東海北陸理学療法学術大会誌
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一般口述
  • 渡 哲郎, 本谷 郁雄, 志村 由騎, 小山 総市朗, 金田 嘉清, 櫻井 宏明
    セッションID: O-35
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/01/10
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】 養成校増加に伴い療法士数は飛躍的に増加し、臨床現場における経験年数の若年化という状況を生じている。当院リハビリテーション科においても新人療法士は全体で30%を占めており、院内勉強会や経験者による臨床指導の研修を行っている。しかし、様々な指導により教育方法が統一されないという現状から臨床能力の把握と指導方法の標準化が必要と考えた。そこで、客観的臨床能力試験(Objective Structured Clinical Examination:以下OSCE)を導入し、新人療法士の臨床能力の把握、問題点抽出から臨床指導方法を検証したので報告する。
    【対象】 平成24年度入職の新人療法士19名(理学療法士13名、作業療法士6名)。平均年齢22±0.5歳。
    【方法】 OSCEは藤田保健衛生大学医療科学部リハビリテーション学科が作成した療法士版OSCEを使用した。評価者2名、模擬患者1名、課題は入職後最も患者に施行すると考えられた関節可動域測定(以下:ROM)・徒手筋力検査法(以下:MMT)・起き上がり動作補助/誘導・移乗動作補助/誘導の4課題を選択した。評価は4月、5月に施行した。評価方法は各課題の問に対し[good]2点、[fair]1点、[poor]0点で評価し、各課題の得点率(%)を算出した。4月評価後、対象者19名を5月評価までの1ヶ月間にて臨床指導とOSCEからの問題点を基にした臨床技術教育を行うAグループと臨床指導のみを行うBグループに分け、4月・5月でのグループ間の結果を比較した。統計学的分析はWilcoxonの符号付順位検定を用い、有意水準は0.05未満とした。
    【結果】 得点率は、4月評価時でAグループはROM:58.2±20.8%、MMT:65.7±14.6、起き上がり動作補助/誘導:35.7±21.3%、移乗動作補助/誘導:58.3±27.9%、BグループはROM:56.9±17.5%、MMT:56.9±13.7、起き上がり動作補助/誘導:38.9±22.2%、移乗動作補助/誘導:55.6±22.4%であり全ての項目でグループ間有意差はみられなかった。5月評価時でAグループはROM:91±10.4%、MMT:92.6±4.6、起き上がり動作補助/誘導:75.4±12%、移乗動作補助/誘導:83.7±12.8%、BグループはROM:73.3±16%、MMT:64.2±19.4、起き上がり動作補助/誘導:42.9±26.8%、移乗動作補助/誘導:55.3±21.5%であり全ての項目においてグループ間有意差を認めた。
    【考察】 Aグループでは臨床指導とOSCEからの問題点を基に行った臨床技術教育にて得点率の向上を認めたが、Bグループでは得点率の向上を認めなかった。Bグループも臨床指導が行われたが、Aグループの得点向上から、基本的な臨床能力を早期に向上させるには、その臨床技術に関する技術教育を行う必要性が示唆された。OSCEから得られる問題点を基に行う臨床技術教育は新人療法士の臨床能力の向上と均一化を進めることの一助になると考えられた。
    【まとめ】 今回、入職した新人療法士の臨床能力を客観的に把握した。それを基に行う臨床技術教育は新人療法士の臨床能力を均一化させる教育となる可能性が示唆された。今後の展望として、5月OSCE後にBグループにも臨床技術教育を行い、教育介入時期について検討していきたい。
  • 福本 久人, 田端 吉彦, 岡本 美幸, 筧 重和
    セッションID: O-36
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/01/10
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    【目的】 近年、高校卒業後の入学生における文章読解能力や文章表現能力の低下が著しい状況がある。文章読解能力の低下により、漢字が読めない、教科書や文献の内容について理解できないことが起き、定期試験の不合格や留年、もしくは退学につながるケースも少なくない。また、臨床実習においてはレポート作成や症例報告書の作成などの機会が設けられるが、その作成に膨大な時間を費やしたり作成自体ができないこともある。このような事に対応するため、当校では入学後コラムなどを用いて文章読解能力や文章表現能力の向上を試みているので報告する。
    【方法】 対象は、理学療法学科1年生40名とした。方法は、新聞のコラムを使用して行っている。最初の段階として、コラムを書き写すことからはじめ、次に語彙調べおよび文章内容の段落分けを行わせ、コラム内容についての理解度の向上に取り組んだ。最終段階として、文章内容の要約とタイトル設定を指示した。特に文字制限は設けないものの内容の理解度および文章表現の適切化についての指導を行っている。頻度としては、週に3回より開始し5回を限度として行っている。
    【結果】 最初の文章を書き写す段階では、書き写すだけでも非常に時間がかかる学生や誤字脱字が多い学生も見られた。しかし、これは繰り返し行うことで徐々に改善が見られた。次の内容についての理解の文書化については、何を書いてよいのかわからない、コラムの書き写しになってしまう、など多くの学生が文章化できない状況であった。個別に指導を行うことで改善されていったが、問題として非常に膨大な時間を費やさないとできないことであった。内容を理解するために必要な時間、理解した内容を文章表現化するための時間は、指導を繰り返す中でも改善されないケースも見られた。
    【考察】 高校までの教育課程の中で、コラム程度の文字数であっても文章を読む機会が少ないこと、内容を理解し文章化する機会が少ないことが影響しているのではないかと考える。また、携帯電話の普及や電子メールの普及により、他者とのコミュニケーションをはかる機会が少なくなっていることも原因の1つではないかと考える。電子メールなどでは、いわゆる略語や絵文字が乱用されており、時・所・場合に応じた適切な表現や言葉をしようされることがないため、電子メールの活用によって文章表現能力の向上にはつながっていかないと考える。
    【まとめ】 今回、入学生に対し文章読解能力および文章表現能力の向上を目的に、コラム課題を実施した。文章を読む、文章を書く事を習慣化させることで、一定の改善傾向はみられた。今後の課題としては、より有効な方法へと更に検討が必要ではないかと考える。
     本発表を行うにあたり、あいち福祉医療専門学校倫理委員会の承認を得ている。
  • 小林 未菜実, 川角 謙一, 齋藤 佳久, 寺尾 靖也, 佐野 勝弥, 石井 裕也, 辰巳 麻由美, 大瀬 眞人(MD)
    セッションID: O-37
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/01/10
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    【目的】 肩関節疾患に対する理学療法において、肩甲上腕関節の可動域制限は良化しても結帯動作の改善に難渋するケースを多くみる。結帯動作において同側肋骨は前方回旋、胸椎は対側回旋の運動連鎖を生ずる。今回、体幹回旋可動域の左右差、体幹対側回旋可動域の変化に伴う患側肩関節の結帯動作可動域の変化に着目し、体幹の対側回旋へのアプローチを行い、結帯動作可動域に改善のみられた症例を経験したので報告する。
    【方法】 対象は当院に通院する女性患者3名(右肩関節周囲炎2名、右石灰性腱炎1名)である。また本発表にあたり、対象者には倫理的配慮としてヘルシンキ宣言に基づき十分に説明を行い同意を得た。
     3症例の共通した条件は、患側肩関節屈曲・外転可動域160°以上、結帯動作に関してL5レベル以上の可動域を有することである。実施介入としては、自動での体幹対側回旋を患側肋骨の前方回旋を徒手にて補助しながら5回繰り返し、5回目は最終域で徒手抵抗下にて10秒間の保持を行った。介入前後に下記の方法で患側の結帯動作と体幹の両側回旋を行い、メジャー、角度計にて測定した。いずれも測定肢位は端座位である。
    1. 結帯動作:肘関節屈曲90°にて座面-橈骨茎状突起距離を測定。
    2. 体幹回旋:胸骨前方で両側の手掌を合わせ、骨盤を中間位にて固定、両膝関節内側を接触させた状態で体幹の回旋角度を測定。
    【結果】 体幹回旋運動に関しては、症例1:同側45°/対側30°、症例2:同側50°/対側35°、症例3:同側45°/対側40°と、3症例すべてにおいて体幹対側回旋可動域は同側回旋に比べ制限がみられた。介入後、体幹対側回旋可動域は3症例すべてにおいて拡大した。それに伴い結帯動作に関して、座面-橈骨茎状突起距離は、症例1:介入前26.0㎝→介入後30.0㎝、症例2:24.0㎝→27.5㎝、症例3:27.0㎝→35.0㎝と、3症例すべてにおいて結帯動作可動域の拡大が確認できた。
    【考察】 今回対象とした結帯動作制限の3症例では、全例において体幹の対側回旋制限がみられた。この原因の1つとしては患側の前鋸筋の機能不全が考えられる。前鋸筋と外腹斜筋には筋連結があり、前鋸筋の機能不全は外腹斜筋の機能不全を招くといわれている。このようなことから患側前鋸筋、外腹斜筋の機能不全が体幹対側回旋可動域の減少を生じさせたと考えた。従って、介入により外腹斜筋の活動性を向上させ、体幹対側回旋可動域を拡大させた結果、同側肋骨の前方回旋運動が促進され、肩甲骨の前傾角度が増加することで結帯動作可動域の拡大につながったのだと考える。以上より、結帯動作可動域拡大のアプローチとして、体幹対側回旋可動域の拡大による同側肋骨の前方回旋運動の促進は有効であることが示唆された。
    【まとめ】 結帯動作と体幹回旋可動域との相関性について考えた。今後は体幹回旋可動域の変化が結髪動作に与える影響についても考えていきたい。
  • 太田 佳孝
    セッションID: O-38
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/01/10
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】 頚椎の矢状面の運動学については、頚椎全体からみた可動域や不安定性についての報告が多い。今回、隣接2椎体間の動きから頚椎全体の運動パターンや可動性をしるために、頚椎の隣接2椎体を最少運動ユニットとして考えた。頚椎伸展時の動きを評価するため、立位中間位から可及的伸展位のレントゲン側面像で、この運動ユニットがどのように動くかを調査した。今回、この運動ユニットの中間位から可及的伸展位までの運動パターンや可動性の特徴を報告する。
    【方法】 対象は交通事故による軽度の被追突例のうち頚椎の経年的な脊椎変性が少ない5歳から29歳(平均年齢20.4±7.1歳)、男33名、女26名、合計59名の症例である。方法は頚椎の隣接する椎体間の運動(角度)を、頚椎中間位、可及的伸展位の矢状面レントゲン撮影像で計測した。頚椎の運動ユニットは、運動力学上便宜的にC1椎体下半分/C2椎体上半分とした。隣接2椎体の運動ユニットの動きは、下位椎体の椎体部の後上方角よりその椎体の棘突起先端と上位椎体の棘突起先端に引いた2直線の角度であらわした。運動ユニットの中間位の角度から伸展位の角度を引いた角度(N-E角)を隣接椎体間の運動(角度)とした。
    【結果】 N-E角は、C1/2ユニットで平均8.2±6.1°、C2/3で4.4±3.3°、C3/4で8.0±3.9°、C4/5で8.4±4.8°、C5/6で5.9±5.0°、C6/7で0.6±4.3°、C7/Th1で-3.5±3.8°であった。N-E角が負の値のものは、C1/2ユニットで3例(全症例の5.0%)、C2/3で6例(10.1%)、C3/4で0例(0.0%)、C4/5で1例(1.6%)、C5/6で5例(8.4%)、C6/7で23例(38.9%)、C7/Th1で50例(84.7%)であった。
    【考察】 頚椎の矢状面での運動学は、頚椎全体からみた屈曲、伸展を合わせた全可動域や不安定性について分析されることが多い。そこで、頚椎の隣接する上位と下位の椎体の動きに着目し、その2椎体を最小運動ユニットとして考えた。運動ユニットの上下椎体は、椎間関節と椎間板が介在する椎体間関節により接触し、上位椎体は下位椎体に対して後下方へ滑ることにより頚椎を前弯させる。今回、運動ユニットの伸展時の動き(伸展角度)は、下位頚椎のC6/7ユニットは0.6±4.3°と小さく、C7/Th1ユニットは-3.5±3.8°と負の値であった。N-E角が負の値の症例は、C6/7ユニットで全体症例の38.9%、C7/Th1ユニットで84.7%にみられた。この結果から、下位頚椎の運動ユニットは下位頚椎を前弯する動きとともに、運動ユニットの上位椎体が下位椎体に対して微少に前上方へスライドすることにより、椎体間の角度を大きくする。頚椎の運動ユニットに作用する筋は、内在脊椎筋に加えて胸鎖乳突筋がある。頚椎伸展時には、胸鎖乳突筋は頚椎を前弯させながら前方に牽引する力源となる。この動きは、頚椎全体の伸展角度(前弯)を減少させずに頭部の重心を体軸に近づける効果がある。
    【まとめ】
     ・下位頚椎のC6/C7ユニットのN-E角の平均値は小さく、C7/Th1ユニットは負の値であった。
     ・C7/Th1ユニットのN-E角が負の値の症例は、全体症例の84.7%にみられた。
     ・胸鎖乳突筋のはたらきは、予想と反する動きをC7/Th1におこす。
  • 尾田 健太, 大川 千枝, 佐藤 陽介, 磯 毅彦
    セッションID: O-39
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/01/10
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】 今回、両側変形性膝関節症により左膝に全人工膝関節置換術(以下TKA)を施行、2ヵ月後に右TKAを施行し、T字杖歩行自立で退院となった症例を担当した。本症例へ予後予測を行うことは、術前の評価から術後の問題点を挙げることができ、早期の能力改善につながると考えた。そこで、左TKA後の評価から右TKA後の早期の歩行能力改善に向けた予後予測を行い、治療を進めたので報告をする。
     本報告に際し、当院倫理委員会の承認のもと、本症例へ紙面・口頭にて説明し、同意を得た。
    【方法】 左TKA後の評価を元に早期の歩行自立へ向けた予後予測を行い、治療を展開する。
    〈症例紹介〉 82歳女性。診断名は両側変形性膝関節症。平成23年11月に当院へ入院。12月に左TKAを施行。平成24年2月に右TKAを施行し、4月に退院となった。
    〈理学療法評価〉 左TKA後(術後22日)の関節可動域検査(右/左)膝関節屈曲80°/90°、伸展-15°/0°。徒手筋力検査(右/左)膝関節屈曲4/3、伸展4/3。坐位・立位の重心移動時、荷重側への上部体幹側屈が出現。体幹の立ち直り、骨盤と股関節の動きは見られなかった。また立位の左荷重時には左膝ロッキングが見られた。歩行時は左立脚期の膝ロッキングと方向転換時に重心の左右動揺によるふらつきを認めた。左TKA後の治療を進める際、右膝内反変形位での歩行訓練は歩容が悪化すると考え、主治医と相談し、右TKA施行まで歩行訓練を中止した。そこで、評価結果から右TKA後の歩行時に生じる問題点の予測を行った。
    〈予後予測〉 左股・膝関節の筋出力低下により左立脚期に膝ロッキングが見られ、同様に右TKA後の右立脚期も膝ロッキングが出現すると予測した。また、左TKA後の重心移動時の反応から、体幹の立ち直りと股関節による制御が困難と考え、右TKA後も同様の反応により方向転換時にふらつきを出現させると予測した。
    〈理学療法〉 左TKA後は、体幹及び股・膝関節の深部筋の賦活を目的に臥位にて運動を行った。さらに、股関節の支持向上を目的に坐位にて荷重時の骨盤・股関節の動きを誘導した。右TKA後、立位時の重心移動に対する体幹の立ち直りと股関節の支持向上を目的にリーチ動作訓練を追加した。
    【結果】 右TKA後(術後25日)は、股・膝関節の筋出力が向上し、歩行時の膝ロッキングは見られなかった。坐位の重心移動では上部体幹側屈が減少し、骨盤と股関節の動きが見られ始めた。訓練追加後、坐位・立位の重心移動時に体幹の立ち直り、骨盤と股関節の動きが出現した。その為、方向転換時のふらつきが減少し、T字杖歩行自立となり、10m歩行は12.3秒となった。
    【考察】 T字杖歩行自立へつながったのは、筋出力向上や重心移動時の体幹と股関節の制御が獲得できたからと考える。さらに、左TKA後の膝ロッキング、方向転換時のふらつきに着目し、右TKA後の歩行の問題点までを予測、継続した治療を行えたことも要因と考える。
    【まとめ】 本症例は予後予測を行うことで、退院まで継続した理学療法が可能となり、早期の歩行自立へとつながった。術前から理学療法を行う際は、評価から次に生じる問題点を予測し、治療手段の選択を繰り返すことが機能と能力の改善に重要であることを改めて感じた。
  • 大谷 綾乃, 川口 朋子, 森 健人, 浅野 僚太, 松井 真也, 村瀬 善彰
    セッションID: O-40
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/01/10
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】 膝関節顆部骨壊死症(Osteonecrosis of the knee:以下、ONK)は、突然の膝関節疼痛や歩行障害を生じ、進行すると手術治療の適応となることも多いため、理学療法の対象疾患として重要である。今回我々は、ONKと診断された症例において手術を視野に入れた外来理学療法という貴重な機会を得た。そして、疼痛軽減のための運動療法と超音波画像診断装置(以下、エコー)を用いた治療を併用し、経過を観察出来たので、臨床的に意義深いと考え、治療経過とともに若干の考察を加え報告する。尚、本報告は症例に趣旨を説明し同意を得た。
    【症例紹介】 70歳女性。平成23年夏頃より、右膝内側に疼痛出現し、徐々に増大。その後、近隣の接骨院へ通院されるも疼痛軽減しないため、平成24年1月6日に当院受診されONKと診断された。膠原病、ステロイド使用歴、大酒家などの既往は認めなかった。
    【初期評価】 腰野のX線分類にてStageIV。大腿周径差において約2~3㎝ほど右側の増大を認め、右膝に熱感・腫脹がみられた。痛みの検査はNumerical Rating Scale(以下、NRS)にて、立ち上がり・歩行時は7~8、膝関節の内側関節裂隙を中心とした圧痛は7~8。関節可動域(以下、ROM)は膝関節屈曲:右105P/左135、伸展:右-20/左-5。日整会の変形性膝関節症治療成績判定基準JOAスコアは右60点、左90点。歩行は杖歩行自立レベルであった。
    【治療と経過】 腰野のX線分類でStageIVと手術適応となる症例であったが、手術には拒否的であり、理学療法と内服による治療が開始された。理学療法として膝関節周囲の疼痛軽減と、手術に向けた膝機能の維持を目的としたアプローチを施行した。しかしながら、右膝への荷重量軽減を目指した生活指導を継続するも、独居という背景もあり、疼痛の軽減には困難を要した。そこで、エコーを用いた指導による理学療法介入を試み、治療開始から2週目より、疼痛の軽減を認め、それに伴うROM拡大を徐々に確認することが出来た。
    【考察】 ONKは、50歳以上の女性に多いとされ、病因や病態についてはいまだ十分な理解がなされていないのが現状であるが、軟骨下骨の脆弱性骨折による影響が有力視されている。病変部位や臨床症状から、変形性膝関節症に対する理学療法コンセプトに準じて筋力強化訓練やROM訓練を導入し実施した。それに加え、ONKは壊死部の荷重により圧潰・骨折を起こす可能性があり、現状では、最善かつ最大限の努力による可及的早期に壊死部の免荷、疼痛軽減を図っていくことが重要と考え、生活指導を重点に理学療法を開始した。介入当初、病態理解が不十分であり、生活習慣の是正に難渋したが、エコーによるフィードバックや指導などにより徐々に改善が見られた。しかし、本症例の社会的背景から活動量を抑えることは困難であり、十分な疼痛軽減は得られなかった。疼痛軽減の獲得にあたっては、治療内容とその反応状態、どのような経過をたどっているのか、また治療プロセスのどの状況に至っているのかなど、理学療法介入が全体の治療において、現時点で何を目的とすべきなのかを考えることが重要と思われた。
  • 永澤 加世子, 西田 裕介
    セッションID: O-41
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/01/10
