と頭部,体幹の運動量には一定の関係があるのかを明らかにする.
    【方法】下顎運動と頭部運動の測定には,6自由度顎運動測定装置TRIMET II(東京歯材社製)を,体幹動揺の測定には,赤外線反射光方式の三次元モーションキャプチャーシステムProReflex(Qualisys 社製)を使用した.被験者は顎口腔機能に異常を認めないボランティア男性6名(24~29歳,平均年齢:25.8±1.7歳)とした.被験運動は頻度が3 Hzで,被験者が無理なく行える可能な限り大きい開口で行う20秒間のタッピング運動とした.計測点は下顎切歯点,上顎切歯点,胸骨点とした.下顎切歯点の垂直的移動量を開口量とし,上顎切歯点の垂直的移動距離を頭部運動量とした.また,胸骨点の前後的移動量を体幹動揺量とした.
    【結果】立位でタッピング運動を行うと,頭部は開口時に後屈し,閉口時に前屈していた.体幹は開口時に前方,閉口時に後方に動いていた.頭部運動量は0.6~10.7 mmで開口量の5.2~40.5%の大きさであった.体幹動揺量は0.2~1.8 mmで開口量の1.3~6.8%の大きさであった.開口量と頭部運動量,および体幹動揺量のそれぞれの2変数間に相関が認められた.
    【結論】開口量が増すと頭部運動量と体幹動揺量が増すことが明らかになった.下顎が運動し,随伴して頭部が運動すると,頸部より上での重心の移動が起こり,それに対して体幹が運動することによって姿勢を保持していると考えられ,体幹動揺および頭部運動は顎運動を円滑に進める働きを担っている可能性が示唆された.
  • 杉本 恭子, 橋本 恵, 稲田 絵美, 覺道 昌樹, 神野 洋平, 田中 恭恵, 田中 睦都, 中村 真弓, 林亜 紀子, 星野 正憲, 美 ...
    2012 年 18 巻 2 号 p. 125-131
    発行日: 2012年
    公開日: 2014/01/30
    ジャーナル フリー
    咀嚼能力はその評価すべき特性の多面性からこれまでに直接的及び間接的な評価法が多数検討されており,グミゼリーを被験食品とした研究では,成分の溶出計測や粉砕状況に応じたスコア化など種々の評価法を用いた報告がなされている.しかし,グミゼリー食塊粒子の詳細な粒度解析と成分溶出との関係についてはいまだ明らかになっていない.
     そこで本研究は,検査用グミゼリーを被験食品として含有β-カロチンの溶出量と,視覚判定による咀嚼能率スコアならびに画像解析による粒度解析との比較を行うことを目的とした.被験者は,成人健常有歯顎者17名(男性9名,女性8名,25~53歳,平均30.8±6.9歳)とした.粒度計測はデジタル画像解析にて行い,β-カロチンは35℃の水に対する規定条件下での溶出量を評価した.咀嚼能率スコアは標準画像との比較により視覚的に決定した.咀嚼能率スコアと被験食塊中の最大粒子面積との間には有意の負の相関関係(p<0.001)が認められた.また1 mm2~50 mm2の面積をもつ粒子の合計面積が咀嚼塊総面積に占める比率と溶出評価用センサ出力電圧との間に有意の負の相関関係(p<0.001)が認められた.以上の結果より,検査用グミゼリーからのβ-カロチン溶出量,目視による咀嚼能率スコアならびに粒度解析の結果は互いに相関関係が認められることが示された.
  • 増田 裕次, 片山 慶祐, 久保 大樹, 高阪 貴之, 昆 はるか, 斉藤 未来, 土岡 寛和, 槙原 絵理, 椋代 寛之, 森 隆浩, 森 ...
    2012 年 18 巻 2 号 p. 132-138
    発行日: 2012年
    公開日: 2014/01/30
    ジャーナル フリー
    【目的】本研究では座位の状態で,測定部を被験者が保持する方法で測定した場合に,固定して測定する場合と比較して,得られた結果に相違が生じるかを知ることを目的とした.【対象および方法】健常成人を対象として,全40名(男性25名,女性15名,平均年齢29.8±5.0歳)に対して,測定部を保持した状態で測定(保持法)した結果と,測定部を固定して測定(固定法)したときの結果とを比較した.口唇閉鎖力は,最大努力での口すぼめ運動時の多方位口唇閉鎖力を測定した.【結果】男性の総合力は,保持法では固定法に比べて有意に小さかったのに対し,女性の総合力では保持法と固定法で有意な差は認められなかった.男性では,6方向中5方向において,固定法の結果と保持法の結果に有意な相関が認められた.しかし,女性では固定法と保持法と間に有意な相関のある6方向中3方向のみであった.【結論】男性の結果から,保持法は固定法よりも口唇閉鎖力は小さくなることがわかった.また,女性では保持法の結果にばらつきが生じることがわかった.保持法での結果には口唇閉鎖力以外の要因が測定結果に含まれる可能性があることが示唆された.
  • 小川 徹, 大石 直, 鈴木 祐, 伊藤 利実, 川田 哲男, 佐々木 啓一
    2012 年 18 巻 2 号 p. 139-151
    発行日: 2012年
    公開日: 2014/01/30
    ジャーナル フリー
    下顎臼歯における歯根膜触・圧覚と各歯に加わる咬合力,咬合接触面積,習慣性咀嚼側および主機能部位等,咬合力負担に関わる諸因子との関連について検討を行った.
