理学療法学Supplement
Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
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ポスター発表(一般)
  • 頭頚部角度に着目して
    多米 一矢, 小関 博久, 柿崎 藤泰, 財前 知典, 川﨑 智子, 関口 剛, 平山 哲郎, 熱海 優季
    専門分野: 基礎理学療法22
    セッションID: PI2-046
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/05/26
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    【目的】 姿勢は理学療法を展開するうえで重要な評価項目の一つである。運動器疾患において患部に対する理学療法のみでは改善が図られないこともあり、姿勢という観点から患部を捉えて理学療法を施行することで臨床的効果が得られることを多く経験する。特に頚椎疾患は、土台となる下肢や体幹の影響を多分に受けることが予測され、患部に対する理学療法のみでは改善の難しい部位の一つである。そこで本研究では、姿勢と頭頚部の位置変化の関係について、装着することにより体幹に意識が集中しよりよい姿勢に近づくといわれているPosture Stability Systemベルト(以下PSSベルト)を内蔵したReebok TAIKAN(リーボック社製)を用い、PSSベルト内蔵型と非内蔵型ウェア着用における姿勢変化と頭頚部の位置変化及び足圧中心(以下COP)変化について比較検討した。

    【方法】対象は健常成人男性10名(平均年齢27.7±4.6歳、平均身長175.4±7.0cm)とした。姿勢の解析についてはPosture analyser PA200P(インターリハ社製)を用いて測定し、COPの計測には足圧分布測定装置(Medicapteurs社製Win-pod)を使用した。測定肢位は立位とし、PSSベルト非内蔵型ウェアとPSSベルト内蔵型ウェアを装着し、各1回4方向を足圧分布測定装置上にて撮影した。姿勢の計測位置は矢状面上で大転子・腓骨頭・剣状突起・上前腸骨棘(以下ASIS)・上後腸骨棘(以下PSIS)・肩峰・第7頚椎(以下C7)・側頭突起を指標とし、前額面上では剣状突起・ASIS・PSIS・膝蓋骨中央を指標とした。なお、矢状面における頭頚部の角度は側頭突起-C7ライン対して肩峰-C7ラインの成す角度を求めた。前額面上での各体節の偏位は正中線を基準として、剣状突起・ASIS・PSIS・膝蓋骨中央の偏位距離を測定した。また、各COPの計測については足部中心位置からCOPの前方移動距離を計測し、PSSベルト非内蔵型ウェア着用時とPSSベルト内蔵型ウェア着用時にて比較検討した。統計処理には対応のあるt検定を用い有意確率は5%未満とした。

    【説明と同意】被検者にはヘルシンキ宣言に沿った同意説明文書を用いて本研究の趣旨を十分に説明し、同意を得たうえで実施した。

    【結果】矢状面における頭頚部の角度は、PSSベルト非内蔵型では、51.3±14.0°PSSベルト内蔵型では、平均55.2±14.0°となり、PSSベルト内蔵型ウェア着用時では頭位が後方位動し、正中線に近づく現象がみられた(p<0.05)。また、腓骨頭位置は、PSSベルト非内蔵型で、59.0±51.3°PSSベルト内蔵型では、50.9±54.2°と下腿が後傾し、より正中線に近づいた(p<0.05)。
    COPは、PSSベルト非内蔵型で-1.6±3.4mm、PSSベルト内蔵型では0.63±3.7mmと変化し、PSSベルト内蔵型ウェア着用時にて有意なCOPの前方移動が見られた(p<0.05)。
    剣状突起・ASIS・PSISの矢状面位置変化については有意差が見られなかったものの、剣状突起位置に関してはPSSベルト非内蔵型で107.1±60.6mm、PSSベルト内蔵型で115.5±37.3mmとなり、PSSベルト内蔵型ウェア着用時において剣状突起が前方移動する傾向がみられた。
    また、前額面上では、肋骨下縁の高低差が右下がりに位置する傾向にあったが、PSSベルト内蔵型ウェアの着用によって右肋骨低位-7.4±12.5mmから-3.6±7.8mmに変化し、より水平ラインへ近づく現象がみられた。

    【考察】本研究の結果により、PSSベルト内蔵型ウェアを着用することで、姿勢変化・COPの変化が見られた。PSSベルト非内蔵型ウェア着用時では、いわゆるスウェイバック姿勢となり、COPは後方に位置していることが多い。PSSベルトは、その効果として上半身部分と下半身部分のベルトが身体重心点に適度な長軸方向への圧縮を加え骨盤の前傾を誘導し、体幹は前上方に伸展するという特性があり、PSS内蔵型ウェア着用時では頭頚部角度の増加・剣状突起の前方化・COP前方化・下腿後方化が生じ、頭位後方移動が行われ正中線に近づく現象が生じたものと推察される。また、PSSベルト内蔵型ウェアは矢状面の変化だけでなく、前額面にも変化を及ぼすことが考えられ、その結果、左右の肋骨下縁の高低差が補正され、より水平ラインに近づいたものと考えられる。

    【理学療法学研究としての意義】本研究の結果より、頭頚部の角度は頚部だけの問題ではなく下肢・体幹と密接な関係があるものと推察される。このことは頚椎疾患に対する理学療法を展開する上で姿勢を評価することの必要性を示唆しているものと考えられる。
  • 靴選びから転倒予防を考える
    上島 正光
    専門分野: 基礎理学療法22
    セッションID: PI2-047
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/05/26
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    【目的】転倒は高齢者の約20%に見られ、骨折など重篤な障害をもたらす。また高齢者の転倒は「つまずき」によるものが多く、遊脚期における外因性のつまずきは全体の約34%を占めると言われる。一方、歩行における蹴りだし動作は遊脚期に大きな影響を与え、蹴りだし動作は各関節の動きと密接にリンクすることが予想される。そこで、靴底の硬さを変えることで蹴りだし動作に変化を与え、靴底の硬さが歩行における各関節運動や床-足尖距離にどのような影響を及ぼすか明らかにすることを目的に本研究を行った。

    【方法】対象は下肢に既往が無く、足の実測長が23.0cmから24.0cmの健常人女性16名(年齢20.2±1.6歳)とした。運動課題は、指定した運動靴を履いて行う、至適速度での10メートル歩行である。中間の1歩行周期において、靴伸展角度(立脚後期での靴の曲がり具合)、膝関節屈曲角度、足関節底屈角度、床-足尖距離を三次元動作解析装置MAC3D system(nac社製)にて測定した。マーカーの貼付部位は、大転子、膝関節外側裂隙、足関節外果と、靴の両尖端、靴の曲がり目両端、踵部とした。靴伸展角度は、靴の曲がり目両端の中点と踵を結んだ直線と、靴の曲がり目両端の中点と両尖端の中点を結んだ直線のなす角度と定義した。また床-足尖距離の測定は、med swingにおける靴両尖端の中点軌道の最頂点を測定し、その高さから静的立位時における同部の高さを引いたものを当研究における床-足尖距離と定義した。運動靴の中に、硬さの大きく異なるインソールを2種類入れ分け、靴底が柔らかい靴と硬い靴を再現した。1)柔らかいインソールを入れて歩く場合をsoft群、2)硬いインソールを入れて歩く場合をhard群と名付け、2条件にて運動課題を行った。各条件での測定を3回ずつ施行し、測定した3回の平均値を解析データとして用いた。解析項目は、(a)靴最大伸展角度、(b)膝関節最大屈曲角度、(c)足関節最大底屈角度、(d) 床-足尖距離とし、2群間の平均値の差を対応のあるt-検定を用いて検討した。なお有意水準は5%未満とした(p<0.05)。

    【説明と同意】全被験者に実験概要、データの取り扱い、データの使用目的を示す書面を提示し、口頭にて説明したのち、同意書に署名をいただいた上で本研究を行った。

    【結果】(a)靴最大伸展角度は、soft群35.5±5.1°、hard群26.8±6.1°であり、soft群に対しhard群にて靴最大伸展角度は有意に小さかった(p<0.01)。(b)膝関節最大屈曲角度は、soft群63.2±7.0°、hard群54.4±9.6°であり、soft群に対しhard群にて膝関節最大屈曲角度は有意に小さかった(p<0.01)。(c)足関節最大底屈角度は、soft群23.8±5.6°、hard群19.6±5.4°であり、soft群に対しhard群にて膝関節最大屈曲角度は有意に小さかった(p<0.01)。(d) 床-足尖距離は、soft群2.5±0.8cm、hard群1.4±0.5cmであり、soft群に対しhard群にて床-足尖距離は有意に小さかった(p<0.01)。

    【考察】soft群に比べ、hard群において靴最大伸展角度は有意に小さかった。これはインソールが硬くなるに伴い靴底の曲がりが全体的に制限された結果であり、本研究で用いたインソールが靴底の硬さが違う2種類の靴をうまく再現できたものと考える。また膝関節屈曲角度、足関節底屈角度もsoft群に比べ、hard群において有意に小さかった。インソールが硬くなり靴伸展角度が小さくなる時、同時に靴の中で足趾のMP関節の伸展も制限されている事が予測される。蹴りだし動作の肢位において足趾MP関節の伸展が制限されると、重心位置を保つためには足関節を背屈して対応する。結果として足関節底屈角度はhard群にて有意に小さくなったものと考える。歩行における身体重心の垂直方向移動を少なくする機構として、膝関節と足関節の屈曲・伸展は相反する動きをするとされる。今回の結果においても足関節の底屈が減少すると同時に膝関節の屈曲角度も減少し、前述した相反する下肢の動きを再現しているものと考える。床-足尖距離も同様にsoft群に比べ、hard群において有意に小さかった。本来、歩行中の関節運動に伴い床反力は足底外側から母指先端へスムーズに移動するが、本研究では立脚後期における足趾MP関節の伸展・足関節底屈・膝関節屈曲角度が制限される。この関節運動の制限が下肢運動の加速度を減少させ、床-足尖距離を減少させたのではないだろうか。

    【理学療法学研究としての意義】高齢者が靴を選択する際、着脱のしやすさ、履き心地、値段、外見など多くの要素を考慮する。今回の研究から、硬すぎる靴底は下肢の関節運動を制限するとともに床-足尖距離を減少させる可能性が高く、靴選びの選択基準に靴底の硬さ(曲がりやすさ)を考慮する事は、高齢者の転倒を減少させる一助になるのではないだろうか。
  • 森田 伸, 日下 隆, 山田 英司, 田仲 勝一, 内田 茂博, 伊藤 康弘, 藤岡 修司, 板東 正記, 刈谷 友洋, 千頭 憲一郎, 真 ...
    専門分野: 基礎理学療法23
    セッションID: PI2-048
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/05/26
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    【目的】変形性膝関節症(以下膝OA)に対する人工膝関節単顆置換術(以下UKA)や人工膝関節全置換術(以下TKA)において,術後に大腿四頭筋の筋力低下を認める.この要因に関し,これまで末梢における筋力変化から神経系の機能を検討している研究が多く,骨格筋の筋力発揮に影響を及ぼす大脳皮質が随意運動中にどのように機能しているか検討した研究は少ない.今回,UKAの術後早期の筋力低下と大脳皮質の活性化の関連を検討することとした.
    【方法】対象は,当院でUKAを施行された膝OA患者7名(男性2名,女性5名, 73.3±5.3歳)であり,術側は右側であった.
    方法は,近赤外光イメージング装置NIRStation OMM-3000(島津製作所)を使用し,術側の最大等尺性膝伸展運動(坐位にて股関節屈曲90°膝関節屈曲70°位)における局所脳血流変化,同時に最大等尺性膝伸展筋力を測定した.対象者は国際10-20法に基づき両側感覚運動野の下肢領域を覆うようにプローベを配置, 1-17チャンネルの局所脳血流を測定した.課題は,安静20秒‐最大等尺性膝伸展運動5秒‐安静20秒を連続3セット行い,局所脳血流変化と最もよく相関しているとされる酸素化ヘモグロビン(以下oxyHb)を記録,3セットのデータを加算平均した.最大等尺性膝伸展筋力は,筋力計μTas F-1(アニマ社)を用いて測定し,測定3回の平均値における体重比(kgf/kg)を算出した.統計学的解析(SPSS Student Version16.0使用)は,局所脳血流変化において,channel 5(以下ch5)とchannel 12(以下ch12)を対側感覚運動野領域,channel 6(以下ch6)とchannel 13(以下ch13)を同側感覚運動野領域として,解析に用いた.術前,術後1週,術後2週で,等尺性膝伸展運動中の各channelにおけるoxyHbについて運動開始0秒と比較した経時的変化を一元配置分散分析,多重比較を用いて検定した.また,最大等尺性膝伸展筋力は,術前,術後1週,術後2週を一元配置分散分析,多重比較を用いて検定した.統計学的有意基準はすべて5%とした.
    【説明と同意】対象者に対して研究の趣旨と内容,および個人情報の管理について予め十分に説明を行い,同意を得た.
    【結果】最大等尺性膝伸展運動中の局所脳血流変化において,術前ではoxyHbが運動開始0秒と比較して,対側感覚運動野領域ch5は3.4秒のみ,ch12は2.2から5秒,同側感覚運動野領域ch6は3から4.2秒,ch13は2.2から5秒で経時的に増加した(p < 0.05).術後1週ではoxyHbが運動開始0秒と比較して,対側感覚運動野領域ch12は2.2から4.6秒,同側感覚運動野領域ch13は2.4から3.6秒で経時的に増加したが(p < 0.05),ch5,ch6では増加しなかった.術後2週ではoxyHbが運動開始0秒と比較して,対側感覚運動野領域ch12は2.0から5秒,同側感覚運動野領域ch13は2.4から5秒で経時的に増加したが(p < 0.05),ch5,ch6では増加しなかった.
    最大等尺性膝伸展筋力は,術前0.28±0.15(kgf/kg),術後1週0.13±0.04(kgf/kg),術後2週0.17±0.04(kgf/kg)であり,術前と比べ術後1週で低下した( p < 0.05).
    【考察】等尺性膝伸展運動中における対側および同側感覚運動野領域のoxyHbの経時的変化は,術前に両側の感覚運動野領域でoxyHbが増加したが,術後1週,術後2週でoxyHbの増加領域が術前より狭くなった.身体の求心性情報あるいは運動出力の変容に従って,神経可塑性変化が大人の神経系の感覚運動野領域で起こる可能性があり,身体の不活動による筋力低下において一次運動野の活性化低下の関連が報告されている.また,TKAにおける大腿四頭筋の筋力低下は,浸出液や腫張による関節内圧の変化が関節受容器から脊髄を介して大腿四頭筋抑制を引き起こすとも考えられている.今回,UKA術後1週において最大等尺性膝伸展筋力が低下しており,膝関節の手術侵襲による求心性情報により感覚運動野の下肢領域の活性化が抑制したため両側の感覚運動野領域の反応領域が減少したと考えられた.そして,術後早期の筋力低下が中枢神経系の影響を受けていることが示唆された.
    【理学療法学研究としての意義】本研究は,UKA術後早期の筋力低下と大脳皮質の活性化の関連を検討するものであり,筋力低下に対する筋力トレーニングの再考の一助となるものと考える.
  • 呼気ガス測定からの考察
    南 圭介, 佐藤 貴之, 橋本 由里奈, 番條 友輔, 平田 恵次郎, 高木 優子, 高森 亜沙子, 森 香奈子, 伊藤 卓也, 田中 紀行 ...
    専門分野: 基礎理学療法23
    セッションID: PI2-049
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/05/26
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    【目的】近年BWSTTによる脊髄損傷や脳卒中患者に対しての運動療法効果の報告がなされている。これらの報告では麻痺側下肢の立脚時間延長や、歩容の左右非対称性の改善等、運動学的な改善が示されている。しかしこれまで一定期間のBWSTT継続介入による効果を検証した先行研究は見当たらない。当院では転倒リスク管理の意味も含め、運動麻痺のない患者に対しての歩行訓練にもBWSTT(SAKAImed社製ウッドウェイトレッドミル、同社製可動式免荷装置アンウェイシステム)を行っている。体重免荷(BWS)量は患者の平地歩行能力にもよるが、当院では20%までのBWS量にてBWSTTを行う事が多い。BWSTTでは通常のトレッドミル歩行訓練と比較して患者の自覚的疲労度が低く継続して行いやすい印象があるが、客観的な評価から運動継続効果の検証が行えていない。そこで本研究の目的は、対象を運動耐容能の低下した虚弱な高齢者等の患者層とする前段階として、健常成人を対象にした一定期間のBWSTT継続介入有無が呼気ガス測定値へ与える影響を検証することである。

    【方法】対象は競技レベルの運動習慣がなく、心疾患系の既往の無い健常成人、男性8名、女性7名、平均年齢26.5±3.5歳である。対象を20%BWS歩行運動介入(20%BWS)群の7名と対照群(非運動群)の8名の2群に分けた。20%BWS群の介入プロトコルは、歩行速度6.0km/h、20分間のBWSTTを週3回、介入継続期間は8週間とした。尚、週3回のBWSTT実施日の間隔は特に指定しなかった。非運動群はBWSTTの介入を行わず評価のみ実施した。評価は8週間の介入開始直前(pre)と終了直後(post)に、両群ともにハーネス未装着の通常トレッドミル歩行を歩行速度6.0km/h で5分間行い、COSMED社製テレメトリー式呼気ガス分析装置K4B2を使用して、歩行中の呼気ガス測定からV(dot)O 2、分時換気量(VE)、心拍数(HR)を測定した。測定は安静立位1分後から開始した。尚、20%BWS群は介入継続期間中に、介入以外での明らかな有酸素運動を行ったものは対象から除外した。検定はpreの身長・体重・BMI等の身体特性(以下身体特性)と呼気ガス測定値の群間比較はStudent-t-testを、両群のpre、postにおける呼気ガス測定値の比較をPaired-t-testを用いて有意水準は危険率5%未満とした。

    【説明と同意】対象者全員に本研究の概要や意義、研究参加により起こり得る利益、不利益を説明し同意を得た。また本研究は当院倫理委員会の承認のもとに実施された。

    【結果】両群のpreにおける身体特性と呼気ガス測定値に有意差は認めなかった。20%BWS群のpre、postでは、VE(29.8±6.1l/min→26.1±3.6l/min)に減少傾向を認め(p<0.1)、V(dot)O 2(22.4±3.2 ml/kg/min→18.3±0.6 ml/kg/min)、HR(135.4±9.6bpm/min→112.6±16.2bpm/min)は有意に減少していた(p<0.05)。非運動群はpre、postではV(dot)O 2(19.7 ±1.9 ml/kg/min→18.2±2.9 ml/kg/min)、VE(29.8±6.1l/min→26.1±3.6l/min)、HR(107.6±11.4bpm/min→115.1±15.3bpm/min)の全てにおいて有意差が認められなかった(p<0.05)。

    【考察】週3回8週間の20%BWSによりV(dot)O 2、VE、HRの減少がみられた。大畑らは定常速度のトレッドミル歩行において、BWS無しの通常歩行と10%、20%、30%、40%のBWS歩行の比較で、V(dot)O 2が7.6%、7.8%、11.0%、14.4%減少したと報告している。また一回換気量(VT)やVE、呼吸数などの換気状態に対してBWSは影響しなかったとしている。本研究では20%BWSに着目して運動継続効果の検証を行ったが、BWSによる低負荷歩行訓練においても一定期間運動を継続することにより、歩行持久力効果が期待される事が呼気ガス測定値の観点から示唆された。またVEに有意差は認められなかったものの減少傾向がみられ、同様に効果が示唆された。今後どの程度までBWSを増加すると歩行持久力訓練効果が得られなくなるのか、異なったBWS量での訓練効果の検証と、これらの生理学的機序の検証が必要である。

    【理学療法学研究としての意義】BWSTTは低負荷歩行訓練が可能であり、転倒等のリスク回避を行いながら、継続することで歩行持久力訓練効果も期待できると思われる。
  • 橋崎 孝賢, 杉野 亮人, 木下 利喜生, 三宅 隆広, 上西 啓裕, 梅本 安則, 幸田 剣
    専門分野: 基礎理学療法23
    セッションID: PI2-050
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/05/26
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    【目的】
    起立負荷に対する動脈圧の迅速な調節は,圧受容器で感知され自律神経を介して行われている.圧受容器には頚動脈洞,大動脈弓にある動脈圧受容器と心房,肺動脈,肺静脈にある心肺圧受容器がある.我々は第44・45回日本理学療法学学術大会において,ヒトの生体内での血圧調節機構における個々の受容器の役割を調べるため大動脈弓置換術後におけるHead up tilt時 (以下HUT)の循環応答を測定した.その研究の結果,HUT平均血圧に有意差はなく,心拍数,心拍出量,一回心拍出量が有意に上昇し,健常者とは異なる反応を示した.これは大動脈弓置換により圧受容器が切除され,末梢血管への交感神経活動が亢進状態になっている可能性が示唆された.
    慢性閉塞性肺疾患患者(以下COPD患者)では,健常者に比し,交感神経活動が高いことが報告されているが,COPD患者でのHUTの循環応答を検討した報告はない. COPD患者に対する理学療法プログラムを検討する上で, HUTの循環応答を知ることは重要であるため,COPD患者に対し,HUTの循環応答の測定を試みた.
    【方法】
    対象は慢性閉塞性肺疾患患者(以下COPD群)8名(平均年齢73.4±7.6歳,身長159.4±8.2cm,体重51.4±8.5kg,GOLD分類2:2人,3:3人,4:3人)と,比較対照群として健常高齢者(以下高齢者群)9名(年齢64.8±10.1歳,身長168.1±8.3cm,体重61±8kg)とした.被験者は十分な安静を取り,血圧,心拍数等の全ての値が安定した後に測定を開始した.安静仰臥位3分後,60度HUTを5分間行い,再び仰臥位に戻し,3分間の回復期を観察した.測定項目は血圧,一回心拍出量,心拍出量,心拍数とし,血圧は手動血圧計(TERUMOエレマーノ)を用い1分毎に測定し,一回心拍出量,心拍出量,心拍数については連続心拍出量計(メディセンス社MCO101 )を用いてインピーダンス法で連続測定し,パソコンに記録した.
    【説明と同意】
    対象者には本研究の趣旨と目的を詳細に説明し,研究の参加への同意を得た.
    【結果】
    60度HUT 5分後の一回心拍出量は,高齢者群で23.3%有意に低下し,COPD群では安静時より7.8%増加したが有意差は認めなかった.心拍数は,安静時でCOPD群の方が有意に高い値を示した.また,HUT後5分後の心拍数は安静時に比べ,COPD群で12%,高齢者群で8%有意に増加した.さらに,心拍出量はHUT5分後に安静時と比較しCOPD群では13.5%有意に増加し,高齢者群では14.2%有意に低下した.平均血圧ではHUT5分後に安静時と比較してCOPD群で10%有意に低下し,高齢者群で有意差を認めなかった.総末梢血管抵抗は,COPD群で安静時に高齢者群と比較して有意に高い値を認めたが,HUTで20%低下し,高齢者群で14%増加した.
    【考察】
    起立負荷時の生理学的変化として,腹腔と下肢への血管内血液移動により静脈環流量が減少し,一回心拍出量の減少による血圧低下が惹起される.血圧の低下は圧受容器から迷走神経・舌咽神経を介して延髄の心血管中枢に伝達され,交感神経活動の賦活化と迷走神経の抑制が起こり,全体として末梢循環の血管収縮と心拍数の増加をきたす.この数秒以内に起こる神経性調節によって健常者では姿勢変化による影響を打ち消し,血圧を維持する.今回の研究では,高齢者群ではHUTに一回心拍出量と心拍出量が低下したが, 末梢循環の血管収縮と心拍数の増加により血圧を維持できたと考えられる.一方,COPD群はHUTに一回心拍出量,心拍出量,心拍数の上昇を認め, 平均血圧は低下するという高齢者群と異なる応答を示した.この機序として,COPD群では交感神経活動が高いため,総末梢血管抵抗が高い値になり,HUTにも静脈環流量の減少が起きず,むしろ一回心拍出量増加につながった可能性がある.また, HUTの血圧低下は,一回心拍出量の増加に起因した圧受容器反射の亢進が末梢血管を弛緩させた可能性があるため,COPD患者では受動的なHUTのみを行うのではなく,運動負荷が推奨されることが示唆された.
    【理学療法学研究としての意義】
    COPD患者では,交感神経活動が高いことが報告されているが, HUTの循環応答の報告がなく,姿勢変化を伴う適切な理学療法プログラムを行うためにもCOPD患者の循環調節応答を解明していく必要がある.
  • 塩路 崇義, 大古 拓史, 木下 利喜生, 児島 大介, 梅本 安則, 尾川 貴洋, 坪井 宏幸, 安岡 良訓, 星合 敬介, 小川 真輝, ...
    専門分野: 基礎理学療法23
    セッションID: PI2-051
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/05/26
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    脳性ナトリウム利尿ペプチド(以下BNP)は主に心室から分泌され,心不全のスクリーニングとして広く活用されている.さらに,心負荷を評価する指標としても使用可能である.健常者では,心臓に負荷がかかると考えられるマラソンにおいてBNPは変化しないと報告されている.しかし,我々は脊髄損傷者における車いすハーフマラソンにより,BNPが上昇する事を報告している.脳血管障害者に対するリハビリテーションにおいて,運動負荷は大変重要である.脳血管障害者は,様々な疾患を合併している者も多く心疾患を合併していることもある.このため,脳血管障害者に対する運動負荷時における心負荷への影響を知ることは大変重要である.今回,我々は脳血管障害者に対し,歩行負荷時のBNP動態について評価したので報告する.

