核反応には,光学ポテンシャル模型あるいは歪曲波ボルン近似により説明される,単純な過程を経由する現象の多いことが知られる反面,入射チャネルの性質に依存しない複合核形成の過程を経る現象も多いことが知られている。また,反応のあるものは,これら典型的な二種類の過程が存在しているものとして解析が試みられている。しかし,最近の実験の発展と共に,現象全体が入射チャネルの性質に強く依存し,しかも光学ポテンシャル模型,歪曲波ボルン近似,あるいはこれらの共存過程では説明し難いものが観測される様になった。door-way state形成による共鳴現象もその一つである。しかし共鳴のない現象にも、反応の途中に,"核子移行を必要とする適当な中間状態"を経由する二段階過程モデルが提唱されるに至り,それが多くの反応に適用され著しい成功をみた。また一方では,チャネル結合法を用いて,核子移行による高次の多段階過程が重要となる現象も指摘される様になった。これら核子移行を伴う多段階過程の特徴は,すでに指摘された非弾性散乱に於ける多段階過程とは異り,それが単純な形では歪曲波ボルン近似的取り扱いに帰着させることが出来ない点にある。ここでは,その解析法と共に,これら核子移行を伴う多段階過程が核反応に於いて,どの様な場合にどの様な形を取ってあらわれるかを,今までになされた実験の解析例を通して眺めてみることとする。同時に,それ等に含まれる多くの問題点についてもふれることとする。
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