SPring-8/SACLA利用研究成果集
Online ISSN : 2187-6886
11 巻, 2 号
SPring-8 Document D 2023-005
選択された号の論文の15件中1~15を表示しています
Section A
  • X線イメージングを用いた微化石の古生物学的および生層序学的研究
    上松 佐知子, 歌川 史哲, 福島 佑一
    2023 年 11 巻 2 号 p. 105-109
    発行日: 2023/04/28
    公開日: 2023/04/28
    ジャーナル オープンアクセス
     本研究では BL20B2 ビームラインにおいて微化石を含む岩石試料のX線イメージングを行った。試料として、放散虫・有孔虫を含む泥岩、テンタキュリトイドを含む泥岩、コノドントを含む粘土岩および砂岩が充填した有孔虫殻を用いた。実験の結果から、岩石中の微化石をX線 CT で観察するためには化石と母岩の密度差が大きいこと、化石の保存状態が良好であることが必須の条件であることが改めて明らかになった。特に微化石は続成作用によるわずかな組成(密度)の変化がX線イメージングの成否に直結するため、実験に適した標本を選択することが重要である。
  • 筒井 智嗣, 長谷川 巧, 荻田 典男, 宇田川 眞行
    2023 年 11 巻 2 号 p. 110-113
    発行日: 2023/04/28
    公開日: 2023/04/28
    ジャーナル オープンアクセス
     X線非弾性散乱は、物質のフォノン分散を調べる手段として強力な手段である。しかしながら、計測に使用するX線のエネルギーと試料、特に試料表面を構成する不純物の組成次第では目的とする非弾性散乱スペクトルが得られないことがある。本稿では、その一例として表面に酸化物の不動態を生成することが知られている Nb 金属の非弾性散乱における表面不純物の影響について報告する。
  • 島倉 宏典, 田原 周太, 尾原 幸治
    2023 年 11 巻 2 号 p. 114-117
    発行日: 2023/04/28
    公開日: 2023/04/28
    ジャーナル オープンアクセス
     L- 乳酸の融点が DL- 乳酸より高い一方で、L- リンゴ酸の融点は DL- リンゴ酸よりも低くなる。今回光学異性体をもつ物質における静的構造と融点の関係を調査する目的で、L- 乳酸、DL- 乳酸、L- リンゴ酸、DL- リンゴ酸の高エネルギーX線回折実験を行った。
     乳酸の構造因子には FSDP が観測されたとともに、L 体と DL 体で構造因子に違いが観測された。一方で、リンゴ酸には FSDP がなく、L 体と DL 体で違いが観測されなかった。また、簡約二体分布関数の結果から乳酸では比較的長距離まで秩序が残っている一方で、リンゴ酸では明確な長距離秩序が観測されなかった。また、L- 乳酸の方が DL- 乳酸と比べ中距離秩序を生成しやすい影響で L- 乳酸の融点が高くなっていること、リンゴ酸では DL 混合体の方が分子間水素結合をもつ可能性が高くなる影響で DL- リンゴ酸の融点が高くなることが示唆された。
  • 関 安孝, 中村 成芳
    2023 年 11 巻 2 号 p. 118-120
    発行日: 2023/04/28
    公開日: 2023/04/28
    ジャーナル オープンアクセス
     天然変性タンパク質の構造解析は、その機能発現のメカニズムを明らかにする上で重要である。小角X線散乱法は、天然変性タンパク質の分子サイズなど大局的な構造を反映する実験手法である。本研究は、典型的な天然変性タンパク質である α- シヌクレイン変異体の小角X線散乱から分子サイズの特定を試みた。しかし、タンパク質濃度依存性の解析から、期待される単量体の平均散乱強度を得ることは出来なかった。溶媒条件の再検討が必要と考えられる。
  • 宮嶋 孝夫, 清木 良麻, 今井 康彦, 隅谷 和嗣, 木村 滋, 近藤 剣, 高木 健太, 市川 貴登, 澁谷 弘樹, 上山 智, 今井 ...