     被験者は健常成人男性16名,被験歯は下顎両側の第一・第二小臼歯,第一・第二大臼歯とした.歯根膜触・圧覚閾値(TDT)は,von Frey毛を用い精神物理学的手法の極限法により求めた.咬頭嵌合位における最大随意咬みしめ時の咬合力および咬合接触面積は,デンタルプレスケールおよびシリコーンチェックバイトを用いて測定した.歯列上の総咬合力,総咬合接触面積に対する各歯に加わる咬合力,各歯の咬合接触面積の割合(%)を各歯の咬合力比,咬合接触面積比として算出とした.習慣性咀嚼側はロールワッテ法,主機能部位はストッピングにて判定した.
     TDTは後方歯ほど高く,小臼歯と大臼歯間には有意差が認められた.各被験者の平均TDTと総咬合力・総咬合接触面積との間には有意な関連は認められなかった.歯種別のTDT比と咬合力比・咬合接触面積比との間に有意な関連は認められなかったものの,全てで回帰直線が右上がりとなる傾向が認められた.習慣性咀嚼側と対側の同名歯間でTDTを比較したところ,習慣性咀嚼側群で有意に高い値を示した.また主機能部位と主機能部位でない同側の隣在の大臼歯のTDTを比較したところ,主機能部位となる大臼歯にてTDTが小さくなる傾向が認められた.
     本研究から,歯根膜触・圧覚と咬合力負担に関わる因子との関連が示唆され,特に日常咀嚼時に歯に加わる負担や頻度が歯根膜触・圧覚と関連が深いことが推察された.
  • 坂口 究, 横山 正起, 渡邊 篤士, 阿部 賢一, 岩下 隼人, 浦田 健太郎, 熊崎 洋平, 河野 稔広, 小針 啓司, 玉置 潤一郎, ...
    2012 年 18 巻 2 号 p. 152-160
    発行日: 2012年
    公開日: 2014/01/30
    ジャーナル フリー
    本研究は,習慣性咀嚼側と非習慣性咀嚼側との間の機能的差異の有無を検証して,習慣性咀嚼側が咀嚼機能に及ぼす影響について明らかにすることを目的とした.被験者には,第7回顎口腔機能セミナーに参加した健常成人10名(26~33歳,平均28.7歳)を選択した.咀嚼運動の分析は,習慣性咀嚼側と非習慣性咀嚼側の間で,ガム咀嚼時の運動経路と運動リズムの安定性,運動経路のパターンについての比較を行った.咀嚼能力の分析は,グミゼリー咀嚼時のグルコース溶出量についての比較を行った.その結果,1.運動経路,運動リズム,運動経路と運動リズムの安定性を表す3つの統合指標は,10名中6名において習慣性咀嚼側咀嚼時のほうが小さかった.2.グルコースの溶出量は,習慣性咀嚼側咀嚼時のほうが大きな値を示し,咀嚼側間に有意差が認められた.3.習慣性咀嚼側咀嚼時における運動経路のパターンの発現は,パターンIとパターンIIIが10名中8名であった.4.発現を認めた各パターンの数値化による比較では,10名中5名は習慣性咀嚼側咀嚼時の点数のほうが大きく,3名は習慣性咀嚼側咀嚼時と非習慣性咀嚼側咀嚼時の点数が同じであった.
     以上のことから,習慣性咀嚼側と非習慣性咀嚼側には機能的差異が認められ,習慣性咀嚼側のほうが良好な咀嚼機能を営むことが示唆された.また,咀嚼機能の定量的評価には,咀嚼能力の計測,咀嚼運動経路のパターン分析,咀嚼運動の安定性の分析(統合指標)が有用である可能性が示唆された.
  • 楓 公士朗, 後藤 崇晴, 田中 佑人, 菱川 龍樹, 藤野 智子, 前田 望, 村上 大輔, 米田 博行, Alexander Wiri ...
    2012 年 18 巻 2 号 p. 161-166
    発行日: 2012年
    公開日: 2014/01/30
    ジャーナル フリー
    理学療法,とりわけ運動療法は,筋骨格系の慢性疼痛性疾患の重要な治療法のひとつであるが,同じカテゴリの疾患である顎関節症における運動療法の応用は一般的ではない.運動療法が顎筋活動に及ぼす影響が明らかでないことは,その理由のひとつであろうと推察される.本研究の目的は,下顎基本運動に関わる運動療法が咀嚼動作に及ぼす影響を明らかにすることにある.顎口腔系に機能異常のない成人14名を無作為に訓練群と対照群の2群に分けた.一口量(10g)の米飯を片側咀嚼し,嚥下するまでを1試行とし,5試行からなるセッションを,10分を隔てて2度行い,その間の下顎運動を記録した.訓練群では両セッション間に運動訓練を実施した.訓練は,被験者に命じた下顎側方偏心運動に,オトガイ付近に手掌の力で抵抗する,等尺性抵抗訓練を用いた.その結果,訓練群においては訓練前後の2セッション間で,咀嚼側方向への最大側方変位量と前頭面内での平均開口方向に有意差を認め,訓練後に側方変位量が増し,開口方向がより咀嚼側方向に偏ることが示された(ともに p=0.028).以上の知見は,訓練が咀嚼に伴う筋活動パタンの変化を示唆するものであり,今後,運動訓練に期待される長期効果を対象とする研究を行うことの妥当性が示された.
学術大会抄録
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