    【方法】
    対象は,短下肢装具装着下で杖歩行自立可能な脳血管障害者9名(男性5名,女性4名,年齢54.1±7.2歳).骨関節疾患,糖尿病は除外した.コントロール群として年齢を適合させた健常者9名(男性6名,女性3名,年齢55.7±7.9歳)とした.プロトコールは,安静1時間の後,40分間の歩行を行い,その後,回復として1時間の安静をとってもらった.運動負荷は40分間の平地歩行で,20m間隔で目印を設置した2点間を,快適な歩行速度で往復してもらった.また,健常者は脳血管障害者の条件と同様にするため,左右どちらかに短下肢装具を装着して実施した.測定項目はBNP,HR,Borg指数とし,歩行開始前,歩行20分目,歩行終了直後,終了1時間後に採血および測定を行った.結果の解析は,ANOVAを行いpost hocテストでTukeyを用いて歩行前後での検定を行い有意水準は5%とした.

    【説明と同意】
    本研究は和歌山県立医科大学倫理委員会で承認されており実験に先立って被験者には研究の主旨と方法を文書と口頭で十分に説明し,同意を得た上で施行した.

    【結果】
    脳血管障害者のBNPは,歩行前12.3±6.6pg/ml,歩行20分目13.7±6.7pg/ml,歩行終了直後13.7±8.0pg/ml,終了1時間後13.2±6.2pg/mlと有意な変化は見られなかった.健常高齢者のBNPにおいても,歩行前8.7±6.2pg/ml,歩行20分目11.0±8.7pg/ml,歩行終了直後11.5±8.2pg/ml,終了1時間後9.6±6.9pg/mlと有意な変化は見られなかった.また両群間において有意差はなかった.脳血管障害者の心拍数は,歩行前73.3±10.4beat/min,歩行20分目107.8±18.8beat/min,歩行終了直後114.6±23.1beat/min,終了1時間後78.3±11.1beat/minであり,歩行前の値と比較して,歩行20分目,歩行終了直後ともに有意な上昇を認めた.また健常高齢者の心拍数は,歩行前74.3±8.2beat/min,歩行20分目97.4±11.6beat/min,歩行終了直後102.2±14.8beat/min,終了1時間後70.4±9.2beat/minと有意な変化はなかった.脳血管障害者のBorg指数は,歩行前8.2±1.9,歩行20分目13.1±2.8,歩行終了直後14.1±2.0,終了1時間後8.8±2.6と歩行前と比較し,歩行20分目,歩行終了直後ともに有意な上昇を認めた.また健常高齢者のBorg指数は,歩行前9.2±1.9,歩行20分目 11.4±0.9,歩行20分目12.1±1.1,終了1時間後8.9±1.8と有意な変化は見られなかった.

    【考察】
    健常者においては,歩行負荷時に心拍数の上昇は認めず,Brog指数においても歩行時に上昇を認めなかった.一方,脳血管障害者においては,歩行負荷において心拍数の有意な上昇を認め,Brog指数の上昇を認めた.つまり,同様の歩行負荷においても健常者に比べ脳血管障害者には身体に大きな負荷がかかっている事が示唆された.しかし,健常者および脳血管障害者ともに歩行負荷時においてBNPの上昇は認めなかった.この事より,今回行った歩行負荷は,脳血管障害者においても心臓への負荷はBNPが変化するほど大きなものではなかったと考えられた.

    【理学療法学研究としての意義】
    今回の研究で,実際臨床の現場でよく行っている歩行練習がどれだけの運動負荷,また心負荷になっているのかを考えることができた.理学療法を行う上で,リスク管理が重要であることは言うまでもないが,医学的,科学的根拠を基にリスクを考える事が重要である.
  • 曽田 武史, 岡田 由起子, 松尾 聡, 萩野 浩, 河合 康明
    専門分野: 基礎理学療法23
    セッションID: PI2-052
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/05/26
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    歩行能力が低下した患者の歩行運動の際に用いる介助機器には杖や歩行器などがあるが,上肢筋力の弱い高齢者には負担が増大し,持久性の歩行運動ができない場合が多い.近年ではハーネス式による荷重免荷装置を用いた歩行運動が行われている.しかし,ハーネス式は,免荷量が大きくなると血圧上昇を招くことや,対象者に不快感を与えやすいことが報告されており,快適な歩行運動を行えるとはいい難い.このようなことから,我々は下半身陽圧負荷(Lower Body Positive Pressure: LBPP)を加え,下肢荷重量を減少させる歩行介助装置を開発した.本研究では, LBPPによる心拍数(heart rate:HR),血圧,下肢皮膚血流量(lower limb skin blood flow:LSBF)への影響について検討した.
    【方法】
    中枢神経疾患,呼吸器・循環器疾患,整形外科疾患の既往がなく,非喫煙者である若年女性17名(年齢21.9±1.6歳,身長159.0±5.1 cm,体重52.8±4.2 kg)を対象とした.下半身陽圧負荷装置(昭和電機)は,上部に穴が開いたナイロン製袋に送風機が外付けされているもので,その袋内にはトレッドミルが装備されている.対象者はウエストシール(スカートのようなもの)を履き,ナイロン製袋の上部に開いた穴をウエストシールで密閉する.そして,外付けの送風機から空気を送り込み袋内の圧力を高めると対象者を押し上げる浮力が生じ,対象者の下肢荷重量を減少させることができる.被験者には,来室後10分程度安静にさせ,LBPP 20 mmHgを加えたときの体重を測定した.そして,安静立位3分間後,時速3kmの速度で15分間の歩行運動させた.歩行運動は,最初の5分間は通常歩行させ,その後LBPP 20mmHgを加えた状態で5分間歩行させた後,再度5分間通常歩行させた.心電図は,心電図モニター(OMRON,BP-608 EvolutionII)を使用し,II誘導にて記録した.LSBFは,レーザードップラー血流計(Advance,ALF 2100)を用い,センサーを腓腹筋外側頭上に取り付けた.心電図およびLSBFは,サンプリング周波数1000HzでAD変換した.データはMATLAB(Mathworks)を用いて解析し,RR間隔からHRを算出した.各データは,30秒間の平均値を1分毎に算出した.血圧は,手動血圧計にて右上腕で収縮期血圧(SBP)および拡張期血圧(DBP)を,歩行開始3分後,8分後(LBPP開始3分後),13分後(LBPP停止3分後)に各々2回ずつ測定し,平均値を求めた.さらに,SBPとDBPから平均血圧(MBP)を算出した.統計解析は,Dr-SPSS II for WINDOWS 11.01 Jを用いた.LBPP負荷を加えたときの体重の変化は,対応のあるt検定を行った.また,HR,LSBF,SBP,DBP,MBPは一元配置反復測定分散分析を行い,有意差が得られたものに対し,Bonferroni testを行った.統計的有意差はP<0.05とした.尚,本研究は,鳥取大学医学部倫理審査委員会の承認を得ている.
    【説明と同意】
    研究実施前に,各被験者に研究内容を説明し,書面にて同意を得た.
    【結果】
    20 mmHgのLBPPを加えたときの体重は22.0±3.8 kgであり,通常体重よりも有意に低下した.歩行運動中におけるHRは,LBPP負荷中に減少し,LBPP負荷後に再度上昇した.LSBFは,LBPP負荷前に緩やかに増加したが,LBPP負荷中にほぼ歩行開始時の値まで低下し,LBPP負荷後は再度増加した.SBPおよびMBPは歩行運動中に有意差を認めなかった.LBPP負荷中のDBPは,LBPP負荷後に比べ有意に高かったが,LBPP負荷前のDBPと有意差はなかった.
    【考察】LBPPが高まると末梢血管抵抗が上昇し,静脈還流量の増加により心拍出量が増加し,血圧が上昇することが予測される.本研究において20 mmHgのLBPPでは,DBPは僅かに上昇したが,SBPやMBPは有意な変化がなかった. 一方,HRはLBPPにより低下した.このことから,20 mmHg 程度のLBPPは,下肢荷重量を減少させ,歩行運動における心血管系への負担を軽減させることが示唆された.LSBFはLBPPにより抑制された.このことは,LBPPによる皮膚の圧迫によるものか,下肢筋活動量の減少に伴う熱放散の減少によるものか不明であり,今後の検討課題である.
    【理学療法学研究としての意義】
    下半身陽圧負荷装置を用いたトレッドミル歩行は,下肢への荷重量を減少させ,心血管系の負担の少ない有用なリハビリテーションのツールの一つになる可能性がある.
  • 温度感覚異常を訴える症例の検討
    櫻井 博紀, 佐藤 純, 吉本 隆彦, 大道 裕介, 森本 温子, 大道 美香, 西原 真理, 新井 健一, 牛田 享宏
    専門分野: 基礎理学療法23
    セッションID: PI2-053
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/05/26
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    慢性痛に苦しむ患者は運動器の障害を伴っていることが多く理学療法の対象となっている。天気の変化によって古傷が痛む、今ある痛みの症状が悪化する、逆に緩和するといったことは日常体験として知られているが、特に慢性痛患者は、雨の降る前や寒くなったとき、また季節の変わり目など、気温・湿度・気圧が変化する時に訴える場合が多い(気象痛という)。しかしながら、これらの気象パラメータの変化が運動器慢性痛に及ぼす影響についての研究は疫学的に行われているのみで、実証的な研究はほとんど行われていない。そこで今回、運動器慢性痛患者で特に温度感覚異常を訴える患者に対して、人工的に気温を変化させることで気象痛が再現されるかどうか検討し、そのときの自律神経系動態についても解析した。

    【方法】
    対象は外傷後に上肢の神経障害性疼痛をきたし、寒さを感じなくなったと訴える慢性痛患者2名および健常者1名である。慢性痛患者において、被験者Aは右上肢のCRPS後術後障害で、罹患期間13年、症状として自発痛、感覚脱失、運動麻痺がある。被験者Bは事故による右上肢の引き抜き損傷で、罹患期間4ヶ月、症状として自発痛、感覚脱失、運動麻痺がある。
    実験は、温・湿度が制御可能な人工気候室内にて、寒冷曝露試験では被験者に27°C、50%の定常状態から25分程度で15°C、50%に寒冷曝露を行い、5分間保持した後15分で再び27°C、50%に戻した。また、暑熱曝露試験では27°C、50%の定常状態から15分程度で40°C、50%に暑熱曝露を行い、30分間保持した。寒冷・暑熱曝露に伴う主観的感覚の変化として、患部の自発痛と全身の温度感覚を質問表で5分ごとに測定した。自律神経系動態のパラメータとして皮膚温をサーモグラフィで5分ごとに測定し、また、サーミスタで上肢皮膚温および鼓膜温(深部温)、レーザードプッラー血流計で上肢皮膚血流量、さらに心電図を同時に連続測定した。暑熱曝露においてはこれらのパラメータとともに発汗量をカプセル法にて測定した。

    【説明と同意】
    被験者には本研究の趣意を十分に説明し、文書にて同意を得た。また、本研究は愛知医科大学倫理委員会および浜松大学倫理委員会の承認のもとに行った。

    【結果】
    健常者では、温度感覚として寒さを感じる15°Cにおいても、痛み感覚はほとんどなく、変化しなかった。慢性痛患者においては、15°C曝露下で両被験者ともに皮膚温、鼓膜温は低下したが、温度感覚として寒さを訴えることはなかった。しかし、患部の痛み感覚は増強した。皮膚血流量は15°C曝露下で健常者、慢性痛患者ともに低下したが、健常者では左右同期して寒冷曝露開始後急速に低下したのに対し、慢性痛患者では緩徐な低下であった。さらに、被験者Aでは健肢側に対して患肢側の変化が小さかった。暑熱曝露においては、発汗は両患者においてみられたが、被験者Bでは健肢側に対して患肢側が少なかった。

    【考察】
    運動器慢性痛患者に対して人工的に寒冷曝露することによって、慢性痛が気温低下時に増強する現象を再現することができた。また、病態により差異はあるものの、自律神経系動態のパラメータにおいて患肢側の変化が少ないなどの非対称性がみられた。これらのことから、本実験の被験者においては疼痛系の異常だけでなく、温度受容器などを介した感覚系、さらには交感神経系や体温調節系に関与する自律神経系の変化が様々な形で生じている可能性が考えられた。それにより気温変化に対する適応能力の変容などが生じているものと考えられる。

    【理学療法学研究としての意義】
    運動器障害をともなう慢性痛の有病率は世界的に高く、医療費や生産性減少による社会的損失が大きな問題となっている。本実験の患者では、気象変化によって動作時の痛みの増強や、体表面でなく深部が鈍く痛むと訴えるなど、筋をはじめとした運動器障害の関与が伺える。本研究により、気象痛においても、筋など運動器への理学療法アプローチの有効性を裏付けることにつながると考えられる。
  • 負荷運動時との比較検討
    文 哲也, 白石 大地, 浅海 靖恵, 山本 篤, 森田 喜一郎, 志波 直人
    専門分野: 基礎理学療法23
    セッションID: PI2-054
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/05/26
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    多チャンネル近赤外線スペクトロスコピー(NIRS)は,非侵襲的かつ簡便に,大脳皮質の局所脳血流量の変動を画像として捉えることのできる装置である.近赤外線の散乱光を用いて,脳表面の血管ヘモグロビン濃度を非侵襲的に測定することができ,空間分解能は低いが(2~3cm),時間分解能は他の脳血流評価法に比べて高い(0.1秒)という特徴を持つ.また,比較的小型で可搬性に優れており,簡便に計測することができ,データを二次元画像化することによって,脳機能のダイナミックな変化を視覚的に知ることができる.しかし,課題により多くの変動がある極めて不安定な装置でもあり,慎重な検査・評価が必要である.前回,無負荷での掌握運動時の脳血流量の変動特性と再現性について報告した.今回,プローブ配置の再検討,また,上肢運動の無負荷時および負荷時の脳血流量の変動を健常ボランティアで計測・評価したので報告する.
    【方法】
    対象は,全て右利きで,運動麻痺等の神経学的障害の無い健常者12名とした.多チャンネルNIRS(日立メディコ,ECG-4000,合計22チャネル)を用いて右上肢運動を行い,次に重錘負荷をかけ同様の運動をしてもらい脳血流量の変動の検討を行った.上肢運動時の計測は下顎を台にのせ,できるだけ頭部を固定した状態で行い,運動をせずに座した状態をレスト条件(40秒)とし,運動時を課題条件(20秒)として5回施行した.プローブは縦3×横5とし,脳波国際10/20法に基づき,中心列をT3-C3-Cz-C4-T4上に置き,中央のプローブをCzとして頭頂を覆うように配置した.統計処理は一元配置分散分析を用い,危険率5%未満を有意とした.
    【説明と同意】
    本研究は久留米大学倫理委員会の承認を得て,総ての対象者に研究内容を書面にて説明し同意を得て実施した.
    【結果】
    データは5回の運動課題施行中の酸化ヘモグロビン(Oxy-Hb)量を加算平均し,0.1秒ごとに近似面積量をとり解析した.加算平均波形は,課題に伴い徐々に上昇し,終了後徐々に戻るというような波形を呈した.また,脳血流が平均値以上のチャネルを関心領域(ROI)として,右脳側,左脳側を比較検討した.右上肢運動時においては,左脳記録部が右脳記録部より有意な血流増大が観察された.負荷時にも左脳記録部が右脳記録部より有意な血流増大が観察され,無負荷時と比較しても血流増大が観察された.
    【考察】
    多チャンネルNIRSを用いて負荷運動時の大脳皮質の局所脳血流量の変動を解析した.上肢運動において,運動野を含む部位の賦活が観察された.また負荷時には無負荷時よりも血流は増大することがわかった.多チャンネルNIRSを用いた上肢運動時の脳血流量変動は,再現性もあり,運動野探索にも簡便で,リハビリテーションの効果判定としても応用可能である.
    【理学療法学研究としての意義】
    多チャンネルNIRSは,運動系の生理学的指標となりえ,リハビリテーションにおける評価に応用可能であることが示唆された.今後は実際の臨床現場でも活用し慎重に検討していきたい.
  • 酸素濃度14.5%と20.9%での脂肪酸化率,ブドウ糖酸化率およびエネルギー消費率の比較
    片山 訓博, 大倉 三洋, 藤原 孝之, 藤本 哲也
    専門分野: 基礎理学療法23
    セッションID: PI2-055
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/05/26
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    ヒトは,生命維持のためにはエネルギーの産生が必要で,その過程には有機的過程および無機的過程があり,有機的過程には酸素が必要不可欠である.海抜0m地点では酸素濃度20.9%であり,標高3,000mに至ればその値は14.5%と低くなり,気圧の影響を受ける.生活習慣と環境との関連からは,標高1000~3000mの高地住民には,冠疾患や高血圧などの発生率が低く,長寿者の多いことが報告されている.
    今回,本研究では低酸素環境と通常酸素環境によるエネルギー代謝への影響について脂肪酸化率、ブドウ糖酸化率およびエネルギー消費率を比較し,検討したので報告する.

    【方法】
    対象は,健常成人男性7名で年齢20.28±0.75歳,身長168.3±6.5cm,体重67.3±11.2kgであった.被験者は前日の夕食以降絶食として翌日の午前中に実験を行った.研究の条件は,常圧下での低酸素濃度環境(以下,低酸素)(酸素濃度14.5%,0.7atm,高度3,000m相当)および通常酸素濃度環境(以下,通常酸素)(酸素濃度20.9%,1.0atm)とした.各条件下での30分間の安静座位における呼気ガス分析を行い,脂肪酸化率(以下,LOG,mg)およびブドウ糖酸化率(以下,GOR,mg)および,エネルギー消費率(以下,EER,kcal/分)を比較した.低酸素は,塩化ビニール製テント(容積4.0m3)と膜分離方式の高・低酸素空気発生装置(分離膜:宇部興産製UBEN2セパレーター,コンプレッサー:アネスト岩田製SLP-22C)を用いて設定した.各条件での測定は,最初通常酸素条件で行い,その後1週間の間隔を設けて低酸素条件で実施した.呼気ガス分析は,エアロモニター(AE-300Sミナト医科学製)を用いた.各データは安静開始から終了まで1分間隔で測定し,5分間毎の平均値で比較検討した.NU(尿中窒素排出量/分)は0.008g/分で一定とした.LOR(mg)=1.689×(VO2-VCO2)-1.943×NU,GOR(mg)=4.571×VCO2-3.231×VO2-2.826×NU,EER(kcal/分)=(3.581×VO2+1.448×VCO2)/1,000-1.773×NUで得られたLOR,GOR,EERは体表面積で補正した.統計学的手法は,対応のあるt検定を用い,有意水準は危険率5%未満とした.

    【説明と同意】
    対象者には,研究の主旨・内容および注意事項について説明し,同意を得たのちに実験を開始した.

    【結果】
    LOGは,安静開始直後から終了まで通常酸素では大きな変化を認めず平均で27.6mg/m2,低酸素は平均28.6mg/m2であるものの終了時では42.1mg/m2となり,通常酸素より有意に多かった(p<0.05).
    GORは,安静開始直後から終了時まで低酸素と通常酸素の間に有意差を認めなかった.

    【考察】
    今回,常圧低酸素環境下での安静において,通常酸素濃度より安静時間25分から30分ではエネルギー代謝に影響を与え,脂肪酸化量が有意であった.
    低圧低酸素環境では,安静時代謝の亢進および脂質代謝が改善され,より効果的な減量が可能であると報告されている.常圧低酸素環境においても同様の効果が生じる可能性が示唆され,生活習慣病や減量を目的とした理学療法を施行する時の環境として利用できると考える.

    【理学療法学研究としての意義】
    生活習慣病である糖尿病は,平成19年度の国民健康・栄養調査によると予備軍を含めれば2210万人といわれ,その予防・改善は大きな課題である.今回の研究は,脂質代謝が有意になる結果となり,生活習慣病患者が運動を行う場面での応用できる,有用な意義があると考える.
  • WBIと握力を用いて
    岩本 博行, 松岡 健, 江口 淳子, 藤原 賢吾, 高山 正伸, 西山 修, 田代 成美, 江島 智子, 清水 紀恵, 古田 幸一, 中山 ...
    専門分野: 基礎理学療法24
    セッションID: PI2-056
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/05/26
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】介護保険施行に伴い、厚生労働省が推奨している介護予防マニュアルのなかに運動器の機能向上マニュアルがある。高齢者運動能力測定項目の筋力評価としての握力、柔軟性・バランス能力評価としてのファンクショナル・リーチ、複合動作能力評価としてのタイム・アップ・ゴー、バランス能力評価としての開眼片脚立ち時間、歩行能力評価としての通常歩行時間・最大歩行時間の5項目があり、特定高齢者・要支援高齢者別のアウトカム指標となっている。立位バランス制御として足関節戦略、股関節戦略などがあり、特に前後方向への内乱、外乱に対してのバランス制御についての報告は多いが、側方へのバランス制御と筋力の関係の報告は少ない。そこで、今回は健常成人による上肢筋力評価としての握力、下肢筋力評価としての体重支持指数(Weight Bearing Index:以下、WBI)が側方バランス制御にどのような影響を及ぼすかについて検討した。
    【方法】対象は平衡機能、上肢・下肢・体幹機能に問題のない健常成人41名(男性31名、女性10名)、年齢は平均24.51±4.21歳、身長は平均167.87±8.63cm、体重は平均65.21±13.91kgであった。下肢筋力の定量的評価としてWBIを用いた。測定にはBiodex社製system3で膝関節70°屈曲位、膝伸展筋群等尺性随意最大筋力を測定し体重比にて算出した。測定時間は7秒間、インターバル10秒とし、左右2回ずつ行い平均値をWBIの値とした。上肢筋力の定量的評価として握力計を用い、一般的な評価方法である体側垂下式で測定した。測定は左右2回ずつ行い平均値を握力の値とした。側方バランス制御の定量的評価として側方ファンクショナル・リーチを用い、閉脚立位で肩関節90°外転位、手指屈曲位とし、その肢位のまま側方への重心移動を足底が床面から離れない最大距離を測定した。測定は左右2回ずつ行い平均値を側方リーチの値とした。比較項目は、1)右WBIと右側方バランス、左WBIと左側方バランス、2)右握力と右側方バランス、左握力と左側方バランス、3)右WBIと右握力、左WBIと左握力の関係である。分析方法はPearsonの相関係数を用い、有意水準は危険率5%未満とした。
    【説明と同意】全ての被験者には動作を口頭および文章にて研究の趣旨を十分に説明し、同意を得たのちに実験を行った。
    【結果】右WBI(平均109.91±23.66)と右側方バランス(平均17.65±3.73cm)において中等度の正の相関(r=0.35、p<0.01)、左WBI(平均106.11±26.66)と左側方バランス(平均17.82±4.10cm)において有意な高い正の相関を認めた(r=0.79、p<0.01)。右握力(平均41.20±11.23kg)と右側方バランスにおいて中等度の正の相関(r=0.33、p<0.01)、左握力(平均39.43±11.01kg)と左側方バランスにおいて中等度の正の相関を認めた(r=0.39、p<0.01)。右WBIと右握力(r=0.48、p<0.01)、左WBIと左握力において中等度の正の相関を認めた(r=0.52、p<0.05)。
    【考察】同側の下肢筋力と側方バランスにおいて正の相関を認めたことより、WBIが大きいと側方へのリーチ距離が長くなり、側方バランス制御が良好であることが示唆された。しかも、左側は高い相関を認めており、対象者の大多数が左下肢を支持脚として用いており、そこに何らかの関係があるのではないかと推測される。同側の上肢筋力と側方バランスにおいて正の相関を認めたことより、握力の評価は単なる上肢筋力評価ではなく、同側の側方バランス制御の評価としても用いることができるのではないかと考えられる。また、WBIと握力の間にも中等度の相関があり、健常成人の身体の筋力、柔軟性、バランスにはWBIと深い関係性があることが推測される。WBIは体力の定量的評価であり、WBIが高いと側方バランス制御が良好と考えられるが、今後は側方バランス制御に大きく関係している中殿筋とWBIの関係性を考えていきたい。
    【理学療法学研究としての意義】今回の研究でWBIと握力の評価は上下肢筋力の評価に留まらず、側方バランス制御の評価となりうることが示唆された。今回は健常成人が対象であったため、今後、高齢者を対象として検討していきたい。また、山本らは高価な筋力測定専用機器を使用せず、台からの立ち上がり動作という安価で、使用場所を選ばないWBIの評価を考案している。それにより、WBI、握力とも簡単に施行することが可能であり、高齢者の転倒予防評価指標の一つとして活用できる可能性があると考えられる。
  • 機能的特徴の検討
    曽田 直樹, 植木 努, 池戸 康代, 西沢 喬, 吉村 孝之, 種田 智成, 山田 勝也
    専門分野: 基礎理学療法24
    セッションID: PI2-057
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/05/26
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】膝窩筋の主な機能的特徴では,膝関節屈曲,下腿内旋作用が広く認識されている.しかし過去の報告では,下腿内旋作用について多くの報告があるが,膝関節屈曲作用に関して統一した見解が得られていない.先行研究では,検体の大腿骨側の付着部が屈伸軸の前方に位置していることから膝関節伸展に作用することが報告されている.また針筋電図を用いた研究では,膝関節伸展時に膝窩筋の活動が確認されている(Ann-Katrin 2008).一方では,検体を使った研究から膝関節屈曲伸展のモーメントアームを計測し,屈伸作用がほとんどないことが報告されている(William 1997).
    また,屈伸作用同様,膝窩筋の解剖学的特徴の報告にもばらつきが多い.検体を用い膝窩筋の外側半月板への付着を調査したところ,95%が付着すると報告されている(Feipel 2003).一方,検体の膝窩筋の55%で外側半月板に付着し,45%で付着しないという報告もある(Alfred 1989).
    このように膝窩筋の機能や解剖学的特徴についてまだまだ未知な部分も多く,明確な知見は得られていない.また先行研究の多くが検体を用いており,生体を用いた研究はあまり行われていない.そこで本研究では,生体での観察に超音波画像診断装置(超音波)を用い,膝窩筋の安静時及び運動時の筋厚を観測することでその機能を調査することを目的とした.
    【方法】対象は,健常成人30名(年齢21.1±3.2歳,身長164.9±9.5cm, 体重60.0±9.9kg)とした.測定課題は,等尺性膝関節屈曲,伸展,下腿内旋運動とし,順不同にて行った.膝窩筋筋厚の測定には,超音波(東芝メディカルシステムFamio8)を用い,プローブにはリニア式電子スキャンプローブ(12.0MHz)を使用し,Bモードで撮影を行った.なおプローブの操作する検者は,特定の1名とし十分な練習を行った上,実施した.測定肢位は,ベッド上で腹臥位とし,膝関節屈曲45度とした.検者は,膝窩部(内側顆と外側顆を結んだ線)と平行にプローブを当て,画像を確認しながら膝窩動脈,腓骨頭を確認した.その後,腓骨頭から内下方へと膝窩筋の走行に沿ってプローブを動かし,膝窩筋筋厚を同定した.ヒラメ筋や腓腹筋との判別は,足関節の底屈(自動)を行い収縮がないことを確認した.なおプローブと皮膚との接触圧によって画像上の軟部組織が湾曲しないことを常時確認し測定を行った.膝窩筋を同定後,安静時の膝窩筋筋厚を記録し,その後,各課題(膝屈曲,伸展,下腿内旋)を実施し,その時の筋厚を記録した.記録した画像は,画像解析ソフトimage Jを用いて解析した.解析は,各画像に対して3回計測を行い,その平均値を使用した.なお筋厚の測定は,表層の筋膜と深層の筋膜の間で測定し,運動時は,その最大筋厚部を筋膜に垂直になるように測定した.データの処理は,1)対象者の中から無作為に10名を選出し,同日もう一度,膝窩筋筋厚の計測を行い,膝窩筋測定の級内相関係数(ICC)を算出した.2)各課題での筋厚と安静時の筋厚を比較し増加が認められた割合を算出し,膝窩筋の機能的特徴を考察した.なおICCの算出には,統計ソフトSPSSver13を用いた.
    【説明と同意】対象者には,本研究の主旨および方法,研究参加の有無によって不利益にならないことを十分に説明し,書面にて承諾を得た.なお本研究はヘルシンキ宣言に基づき実施した
    【結果】1)膝窩筋筋厚測定の級内相関係数ICC(1,1)=0.899であった.2)安静時の膝窩筋の筋厚の平均値は,9.4±1.6mmであった.筋厚の増加が認められた課題の割合は,30名中,下腿内旋時27名(90%),膝関節屈曲時21名(70%),伸展時9名(30%),どちらにも変化なし6名(20%)であった.
    【考察】膝窩筋の筋厚の測定における級内相関係数は,0.899であった.LandisらのICC判定基準より0.8以上は良好であったといえる.また他の部位での超音波測定の信頼性と比較しても同等の結果であったことから,膝窩筋の測定に超音波が有用であると考えられる.
    また機能的特徴では,下腿内旋において90%で筋厚の増加が認められた.つまり先行研究(Basmajian 1971)同様,下腿内旋作用が膝窩筋の主な機能であることが示唆された.加えて,膝関節屈伸作用おいては,その割合から膝窩筋の膝関節屈曲作用を支持する結果となった.しかし伸展においても30%,また変化なしが20%存在したことから,筋の走行が膝関節屈伸軸近くに存在し,屈曲伸展作用のどちらにしてもその機能は補助的な役割である可能性が考えられた.
    【理学療法学研究としての意義】 膝窩筋の筋厚の測定において超音波は,有効な手段になりえる可能性がある.また下腿の内旋は,膝窩筋を活動させるための有効な運動であることが示唆された.