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】 高齢者では骨粗鬆症や圧迫骨折、長年の労働や生活環境など様々な原因により円背姿勢が構築されていき、背筋群の持続的遠心性収縮がおこるとされている。そのため背筋群の筋内圧上昇に伴う筋血流の減少により筋の委縮がおき、出力低下に繋がると考えられる。先行研究より円背姿勢は重心動揺が大きく、歩行が不安定になると報告されている。本研究では背筋の筋疲労が体幹動揺性に与える影響を捉えることを目的とし、器質的なアライメント変化による筋力の低下や姿勢制御に影響を与える感覚低下の影響を除外するため、対象を健常男性とした。
    【方法】 対象は下肢、腰部に明らかな疾患のない健常男性14名(平均年齢24±1歳、身長173.3±3.2㎝、体重65.5±5㎏)とした。対象者には本研究の意義ならびに目的を十分説明し、紙面にて同意を得た。方法は三軸加速度計を第三腰椎棘突起に貼付し、疲労前後で10m最速歩行時の加速度を測定した。加速度の解析方法として、動揺性の指標である二乗平均平方根(RMS)とRMSを歩行速度の二乗値と平均歩幅で補正し動揺要素を抽出したNormalized RMS(NRMS)を求めた。また、背筋を疲労させるためSorensenのtrunk holding testを一部変更したものを使用した。統計解析には各軸間で対応のあるt検定を使用し有意水準は危険率5%未満とした。
    【結果】 体幹動揺性を表わすNRMS(X・Y・Z)を各軸間で比較した。疲労前後の順で以下に記載する。Xは(0.28、0.29)、Yは(0.31、0.32)、Zは(0.3、0.3)であり、各軸間で疲労前後では体幹動揺性に有意差が認められなかった。これは背筋の疲労前後でX(前後軸)、Y(上下軸)、Z(左右軸)の方向で動揺性の変化が見られない結果となった。
    【考察】 健常男性では、背筋の筋疲労は歩行時の体幹動揺性に影響を与えない結果となった。先行研究より、高齢者では足関節での姿勢制御能力が低下し、代償的に股関節優位な戦略をとることや、アライメントの変化により下肢の筋出力が発揮しにくくなりパフォーマンスへ影響を及ぼすとされている。今回は対象が健常男性であり下肢筋力の低下は認められないため股関節や足関節の戦略にて背筋の筋疲労による影響を代償していると考えられる。また、足底の感覚情報入力が減少することにより重心動揺が増大するとの報告もあるが、健常男性では末梢の感覚機能低下が体幹動揺の決定因子にはならないと考える。
    【まとめ】 明らかな下肢筋力低下や末梢の感覚機能低下が認められなければ、背筋の筋疲労による体幹動揺性の変化を他の戦略にて代償させ、パフォーマンスレベルへの影響を少なくすることができると考えられる。したがって、背筋の筋疲労が及ぼす体幹動揺性への理学療法アプローチとしては、背筋の筋出力向上プログラムと比較し股関節や足関節での姿勢制御能力を向上させるようなアプローチがより体幹動揺性を減少させることが示唆された。そして股関節と足関節の制御が向上することによりパフォーマンス改善に繋がることが考えられる。
  • 山下 託矢, 川村 将司, 河合 秀哉
    セッションID: O-42
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/01/10
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】 鵞足部痛は、繰り返しの膝関節屈伸および下腿外旋において鵞足腱部の伸張、摩擦によって炎症を起こすと言われている。今回、経過中に鵞足部痛が出現した症例を経験したのでその要因をふまえ報告する。なお、症例には本報告の趣旨を説明し書面上で同意を得ている。
    【症例紹介】 50代女性。2~3年くらい前から特に外傷なく、左手の痺れと両膝から足部にかけての痺れあり。特に朝方と寒い時に症状増悪し歩行困難となる。診察にてC4/5, C5/6の狭窄症による頸髄症と診断され、これに対し、C3-7の椎弓形成術を施行。術後痺れ消失し、独歩自立。術後1カ月で自転車エルゴメーターを開始し、4日目で歩行時に右鵞足部痛が出現した。
    【評価及び理学療法】 圧痛所見は鵞足部(+)、MCL(-)、関節裂隙(-)、鵞足炎に対する疼痛誘発テストは縫工筋(+)、薄筋(+)。視診にて右膝関節自動運動に伴う脛骨の回旋は常に外旋位であり、右膝伸展位での膝蓋骨の内側方向の可動性低い。Ober test(+)、MMTは下腿三頭筋2レベル。歩行右立脚中期、段差昇降や立ち上がり、ペダリング動作でknee in。両側扁平足、立位での足部アライメントが回内位であり、回外の可動域制限わずかにあり。大腿骨骨頭の前捻の左右差なし。大腿二頭筋短頭の圧痛(+)。足部のテーピングで疼痛軽快試みるも歩行時痛変化なし。
     理学療法は、縫工筋、薄筋に対し選択的反復収縮によるリラクゼーション。膝蓋骨可動性改善目的・脛骨回旋改善目的に大腿筋膜張筋の反復収縮によるリラクゼーション、ストレッチ、大腿二頭筋短頭のフレクションマッサージ、外側膝蓋支帯のストレッチ。足部に対し、後脛骨筋誘導での足部回外運動と足関節底屈位での内在筋強化を実施。縫工筋、薄筋の反復収縮後に歩行時痛、圧痛の軽減得られるも持続性なかったが、鵞足部痛発症約4週で圧痛、歩行時痛消失した。
    【考察】 本症例が鵞足部痛に至った要因として、3つ考えられた。1つ目は脛骨外旋を引き起こす要因として、大腿筋膜張筋のタイトネス、大腿二頭筋短頭のスパズム、大腿筋膜張筋を緩めた肢位で膝蓋骨がより内側へ可動得られたことから外側膝蓋支帯の伸張性低下。2つ目は足部回内によるknee in。3つ目は足部回内と下腿三頭筋の筋力低下の状態で、自転車エルゴメーターのペダリング動作によるknee inアライメントの助長。
     いずれも、相互にknee inアライメントを助長し鵞足腱部への伸張・摩擦を引き起こした。今回、自転車エルゴメーターを中止し、脛骨外旋を引き起こす外側支持機構へのアプローチとトリガー筋となった縫工筋と薄筋のリラクゼーションにて疼痛改善を得られた。
    【まとめ】 本症例に対し、足部回内へのアプローチが知識不足により十分に行えなかった面が反省点であるが、今回それ以外の要因を追求し、アプローチすることで鵞足部痛の改善を経験した。また、理学療法士が運動療法経過中の疼痛に対し、疼痛増悪を回避し軽減を図るために、いかに痛みを解釈しアプローチすることが大事かを実感した。
  • 小田 知矢, 眞河 一裕, 小林 靖
    セッションID: O-43
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/01/10
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】 愛知県西三河南部東医療圏では2008年より脳卒中地域連携パスを稼働している。計画管理病院である当院は急性期治療を担当しリハビリテーション(以後リハビリ)治療のかじ取り役として多岐にわたる患者の退院、転院調整を行っている。
     近年の医療制度下で脳卒中急性期病院には、早期予後予測による適切な転帰先の検討が求められている。そこで回復期病院に転院した患者を対象に脳卒中地域連携パス内の評価項目であるNIH Stroke Scale(以下NIHSS)を用いて重症度分類し、各群のプロファイルを分析した。その結果から急性期病院入院時のNIHSSが機能予後予測に反映されるか否かを検討した。
    【方法】 対象は2009年1月~2010年12月に当院から脳卒中地域連携パスby sconeを適応し回復期病院へ転院した患者の内入院時に医師がNIHSSを評価した患者81名(男性54例 女性27例 平均年齢72.5±10.2歳)とした。次に対象をNIHSSにより極軽度のA群(0~4点)、軽症のB群(5~9点)、中等症のC群(10~19点)、重症のD群(20点以上)の4群に分け、各群の急性期病院在院日数、回復期病院在院日数、回復期退院時のFunctional Independence Measure(FIM)の総得点と変化量、Stroke Impairment Assessment Set(SIAS)の麻痺側運動機能及び非麻痺側運動機能の点数を比較検討した。方法は脳卒中地域連携パスby sconeのデータを後方視的に分析した。
    【結果】 各群の内訳はA群32例、B群23例、C群20例、D群6例であった。急性期在院日数はA、B、C、Dの順に平均28.4日、31.6日、39.4日、37.8日であった。回復期在院日数は70日、80.3日、97.1日、84日であった。回復期病院退院時のFIM総得点の中央値は113点、113点、84点、63.5点であった。回復期病院入院中のFIM変化量の中央値は9.5点、8点、24点、7.5点であった。回復期病院退院時のSIASの麻痺側運動機能の中央値は21.5点、22点、20点、9点であり非麻痺側運動機能は5点、5点、5点、3点であった。
    【考察】 極軽症群であるA群では急性期、回復期在院日数はともに最短でありFIMも自立レベルまで改善していた。約3ヶ月で治療が完結し自宅退院している。B群も転帰は同様な傾向を示したが在院日数が長くなっていた。中等症であるC群は急性期、回復期ともに在院日数の増加がみられ、FIMの点数も大きく低下した。重症度が上がることにより安静を伴う医学的治療の必要性が増したため在院日数が増加したと考える。しかしFIMの変化量は顕著に増加しており長期のリハビリによってADL能力の増加と麻痺運動機能及び非麻痺運動機能の向上がみられていた。この結果からB群とC群では具体的な目標設定と、他職種と連携した治療プログラムの立案、実践が患者のADLと自宅復帰率を向上させることが出来るのではないかと考える。D群は機能予後が最も悪く、非麻痺側機能の低下もみられることから多くの介助量が必要になる。しかし、在院日数はC群よりも短くなっていた。機能改善にこだわらず、自宅環境設定や施設入所など介護保険サービスへの切り替えを早期に行っていったのではないかと考える。
    【まとめ】 NIHSSでの重症度分類による機能予後予測は急性期病院からの適切な退院、転院調整に有効であることが示唆された。
  • 北出 一平, 有島 英孝, 菊田 健一郎, 五十嵐 千秋, 成瀬 廣亮, 久保田 雅史, 亀井 健太, 嶋田 誠一郎, 馬場 久敏
    セッションID: O-44
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/01/10
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】 痙性内反尖足に対する選択的脛骨神経縮小術後の下肢機能として、関節可動域や痙縮の程度の改善を報告したものは散見される。しかしながら、歩行能力の改善については、自覚的な歩き易さや補装具の使用状況を質問したアンケート結果や時間的因子の報告が主であり、運動学的および運動力学的因子まで検討した報告は我々が検索した限りない。今回、痙性麻痺にて歩行動作時に疼痛を生じていたが、選択的脛骨神経縮小術後に疼痛が消失し、自覚的な歩き易さが改善した一症例の術前後の歩行を3次元動作解析にて検討した。
    【方法】 対象は6年前に右視床出血にて左側痙性麻痺を呈した71歳の男性である。訪問リハビリテーションを週2-3回行っておりT字杖および短下肢装具使用にて歩行可能であるが、発症から徐々に麻痺側の尖足が強くなり、歩行時に麻痺側足趾や踵部に生じる疼痛を主訴としていた。切除神経の選択は医師および理学療法士が術前に臨床評価を行い、選択的脛骨神経縮小術が選択された。手術の手順は、膝窩部から切開にて脛骨神経を露出させ、顕微鏡視下に電気刺激にて運動神経と感覚神経を確認した。その後、術前に評価した痙性筋を支配する内・外側腓腹神経、ヒラメ筋神経、後脛骨神経の線維に対し0.3-0.6Vの電気刺激を与え、切除神経の確認の為、同時に理学療法士が触診にて収縮筋を確認し、医師が神経線維の1/4-1/3を長さ10㎜程度切除した。術後は翌日より関節可動域練習および歩行を含む基本動作練習などの理学療法を施行した。術前と術後1週時の歩行解析は、10台のストロボカメラと4枚の大型床反力計を同期した3次元動作解析装置VICON MXで計測し、解析ソフトVICON NEXUSを用いて、各歩行変数を算出した。症例に対しては、評価、治療および研究の趣旨を十分に説明し、同意を得た。
    【結果】 時間距離的因子として、術前に比較して術後では歩行速度の増大、術側片脚支持期の増大および非術側歩幅の増大を認めた。足関節に関して、術前では常時底屈位で負のパワーの底屈モーメントを認めたが、術後では立脚期で背屈位が確認され、正のパワーの底屈モーメントを示した。また、術前に比べ術後では術側股関節の振り出し角度が増大し、術側膝関節の過伸展が消失され、術前では認めなかった術側股および膝関節伸展モーメントが出現されていた。
    【考察】 術後の歩行動作において本症例の麻痺側では、立脚期における足関節背屈位の獲得や遊脚移行期に下腿三頭筋の求心性収縮を認め足関節機能が正常に近づいたことにより、膝や股関節周囲における運動力学的因子の改善が連動された歩行戦略へと変化した可能性が考えられる。術後は足関節可動域の確保の他に、パフォーマンスを重視したリハビリテーション治療の継続の必要性が考慮された。
    【まとめ】 術前後の自覚的な歩き易さのみでなく、運動学的および運動力学的因子を含めて歩行戦略を把握することは、術後におけるリハビリテーション治療の方針を的確に立案できる可能性が考えられる。
  • 眞河 一裕, 小田 知矢, 小林 靖
    セッションID: O-45
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/01/10
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】 脳卒中は、高齢者に多く発症し、運動機能障害、ADLの低下、高次脳機能障害を認める。また、嚥下障害を併発している患者も多く、誤嚥性肺炎などの合併症の危険性を有する事が多い。脳卒中ガイドラインは早期よりリハビリテーション(以下リハビリ)を実施する事を提唱し、積極的なリハビリを立案する場合が多い。しかし、近年、リハビリ期間中の栄養アセスメントの視点からの文献も散見され、患者の栄養状態の把握が必要とされている。そこで、急性期治療中に経口摂取が行えず経管栄養となった患者の経過を脳卒中地域連携パスby SCONEを用いて調査しその特徴から今後の急性期リハビリの留意点および対応について検討した。
    【対象】 2009年1月~2010年12月に当院から脳卒中地域連携パスby SCONEを適応し回復期病院へ転院した患者で、転院時に経管栄養の状態であった20例を対象とした。
    【方法】 脳卒中地域連携パスby SCONEのデータを後方視的に調査した。
    【結果】 2年間で脳卒中地域連携パスby SCONEを利用した患者は318例(バリアンス件数を除く)。医療圏内でのアウトカムとして急性期平均在院日数33.2日、回復期88.0日であった。FIMは回復期病院転院時77.5点、退院時102.5点であった。SIASは回復期転院時の非麻痺側運動機能は5.0点、退院時も5.0点。麻痺側運動機能はそれぞれ14.0点と20.0点であった。(データはいずれも中央値)経管栄養患者では急性期平均在院日数45.4日、回復期115.3日であった。FIMは回復期病院転院時24.5点、退院時32.5点であった。SIASは回復期転院時の非麻痺側運動機能は2.5点、退院時では3.0点。麻痺側運動機能はそれぞれ6.0点と14.0点であった。(データはいずれも中央値)
    【結果のまとめ】 経管栄養患者は、回復期病院転院当初からFIM及びSAISが低値を示していた。しかし、回復期病院での積極的なリハビリにより麻痺およびADLの改善を認めた。全体に比べて急性期及び回復期での在院日数が延長した理由として不安定な病状や機能回復に時間が要した為と考えられる。治療のための活動制限を伴う入院期間の延長が二次的に廃用を助長していく可能性もある。この事から経管栄養患者に対する急性期のリハビリは非麻痺側の筋力低下の予防が特に必要であると考えられた。しかし、経管栄養患者の摂取エネルギー量は少ない傾向があり、強度な活動を伴う筋力訓練を行うことでかえって筋力は低下するといわれている。この事から特に経管栄養患者の栄養状態を考慮したリハビリが必要であると考えられた。
    【結語】 今後、経管栄養患者のリハビリを実施するうえで廃用予防、特に非麻痺側の筋力訓練を中心に実施していく必要があると考えられた。それと同時に栄養アセスメントを行う事で、より効果的なリハビリが行え、機能予後の改善に寄与できるのではないかと考えられる。
  • 前田 勝彦, 万歳 登茂子, 後藤 浩, 上田 孝, 渡辺 覚, 深谷 道広
    セッションID: O-46
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/01/10
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】 昭和20-40年代に脳性麻痺により機能障害を受けた人たちは、新たな機能障害(二次障害)が生じている。しかし、対応する医療は進んでいない。適切な治療時期を逃し、症状が重くなってからの対応となる場合が多い。本来の力を発揮・維持し生活していくため、痛みや痺れ・動作能力低下など二次障害を「あきらめる」ことなく、障害当事者と医療者が状況を把握し、共同して対応をすることが必要である。しかし、十分な現状把握はされていない。
     そのために、1. 脳性麻痺二次障害の実態を調査し、背景と課題を探る。2. 障害者及び医療者が適切な対応ができるように指標作りとその普及に努める。3. 行政、医療機関に提言としてまとめる。以上を目的としてアンケート調査を行った。
    【方法】 大阪肢体障害者二次障害検討会アンケート内容(2000年実施)を改編し、2011年11月より2012年1月末までに文書による回答とWEBアンケートとした。愛知県を中心に医療機関、福祉団体、障害者団体、個人への協力をお願いした。なお、本調査は愛知医療学院短期大学倫理委員会の承認を受けて実施した。
    【結果】 430名の回答があり、今回は20歳以上412名の結果を分析した。男性223名、女性189名、愛知県354名、岐阜県36名、三重県18名、その他。保持する手帳は身体障害者手帳401名、愛護・療育手帳208名、精神障害者保健福祉手帳3名。外出の際の移動方法は、手動車椅子にて介助移動202名、電動車椅子使用89名、自力歩行59名、手動車椅子自走22名、杖歩行8名、その他18名。日中の居場所は社会福祉施設336名、在宅91名、勤務先20名、その他であった。
     二次障害を自覚している人は57.5%、二次障害に関心のある人は74%。その内容は手足首のしびれ・痛み、動作のしづらさ、肩こり、腰痛、耳鳴り、食べにくさで40代と50代で多かった。日常生活動作低下は、二次障害ありでは85%、なしでは51%に認められた。現在または過去に就労経験がある人で二次障害ありの人は65%、就労経験のない人で二次障害ありの人は33%。信頼できる医療機関の有無では地域差はなく、あるが64%なしが30%。受けた治療内容は内服薬62%、リハビリ53%、手術22%、針灸マッサージ17%、ボトックス注射7%であった。67%の人が今後二次障害などの相談会に参加したい、または興味があると答え、自分の住む近くで、福祉制度なども同時に相談したいなどが多かった。
    【考察】 就労者に二次障害が多く、日常生活、労働環境への取り組みも必要と思われた。医療機関への受診では、信頼できない人が30%もいる現実があった。十分な障害者対応が出来ていない事もあると推察される。治療内容では服薬、リハビリ、手術などが多く、リハビリテーションに多くの期待が寄せられている。相談会への希望もまた多かった。
    【まとめ】 今後は1. 医療・福祉・障害当事者などの連携を図り、生活、労働環境を見直していく必要がある。2. 二次障害の予防、治療の指針をまとめ、広く周知していくと共にどの医療機関でも適切な対応がされるよう提言していく必要がある。3. 大阪でのアンケート結果と比較検討し、行政、医療機関での十分な相談体制を提言していく必要がある。
  • 宮戸 史, 岩越 康真, 藪本 保, 酒井 章弘, 西村 正明, 福富 悌
    セッションID: O-47
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/01/10
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】 脳性麻痺(以下CP)児は、筋緊張の亢進や関節可動域の制限があり、それらは理学療法で運動学習を行わせる上で妨げとなるため、短時間で効率よく運動学習が行える状態に整える必要がある。そこで、ウォーミングアップ(以下W-up)を行うことにより、短時間でコンディションを整え、効率よい理学療法を提供できないかと考えた。本研究の目的は、CP児の理学療法において効率よい運動学習を行わせるために、Whole Body Vibration(以下WBV)のW-up効果を明らかにすることである。