    2023 年 11 巻 2 号 p. 121-125
    発行日: 2023/04/28
    公開日: 2023/04/28
    ジャーナル オープンアクセス
     高さ 1 μm 太さ 350 nm 程度の六角柱形状の窒化物ナノワイヤ側面に成長した Ga1-xInxN/GaN 三重量子井戸(Ga1-xInxN/GaN 三重量子殻)に対して、SPring-8 のX線ナノビームを用いた 1100 回折の逆格子マッピング測定を行ったところ、量子井戸からと考えられるサテライトピークとともに、6回対称の Crystal Truncation Rod 散乱が観察された。このことは、量子殻の側面が原子層オーダで平滑であるとともに、X線ナノビームが量子殻側面に照射されていることを示している。また、量子井戸のサテライトと同定したピークより、量子井戸幅と障壁層幅を加えた周期が 11.7 nm と見積もられた。さらに、下地の歪を無視すると、量子井戸の In 組成が x = 19.8 % と見積もられた。
  • 宮嶋 孝夫, 市川 貴登, 近藤 剣, 高木 健太, 安田 伸広, 今井 康彦, 中尾 知代, 荒井 重勇, 後藤 七美, 上山 智, 今井 ...
    2023 年 11 巻 2 号 p. 126-130
    発行日: 2023/04/28
    公開日: 2023/04/28
    ジャーナル オープンアクセス
     高さ 1.4 μm 太さ 450 nm の六角柱形状の GaN ナノワイヤ側壁 m 面 (1100) に成長した Ga1-xInxN/GaN 三重量子井戸(Ga1-xInxN/GaN 三重量子殻)を、集束イオンビーム加工により3本に抽出後、SPring-8 のX線マイクロビームを量子殻の側壁に照射して回折測定を行った。その結果、1100 回折の逆格子マップにおいて、GaN のみならず Ga1-xInxN/GaN 三重量子殻からのサテライト信号も観測され、複数本を抽出した量子殻の構造評価も可能であることを示した。
  • 西川 幸志
    2023 年 11 巻 2 号 p. 131-134
    発行日: 2023/04/28
    公開日: 2023/04/28
    ジャーナル オープンアクセス
     ヒドロゲナーゼは水素の分解および合成反応を触媒する金属酵素で、一般的に酸素によって不活性化する。しかし、最近、いくつかの種で酸素耐性を有するヒドロゲナーゼが見つかってきている。本研究では、新規に見つかった Citrobacter S-77 由来の [NiFe] ヒドロゲナーゼの持つ酸素耐性機構について詳細に解明することを目指しているが、比較対象として、酸素耐性を持たない硫酸還元菌 Desulfovibrio vulgaris Miyazaki F (DvMF) 株由来の [NiFe] ヒドロゲナーゼについても、酸化還元状態の変化により引き起こされる構造変化を調べている。ここでは、DvMF 由来 [NiFe] ヒドロゲナーゼについて、酸素による酸化によって生じる構造変化について調べた。
  • 田中 芹奈, 西出 創, 足立 大樹
    2023 年 11 巻 2 号 p. 135-138
    発行日: 2023/04/28
    公開日: 2023/04/28
    ジャーナル オープンアクセス
     Al-4Zn-1Mg 合金や Al-1Zn-4Mg 合金は溶体化急冷直後に大きな反磁性成分を示し、Al-4Zn-1Mg 合金では室温保持により急速に反磁性成分が消滅する。この反磁性成分を示す原因となる微細構造を調べるため、軟X線 XAFS 法により Zn-L、Mg-K XANES 測定を行った。その結果、Al-4Zn-1Mg 合金における室温保持による反磁性成分の減少は、Zn 原子周りの構造変化に起因して生じると考えられた。
Section B
  • 今澤 貴史, 清井 明, 中村 勇, 田中 政幸, 平塚 研吾
    2023 年 11 巻 2 号 p. 139-142
    発行日: 2023/04/28
    公開日: 2023/04/28
    ジャーナル オープンアクセス
     X線 Computed Tomography(CT)法を用いた冷凍食品内部の氷結晶の分布可視化に続き、解凍方法による食品内部の様子の違いを観察した。冷凍した食品を解凍すると、食品本来の食感や栄養が損なわれることがあり、この劣化は、食品内に含まれる氷結晶が解けて栄養素を含む水分(ドリップ)として外部へ流出することが原因と推測している。ドリップが流出することで、食品内部に氷結晶が抜けた跡(ボイド)が生じると推測されるが、解凍直後の食品内部を高分解能で観察した事例はない。そこで今回、解凍でドリップが流出した牛肉のボイド観察を目的に、複数の方法で解凍した試料の CT 観察を実施した。その結果、いずれの試料でも、組織内部に氷結晶が抜けた跡は認めらなかった。このため、牛肉ではドリップが流出しても、空いた空間は周辺組織に押し潰されて消失し、ボイドとしては残らないと判断した。
  • Lars-Åke Näslund, Torkel Stenqvist, Daiki Shiozawa, Stephen Hall, Joha ...