  • 市川 和奈, 竹井 仁, 松村 将司, 宇佐 英幸, 小川 大輔, 見供 翔
    専門分野: 基礎理学療法24
    セッションID: PI2-058
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/05/26
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    【目的】姿勢アライメントに関する研究は、部位別のアライメントと筋力の関係を調べたものや、加齢による変化や疼痛との関係を調べたものは散在するが、頭部・頸胸椎・肩甲骨・上肢全体を関連づけてアライメントと筋力および関節可動域との関連を調べたものはみられない。本研究では立位における頭部・頸胸椎・肩甲骨・上肢アライメントと筋力および関節可動域との関連を検討した。
    【方法】被験者は整形外科的既往のない健常成人32名(男性14名、女性18名)で、平均年齢は21.9(19-27)歳、身長と体重の平均値(標準偏差)は男性173.2(5.2)cm、63.2(8.0)kg、女性159.9(5.1)cm、50.2(6.2)kgであった。肩甲骨アライメントの測定項目は、1)肩甲骨の前額面に対する前方傾斜角度[°]、2)肩甲棘基部から胸椎棘突起の水平距離[cm]、3)肩甲骨内側縁の大菱形筋下縁付着部から胸椎棘突起の水平距離[cm]、4)肩甲骨の回旋角度[°](上方回旋角度を正とする)の4項目。頭部・頸胸椎アライメントの測定項目は、5)C7を通る垂直線とC7と耳珠を結んだ線の角度(Forward Head Angle)[°]、6)スパイナルマウス(Index社製)による胸椎後弯角[°]の2項目とした。被験者の骨指標にマーカーを貼付し、自然立位をとらせ、10m離れた位置に設置したデジタル一眼レフカメラ(Canon EOS Kiss X4)を用いて撮影した。解析にはシルエット計測ver4.00(MedicEngineering Inc)を使用した。傾斜角は対象者の頭上に鏡を設置し、撮影した画像から角度を測定した。なお、2)3)は身長で除した比率[%]を測定値として使用した。筋力は肩甲骨挙上、肩甲骨下制・内転、肩関節伸展、体幹伸展の4項目、関節可動域は頸部、上肢帯、肩関節、体幹において16項目を測定した。関節可動域測定にはゴニオメーター、筋力測定にはハンドヘルドダイナモメーター(ANIMA社製μTasMT-1)を使用した。筋力値は5秒間の最大随意収縮を2回行い、平均値をモーメントアーム長・体重で補正した値[kg・m/weight]を測定値とした。統計解析は、まず右肩甲骨アライメント4項目を変数としたクラスター分析を行い、対象を3群に分類したのち3群間で姿勢アライメント、筋力、関節可動域項目を従属変数として一元配置分散分析と多重比較(LSD法)を実施した。統計解析ソフトはPASW Statistics18を使用した。有意水準は5%とした。
    【説明と同意】本研究は首都大学東京荒川キャンパス研究安全倫理委員会の承認(承認番号:09048)を得た上で、被験者に本研究の目的を十分に説明し、書面にて研究参加の同意を得た。
    【結果】クラスター分析により分類された3群はA群10名(男性5名、女性5名)、B群16名(男性5名、女性11名)、C群6名(男性4名、女性2名)となった。有意差が認められた項目は以下のとおりである。1)ではB群、C群に対しA群が有意に前方傾斜していた。2)ではB群に対しA群、C群が有意に外転していた。3)ではB群、C群に対しA群が有意に外転していた。4)ではA群、B群に対しC群が有意に下方回旋していた。5)ではB群に対しC群で有意に頭部が前方変位していた。6)ではB群に対しC群で有意に胸椎が後弯していた。関節可動域では頸部左側屈にてA群に対しC群が有意に小さい値を示した。
    【考察】肩甲骨アライメントと頭部・頸胸椎アライメントの結果より、A群は肩甲骨外転・前方傾斜群、C群は胸椎後弯・前方頭位・肩甲骨下方回旋群に分類された。肩甲骨は胸郭上のTh2~Th7の間に位置し、前額面で30~35°前方傾斜している。内側縁は脊柱にほぼ平行で、胸椎との距離は成人男性で約7cmである。また、胸椎後弯角の平均は男性39.8°女性33.8°である。B群はこれらの値に最も近く、理想的なアライメントを有する群であると考える。また、関節可動域ではC群において頸部側屈角度が有意に減少していた。この群は肩甲骨が下方回旋していることから肩甲挙筋が短縮していると考える。一方、A 群では下方回旋していないことから側屈角度で有意に大きい値を示した。このようにA群、C群ではアライメントと関節可動域に関連がみられたが、B群ではみられなかった。本研究の被験者は健常成人であり年齢も若いことから、組織の解剖学的変化よりも日常的な反復動作や同一姿勢の保持といった個人差の影響が大きく、アライメント・筋力・関節可動域の間に明確な関連がみられなかったと考える。特に筋力においては群間での男女比のばらつきが影響し、有意差がみられなかったと考える。今後は対象数を増やし、年齢別での検討、男女別での検討が必要であると考える。
    【理学療法学研究としての意義】健常人の姿勢アライメントを分類し類型化することで今後引き起こされる筋・骨格系の機能障害が予測でき、それを予防するためのエクササイズの考案や患者への生活指導が的確に行える点で意義があると考える。
  • 川村 和之, 岡田 啓太, 栗本 由美, 中 徹
    専門分野: 基礎理学療法24
    セッションID: PI2-059
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/05/26
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    脊柱のアライメント不良が,腰痛の発現と関係があることは周知の事実である。最近の研究では,脊柱を安定させる筋群の筋力低下が原因で,脊柱のアライメント不良が起こると報告されている。しかしながら,脊柱のアライメントと体幹筋群の形態・機能との関連性は十分に明らかになっていない。この関連性を明らかにする一つの手段として,様々な姿勢において,脊柱アライメントを反映する脊柱弯曲角度と体幹筋力を反映する同筋群の筋厚の関係性を検討することが考えられるが,筋厚は体格差に影響を受ける可能性があるため, BMI,身長,体重などによる補正が必要と考えられる。今回の研究目的は,脊柱のアライメントと体幹筋群の形態・機能との関連性を明らかにするために,筋厚の実測値,補正値のどのデータを使うことが望ましいかを予備的に明らかにすることである。第二にそのデータをもとに脊柱弯曲角度と筋厚の関係性を試行的に明らかにすることを目的とする。
    【方法】
    対象は,脊柱運動に影響を与える外傷および外科的手術,腰痛経験のない健常男性13名(年齢23±2.59歳, BMI 21±1.80,身長171±8.44cm,体重63±8.53kg)とした。脊柱弯曲角度は,Spinal Mouse(Index社製)を用いて直立位・伸展位・屈曲位の条件を定めた3姿勢にて被験者ごとに3回測定し,その平均値を測定値とした。筋厚の測定は,超音波診断装置(株式会社日立メディコ社製,MyLab25)を使用し,脊柱弯曲角度と同一の3姿勢条件にて腹直筋・腹横筋・内腹斜筋・外腹斜筋・多裂筋を被験者ごとに3回測定し,その平均値を測定値とした。計測した実測値以外に,BMI,身長,体重それぞれで補正した補正値も計算により得てそれらを比較検討した。比較方法は,それぞれの値の95%信頼区間の平均値に対して誤差範囲の占める割合により判断した。続いて試行した三姿勢間における筋厚の差は,Friedman検定を用いて比較検討を行った。脊柱弯曲角度と筋厚の相関はSpearman順位相関係数を用いて有意水準5%にて検討した。
    【説明と同意】
    対象者には,ヘルシンキ宣言に沿い,試験の目的・方法・手段,個人情報の保護について口頭で説明し,書面による同意書を得た。なお,本研究は鈴鹿医療科学大学の臨床試験倫理審査委員会の承認を得ている。
    【結果】
    95%信頼区間の平均値に対して誤差範囲の占める割合は,実測値が腹直筋・内腹斜筋・外腹斜筋・多裂筋において他と比較して低値な傾向にあった。腹横筋はBMI補正値が最も低値であった。全体的にみると,誤差範囲の割合が最も少なかったのが実測値であり,続いてBMI補正値,身長補正値,体重補正値の順であった。以上より今回は実測値を採用して検討することとした。
    実測値の三姿勢間における筋厚の差は,腹直筋において,直立位よりも屈曲位の方が,伸展位よりも屈曲位の方で有意に筋厚が厚かった(p<0.01)。脊柱弯曲角度と筋厚の相関では,伸展位の腰椎前彎角と多裂筋の筋厚に負の相関(r=-0.56 p<0.05),屈曲位の腰椎後彎角と内腹斜筋の筋厚において正の相関が認められた(r=0.58 p<0.05)。
    【考察】
    概ね実測値が補正値よりも誤差範囲の占める割合が少なく,筋厚の測定値における信頼性は,今回は実測値が良いことが示唆されたが,対象者が男性のみであることやBMIよりやせ型が多かったことなどが影響している可能性もあるため,断定することはできない。今後は女性や,多様な体型,年齢層などの測定値も加えて検討する必要性が考えられた。
    姿勢間における筋厚の差では,腹直筋において直立位よりも屈曲位の方が,伸展位よりも屈曲位の方で有意に筋厚が厚かったが,腹直筋の測定においては姿勢による影響が大きく,計測時の姿勢条件が重要となることが考えられた。脊柱弯曲角度と筋厚の相関は,伸展位の腰椎前彎角と多裂筋の筋厚に負の相関,屈曲位の腰椎後彎角と内腹斜筋の筋厚において正の相関が認められた。つまり,伸展位の多裂筋においては筋厚が薄い方が,腰椎前彎角が大きくなるわけだが,腰椎は直立位より伸展位で多裂筋の筋力の弱さにより安定性が低下するという影響を受けやすことが考えられる。また,屈曲位では内腹斜筋が厚いほど腰椎後弯が大きくなるわけだが,屈曲位に加え内腹斜筋の筋厚が厚い方がより多く腹圧を上げることができるため,二重の意味で腰椎後彎を促す効果があると推察される。
    【理学療法学研究としての意義】
    今回の研究から,筋厚の実測値あるいは補正値の信頼性に関しては,多様な体型,年齢層などの測定値を加え検討する必要性が考えられた。また,腰椎前彎の増強は伸展位での多裂筋の筋厚を,腰椎後彎角の増加は屈曲位の内腹斜筋の測定が何らかの意味をもつことが示唆された。
  • 北島 貴大, 林田 智美, 村田 伸, 村田 潤, 甲斐 義浩
    専門分野: 基礎理学療法24
    セッションID: PI2-060
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/05/26
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    【目的】下肢機能を定量的に測定する方法として,座位での下肢荷重力測定法の有用性が報告されている.なお,下肢荷重力測定法は簡便かつ安価で高齢者に負担が少ないという利点がある.我々は昨年の本学術大会において,下肢荷重力の基礎的なメカニズムを解明する目的で,高齢者の下肢荷重力測定時における下肢主要筋の筋活動について検討した.しかしながら,対象者数が少なく十分な統計処理を行うまでには至らなかった.そこで本研究では,対象者数を増やし統計学的処理に基づき検討した.
    【方法】対象は,当院に入院および外来通院中の患者で,65歳以上であること,歩行に介助が必要なこと,重度の認知症および失語症が認められないことの条件を満たした12名(年齢74.0±5.0歳)である.方法は,測定姿位を治療台(プラットホーム型:高さ45cm)に端座位をとり,非障害側の足底に荷重計測装置を置いた状態で治療台端と膝窩部間に拳一個分空ける.測定開始の合図とともに,下肢で測定板を垂直方向に最大努力下で10秒間押してもらった.その際体幹の矢状面および前額面での動きは制限せず,測定板を押し易い姿勢をとらせ,殿部を治療台から離さないように留意した.測定下肢による踏みつけ動作時に伴う発生応力と大腿部筋(大腿直筋,大腿二頭筋長頭)および下腿部筋(前脛骨筋,腓腹筋)の筋放電量をリアルタイムで同時に記録し,比較検討した.荷重計測装置は,厚さ2mmのアルミ板を踏み込むときに発生するひずみ量を感知するストレンゲージセンサー(KFG-2N-120-C1,共和電業)を背面中央の2ヵ所に設置し測定した.また,筋放電量は大腿部筋(大腿直筋,大腿二頭筋長頭の中央部),下腿部筋(前脛骨筋,腓腹筋の外側頭の中央部)に双極表面電極を装着して筋電図を測定(Bagnoli-2 EMGSystem,DELSYS社製)した.運動開始および終了のマーカーとして電気スイッチの信号を用いた.解析ソフトにはAcqKnowledge3.7.3(BIOPAC Systems社製)を使用した.筋電図のデータは,全波整流の後,時定数0.02秒で積分処理をした.各筋の最大随意収縮(MVC)を基準筋放電位とし,実験で得られたデータを指数換算して%MVCで表した.統計学的処理は,一元配置分散分析および多重比較検定(Scheffe)で比較した.なお統計学的有意水準は5%とした.
    【説明と同意】被検者には研究の内容と方法について十分に説明し,同意を得た後研究を開始した.なお,本研究は西九州大学倫理委員会の承認を受けている.
    【結果】4筋とも放電量は運動開始とともに確認されたが,大腿四頭筋と前脛骨筋に比べ大腿二頭筋と腓腹筋の放電量の変化は極端に少なかった.各測定の平均値±標準偏差は,荷重量14.0±3.1kg,大腿直筋23.8±4.4%MVC,大腿二頭筋長頭2.5±1.0%MVC,前脛骨筋20.6±6.5%MVC,腓腹筋6.5±2.3%MVCであった.それら4筋の放電量を比較すると有意な群間差(F値=6.31,p<0.01)が認められ,多重比較検定により,大腿四頭筋と前脛骨筋は大腿二頭筋および腓腹筋の放電量に比べ有意(p<0.01)に大きかった.
    【考察】本研究は,歩行に介助が必要な高齢患者の非障害側下肢を対象に、下肢荷重力測定時にみられる大腿四頭筋、大腿二頭筋、前脛骨筋、腓腹筋の活動と下肢荷重量の動的変動をリアルタイムに計測し,それぞれを比較検討した.その結果,下肢荷重力測定時の筋放電量には有意差が認められ、大腿四頭筋と前脛骨筋は大腿二頭筋および腓腹筋の放電量に比べ有意に大きかった.健常成人9名を対象に行われた先行研究では,平均荷重量が36kg,平均筋活動は大腿直筋が39%MVC,大腿二頭筋長頭が27%MVCであり,歩行障害を有する高齢者は健常成人に比べ荷重量,筋活動ともに低い.また,高齢者の下肢荷重力測定における筋活動の特徴として大腿部筋後面筋である大腿二頭筋長頭および下腿部筋後面筋である腓腹筋の筋活動が拙劣であり,健常成人には認められた同時収縮が高齢者では認められなかった.このことから,高齢者の下肢荷重力の低下は筋力低下のみならず,下肢筋群での同時収縮などの協調性の低下も要因となっている可能性が推測された.
    【理学療法学研究としての意義】簡便かつ安価で高齢者に負担が少ない座位での下肢荷重力測定の臨床現場における有用性は,先行研究により報告がされている.この下肢荷重力における基礎的メカニズムの解明は,理学療法分野の研究として重要である.
  • 吉村 洋輔, 伊勢 眞樹, 森本 正治, 石田 弘, 小原 謙一, 大坂 裕, 伊藤 智崇, 渡辺 進
    専門分野: 基礎理学療法24
    セッションID: PI2-061
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/05/26
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】切断者の歩行分析や義足歩行のダイナミックアライメントのチェックは床反力計を用いて行われる事が多い.しかし,床反力計の設置には,専用の計測場所が必要であり,計測のためのソフトウェアも高価であるため,限られた機関でしか行えないのが実情であるといえる.さらに,計測板の上を接地している間の数歩の歩行しか計測できないという欠点もある.
    そこで,義足の支柱部に小型6分力計を組み込み,歪みアンプとA/D変換器を介し歩行動作時の力学的データをコンピュータに取り込む装置を考案した.これまで限られた空間でしか計測する事ができなかった床反力を義足の支柱部に組み込んだ小型6分力計の値から推定し,それを臨床の評価・訓練場面でも活用できる方法の検討を目的とした.
    【方法】歩行時に床面に伝わる力学的情報の計測の新しい方法の開発のために,健常者が大腿義足での歩行を体験できる模擬大腿義足(橋本義肢製作株式会社製)を用いた.具体的には,工場などでの製品プレス時の荷重管理や車両の重量測定などに用いられる事が多い圧縮荷重測定器の一種である小型6分力計(共和電業社製,LMF-A-1KN)を義足の下腿支柱部に精密に組み込み,歪みアンプとA/D変換器を介してそのデータをコンピュータに取り込む装置を試作した.上下で構造の異なるフランジにより下腿支柱部に小型6分力計を足部足底面から0.16mの高さに装着し,小型6分力計からの8chの電圧成分を歪みアンプで増幅し記録できる構造とした.コンピュータプログラム内で小型6分力計から計測した8成分の歪み量を演算し,次に干渉補正を行い6分力の力学量に換算した.小型6分力計から得た物理量から,歩行時の直行3軸方向の力を計測した.
    対象は健常成人男性14名(平均年齢20.7±0.5歳)とし,小型6分力計を組み込んだ義足での歩行を床反力計(ANIMA社製,MG-100)の上で行う事で同じ歩行動作を床反力計と6分力計の両者で同時に計測した.
    それぞれの床反力を3軸方向で求め,特性値として垂直方向(以下,Fz)の第1ピーク値(以下,F1),第2ピーク値(以下,F2),前後方向(以下,Fx)の最小値(以下,F3),最大値(以下,F4),左右方向(以下,Fy)の最大値(以下,F5)をそれぞれ自己の体重で正規化し,t検定を用いて比較を行った.有意水準は5%未満とした.
    【説明と同意】対象者には研究内容について十分に説明を行い,同意書への署名にて同意を得た.
    【結果】床反力計から求めた特性値(%)の平均はF1=96.2±4.1,F2=93.9±2.8,F3=-5.0±4.3,F4=0.2±2.6,F5=12.5±3.1であった.小型6分力計から演算算出した特性値(%)はF1=85.5±16.3,F2=81.7±15.5,F3=-5.2±2.3,F4=3.7±5.2,F5=11.4±1.7であった.F1からF5の特性値間に有意な差は認めなかった.
    【考察】今回,床反力計から求めた床反力は切断患者の義足歩行の報告と大きな違いは認めなかった.従来より床反力計の板上でしか計測できなかったものが,小型6分力計を用いることで場所の制限を受けずに計測できる試作を行う事ができた.特に大きな力が加わる垂直方向の力を示すFzにおいては,床反力計とほぼ同等な数値を計測することに成功した.床反力計での計測の場合,足部から計測板に伝わる力が反映されるが,小型6分力計は下腿支柱部での計測であるため,計測部位の違いと力が作用する部分の形状の違いが微妙な力方向を示すFx,Fyには影響を与えたと考えられる.
    義足のアライメントの調整を適切に行う事は,切断者に負担のかからない安定した歩行を可能にするために非常に重要である.ただし,正確なアライメントの調整は簡単なものではなく,医療スタッフの経験に大きく依存すると言える.そのような意味では,歩行時に義足に加わる力学的状態を簡便に定量的に評価し,その客観的なデータに基づいて最適なアライメントの調整や切断者への適切なフィードバックを可能とする方法が必要である.
    そのような背景のもと,これまで床反力計の設置されたごく限られた空間での歩行分析からしか得られなった歩行時の床反力値を,小型6分力計を支柱部に組み込む事により簡便に,かつどこでも計測する事ができる方法を考案した.
    【理学療法学研究としての意義】従来から行われている床反力計を用いた義足歩行の分析を,計測スペースにとらわれず計測する方法の確立に向けて基礎的知見になり得たと思われる.今後,歩行訓練やアライメントのチェックの手段としても臨床応用できる可能性があると思われる.
  • 掛水 真紀, 津野 雅人, 鶴埜 益巳, 沖田 学
    専門分野: 基礎理学療法24
    セッションID: PI2-062
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/05/26
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】臨床において急性疼痛を生じる場面は多くみられるが,急性疼痛の発生後に末梢からの侵害刺激が消失したにもかかわらず,疼痛を発生する状態を呈することがある.疼痛についての治療方法として神経因性疼痛やCRPSを呈する症例に対し運動イメージや鏡を使用した治療を実施し,視覚と体性感覚のマッチングが有効であるとの報告がある(生野ら,2008;河口ら,2009).また,アロディニア等の触覚過敏を呈する症例に対しては触覚識別課題を実施し,疼痛の改善を認めたとの報告もある(神尾ら,2004).これらの報告からも異種の感覚情報と疼痛予期の有無がその後の感覚入力にどのような影響を与えるかについて一定の報告がなされていない.そこで,痛覚刺激入力時にどのように疼痛を認識することが抑制効果を高めるかについて本研究によって明らかとすることを目的とした.
    【方法】対象は上肢に整形外科的な既往のない健常成人60名(男性39名,女性21名,平均年齢24.2±4.3歳)とした.実施内容はエディンバラ利き手テストをアンケート形式にて実施し,決定した利き側(優位に使用されている側)の示指の指腹中央に対して痛覚刺激を加えるものである.測定器具にはユフ精器社製の定量型痛覚計を使用した.痛覚評価にはNumerical rating scale(以下NRS)を使用し0から10段階で測定した.その際,痛覚計の1gをNRS:0,10gをNRS:10とした.痛覚刺激には4gを用いた.測定肢位は椅子座位で利き手を机上に前腕回外位で位置させ,手指は伸展位とした.測定はA群B群共に痛覚計を検者が当てる条件(以下passive)の後,痛覚計を被検者が把持し当てる条件(以下active)の手順で実施した.また対象群から開眼条件(以下open)から開始する群をA群,閉眼条件(以下close)から開始する群をB群とし,無作為に抽出した(A群:31名,B群:29名).そしてOpen-Passive課題(以下O-P課題),Open-Active課題(以下O-A課題),Close-Passive課題(以下C-P課題)Close-Active課題(以下C-A課題)の4条件を実施した.加えてA群B群共にO-P課題とC-P課題実施前にNRSの0と10の値を教示した後,課題を実施した.C-A課題時には検者が被検者の上肢を誘導し,痛覚計を皮膚面へ接触させるタイミングは被検者に決定させた.A群とB群の4条件に対しSteel-Dwassの方法にて統計を実施した.なお,有意水準は5%未満とした.
    【説明と同意】本研究の対象者全員に対し今回の実施内容や手順等につき十分に説明を行い,理解を得た上で書面にて同意を得た.
    【結果】A群のC-A(中央値:5)とO-P(中央値:7)に有意な差を認めた.B群のO-A(中央値:5)とC-P(中央値:7)に有意な差を認めた.B群のC-A(中央値:5)とC-P(中央値:7)に有意な差を認めた.A群のC-P(中央値:5)とB群のC-P(中央値:7)に有意な差を認めた.その他の群間には有意な差を認めなかった.
    【考察】A群ではO-PよりもC-Aの方がNRSの低下を認めたことから,CloseまたはActive要素の関与が考えられる.B群ではC-PよりもO-Aの方がNRSの低下を認め,OpenまたはActiveの要素が関係しているのではないかと考えられる.さらにB群ではPassiveよりもActiveの課題において数値の低下がみられる.これらの結果に共通した要素としてはactiveでの実施が挙げられる.active課題では被検者が痛覚刺激のタイミングをコントロールできることが出来る条件であったため,刺激部位に対する予測がNRSを低下させた要因ではないかと考えられる.また,C-P課題ではB群に対しA群で実施した際にNRSの低下を認めた.両群の異なる点は実施順であり,open課題から開始するA群では視覚入力が先行していることから先行刺激の違いが痛覚閾値の変化に関与している可能性が示唆される.健常者対象の研究によれば,刺激されている部位を見ている方が感覚野の反応,触覚の鋭敏さは大きくなる(Moseley,2009)と報告されている.このことからも視覚の関与が種々の感覚系と作用し痛覚閾値を上昇させる可能性が示唆される.以上の結果から,痛覚閾値を低下させるには「視覚」的な要因と「予測」的な要因が関与しているのではないかと考えられる.また,痛覚閾値を変化させる要因に課題の施行順が関与している可能性も考えられるが,今回の結果を踏まえ今後新たに検討を行っていきたい.
    【理学療法学研究としての意義】今回の研究では,痛覚刺激における抑制効果として痛覚閾値を変化させる要因に「視覚」的要因と「予測」的要因が関与している可能性があると考えられる.このことは臨床上の疼痛に対する治療手段として発展する可能性のある重要な要素であることが示唆された.
  • 鈴木 惇也, 縣 信秀, 宮津 真寿美, 曽我 浩之, 河上 敬介
    専門分野: 基礎理学療法25
    セッションID: PI2-063
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/05/26
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    【目的】萎縮筋に対して、伸張刺激を加えると萎縮を軽減できることが報告されているが、報告によって、萎縮モデルや伸張時間、伸張力が異なっており、どのような様式の伸張刺激が最も効果的であるかは不明である。これまで我々は除神経筋に対して周期的な伸張刺激を加えることにより萎縮を軽減出来ること、また、この伸張刺激による筋萎縮軽減には、筋肥大に関係する細胞内シグナルの活性が関与することを明らかにしてきた(Agata 2009)。一般的に、伸張刺激に対する組織や細胞の反応は、加える伸張刺激の周波数によって異なる。そこで本研究では、加える伸張刺激の力と時間の積である刺激量を統一し、除神経筋に対する伸張刺激の周波数と筋萎縮軽減効果の関係を組織学的、生化学的に調べた。
    【方法】8週齢Wistar系雄性ラットの坐骨神経を切除し、切除翌日より13日間、イソフルラン麻酔下にて、小動物用足関節運動装置を用い、ヒラメ筋に対し伸張刺激を加えた。伸張刺激は、角速度約45度/秒で足関節を背屈し、関節トルク8 mN・mにて設定した時間保持し、その後、角速度約45度/秒で足関節を底屈させ、0 mN・mに達した角度にて背屈時と同じ時間保持するという運動を繰り返した。伸張刺激の周波数と筋萎縮軽減効果の関係を調べる為に、保持時間が1、5、25、450秒となる1秒群、5秒群、25秒群、450秒群を作製した(各n=9)。各群の底背屈運動を繰り返し実施する時間を、1120秒、900秒、825秒、453秒として、与えるトルクと時間の積(刺激量)を、ほぼ一定にした。また、対照として伸張刺激を加えずイソフルラン麻酔のみを与える非伸張群を作製した(n=9)。坐骨神経切除14日後に全ラットのヒラメ筋を採取し、凍結横断切片を作製、H-E染色を施した。その後、筋線維横断面積を測定しその平均値を比較した。
    さらに、筋肥大に関係する細胞内シグナル分子として重要なAktの活性と伸張刺激の周波数との関係を調べた。8週齢のWistar系雄性ラットの坐骨神経を切除し、切除7日後に、小動物用足関節運動装置を用いてヒラメ筋に対し、1秒群、5秒群、25秒群、450秒群と同様の伸張刺激をそれぞれ加えた(各n=9)。伸張刺激開始15分後、全ラットのヒラメ筋を採取した。非伸張群は、伸張刺激を加えずに麻酔開始15分後にヒラメ筋を採取した(n=9)。その後、電気泳動法及びウエスタン・ブロット法を用いてtotal-Aktに対するphospho-Aktの割合(phospho-Akt/total-Akt)を算出してAktの活性の指標とし、非刺激群を1としたときの相対値を比較した。統計には一元配置分散分析を用い、有意差を認めた場合には,多重比較検定に Tukey の方法を用いた。有意水準は5%未満とした。
    【説明と同意】本研究は名古屋大学動物実験委員会の承認を得て行った。
    【結果】25秒群、450秒群の筋線維横断面積は、それぞれ749±85 μm2、799±91 μm2であり、非伸張群(818±121 μm2)と有意な違いはなかった。5秒群は1043±118 μm2であり、25秒群、450秒群、非伸張群に比べ有意に大きかった。一方、1秒群は895±101 μm2であり、25秒群に比べ有意に大きかったものの、5秒群に比べ有意に小さい値であった。
    伸張刺激を加えた群は非伸張群比べ phospho-Akt/total-Aktは高い値を示した。しかし非伸張群に比べ有意に高かったのは5秒群のみであった。
    【考察】伸張刺激の筋萎縮軽減効果を報告した先行研究では、持続的伸張刺激が多く用いられている。本研究では450秒群が持続的伸張刺激にあたるが、筋萎縮軽減効果は見られなかった。先行研究では本研究とは異なり、伸張刺激量が十分に説明されておらず、本研究とは伸張刺激量が異なる可能性がある。また収縮や神経因子を除外出来ない萎縮モデルを選択している為、本研究と先行研究では異なる結果になったと考える。
    本研究で設定した刺激量の場合、伸張刺激の萎縮軽減効果は、5秒群のみで認められ、それより高い周波数の1秒群では減少した。5秒群で効果が高かったのは、タンパク合成に関わるシグナル分子であるAktの活性が高くなるからであると考える。それより高い周波数の1秒群で効果が減少したのは、筋に刺激が加わる回数が過剰になり、タンパク分解因子の活性も高まった為ではないかと考えるが、今後の検討課題である。
    【理学療法学研究としての意義】不活動状態が続くと、筋は萎縮し、筋力は低下する。筋力が低下すると身体活動量は低下し、更なる筋萎縮が生じ、循環不全や転倒などの二次的な障害を引き起こす原因となる。よって、これらの悪循環を防止するためには、効率的な筋萎縮の軽減、抑制を目的とした理学療法が必要である。本研究の結果は、そのような理学療法の介入手段の開発において、大変有意義な基礎データと成り得ると考える。
  • 運動発達・生活習慣との関連
    荒木 智子, 須永 康代, 鈴木 陽介, 木戸 聡史, 井上 和久, 久保田 章仁, 相澤 純也, 加地 啓介, 兵頭 甲子太郎, 高柳 清 ...
    専門分野: 基礎理学療法25
    セッションID: PI2-064
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/05/26
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    【目的】足部は歩行時において重要な役割をもち、その成長は幼児期に最も著しく進む。最近、幼児において「浮き趾」という特徴的な形態がみられる。「浮き趾」は立位時に足趾が接地出来ていない状態をいう。「浮き趾」には痛みや不快感などはない。本研究の目的は幼児の足部形態や生活習慣と足趾の接地状態の関連因子を検討することである。
    【方法】対象は211名(男109名、女102名)の健常な3-6歳の幼児である。対象は足部に問題や既往歴を持たないものとし、神経学的疾患、整形外科的疾患等、足部の形態・機能に問題があるものは対象から除外した。第2趾から踵部中央までの足長、足長と直交するMTP関節から第5趾中足骨頭までの足幅についてスライディングスケールを用いて測定した。また、フットプリントを採取した。足長・足幅およびフットプリントは立位で測定を行った。足趾の接地状態については、フットプリントの撮像状況により、各足趾について0-2点(0点:完全離地、1点:部分接地、2点:完全接地)で点数化した。また、独歩開始時期などの発育歴や生活習慣に関する質問紙調査を行った。この研究は埼玉県立大学倫理委員会で承認を受けて実施した。統計学的処理はSPSSを用い、足部形態と月齢、身長、体重、浮き趾の点数分布はPearsonの相関係数を算出した。
    【説明と同意】本研究に参加した被験者の幼児及び保護者に対して、研究内容・方法について書面で説明し、書面にて同意を得た。また測定時には改めて口頭で幼児に同意を得て、測定途中でも中断できるように配慮を行いながら実施した。
    【結果】足長・足幅は月齢、身長、体重、独歩開始時期からの歩行期間と相関した(p<0.01)。その一方で出生時身長や出生時体重とは弱い相関を示すにとどまった。「浮き趾」については、被験者全員に1趾以上の「浮き趾」が見られ、接地状況を示す平均点数は左右合計で8.83±3.14点(1-19点)であった。足趾が完全に接地していない状態を最も多く示したのは第5趾であり、どの年齢層においても完全に接地していないのが各年齢平均で右72.9%、左が71.5%を占めた(3歳:右66.6%、左68.4%、4歳:右59.6%、左72.5%、5歳:右88.6%、左75.9%、6歳:右76.9%、左69.2%)。一方、一番接地状況が良好だったのは第1趾であり、各年齢平均で右0.9%、左0.7%(4歳:左1.6%、5歳:右3.7%、左1.2%、他は0%)にとどまり、第1趾は接地できていることが示された。浮き趾の出現数、点数と月齢、身長、体重、足長・足幅とは有意な相関はみとめられなかった。生活習慣については家庭での外遊び時間、TVゲーム時間、TV視聴時間、昼寝時間について聴取し、外遊び時間は平均1.0±0.7時間(0-3時間)、TVゲーム時間は0.3±0.5時間(0-3時間)、TV視聴時間は2.1±1.0時間(0-5時間)、昼寝時間は0.4±0.7時間(0-3時間)だったが、足部形態、浮き趾の点数とは有意な相関は示されなかった。普段はいている靴のサイズと足部形態については、実際の足部よりハーフサイズほど(平均0.4cm)大きめの靴を履いている場合が多かった。
    【考察】これまで、「浮き趾」の出現には外遊び時間や靴の不適合など生活習慣に起因するという先行研究がみられた。しかしながら、本研究の対象については、生活習慣と「浮き趾」の出現については有意な相関は認められず、「浮き趾」の直接的な原因として示唆することは困難であった。「浮き趾」が第5趾に多くみられ、その一方で第1趾は良好な接地状況がみられたことについては、幼児の姿勢特性は後方、内側方向に荷重がかかりやすいことが要因と考えられた。歩行時における足底の重心移動が幼児型の直線的な移動から成人型の踵部から母趾に向かう曲線的な移動に近づく過渡期でもあり、姿勢や歩行の発達と足趾の接地状況も関係があると考えられた。そこから、幼児における「浮き趾」は正常発達の一面とも考えられ、しかしながら第2-5趾は足底の体重分散の重要な役割もあるため、足趾機能の発達を順調に進めていくためにも注意深く観察を続けることが必要と考えられた。
    【理学療法学研究としての意義】足趾は歩行時に重要な役割をもち、運動発達が著しく進む幼児期の状態を把握することは正常発達を促す上で重要と考える。足部形態は上位関節のアライメントにも影響を及ぼすため、理学療法学において「浮き趾」等の発生要因や問題点を追及することは意義がある。
  • 伊東 佑太, 縣 信秀, 宮津 真寿美, 平野 孝行, 河上 敬介
    専門分野: 基礎理学療法25
    セッションID: PI2-065
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/05/26
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】筋萎縮を早く回復させることは理学療法にとって重要な課題である。これまでに我々は、14日間の尾部懸垂による筋萎縮モデルマウスに対して、オペラント学習法による筋力増強運動を7日間行ったところ、筋線維横断面積が普通飼育より早く回復し、筋線維内に存在する核の数(筋核数)が正常以上に増加することが明らかにした(第45回理学療法学術大会)。この結果は、筋力増強運動が筋萎縮の回復を促進することを裏付けるが、7日目よりも早い時期にどのようなことが起こっているかは不明である。また、短い運動期間で7日間の運動と同程度の効果が得られた場合、効率的な運動処方の検討ができるかもしれない。そこで本研究は、4日間の筋力増強運動による筋線維の太さや数、筋核数の変化を明らかにするとともに、4日間運動した後、3日間運動しない場合、7日間の運動に比べ、回復効果が異なるかどうかを調べた。
    【方法】対象は10週令のICR雄性マウスとした(n=36)。まず、7日間のオペラント学習法により自発的な立ち上がり運動を学習させた後、後肢筋を萎縮させるために、尾部懸垂を14日間施した。尾部懸垂後、筋力増強運動として学習した立ち上がり運動を、1日50回を2セット、4日間行った(4dT群)。このマウスからヒラメ筋を剖出、凍結横断切片を作製し、抗Dystrophin抗体及びDAPIを用いて染色した。この染色像から、全筋線維の横断面積と数、筋核数を測定した。また、その測定値から、筋線維1本あたりの筋核数を算出した。一方、4日間の筋力増強運動後、3日間普通飼育し(4dT+3dNT群)、尾部懸垂後7日間筋力増強運動を施す群(7dT群)と比較することで、尾部懸垂後4日目から7日目の筋萎縮回復効果を比較した。なお対照群として、尾部懸垂後4日間普通飼育する群(4dNT群)、7日間普通飼育する群(7dNT群)、尾部懸垂も運動もしない群(CON群)も作製した。群間の比較には、一元配置分散分析及びBonferroni法を用い、有意水準を5%未満とした。
    【説明と同意】本実験は、名古屋学院大学及び名古屋大学動物実験委員会の承認を得て行った。
    【結果】4dT群の筋線維横断面積(1141±260μm 2)は、4dNT群(897±111μm 2)に比べ有意に大きかった。なお、4dT群は、CON群(2005±197μm 2)より有意に小さかった。4dT群の筋線維数(545±62.7)は、4dNT群(577±101)、CON群(589±60.1)と有意な差はなかった。一方、4dT群の筋線維1本あたりの筋核数(0.91±0.24)は、4dNT群(0.58±0.07)、CON群(0.56±0.1)より有意に大きく、7dT群(0.91±0.14)と同程度であった。
    4dT+3dNT群の筋線維横断面積(1222±400μm 2)は、7dT群(1843±195μm 2)に比べ有意に小さかった。また4dT+3dNT群の筋線維断面積は、CON群よりも有意に小さく、7dNT群(1315±153μm 2)と有意な差がなかった。一方、4dT+3dNT群の筋線維数(733±64.0)は、7dT群(601±124)より多いものの、有意な差はなかったが、7dNT群(583±116)より有意に多かった。4dT+3dNT群の筋線維1本あたりの筋核数(0.57±0.13)は、7dNT群(0.57±0.03)やCON群とは有意差がなく、7dT群よりも有意に少なかった。
    【考察】これまでの研究から、萎縮した筋に筋力増強運動を7日間行うと、筋線維の太さが通常より早く元の太さに回復することがわかっている。今回の4日間の運動では、正常な太さにまでは至らなかったが、回復促進効果は認められた。一方、尾部懸垂により減少した筋線維数は、運動開始4日目には正常な数にまで達することがわかった。正常な筋に運動を負荷した場合、筋が太くなり始めるのは運動開始20日以降といわれている。しかし、本研究結果では、数日のうちに筋線維の太さや数の変化が起こっており、萎縮した筋に対する筋力増強運動の効果やメカニズムは、正常な筋に対するものとは異なることが考えられた。
    また、4日間の運動後3日間運動を行わない場合、筋線維の太さの回復は停滞し、筋線維1本あたりの筋核数は減少することがわかった。これにより4~7日目の運動の継続が重要であることが裏付けられた。しかし、4日間運動しその後3日間運動しない場合でも、筋線維数は7日間運動しない群に比べて26%増加した。更なる検討が必要ではあるが、筋力増強運動と休息を上手に組合せれば、筋線維数を増加させる方法の開発やそのメカニズムの解明に利用できるかもしれない。
    【理学療法学研究としての意義】本研究を発展させれば、萎縮筋に対して有効な筋力増強運動の期間や方法の再考に繋がり、ヒトに対する効果的な運動方法の開発へ萌芽できる。
  • 丹羽 亜希美, 角田 晃啓, 上山 紗千代, 三木屋 良輔, 森谷 正之
    専門分野: 基礎理学療法25
    セッションID: PI2-066
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/05/26
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】摂食嚥下機能は、生命維持の根幹に関わる極めて重要な機能であり、これらの機能が適正かつ円滑に遂行されるためには、口腔・咽頭領域からの正確な感覚情報の入力が不可欠である。我々は前回の本学術大会において、咬筋に分布する高閾値機械受容性一次求心線維の中枢投射様態を検討し、三叉神経感覚核群(主感覚核 [Vp]、吻側核 [Vo]、中位核 [Vi]、尾側核 [Vc])に広く終止することを報告した。今回は、痛覚情報伝達に関与することが知られているSP(substance P)、CGRP(calcitonin gene-related peptide)、P2X3受容体の三叉神経感覚核群での発現様態を観察したので、前回の本学術集会での報告結果と合わせて、ラット三叉神経感覚核群における痛覚情報処理機構について報告する。
    【方法】実験にはSprague-Dawley系ラットを用いた。深麻酔下にてラットを、経心臓的に生理食塩水にて瀉血後、4%パラホルムアルデヒドを含有する0.1Mリン酸緩衝液で灌流固定した。三叉神経感覚核群を含む脳幹部分を摘出し厚さ60&#61549;mの凍結連続切片を作成した。作成した切片を抗CGRP抗体、抗SP抗体または抗P2X3受容体抗体で処理して、ABC法により免疫組織化学的に陽性ニューロンを標識した。また、この処理を行った切片の一部についてはCresyl Violetにて対比染色した。Permountにて包埋した後、描画装置を装着した光学顕微鏡(Nikon、 Eclipse 80i)で観察、描画した。
    【説明と同意】本課題で行う全ての動物実験は、NIHのガイドライン(National Institutes of Health Publication No. 86-23、1985年改訂版)に準拠して行い、また森ノ宮医療大学動物実験倫理委員会の承認を得ている。さらに、各実験操作中に可能な限り動物の苦痛軽減を図るべく細心の注意を払うものとする。さらに、術前の動物飼育管理についても可能な限り動物に苦痛を与えない配慮(十分な給餌・給水、光・温度の適切な管理等)を行う。また、本研究はヒトを対象とした実験は行っていない。よって、個人情報、人体の損傷や生命に関わる事案の取り扱いはなく、人権等に関わる倫理上の問題は生じない。
    【結果】SP、CGRP、 P2X3受容体に対して陽性を示す軸索終末の分布は以下のようになっていた。
    SP:吻側のVpから尾側のVcにかけて、広く陽性終末を認めた。特にVcの表層においては高密度の陽性終末の集積を認めた。また、Voの背外側部とその内側の網様体でも陽性終末の集積を認めた。
    CGRP:SPと同様に、吻側のVpから尾側のVcにかけて、広く陽性終末を認めた。特にVcの表層においては高密度の陽性終末の集積を認めた。SPとともに、VcとViの境界付近では、VcのI層に対応すると思われる領域に陽性終末の集積を認めた。
    P2X3受容体:三叉神経感覚核群の吻側域では散在性にP2X3受容体陽性終末を認めた。しかし、Vcにおいては特に表層域で高密度のP2X3受容体陽性終末の集積を認めた。