    【方法】 対象は痙直型両麻痺のCP児6名(10歳4ヵ月±1歳9ヵ月)とした。粗大運動能力はGross Motor Function Classification System(GMFCS)levelⅢで両クラッチ歩行レベルとした。W-up効果を確かめるために、理学療法前のW-upとしてWBVを行う日とStatic stretching(以下SS)を行う日の二日間を設定し、以下の項目についての経時的変化を測定した。生理学的指標として、体温、下肢の筋温と表面温度、脈拍を測定した。筋骨格系の指標として、下肢の関節可動域(straight leg raising test;以下SLRと膝窩角)、筋緊張(Modified Tardieu Scale;以下MTS)を測定した。パフォーマンスの指標として、5m歩行の歩数と時間を測定した。WBVのW-up効果を検討するために、(1)WBV実施日のW-up前とW-up直後の変化について比較した。(2)各日のW-up直後・10分後・20分後の結果をW-up前の結果に対する比率で示し、WBV実施日とSS実施日を比較した。
    【結果】
    (1) WBV実施日の筋温はW-up前33.23±0.28℃、W-up直後34.05±0.26℃(P<0.05)であった。他の指標に有意差は見られなかった。
    (2) WBV実施日とSS実施日の比較において、筋温のW-up前に対する各時点の比率は、W-up直後がWBV実施日1.025 SS実施日1.018、10分後はWBV実施日1.046 SS実施日1.024(P<0.05)、20分後はWBV実施日1.051 SS実施日1.026(P<0.05)であった。他の生理学的指標・筋骨格系・パフォーマンスの指標に有意差はみられなかった。
    【考察】 CP児に対してWBVを用いたW-up効果について検討したところ、WBVをW-upに用いると短時間で筋温を上昇させることができ、その後の理学療法中も筋温の上昇が続くことが明らかになった。パフォーマンスについてはSS実施日と比較して有意差は見られなかったが、経時的な向上がみられた。WBVにより短時間でW-up効果が得られることで、その後の理学療法による運動学習を効果的に行えた可能性が考えられた。
    【まとめ】 CP児の理学療法においてW-upとしてWBVを用いることで、理学療法を効率よく行える可能性が示唆された。
  • 加藤 純, 野嵜 靖弘, 石原 美智子, 竹内 侑子, 加藤 真理, 中尾 龍哉, 伊藤 弘紀
    セッションID: O-48
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/01/10
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】 脳性麻痺(以下CP)児の股関節脱臼は、幼児期後半から就学前後に多く見られる変形で、鈴木によると、片麻痺児は4~8%、両麻痺児は約10%、四肢麻痺児は50%の割合で股関節亜脱臼(以下、亜脱臼)を発症する、としている。当院の整形外科では、migration percentage(以下、MP)が評価の指標とされており、MP50%以上を股関節脱臼の改善を目的とした外科的治療(以下、手術)の適応としている。今回、我々は、当院で亜脱臼の診断を受けたCP児を対象にその発症年齢と手術の有無について調査したので以下に報告する。
    【対象と方法】 対象は、1998年4月~2012年3月までに当院を受診し、手術の対象(MP50%以上)と診断されたCP児61名(男34名、女27名)。年齢は、3~16歳(平均8.6歳±3.09)。粗大運動能力分類システム(以下、GMFCS)レベルは、3が8名、4が10名、5が43名であった。方法は、過去の診療記録より、MP50%以上と診断された年齢および手術時の年齢を調べた。また手術後に再度MP50%以上と診断された年齢も合わせて調査を行った。
    【結果】 MP50%以上の診断を受けた平均年齢は、GMFCSレベル3が6.0歳±2.07、レベル4が5.6歳±2.63、レベル5が5.2歳±2.16で、粗大運動能力レベルが低下するほど、早期に発症していた。手術を行ったCP児は、61名のうち25名、平均年齢6.1歳±1.66であった。手術を行った25名のうち5名(すべてGMFCSレベル5)は、平均年齢8.8歳±1.92でMP50%以上の亜脱臼の再発が確認された。
    【考察】 森田は、CP児の股関節脱臼の原因を、脊柱および股関節周囲筋の筋緊張の不均衡とし、筋緊張の亢進や筋短縮、臼蓋形成不全などがある、としている。また松尾によると、筋緊張が強いと3~5歳で急激に変形が進行することがある、としている。今回の調査でも、平均5~6歳で手術適応となる亜脱臼への進行が見られ、幼児期までの医学的管理の重要性が示された結果となった。また、GMFCSレベルが低い程、早期に発症していたのは、筋緊張の亢進が運動機能低下の一つの要因となっており、下肢の自発運動の低下や荷重の不足、臼蓋形成不全をもたらすために亜脱臼が進行したと考えた。
     今回の調査では、股関節脱臼の改善を目的に手術を受けた25名のうち5名は、平均年齢8.8歳±1.92でMP50%以上の亜脱臼を再発した。5名のGMFCSレベルは全員5であった。森田によると、重症児は経年的に非対称性を示しやすく、変形や拘縮は進行し、欲求や感情の変化、過剰な努力などが筋緊張を高める要因になる、としている。CP児の筋緊張異常は永続的なものであり、手術時に残された筋の緊張は、経年的に亢進する可能性があるため、亜脱臼の進行を予防するためには、就学後も継続的に医学的管理が必要であると考える。
    【まとめ】 今回、当院におけるCP児の亜脱臼の発症年齢および手術の有無を調査した。手術の適応となる亜脱臼の発症年齢は平均5~6歳で、レベルが低い程低年齢で発症していた。手術を受けたCP児25名のうち5名は、股関節亜脱臼の再発が確認された。筋緊張は経年的に亢進するため、幼児期までの股関節脱臼の予防に加え、就学後も継続した医学的管理が必要と考える。
  • 村井 伯啓, 新開 崇史
    セッションID: O-49
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/01/10
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】 近年、脳卒中片麻痺患者に対する装具療法において油圧式短下肢装具(以下、油圧式AFO)が注目されている。油圧式AFOは腓骨神経麻痺患者にも適応とされているが、腓骨神経麻痺患者に対する報告はほとんどない。今回、腓骨神経麻痺患者に対して油圧式AFOを試す機会を得たため報告する。尚、本発表を行うにあたり患者に十分な説明を行い、同意を得た。
    【症例紹介】 60歳代、女性。自転車乗車中、自動車との接触事故にて左膝関節内骨折を受傷し、A病院にてギプス固定で保存療法施行。受傷30日後リハビリ継続目的で当院入院。受傷40日後ギプスからシャーレに変更。受傷45日後シャーレ除去。翌日、左腓骨神経麻痺出現。受傷3か月後退院。
    【理学療法評価】 可動域は左側足関節背屈-10°(active)。筋力は左側足関節背屈MMT2。感覚は左腓骨神経領域に8/10で軽度鈍磨。歩容は裸足歩行で鶏歩となる。
    【方法・結果】 裸足および油圧式AFOにて屋内10m歩行テストを行う。歩行速度・歩行率および本人の感想を聴取し、比較・検討する。結果、歩行速度・歩行率は裸足0.968(m/s)・1.066(steps/s)、油圧式AFO0.882(m/s)・1.000(steps/s)。本人の感想は油圧式AFOは軽く、歩きやすい。さらに油圧式AFOは反対側下肢と同じ感覚で歩けるといった意見が出た。
    【考察】 裸足と油圧式AFOの歩容の大きな違いは立脚初期の踵接地の有無および足底接地への足関節の滑らかな底屈運動であった。正常歩行では踵接地時に足関節背屈筋群の遠心性収縮にて底屈を制動する。この制動により推進力の保存と衝撃吸収が行われる。裸足歩行では立脚初期に踵接地が起こらず尖足接地となってしまっている。油圧式AFOでは立脚初期に足関節底屈制動機能が働き、腓骨神経麻痺による足関節底屈制動を行う足関節背屈筋群の代償が行われた。そのため踵接地後の推進力の保存と衝撃吸収が行われ正常歩行に近い歩行が得られたと考えられる。しかし、歩行速度・歩行率は裸足と比べわずかだが低下してしまった。その原因として油圧式AFOの装着に慣れていないことが一番の要因と考える。主観的意見で油圧式AFOは左右差なく歩けたという意見があり、歩容と合わせて考えると油圧式AFOは腓骨神経麻痺患者に対しても正常歩行に近い歩行が実現できるAFOであると考えられる。
    【まとめ】 今回、油圧式AFOは脳卒中片麻痺患者だけでなく腓骨神経麻痺患者に対しても効果が得られることが示唆された。今後、対象者を増やし、さらなる検討を行っていきたい。
  • 大村 善彦, 佐藤 栄作, 九戸 栄介
    セッションID: O-50
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/01/10
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】 平成21年の介護報酬改定により、従来外来リハで対応していたものを通所リハに移行させるかたちで、「(1~2時間の)短時間型通所リハ」が新設された。またみなし指定により、診療所での通所リハが可能となった。当院では、外来診療の昼休みを利用し、平成22年7月より短時間型通所リハを提供している。今回当院が提供している運動器機能向上プログラムが利用者に与える効果と、どのような利用者に一番効果があるのかを明らかにするため検証を行った。
    【方法】 対象は、平成22年7月から平成24年5月の間に当院の短時間型通所リハを利用した要支援1から要介護2の利用者32名とした。なお本研究に先立ち、全ての利用者に口頭にて十分な説明を行い、同意を得た。利用者の利用開始月と現在のTimed up and go test(以下TUG)の値を比較し、改善されているかどうか判定を行った。また介護度別にTUGの値が改善している利用者の割合を調べ、介護度の違いにより効果に差があるのか検証した。
    【結果】 TUGの値は要支援1の利用者のうち90%に改善みられ、要支援2では71.9%、要介護1で50%、要介護2で16.6%であった。
    【考察】 今回の調査の結果から適切な運動器機能向上プログラムを実施することにより、運動器機能の改善がみられることがわかった。また、要介護利用者よりも要支援利用者の方が、改善率が高かった。当院では要支援者、要介護者ともに20分の個別リハを必ず実施するようにしており、1対1での十分な運動器機能向上プログラムを全員に提供している。要支援利用者は疾患が重複していることが少なく自宅での活動性も高いため、短時間型通所リハで関節可動域訓練や、筋力増強、バランス訓練、動作指導を行うことにより運動器機能が疾患、内部疾患などを合併しており、なかには状態の悪化や入院により休むことが多い利用者がみられた。そのため運動器機能向上プログラムだけでは、対応できず包括的なアプローチが必要であると考えられる。要介護状態の利用者については状態の改善は少ないが、介護度は維持していることが多い。そのため、状態維持の効果は期待できる。適切なサービスを提供し、介護予防をしていくために施設の特性や役割を理解し、ケアマネージャーに適切に利用者を選択してもらい、高い効果が期待できる利用者に運動器機能向上プログラムを提供することが重要であると考える。
    【まとめ】 平成21年の介護報酬改正により、通所リハビリが診療所でも出来るようになった。しかし全ての要支援、要介護者に同様の効果があるわけではなく、適切に対象を見極める必要がある。今回の調査結果から診療所で行う短時間型通所リハでは積極的に運動器機能向上プログラムを実施することで、特に要支援利用者の運動器機能が向上し介護予防出来ることがわかった。また、ケアマネージャーに対しても啓蒙活動を行い、地域全体でアプローチしていくことも今後の課題として重要である。
  • 白石 成明, 伊藤 さつき, 岡田 希和子, 長谷川 潤, 鈴木 裕介, 葛谷 雅文
    セッションID: O-51
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/01/10
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】 地域在住高齢者の栄養状態と身体的特徴及び生活・運動機能の関連について検討する。
    【方法】 65歳以上の地域在住高齢者267名を対象に、簡易栄養状態評価表を基に、栄養状態良好群(196名)と低栄養リスク群(71名)に群分けし、身体的特徴および生活・運動機能について比較検討した。身体的特徴は上腕周囲長・上腕筋面積・下腿周囲長、骨格筋指数、サルコペニア(The European Working Group on Sarcopenia in Older Peopleの基準を一部変更して判定)の有無、運動機能は握力、大腿四頭筋筋力・開眼片足立時間・5m歩行時間を測定した。統計は2群間のスケール尺度の比較にはt検定、名義尺度の比較はχ二乗検定を用い、有意水準は5%とした。なお、本研究は名古屋大学医学部倫理委員会の承認を得て実施した。
    【結果】 低栄養リスク群は栄養状態良好群と比較して体重、BMIが有意に低値であった(p<0.01)。身体的特徴では、低栄養リスク群で栄養状態良好群と比較して、上腕周囲長、上腕筋面積、下腿周囲長、骨格筋指数の全ての測定項目で有意に低値であった(上腕周囲長、下腿周囲長はp<0.01、骨格筋指数はp<0.05)。サルコぺニアの発生は全体で20%(53/267)、栄養良好群、低栄養リスク群別では30/196, 23/71となり有意差が認められた。低栄養リスク群のオッズ比は2.7(サルコぺニア該当/サルコペニア非該当)であった、運動機能では握力、大腿四頭筋筋力で低栄養リスク群は栄養状態良好群と比較して有意(p<0.01)に低値を示し、開眼片足立ち、5m歩行時間では両群に有意差は認められなかった。
    【考察】 簡易栄養状態評価に基づいた低栄養リスク群では、身体計測の指標において栄養状態良好群と比較して骨格筋量の減少、高いサルコぺニアのリスクが示唆された。運動機能においては歩行や開眼片足立ちでは有意差が認められなかった一方で、握力や下肢筋力で有意な低下が認められた。すなわち潜在的低栄養者では、歩行や開眼片足立といった比較的総合的な運動機能には影響していなかったが握力、大腿四頭筋筋力といった要素的な運動機能には早くから影響が出現している可能性が示唆された。今回の検討に用いた簡易栄養状態評価は簡便な検査法であり、サルコぺニアのスクリーニングとしても有用であることが示された。今後、地域在住高齢者の簡易栄養状態評価表による低栄養リスク群の把握および介入方法の検討、介入効果の検証が必要と思われた。
    【まとめ】 低栄養リスク群では、総合的な運動機能の低下に先行して要素的な運動機能が低下している可能性がある。簡易栄養評価は簡便に実施が可能であり、運動機能低下やサルコぺニアについてのスクリーニングとしても有用であることが示唆された。
  • 筧 重和, 中島 ともみ, 佐野 有香, 金森 雅誌
    セッションID: O-52
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/01/10
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】 近年、東日本大震災や局所集中豪雨などの災害が各地区で起きている。災害に対するハザードマップの作成や避難場所の設置などについては、行政で行われている。また、社会福祉施設利用者、在宅要介護者等の安全確保策を含む防災対策の強化を行うよう、平成24年4月20日に厚生労働省(老総発0420第1号、老高発0420第1号、老振発0420第1号、老老発0420第1号)から各市町村に向けて通知がなされてもいる。この通知には、情報の一元管理と共有ができる環境を整えることが必要とあるが、そもそも、どのような情報が必要であるかは未だ検討されていない。
     そこで今回我々は、水害時の避難能力評価表の作成を試みたので報告する。
    【方法】 Barthel Index(以下BI)および機能的自立度評価法(functional independence measur以下FIM)の移動の項目をもとに、水害時の避難能力評価段階を作成した。
    【評価段階について】 評価段階については、下記のように設定した。
     自立:雨天時、傘などを使い介助や監視なしに歩行できるとともに、足関節までの水の中を歩行できる。
     部分介助:雨天時、傘などを使い介助や監視なしに歩行できるが、足関節までの水の中の歩行に関しては介助が必要。
     全介助:雨天時、傘などを使い歩行することができず、全介助が必要。
    【考察】 BIおよびFIMの評価については、天候などについての評価要素は含まれておらず、いわゆる晴天時などの状況を想定した評価表となっている。これらの評価段階に、今回我々が作成した評価段階を含めることにより、水害時の避難能力の把握ができるのではないかと考える。
    【まとめ】 我々は、第22回愛知県理学療法学術大会において、在宅訪問リハビリ利用者の避難能力について報告を行った。実際に、局所豪雨が起き避難勧告が発令された中では、ほとんどの利用者が自力では避難することができなかった。避難できない理由としては、移動能力の低下が原因であった。自宅内では歩行する能力があっても、傘をさしての歩行ができない、道が川のようになっており歩行することができない、などである。リハビリテーションの対象者の多くは、歩行能力の低下が起きている。健常人でさえ、水害時に歩行で避難することは困難な場合が多い。
     このように考えると、歩行能力の低下を起こしている場合には自力で避難することができず、逃げ遅れてしまう事も考えられる。病院を退院時や在宅訪問リハビリテーション開始時、デイケアやデイサービス利用開始時に通常の評価だけではなく、水害時の避難能力についても把握することは重要ではないかと考える。避難能力を把握する事で、私たちが直接避難介助をすることができなくても、行政などに連絡する事で対応する事は可能であるのではないかと考える。
     今回は、水害に焦点を当て評価表の作成を試みたが、いくつかの災害を想定して評価表を作成していく事は重要ではないかと考える。また、移動能力だけではなく、家屋状況や介護者の状況など総合的に評価することも検討し、更に検討していかなければならないと考える。
     本発表は、所属施設の倫理委員会の承認を得て行っている。
  • 徳力 康治, 北澤 友衣, 市川 博和, 松田 祐樹, 伊藤 みゆき, 赤堀 美智恵, 森 文子
    セッションID: O-53
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/01/10
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】 当院が所在する四日市市は、伊勢湾台風以後、水害対策や高度成長期の住宅確保の為、丘陵地を開拓した住宅地が多い。その為、道路から玄関までの間に階段のある住宅も多い。住宅購入時は、階段が外出の障壁になると考慮しない場合が多いが、高齢になるとバリアになり自宅から外出する事が困難になる。今回我々は、超高齢女性が転倒を契機に寝たきりになった症例において、訪問リハビリテーション(以下リハ)と多職種アプローチにより、自宅前の階段を昇降し外出が可能となった1症例について報告する。尚、本人家族には趣旨説明し同意を得ている。
    【症例紹介】 89歳女性 診断名 廃用症候群 パーキンソニズム 変形性膝関節症
     家族構成 娘夫婦との3人暮らし
    【訪問までの経過】 発症以前は、要介護1、杖歩行レベル 週に通所リハ2回、通所介護2回利用。平成21年11月下旬 自宅にて下肢の脱力による転倒で、立てなくなる。以後、寝たきり状態となる。診察の結果、脳梗塞や骨折等の所見は否定され、廃用症候群と診断される。自宅は、道路と玄関との間に1段15㎝の高さの階段が16段あり、通院・通所が困難となる。入院も勧められたが、本人・家族の希望で在宅生活を継続する事になる。介護保険変更申請にて要介護5と認定。12月より訪問診療・訪問リハ・看護開始。訪問リハ依頼目的は、自分の足で(通所に)外出したいであった。
    【初回評価】 パーキンソニズムによる四肢体幹の筋緊張の亢進、転倒時に痛めたと思われる股関節周囲の痛みを訴えた。関節可動域は、股関節、膝関節、足関節に中等度制限を認めた。ADLは全介助 せん妄症状みられた。当面の目標としてベッド上動作の介助量軽減と端座位保持の獲得とした。
    【経過】 12月初旬:訪問開始2週間程は、せん妄もあり意欲が向上せず褥創が出来始めた。
     12月末:意欲向上し端座位が可能。
     平成22年1月:起立動作開始。日常生活場面での可能な動作支援目的で訪問介護導入
     2月:歩行器歩行が可能。
     3月:通所を再開したいと希望が出たが、その時点では自力での階段昇降は困難と判断。
     9月:階段昇降可能。その時点で通所再開を促すも、本人・家族は時期早尚と判断される。
     平成23年6月:監視下で階段昇降し通所リハ再開。
    【まとめ】 本症例では、発症直後からケアマネのプランに訪問リハの依頼があり、リハの介入が早かった。結果、超高齢者においても、早期からリハが介入し適切なアプローチと多職種連携を行う事と、家族の献身的関わりで階段を昇降する事が可能となり、本来の目的であった通所リハに復帰できた。廃用症状は、機能的な向上を目標にする事だけでは改善する事が少ない為、意欲を引き出す事が重要である。週1~2回で1回60分程度の訪問リハの効果を活かす為には、具体的な目標をたて、在宅の中で重要な役割を果たす家族や、在宅に関わるスタッフが、生活の中で継続したプログラムをいかに実践していけるかが課題である。理学療法士は、廃用症状を改善させ意欲を向上させるキーマンである。