    2023 年 11 巻 2 号 p. 143-149
    発行日: 2023/04/28
    公開日: 2023/04/28
    ジャーナル オープンアクセス
     An application problem when brazing aluminium is that molten braze alloy may penetrate into the bulk. This may, for example, increase the risk for reduced corrosion resistance and may in the long run lead to coolant leakages in heat exchangers. The phenomenon is poorly understood, which motivates a closer look using synchrotron radiation based 3D imaging. Through phase-contrast tomography at the BL14-B2 beamline at SPring-8 we have recorded 3D images of aluminium sheet materials with different stages of braze alloy penetration where the braze alloy penetration process can be visualized step by step. The characteristic signs of braze alloy penetration has been identified in the 3D images and the project has provided new perspectives on the braze alloy penetration process.
  • 人見 尚, 池野 成裕
    2023 年 11 巻 2 号 p. 150-152
    発行日: 2023/04/28
    公開日: 2023/04/28
    ジャーナル オープンアクセス
     コンクリートの硬化に伴う強度発現のメカニズムの解明を目的として、セメントの硬化過程でのナノメートルオーダーで生じる構造変化を小角散乱法により観察した。カメラ長を 3 m および 40 m とし、X線のエネルギーは 18 keV とした。実験の結果、q が 0.01 nm−1 より小さい領域と、0.1 nm−1 における散乱プロファイルに時間依存性が確認された。これらの変化は、セメントと水による水和反応に起因するものと考えている。
  • 砂川 正典, 山本 渥史, 岡本 泰志, 高山 裕貴
    2023 年 11 巻 2 号 p. 153-155
    発行日: 2023/04/28
    公開日: 2023/04/28
    ジャーナル オープンアクセス
     近年のモビリティ業界における電動化に伴い、軽量かつ高機能な有機複合材のニーズが高まっている。さらなる性能向上において材料内部のナノ構造制御が重要であり、ナノスケールでの内部構造解析が開発加速に不可欠となる。本課題ではX線タイコグラフィによるゴム/無機フィラー系の内部観察を行い、X線タイコグラフィの高コントラストな3次元可視化が有機複合材の内部構造観察に有効であることを確認した。
  • 三輪 祥多郎, 唐津 秀一, 城出 健佑, 鷺谷 智, 中村 亮太, 西川 由真, 大江 裕彰
    2023 年 11 巻 2 号 p. 156-160
    発行日: 2023/04/28
    公開日: 2023/04/28
    ジャーナル オープンアクセス
     原料ゴムの末端変性基、シランカップリング剤および混合条件といったシリカ分散状態に影響する処理方法の組み合わせによって分散状態を系統的に変化させたゴムサンプルに対して、小角X線散乱 (SAXS)、超小角X線散乱 (USAXS)、およびX線コンピュータ断層撮影 (X線 CT) の各測定を実施した。観測領域が異なる測定手法を組み合わせることで、幅広いスケールにまたがったシリカ階層構造の解析が可能となり、各分散処理の影響はシリカ階層ごとに異なることがわかった。
  • 永野 千草, 今澤 貴史, 川畑 直之, 清井 明
    2023 年 11 巻 2 号 p. 161-163
    発行日: 2023/04/28
    公開日: 2023/04/28
    ジャーナル オープンアクセス
     樹脂の破壊機構のひとつに、応力下で各種薬剤と接触してクレーズやクラックを発生する溶剤ストレスクレージング(SSC: Solvent Stress Crazing)がある。その破壊メカニズムについては分子鎖間への薬剤分子の拡散による応力緩和とされているが、詳細な構造解析を行った例は少ない。そこで、SSC による樹脂および薬剤分子の凝集構造変化を明らかにすることを目的に、放射光X線小角散乱(SAXS)測定による構造解析を試みた。食器用合成洗剤により SSC が発生した耐衝撃性ポリスチレン(PS-HI)では、リング状またはアーク状の強い散乱が観察され、洗剤成分である界面活性剤分子が凝集構造を形成したと考えられる。
Section SACLA
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