    【考察】以上の結果より、SP、CGRP、 P2X3受容体の何れについても、三叉神経感覚核群の全ての核に陽性終末を認めた。しかし、その分布密度は核によって異なっていた。従前の研究により、Vcが痛覚情報伝達に主要な役割を果たしていることが報告されており、今回SP、CGRP、P2X3受容体に陽性を示す神経終末がVcの辺縁亜核に高密度で集積していたことから、これらの領域が痛覚情報伝達に重要であることが確認できた。また、Vcの辺縁亜核のニューロンは視床に投射することが知られているので、SP、CGRP、P2X3受容体を発現する終末が、視床への痛覚情報伝達、すなわち痛覚の弁別機能に関与していることが予想された。しかし、SPとP2X3受容体について、三叉神経感覚根の線維では共存を認めないという報告もあり、SPとP2X3受容体を発現する終末の機能的意義について検討する必要がある。また、Vc以外でSP、CGRP、 P2X3受容体陽性を示した神経終末の機能的な意義についても検討の必要がある。
    【理学療法学研究としての意義】本研究は摂食嚥下機能の遂行において重要な役割を担っている三叉神経系での感覚情報処理機構の解明を目指したものであり、摂食嚥下障害の理学療法学研究として有意義である
  • 金村 尚彦, 森山 英樹, 石川 翔大, 本田 祐輔, 小越 悠行, ハディ 華, 今北 英高, 武本 秀徳, 五味 敏昭, 高柳 清美
    専門分野: 基礎理学療法25
    セッションID: PI2-067
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/05/26
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    【目的】膝関節の静的安定性に関与している前十字靱帯(以下ACL)は,運動時に脛骨の前方突出を引き起こさないようにストッパーの役割を果たしている.下肢の傷害や関節固定,寝たきりにより荷重除去状態となり,廃用性筋萎縮等の関節剛性の低下から,制動として働く靱帯の負担が増大し,靱帯自体の損傷が引き起こされることが推測される。先行研究により,振動刺激による筋萎縮の防止されることが報告されているが,本研究では振動刺激に対する前十字靱帯への影響を検討することを目的とした.
    【方法】Wistar系雄性ラット(10週齢)18匹を使用した。(1)後肢懸垂を行う後肢懸垂群(suspension:以下SUS群)、(2)振動刺激群は後肢懸垂の過程で毎日15分間振動刺激与える群(vibration:以下VIB群),(3)自由飼育群(control:以下 CON群)とした。各実験期間は2週間とした.
    荷重除去の方法は,Moreyの方法を用いた.後肢の活動は荷重以外制限せず、関節運動は自由に行わせた。餌・水の摂取は自由とした。振動刺激は, シートマッサージャーS EM-2535(3600RPM ツインバード社製、新潟)を用いた.実験終了後、膝関節を大腿骨-前十字靭帯-脛骨複合体を採取した。膝関節は、前十字靭帯を残し関節包、後十字靱帯、半月板などの軟部組織は切除した。物性試験を行うために、大腿骨と脛骨骨端をレジンにて固定した。試験を行うまで、ディープフリーザーにて保存した。次に膝関節を屈曲30°位にて、精密万能試験機オートグラフAG-I100kN(島津製作所、京都)に固定した。破断試験ではcrosshead speed を5mm/minとして、得られた荷重-変位曲線より破断荷重、stiffnessを求めた。破断荷重とstiffnessについて,一元配置分散分析と多重比較, Scheffe法を用い比較検討した.
    組織学検討では,膝関節を4%パラホルムアルデヒドで固定後,EDTAにて20日間 脱灰し,OCTコンパンウドにて凍結包埋した.クリオスタットにて10μmに薄切した.その後 H-E染色, 免疫組織化学染色として, 抗I型コラーゲン(Sigma C7805 1:8000), 抗III型コラーゲン(Sigma C8000 1:8000)を用い,ABC法を行った後,DABで発色,光学顕微鏡で観察した.
    【説明と同意】本実験は,本学動物実験倫理審査委員会の承認を得て行った.
    【結果】物性試験において,静的引っ張り試験における最大破断荷重では,3群間に,有意差を認めた(P=0.01).多重比較検定により,CON群と比較して,SUS群,VIB群共に有意に減少した(p<0.05).SUS群とVIB群では差を認めなかった.荷重-変位曲線より求めたstiffnessでは,3群間に有意な差を認めなかった.組織像においては,H-E染色より,SUS群やVIB群では,線維の配列が乱れているものが観察された.免疫組織化学染色において,I型コラーゲン,III型コラーゲンともに3群間の染色性に相違を認めなかった.
    【考察】ACLは、力学的情報を感知し、力学的変形を最小限に抑えるための関与している細胞が存在する。靱帯の強度に関与しているコラーゲンタイプ1の合成が増加し、細胞形態は紡錘形に変化し、張力負荷に対し、垂直方向に配列する。本研究において後肢懸垂による下肢の荷重除去では,靱帯への力学的刺激が減少し,その結果 物性試験の結果より,靱帯力学的強度が減少することが示唆された.また振動刺激では,CON群までその強度が維持されない結果となった.H-E染色像より,荷重を除去すると,線維の配列に乱れが生じた.しかし,懸垂中,荷重を行う群と対象群を比較すると,破断荷重には変化を認めなかった.組織変化と破断荷重との関連を今後明らかにする必要がある.
    また靱帯への力学的変化によるものに加えて,関節への血流量や関節液の循環の変化が生じている可能性がある。不動化や尾部懸垂により,膝関節内血流や関節液の循環障害を招く可能性が先行研究により,示唆されている. このことから靱帯自体への酸素や栄養供給にも影響を及ぼし,それが靱帯の力学的特性の変化を引き起こした可能性も予想された。
    【理学療法学研究としての意義】ACLの力学強度を維持するには、靱帯が力学的刺激を受けることが重要である.本結果では,荷重除去により,靱帯の物性が低下することが示唆された.筋萎縮に対する影響だけではなく,靱帯自体への運動療法効果を明らかにする事で,理学療法の効果を明らかにすることが重要であると考える.また本研究で行った振動刺激条件の検討を行い,靱帯への影響を明らかにする必要がある.
  • 宮川 未来, 荒川 高光, 三木 明徳
    専門分野: 基礎理学療法25
    セッションID: PI2-068
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/05/26
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    【目的】我々はラットの両坐骨神経を切断した後、錘負荷を片側後肢の下腿にかけ、尾部を若干つり上げて飼育すると、足底面に褥瘡様の変化が高頻度で形成されることを示した(長井, 2009)。本研究では、同モデル動物の褥瘡様組織形成過程を経時的に詳細な解析を加えることとした。皮膚変化を発赤・腫脹、皮膚肥厚、白色化前期、白色化後期、開放創の5ステージに分け、ステージごとの変化を組織学的に検討した。
    【方法】12週齢のWistar系雄ラット(体重220~280g)5匹を用いた。ラットは1ケージに1匹ずつ飼育し、室温25°Cの空調のもと、6時から18時までを明期とした明暗サイクルで水と餌を自由摂取させて20日間飼育した。全例で両坐骨神経を切断した後、右後肢に錘負荷(体重の5%)と姿勢調整を行った。皮膚の変化を発赤・腫脹、皮膚肥厚、白色化前期、白色化後期、開放創の5ステージに分け、各ステージの現象が肉眼で確認された時点で、ラットをペントバルビタール水溶液の腹腔内投与にて屠殺し、10%ホルマリンで灌流固定した。次に、変化の起こった皮膚を約1cm角で採取し、1時間後に切り出しを行って10%ホルマリンで浸漬固定を行った。浸漬固定後、これらの組織をパラフィン包埋し、厚さ3μmの踵部縦断切片を作製した。その後H-E染色を行って光学顕微鏡により観察した。
    【説明と同意】本実験は所属組織における動物実験に関する指針に従って行われた。
    【結果】各動物は、平均3日後に発赤・腫脹の変化を示した。この時期には、同時に真皮乳頭層の平坦化、膠原線維の減少が見られた。平均8日後には表皮の肥厚が見られた。平均9日後に肉眼的に皮膚が白色化した。この時期には角質層以外の表皮層は消失し、内腔に突出した核を持つ内皮細胞で囲まれた細静脈(毛細血管後細静脈)が観察されるようになり、圧迫部周辺には炎症性細胞の増加が見られた。続いて平均13日後には皮膚の白色化がさらに進み、白色化の中心部が黄色に変化した。そして平均15日後には開放創を形成するに至った。白色化後期と開放創に至った時期には、毛細血管後細静脈がさらに多く観察されるようになり、圧迫部周辺の炎症性細胞はさらに増加し、圧迫部周辺では真皮乳頭層が過剰に形成された。
    【考察】本動物実験モデルにおいて、足底の踵部に見られる皮膚の肉眼変化はヒトにおける褥瘡形成過程とほぼ同じ経過をたどり、開放創形成時における組織学的所見もヒトの褥瘡とよく似ている。本研究は開放創が形成されるまでの皮膚変化を組織学的に観察したもので、体表から肉眼で観察したときに発赤があれば、既にその内部では真皮が薄くなり、皮膚欠損に至るための前段階が始まっているという可能性が示唆された。また、体表からの肉眼所見による白色化後期(白色化の中心部が黄色に変化した時期)と開放創を形成する時期の組織学的観察は同様の所見を呈したことから、体表からの肉眼所見にて有毛部皮膚が圧迫によって白色化し中心部が黄色に変色したときには、その内部では既に開放創と同様の変化が起こっている可能性もあると考えられる。
    【理学療法学研究としての意義】褥瘡は長期臥床を余儀なくされる患者に起こる、臨床上重大な皮膚病変の1つであり、高齢化の進む今日の社会において褥瘡の予防法の確立は非常に重要な課題である。モデル動物を用いた実験において褥瘡の予防法の確立のために物理療法等の介入の検討を行うためには、組織にどのような変化が起こり褥瘡に至るのかの解明が必須であると考えられる。今後更なる検討は必要であるが、本研究は経時的変化の解明への一助となり得る可能性がある。
  • 奥村 裕, 金指 美帆, 金澤 佑治, 藤田 直人, 近藤 浩代, 藤野 英己
    専門分野: 基礎理学療法25
    セッションID: PI2-069
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/05/26
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    【目的】廃用性筋萎縮が起こると筋線維毎の毛細血管数や毛細血管径が減少する。このような毛細血管の退行には活性酸素種が関与していると考えられている。活性酸素により毛細血管の退行が生じれば、骨格筋細胞の代謝活性に影響を与える。一方、筋萎縮に伴う骨格筋毛細血管の退行に対する酸化ストレスを軽減させる方法や毛細血管退行と骨格筋細胞の代謝活性を考慮した研究はみられない。そこで、本研究では骨格筋線維と毛細血管のクロストークに焦点をあて、抗酸化力の高い抗酸化物質摂取による毛細血管への影響と骨格筋細胞の代謝という観点から、廃用性筋萎縮筋の筋線維タイプ別の毛細血管及び酸化的リン酸化系の代謝変化について検討した。
    【方法】12週齢のWistar系雄ラットを対照群(Cont群)、栄養サポートのみを行った群(CA群)、一週間の後肢懸垂を行った群(HU群)、及び後肢懸垂期間中に栄養サポートを行った群(HA群)の4群に区分した。栄養サポートにはアスタキサンチン(富士化学工業株式会社より提供)を毎日50mg/kgを1日2回経口摂取させた。実験期間終了後、足底筋を摘出し、急速凍結して保存した。摘出した筋試料は10μm厚に薄切し、ミオシンATPase染色(pH4.3)、アルカリフォスファターゼ(AP)染色、コハク酸脱水素酵素(SDH)染色後に光学顕微鏡で観察を行った。ATPase染色像を用いて足底筋を遅筋線維の多い深層部と速筋線維の多い浅層部に分別し、筋線維毎の毛細血管数の割合、単一筋線維の周囲の毛細血管数、筋線維のSDH活性を計測した。統計処理は一元配置分散分析とTukey-Kramerの多重比較検定を行い、有意水準は5%未満とした。
    【説明と同意】全ての実験は所属施設における動物実験に関する指針に従い、動物実験委員会の許可を得たうえで実施した。
    【結果】一週間の後肢懸垂によりラット足底筋の筋湿重量は12%減少した。また、後肢懸垂期間中にアスタキサンチンを摂取したHA群においても同様に減少した。一方、深層部における筋線維毎の毛細血管数は、HU群ではCont群に比べ有意に減少を認めた。しかし、アスタキサンチンを経口摂取したCA群及びHA群は、それぞれCont群、HU群と比較して有意な増加を認めた。また、浅層部では4群間における有意な差は認められず、後肢懸垂の影響、アスタキサンチンの摂取有無に関係はみられなかった。また、単一筋線維周囲の毛細血管数は、遅筋線維ではCont群に比べHU群では有意な減少を認めたが、アスタキサンチンを摂取したCA群及びHA群では、単一筋線維周囲の毛細血管数の有意な増加を認めた。一方、速筋線維は4群間における有意な差は認められなかった。SDH活性をみると深層部の遅筋線維はCont群に比べHU群では有意に減少を認め、アスタキサンチンを摂取したCA群及びHA群では有意に増加を認めた。これらの結果からアスタキサンチンは遅筋線維のSDH活性を増加させ、廃用に伴う遅筋周囲の毛細血管退行を減衰させるものと考えられる。
    【考察】一週間の後肢懸垂により足底筋の深層部では、筋線維毎の毛細血管数や遅筋線維周囲の毛細血管数の減少、SDH活性の低下を認めた。これらの結果は、後肢懸垂で筋活動が低下し、筋細胞内のミトコンドリアにおけるエネルギー代謝が低下したために生じる現象であると考えられる。廃用性筋萎縮により骨格筋内の活性酸素種産生が増加するが、アスタキサンチン摂取により活性酸素種の産生を抑制し、酸化ストレスを減少できるとの報告がみられる。(Wolf, 2010)。本研究では、足底筋の深層部でアスタキサンチンを摂取したCA群及びHA群では、筋線維毎の毛細血管数や単一筋線維周囲の毛細血管数の有意な増加を認めた。また、遅筋線維でSDH活性の増加を認めた。これはアスタキサンチン摂取により活性酸素種が減少し、骨格筋線維周囲の毛細血管退行を防止できたために骨格筋細胞の代謝が阻害されなかったものと考えられる。また、その裏付けとして毛細血管の退行を抑制できた遅筋線維ではSDH活性が増加した。本研究では、速筋線維周囲の毛細血管には変化がなく、遅筋線維周囲で廃用の影響や毛細血管の変化が観察された。この結果は、遅筋線維の方が酸化的リン酸化による代謝に依存して、毛細血管からの酸素の供給に影響されることに起因するものと考えられる。
    【理学療法学研究としての意義】骨格筋における毛細血管ネットワークは骨格筋細胞への酸素供給や糖・代謝産物輸送に重要である。骨格筋細胞の環境を最適化するために毛細血管の役割は必要不可欠である。また、本研究から、抗酸化物質を用いた栄養サポートは骨格筋の毛細血管退行に予防的な効果を示した。長期臥床などに伴う筋力増強運動などを実施する際に栄養面でのサポートを組み合わせて行っていく必要性があると考える。
  • 石田 静香, 高木 領, 藤田 直人, 荒川 高光, 三木 明徳
    専門分野: 基礎理学療法25
    セッションID: PI2-070
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/05/26
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    【目的】外力によって損傷を受けた骨格筋は、Caイオンの流入により生じる二次的な損傷部と非壊死領域の間に境界膜を形成する(松本, 2007)。筋は損傷を受けると変性、壊死後、再生する、という過程をたどる(埜中, 2001)ことから、再生の前段階である変性、壊死という二次損傷を最小限に抑えることは、次に続く筋の再生過程にも大きく影響すると考えられる。臨床場面、特にスポーツの現場では筋損傷後に寒冷療法を用いることが多い(加賀谷, 2005)。われわれは筋損傷後に与える温度刺激が筋の再生にどのように影響するのかを調べてきた。高木(2009)は、寒冷刺激によってマクロファージの進入が遅れることから、骨格筋の再生が遅延する可能性を報告した。また、Kojimaら(2007)は温熱刺激が筋損傷後の再生に重要な役割を担うと報告している。そこで、われわれは実験動物に筋損傷を惹起させた後、その二次損傷と再生過程が温度刺激によってどのように変化するのかを、寒冷、温熱双方の刺激を加えることで確かめることとした。
    【方法】8週齢のWistar系雄ラット15匹の前脛骨筋を用いた。動物を筋損傷のみの群(C群:n=5)、筋損傷後寒冷刺激を与える群(CI群:n=5)、損傷後温熱刺激を与える群(CH群:n=5)の3群に分けた。前脛骨筋を脛骨粗面から4mm遠位で剃刀を用いて約2/3の深さまで横切断し、筋損傷を惹起した。筋損傷作製から5分後に20分間の寒冷刺激あるいは温熱刺激を加えた。寒冷刺激は高木ら(2009)の方法に倣い、ビニール袋に砕いた氷を入れ、筋を圧迫しないように下腿前面に当てた。温熱刺激は約42度に温めた湯を入れたビニール袋を下腿前面に当てた。湯を入れたビニール袋は2分毎に交換した。これにより、筋温は寒冷刺激で約20度低下し、温熱刺激で約10度上昇した。筋切断から3,6,12,24,48時間後に、動物を灌流固定し前脛骨筋を採取した後、浸漬固定を行い、エポキシ系樹脂に包埋し縦断切片を作製した。厚さ約1&#181;mで薄切し、1%トルイジンブルーで染色して光学顕微鏡で観察した。
    【説明と同意】全ての実験は所属施設における動物実験に関する指針に従って実施した。
    【結果】損傷3時間後、全群で損傷部とその周辺に染色性の低下が見られた。これは48時間後まで徐々に進行した。CH群での染色性の低下が著明で、CI群では低下が抑制されていた。損傷3時間後から、全群で境界膜形成が進行し、12時間後には大部分の筋線維で境界膜が形成された。非壊死領域で、筋線維の長軸方向と平行に伸びる細長い空胞が3,6時間後に観察された。1視野あたりの空胞数の平均を調べたところ、C群1.0個、CI群2.3個、CH群4.3個であった。CI群、CH群ではC群と比較して大きな空胞が観察された。損傷3時間後、全群で単核の細胞が損傷筋線維内に観察され、本細胞は形態学的にマクロファージであると判断できた。筋線維内に進入したマクロファージ数は48時間後まで増加し続けた。筋衛星細胞は6時間後から全群で観察され、24時間後まで増加した。12時間後において全群で肥大化した筋衛星細胞が観察された。CH群では24時間後に、C群では48時間後に筋芽細胞が明らかに観察できたが、CI群では48時間後でも明らかな筋芽細胞は観察できなかった。
    【考察】損傷3時間後から観察された壊死領域の染色性の低下は、Caイオン流入による蛋白分解を示していると考えられる。CH群において染色性の低下が進行していたことから、今回の温熱刺激は蛋白分解を促進した可能性がある。CI群では染色性の低下が抑制されたことから、寒冷刺激は蛋白分解を抑制したと考えられる。損傷3,6時間後、境界膜が不完全な領域で、筋線維内に空胞が観察された。すなわち、この空胞は境界膜が不完全な段階でCaイオンが筋線維内に部分的に流入したために生じたと考えられる。CH群で多くの空胞が観察されたことは、温熱刺激により蛋白分解が促進され、境界膜形成前に二次損傷が進行した現象であろう。CI群における多数の空胞形成は、寒冷刺激により蛋白分解が抑制されたものの、境界膜形成や細胞小器官の集積がそれ以上に遅延したために生じたと考えられる。CH群における24時間後の筋芽細胞の出現は、骨格筋の再生過程の初期には温熱刺激が効果的である可能性を示唆していると考えられる。
    【理学療法学研究としての意義】本研究により、損傷急性期に与える温熱刺激は二次損傷を助長するが、再生過程においては効果的であることが示唆された。今後の臨床応用に興味深い示唆を与えたと思われる。
  • 隈元 庸夫, 世古 俊明, 杉浦 美樹, 高橋 由依
    専門分野: 基礎理学療法26
    セッションID: PI2-071
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/05/26
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    【目的】
    股関節外転筋の筋力トレーニングには多くの報告がある。Open kinematic chainとしては側臥位での股関節外転位保持や背臥位での股関節外転運動があげられる。しかし,股関節は荷重下で骨盤を安定させる筋として重要なため,closed kinematic chain(以下CKC)でのトレーニング方法がいくつか報告されている。なかでも市橋らは片脚立位時に,対側上肢外転,遊脚側骨盤挙上,遊脚側股関節外転の順で筋活動が増加すると報告しており,臨床でもこの手技はよく用いられる。しかし,片脚立位が行えず立位での実施となりうること例も散見される。立位での報告としては足部に多方向から加えられた受動抵抗に対する股関節外転筋活動を検討した報告がある。立位バランスという点では足部からの受動抵抗での検討は有益であるが,足部が安定した状態での骨盤帯の操作による受動抵抗に対するトレーニングがより安全で簡便と思われる。そこで本報告の目的は,立位で側方最大随意運動を行った時の骨盤帯固定側の違いが股関節外転筋活動に及ぼす影響を筋電図学的に検討し,CKCでの股関節外転筋トレーニング法の一助を得ることである。
    【方法】
    課題運動は(1)右下肢支持の片脚立位保持,(2)立位での右側方最大随意運動,(3)立位での左側方最大随意運動の3条件とした。(2)(3)では臨床場面での活用を想定し前方の鏡を目視しながら体幹の代償が生じることがないように対象に指示した。右中殿筋,右大腿筋膜張筋(以下TFL)を被検筋として表面筋電計(Noraxon社製,Tele Myo G2)にて筋活動を計測した。計測した筋活動は徒手筋力検査判定での最大筋活動にて正規化し%MVCを求めた。(2)(3)の実施においては,側方運動方向側の骨盤腸骨稜部位を側方から徒手筋力測定機器(Hogan Health社製,MICRO FET2,以下HHD)で固定し,側方への最大随意運動時の値を計測し体重で除した値を側方運動力とした。また(2)(3)の下肢荷重量についても左右の体重計で測定し下肢荷重率を求めた。再現性については級内相関係数(ICC),差の比較にはWilcoxon t-testとFriedman’s-test,Bonferroni補正を用いて有意水準を5%未満にて統計処理した。
    【説明と同意】
    対象を健常男性12名(平均27歳)とし,全ての対象者から説明と同意を得て実施した。
    【結果】
    各課題での測定値のICCは0.81~0.93であった。(2)(3)のいずれも側方運動力は約0.2N/kg,また下肢荷重率も側方最大随意運動側へ約10%と有意差を認めなかった。筋活動量では左右で有意差を認め,左側方最大随意運動時の右中殿筋,右TFLの筋活動が高かった。特に右中殿筋は左側方最大随意運動で約80%MVC,片脚立位で約25%MVC,右側方最大随意運動で約10%MVCと筋活動量に差を認めた。また右TFLも左側方最大随意運動した時の筋活動量が最も高く,次いで片脚立位保持,右側方最大随意運動時と同様の結果となった。
    【考察】
    藤澤らは左右への連続的側方重心移動では重心の変位量に比例し,移動する際に移動側の中殿筋,TFLの筋活動が増加したと報告している。またスクワットでは足部外側からの受動抵抗で中殿筋,TFL筋活動が増加したとの報告がある。これらは運動学的に股関節外転筋がいずれも制御的活動,つまり遠心性収縮が必要とされる運動となっている。今回の結果も運動学的にとらえるとHHDで骨盤が固定されていたため,右側から左側への側方最大随意運動で左側から右側への受動抵抗が発生し,右股関節外転筋活動が高まったと考える。また右側への側方最大随意運動時については右骨盤固定していることで右中殿筋,TFLの遠心性的制御が不要にて筋活動が低下したと考える。今後,他の固定部位や下肢屈曲角を変化させて,中殿筋とTFLの違いも検討することが必要となるが,少なくとも本結果から,立位で目的筋側と反対の骨盤を固定し目的筋反対側へ側方最大随意運動することは十分な荷重や片脚立位が困難な場合などにおける有益な段階的CKC股関節外転筋トレーニングになることが示唆されたと考える。
    【理学療法学研究としての意義】
    立位で側方最大随意運動を行う際に目的筋側と反対の骨盤を固定し目的筋反対側へ側方最大随意運動することで股関節外転筋活動が増加することを示した本知見は,今後臨床に於ける簡便で段階的なCKC股関節外転筋トレーニング手法として有用になりうる。
  • 新枦 剛也, 村西 壽祥, 木村 祥明, 福田 吉治, 塩津 貴之, 中津川 記代, 桑野 正樹, 中土 保
    専門分野: 基礎理学療法26
    セッションID: PI2-072
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/05/26
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    【目的】
    肩関節障害に対する理学療法において,肩関節周囲筋の筋力低下は日常生活やスポーツ等の活動に大きな影響を与える機能障害であり,客観的な肩関節筋力評価が重要となる.肩関節の筋力測定において,これまで等運動性筋力評価機器やハンドヘルドダイナモメーター等の筋力測定機器による先行研究があり,我々も等運動性筋力評価機器とハンドヘルドダイナモメーターとの関連性について,測定肢位や測定方法等の検討を行ってきた.今回,ハンドヘルドダイナモメーターを用いた肩関節筋力測定における検者内信頼性について検討したので報告する.
    【方法】
    筋力測定の対象は,肩関節筋力に影響を与えるような骨・関節機能に問題のない健常成人12名(男性6名,女性6名)で,年齢28.8±6.1歳,身長166.0±7.3cm,体重61.5±13.1kgであった.また,筋力測定は2名の検者(以下,検者1・検者2とする)により施行した.
    筋力測定はアニマ社製ハンドヘルドダイナモメーター:ミュータスF-1(以下,HHDとする)を用いた.測定肢位は肩甲骨や体幹等による代償を軽減するために背臥位とし,肩関節外転0°位および外転90°位,肩関節内外旋中間位・肘関節90°屈曲位とした.測定項目は肩関節外転0°位での肩関節外転筋力(以下,外転筋力とする),肩関節外転0°位での肩関節外旋筋力(以下,1st外旋筋力とする)および内旋筋力(以下,1st内旋筋力とする),肩関節90°位肩関節外旋筋力(以下,2nd外旋筋力とする)および内旋筋力(以下, 2nd内旋筋力とする)とした.HHDの測定部位において,外転筋力は上腕長の70%の長さを肩峰から計測した部位に,1stおよび2ndの外旋・内旋筋力は肘頭から前腕長の70%の長さを肘頭から計測した部位にHHDを設定した.筋力測定は検者1および検者2により,徒手抵抗にて各測定項目における3秒間の最大等尺性運動をそれぞれ3回行った.そして,2日後に同様の検者および方法にて各筋力測定を3回行った.次に,検者1および検者2による1回目の各筋力測定の平均値を算出した(以下,筋力測定1とする) .同様に,2回目の各筋力測定についても平均値を算出した(以下,筋力測定2とする).
    統計学的分析は,各検者の筋力測定1および筋力測定2における検者内信頼性について級内相関係数を求めた.なお,統計学的分析にはSPSSStatistics 19を用い,有意水準は5%未満とした.
    【説明と同意】
    全ての対象に対して本研究の趣旨について,口頭にて説明を行い,書面にて研究に参加する同意を得たうえで実施した.
    【結果】
    筋力測定1と筋力測定2における級内相関係数について,検者1は外転筋力0.94,1st外旋筋力0.98,1st内旋筋力0.96,2nd外旋筋力0.94,2nd内旋筋力0.88であった(p<0.05).検者2は外転筋力0.94,1st外旋筋力0.91,1st内旋筋力0.96,2nd外旋筋力0.94,2nd内旋筋力0.97であった(p<0.05).
    【考察】
    今回の結果において,2人の検者における各筋力測定の級内相関係数から,本研究のHHDを用いた肩関節の筋力測定は検者内信頼性の高い有用な測定方法であったと考える.HHDを用いた筋力測定の先行研究において,測定の信頼性についてベルト等の固定を用いた方法の有用性が報告されている.しかし,客観的な筋力測定がより簡便に行えることは臨床では重要であり,本研究における徒手でのHHDの筋力測定は,同一検者の信頼性に問題のない客観的な測定であることが示唆された.
    今後,肩関節障害を有する症例についても検討を行い,肩関節周囲筋の筋力増強運動等の効果判定について,より客観的な筋力測定に基づいた理学療法評価が行えるようにしたいと考える.
    【理学療法学研究としての意義】
    臨床における肩関節障害に対する筋力評価では,客観的な筋力測定が簡便に行えることが重要となる.本研究によるHHDを用いた肩関節筋力測定は検者内信頼性が高く,臨床で簡便に行うことができる客観的な筋力測定として意義があると考える.
  • 超音波画像解析を用いて
    唐澤 幹男, 遠藤 敦盛, 清水 藍, 菅谷 真吾, 高見 友, 橋本 尚人, 藤田 剛史, 本多 弘志, 宮下 雅史
    専門分野: 基礎理学療法26
    セッションID: PI2-073
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/05/26
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    【目的】
    近年、超音波画像解析を用いた筋厚測定がさかんに行われるようになり、側腹筋の筋厚の報告は散見される。側腹筋は外腹斜筋(以下EO)、内腹斜筋(以下IO)、腹横筋(以下TA)で構成され、体幹部の安定化に重要とされており、さまざまな指示や姿勢変化でその筋厚測定の研究がおこなわれている。しかし臥位における他動的な骨盤アライメントの違いによる側腹筋の筋厚の変化についての研究は少ない。本研究の目的は背臥位にて骨盤のアライメントを変え、側腹筋の筋厚変化について比較検討することである。
    【方法】
    健常成人14名(平均年齢26.5±4.4歳)、(男性12名、女性2名)とし、超音波画像解析装置(ALOKA社製SSD-4000リニアプローブ5.0Hz)を用いた。測定肢位は骨盤中間位(背臥位にて股関節90°・膝関節90°になるように台を設置)と骨盤後傾位(骨盤中間位で尾側から頭側へ骨盤に三角枕を挿入し、膝関節90°になるように台の高さを調整した姿勢)の2パターンとした。安静呼気終末とへそ引き込み課題にてそれぞれ3回筋厚を測定した。口頭にて安静呼気終末では“普段通り呼吸してください”と指示し、へそ引き込み課題では“おへそをお顔に近づけるようにお腹をへこませてください”と指示をした。測定筋はEO、IO、TAとし、測定部位は前腋窩線上と肋骨下縁と腸骨陵の中間線の直交する位置にプローブを当て、側腹筋の画像を描出した。各側腹筋の筋厚は内蔵された距離測定アイテムを用いて0.1mm単位で計測し、統計処理は対応のあるt検定を行い、有意水準は5%未満とした。
    【説明と同意】
    本研究にあたり、被験者には口頭にて骨盤アライメントと側腹筋の筋厚の関係を明らかにすることが目的であるということ、研究方法に関しては上記と同様であることを説明し、承諾を得て実施した。
    【結果】
    TAの筋厚は骨盤中間位での安静呼気終末(3.6±1.0mm)とへそ引き課題(6.4±1.8 mm)(p<0.01)、骨盤後傾位での安静呼気終末(3.7±0.9 mm)とへそ引き課題(6.7±1.8 mm)(p<0.01)で有意差を認めた。IOの筋厚は骨盤中間位での安静呼気終末(9.6±2.0 mm)とへそ引き課題(12.6±2.8 mm)(p<0.01)、骨盤後傾位での安静呼気終末(10.0±2.6 mm)とへそ引き課題(14.1±3.7 mm)(p<0.01)、へそ引き課題での骨盤中間位(12.6±2.8 mm)と骨盤後傾位(14.1±3.7 mm)(p<0.05)で有意差を認めた。EOの筋厚は安静呼気終末での骨盤中間位(6.4±1.5 mm)と骨盤後傾位(7.2±2.1mm)(p<0.01)、骨盤後傾位での安静呼気終末(7.2±2.1mm)とへそ引き課題(6.0±2.3mm)(p<0.01)に有意差を認めた。
    【考察】
    TAは背臥位においては他動的な骨盤アライメントの違いよりもへそ引き課題において筋厚増大が認められた。TAは腰部の安定化や運動に働くため、他動的な骨盤アライメントの違いでは筋厚に変化を及ぼさないと考えられた。IO・EOは骨盤引き上げや胸郭の下制として働く。IOはへそ引き課題にて筋厚増大が認められたが、骨盤中間位よりも骨盤後傾位のほうが有意に筋厚増大しており、骨盤後傾位でのへそ引き込み課題にIOがより関与していると考えた。一方EOでは骨盤後傾の安静呼気終末で最も筋厚増大が認められ、へそ引き込み課題では筋厚減少がみられた。へそ引き込み課題ではEOが抑制されると考えられた。
    【理学療法学研究としての意義】
    超音波画像解析により側腹筋の筋厚を見ることで、その収縮を確認できると言われている。今回の結果では、TAに関してはへそ引き課題を臥位にて行う効果の再確認と、骨盤後傾位で、かつ、へそ引き課題を行うことIOの筋厚増大を図ることの効果が確認できた。しかしEOにおいてはへそ引き課題では筋厚減少が認められ、収縮が得られにくい結果となった。臨床の場面においてこの結果を踏まえ、必要な側腹筋の筋収縮を得るために骨盤アライメントを調節することは有用である。
  • 吉塚 久記, 中村 朋博, 吉住 浩平
    専門分野: 基礎理学療法26
    セッションID: PI2-074
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/05/26
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    【目的】
    臨床では立位にて下腿外旋・距骨下関節回外(踵骨内反)を伴う症例を多く経験する。その様な症例の歩行では、荷重応答期(LR)に膝関節の衝撃緩和作用を持つ距骨下関節回内が制限され、立脚中期(MS)に移行する段階での重心側方動揺を招き、体幹・骨盤・股関節など個人特有の多様な代償戦略が見受けられる。しかし、距骨下関節回内制限に関する三次元歩行解析の報告はまだ少ない。
    そこで、本研究では臨床歩行分析の一助とする事を目的に、距骨下関節回内が制限された状態の歩行では身体重心制御の戦略が上方へ如何に波及するのか、身体重心位置(COG)と床反力(FRF)各成分の変化を分析する事とした。
    【方法】
    対象は神経学的及び整形外科学的既往の無い健常男子大学生14名(平均年齢20.8±0.7歳、身長169.6±3.7cm、体重61.0±7.2kg)。
    計測は臨床歩行分析研究会推奨DIFF15に準拠したマーカを貼付し、三次元動作解析システム(VICON MOTION SYSTEM社製VICON MX・AMTI社製床反力計)をサンプリング周波数100Hzで用い、自由歩行(条件1)・利き足側距骨下関節回外位テーピング固定条件歩行(条件2)を無作為な順序にて各々3回解析した。尚、距骨下関節の人為的位置変化は川野の扇型スパイラル法を改編して使用し、非伸縮性ホワイトテープにて利き足側を回外位で固定した。ただし、距腿関節底背屈には制限を与えないように配慮した。
    比較項目は、利き足側立脚期時間、その際のCOG移動量(上下・左右方向)、FRF(鉛直・進行・左右方向成分)ピーク値とピーク時間、積分値及び平均力。FRFの値は体重で除して正規化した。統計学的分析には対応のあるt検定を用い、危険率は5%未満とした。
    【説明と同意】
    ヘルシンキ宣言を遵守し、14名全ての被検者に研究目的及び計測方法を説明後、紙面にて研究参加に対する同意を得た。
    【結果】
    立脚期全体の時間に差はみられなかったが、FRF鉛直方向成分のピーク時間で有意差を認めた。2条件共にFRF鉛直成分は一般的な谷により分割された二峰性の波形であり、1つ目の山(F1)・谷(F2)・2つ目の山(F3)を示し、F1時間・F3時間の2項目で有意差がみられた。F1時間はICを、F3時間はF2時間を起点に算出した。F3時間に関してはIC起点の算出では差がみられなかった。F1時間は0.123±0.017秒(条件1)、0.137±0.022秒(条件2)であり回外条件で延長した。またF3時間は、0.199±0.031秒(条件1)、0.179±0.023秒(条件2)であり回外条件で短縮を示した。また、各々の総立脚期時間で除して正規化した値でも、F1時間は20.23±2.22%(条件1)、22.41±2.99%(条件2)、F3時間は32.77±4.90%(条件1)、29.38±3.47%(条件2)であり、共に有意差を認めた。
    その他、COG移動量、FRFピーク値・積分値・平均力では有意差はみられなかった。
    【考察】
    FRF鉛直成分が描く二峰性の平滑線は、F1をLRの峰、F2をMSの谷、F3を立脚終期(TSt)の峰だと解釈できる為、今回の結果にて、IC~LR移行時間が回外誘導にて延長した事、及びMS~TSt移行時間が回外誘導で短縮した事を示唆した。LR移行時間に関しては、田畠らの足底板を用いた先行研究報告と同様の結果であった。
    通常歩行立脚期の距骨下関節の運動は、IC~LRに回内、LR~回外し、肢位としては、IC時に軽度回外位、IC直後に回内外中間位、TSt直前までは回内位、TStで再度回内外中間位となり、それ以降は回外位を呈すとされている。今回、回外誘導条件にて、通常回内運動を生じるIC~LRで時間延長、通常回外運動を生じるMS~TStでは時間短縮していた。
    LR移行期には踵骨が脛骨軸よりも外側に位置する為、受動的に踵骨外反に伴う距骨の内旋と脛骨の内旋を生じるが、回外誘導条件ではそれらが制限され、可動性のある調節器としての機能が破綻し、前足部への荷重準備が阻害された結果、時間の延長が生じたと考える。
    また、TSt移行期ではLR移行期と相反する時間短縮が起きた結果、立脚期全体での時間には有意差を認めず、歩行リズムの整合性を保っていた。これは、回内可動域制限による回外位への移動量削減と、身体上部の個人特有の様々な代償戦略に起因するものと解釈した。
    回内制限ではIC時の緩衝作用が破綻し、距骨頭への過負荷も予測したが、膝の衝撃を示すIC直後のFRF進行方向駆動成分、また左右方向内反積分値では差がみられなかった。COG位置変化にも有意差を認めなかった事から、下腿外反外旋に起因する緩衝破綻への代償的戦略は膝関節・股関節・骨盤・体幹など多因子が関与しており、その対応は個人各々である印象を受けた。
    【理学療法学研究としての意義】
    LR及びTSt移行時間に有意差を認めた事から、下肢筋群仕事量変化の可能性も考えられる。今後、代償戦略の個人特性、特定部位の活動量変化なども視野に入れた追跡研究を検討したい。
  • 篠原 博, 浦辺 幸夫, 山中 悠紀, 藤井 絵里, 大隈 亮, 山本 竜
    専門分野: 基礎理学療法26
    セッションID: PI2-075
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/05/26
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    高齢者の転倒を予測し、未然に防ぐことは重要な課題である。高齢者の転倒は70%が運動中に生じているといわれており(Cali 1995)、歩行能力の分析が必要とされている。筆者らは比較的安価で屋外などでも測定可能な加速度計が転倒予防などを目的とした歩行能力の分析に有効であると考えている。歩行時の加速度の測定は、センサーを腰椎部に置くことが多い。歩行時の若年者と高齢者の上部体幹、骨盤の動きに着目すると、若年者は骨盤帯の動きが先行し、高齢者では上部体幹の動きが先行するという報告がある(McGibbon 2001)。筆者らは、若年者では脊柱の可動性が保たれているために脊柱でも胸椎と腰椎では加速度に違いがあるのではないかと考えた。先行研究では腰椎部に加速度計を取り付けて高齢者の歩行を測定しているが、胸椎部にも加速度計を取り付けた研究は見当たらない。本研究では胸椎と腰椎に加速度センサーを設置し、実際に差があるかを分析することを目的とした。
    【方法】
    対象は、現在下肢に整形外科疾患がない若年健康成人7名(男性5名、女性2名)とした。対象の年齢、身長、体重の平均±標準偏差は23.1±1.9歳、1.74±0.11m、65.3±17.2kgであった。課題はトレッドミル(AUTO RUNNER AR-200, Minato, 日本) 上での歩行とした。速度は先行研究を参考に通常歩行速度を5.1km/h、健康高齢者の歩行速度を3.2km/h、若年者と健康高齢者の中間の値として4.0km/h、の3条件を測定に使用した。各速度で1分間の練習を行った後、15秒間の歩行を測定した。体幹加速度の測定はワイヤレス3軸加速度計(AMsystem、ALNIC社製)にて行い、加速度センサーを第3腰椎レベル、第9胸椎レベルにテーピングを用いて固定した。解析対象は踵接地から立脚中期にかけて生じる垂直方向の加速度、側方への加速度とした。測定開始後7、9、11歩目の各成分ピーク値を平均した。統計学的検定には対応のあるt検定を使用し、各速度での胸椎および腰椎の加速度の値をそれぞれ比較した。危険率5%未満を有意とした。
    【説明と同意】
    対象には、目的や方法などを十分説明した後、署名にて同意を得た。なお、本研究は広島大学大学院保健学研究科心身機能生活制御科学講座倫理委員会の承認を得て行われた(承認番号1015)。
    【結果】
    歩行速度5.1km/h時の胸椎部の垂直加速度は2.69±0.75m/s2であり、側方加速度は2.71±1.78m/s2であった。同じく腰椎部ではそれぞれ3.08±0.69m/s2、3.34±1.70m/s2であった。歩行速度4.0km/h時の胸椎部の垂直加速度は1.60±0.51m/s2であり、側方加速度は2.01±1.33m/s2であった。同じく腰椎部ではそれぞれ1.89±0.59m/s2、2.31±1.70m/s2であった。歩行速度3.2km/h時の胸椎部の垂直加速度は1.05±0.36m/s2であり、側方加速度は1.71±1.02m/s2であった。同じく腰椎部ではそれぞれ1.34±0.33m/s2、1.65±1.19m/s2であった。垂直加速度は歩行速度5.1km/h時の胸椎部と腰椎部の間に有意な差を認めた(p<0.05)。垂直加速度は他の2つの歩行速度では有意な差を認めなかった。側方加速度は歩行速度5.1km/h時の胸椎部と腰椎部の間に有意な差を認めた(p<0.05)。同様に他の2つの歩行速度では有意な差を認めなかった。
    【考察】
    本研究は歩行時の胸椎部および腰椎部の加速度を測定し比較することで、胸椎部の加速度測定の必要性があるのかを検討した。結果として若年者の通常歩行速度に近い5.1km/hにおいて踵接地時から立脚中期にかけて生じる垂直方向、側方方向への加速度は胸椎部の方が腰椎部よりも有意に低い値を示した。同じく歩行速度が遅くなると胸椎部と腰椎部の加速度が同程度になることが分かった。この理由として、速い歩行速度ではケイデンスが増加し歩幅が広くなることなどから、下部体幹がすばやく大きく動くことで腰部の側方への加速度が増大した可能性がある。転倒リスクが高い高齢者では速い歩行速度に達することができず、胸椎部と腰椎部の加速度の差が生じない可能性がある。これを利用すると高齢者の歩行の能力を予測できるのではないかと考える。
    【理学療法学研究としての意義】
    若年者の歩行速度に応じた腰部および胸部の加速度を測定し、高齢者と比較してゆく意義は大きい。
  • 田中 聖也, 馬場 麻美, 松田 悠介, 川口 貴晴, 坂田 絵里菜, 興梠 ともみ, 国中 優治
    専門分野: 基礎理学療法26
    セッションID: PI2-076
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/05/26
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    ファションとしてハイヒールを履く割には、審美性の低い歩行をよくみかける。そこで、美しいハイヒール歩行とは運動学的理論からみてどのようなことが必要となるか、3次元装置を用いて検証したのでここに報告する。