  • 稲垣 圭亮, 澤 俊二(OT), 冨田 昌夫, 山田 晃司(MT), 壹岐 英正, 藤田 謹司(MD)
    セッションID: O-54
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/01/10
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】 近年、介護保険施設や在宅サービスの普及により、病院以外で終末を迎えるクライエントが増加している。それに伴い、寝たきりクライエントに関わるセラピストが増加している。しかし、寝たきりクライエントを対象としたリハビリテーション(以下、リハビリ)の報告は少なく、右肩上がりの効果を得られにくいためセラピストのモチベーションの低下にも影響しているとの報告もある。大田は終末期や寝たきりクライエントに対するリハビリの目的として「不動による苦痛の解除」をあげているが、不動が本当に苦痛なのか、どのような苦痛か、どうすれば解除できるのか明確ではない。そこで、今回は寝たきりクライエントの不動による苦痛に着目し、寝たきりクライエントの1日の心身状態の変動と他動的関節可動域(以下、ROM)訓練を中心としたリハビリが心身に及ぼす影響について検討したので報告する。
    【対象】 当施設入所中の寝たきりクライエント6名。すべての対象者は1日の大半をベッド上で過ごし、日常生活動作はすべて全介助である。今回は藤田保健衛生大学疫学・臨床研究倫理審査委員会の承認を得た上で、本人から同意を得ることが困難なため、代理となる家族2名、当施設の医師、看護師長の計4名に説明を行い、同意を得て行った。
    【方法】 起床から就寝(7時30分~20時)までのリハビリ及び入浴やオムツ交換といった体動を伴う動作の前後に血圧、脈拍、動脈血酸素飽和度(以下SpO2)、精神的ストレス(唾液アミラーゼモニター)の計測・評価を行った。計測・評価は1日を通して各対象者に計20回行った。リハビリ内容はケアプランに基づき、ROMの維持、拘縮予防を目的として各関節の他動的ROM訓練を20分間施行した。今回はより長時間不動状態が続いていると考えられる起床後にリハビリを行った。
    【結果】 すべての対象者において体動により血圧、脈拍が上昇する傾向を示した。血圧の変動の大きさは入浴時に最も大きく、続いてオムツ交換、他動的ROM訓練の順であった。SpO2においても体動により上昇する傾向を示し、特に他動的ROM訓練、入浴時に著明な上昇を示した。精神的ストレスは他動的ROM訓練により上昇するが、その後低下する傾向を示した。また、入浴後にも低下する傾向を示した。
    【考察】 今回、寝たきりクライエントの1日の状態観察により、能動的な動作を行うことは困難であるが、1日の中で心身状態は大きく変動していることが認められた。血圧や脈拍の変動から、1日の大半を不動状態で過ごす寝たきりクライエントにとってシャワーチェアーでの坐位や、オムツ交換時の側臥位など不安定な姿勢を保持することが大きな身体的負荷となっていることが考えられた。SpO2の上昇に関しては体動により、胸郭の動きを伴ったことや血液の循環が改善されたことが原因と考えられた。精神的ストレスにおいては他動的ROM訓練によって一時は上昇するが、その後他動的ROM訓練を行う前よりも低下することから、他動的ROM訓練によって不動による精神的ストレスが軽減できることが示唆された。そして、不動状態が寝たきりクライエントにとっての精神的ストレスの1つの因子となっていると考えられた。
  • 瀬木 謙介, 眞河 一裕, 小田 知矢
    セッションID: O-55
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/01/10
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】 高齢化や食生活の欧米化に伴い、慢性心不全患者は増加の一途をたどっている。慢性心不全は貧血や腎機能障害、感染、水分過剰などの因子が加わることで増悪し、入退院を繰り返すことが多いとされている。心臓リハビリテーション(以下、心臓リハビリ)における運動療法の効果は心不全の増悪を抑え、再入院を抑制するとされている。今回、心不全患者の再入院を抑制するための取り組みに向け、急性心不全で入院し、増悪して再入院した症例を対象に傾向と特徴を調査し検討した。
    【対象と方法】 対象は2010年4月1日から2011年3月31日の期間に急性心不全で当院に入院し、心臓リハビリを施行した211名のうち、退院後1年以内に心不全増悪にて再入院し心臓リハビリを施行した19名とした。方法は診療録による後ろ向き調査とし、調査項目は年齢、性別、基礎疾患、BMI、アルブミン、血清クレアチニン、ヘモグロビン、左室駆出率、在院日数、心臓リハビリ施行期間、再入院までの日数、退院時歩行距離、退院先とした。調査データは初回入院時のものとした。
    【結果】 平均年齢は80.2±8.9歳で高齢者が多く、性別は男性8名、女性11名であった。基礎疾患として高血圧、虚血性心疾患、慢性腎不全、弁膜症が多かった。BMIは平均20.3±3.8㎏/m2、アルブミンは平均3.8±0.4 g/dlと栄養状態は比較的良好であった。血清クレアチニンは平均1.6±1.0 ㎎/dlと高値であり、ヘモグロビンは平均11.1±2.4g/dlと低値であった。左室駆出率は平均46.3±17.6%と低下していた。在院日数は平均20.3±9.2日、心臓リハビリ施行期間は平均12.6±9.1日であった。再入院までの期間は平均129.6±101.5日であったが約50%の患者が3ヶ月以内に再入院していた。退院時の歩行距離は100m以上が17例、100m未満は2例であった。18例は病棟内ADLが自立しており、自宅退院していた。
    【考察】 高齢で基礎疾患を保有している患者が多く目立った。退院時の運動機能が比較的保たれていたことから早期退院を目標にした運動療法は効果があったと考えられる。しかし、運動療法を継続できなかったことで運動耐用能の向上といった、心不全患者の再入院を抑制するような運動療法の効果を得ることができなかったと考えられた。また、心不全は慢性疾患であり、加齢変化や各種臓器の予備能低下が心不全増悪の誘因となり、今回の調査からも同様の傾向が示唆された。眞茅らによると非代償性の誘因として塩分・水分過剰、服薬管理の不徹底など生活管理の要因が高いと報告されている。当院では、包括的な心臓病教室や運動療法中においての個別指導を行っている。しかし高齢者が多く十分な理解が得られるまで指導できていなかった可能性がある。そのため、外来での心臓リハビリを継続し運動療法の効果を持続させ、なおかつ個々に合わせた患者指導を行うことで心不全の増悪を防ぎ、再入院を抑制できると考える。
    【まとめ】 今後、高齢者で基礎疾患を保有した心不全患者を抽出して、継続した外来心臓リハビリを行うことで、心不全による再入院を抑制できるのではないかと考えた。
  • 大川 晶未, 飯田 有輝, 伊藤 武久, 石田 智大, 河邨 誠
    セッションID: O-56
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/01/10
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】 我々は、心臓血管外科術後の筋力や歩行能力の低下について手術後の炎症性サイトカインなどの指標を用いてその関連性の報告を行ってきた。筋力低下の要因は術侵襲による炎症での代謝亢進とそれに伴う筋蛋白分解、脂肪分解の促進によるものや手術後の精神的影響など様々な要因が影響していると考えられる。
     今回、心臓血管外科術後の筋力低下と体成分分析による筋肉量の変化を明らかにすることを目的に周術期において体成分測定を行ったので、その結果を若干の考察を踏まえて報告する。
    【対象】 平成24年1月から5月までに待機的に心臓血管外科手術で開胸術を施行された症例のうち、手術前と手術後2週目に体成分分析の測定が行えた16名(男性13名・女性3名)、年齢68.0±8.3歳とした。
     主な疾患は狭心症10例、弁膜症4例、胸部大動脈瘤1例、心臓腫瘍1例であった。
    【説明と同意】 本研究にあたり、当院倫理委員会の了承を得た。また本研究への参加に際して事前に研究の趣旨、内容および評価結果の取り扱い等に関して説明し同意を得た。
    【方法】 体成分分析の測定にはBioelectrical Impedance Analysis法(INBODY3.0:Biospase社製)を用いた。測定、筋力の指標として握力を握力計(PRESTONE社製Jamar Hand Dynamometer)を用いた。それぞれ手術前・手術後2週目に測定した。
     統計学的処理には対応のあるT検定を用いて有意水準は5%未満とした。
    【結果】 手術前と手術後2週目において握力、体成分分析の各項目において有意に低下が認められた。(p<0.05)(手術前握力28.8±9.5㎏、体重61.8±12.5㎏、筋肉量43.4±8.3㎏、脂肪量18.7±5.6㎏、体内水分量31.8±6.0㎏、手術後2週目握力24.8±10.6㎏、体重59.0±12.7㎏、筋肉量41.2±8.4㎏、脂肪量17.7±5.4㎏体内水分量30.2±6.1㎏)
    【考察】 以前からの報告と同じく、今回の結果も手術前に比べ手術後の握力の低下が認められた。筋肉量の減少も認められたことから、筋肉量の減少は筋力低下の1つの要因として考えられる。
     さらに手術前に比べて手術後の体重、脂肪量も有意に減少していた。これらは手術侵襲による炎症で代謝が亢進しそれに伴う筋蛋白分解、脂肪分解の促進によるものと考える。
    【まとめ】 心臓血管外科術後には筋力低下が生じており、それと同時に体重、筋肉量、脂肪量も有意に減少していた。
     筋力低下の1つの要因として筋肉量の減少が考えられるが、筋力には筋肉量以外にも様々な要因が影響していると考えられるため、今回測定した筋肉量以外の要因も否定できない。そのため今後は他の指標も含めさらに検討していく必要がある。
  • 岩月 律道, 萩原 早保, 川村 皓生, 若山 浩子, 中 徹
    セッションID: O-57
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/01/10
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】 呼吸機能評価として、横隔膜移動距離の測定方法には超音波(以下、US)を使う2つの方法がある。1つは、Wellingtonらの直接的に右横隔膜の移動距離を測定する方法(以下、RD法)。もう1つは、Nairらの肝臓門脈左枝の移動距離から間接的に測定する方法(以下、PV法)である。しかし、これらの方法の比較や測定姿勢の違いによる再現性の報告は目下のところ無く、呼吸援助が様々な姿勢で行われる事を考えると検証が必要と考える。そこで今回我々は、2つの測定方法を複数の姿勢で比較検討し、方法と測定姿勢における再現性を明らかにする事を目的とした。
    【方法】 対象者は健常成人男性5名(27.4±4.5歳)。RD法ではM-modeを、PV法ではB-modeを用いて安静呼吸で測定した。測定姿勢は背臥位、右側臥位、左側臥位、端坐位で、測定開始前の約20秒の安静呼吸に続いた5呼吸の平均値を基礎データとした。測定は、同一検査者が同じ各測定方法で、全姿勢での測定を約14日の間隔を設け、計3回実施した。再現性の評価には級内相関係数(以下、ICC)を用いた。
    【結果】 RD法・PV法の順で各方法の再現性を姿勢別にICC(1, 3)で示すと、背臥位0.75・0.54、左側臥位0.76・0.75、右側臥位0.83・0.87、端坐位0.92・0.95となった。RD法・PV法間の再現性を姿勢別に1回・2回・3回(平均)を順にICC(1, 1)で示すと、背臥位0.97・0.76・0.98(0.90)、左側臥位0.44・0.61・0.97(0.67)、右側臥位0.82・0.66・0.97(0.82)、端座位0.81・0.79・0.85(0.82)となった。
    【考察】 RD法・PV法の各姿勢での再現性は、端座位・右側臥位は3回の測定の値と桑原の判定基準を参照すると「良好」から「優秀」となり、再現性が高く、測定回数は3回で十分な評価が可能と考える。左側臥位・背臥位の値は「要再考」から「普通」となり再現性がやや低く、これらの姿勢での評価は3回以上の測定が無難であると考える。姿勢により異なる再現性となった理由として、横隔膜と肝臓及び腹腔内臓器(以下、IAO)が受ける重力の影響が各姿位によって異なる為と考えられる。RD法・PV法間の各姿勢での再現性は、3回の測定の再現性の平均において背臥位・右側臥位・端座位で高く、「良好」から「優秀」と判定された。一方、左側臥位では「可能」と判定されたものの、比較的低い値となった。これらの事より、背臥位・右側臥位・端座位ではどちらの方法も測定は可能と考えられる。しかし、左側臥位では測定方法を統一する必要があると考えられた。
    【まとめ】 端座位と右側臥位ではいずれの方法であっても3回程度測定した平均値を採用できる。背臥位は2つの方法間の再現性は良いが、他の姿勢に比べると不安定であり3回以上測定した方が無難である。左側臥位はいずれの再現性も良くはないので3回以上測定をする必要がある。
  • 千田 亜香, 夏井 一生, 大曲 正樹, 山本 敦也, 高塚 俊行, 守川 恵助
    セッションID: O-58
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/01/10
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】 気管・気管支形成術を行った症例は、気道内の繊毛運動の障害から分泌物が貯留し、無気肺や閉塞性肺炎を来すリスクがある。今回、気管癌、食道浸潤に対し気管分岐部切除再建、胸部食道切除、胃管食道吻合を施行した症例において、気管支吻合部の保護、非術側肺の保護の2点に配慮した排痰法を実施したため報告する。
    【症例と経過】 症例は、気管癌、食道浸潤、右上葉浸潤、右肺門リンパ節転移の59歳、男性。気管背側、食道に隆起性病変指摘され、生検にて扁平上皮癌と診断が下り、化学療法2クール実施。術前評価から理学療法介入開始。気管分岐部切除再建、開腹胃管作成、胸部食道切除、胃管食道吻合、右肺上葉部分切除、右肺門縦隔リンパ節郭清を施行。術後、酸素化能の悪化のため人工呼吸器管理となった。術後1日目は循環動態が不安定で積極的な体位排痰法が実施困難であった。また吻合部保護のため吸引カテーテルの挿入を制限され、またPEEPも0㎝ H2Oで管理された。術後2日目に炎症反応が上昇、PaO2/FIO2(以下P/F比、酸素化能の指標)168、術後3日目にP/F比149まで低下。聴診上、両下葉から吸気と呼気で断続性ラ音聴取されるが、吸引カテーテルで吸引可能な範囲まで分泌物の移動が困難、画像上で右中下肺野に浸潤影を認めた。よって術後3日目から気管支鏡での吸引を医師により開始したが、十分な分泌物の除去には至らなかった。そのため術後4日目からは気管支鏡実施前に理学療法介入、体位排痰法を併用した。右側臥位に比べ左側臥位でP/F比がより良好であったが、左肺への分泌物の流入の防止のため、理学療法介入時を除いて背臥位から右側臥位での姿勢管理とし、また理学療法士が介入できない場合は看護師により体位排痰法が実施された。術後14日目に炎症反応の改善、P/F比213まで上昇、聴診上両下葉での断続性ラ音の改善、画像上の浸潤影の改善が認められ、気管支鏡での吸引を終了。術後15日目から人工呼吸管理下での離床、排痰とウィーニングを開始した。
    【考察】 経過より症例の問題点を、気管支吻合部の保護のため吸引カテーテルの挿入が制限されたこと、非術側肺の保護の必要性があったことの2点と捉えた。吻合部の保護については、右肺に貯留した分泌物を体位すなわち重力にて気管支鏡での吸引が可能な範囲まで移動させ、医師により可視下で除去をすすめた。非術側肺の保護について、右肺に貯留した分泌物が非術側肺へ流入することを防ぐため、背臥位から右側臥位での姿勢管理とした。これらにより、重篤な合併症を引き起こすことなく人工呼吸器からのウィーニングに繋げることができたと考えられる。
    【まとめ】 吻合部の保護のために実施した体位排痰法や、非術側肺の保護を目的とした姿勢管理を実施することにより、術後肺炎の改善、および人工呼吸器からの離脱が可能であった症例を経験した。術後、積極的な体位排痰法の実施は必要であるが、非術側肺の保護や循環動態への配慮といったリスク管理が必須である。医師や病棟と連携し一連の治療の中で、理学療法の介入が効果的なドレナージの一助となったと考える。
  • 石黒 博也, 太田 友幸, 江西 一成
    セッションID: O-59
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/01/10
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】 早期離床を図る中でADLに則した起立・歩行訓練が重要であり、抗重力位への姿勢変換が必須となる。抗重力位となると重力の影響により生体反応が生じ、また、運動負荷は重力負荷に加えて、いっそう複雑な循環調節が行われている。起立・歩行訓練は重力負荷と運動負荷が同時に加わっており、重力負荷時の運動が循環動態に与える影響を認識することは重要である。本研究で用いた下半身陰圧負荷(Lower Body Negative Pressure, 以下LBNP)装置は、実験姿勢に影響されずに水平臥位で重力負荷時の循環動態を観察できる方法であり、圧を調節することにより負荷を調節することができる。本研究では重力負荷時の下肢運動が循環動態に与える影響を明らかにすることを目的とした。
    【方法】 対象は健常男性10名、年齢21±1歳、身長172.8±5.4㎝、体重63.0±4.9㎏、測定項目は1分毎に一回拍出量(SV)、心拍数(HR)、心拍出量(CO)、血圧(MBP)とした。立位負荷に相当する陰圧負荷(-40㎜Hg)をLBNPで加えた群(LBNP群)、背臥位で下肢エルゴメータにより運動負荷(20W・60rpm)を加えた群(Exercise群)、LBNP条件で運動負荷を加えた群(Combination群)の3群において、負荷を各10分間加えた。検討項目はSV・HR・CO・MBPを安静に対する各種負荷後の変化量を各群内で比較した。また、SV・HR・CO・MBPの各種負荷後の値を3群間で比較した。統計処理はDunnett及びTukey HSDを用いて、危険率5%未満を有意とした。
    【結果】 LBNP群ではSV40%低下、HR29%上昇、CO17%低下とそれに続く圧受容器反射を認めた。Exercise群ではHR平均84bpm, MBPに有意な上昇はみられなかった。また、血流再配分により負荷初期にSV19%低下・HR29%有意な上昇を認め、その後SVでは有意差はみられなかった。Combination群では負荷前半にSV17%低下・HR46%上昇・CO22%上昇しておりLBNP群よりも有意に高値であった。負荷後半ではSV26%低下・HR52%上昇・CO13%上昇を認め、負荷前半と比較しSV低下・HR上昇した。
    【考察】 LBNP群において-40㎜Hgの陰圧負荷は立位と同等の循環応答が確認された。Exercise群において負荷初期では血液再配分の影響により活動筋への血流量が増大したためにSV低下、その後は活動筋血流が一定となり負荷初期に比べSV変化が小さかった。Combination群の負荷前半において陰圧負荷が加わり、腹腔及び下肢に貯留した血液を筋ポンプ作用によって静脈環流量を増加させた。筋ポンプ作用は立位での動的な活動において重要な機能を担っている。しかし、負荷後半では持続的な陰圧負荷により、筋ポンプ作用の効果を越えた影響が増大したことが考えられた。
    【まとめ】 今回、重力負荷における下肢動的運動が循環動態に与える影響を検討した。Combination群において負荷前半は筋ポンプ作用が効果的であったが、負荷後半は重力負荷の影響を認めた。重力負荷は大きな影響を及ぼすが、同時に下肢運動を行うことで筋ポンプ作用が効果的に働くと考えられる。以上より早期からADLに則した理学療法を行う場合においては、重力負荷のみを加えるのではなく下肢運動を伴った起立・歩行訓練を行うことが重要であることが確認された。
  • 藤川 諒也, 野口 雅弘
    セッションID: O-60
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/01/10
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】 喫煙は動脈硬化を亢進する危険因子として知られている。動脈硬化のイニシャルステップとして血管内皮機能障害による血管拡張・弛緩反応の低下が注目されている。喫煙による血管内皮機能障害に関する報告は多くあるが、若年喫煙者を対象とした報告は少ない。本研究は、若年男性における血管内皮機能に対する影響を明らかにすることを目的とした。