    【方法】
    健常人 (平均21.7±2.5歳)女性30名に対しハイヒール歩行を行わせ、見た目上審美性の高い群(以下A群)10名と低い群(以下B群)20名とに分けた。審美性の高いとは、膝伸展位であることを基準とした。その歩行を三次元動作解析装置(VICON及び床反力計 AMIT社製)にて矢状面から計測し、以下の項目にてAB間を比較した。
    1、初期接地(以下IC)後の股関節、膝関節、足関節の角度及びモーメントのピーク値を比較した。
    2、IC~LR期の矢状面からみた床反力ベクトルの方向を確認し、比較した。
    3、ミッドスタンス(以下M.S)以降の対側の股関節、足関節の角度及びモーメントのピーク値を比較した。
    4、歩幅を比較した。
    5、IC時期の骨盤傾斜角を比較した。

    【説明と同意】
    九州中央リハビリテーション学院倫理委員会により承認(承認番号2009005)
    【結果】
    1、膝関節のみに有意差がみられた。その値は角度がA群11.09±4.75°、B群21.79±5.98°であり、B群の方がA群より屈曲角度が大きかった(P<0.01)。ピークモーメントはA群0.19±0.24Nm、B群0.53±0.38Nmであり、B群がA群より高い値を示した(P<0.01)。
    2、矢状面における床反力方向についてはA群が膝関節中心または前方を通り、B群では膝関節後方を通過した。
    3、反対側の股関節、足関節の各々のピーク角度及びモーメントピーク値において、A群とB群間に有意差はみられなかった。
    4、歩幅においてA群とB群間に有意差はみられなかった。
    5、A群は14.61°、B群は6.74°であり、A群はB群に比べ骨盤が前傾していることがわかった(P<0.05)。

    【考察】
    ハイヒール歩行が美しいと感じる条件は、膝伸展位を保持することと言われている。ハイヒールにて足関節底屈位が保持され、見た目上、下腿が長軸方向に延長され脚が長、身長が高く見える。その視覚効果は、錯覚を利用したものである。関節の運動制限を余儀なくされる歩行を以下に検証する。正常歩行には、立脚期においてヒールロッカー、アンクルロッカー、フォアフットロッカーという3つのロッカー機能が存在する。これらの機能が連動して起こることで、脛骨を前傾し続け、そのモーメントが下肢を伝搬することで身体重心を前方へと運ぶ。脛骨に回転モーメントを与えるきっかけとなるヒールロッカー時の床反力は、足関節軸の後方を通るため、足関節の底屈モーメントを発生させる。その底屈モーメントを脛骨の回転モーメントに変換するために、前脛骨筋の収縮が足関節を軸とした前足部の落下にブレーキをかける。この一連のメカニズムが脛骨を前傾し、重心を前方に移動させることとなる。それに対し、ハイヒール歩行の初期接地においては足関節底屈位にて行う。その結果、前脛骨筋が伸張位となり収縮力が低下し、脛骨の前傾する回転モーメントが生じない。ゆえに重心移動が困難となる。重心移動の点で非効率となるハイヒール歩行においては、ヒールロッカーで発生させることのできない脛骨の回転モーメントを膝関節の屈曲により、脛骨を前傾させて重心の前方移動を可能にしている。しかし、これでは「膝曲がり歩行」となり、審美性の高いハイヒール歩行とは言えない。ハイヒール歩行の審美性を追求すると、IC時での膝関節伸展及び足関節底屈位が重要であることは間違いない。そうなると、IC時の脛骨の前傾は起きず、膝の屈曲も制限するとなれば、身体重心が前方へ移動できなくなるため、以下の点について仮説を立てた。1.反対側の股関節伸展による重心移動。2.反対側の足関節底屈による重心移動。3.歩幅を狭めることで重心移動を容易にしている。4. 腰椎伸展により重心移動。結果は、仮説1~3は有意差がなかったため、前方への重心移動には関与していないことがわかった。仮説4は、A群がIC期に骨盤角度がより前傾しており、腰椎の伸展により重心そのものを前方に移動し、推進力を発生することが示唆された。よって、審美性の高いハイヒール歩行を行うためには、IC~LR期にかけての膝関節伸展・体幹伸展が条件となる。

    【理学療法学研究としての意義】
    審美性の追求は、医療や治療的側面において相反する動作(腰痛の発生や膝への負担など)とはなるが、美を必要とする職業も存在し、その様な要望に応えることができるのも理学療法士としての使命ではなかろうか。ニーズは時代と共に多岐にわたるため、それに対応できる理学療法士が今後、必要である。
  • 井上 隆文, 中道 哲朗, 鈴木 俊明
    専門分野: 基礎理学療法26
    セッションID: PI2-077
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/05/26
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    立位での側体重移動練習は、歩行の立脚期を想定した運動療法として用いられる。このとき、我々は体幹筋の筋活動に着目し、特に内腹斜筋の筋活動を促すための練習として用いることが多い。内腹斜筋の筋活動は、立脚側下肢への荷重が最も増大する立脚中期において、荷重に伴って生じる仙腸関節への剪断力に対し、安定させる作用として増加することが三浦らにより報告されている。我々の先行研究においても、一側下肢へ側方体重移動練習が、内腹斜筋の筋活動に与える影響について筋電図学的に検討し、立証してきた。しかし、立位にて内腹斜筋の筋活動を促すことは、側方体重移動の他でも可能であることを臨床上経験する。具体的には、一側下肢への側方体重移動後、体幹を直立位のままで骨盤を前方へ移動し、前足部の荷重量を増加することで、内腹斜筋を含む体幹前面筋の筋活動が高まることを触診にて確認することができる。そこで今回は、上記の臨床経験を筋電図学的に検討し、運動療法に応用することを目的に、立位での一側下肢への側方体重移動における前足部荷重量の変化が内腹斜筋・腹直筋の筋電図積分値に与える影響について検討したので報告する。
    【方法】
    対象は、整形外科的・神経学的に問題のない健常者男性10名20肢( 平均年齢 26.4歳 )とした。まず、被験者に安静立位をとらせ、筋電図を用いて移動側内腹斜筋と移動側腹直筋の筋電図波形を5秒間、3回測定した。次に、安静立位の状態から一側下肢に体重の95%を荷重した立位姿勢をとらせ、これを開始肢位とした。測定課題は、開始肢位から移動側の前足部荷重量を40%、50%、60%、70%、80%、90%へと順不同に変化させた。このとき、移動側の前後荷重量を確認する目的で、体重移動側足底に2台の体重計を設置した。足部位置は、移動側の横足根関節が2台の体重計の中心上に位置するようにした。測定課題中の規定は、体幹・骨盤の回旋は起こらないように指示し、両肩峰及び骨盤は水平位とし、体幹は伸展や屈曲が生じないよう常に直立位に保持させた。また、前足部の荷重量増加に伴って踵が浮かないように接地させた。そして、それぞれの前足部荷重量における移動側内腹斜筋と移動側腹直筋の筋電図波形を5秒間、3回測定し、3回の平均値をもって個人のデータとした。つぎに、安静立位での各筋の筋電図積分値を1とした筋電図積分値相対値を求め、前足部の荷重量変化が筋電図積分値に与える影響について検討した。なお、統計処理には一元配置分散分析法とTukey-Kramer法の多重比較を用いた。
    【説明と同意】
    各被験者には本研究の目的と内容について説明を行い、同意を得た後に測定を行った。
    【結果】
    移動側内腹斜筋の筋電図積分値相対値は、前足部荷重量の増加に伴って増加する傾向を認め、前足部荷重量80%において40%と、また前足部荷重量90%において40%・50%・60%・70%と比較して有意に増加した(p<0.05)。移動側腹直筋の筋電図積分値相対値は、前足部荷重量の増加に伴って増加傾向を認め、前足部荷重量90%において、40%及び50%と比較して有意に増加した(p<0.05)。
    【考察】
    本研究の測定課題では、前足部の荷重量増加に伴ってその肢位保持のために、体幹は伸展しようとする。これに対し腹直筋は、体幹が伸展しようとする力に対し、体幹屈曲作用にて胸郭を固定し、体幹伸展を制御したと考えられる。三浦らは、骨盤を固定して胸郭を制御するためには、内腹斜筋の筋活動を増加させて腹直筋を活動させる必要があることを報告している。これは、内腹斜筋が腹直筋鞘を介して腹直筋と筋連結を有するため、内腹斜筋の水平方向の筋線維において筋活動が高まると、垂直に存在する腹直筋が活動しやすくなるという、いわゆる土壌作用(soil function)が高まるためとされている。このことから、内腹斜筋は体幹伸展に対する腹直筋の胸郭固定作用の効率を高めるために活動したと考える。本研究結果においても、腹直筋の筋電図積分値相対値が前足部荷重量90%において有意に増加したのに対し、内腹斜筋は80%において有意に増加したことから、内腹斜筋は腹直筋よりも早期に筋活動を高め、腹直筋が活動しやすい土壌の構築に関与したものと考えられる。以上より、本研究の測定課題にて各筋の筋活動を高める場合は、内腹斜筋は80%以上、腹直筋は90%を前足部に荷重する必要があると考えられる。
    【理学療法学研究としての意義】
    一側下肢への体重移動後に、前足部への荷重量を増加させることは、内腹斜筋と腹直筋の筋活動を促すための有用な運動療法になると考えられる。
  • 足底接地条件が異なる2動作での検討
    松田 友秋, 永濱 智美, 福田 隆一, 福田 秀文, 小倉 雅
    専門分野: 基礎理学療法26
    セッションID: PI2-078
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/05/26
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    立位での側方重心移動動作は、歩行を想定して臨床で応用する機会の多い運動課題のひとつである。このような運動課題は、どの運動を制約・許容するかといった条件設定で対応が変化するため、条件設定別での相違点や特性を整理した上で臨床へ応用する必要があると考えられる。
    本研究の目的は、立位での側方重心移動動作における足底接地条件の違いが、両側股関節の経時的な運動に与える影響を検討することである。
    【方法】
    1)対象:健常男性10名(平均年齢:23.8±2.4歳)とした。
    2)運動課題:各被検者の両側上前腸骨棘間の距離に開脚した立位姿勢を開始肢位とし、左側から右側へ重心移動を行う動作を指示した。運動課題は両側の足底を全て接地したまま重心移動を行う動作(以下、足底接地課題)と非移動側の踵を挙上しながら重心移動を行う動作(以下、踵挙上課題)の2通りとした。動作は、両課題ともに両膝関節伸展位の保持、重心移動の際に体幹・骨盤の回旋を行わないよう指示した。
    3)撮影・画像処理:前述した運動課題をデジタルカメラ(Sony社製Cyber-shot DSC-P100)を用いて前方より動画撮影した。得られた動画を、Windowsムービーメーカー(Microsoft社製)を用いて各動作を約0.13秒ごとに静止画へ変換し、PowerPoint2003(Microsoft社製)を用いて角度計測を行った。なお、撮影・角度計測に関しては、我々の行った先行研究において3次元動作解析機との再現性を検討した方法を用いて実施した。
    4)角度計測・解析:両側の上前腸骨棘・大転子・大腿骨外側上顆を指標として、骨盤に対する両側股関節の内外転角度と床面に対する骨盤傾斜角度(左側高位:挙上、低位:下制)を計測した。得られた関節角度に関しては、開始肢位の値を0゜に補正し、動作開始から終了までの時間割合に対する経時的な角度変化を分析した。
    【説明と同意】
    全ての被検者に、研究の主旨と内容を説明し同意を得た。
    【結果】
    1)足底接地課題では、移動側股関節内転・非移動側股関節外転(以下、両股内外転)運動が相対的な角度変化を示しながら、動作開始から終了にかけて増加傾向を示した。骨盤傾斜に関しては、動作終盤にかけて僅かに下制する傾向を示した。
    2)踵挙上課題では、両股内外転運動は相対的な角度変化を示したものの、角度変化の推移にバラツキが生じていた。骨盤傾斜に関しては、踵挙上と同調して骨盤挙上が開始し、動作終盤にかけて角度が増加する傾向を示したが、踵・骨盤挙上の開始時期にバラツキが生じていた。
    3)踵挙上課題における両股内外転運動の角度変化の推移にバラツキが生じた要因を分析するため、骨盤挙上開始以降の両股内外転の経時的な角度変化を分析した結果、10名中8名はほぼ角度変化なし(±1゜)、1名が4~5゜増加、1名が3~4゜減少の傾向を示した。
    4)踵挙上課題に関して、ほとんどの被検者で骨盤挙上時の両股内外転角度が動作終了まで推移することから、骨盤挙上の開始時期とそのときの両股内外転角度との関連性をSpearmanの順位相関係数を用いて検討した結果、骨盤挙上の開始時期と移動側内転角度でrs=0.81、非移動側外転角度でrs=0.87と有意な正の相関を認めた(いずれもp<0.01)。
    【考察】
    今回の結果から、足底接地条件に関らず相対的な両股内外転運動を示したものの、足底接地課題では一定の増加傾向を示したのに対して、踵挙上課題では骨盤挙上のタイミングがその基盤となる両股内外転運動に影響を与える要因となることが推測された。具体的には、踵挙上課題では骨盤挙上のタイミングが早期に生じるほど、動作全般における両股内外転運動の関与は少なく、骨盤挙上を主体とした下部体幹での制御の割合が増加する傾向にあると考えられる。逆に骨盤挙上のタイミングが遅延するほど、両股内外転運動を主体とした骨盤並進運動の要素が増加すると考えられる。
    今回検討した両課題に関して、足底接地課題は相対的な両股関節の運動が動作の主体であるのに対して、踵挙上課題では、前述した両股関節の運動に加え、踵挙上に伴う機能的脚長差と体幹の立ち直りを骨盤挙上で対応するといった下部体幹と両股関節の運動調節が要求される動作である。これらの運動課題を臨床で応用する際は、関節角度等の空間的要素だけに着目するのではなく、動作遂行過程における骨盤挙上のタイミング等の時間的要素が運動の制御に与える影響も考慮する必要があると考える。
    【理学療法学研究としての意義】
    立位での側方重心移動動作における両股内外転運動は、重心移動の基盤となる運動である。本研究の意義は、足底設置条件によって角度変化の推移が異なることと、その要因に時間的要素が影響していることを提言している点である。今後は、動作の背景にある筋活動や力学的解釈を含めた上での検討が課題であると考える。
  • 野村 真嗣, 浦辺 幸夫, 山中 悠紀, 田辺 文理
    専門分野: 基礎理学療法27
    セッションID: PI2-079
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/05/26
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】固有感覚は動的な関節の安定性を保ち,日常生活やスポーツ場面において傷害予防やパフォーマンス向上に重要な役割を担っている.近年,スポーツ傷害の予防を目的とした固有感覚エクササイズが注目されつつあり,成人に対する一定のエクササイズ効果が示されてきた(Swanik,2002).成長期にある少年においても,適切な時期に適切なエクササイズを行うことで固有感覚が効果的に向上することが予想できるが,その成果を示した研究はない.その理由として,少年の固有感覚が年齢ごとにどのように発達するのか十分に解明されていないことがあげられる.筆者らは前年度第45回本大会で,少年の固有感覚を横断的に測定し,6~8歳では11~15歳および成人より固有感覚が未発達であり,肢位を再現したときの誤差が大きくなることを報告した(野村ら,2010).本研究では,前年度と同じ対象の固有感覚を縦断的に測定することで少年の固有感覚が1年間でどの程度発達するかを確認し,エクササイズの介入研究を行う基礎データを得ることを目的とした.仮説として,固有感覚の発達曲線は前年度の結果と近似し,11歳以降に比べ8歳未満では固有感覚の発達度が大きいとした.
    【方法】対象は,筆者らが前年度に測定した小学生男子と中学生男子のうち,追跡調査できた計43名(7~14歳,各年齢5~8名,平均BMI17.5±3.8kg/m2),および若年成人男性15名(年齢24.1±1.4歳, BMI24.1±2.5kg/m2)とし,オーバーヘッドスポーツやリーチ動作で固有感覚が重要となる上肢で測定した.測定の方法は,前年度と同様に,筆者らが独自に考案したレーザーポインタの光の位置を再現させる肢位再現法を用いた.椅子座位で体幹をベルトで固定し,利き手側の前腕遠位にポインタを設置した.測定側の肩峰から1.5m前方の壁にある目標点にレーザーポインタの光を当てさせ,そのときの上肢の位置を記憶させた.一度下垂させた後に閉眼にして,記憶した肢位を再現させた.各動作は3秒間で行わせた.目標点と再現した点をデジタルカメラで撮影し,Scion image(Scion co., USA)を用いて算出した2点の距離を誤差とした.3回測定した平均値を用いた.統計処理は分散分析を行い,多重比較検定によって年齢間の誤差の比較を行った.また,前年度との比較を年齢ごとに行った.危険率5%未満を有意とした.加えて年齢と誤差の関係を非線形近似を用いて表わした.
    【説明と同意】全ての対象および未成年者についてはその保護者に研究の目的と方法を説明し,紙面で同意を得た.なお,本研究は広島大学大学院保健学研究科心身機能生活制御科学講座倫理委員会の承認を得て行った(承認番号:0989).
    【結果】誤差の平均±SDは7歳で166.3±43.5mm,8歳で123.5±62.7mmとなり,いずれも若年成人の62.6±25.2mmより有意に誤差が大きかった.9歳以降は,若年成人との誤差に有意な差はなかった.また,前年度との比較ではいずれの年齢においても有意な差は認められなかった.年齢と誤差の近似式は,R2=0.48で下に凸の累乗関数が最も当てはまりがよく,前年度の第45回本大会で報告したR2=0.41と同様の値であった.
    【考察】 現在,膝関節や肩関節を中心にスポーツ傷害の予防や競技能力向上を目的した固有感覚エクササイズが紹介され,広く導入されつつある.多くが成人を対象としたエクササイズであるが,成長期にある少年にもエクササイズを応用し,固有感覚能力を高めることができると期待される.しかし,少年の固有感覚が年齢ごとにどのように発達するのかは明らかではない.前年度の筆者らの研究で横断的な固有感覚の発達は明らかとなったが,今回の縦断的研究の結果から,9~11歳の間に固有感覚が大きく発達することを示唆しているという知見がより確かなものとなった.年齢と誤差の近似式は前年度と同じく累乗関数であらわされ,R2も同様の値であったことから,発達曲線は正しかったことが確認できた.前年度との比較ではいずれの年齢でも有意な差が認められなかったことから,仮説の一部は棄却された.固有感覚は特別な介入をしていない状況では,1年という期間では有意なほど発達しない可能性が示された.今後,固有感覚エクササイズの介入研究を行い,1年間で有意に発達することが確認できれば,エクササイズの有用性を明らかにできると考える.
    【理学療法学研究としての意義】本研究の結果は,少年から成人における上肢の固有感覚を縦断的に比較することで,9~11歳ごろに固有感覚の発達過程に変化が起きている可能性がより強まった.スポーツ傷害の予防や再損傷予防を行うことは理学療法上重要な課題であり,少年に対する固有感覚エクササイズの介入効果を示す基礎研究として本測定データが利用できる.
  • 松本 香好美, 椿 淳裕, 古沢 アドリアネ明美, 菅原 和弘, 今西 里佳, 大西 秀明
    専門分野: 基礎理学療法27
    セッションID: PI2-080
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/05/26
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】はじめに,近年,理学療法の分野においても脳科学に対する研究が多くなり,注目度が高まっている.特に,運動時の脳活動の変化に対する研究では近赤外分光法(NIRS:near-infrared spectroscopy)を用いた研究が多いが,NIRSは頭皮血流の影響も受けているため,様々な要因で安定した測定結果が得られないこともあり,その解釈には注意が必要である.そこで,本研究の目的は,頚部の角度変化がNIRS信号の変動とどのように関連しているかを明らかにすることである.【方法】対象は,健常成人9名(男性2名,女性7名,平均年齢25.6±9.3歳,平均身長161.2±4.6cm,平均体重59.2±10.1kg)であった.課題は頚部の自動運動である.解剖学的肢位にて頚部が0°の位置を安静時および開始角度とし,被験者には30秒毎に屈曲・伸展・右側屈・左側屈・右回旋・左回旋の順にそれぞれ20°,40°,20°0°の角度で30秒間ずつ保持するよう指示した.頚部の設定角度が一定となるように,3軸傾斜センサーを用い測定し,PowerLabシステムに接続することにより,電気信号で処理された情報を、パーソナルコンピューターの画面上で確認した.また,脳皮質血流量が頭皮血流量と区別できるように,レーザー組織血流計OMEGA FLOW FLO-C1(オメガウェーブ社)を前頭部に設置し,前頭部の頭皮血流も同時に計測した.脳皮質血流量の測定には,近赤外分光イメージング装置FOIRE-3000(fNIRS: functional-NIRS,島津製作所製)を使用し,33チャンネルにて計測した.被験者間で測定部位が統一されるように,国際10-20法のCZを基準として,送受光プローブ固定用のキャップを頭部に固定し,受光プローブ12本と送光プローブ9本を配置した.解析は,課題中の酸素化ヘモグロビン(oxyHb)量の変化を比較検討した.【説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に基づいて行った.対象者には,計測前に実験内容を十分に説明し,同意を得た. 【結果】課題施行中,全被験者にトラブルがなく,実施できた.全被験者において,左側屈40°で左一次運動領野に,右側屈40°で右一次運動領野に,伸展40°で後頭部にそれぞれoxyHb量の増加が見られた.また,頚部の角度が0°を基準とし,頚部の運動方向が各々20°よりも40°の時の方がoxyHb量は増加傾向を示した.特に,左側屈は左一次運動領野,右側屈は右一次運動領野,伸展は感覚運動領野で各々著明であった上,左側屈時の右一次運動領野と,右側屈時の左一次運動領野でoxyHb量は減少していた.一方,屈曲,左右回旋ではoxyHb量に大きな変化は見られなかった.なお,前頭部の頭皮血流量に変化は見られなかった.【考察】頭部の位置の変化により,oxyHbが変動することが明らかとなった.この原因は本研究から明らかにすることはできないが,皮質そのものの血流量が重力の影響とともに変化したこと,頭皮を含めた血液量が変化したこと,頭表から脳表までの距離が変化したことなどが考えられるが,今後の課題である.これらの結果から,今後はNIRS装置を用いて粗大運動時の脳活動を計測する際には,頭部の位置を考慮する必要があると思われる.【理学療法学研究としての意義】運動療法を行う上でパフォーマンスと脳活動との関係を明らかにすることは重要である.NIRSは測定上の様々な問題も抱えているが,粗大運動時の脳活動を計測できる機器として,非常に重要である.そのため,安定した脳活動を計測するための基礎データは理学療法の発展に貢献できると考えられる.