    【方法】 対象は健常な男子大学生27名(年齢20-21歳、喫煙者12名、非喫煙者15名)とした。全対象者には研究の趣旨、内容および調査結果の取り扱い等に関して書面並びに口頭で十分に説明し、同意を得た後に実施した。喫煙量を割り出す目安のBrinkmann指数は30.7±24.7(喫煙本数13.2±1.4本/日、喫煙期間2.2±1.4年)であった。血管内皮機能はEndo-PAT2000(Itamar Medical社)にて測定した。この機器は前腕の駆血後再灌流時における指先脈波の変動を専用指先プローブで検出しコンピュータ解析で反応性充血指数(Reactive Hyperemia Index:RHI)として定量化するシステムである。体重、BMI、体脂肪率、骨格筋率の測定には、体重体組成計HBF-362(オムロンヘルスケア株式会社)を用いた。身体活動量(PA)は、姿勢と強度から一日のPAを推定する肢位強度法(PIPA)を使用し、問診によって一日の行動記録を調査して算出した。統計学的検討は、各群のBMI、体脂肪率、骨格筋率、PIPA、RHI、体重1㎏当たりのPIPA(PIPA/体重)の2群間の差を対応のないt検定を用い、RHIと評価項目との関連性についてPearsonの相関係数を用いて評価した。なお、有意水準は5%とした。
    【結果】 喫煙群RHI1.7±0.4、BMI21.9±3.0、体脂肪率13.8±6.2%、骨格筋率36.5±2.2%、PIPA2186.4±640.5kcal、PIPA/体重32.7±8.8kcal/㎏。非喫煙群RHI2.1±0.4、BMI20.1±2.7、体脂肪率14.1±4.4%、骨格筋率36.6±2.0%、PIPA1854.1±285.4kcal、PIPA/体重31.6±3.7kcal/㎏であった。RHIは喫煙群が非喫煙群に比べ、有意に低値を示した(p<0.05)。RHIと評価項目における相関関係は認められなかった。
    【考察】 RHIは血管拡張能を反映し、正常値が1.67以上、異常値が1.67以下とされている。今回の調査では、両群ともに1.67以上だったが喫煙群のRHIが有意に低下しており、これは喫煙群が非喫煙群に比べ血管内皮機能の低下を示唆すると考えられる。中高年を対象とした先行研究より、喫煙がヒト血管内皮に与える影響としてNO合成酵素活性の減弱があると言われている。今回の結果より若年喫煙者においても同様にNO合成酵素活性の減弱が起きているのではないかと考える。
    【まとめ】 本研究の成果は、若年男性喫煙者においても血管内皮機能は低下していることが示唆されたことである。この成果より、若年かつ短期間の喫煙においても血管内皮細胞は障害されていることが示唆される。
  • 南端 翔多, 直江 祐樹, 山口 和輝, 谷 有紀子, 岡嶋 正幸, 野首 清矢, 坂本 妙子, 松原 孝夫(MD), 須藤 啓広(MD)
    セッションID: O-61
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/01/10
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    【目的】 高位脱臼股では脚短縮がみられ、人工股関節全置換術(THA)施行時、原臼蓋にカップが設置され、その結果脚長が延長される。脚延長により、中殿筋等の股関節周囲筋が伸張され、術後筋力の回復、可動域の改善が遅れ、歩行機能の低下を呈するため、理学療法に難渋する症例を経験することがある。今回、高位脱臼股に対して4㎝の脚延長を行なった右THAの1症例に対して、術前、術後の外転筋力、歩行機能を調査したため、若干の考察と共に報告する。
    【症例】 症例は高位脱臼股に対して後方アプローチによる右THAを施行した60歳代の女性である。術後は当院THAクリニカルパスに沿って理学療法を施行した。右THA施行により約4㎝脚長が延長された。右THA後は松葉杖歩行獲得し、22日目に転院となった。5カ月後にT字杖歩行獲得、独歩可能となった。症例には発表の主旨を説明し同意を得た。
    【方法】 右THAの術前、術後1, 4, 7, 14日目、退院時(21日目)、術後5カ月の股関節外転筋力、歩行様式を調査した。股関節外転筋力は、microFET2(HOGGAN社製)を使用し等尺性筋力を測定した。測定は3回行い、その平均値を測定値とし、回復率(術後測定値/術前測定値×100)を算出した。また筋力測定時の疼痛をvisual analogue scale(VAS)を用いて測定した。
    【結果】 右THA後の外転筋力回復率は、1日目12%、4日目36%、7日目36%、14日目99%、21日目117%、5カ月198%であった。VASは術前5㎜、術後1日目36㎜、4日目48㎜、7日目22㎜、14日目15㎜、退院時(21日目)8㎜、術後5カ月0㎜であった。歩行様式は、術前屋内は独歩、屋外長距離はT字杖使用、術後1, 4, 7, 14日目は歩行器、退院時(21日目)は松葉杖、術後5カ月はT字杖、独歩も100m程度可能であった。
    【考察】 当院MIS-THA後の股関節外転筋力回復率は7日目で114.3%、退院時(22.6日)には156.8%と第38回日本股関節学会にて報告した。本症例では当院の先行研究と比較すると筋力の回復が遅れる結果となった。三戸らは21㎜以上脚延長した群は、低い回復率を示したと報告しており本症例も、同様にTHA後の平均より低い回復率となった。術後股関節周囲筋が、伸張されたことにより疼痛が出現し、術後早期は筋力の発揮が不十分となったこと、また術前高位脱臼により股関節外転筋群が短縮位となり、筋萎縮を呈していたことが考えられる。その結果、股関節外転筋力が術前値より改善しても歩行時に骨盤を安定させることができず、松葉杖使用が必要な状態となった。術後5カ月には股関節外転筋力は、回復率が198%となり歩行時骨盤が安定し、独歩が可能となったが、股関節外転筋力が回復し骨盤が安定するには時間を要する結果となった。
    【まとめ】 高位脱臼股に対して脚延長を行ったTHAでは、股関節外転筋力、歩行機能の回復が遅れる傾向がみられた。外転筋力、歩行機能改善には、長期的な理学療法の介入が必要であるということが示唆された。
  • 今﨑 真衣
    セッションID: O-62
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/01/10
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    【目的】 松葉杖歩行時の荷重量に関して、床反力計を使用した研究は散見されるが自由歩行を測定した報告は少ない。自由歩行の場合、症例の主観的感覚や理学療法士の動作分析で荷重量を確認することとなり、実際の荷重量は確認出来ていない。そこで我々は、自由歩行時の松葉杖部分荷重歩行時における研究として、第21回石川県理学療法学術大会において松葉杖使用経験のない健常成人男性9名で下肢荷重量を測定した。結果、松葉杖使用経験のない健常成人男性において指定した荷重量を守り歩行することは困難であることが示唆された。そこで本研究では荷重方法を指定することで、荷重量を守りながら部分荷重歩行を行うための荷重方法を検討することを目的とした。
    【方法】 上下肢ともに整形疾患の既往がなく、松葉杖の使用経験のある健常成人12名を対象とした。実験前に当院倫理委員会の承認を得た後、被験者に実験内容を説明・同意を得てから行った。歩行は両松葉杖歩行とし、十分な部分荷重exを実施した直後に10m歩行を3回行い、測定時には指定した荷重量を守るよう指示した。指定荷重量は1/3PWBとし、荷重方法は前足部のみ接地する方法とした。荷重量の測定にはインソール型荷重計(株式会社エルク社Smart Step)を使用した。実験データとして10m歩行における時間、歩数、歩行率を測定した。また荷重量を体重比に換算して平均荷重量を算出し、超過率(測定した歩数に対する超過した歩数の割合)、平均超過荷重量(超過した歩数における平均荷重量)を算出し、指定荷重量との差を検討した。この他、10m歩行から得られた測定データ(以下、歩行関連データ)と荷重量から得られたデータ(以下、荷重関連データ)の関係を調べるため相関係数を算出した。
    【結果】 平均荷重量は38.78±13.14%BW、超過率は60.02±32.06%、平均超過荷重量は45.11±6.14%BWであった。また、平均荷重量と超過率に相関(r=0.90)が認められたが、歩行関連データと荷重関係データの間に相関は認められなかった。
    【考察】 松葉杖使用経験のある健常成人に対して松葉杖での部分荷重歩行時に荷重方法を測定したが、前足部のみ接地する荷重方法では超過率は60%以上、平均荷重量、平均超過荷重値は指定荷重量よりも大きい値を示した。前足部荷重では指定荷重量を守りながら歩行することは困難である可能性が考えられた。また、平均荷重量と超過率に相関が認められたが、歩行関連データと荷重関連データとの相関は認められず、歩行関連データが荷重量・超過率に増大に関連する因子とは考えにくいことが示唆された。
    【まとめ】 松葉杖使用経験のある健常成人において前足部接地による部分荷重では指定した荷重量を超過せずに歩行することは困難である可能性が示唆された。しかし本実験は前足部のみ接地する荷重方法の結果のみであり、他の荷重方法での測定結果を考慮し、松葉杖部分荷重歩行時の荷重方法を検討していくことが必要である。
  • 小野寺 基允, 浅井 友詞, 石井 康太, 中村 浩輔, 安田 裕規, 鵜飼 高史, 日高 三智, 水谷 武彦, 水谷 陽子, 今泉 司
    セッションID: O-63
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/01/10
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    【目的】 高齢者における大腿骨頸部骨折患者の手術後は、筋などの軟部組織への侵襲や退行性変化により股関節周囲筋の筋活動が低下し、動作時のバランス能力に障害がみられる。
     一般的に中殿筋の筋力増強訓練は、Open Kinetic Chainでの訓練に加え、荷重時に骨盤を安定させる筋として重要であることから、Closed Kinetic Chain(以下:CKC)での訓練を施行する必要がある。CKCでのトレーニングとして不安定板を用いているが、中殿筋への効果は不明瞭であり、中殿筋の動作時筋活動に対して検討されているものは少ない。
     本研究の目的は、CKCでの中殿筋の訓練方法として、荷重訓練時に不安定板(以下、Proprio foot)を用いて中殿筋へのアプローチを行い、訓練方法の有効性について筋電図学的に検討することである。
    【方法】 対象は健常男性19名(26.6±6.5歳)で、本研究の趣旨及び手順を説明し、同意を得た。荷重訓練は、メトロノームを用い、0.5Hzのリズムで3分間左右に荷重を繰り返し、同時に荷重量を確認するため、ヘルスメーターを使用した。さらに、軸足にはProprio footを置き、利き足はProprio footと同厚の板で下肢長に合わせ、足幅は身長の20%とした。筋電図は、表面筋電計(MegaWinME6000)を用い、電極は30㎜で、ディスポーザブル電極(L vitrode日本光電工業株式会社社製)を使用し、左右の大腿筋膜張筋・中殿筋・大腿二頭筋の筋活動を表面筋電図により検索した。電極の添付位置は、Perottoの方法に準じて、大腿筋膜張筋は大転子より2横指前方、中殿筋は腸骨稜の中点より25㎜ほど遠位、大腿二頭筋は腓骨頭と坐骨結節を結ぶ線の中点とし、電極間距離は30㎜とした。
     データ解析には、筋電図解析ソフトMegaWin software 700046を用いて積分値を算出し、3筋の積分値の合計より各筋の比率を表した。
    【結果】 荷重訓練中の中殿筋の筋活動を左右で比べた結果、Proprio foot使用側の中殿筋活動が高いものが6名(以下:H-P群)であり、Proprio foot使用側の方が中殿筋の筋活動が低いものが13名(以下:L-P群)であった。H-P群、L-P群ともにProprio foot使用側の荷重訓練時の筋活動の割合は、H-P群で大腿筋膜張筋34.5%、中殿筋36%、大腿二頭筋29.5%であり、L-P群で大腿筋膜張筋46.3%、中殿筋30%、大腿二頭筋23.8%であった。
    【考察】 H-P群とL-P群の比較において、大腿筋膜張筋の筋活動の割合がH-P群34.5%、L-P群46.3%となり、L-P群で高い傾向がみられた。これは、股関節の屈曲や骨盤の回旋による代償運動が起こり、大腿筋膜張筋が優位に働き中殿筋の活動が抑制されたことが考えられる。
     また、H-P群6名、L-P群13名とL-P群の方が多いことにより、Proprio footを用いた体重負荷トレーニング時には骨盤の回旋運動を誘発することが推測される。今後、Proprio footを用いたトレーニングでは、正しい動作が行えるよう筋の触診や運動指導により中殿筋の活動を促通する必要がある。
    【まとめ】 Proprio footを用いて中殿筋へのアプローチを行い、訓練方法の有効性について筋電図学的に検討した。結果、Proprio footを用いた荷重訓練において、目的とした中殿筋よりも大腿筋膜張筋の筋活動の割合が高かった。
  • 池谷 直美, 重森 健太, 金原 一宏, 西田 裕介
    セッションID: O-64
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/01/10
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    【目的】 高齢者では、加齢に伴い筋力や筋持久力が次第に低下し、転倒の危険性が高まるなど身体パフォーマンスを低下させる要因が増える。高齢者のレジスタンストレーニングでは身体的・精神的機能低下がみられやすく、安全性を優先し低負荷で行われやすいため、効率的ではない。このような背景から、近年注目されているトレーニングの一つに加圧トレーニングがある。加圧トレーニングは短い期間で効率よく筋力トレーニングできるというメリットがあるが、その筋力がバランス能力などのパフォーマンスにどのような影響を与えるのかは明らかでなく、臨床への応用は難しい。そこで今回、施設利用中の要介護高齢者を対象に一般的に臨床現場で使用されている自転車エルゴメータを用いて、加圧トレーニングを行い、バランス能力への影響を検討したので報告する。
    【方法】 対象は、介護老人保健施設通所リハビリテーションを利用中の高齢者13名(平均年齢78歳;65~90歳)である。対象者は、1:独歩可能な者、2:研究に対して理解可能な者、3:心疾患のない者を選定した。対象者の大腿基部に加圧を施行し、自転車エルゴメータを週1回以上(最高3回)、一日20分を4週間実施した。身体機能の評価として、大腿周径(膝蓋骨上縁より10㎝上)、下腿周径(最大部)、身体パフォーマンスの評価として、開眼片足立ち時間を測定した。統計には、介入前・後の比較に対応のあるt検定を用い、有意水準は危険率5%未満とした。対象者には本研究の内容を口頭ならびに書面にて十分に説明し、研究参加の同意を得て実施した。
    【結果】 大腿周径は、介入前37.48㎝介入後38.14㎝であり、有意差が認められた(p<0.05)。しかしながら、片脚立位(バランス能力)は、介入前3.36秒、介入後3.65秒であり、有意な向上は認められなかった。
    【考察】 大腿周径は4週間の短期間トレーニングで外側広筋に筋肥大が生じた。これは、先行研究の加圧トレーニングによる筋力増強効果と一致し、妥当な結果であった。今回、自転車エルゴメータを用いて加圧トレーニングを実施したが、筋肥大は認められても、身体パフォーマンスの指標である開眼片脚立位の向上は認められなかった。身体パフォーマンスについては、バランストレーニング導入や足部からの入力機能改善訓練が有効であると報告されている。つまり、身体パフォーマンスを向上させるには感覚入力やタイミングの取り方などの運動学習過程が重要であり、加圧トレーニングによる筋肥大だけでは限界があることが示唆された。
    【まとめ】 加圧トレーニングは効率的な筋力トレーニングではあるが身体パフォーマンスを高めるには、アプローチに工夫が必要であると考えられた。
  • 岡田 史郎, 井上 善也, 中屋 早規, 神谷 万波, 青木 健太
    セッションID: O-65
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/01/10
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    【目的】 近年、悪性骨腫瘍に対し患肢温存手術が積極的に行われ、より良い患肢機能が求められるようになった。今回、大腿骨遠位部と脛骨近位部に発生した悪性骨腫瘍に対し腫瘍広範切除術とHowmedica Modular Resection System(以下HMRS)人工膝関節を用いて患肢温存手術を行った症例の治療成績と課題を検討し報告する。
    【方法】 当院整形外科で1994年~2012年までに膝周囲に発生した悪性骨腫瘍に対し、HMRS人工膝関節置換術を施行した14例のうち、調査可能な11例(大腿骨遠位部8例、脛骨近位部3例)を対象とした。年齢は14~77歳、平均42.5歳。原疾患は骨肉種7例、転移性骨腫瘍3例、悪性線維性組織球腫術後の転倒破損による再置換1例。術後経過観察期間は3ヵ月~7年4ヵ月で平均2年3ヵ月である。診療録から膝関節可動域(以下膝ROM)、大腿四頭筋筋力、患肢機能評価、合併症、ADLについて調査検討した。患肢機能評価は1989年にMusculoskeletal Tumor Society/International Society of Limb Salvageにより作成された機能評価を日本整形外科学会が日本語案として示したものを用いた。
    【結果】 膝ROMは屈曲平均108度(60~130度)、伸展0度。大腿四頭筋筋力は徒手筋力検査で2~5、膝関節のextension lagを生じたのは3例で10~25度。機能評価は、疼痛89%、機能78%、支持性89%、歩行能力92%、歩容74%、全体85%。11例中10例が生存。合併症は、腓骨神経麻痺1例、感染疑い1例。ADLは、階段昇降を二足一段で行っている症例を6例認めた。
    【考察】 患肢機能評価は諸家の報告では70~80%が多く、今回85%とほぼ同等であった。最大膝伸展位での保持能力は比較的良好だったが、特に階段昇降が制限されている症例は、膝屈曲位での膝制御に課題を認めた。HMRS人工膝関節の構造上、膝屈曲時に回転軸の後方移動が生じないため、大腿四頭筋のレバーアームが正常膝関節に比べ短く筋力を発揮しにくい。大腿骨遠位部例は大腿四頭筋の一部が切除される。脛骨近位部例は膝蓋腱の再建をするため、膝蓋腱付着部が瘢痕化するまで大腿四頭筋の収縮や伸張に配慮が必要となる。また、解剖学的な膝蓋腱付着部より近位になり大腿四頭筋のレバーアームが短く筋力発揮には不利になる。従って膝伸展機能低下は必発する。侵襲筋の強化とClosed kinetic chain(以下CKC)で膝を制御する運動パターンの学習が重要となる。CKCでの下腿三頭筋の下腿前傾を制御する作用と、ハムストリングス・大殿筋の股関節伸展の作用により、代償での膝伸展運動が可能となる。体幹前傾角度の増加に伴い、ハムストリングスの活動が増加するため、体幹と股関節の屈曲角度を考慮する必要がある。また、症例によって補装具よる動作獲得も検討する必要がある。
     膝ROMは平均108度と良好だが、不良例は化学療法後の倦怠感から活動意欲が低下した。転移性骨腫瘍の症例は「痛み=転移の痛み」と心理的な抑制が働き難渋した。リハビリ中断は機能回復の悪化要因となったため、活動意欲を維持できるよう多角的なサポートが重要である。
    【まとめ】 患肢機能評価は85%で諸家と同等の結果だった。膝伸展機能低下による膝制御が課題で、侵襲筋の強化と新たな運動パターンの学習が重要である。
  • 太田 憲一郎, 中宿 伸哉, 野村 奈史, 宮ノ脇 翔
    セッションID: O-66
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/01/10
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    【目的】 Kager's fat pad(以下KFP)は踵骨、アキレス腱、長母指屈筋から構成されるKager's triangle(以下KT)内に存在する脂肪組織であり、関節運動や直接圧迫を加えることで形態が変化する。今回、足関節底背屈中間位において、脂肪体を左右両側より圧迫する(以下、ピンチ)操作時のKFP移動量を計測し、足関節最大背屈角度との関係を調べたので報告する。
    【方法】
    1) 対象
     足部に外傷既往のない健常成人10名20足(平均年齢26.1歳、男性8名、女性2名)を対象とした。
    2) 脂肪体移動量の測定
     被験者を腹臥位とし、膝伸展位、足関節底背屈中間位に固定した。プローベをアキレス腱直上にあて、外果より1横指遠位、アキレス腱より1横指前方を両側よりピンチ操作し、ピンチ操作前後の脂肪体の前後方向および尾側方向への移動量を超音波画像診断装置日立Medico社製Mylab25を用いて測定した。前後方向の移動量は、後果後縁からKFP後縁までの距離とした。尾側方向への移動量は、踵骨近位端からKFP遠位端までの距離とした。
    3) 統計処理