  • 湯本 拓真, 大森 茂樹, 倉林 準, 八並 光信
    専門分野: 基礎理学療法27
    セッションID: PI2-081
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/05/26
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    【目的】
    手指の骨折などによりその使用が制限され、食事動作を箸ではなくスプーン等にて行う方が日常的に見受けられる。食事動作に関しては、年代別の使用方法に関する報告は多く見受けられるが、手指が制限された際の食事動作に関する報告は少ない。本研究では、日常生活において手指を固定された環境下における箸動作巧緻性への影響を検討した。

    【方法】
    対象は健常成人15名(平均年齢25.2±2.7歳)、正しい箸の持ち方が出来る右利きの者を対象とした。
    道具は箸、お椀2つ、副木、弾性包帯、直径6mmの球、ペグボード、ストップウォッチを使用した。
    運動課題1:手指の制限をせず、箸を用いて1分間にお椀からもう一方のお椀へ球を移す豆運びテストを実施した。続いて1分間でなるべく多くのペグを移動してもらい、その本数を測定し、同じ課題を2回測定した。
    運動課題2:示指のproximalinterpharangeal関節(以下PIP関節)・distal interpharangeal関節(以下 DIP関節)・metacarpophalangeal(以下MP関節)を、副木を用い機能的肢位にて固定し、運動課題1と同様の方法で豆運びテストおよびペグテストを1回測定した。さらに中指、薬指についても同様に固定を行い測定を行った。
    統計解析は、運動課題1と運動課題2について、二元配置分散分析を使用し、主効果が得られた場合は,その後の検定で各課題間の比較を行った。

    【説明と同意】
    所属施設における倫理委会の許可を得て行った。対象者にはヘルシンキ宣言をもとに、保護、権利の優先、参加・中止の自由、研究内容、身体への影響などを口頭および文書にて説明し、同意が得られた者のみを対象に計測を行った。
    【結果】
    豆運びテストでは、固定なし群:40.3±5.9個、示指固定群:31.7±4.9個、中指固定群:31.0±7.5個、薬指固定群:30.1±11.3個であった。ペグテストでは、固定なし群:38.8±3.3本、示指固定群:33.2±9.7本、中指固定群:30.7±5.5本、薬指固定群:35.8±5.3本であった。
    豆運びテストでは、固定なし群と比較し示指固定群・中指固定群・薬指固定群、それぞれで有意な差が認められた(どれもp<0.01).また薬指固定群<中指固定群<示指固定群の順に巧緻性が低下した。
    ペグテストでは固定なし群と中指固定群で最も有意差が大きく、次いで示指固定群に有意な差が認められた(ともにp<0.01)。薬指固定群では、有意な差は認められなかった。

    【考察】
    正しい持ち方での箸動作は、母指と示指・中指の対立動作、薬指の支えにより成立している。下の箸を母指と薬指で支え、上の箸を母指、示指、中指の3指で支えつつ動かすことで、繊細な巧緻動作が可能となっており、それぞれの手指で支える役割と動かす役割が混在していることも、箸動作の特徴と考える。
    箸動作は手続き記憶であり、訓練の積み重ねにより習得する動作である。上記のようにそれぞれの手指には役割があり、そのどれが欠けても巧緻性は低下する。
    本研究結果は、薬指固定群が最も巧緻性が低下した理由は、薬指は支える役割を担っている唯一の手指である為と考えられる。薬指以外は動的な役割を担っているため、支える役割が手続き記憶上学習されておらず、支えの役割を果たす事が困難な為だと考えた。
    手指の巧緻動作に関して、手指は1本ずつ単独で働くのではなく、5指全てによる協調動作で微細な動作が可能となっている。示指は母指と隣接しており、日常生活においても使用頻度の高い重要な役割を担っていると考える.また、中指固定群が最も巧緻性が低下した理由として、示指と隣り合う中指が固定されたために手指の連結が断たれ、協調動作に影響を及ぼしたと考えられる。
    箸動作では各手指における動的および支える役割が重要であり、手指巧緻動作では隣り合う手指の協調動作が重要と考えられる。箸巧緻動作においては薬指が、手指巧緻動作においては中指が最も重要度が高いことが示唆された。その為、日常生活の手指使用頻度および重要度と箸動作巧緻性に対する手指の影響は、同一ではないことが推察される。また、箸巧緻動作においては、薬指の果たす支える役割の影響が大きく、それが制限された際に支えの役割を果たす手指を訓練することが、早期の箸動作獲得につながると考えられる。

    【理学療法学研究としての意義】
    箸を使用する上で重要な手指はどれか、またその役割および機能は何か。それらを知ることで、リハビリテーションにて箸動作訓練を実施する際に、手指の訓練を効率的に行うことができると考えた。また障害等により手指の使用が制限された際に、代償法を考案する一助となると考えられる。
  • f-MRIを用いての比較・検討
    上橋 秀崇, 中条 一茂, 大重 匡, 土屋 政寛
    専門分野: 基礎理学療法27
    セッションID: PI2-082
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/05/26
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    運動をイメージするだけで実際の運動に関わる脳領域が賦活することが血流動態反応の視覚化による脳機能画像の発展に伴い報告されている。またイメージが運動学習へと認知神経科学的に効果があると示されている。ヒトの知覚・認知機能と身体運動には不可分な関係が存在し、リハビリテーションに携わるものにとっても軽視できない。運動は身体運動の循環の中で自らの身体受容器を介した運動認知により、知覚情報と意識経験を円環的に解釈して環境と身体活動を知る。この環境との相互作用によるシステムの構築が健常人においては学習、病的状態からは回復となる。今回は運動イメージではなく知覚情報(環境)をイメージしながらの運動を functional magnetic resonance imaging(以下f-MRI)にて時系列的に計測し分析を行いどのような脳活動の変化が起きているのかを明らかにすることを目的とする。
    【方法】
    健常者6名(男性1名、女性5名、年齢28.5±5.5歳(mean±SD))を対象とした。撮像には東芝メディカルシステムズ株式会社製制EXCELART Vantageのf-MRIを使用した。課題動作として被験者には背臥位にて左手指の屈曲伸展運動を2パターン行わせた。課題動作〔1〕として、「スポンジをイメージしながら屈曲」させた。その後実際にスポンジを握り質感を感じ取りながら屈曲を行わせた後、課題動作〔2〕として、「実際握ったスポンジをイメージしながら屈曲」させた。計測は安静34秒-課題動作26秒を1施行とし、課題ごとに3施行繰り返した。解析は脳全体を関心領域(300.94cm×cm)にて、設定し反応した平均値を出し、〔1〕と〔2〕を対応のあるt検定にて統計処理を行った。
    【説明と同意】
    本研究はヘルシンキ宣言に沿ったものであり、対象者に対し今回の研究および報告にあたり、目的・方法について十分な説明を行い、同意を得て実施した。
    【結果】
    〔1〕では0.96±0.85%、〔2〕では1.99±1.20%と、方法〔2〕が方法〔1〕よりも脳血流量が多く、有意な差を認めた(p<0.01)。
    【考察】
    運動において知覚イメージをして握ることにより、脳活動は変化する。今回の結果より、実際握ったスポンジをイメージして屈曲する事は、握る前のスポンジをイメージして屈曲よりも脳血流量は増加する。今回の2つの課題動作は同じ運動であるが、知覚情報と認知過程に大きな違いがある。〔2〕においてはスポンジの質感を表在・深部感覚に注意を向け知覚し、記憶・判断(言語化は行っていない)にて認知し、その過程を即時的にイメージ・再現することにより脳の活動が増加していると考えられる。脳活動の変化において、予想する知覚情報と認知した知覚情報に差があると考えられる。知覚情報を経験すれば脳活動は増加する。また今回は〔1〕は知覚仮説として差異を生み出し学習の過程となっている。このことより身体と環境との相互作用によるシステムが構築しやすく、構築しやすいシステムは脳活動を増加させていると考えられる。
    【理学療法学研究としての意義】
    本研究はf-MRIにて認知過程活性化前後のイメージの変化をみる基礎的研究である。中枢神経疾患のある場合、運動・感覚障害により知覚情報(環境)を認知できず、認知過程に問題が生じる。本研究で得られた結果を基に中枢神経疾患のイメージによる脳活動の状態を比較・評価しリハビリテーションに役立てていくことができる。
  • 安静時と随意収縮時における検討
    齊藤 慧, 山口 智史, 田辺 茂雄, 菅原 憲一, 横山 明正, 近藤 国嗣, 大高 洋平
    専門分野: 基礎理学療法27
    セッションID: PI2-083
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/05/26
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    末梢神経電気刺激(peripheral electrical nerve stimulation: ES)が,脳の可塑性変化を引き起こすことが報告されている(Chipchase LS et al,2010).脳の可塑性変化を起こすために必要な刺激時間は30分という報告(Charlton et al,2003)や120分という報告(Khaslavskaia and Sinklaer et al,2005)がある.しかしながら,実際には中枢神経麻痺患者においては,数分というようなより短時間のESにおいても随意運動の改善などの効果を認めることを経験する.これまでの報告では,安静時の運動誘発電位(MEP)のみの評価であり,随意収縮時のMEPを用いた評価を行った報告はない.実際の臨床場面で経験する,短時間でのES効果を検証するうえでは,随意運動時のMEPを用いた評価を行うことが重要であると考えられる.本研究の目的は,電気刺激による皮質脊髄路への影響を安静および随意収縮時のMEPを用いて検討することである.
    【方法】
    対象は,健常成人10名(男性7名,女性3名,年齢26.7歳±3.1)とした.電気刺激は,電気刺激装置Trio300(伊藤超短波社製)を使用し,肘関節部で正中神経を刺激した.刺激強度は感覚閾値の1.2倍,刺激周波数は30Hz,パルス幅は300μsecとした.刺激サイクルは5秒on-10秒off,刺激時間は60分とした.評価は,TMSによる橈側手根屈筋(FCR)と橈側手根伸筋(ECR)のMEPとした.TMSには,Magstim200(マグスティム社製)および8字コイルを用いた.MEPの記録には,Neuropack-MEB2000(日本光電社製)を用いて,サンプリング周波数10kHzで計測した.TMSの刺激強度は,安静時閾値を50μVのMEPが50%以上の確率で出現する強度とし,刺激強度は安静時閾値の1.2倍とした.MEP測定条件は,1.安静,2.FCRにおける最大随意収縮の5%(5%MVC),3.FCRにおける最大随意収縮の20%(20%MVC)の3条件とした.随意収縮条件は,等尺性収縮にて実施した.計測はES前とES5分後,10分後,以降10分毎に実施し,刺激が終了する60分後まで合計8回実施した.また各測定条件は,2日以上の間隔をあけランダムに実施した.解析は,FCRおよびECRの最大MEP振幅を算出後,それぞれの測定条件におけるES前のMEPで除して,刺激時間毎の増加率を算出した.統計解析は,反復測定分散分析およびBonferroni検定を用いて検討した.有意水準は5%未満とした.
    【説明と同意】
    本研究は東京湾岸リハビリテーション病院倫理審査会の承認を得て行われた.実験の内容について説明後,書面にて同意の得られた対象者に実験は行った.
    【結果】
    FCRにおいて,すべての測定条件でMEP増加率は,刺激時間が長くなるに従って,増大していく傾向を認めその最大値には違いがなかった.一方,測定条件別の特徴としては,MEPの増大を認めるまでの時間が異なった.5%MVCでは,ES前と比較し,ES50分後およびES60分後に有意な増大を認めた(p<0.05).20%MVCにおいては,ES前と比較し,ES20分後から60分後まで有意な増大を認めた(p<0.05).ECRのMEP増加率には,一定の傾向は認めなかった.
    【考察】
    今回,刺激神経(正中神経)支配であるFCRにおいてES20分後から20%MVC時のMEP増加率,ES50分後から5%MVCのMEP増加率の増大が認められ,増加率の最大値では違いを認めなかった.本研究の結果から皮質運動野の可塑的変化は従来の報告よりも早く,少なくとも20分後から出現している可能性が示唆された.また,今回の結果から,ESの効果をMEPで評価する場合,随意収縮が強いほど,その効果が明らかになりやすいということが示唆された.
    【理学療法学研究としての意義】
    本研究は,ESによって脳の可塑性変化が生じるために必要な刺激時間を提示し,中枢神経疾患へのアプローチを考案する上で重要な示唆を与えると考えられる.
  • 秦 一貴, 福留 清博(PhD), 西 智洋, 川井田 豊, 吉本 隆治, 平田 敦志, 前田 誠
    専門分野: 基礎理学療法27
    セッションID: PI2-084
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/05/26
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    高齢者の運動機能向上などリハビリへの応用として,我々はバランス・コントロールを必要とする運動ビデオ・ゲームを使用して患者に能動的にバランス訓練を行ってもらい,市販のゲームであってもバランス能力の維持・向上に一定の有用性があることを報告してきた.従来の研究に多く見られる,外乱によるバランスアプローチと比較して,運動ビデオ・ゲームではバーチャルリアリティ(VR)を利用することで安全かつ簡便に行うことができる利点を有する.しかし,その有用性の発現メカニズムは未知のままである.そのメカニズムを理解するためには,VR空間内での人の反応,例えば,傾きや速度の変化をその中のCGキャラクターとして患者が視覚や聴覚にたよってどのようにコントロールするかを理解する必要がある.そこで今回は,既存ビデオ・ゲームと人との相互作用について,ゲームの映像・音声刺激に対する人の反応を足圧分布から解明できないか健常成人を対象とした研究を開始した.

    【方法】
    対象は健常成人6名(平均年齢25.2 ± 4.7歳)を被験者とした.足圧分布計(シロク社製)をサンプリング時間94 msとして用い,静止立位,自然歩行,および運動ビデオ・ゲーム(Nintendo Wii Fit,ヘディング(ゲーム1),コロコロ玉入れ(ゲーム2))の4群の足圧分布を28-2117フレーム測定した.そこから足底面の4ヶ所(母趾,第一中足骨頭,第五中足骨頭,踵骨隆起)について抽出した足圧の最大値および平均値を求めた.それぞれについて,4群間(静止立位,自然歩行,ゲーム1,ゲーム2)を多重比較検定(有意水準5%未満)した.

    【説明と同意】
    予め,説明や同意に関する方法を含む本研究計画について鹿児島大学医学部疫学・臨床研究等倫理委員会の審議を受け承認(第171号)を得た.その上で,被験者に説明文書を用いて書面および口頭で,研究の目的他,参加が強制ではないこと等を説明した.被験者に同意が得られた場合のみ,同意書に署名を得て研究に参加していただいた.

    【結果】
    1)足圧最大値.左右の第五中足骨頭および踵骨隆起の足圧において,両運動ゲームは静止立位より有意に大きかった.左母趾の足圧では,ゲーム2は静止立位より有意に大きく,また右第五中足骨頭の足圧において,ゲーム1は自然歩行より有意に大きかった.
    2)足圧平均値.左第五中足骨頭の足圧において,ゲーム2は静止立位および自然歩行より有意に大きかった.

    【考察】
    運動ビデオ・ゲームは,大きな動作を必要としないため限られた空間内でも簡便に実施できたが,足底面に加わる圧力は静止立位や自然歩行より大きい部位が存在した.また,ゲームの違いにより圧力の変化が足底面の部位により異なる傾向が見られた.ゲーム1の特徴として被験者の体幹の左右への比較的早い運動が見られるため,左右の第五中足骨頭および踵骨隆起の足圧が大きいことは妥当と考えられる.一方,ゲーム2では前後への比較的ゆっくりとした運動が見られる.左母趾の足圧が静止立位より大きいことから,母趾にはメカノレセプターが多く分布していることも影響していると思われる.このようにゲームの違いにより,異なる視覚,聴覚からの入力信号が足圧分布に影響する可能性が示された.立位保持や歩行動作に匹敵あるいは上回りかつ広範囲に渡る変化に富んだゲーム中の足底感覚への入力(足底部位の圧力上昇)は,末梢へはメカノレセプターの賦活として,中枢へは運動学習の教師信号として,再学習により,低下した身体機能に見合った内部モデルの修正・再構成に繋がる可能性があり,今後患者・高齢者のゲーム時の運動についても明らかにしていく予定である.