     足関節最大背屈角度とKFPの移動量との関係をPearsonの相関係数の検定を用いて検討した(危険率5%未満)。
    【結果】 背屈角度は10.1±6.2°であった。KFP移動量は前後方向12.0±10.0㎜、尾側方向17.0±10.0㎜であった。足関節最大背屈角度とKFP前後方向移動量との間には、強い正の相関が認められた(r=0.71)。足関節最大背屈角度とKFP尾側方向移動量との間には、中等度の正の相関が認められた(r=0.59)。
    【考察】 KFPは、関節運動に伴いその形状を変化させることで、組織間での滑走性の促進および摩擦の緩衝に作用している。KFPはその部位によりアキレス腱区域、長母趾屈筋区域、滑液包ウェッジの3区域に区別される。KFPの動態に関しては、滑液包ウェッジが底屈時にアキレス腱と踵骨間に入り込み、摩擦の緩衝および後踵骨滑液包の圧変化の調節を行うとされている。この動態は、ピンチ操作によっても同様に観察することができ、その移動量は足関節背屈角度との正の相関が認められた。これは、脂肪体自体の柔軟性及びアキレス腱の張力が影響することが考えられる。脂肪体は長期固定により萎縮、線維化が生じ、圧変化に対して形態変化ができなくなる。また、KTを構成するアキレス腱や長母趾屈筋の張力が強いと、KT内圧が上昇し、ピンチ操作時に加えた圧刺激に対する脂肪体の移動が制限されることが考えられる。脂肪体移動量の測定肢位を一定としたため、足関節最大背屈角度が小さいほどアキレス腱や長母趾屈筋の張力が増大し、KT内圧が高くなったと考えられる。
     今回は健常成人を対象としたため、KFP自体の萎縮、線維化ではなく、KTを構成するアキレス腱や長母趾屈筋の張力を反映したと考えた。今後の展望として、アキレス腱断裂や足関節周辺骨折例におけるKFPの動態との比較検討を行いたい。
ポスター
  • 蒲原 元, 金井 章, 今泉 史生, 木下 由紀子, 四ノ宮 祐介, 村澤 実香, 河合 理江子, 上原 卓也, 江崎 雅彰
    セッションID: P-01
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/01/10
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    【目的】 スポーツ疾患を有する者の動作訓練を行う際にフォワードランジ(以下、FL)を用いる事が多い。FLは、エクササイズとして下肢の筋力強化や協調性トレーニングとしても用いられており、代表的な代償動作としてKnee-inがある。Knee-inを呈する個体的要因は筋力、関節可動域、足部機能、関節不安定性、下肢スタティックアライメントなどが考えられる。今回はFLにおける下肢筋力とKnee-inの関係について検討する事を目的とした。
    【方法】 対象は、下肢運動機能に問題が無く、週1回以上レクリエーションレベル以上のスポーツを行っている健常者41名82肢(男性16名、女性25名、平均年齢17.7±3.2歳、平均身長162.6±8.3㎝、平均体重57.1±8.6㎏)とした。FLの計測は、踏み込み側の膝関節最大屈曲角度を90度とし、動作中の膝関節角度は電子角度計Data Link(バイオメトリクス社製)を用いて被験者にフィードバックした。規定方法として頚部・体幹は中間位、両手は腰部、歩隔は身長の1割、足部は第二中足骨と前額面が垂直となるように指示した。ステップ幅は棘果長とし、速度はメトロノームを用いて2秒で前進、2秒で後退、踏み出し時の接地は踵部からとした。各被検者は測定前に充分練習した後、計測対象下肢を前方に踏み出すFLを連続して15回行い、7・8・9・10・11回目の足関節最大背屈時を解析対象とした。動作の計測には、三次元動作解析装置VICON-MX(VICON MOTION SYSTEMS社製)を用い、関節角度を算出した。筋力は股関節屈曲、伸展、外転、内転、膝関節屈曲、伸展、足関節背屈、底屈の等尺性最大収縮を測定した。各種筋力は筋力計μtasMT-1(ANIMA社製)を用いて得られた値を体重で除して正規化した。Knee-inの定義として前方に踏み出した下肢の股関節内転と脛骨内側傾斜とし、それぞれの最大踏み込み時の角度と体重比筋力値をピアソンの相関係数を用いて解析した。
     本研究の実施にあたり被検者へは十分な説明をし、同意を得た上で行った。尚、本研究は、豊橋創造大学生命倫理委員会にて承認されている。
    【結果】 足関節背屈筋力が弱い程、股関節内転位(r=0.24・p<0.05)、脛骨が内側傾斜(r=0.38・p<0.001)していた。また、膝関節屈曲筋力が弱い程、脛骨が内側傾斜する傾向が見られた(r=0.27・p<0.05)がその他、相関は得られなかった。
    【考察】 本研究において足関節背屈筋力が弱いとFL時にKnee-inしやすいという傾向が得られた。先行研究よりFL時の足関節背屈筋力は踏み込み脚の踵接地前から接地直後で主に活動する為、その時期において背屈筋力の発揮が弱くなる事でKnee-inしやすくなる事が考えられる。膝関節や股関節の筋力においては膝関節屈曲を除いて相関が得られなかったことから、一般的に行われている股関節の外転、外旋、膝関節伸展の筋力トレーニングのみではなく足関節背屈の筋力トレーニングの必要性が示唆された。
    【まとめ】 FLにおける代償動作のKnee-inを防止するための一般的に行われている股関節周囲及び膝関節の筋力トレーニング以外に足関節背屈筋力のトレーニングの必要性を示唆している。
  • 上原 卓也
    セッションID: P-02
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/01/10
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    【目的】 スポーツ場面において前十字靭帯損傷の受傷機転として、Knee-inが要因として報告されている研究が多く認められているが、身体重心(以下、COG)の変化がKnee-inに及ぼす影響を検討した報告は少ない。臨床においてフォワードランジ(以下、FL)がKnee-inの評価として用いられることがある。そこで、本研究の目的として、FL中のCOGとKnee-inがどのように関係しているかを検討することとした。
    【方法】 対象は、下肢運動機能に問題が無く、週1回以上レクリエーションレベル以上のスポーツを行っている健常者41名76肢(男性16名、女性25名、平均年齢17.7±3.2歳、平均身長162.6±8.3㎝、平均体重57.1±8.6㎏)とした。FLの計測は、踏み込み側の膝関節最大屈曲角度は90度とし、動作中の膝関節角度を電子角度計Data Link(バイオメトリクス社製)を用いて被験者にフィードバックした。頚部・体幹は中間位、両手は腰部、歩隔は身長の1割、足部は第二中足骨と前額面が垂直となるように指示した。ステップ幅は棘果長とし、速度はメトロノームを用いて2秒で前進、2秒で後退、踏み出し時の接地は踵部からとした。各被検者は測定前に充分練習した後、計測対象下肢を前方に踏み出すFLを連続して15回行い、7・8・9・10・11・12・13回目の膝関節最大屈曲時を解析対象とした。動作の計測には、三次元動作解析装置VICON-MX(VICON MOTION SYSTEMS社製)および床反力計OR6-7(AMTI社製)を用い、関節角度、関節モーメントを算出した。そして、最大膝関節屈曲時の歩隔・歩幅・身長に対するCOGの位置を求め、また、膝関節位置を膝関節中心位置と足関節中心位置から膝関節中心位置が足関節中心位置よりも内側にあるものをKnee in(41肢)、外側にあるものをknee-out(35肢)と定義し、各対象者間で算出された関節角度、関節モーメント、COG、Knee-in、についてピアソンの相関係数を用い比較検討した。
    【結果】 ピアソンの相関係数より、knee-inと膝関節外旋角度(r=0.26, p<0.05)・膝関節外旋モーメント(r=0.56, p<0.01)・矢状面上のCOGの前方移動(r=0.24, p<0.05)・膝関節屈曲モーメント(r=0.32, p<0.01)・体重比床反力(r=0.39, p<0.01)、胸郭前傾角度と体重比床反力(r=0.44, p<0.01)、胸郭前傾角度と矢状面上のCOGの前方移動(r=0.51, p<0.01)には正の相関が認められた。
    【考察】 Knee-inの増加が認められた要因として、胸郭前傾に伴いCOGが前方移動することで、体重比床反力が増加し、膝関節屈曲モーメントが増加したことが考えられた。その結果、大腿四頭筋では対応することが困難となり、その補助として鵞足筋群が活動しやすくするために、Knee-inが増加したと考えられた。
    【まとめ】 FLにおいて、胸郭前傾に伴いCOGが前方移動することによりKnee-inを生じやすいことが考えられた。
  • 熊谷 祐樹, 中村 剛志
    セッションID: P-03
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/01/10
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    【目的】 著者は、平成23年10月より某市立高校男子サッカー部(以下サッカー部)のトレーナー活動を継続して行う機会を得た。今回、平成24年4月より始まる高校総体地区大会に向けて選手個々の情報収集とスポーツ傷害の実状を把握し、今後のトレーナー活動に役立てる目的にて事前調査を行なったので結果を報告する。
    【方法】 対象は、サッカー部2年生および3年生全員(計43名)である。調査方法は、理学療法士2名で形式的面接法にて直接選手から聴き取り調査を行なった。調査期間は、平成24年3月末日から4月末日である。指導者および各選手に対して本調査の趣旨を説明し、同意を得た。
    【結果】 調査した時点で、現病歴を有する選手は38名(88%)であった。傷害部位件数(複数回答可)は、頭頸部1件(1%)、上肢5件(7%)、腰部11件(16%)、下肢54件(76%)であった。受傷時の状況は、サッカーの練習・試合中は23件(60%)、学校生活は1件(3%)、日常生活(以下ADL)は1件(3%)、特別な誘引なしは13件(34%)であった。その中で、何らかの通院治療を受けている選手は9名(24%)であった。現病歴を有する選手の中で、サッカーのプレイ中に限らずADLにおいても症状を呈している選手が13名(34%)であった。その傷害部位の割合は、足関節5名(39%)、足部3名(23%)、腰部2名(15%)、その他3名(23%)であった。足関節の傷害の中でも3名(66%)が捻挫であり、うち2名が小学生から抱えているスポーツ傷害であった。
    【考察】 サッカー関連のスポーツ傷害における諸家の報告同様、今回の調査結果においても下肢のスポーツ傷害が多い結果であった。現在何らかの現病歴を有する選手は約9割と多いにも関わらず、通院治療を受けている選手は約2割と少ない。サッカーのプレイ中に限らずADLにおいても症状を呈している選手が約3割おり、これらの選手達は重症度が高いと推察される。また、何らかの現病歴を有しているのにも関わらず通院治療を受けない理由は、高校体育連盟主催の大会のみならず、日本サッカー協会主催のリーグ戦による連戦や多忙な練習日程などから通院時間が確保できなかったり、個々にて傷害状況を判断していることが考えられる。まずは地区大会に向けて重症度の高い選手のより詳細な病態の把握と評価、合わせて十分なケアが必要であり、その他の選手においても傷害の悪化や再発予防をふまえ個別的な指導を行なっていく必要があると考える。また4月より1年生も新たに加わったため、2・3年生と同様に個々の状況把握を行ない各選手が試合において最適なパフォーマンスを発揮出来るようサポートしていきたい。
    【まとめ】 サッカー部部員全員(計43名)に対してスポーツ傷害の状況把握を行なった。スポーツ傷害の現病歴を有する選手達は約9割で、その多くの傷害部位は下肢に多かった。今後もトレーナー活動を通じ、引き続き選手個々におけるスポーツ傷害の予防に努めていきたいと考える。
  • 榎木 優太, 清水 新悟, 山崎 正俊, 前田 健博, 花村 浩克, 工藤 慎太郎
    セッションID: P-04
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/01/10
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    【目的】 臨床現場において足底挿板療法は様々なスポーツ競技者に適応があることが報告されている。しかし、自転車競技における足底挿板療法についての報告は散見されないのが現状である。今回、我々は自転車競技をしている1症例に対して足底挿板療法を行い、競技復帰し、良好な結果を得たので報告する。
    【方法】 症例:27歳、男性、身長176㎝、体重74.1㎏。診断名:両側膝内障。現病歴:平成23年に自転車の競技大会に出場したが、40分間走行したところで両膝後面の疼痛により途中リタイヤをした。初診時評価:関節可動域は、膝関節に制限を認めず、膝伸展位での足関節背屈は、右5°、左10°であった。Q-angleが右15°、左12°、アーチ高率(舟状骨高÷足長×100)が右14.3%、左13.3%、開張率(足幅÷足長×100)が右40.8%、左40.3%であった。両側の縫工筋と半腱様筋に伸張痛が出現した。エルゴメーターでの自転車走行動作を観察するとKnee outからKnee inによる踏み込み動作が見られた。この踏み込み時に両膝関節の内側に疼痛が出現した。足底挿板の有無による最大脚力と疼痛の変化をStrengthErgo(三菱社製)にて評価した。疼痛の評価方法としてNumerical Rating Scale(NRS)を用いた。測定回数は足底挿板未装着と装着を交互に2回実施した。足底挿板のパットは内側縦アーチの前方部と横アーチの中足骨頭部に装着した。
    【説明と同意】 本報告を行う主旨を対象者に口頭にて十分に説明し、同意を得た。
    【結果】 StrengthErgoより得られた出力(最大脚力)とNRSの数値の平均を示す。足底挿板装着前が右下肢158.1Nm(以下単位省略)、NRS:3、左下肢167.1, NRS:2、装着後が右下肢171.5, NRS:0、左下肢175.2, NRS:0と改善した。3ヶ月後は装着前が右下肢179.6, NRS:0、左下肢177.9, NRS:0、装着後が右下肢190.7, NRS:0、左下肢189.3, NRS:0となり、装着前においても症状の改善がみられた。エルゴメーターでの自転車走行動作を観察するとKnee in傾向は改善されていた。平成24年5月中旬に開催された3時間の耐久レース(総走行距離122㎞)では疼痛が出現することなく完走することができた。
    【考察】 今回作成した足底挿板装着により出力の向上と疼痛の改善が即時みられた。これは膝関節内側部にかかるメカニカルストレスが減少し、自転車の踏み込み動作を行っても疼痛が出現しなかったと考える。自転車と足底部の接地面はペダル上のみであり、通常の足底挿板とは条件が異なっている。そこで我々はペダルに載る前足部に着目し、パットを装着した。これにより前足部の剛性が高まり、荷重応力が効率的に伝達することで出力の向上と各関節にかかるストレスが軽減すると考えられる。課題点としては、評価で用いたStrength Ergoやエルゴメーターは競技用自転車と姿勢が異なり、動作の再現性の問題点があげられた。
    【まとめ】 今回、本症例に対して実施した足底挿板にて疼痛が減少したことから、臨床の現場において問題と考えられる筋群へのストレッチのみならず、前足部に着目した足底挿板療法を併せて実施することで疼痛緩和を促進されることが示唆された。
  • 上野 弘樹, 後藤 伸介, 木下 潤子, 岡本 江美, 中村 立一
    セッションID: P-05
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/01/10
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    【目的】 膝前十字靭帯(以下ACL)再建術後の機能的指標として筋力が用いられることが多く、特に膝関節(以下膝)伸展筋力の回復はスポーツ復帰を左右する重要な要因であると報告されている。また、スポーツ復帰時期の目標をACL再建術後6ヶ月(以下術後)と設定した文献が散見されるが、その時点でも十分な膝伸展筋力の回復に至らない症例もいる。そこで本研究では、術後での等速性膝伸展筋力に影響を与える術前因子を調べ、早期回復のための要因について検討する。
    【方法】 対象はACL断裂の初回受傷例で、当院にて平成22年2月から平成23年12月の間に半腱様筋腱または半腱様筋腱及び薄筋腱を用いたACL再建術を施行した症例とした。その中から両側損傷例や複合靭帯損傷例を除外し、術前及び術後での等速性膝屈曲・伸展筋力の測定が可能だった22例について分析した。平均年齢は32.4±13.5歳で、性別は男性6例、女性16例であった。本研究はRetrospective studyとし、カルテより次の項目の数値を情報収集した。その項目は、術前の身長、体重、疼痛(Face Rating Scale)、患側の膝屈曲・伸展可動域(自動・他動)、患健側の等速性膝屈曲・伸展筋力(角速度60deg/secでのピーク値)、JOAスコア、術前理学療法実施単位数(1単位20分間、術前2週間以前)とし、筋力は膝伸展筋力を体重比(単位:N/㎏)として表すと共に、膝屈曲・伸展筋力の患健比(単位:%)も算出した。また、術後における同様の筋力測定値も収集した。筋力は川崎重工業社製マイオレットRZ-450を用いて測定した。次に、術後の患側膝伸展筋力を従属変数とし、前述の術前での各数値を独立変数として、ステップワイズ重回帰分析を行った。有意水準は5%未満とした。
    【結果】 術後の患側膝伸展筋力に関係する変数として、術前の患側膝伸展筋力、年齢、術前の膝屈曲筋力患健比、術前理学療法実施単位数が抽出され、その回帰式は次の通りであった。
     術後の患側膝伸展筋力=術前の患側膝伸展筋力×0.261-年齢×0.082+術前の膝屈曲筋力患健比×0.036+術前理学療法実施単位数×0.273+6.077(自由度修正済決定係数R2=0.501、p<0.01)
    【考察】 ACL再建術後の筋力回復に影響を与える因子として、術前筋力・競技レベル・性別などが報告されている。本研究でも術後の患側膝伸展筋力に術前筋力が関係していることが示唆され、同様な結果となった。また、術後の患側膝伸展筋力に術前理学療法実施単位数や年齢が影響していたが、前者に関しては術前理学療法により受傷後の身体機能をより適切に保ちやすく、早期から運動負荷を高めていくことができたことによるものと考える。よって、術前に十分な理学療法が実施されることは、術後筋力の早期回復のために重要だと推察された。また後者に関しては、加齢により筋量や筋力増強効果が低下すると言われており、そのため年齢が術後筋力に影響していたと考える。従って、年齢に応じて術後運動負荷量やスポーツ復帰時期を調整していく必要性があると示唆された。
    【まとめ】 ACL再建術後筋力には、その術前筋力以外に術前理学療法実施単位数や年齢も影響を与えている可能性がある。
  • 清水 俊介, 水谷 仁一, 竹中 裕人, 鈴木 達也, 実岡 和紀, 徳田 康彦, 筒井 求, 伊藤 岳史, 安原 徳政, 岩堀 裕介
    セッションID: P-06
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/01/10
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    【目的】 近年野球チームに対するメディカルチェック(MC)に超音波エコー(US)が用いられた報告が散見される。少年期の投球障害は、成人と異なり骨軟骨の障害がほとんどで、特に肘関節の外側に発生する上腕骨離断性骨軟骨炎(OCD)は、発見が遅れると重篤な障害となりやすい。また、発症初期は無症状でUSが有用であるといわれている。
     今回、我々は少年野球チームに対してUSを取り入れたMCを行ったので報告する。
    【対象】 対象は2012年春にMCを行った地域軟式少年野球チーム2球団に所属する57名である。内訳は、小学1年生3名、2年生3名、3年生8名、4年生10名、5年生18名、6年生15名。ポジションは、捕手2名、内野手5名、外野手7名、複数ポジション27名、未定1名であった。
    【方法】 投球時痛の有無と理学的所見、USを確認した。肘関節の理学的所見としては疼痛誘発テストおよび圧痛を確認した。疼痛誘発テストが外反ストレステスト(肘関節屈曲30°、60°、90°)、milking testを次に圧痛部位として、上腕骨内側上顆・上腕骨小頭・肘部管・MCL・腕頭関節・肘頭・肘頭窩を確認した。肘関節US撮影は、上腕骨内側上顆・上腕骨小頭部を対象とし、上腕骨内側上顆は肘関節90°屈曲位で、上腕骨小頭部は肘関節完全伸展位と最大屈曲位の肢位で短軸像と長軸像をそれぞれ両側撮影した。なお各検査はすべて同一検者が行い、理学的所見は医師が行い、US撮影は理学療法士が行ったものを医師が読映した。MCを一次検診とし、MCで陽性所見ありと判断した選手は二次検診として医療機関での受診を促した。
    【結果】 投球時痛を訴えた選手が3名(肘関節)であった。理学的所見が陽性であった選手は、外反ストレステスト30°が4名、60°が4名、90°が5名、milking testが5名であった。圧痛は、上腕骨内側上顆7名、上腕骨小頭5名、MCL1名、腕頭関節2名、肘頭1名であった。
     USでの陽性所見より、上腕骨小頭部OCD1名、上腕骨内側上顆下端裂離1名を認め、この2名は二次検診のX線所見においても同様の障害が確認された。
    【考察】 今回USをMCに取り入れた事により、OCD1名と上腕骨内側上顆下端裂離1名をMCで診断することができた。このうち、上腕骨内側上顆下端裂離を認めた選手は、投球時痛、理学的所見すべてにおいて同部位に症状を認め、理学所見と病態が一致していた。しかし、OCDを認めた選手は投球時痛、理学的所見はなく、投球時の違和感が時々出現する程度の症状であった。この事から、USは理学的所見や圧痛などで確認できない程度の病態確認に有用であることが示唆された。
  • 松本 光司, 佐久間 雅久, 島田 隆明
    セッションID: P-07
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/01/10
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】 我々は高校野球三重県大会においてメディカルサポートを実施しているが、その対象は一部の選手に限られる為、選手の状況を把握する為に、アンケート調査を実施し、選手の障害予防への介入方法の検討を行った。
    【対象】 三重県高校野球連盟に加盟の南勢地区を中心とする13校の硬式野球部の選手300名。
    【方法】 我々が各高校を訪問し、調査の目的、記入方法を説明し、現地にてアンケート用紙を回収した。アンケートは無記名の質問方式にて、(1)基本情報(学年、身長、体重、ポジション、野球歴、他スポーツ歴)、(2)理学療法士(以下:PT)の認知度、PTとの関わり、(3)障害(現在、過去の怪我・疼痛の有無、怪我をして受診する施設)、(4)生活習慣(練習時間、睡眠時間、ストレッチング(以下:STG)、食事・水分摂取)について調査した。また、怪我・疼痛とSTGの関係性について多変量解析(主成分分析)を用いて検討を試みた。
    【結果】 (1)基本情報 1)学年:1年生141名、2年生159名。2)ポジション:投手60名、捕手26名、内野手121名、外野手93名。3)野球歴:小学校から265名、中学校から35名。4)野球以外のスポーツ歴:ない138名、ある162名。
    (2)PTの認知度およびPTとの関わり PTの知名度に関して、知る選手163名、知らない選手137名。PTと関わった事がある選手60名であった。また、PTの治療・指導に興味がある選手は182名であった。
    (3)障害 怪我の既往歴がある選手は221名であり、野球肘83名、骨折72名、肉離れ50名、野球肩42名、腰痛19名、疲労骨折14名、腰椎分離症12名、捻挫10名、半月板損傷9名、腰椎ヘルニア9名、靱帯損傷8名、オスグッド4名、シンスプリント2名であった。
     現在怪我をしている選手は56名であり、野球肘15名、野球肩7名、腰椎ヘルニア・捻挫・腰椎分離症・膝痛が各4名、肉離れ3名、疲労骨折・腰痛が各2名であった。現在疼痛がある選手は165名、その内訳は腰痛61名、肘痛58名、肩痛51名、足部痛30名、手首痛16名他となった。そして、93名(56.4%)は痛みについて監督・コーチは把握していない結果となった。怪我・痛みに対して受診する施設は整骨院・整体師・鍼灸師が230名、病院が116名、PTによる治療が27名という結果であった。
     障害とSTGの関係について主成分分析の解析結果は、怪我によって、STGに関する認識や、実施時間が増える傾向であった。
    (4)生活習慣 1)平均睡眠時間:5~6時間192名、7時間以上102名、3~4時間6名。2)部活動以外でのSTG実施状況:毎日実施115名、全くしない90名、週2・3日61名、週4日以上34名。3)STG実施時間:5~10分89名、10~15分57名、5分以内43名、15分以上21名。4)食事の摂取状況:主に朝食を食べない選手が多かった。5)水分摂取状況:練習中と試合中で違いがあり、試合中はスポーツドリンクを摂取している選手が多かったが、摂取量に気を付ける選手の割合は低かった。
    【まとめ】 今回、野球選手の障害状況と生活習慣の実態が明らかとなった。
     結果から、大会期間中だけでなく、三重県高校野球連盟と緻密な連携を図り、定期的なメディカルチェックやSTG講習会を実施し、選手個人の状態が把握できるような支援体制の構築が必要だと考える。
  • 橋本 成彬, 武村 啓住, 中藤 真一
    セッションID: P-08
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/01/10
    会議録・要旨集 フリー
    【はじめに】 交通外傷による鎖骨骨幹部骨折の患者を担当した。鎖骨骨折の他に多発肋骨骨折・肺挫傷を伴い呼吸状態が不安定であった。このため手術・理学療法介入が遅延した。受傷から約2カ月後に理学療法開始となったが、左肩関節に著明な可動域(以下ROM)制限がみられた。約4カ月間の理学療法により、若干の左右差は残存したが左肩ROMに改善がみられたため報告する。尚、発表にあたり本人から文書にて同意を得ている。
     【症例紹介(手術日をX日として表記)】 29歳 男性。X日-29日にバイクで帰宅中に乗用車と衝突し左鎖骨骨折、多発肋骨骨折、肺挫傷を受傷した。骨折はAllman分類グループ1・サブグルーブC, Robinson分類2Bであった。X日-27日に呼吸状態悪化し人工呼吸器管理となった。X日-25日に呼吸状態改善がみられずA病院転送となった。X日-9日に人工呼吸器離脱。X日に鎖骨骨幹部プレート固定術が施行された。骨折部は偽関節となっており肉芽組織を切除しプレート固定を実施した。骨折部の不安定性のため左上肢は下垂・内旋位でバストバンドと三角巾にて約4週間固定された。X日+11日に当院転院。X日+29日より外来にて左肩関節に対する理学療法開始となった。
     【初期評価及び経過】 X日+29日、ROM:左肩関節屈曲45°外転0°。左肩関節周囲筋の広範囲に圧痛が存在した。X日+35日、ROM:左肩関節屈曲90°外転45°外旋10°(1st)となった。X日+75日、ROM:左肩関節屈曲140°外転90°外旋10°(1st)外旋30°内旋30°(2nd)となった。内・外旋ROMより関節包由来と考えられるROM制限を呈しており、左上肢挙上の際にも肩甲骨上方回旋での代償がみられた。X日+106日、左肩甲上腕関節に対して離開の方向にモビライゼーションを行ったところ関節の遊びに改善があり、左肩外旋ROMも55°(2nd)に改善した。この日以降は烏口上腕靱帯・関節包に対してアプローチを行うことで内・外旋のROMが改善した。X日+162日、ROM:左肩関節屈曲175°外旋50°(1st)外旋85°内旋60°(2nd)となり、ROMに左右差はあったものの長期の外来通院で仕事に支障が生じていたこと、ADL上問題がなかったことから理学療法終了となった。
    【考察】 本症例は術後約1カ月間左上肢下垂・内旋位で固定された。下垂・内旋位では屈曲・外転の制限因子となる関節包下部と外旋の制限因子となる烏口上腕靱帯・関節包前部が短縮する。この肢位での不動により関節包に癒着が生じたと考える。まず関節包の癒着に対してモビライゼーションを行うことで関節の遊びに改善がみられた。関節の遊びを獲得したことで烏口上腕靱帯・関節包に対するストレッチに効果がみられ内外旋ROMが改善した。鎖骨骨折後の理学療法では拘縮予防のため早期から肩甲骨を固定しての肩甲上腕関節に対するROM訓練を行うことが重要であるが、本症例のように介入が遅れる場合は固定肢位よりROMの制限因子を予め予測して介入することが重要と考える。
  • 岡嶋 雅史, 常富 宏哉, 内藤 光祐
    セッションID: P-09
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/01/10
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    【目的】 サンディング動作は主に上肢の筋力強化や関節可動域改善を目的に使用されているが、動作時の肩関節周囲筋の筋活動についての報告は少ない。そこで今回は肩の屈曲角度を規定してサンディング動作を行い、角度の違いが肩関節周囲筋に及ぼす影響を筋電図学的に分析することを目的とした。
    【方法】 対象は健常男性8名(平均年齢28.6±5.3歳)、測定筋は右の三角筋前部(AD)、上腕二頭筋長頭(BL)、上腕三頭筋長頭(TL)、棘下筋(IS)、前鋸筋(SA)の5筋とし、Noraxon社製筋電計TelemyoG2を用い、表面筋電図をサンプリング周波数1500Hzで記録した。測定肢位は椅子座位とし、テーブル高を上肢下垂位、肘屈曲90度での肘下端の高さとした。測定はテーブル傾斜角度0度、30度、肩屈曲角度60度、90度、120度の6条件とし、床にワイヤーで固定したハンドルを最大努力で、サンディング動作を行うように前方に進めるよう指示し、5秒間の等尺性収縮を行った。得られたデータは全波整流したのち中間3秒間の平均振幅を求め、MMTの肢位での最大等尺性収縮時の筋活動で正規化(%MVC)し、全対象者の平均値を平均%MVCとした。また、ハンドルとワイヤー間に同社製フォースセンサーEM-554を設置し、筋電図に同期して最大張力を測定した。統計学的処理はSPSS-Statistics18を用い、反復測定による一元配置分散分析及びTukeyの多重比較を行い、有意水準を5%未満とした。尚、対象者全員に本研究の目的と方法を説明し、同意を得た。
    【結果】 各測定筋の平均%MVCは、テーブル傾斜0度では肩屈曲角度間に有意差はなかった。テーブル傾斜30度ではSAを除いた4筋において肩屈曲60度と120度間に有意差を認めた(肩屈曲60度→120度の順に、AD:94.9→40.9%、BL:50.1→27.2%、TL:24.3→50.9%、IS:32.4→66.4%)。テーブル傾斜0度、30度ともに肩屈曲60度ではAD、SAの順に、肩屈曲120度ではSA、ISの順に平均%MVCが高く、いずれも50%以上を示した。また、肩屈曲角度の増加に伴い平均%MVCが減少する筋群(AD、BL)と、増加する筋群(SA、IS、TL)に分かれ、テーブル傾斜30度の方がその傾向が強かった。平均最大張力はテーブル傾斜0度における肩屈曲60度と90度間のみ有意差を生じ、その他の条件間では差はなかった。
    【考察】 サンディング動作は、肩屈曲60度では主にADによる肩屈曲とSAによる肩甲骨外転が、肩屈曲120度ではSAによる肩甲骨外転とTLによる肘伸展作用がハンドルを前方に推進する力源となっている事が考えられる。平均最大張力は肩屈曲60度と120度間に有意差はないため、肩屈曲120度ではADとBLの筋活動減少を代替してSA、TLの筋活動が増加し、加えてISによる関節窩への上腕骨頭引きつけ作用が増加し、肩屈曲をサポートしていることが推察された。また、テーブル傾斜角度を上げ抗重力位に近づける程、肩の屈曲角度間における筋活動の変化が大きくなることが示唆された。
    【まとめ】 サンディング動作は、肩屈曲60度ではAD、SAが、120度ではSA、IS、TLの筋活動が高く、肩の屈曲角度により力源となる筋が変化することが推察された。また、抗重力位で行う程その筋活動変化が大きくなることが示唆された。
  • 久保 憂弥, 伊藤 直之, 大谷 浩樹, 川端 克明, 尾島 朋宏
    セッションID: P-10
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/01/10
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】 人工膝関節置換術(以下、TKA)後に創部のケロイド形成や皮下の瘢痕による関節可動域制限を認める症例を経験する。我々は第47回日本理学療法学術学会にて、TKA後1ヶ月の時点では創部周囲の伸張性が低下し、膝前面の皮下の滑走性が低下していると報告した。今回TKA後1年でそれらが改善するか否かを検討した。
    【方法】 対象は、変形性膝関節症を有しTKAを施行した女性14名15膝である。術式は膝蓋骨下縁での横皮切、Medial Parapatellar法である。測定はメタルボールを膝蓋骨中央(Patellar Center:以下PC)、PC遠位3㎝、PC近位3・6・9㎝の5か所に貼付した。術前、術後1ヶ月、1年に膝伸展位と100°屈曲位(以下、屈曲位)の側面像を放射線技師が撮影した。各メタルボール間4か所の距離を測定し、屈曲位から伸展位での距離を減じた値を伸張距離とした。各メタルボールから筋表面に対し垂線を引き、その交点から膝蓋骨上縁の距離を測定し、屈曲位から伸展位での距離を減じた値を滑走距離とした。伸張距離と滑走距離を術前後で比較し、統計処理は一元配置分散分析及びTukey法を用い、危険率5%未満を統計学的有意とした。対象者にはX線画像撮影に関して主治医が同意を得ており、本研究に関して検者が口頭にて説明し同意を得た。
    【結果】 各測定部位の伸張距離と滑走距離を、術前・術後1ヶ月・1年の順に示す。伸張距離は、PC遠位3㎝とPC間(0.81, 0.56, 0.79㎝)、PCとPC近位3㎝間(1.07, 1.01, 1.05㎝)、PC近位3~6㎝間(1.37, 1.38, 1.71㎝)、PC近位6~9㎝間(0.97, 1.03, 1.10㎝)であった。PC遠位3㎝とPC間は、術前と比べ術後1ヶ月で有意に低下したが(p<0.05)、術後1年に有意な改善には至らなかった。滑走距離は、PC遠位3㎝(0.83, 0.16, 0.47㎝)、PC(1.63, 0.64, 1.25㎝)、PC近位3㎝(2.4, 1.46, 2.07㎝)、PC近位6㎝(3.54, 2.61, 3.51㎝)、PC近位9㎝(4.45, 3.56, 4.55㎝)であった。PC遠位3㎝は、術前と比べ術後1ヶ月と1年で有意に低下した(p<0.05)。その他の部位で、術前と比べ術後1ヶ月で有意に低下し、術後1ヶ月と比べ1年で有意に改善した(p<0.05)。
    【考察】 創部周囲の伸張性と滑走性は術後1ヶ月に低下し、1年後に改善傾向を認めるが術前状態まで至らなかった。一方で、創部より近位部の伸張性は術後経過に伴い増加したことから、創部の伸張性低下を代償したと考える。また、創部より近位部の滑走性は術後1ヶ月に低下し、1年後に術前状態まで改善した。皮下剥離によると思われる皮下組織の瘢痕形成のため一旦低下するが、退院後の生活で反復される膝関節運動により術後1年で改善したと考える。
    【まとめ】 創部の伸張性や滑走性低下は、術後1年に術前状態まで改善しないため、皮膚に由来する関節可動域制限を考慮した理学療法が必要と考える。
  • 法山 徹, 勝木 道夫, 後藤 伸介, 中村 立一
    セッションID: P-11
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/01/10
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    【目的】 超音波治療(US)は、局所へ理学療法(PT)の一手段として用いられ、その生理学的効果としては、コラーゲン組織の伸張性増大や疼痛の軽減等が報告されている。しかし、臨床においては関節可動域(ROM)制限に遭遇する頻度は比較的多いものの、USがその改善に寄与したとする報告は少ない。そこで、本研究では腱板断裂術後患者に対するUSがROM改善に及ぼす効果を検証することを目的とした。
    【方法】 症例は50歳代の男性であり、広範囲腱板断裂に対し、関節鏡視下腱板修復術(大腿筋膜を用いたパッチ法)を施行された症例であった。術後3ヶ月にて、大工への職業復帰を目標に当院に紹介され、初回評価時の日本整形外科学会肩関節疾患治療成績判定基準(JOA score)は66.5点、肩関節自動屈曲ROMは95°であった。研究デザインはABAとし、期間Aは通常の運動療法のみを行い、期間Bは運動療法とUSの双方を行い、AとBを2週間ずつ其々週3回の介入で交互に実施した。期間BにおけるUSは、Ultrasonic Apparatus Model ES-1(OG技研社製)を使用し、周波数は1MHZ、出力は1.2W/㎝2、施行部位は肩甲骨内側縁(肩甲棘~下角間)、照射時間は10分間とし移動法にて実施した。また、運動療法については肩甲上腕関節及び肩甲胸郭関節のROM運動、胸椎モビリゼーション、肩甲骨周囲筋のリラクゼーション及び自主運動指導を期間A, Bとも同様に行った。評価は、PT前の肩関節自動屈曲ROMとし、初回Aの前(以下preA)、Bの前(以下preB)、2回目Aの前(以下preA’)、2回目A終了翌日(以下post A’)に行い、2回測定した低値のものを採用した。結果の処理は、PT前の肩関節自動屈曲ROMについて各セッションの前後での変化率(%)を算出した。
    【説明と同意】 患者には、本研究の趣旨を説明し同意を得て行った。
    【結果】 preA, preB, preA’、post A’における肩関節自動屈曲ROM(°)は、各々120, 125, 145, 135であった。ROM改善率は、期間Aで104.1%、期間Bで116.0%、期間A’で96.4%であり、運動療法にUSを併用した期間で改善する傾向を示した。また、期間A’より大工への職業復帰となった。
    【考察】 本研究により、腱板断裂術後患者に対して運動療法にUSを併用することはROM改善に有効であることが示唆された。今回の症例ではUSを肩甲骨内側縁に施行していたが、これは同部に生活上での倦怠感を訴えていたことや圧痛が出現していたことから挙上の阻害因子と考えたため行った。USの併用によりROMが改善したことについては、僧帽筋や菱形筋等の肩甲骨内側組織の伸張性が改善したことにより肩甲骨上方回旋が促通されたためと考えた。また、期間A’においては、ROMが低下する傾向を示していたが、職業復帰により急激に上肢の運動量が増し、仕事後の疼痛増強もみられていたため職業復帰による過用が原因と考えた。
     今後は、USの実施方法(筋収縮の併用や施行筋の肢位、プラセボ化等)について、より効果的な方法を検討していくことが必要と考えた。
    【まとめ】 腱板断裂術後患者に対してUSの有効性を検証した。運動療法にUSを併用することは、ROM改善に有効であることが示唆された。
  • 森 健太郎, 間所 昌嗣, 松村 純, 高坂 浩, 石井 健太郎, 清水 砂希, 藤井 亮介, 米倉 佐恵, 中野 希亮, 神谷 正弘
    セッションID: P-12
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/01/10
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    【目的】 近年、体幹機能に求められるのは土台としての強固な安定性のみならず、動的安定性という側面からも分節的なコントロールが求められるといわれている。その中でも腹横筋、多裂筋はローカル筋群として深部に位置し分節的なコントロールに携わるといわれている。今回、Richardsonらによって提唱されている圧バイオフィードバックユニットを用いた、腹部筋の活動を超音波画像診断装置にて、筋厚から検討することとした。
    【方法】 研究に対して、同意を得られた男性11名(年齢28.6±3.6歳、身長175.2±7.3㎝、体重65.8±9.0㎏)を対象とした。被験者の選択において、現在腰痛を有する者を除外した。測定機器は超音波画像診断装置(HI VISION Preirus、日立メディコ)を使用した。6-14MHzの可変式リニア型プローブを使用し、周波数は7.5MHzとした。対象筋は腹横筋、内腹斜筋、外腹斜筋とし、測定部位は左前腋窩線における肋骨辺縁と腸骨稜の中央部とした。その位置にマーキングを行い、プローブ位置を統一した。
     測定肢位は両股関節45°屈曲位の背臥位で、腰椎と治療台の間に圧バイオフィードバックユニット(オーストラリアChattanooga社製)を入れパッド内の圧目盛板からの視覚的フィードバックを用い条件設定を行った。条件設定としては安静呼吸下で、安静時、圧目盛り40㎜Hgを保持時(以下P40)、圧目盛り40㎜Hgから50㎜Hgへと被験者の活動にて加圧後保持時(以下P50)の3条件とし、各条件下で2回測定を行った。筋厚測定は呼気終末の静止画像を抽出し行った。
    【結果】 各測定条件における筋厚はそれぞれ以下の通りである。安静時:腹横筋3.32±0.68㎜、内腹斜筋10.19±0.68㎜、外腹斜筋8.41±1.81㎜、P40:腹横筋3.46±0.72㎜、内腹斜筋10.06±2.72㎜、外腹斜筋7.85±2.02㎜、P50:腹横筋3.44±0.62㎜、内腹斜筋10.00±3.07㎜、外腹斜筋7.86±1.94㎜であった。多重比較の結果、どの測定条件でも有意差は認められなかった。
    【考察】 今回、ローカル筋の分節的なコントロールを含む腰部の安定化トレーニングで推奨されている圧バイオフィードバックユニットを用いた活動で筋厚の測定を行ったが、安静時と比較しても筋厚に差が出ないことがわかった。興味深い点として安静時より圧保持を行った後の方が内腹斜筋、外腹斜筋の筋厚が減少する傾向にあったことである。圧の変動が起きないように腰椎のアライメントを保持するために背部の筋の何らかの働きがあったのかもしれない。腰部ローカル筋の収縮を目的とする場合は、このエクササイズに先立ち、触診や超音波画像診断装置での視覚的フィードバックを用いての運動学習が必要であると思われた。
    【まとめ】 今回、圧バイオフィードバックユニットを用いて安静時と腹部収縮を行ったが、筋厚には差が出ないことがわかった。
  • 松浦 佑樹, 久保田 雅史, 西前 亮基, 谷口 亜利沙, 岩本 祥太, 由井 和男, 高本 伸一
    セッションID: P-13
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/01/10
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    【はじめに】 人工膝関節置換術(TKA)後の膝関節屈曲拘縮は歩行能力を低下させ、特にエネルギー効率の低下や膝関節伸展モーメントの増大に伴う膝関節前面部痛の出現に関与すると報告されている。さらに屈曲拘縮はインプラントの耐久性を低下させる可能性もあることから、人工膝関節置換術後の膝関節伸展可動域を詳細かつ正確に評価し、治療に反映させることは非常に重要である。しかし、日本リハビリテーション医学会及び日本整形外科学会が定めている「関節可動域表示ならびに測定法」における膝関節可動域の測定は、軸心の記述がなく、基本軸・移動軸の設定に関しては大腿骨・腓骨のみの記述となっている。秋葉ら(1996)、隈元ら(2010)は膝関節伸展角度の測定の再現性について報告しているが、実際の大腿骨と脛骨からなる膝関節角度をどの程度正確に測定できているかは明らかにされていない。本研究ではTKA術後症例において、理学療法士が測定する膝関節伸展可動域と単純X線画像から測定できる可動域との関連性を調査することを目的とした。
    【対象・方法】 変形性膝関節症によりTKAを施行した21例22膝、男性3例、女性18例、平均年齢75.7±5.1歳を対象とした。術後平均Follow-up期間は13.4±21.5か月であった。全ての対象者に対して本研究の説明を行い、同意を得た。膝関節伸展可動域の測定は「関節可動域表示ならびに測定法」に準じ、背臥位にて股関節内外旋中間位、踵の下に台を置き、下肢の自重のみで最終伸展位となった角度をゴニオメーターを用いて測定した。全症例の関節可動域は同一理学療法士が測定した。一方、単純X線撮影は放射線技師がゴニオメーター測定と同一の姿勢で膝関節側面像を撮影した。関節可動域測定を実施した検者とは異なる検者が単純X線画像から大腿骨軸と脛骨軸からなる膝関節伸展角度を画像ソフト上で測定した。ゴニオメーターを用いて測定した膝関節伸展可動域と単純X線画像にて測定した膝関節伸展角可動域との関係はPearsonの相関係数を用いて解析した。
    【結果】 ゴニオメーターを用いて測定した膝関節伸展可動域の平均値-5.3±3.7°、単純X線側面像から測定した膝関節伸展可動域の平均値は-2.2±6.4°であった。また、ゴニオメーターを用いて測定した膝関節伸展可動域は単純X線側面像から測定した膝関節伸展可動域と有意な相関関係が見られたものの、各測定方法間で5°以上の差が生じていたのは7膝であった。
    【考察】 TKA後の膝関節伸展可動域においてゴニオメーターを用いて測定した値は単純X線側面像から測定した値より低下して計測する傾向にあり、測定誤差は測定方法の違いや軟部組織の影響などが考えられた。
    【まとめ】 理学療法士が測定する膝関節伸展可動域とX線側面像から測定する膝関節伸展可動域との関連性を調査した。各測定間において有意な相関関係がみられたものの、測定誤差が大きくみられた症例が存在した。その要因として、測定方法の違いや軟部組織の影響が考えられた。
  • 小島 宗三, 大森 弘則, 正田 直之, 野形 亮介, 花木 このみ, 草壁 美穂, 水野 詩織, 溝口 佳奈, 豊田 理恵
    セッションID: P-14
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/01/10
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    【はじめに】 人工関節置換術後における感染に対しては、一般的に人工関節を抜去した後に、抗生剤入りセメントスペーサー(以下CS)を用いて二期的に再置換を行う場合が多い。しかし、従来のCSではビーズ型や既製品のものが多く、歩行の自立が困難なため、感染が沈静化して二期的再置換するまで車椅子での長期入院を余儀なくされる。
     そこで、人工膝関節の感染例に対し、人工膝関節抜去後に予め作製したオーダーメイドのCSを設置することによって、膝関節の可動域や筋力がほぼ維持できて、一旦自宅退院でき、二期的再置換後も良好な経過を得た症例を経験したので報告する。尚、本発表にあたり症例から同意を得ている。
    【症例】 75歳女性、診断名は両変形性膝関節症である。平成22年9月に左人工膝関節全置換術(以下、TKA)施行し、10月から外来通院にてリハビリを継続していた。しかし平成22年11月に左膝の熱感・腫脹・疼痛が出現し、血液検査や穿刺した関節液の細菌培養検査結果から表皮ブドウ球菌が検出され、「TKA後の感染」と診断された。その後の外来通院で10週間抗生剤の点滴を実施したが、感染の沈静化が得られず、平成23年3月に人工膝関節感染に対する手術目的で入院となった。
    【経過】 入院時2本杖歩行の状態であり、左膝関節に腫脹・熱感・疼痛がみられた。左膝関節の可動域は、他動で伸展0°屈曲125°であり、日本整形外科学会膝関節機能判定基準(以下JOAスコア)が83点であった。平成23年3月に人工膝関節を抜去した後、人工膝関節と同じ形をしたCSにバンコマイシンを含有してセメントで固定した。CSは人工膝関節の形状をしているため、翌日から可動域訓練が可能となり、術後4日目に車椅子移乗ができた。しかし可動域訓練中、セメント同士が擦れる異音やセメントの破損に注意する必要があった。そこでレントゲンコントロールを行いながら、術後2週目に1/3部分荷重(以下PWB)、術後3週目に1/2PWBを開始できPWB歩行可能となった。しかし、歩行訓練中に脛骨部の荷重時痛や膝の動揺性がみられたため、支柱入りの軟性膝サポーターを装着して調整した。
     平成23年6月に二期的再置換術を実施し、7月の退院時の左膝可動域は伸展0°屈曲145°まで獲得できた。JOAスコアは、85点となり一本杖歩行で退院した。
    【考察】 人工関節を抜去し、CSを挿入した場合、二期的再置換まで膝を伸展位で外固定したり、免荷を維持するなどして感染の沈静化を待つ文献が多い。そのため膝の伸展拘縮や廃用性萎縮の合併症が生じやすいとの報告されている。今回のCSでは、患者の膝に適合したオーダーメイドの型を挿入できたため、手術翌日より可動域訓練や術後2週目からのPWB歩行訓練を実施することができた。さらに再置換までの待機期間に自宅退院まで可能となった。ただし、荷重増加に伴うCSの破損の危険性や膝の動揺性の出現などの問題点もあった。レントゲンコントロール下での歩行訓練や支柱入りの軟性膝サポーターを装着したことで、安全に自宅退院まで誘導することができた。本例によりオーダーメイドCSを挿入することは、人工関節抜去後の膝関節の機能の維持に非常に有用であったと思われる。
  • 加納 弘崇
    セッションID: P-15
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/01/10
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    【はじめに】 東海市より二次予防教室を受託し、3ヶ月を1期とした教室を3期行い、利用者の意識調査と体力測定結果の比較検討を行った。
    【対象】 当教室を3ヶ月間利用された平均年齢71.2歳の44名(男性25名、平均身長164.0㎝、平均BMI23.7、女性19名、平均身長148.7㎝、平均BMI24.5)を対象とした。また本研究の趣旨と内容、得られたデータは本事業と本研究の目的以外には使用しない事、個人情報の漏洩に注意する事について説明し、理解を得た上で協力を求めた。また本研究への参加は自由意志であり、被験者にならなくても不利益にならない事を口答と書面で説明し同意を得ている。
    【方法】 指導内容は、跨ぎ動作や物拾い動作、腰や膝痛予防の為の姿勢指導とHURマシン・ズボンゴムを用いた筋力トレーニングを行った。運動効果検証項目は、握力・開眼片脚立ち・10m歩行・膝伸展・屈曲筋力・姿勢測定とし、握力は、徒手筋力計(アニマ社製)、HURマシン(インターリハ社製)により膝伸展・屈曲筋力を測定。姿勢測定は、姿勢測定器(PA-200:ザ・ビッグスポーツ社製)を用いた。PA-200では、足圧の左右前後4か所における割合と前額面上の眉間中心・喉元・臍の中心線からの距離、矢状面上の耳穴・左右大結節・左右大転子の中心線からの距離、耳穴・上前腸骨棘・第五中足骨粗面でなす角度を計測した。また教室前後の運動機能変化を検討する為の統計処理は、対応のあるt検定を用いて有意水準を5%とし教室前後を比較した。
    【アンケート内容】 事後アンケート:1. この教室に参加されたきっかけ。2. この教室に参加されて。3. 体調・体力に変化はありましたか。4. このような教室にまた参加したいと思いますか。5. この教室についての自由記載。の5項目。
    【結果】 体力測定:全ての測定項目にて改善や改善傾向がみられた。
     姿勢測定:眉間・喉元・臍・上前腸骨棘・右膝・C7・上後腸骨棘・右耳・左大結節が中心方向に移行したが、足圧計に関しては、有意差はみられなかった。
     アンケート結果:「とても良かった」と「良かった」と合わせて96%と高い満足度がみられ、参加されて良かった点としては、「元気になった」が62%、「友達ができた」「生活リズムができた」が13%と続いていた。体調・体力に変化を感じられた方は93%、その内「動作が楽になった」は41%、「姿勢が良くなった」が23%と続いた。
    【考察】 利用者の96%が「とても良かった・良かった」と満足度は高く、体力測定の結果も全ての項目において改善や改善傾向がみられた。また姿勢測定も、多くの項目で改善傾向がみられた。先行研究では、機能維持する最低限の運動頻度を週2-3回以上の運動が必要であり、筋力維持が目的であれば、週1回の頻度でも可能としている。本事業では、週1回の教室であったが、自主トレーニングを行われた方もあり、その効果も出ていると考える。また運動意欲が高く精神的要因も作用し、自主練習や教室の運動や姿勢指導の内容を自己確認できていたと考える。また96%の参加者が、今後もこのような教室に参加したいとされ、教室のみで定期的な運動習慣が終わるのではなく、運動の継続に対して支援ができるようにしていきたい。
  • 壹岐 英正, 片山 裕介, 森下 愛子, 桒原 里奈, 片山 脩, 澤 俊二
    セッションID: P-16
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/01/10
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    【はじめに】 リハビリテーションの効果判定として日常生活動作(以下ADL)評価法が使用されているが、これらは介助量によって評価される。「自立」や「部分介助」は介助量などで詳細に変化を評価できるが、「全介助」を詳細に評価する評価法は少ない。そこで我々はADL全介助者の変化を詳細に評価できる評価法が必要と考えた。ADL全介助者の効果判定には介護負担感評価が妥当と考えるが、ADL全介助者の介護負担感は十分に明らかにされていない。
     今回の目的はADL全介助者に対する評価法を作成する為の予備研究として移乗介助に着目し、介護負担となる要因を明らかにする為の妥当性のある質問紙を作成することである。
    【方法】 第一段階として質問項目案を作成した。質問項目は介護負担となる要因を理学療法士(以下PT)2名、作業療法士(以下OT)3名が、KJ法に準拠してカテゴリー分類し作成した。
     第二段階として、質問項目案の妥当性を質問紙調査にて確認した。対象は病院、介護老人保健施設、介護老人福祉施設に勤務する介護職員12名、PT16名、OT7名の計35名とした。研究の目的と方法を書面と口頭で説明し同意を得た。
     質問項目に対し負担感を10㎝のVisual Analogue Scale(以下VAS)を用いて回答を得た。PTおよびOTには介護者の負担を想定し回答を求めた。項目の妥当性は除外基準を「全項目のVAS平均値から2標準偏差を減した値より小さい項目」として検討した。また質問項目案以外の項目を抽出するため自由記載欄を設け、得られた項目をKJ法にて再分類し質問紙を作成した。
    【結果】 第一段階ではICFに基づき健康状態、心身機能と構造、および環境因子3領域に分類した。健康状態は(1)体格(2)皮膚の状態(3)嘔吐(4)感染症(5)禁忌肢位(6)介助中の吸痰が挙げられた。心身機能と構造は(1)肩関節拘縮(2)低緊張(3)高緊張(4)股屈曲拘縮(5)股伸展拘縮(6)膝屈曲拘縮(7)膝伸展拘縮(8)尖足(9)動作時痛(10)介護拒否(11)暴言や暴力(12)不定愁訴(13)体動(14)介助中の流涎(15)意識レベルが挙げられた。環境因子は(1)車椅子調整困難(2)ベッド調整困難(3)床上介助(4)排泄ルート(5)点滴、酸素療法(6)家族の監視(7)移乗回数(8)2人介助(9)人出不足が挙げられた。
     第二段階ではVASの全項目平均が6.1±0.7㎝、最低値を示した項目の平均値は3.6±1.8㎝であり、除外基準である1.3㎝に該当する項目はなかった。また自由記載欄に13回答を得た。KJ法による再分類の結果、「車いす部品の取り外し」「座面の低さ」「移乗範囲狭小」の3項目を追加し、新たな質問紙を作成した。
    【考察】 作成した質問項目案は、除外基準に該当しなかった。移乗動作はPT, OTが行う業務として頻度が多いことから介護負担感を想定できたと考える。
     また自由記載欄を基に質問項目を3項目追加した。「車いす部品の取り外し」や「座面の低さ」についてはPTの意見であり、第1段階の補足を得ることが出来た。また「移乗範囲狭小」については介護職員からの意見であり、業務内容の違いから得られた項目である。
    【まとめ】 今回は移乗介助時の介護負担要因を明らかにする為の妥当性のある質問紙が作成できた。今後は多くの介護職に調査を行い、ADL全介助者に対する評価法の作成につなげていきたい。
  • 藤原 菜摘, 片山 脩, 桒原 里奈, 壹岐 英正
    セッションID: P-17
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/01/10
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    【はじめに】 近年、在院日数の短縮に向けた取り組みが積極的に行われており、1人の患者に十分介入できるケースは少なくなっている。また、経管栄養は延命治療として敬遠される傾向にある。しかし、今回約1年半の長期的な介入と、経管栄養を開始したことにより栄養状態が改善し、起居動作能力が向上した症例を経験したため報告する。
    【症例紹介】 80歳代男性。腸閉塞を発症し当院入院。病前ADL自立。約4年前より転倒を繰り返していたが原因不明。入院2ヶ月後に誤嚥性肺炎を発症、入院3ヶ月後に仙骨部褥瘡形成し、バイタルサインが安定しない状態が入院5ヶ月後まで続く(第1期)。入院6ヶ月後より経管栄養を開始、8ヶ月後に胃瘻造設。徐々に意識レベルが向上し背もたれ座位訓練を開始した(第2期)。入院11ヶ月後には車椅子での離床が可能となり、入院14ヶ月後より経口摂取を開始した(第3期)。入院15ヶ月後には3食自己摂取可能となり、入院17ヶ月後にはADLは軽介助から見守りレベルとなった(第4期)。
    【経過】 第1期では、褥瘡はDESIGN-R24点、栄養状態はTP4.9、Alb2.1、Vitality Index(以下VI)は2~3点であり、著明な意欲低下を認めた。この時期の介入は関節可動域訓練が中心であった。また意識レベルの低下を認め、コミュニケーションは困難であった。第2期では、DESIGN-R10点、TP5.9、Alb3.0、VI6点と、褥瘡、栄養状態、意欲が改善した。この時期の介入は関節可動域訓練、背もたれ座位訓練が中心であった。徐々に意識レベルが向上し、HDS-R20点と認知機能の向上を認めた。またこの時期には「散歩に行きたい、何か食べたい」という発言も聞かれた。第3期には、栄養状態がTP6.2、Alb3.3とさらに改善した。褥瘡は治療が終了した。VIは9点でありさらに意欲が向上した。この時期の介入は立位、移乗動作、歩行器歩行訓練が中心であった。車椅子での離床が可能となり、レクリエーションや行事に妻と参加する機会が増えた。第4期は、栄養状態はTP6.5、Alb3.7とさらに改善した。VIは9点であり、意欲の高い状態を保っていた。この時期の介入は起居動作、歩行訓練が中心であった。起居動作が手すりを使用して見守り、独歩が軽介助で可能となった。
    【考察】 本症例は寝たきりの生活が予想されたが、経管栄養による栄養状態の改善、褥瘡の治癒、意欲の向上、長期間の介入によって起居動作能力が向上できたと考えられる。また離床に目的を持たせることが意欲の向上につながったと考えられる。さらに第1期に関節可動域訓練などを行っていたことで、全身状態が安定してから円滑に離床が開始できたと考えられる。今後の課題としては、褥瘡が形成されたことと、離床開始時期の検討が挙げられる。褥瘡が予防できれば、背もたれ座位訓練の耐久性も早期改善が得られたと考える。また本症例は経管栄養開始後に慎重に離床を進めたが、より早い段階で開始することが早期改善につながる。しかし長期臥床によるリスク管理については十分な理論的根拠が少ないことから、更なる検討が必要と考える。
  • 加藤 寛之
    セッションID: P-18
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/01/10
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     東濃地方の小児に対する訪問リハビリテーションの現状について
     【目的】 平成23年4月の理学療法士協会の会員分布によると、小児に対するリハビリの分野で働く理学療法士は全体の19.5%となっている。全体に対する割合こそ小さいが当分野への関わりは日本が直面する少子化問題対策の一端を担う重要事項であると考える。当事業所では平成21年の設立時から積極的に小児への訪問リハを提供している。今回、岐阜県東濃エリアにおけるリハ提供状況の確認や、保護者に対する意識調査を行なったうえで、小児訪問リハに対する必要性、事業所展開の妥当性を改めて考察した。
     【方法】 当事業所が関わる小児患者のご家族を対象に、小児への訪問サービスについての意識調査をアンケート形式にて実施した。またインフラ整備が充足されているかどうかの観点から、東濃地区すべての訪問看護ステーションに対する小児へのサービス提供状況を調査した。
     【結果】 ご家族に対する意識調査では、実際にサービスを始めるまで自宅でリハビリを受けられる事を知らなかった方が85.7%と多く、小児患者への訪問リハに対する認知が十分でないことが確認された。また当事業所が所在する岐阜県東濃地区において、小児患者への訪問リハサービスを提供している訪問看護事業所の割合は44.4%であった。(全18事業所中8か所)
     【考察】 平成24年度の中医協調査資料によると、全国の小児(0~9歳)におけるサービス利用者数の推移は、平成13年の842名が、平成21年では2,928名と3.48倍の増加を示しており、この分野での社会的ニーズの高まりが重要な背景にあると考えられる。またこうしたサービスを必要とする者の多様化への対応として、国が「複数名の訪問看護加算」や「長時間訪問看護加算」などの算定要件の見直しを行なったことからも、在宅支援としての訪問リハが担う役割は大きくなってきていることがうかがえる。今回の調査では、当施設所在地域における小児への訪問リハを提供し得る事業所数は8カ所であったが、『岐阜地域の公衆衛生2011』によると、同地域の障害児数(身障手帳1・2級保持の18歳以下の方)は109人と報告されており、訪問看護ステーションの利用者数の推移、規模別状況、訪問可能なエリアの問題を考慮しても、ニーズに見合うだけのサービス提供基盤は決して十分ではないことが確認された。これに加え、小児訪問リハに対する一般的な認知度が低いという事実も考慮すると、この分野での市場開拓の余地は十分に見られ、新たなビジネスチャンスを生む可能性も秘めていると思われた。今後、小児への訪問リハという事業形態を確立するためには、提供サービスの質をどのように担保するのかが重要であるため、地域の特別支援学校や保育園、医療機関との連携を強め、保護者への説明を含めた積極的な告知活動などを行なっていく必要がある。
     【まとめ】 今調査で、小児訪問リハに対する認知度や、社会資源としての充足度が低いことが確認された。今後我々には増加するニーズに対応するための様々な活動が求められる。
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