    【理学療法学研究としての意義】
    リハビリテーションの各段階で,セラピストには患者を正しく評価することが求められている.特に,医療行為にエビデンスが求められ,数値化できる科学的データが必要とされる現在に至り,様々な評価システムを開発し活用していく事も重要となってきた.特に評価が可能な家庭用ビデオ・ゲームを提供できるならば,レクリエーションのような娯楽性だけではなく,リハビリテーションにおいてさえ活用できる可能性を秘めている.
  • 三浦 和, 黒澤 和生, 廣瀬 真人, 鈴木 知也
    専門分野: 基礎理学療法27
    セッションID: PI2-085
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/05/26
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    臨床で徒手などの圧迫を使った理学療法治療の効果を実感することが多い。過去の研究でも圧迫のさまざまな効果が報告されている。中でも,Robichaudら(1992)は,エアースプリントを5分間持続的に使用し,健常者・脳血管障害者・脊髄損傷者のヒラメ筋脊髄神経興奮性低下への効果を証明した。脊髄運動神経興奮性は痙縮を測るとされており、この結果は、痙縮抑制への可能性を示した。しかし、より効果のある圧迫の強度、時間を数値化した研究は行われていない。根拠に基づいた理学療法治療を行う為、先行研究をもとに、圧迫強度と時間時間を変化させたときのヒラメ筋脊髄運動神経興奮性と下腿血流への影響を検証することを目的に研究を行った。
    【方法】
    研究1・圧迫強度の変化による下肢血流量の変化
    対象は、健常者16名(男性8名・女性8名,平均年齢20.5±1.5歳,167.5±10.5cm、58.5±9.5kg)。姿勢は背臥位、股関節0度、膝関節屈曲20度、足関節軽度底屈位とし、胸部と踵部に枕を設置した。内果後方の後脛骨動脈で下腿の血流量をデジタル超音波診断装置EUB-7500で測定。大腿用血圧計カフの中心を下腿中心に合わせ装着し,水銀血圧計にて圧迫10、30、50、100mmHgをランダムな順で5分間実施し、3分に血流量(Pv値)を測定した。それぞれの圧迫後は5分間休憩をおき,測定位置には印をつけ、同じ位置で測定を行った。
    研究2・圧迫強度と圧迫時間の変化による下肢筋の脊髄運動神経興奮性の変化
    研究1と同様の対象者に同姿勢で行った。利き側のヒラメ筋に電極を皮膚処理後、装着した。圧迫のない状態で膝窩の脛骨神経を1Hzで刺激し、誘発筋電位検査装置MEM2404にてM波の最大振幅とH反射の最大振幅を測定した。研究1と同じ位置に水銀血圧計の大腿用カフ(21cm幅)を装着し、圧迫強度10、30、50、100mmHgに大腿カフをふくらませ、それぞれ圧迫後1分・3分・5分にH反射の最大振幅の測定を行った。圧迫の4回は血流量測定時と同様のランダムな順で行い、それぞれの圧迫後は5分間休憩を入れた。脊髄運動神経興奮性をみるためにH反射の最大振幅とM波の最大振幅の比(Hmax/Mmax) を使用した。
    研究1・2ともに、SPSSを用いて反復測定による1元配置の分散分析、多重比較(Bonferroni)を行なった。
    【説明と同意】
    対象者全員に対して事前に説明及びアンケート記入をしてもらい基礎情報の収集と研究への了承を得てから測定を実施した。
    【結果】
    研究1では、0、10、30、50 mmHgと100mmHgの間に有意な差が認められ、100mmHgの圧迫は血流量を大きく減少させることが明らかになった。10,30,50mmHgでの血流量は、0mmHgと有意差をみとめなかった。
    研究2では、30mmHg3分,30mmHg 5分,50mmHg3分,50mmHg 5分,100mmHg1分,3分,5分と0mmHgの間に有意な差が認められ、30mmHg,50mmHgと100mmHgとで、脊髄運動神経興奮性を大きく低下させることが明らかとなった。脊髄運動神経興奮性は、圧迫時間が長いほど低下をみせた。
    【考察】
    10,30,50mmHgの圧迫では、圧迫を加えていない時と後脛骨動脈の血流量の差は認められず、血流阻害による二次的障害が生じる危険性は低いことが証明された。100mmHgの圧迫は、圧迫をくわえていない時と比較して血流量を大きく低下させ、下腿の充血や萎縮、冷感、疼痛を生じさせる可能性があった。また、30mmHg3分,30mmHg 5分,50mmHg3分,50mmHg5分、100mmHg1分、100mmHg3分、100mmHg5分の圧迫は、Robichaud による先行研究と同様にヒラメ筋脊髄運動神経興奮性の低下を引き起こした。
    よって、30mmHg3分,30mmHg 5分,50mmHg3分,50mmHg5分の圧迫は血流を阻害せず、ヒラメ筋脊髄運動神経興奮性を抑制する効果をもつことがわかった。最も抑制効果がある圧迫強度と時間は、50mmHg5分であった。ゆっくり時間をかけて筋を伸張する圧迫は、靭帯にある深部感覚受容器であるゴルジ腱器官からIb繊維の興奮をひきおこし、脊髄内の介在ニューロンを介して運動神経を抑制させたと考えられる。
    【理学療法学研究としての意義】
    血流を阻害せず、ヒラメ筋脊髄運動神経興奮性を最も低下させる圧迫強度と時間は、50mmHg 5分であり、臨床において、ヒラメ筋の効果的なストレッチや痙縮抑制などに応用することが可能と考えられる。
    脳血管障害者や脊髄損傷者への効果を検証していくことが今後の課題である。
  • 遠藤 博, 山本 泰三, 箱守 正樹, 肥田野 義道, 須藤 聡, 井上 桂輔, 椚山 瑛莉, 郡司 麻美, 望月 拓郎
    専門分野: 基礎理学療法27
    セッションID: PI2-086
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/05/26
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    【目的】
    姿勢と平衡機能に関する神経制御はシステム理論により、活動は個体が運動課題と環境の交流により生ずると説明されている。鈴木は健常者を354cm×453cmの広さの実験室内で、平衡機能計の中心から壁までの距離を36cm、50cm、100cm、150cmとして重心動揺を計測したところ、動揺軌跡の面積が、壁から離れるほど大きくなり、壁が準拠点あるいは枠組みとして生体に大きな影響を与えているのではないかと報告している。山田らは虚弱高齢者を対象に、支持物のない条件と平行棒内条件で立位姿勢の重心動揺を3軸加速度計で計測したところ、平行棒内条件で姿勢動揺が減少していたと報告している。本研究の目的は、前壁と左右の壁からの立ち位置を変えて視覚的条件に変化を与え、静止立位における重心動揺の変化を検討することである。
    【方法】
    対象は特別な既往のない健常成人12名(男性6人、女性6人、平均27.8±4.3歳、身長164.5±11.1cm、体重58.8±13.8kg)。約3m×3mの部屋内に壁面からの距離により5箇所を設定し、その位置での開眼(被験者の視軸水平位につけられた壁の固視点を凝視)での重心動揺を計測した。5箇所は、前壁から0.5m左右の壁の中央(以下、位置A)、前壁から1.0m左の壁から0.5m(以下、位置B)、前壁から1.0m左右の壁の中央(以下、位置C)、前壁から1.0m右の壁から0.5m(以下、位置D)、前壁から1.5m左右の壁の中央(以下、位置E)とした。計測時間は30秒とし、各計測の間には1分間の休憩を設け、疲労による影響を取り除いた。5箇所の立つ順番については、ランダムとした。重心動揺はアニマ社製GRAVICODER GS-31P を用いて測定し、課題ごとの重心動揺データ(総軌跡長、単位面積軌跡長、外周面積)を比較した。統計処方は分散分析後にポストホックテストを行った。有意水準を0.05とした。
    【説明と同意】
    実験に先立ち、対象者には研究内容を口頭にて十分説明を行い、同意を得た。
    【結果】
    総軌跡長は、位置A:26.63±6.11cm、位置B:29.83±9.17 cm、位置C:29.69±8.16cm、位置D:29.75±10.17cm、位置E:31.40±3.80cmであった。単位面積軌跡長は、位置A:30.22±11.25cm2、位置B:25.24±10.80 cm2、位置C:25.34±10.52cm2、位置D:21.75±9.55cm2、位置E:17.60±5.86cm2であった。外周面積は、位置A:1.13±0.97cm2、位置B:1.57±1.38cm2、位置C:1.72±1.96cm2、位置D:1.99±2.00cm2、位置E:2.21±1.84cm2であった。位置Aの単位面積軌跡長より位置Dが短く、位置Aより位置Eが短かった。
    【考察】
    単位面積軌跡長は立ち直りの緻密さを表す独立した指標として確かめられている。姿勢を維持する手がかりとなる視覚情報が遠いことで、立ち直りの少ない制御をすると単位面積軌跡長は短くなる。位置Eの単位面積軌跡長が位置Aより短いのは、前壁からの距離が離れたことが要因と考える。姿勢を維持する手がかりとなる視覚情報が近いほど姿勢が安定するとした鈴木の報告と同じ傾向を示した。位置Dの単位面積軌跡長は、位置Aより短く、それ以外の位置B、C、Eとの差がなかった。前方の壁の前後の位置に関わらず右壁に近い立ち位置でより立ち直りを少ない姿勢制御をしていと考える。開眼中の課題は、固視点を凝視し、中心視野が固定されることから、周辺視野が影響していると考える。左の壁に近い位置では変化なく、右壁に近い立ち位置だけが有意であったので、利き目が影響しているのではないかと考える。
    【理学療法学研究としての意義】
    立位などの練習場面の設定について、視覚的定位を意識した環境に配慮する必要性を示唆する。初めての立ち上がりや立位練習時は、前方の壁に近い位置で実施した方が動揺の少ない姿勢制御をとることで安定した姿勢をとれる可能性があると考える。
  • 通常の支持基底面と制限された基底面との比較
    小西 智也, 穴迫 翔, 山中 正紀, 武田 直樹, 齊藤 展士
    専門分野: 基礎理学療法28
    セッションID: PI2-087
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/05/26
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    【目的】
    立位における姿勢制御を調べた研究の多くは、足圧中心(center of pressure、以下COP)または体重心(center of mass、以下COM)のどちらか一方のみを観察している。外乱刺激が与えられる課題や随意運動課題において、COPとCOMは同じ軌跡をたどるとは限らない。手から重錘を離す課題や歩行開始課題では、COPがその動作の開始直前に移動することにより、姿勢の安定性の確保や前方への推進力を生む。このようなことから、COPとCOMの位置関係により姿勢が制御されている可能性が示唆される。そこで、我々は重錘を離す運動課題におけるCOPとCOMの位置関係を調べた。特に、COPの移動を制限するような支持基底面の条件を与えた時にCOMの移動距離がどのように変化するかを調べた。また、その時の姿勢筋における筋活動の変化も調べた。

    【方法】
    健常成人10名(男7名、女3名、平均20.8 ± 1.2歳)を対象とした。被験者は床反力計の上に置いた平らな板の上で安静立位を保持した。両肩関節屈曲90度かつ肘関節伸展位で重錘を把持し、閉眼にて音刺激の後に任意のタイミングで重錘を離し、この動作が完了した後、その姿勢を保持した。支持基底面の条件はCOPの移動を抑制しない通常時と、COPの後方移動を抑制した制限時の2条件とした。また、外乱の大きさによる姿勢応答の変化を検討するために重錘の重さを体重の2、3、4%の3条件とした。以上の条件を組み合わせた計6条件を7試行ずつ行った。なお、制限時の条件は踵から足長の30%が板から出るように設定した。各身体部位に17個の反射マーカーを取り付け、三次元動作解析装置により記録することでCOMの位置を算出した。床反力計を用いてCOPを計測した。重錘を落とした時を動作開始時間として、その後のCOP最大後方移動距離とCOMの最大前方移動距離を算出した。筋電計により腹直筋、脊柱起立筋、大腿直筋、大腿二頭筋、前脛骨筋、腓腹筋から筋活動を記録した。動作開始時間から250msまでの筋活動量を各筋から算出した。統計学的検討として、支持基底面の違いや重錘の重さによる影響を調べるために二元配置分散分析法とpost-hoc testを用いた。有意水準は5%とした。

    【説明と同意】
    この研究は、ヘルシンキ宣言に基づき対象者には必ず事前に研究趣旨を文書および口頭で十分に説明し、書面にて同意を得て行った。

    【結果】
    重錘を体重の2、3、4%と増加させると、COP最大後方移動距離は通常時で1.7、2.2、2.7cmと増加した。制限時においてもそれぞれ1.0、1.3、1.6 cmと増加した。また、COM最大前方移動距離は通常時でそれぞれ0.3、0.3、0.4 cmで、制限時で1.0、1.0、1.3 cmであった。このように、COPの後方移動距離は重錘の重さの増加に応じて有意に増加した(p < 0.01)。また、通常時と比較して制限時にはCOPの後方移動距離は減少し、COMの前方移動距離は増加した(それぞれp < 0.01)。また、重錘を落とした後250msにおける筋活動量は、支持基底面の条件によって前脛骨筋及び腓腹筋の活動量に有意な変化が見られた。制限時では通常時と比較して前脛骨筋の活動量は有意に増加し、腓腹筋では抑制した(それぞれp < 0.01)。また、重錘の重さの増加に応じて腓腹筋の有意な抑制がみられた(p < 0.01)。

    【考察】
    COPの後方移動を抑制した場合、COMの前方移動距離が有意に増加した。このことは、通常時には姿勢を保持するためにCOPが強く関与するが、COPの移動が抑制されるとCOMの移動により姿勢を保持することを示唆し、姿勢の制御にCOPとCOMの位置関係が重要であることを示している。また、このようなCOPやCOMの移動を引き起こす姿勢筋活動は、COPの後方移動が制限されると大きく変化した。腓腹筋の筋活動の抑制と前脛骨筋の筋活動の増加により身体を前方へ傾けることでCOMを通常時より大きく移動させ、COPの制限された移動を補償していると推測される。重錘の重さの増加に応じて腓腹筋の抑制が有意に強くなったことから、この運動課題で姿勢を保持するために、身体後面の筋が重要な役割を担っていると考えられる。

    【理学療法学研究としての意義】
    姿勢制御メカニズムの解明は理学療法におけるバランス障害の治療及び転倒予防に対して重要な意味を持っており、本研究の結果は、立位での姿勢制御においてCOPとCOMの位置関係や姿勢筋の活動が重要であることを示唆している。このような基礎的研究により立位での姿勢制御メカニズムが少しでも解明されれば、今後のバランス能力向上のための理学療法プログラムの作成に役立つと考えられる。
  • 笠原 伸幸, 冷水 誠, 浅井 哲也, 富田 純也, 黒川 愛, 小辻 雄介
    専門分野: 基礎理学療法28
    セッションID: PI2-088
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/05/26
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    【目的】
    運動学習においては身体練習だけでなく、他者を観察するという観察学習によってさらなる効果があるとされている。バランス学習においても、Sheaら(1999)が交互練習による観察学習が効果的であると報告している。しかしながら、これらの報告はいずれも、他者を観察する条件としない条件の比較であり、自己のパフォーマンス観察による効果は検討されていない。運動学習には他者観察だけでなく、適切な外在的フィードバックの付加が運動学習を高めるとされる。その方法として,自己のビデオ映像観察によるフィードバック効果が報告されている。しかしながら、これらの報告では自己のパフォーマンス観察であり,他者の観察による学習効果との比較はされていない。これらのことから、効果的な運動学習において観察学習としての他者観察と、フィードバック効果による自己観察ではどちらが効果的であるかは検証されていない。そこで、本研究の目的は健常成人を対象として、ビデオ映像を用いて他者観察と自己観察のどちらがバランス学習に効果的であるかを検証することである。

    【方法】
    対象は健常成人30名(男性13名、女性17名、平均年齢30.2±6.4歳)をとし、対象者をコントロール群、自己観察群、他者観察群の3群に分けた。課題は側方への不安定なバランスボード(DIJOC BOARD 酒井医療)上の立位にて、できる限り長くバランス維持(DIJOC BOARDの両端が床につかないように)することとした。立位肢位の設定は被験者の肩幅を足幅とし、視線は3m先の目標物とした。課題の施行時間は30秒間とし、学習過程として課題を5回施行した。各課題間には一分間の端坐位での休憩をはさんだ。
    コントロール群は観察およびフィードバック情報を与えずに課題遂行と休憩を5回繰り返した。自己観察群は課題間の休憩中に直前に自己が行ったパフォーマンスのビデオ映像を観察し課題を繰り返した。他者観察群は課題間の休憩中に他者が課題を行っているビデオ映像を観察し課題を繰り返した。測定項目は課題中にDIJOC BOARDの両端が床に接していない最長時間とし、撮影したビデオ画像から計測した。測定時期は5回の練習前に初期評価として行い、練習後に最終評価を行った。さらに、持ち越し効果を見るために翌日にも評価を行った。統計学的分析は、学習段階および群について二元配置分散分析を用い、多重比較にはbonferroni法を用いた。

    【説明と同意】
    対象者にはあらかじめ研究の趣旨を十分に説明し、同意を得た。

    【結果】
    最長時間について,学習段階において主効果が認められたが(p<0.05)、群における主効果(p=0.86)および交互作用(p=0.47)は認められなかった。多重比較の結果、自己観察群の初期評価と最終評価の間のみに有意な差が認められた(p<0.05)。コントロール群および他者観察群では有意な差は認められなかった。持ち越し効果については各群とも有意な差は認められなかったが、他者観察群にて高い傾向がみられた。

    【考察】
    今回の結果では、バランス学習においては自己観察のみに学習効果が認められた。このことは、自己観察では視覚フィードバックの情報により自己の経験とのずれを明確に認識することができ、修正した自己のイメージをえがくことが学習を効果的にしたと考える。これに対して、他者観察では先行研究にあるような有意な学習効果が認められなかった。このことは、他者観察による視覚情報ではフィードバック情報とならず、自己の経験とマッチングしなかったことが効果的な学習につながらなかったと考えられる。しかし、コントロール群と比較すると初期評価と最終評価にて学習効果がある傾向を示していたため、被験者数の少なさが影響したことも考えられる。また、持ち越し効果について、他者観察群では統計学有意差は認められないものの、自己観察群と比較して高い傾向がみられたことから、今後さらなる検証が必要であると考える。

    【理学療法学研究としての意義】
    本研究の結果から、さまざまな動作獲得の基盤となるバランス能力の向上に対する訓練の一つとして、ビデオを用いた自己運動観察法が有効である可能性を見いだすことができた。今後、バランス障害を有した患者に対する効果を検証していくことで、特別な機器を必要としない臨床上有用なバランス学習における介入手段への発展において重要な意義があると考える。
  • 木内 隆裕, 冨永 渉, 南 千尋, 中村 めぐみ, 古谷 槙子, 三上 隆, 松林 潤, 三谷 章
    専門分野: 基礎理学療法28
    セッションID: PI2-089
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/05/26
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    一側の上肢および下肢においてスキル学習や筋力トレーニングなどを行うことにより,全く訓練を行っていない反対側の上肢および下肢においても,そのスキルや筋力などが向上する現象(以下,両肢間転移と略記)が多く報告されている(Obayashi et al., 2004; Lee et al., 2007)が,運動速度においても両肢間転移が生じるかどうかは明らかにされていない.本研究では,運動速度の向上のみを要求する介入課題として右手関節の背屈運動を用い,その介入が(全く訓練を行っていない)左手関節の背屈運動速度(以下,左手背屈速度と略記)を向上させるかどうかを検討した.
    【方法】
    対象:上肢に整形外科疾患や神経学的疾患のない若年成人31名であった.これらの被験者のうち,除外基準に該当しなかった22名を,訓練群11名(男性2名,女性9名,平均年齢25.5歳),コントロール群11名(男性3名,女性8名,平均年齢27.2歳)に割り付けた.
    課題:訓練群に対しては,介入課題として,手指伸展位での右手の背屈運動(被験者の最大速度で遂行)を,3秒間に1回のペースで10回×10セット(計100回)行わせた.この100回の背屈運動を1セッションとし,これを2回行った.この介入による左手背屈速度の変化を明らかにするため,介入前の左手背屈速度,介入第1セッション後の左手背屈速度,及び介入第2セッション後の左手背屈速度を計測した.左手背屈速度の計測には光ファイバーと光電センサ(オムロン社製)を用いた手関節背屈運動速度測定装置を利用した.これは,光ファイバーの光軸を手関節背屈可動域内の任意の2点に設定し,被験者の手背面がこの光軸を遮ったタイミングを記録するものである.今回は手関節背屈0度および60度の位置に光軸を設定し,この2点間を通過するのに要した時間を運動速度に対応するものとみなした.速度計測の際には,左手背屈運動を10回行わせ,平均所要時間を求めた.
    コントロール群は訓練群と同様のスケジュールで実験を行ったが,介入課題として,運動に関連する事象を想起せずに安静にすることを指示した.左手背屈速度の計測は,訓練群と同様に行った.
    解析:左手背屈速度のデータは介入前の運動速度に対する比率(介入前を100%とした値)に変換した.この比率を用いて,「群」(被験者間要因)および「計測時期」(被験者内要因)を要因とする反復測定二元配置分散分析を行った.解析にはSPSS version 15.0を用い,有意水準は5%未満とした.
    【説明と同意】
    被験者へは書面及び口頭にて十分に説明し,同意を得た.
    【結果】
    介入前における左手背屈0度から60度までの平均所要時間は,訓練群94.4±28.4ms(平均値±標準偏差),コントロール群92.2±34.7msであり,群間に有意差はなかった(独立した2標本のt検定(t(20)=-0.158,p=0.876).第1セッション後の計測では,訓練群75.5±21.9ms,コントロール群93.2±38.9msであり,第2セッション後では,訓練群70.0±22.3ms,コントロール群87.4±28.7msであった.介入前の平均所要時間を100%とした比率は,第1セッション後では,訓練群81.3±16.1%,コントロール群103.9±34.7%であり,第2セッション後では,訓練群75.8±19.8%,コントロール群98.6±27.1%であった.分散分析を行ったところ,「群」の主効果が有意であった(F(1,20)=4.782,p=0.041).一方,「計測時期」の主効果は有意でなく(F(1,20)=2.904,p=0.104),また「群」×「計測時期」の交互作用も有意ではなかった(F(1,20)<0.001,p=0.984).すなわち,訓練群とコントロール群を比較すると,訓練群で左手背屈速度の有意な向上が認められた.
    【考察】
    右手関節の瞬発的な運動訓練を100回以上行うことが,運動訓練を全く行っていない左手関節の運動速度を向上させることが明らかとなった.このことは,運動速度において右手から左手への両肢間転移が生じていることを意味する.先行研究では達成速度と正確性を同時に求める課題の学習効果において両肢間転移が生じることが報告されている(Thut et al., 1997)が,その現象には運動速度の転移も含まれている可能性が示唆された.
    【理学療法学研究としての意義】
    整形外科術後や脳卒中後などのように上肢および下肢が一側性に長期間不動もしくは寡動の状態におかれる場合,その肢の廃用の予防や治療の手段として,健側肢の運動訓練が有効に作用する可能性を示唆する.
  • 須永 康代, 鈴木 陽介, 木戸 聡史, 阿南 雅也, 新小田 幸一
    専門分野: 基礎理学療法28
    セッションID: PI2-090
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/05/26
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    【目的】妊娠中は腹部の容積・重量が大きくなるにつれて、身体重心(COM)が前下方へ変位し、これを代償するために胸椎後彎や腰椎前彎の増加または減少が生じることが報告されている。筆者らは前報において、妊娠経過に伴う胸腰椎の彎曲の増減に関する変化パターンの個人差を報告した。妊娠中は脊柱の彎曲を変化させてCOMを後方移動し、安定性を確保している。しかし、こうした変化が腰背部痛の原因となり、日常生活活動(ADL)に影響を与える可能性がある。そこで本研究は、ADLにおいて最も基本的かつ行う頻度の高い動作の1つである起立してそのまま歩行を開始する一連動作で、妊娠中にはどのような動作様式の変化が起こるかを調べ、妊婦が妊娠中に安全で快適な生活を送るための情報を得ることを目的として行った。

    【方法】対象者として、妊婦9名(年齢:平均29.6±3.9歳、身長:平均161.3±4.4cm、1回目測定時(妊娠18±1.9週)の体重:平均58.6±6.9kg)と、コントロール群として未経産女性9名(年齢:平均30.9±3.2歳、身長:平均157.9±5.0cm、1回目測定時の体重:平均52.1±6.8kg)の協力を得た。妊婦群は妊娠16-18週、24または25週、32または33週で計3回測定を行った。コントロール群は初回とその16週後に再度測定を行った。対象者には頭頂、一歩目遊脚側の肩峰、大転子、膝関節中央、外果に標点マーカーを貼付し、デジタルビデオカメラ(Sony社製 DCR-DVD508)を用いて矢状面より撮影を行った。対象者には課題動作としてまず背もたれと肘置きのない椅子に座り、計測者の合図とともに任意の速さで立ち上がり、前方へ歩くよう指示した。座面高は床面から膝関節裂隙までの高さに設定した。座位から起立し、歩行に移行する動作を3回試行した。撮影した画像は画像解析ソフトウエア (NIH製Image J)を用いて解析し、COMの前後・鉛直方向の座標および速度を算出した後、頭頂マーカーが動いた時点から一歩行周期終了までを一連動作時間として時間正規化を行った。また、COM移動の円滑さを調べるため、鉛直方向座標(Az)の位相面解析を行った。統計学的解析には、SPSS 16J for Windows(エス・ピー・エス・エス社製)を使用し、妊婦群のデータは反復測定による一元配置分散分析にて妊娠時期毎に比較した。また、コントロール群との比較にはt検定を用い、有意水準はp<0.05を採用した。

    【説明と同意】本研究の実施にあたり、著者所属機関の倫理委員会の承認を得、対象者には研究の目的と内容について十分に説明し、同意を得たうえで測定を実施した。

    【結果】1動作中の妊婦群の前後方向COMの平均移動速度は、2回目と3回目は、1回目より高い値を示し、さらにそのピーク値の発生時間が有意に早くなっており(p<0.05)、妊娠週数が進むにつれて現れる変化が確認された。各測定時期でのコントロール群との比較では、前後方向COM速度のピーク出現時期は有意に早くなっていた(p<0.05)。位相面解析からは、コントロール群では起立動作開始後、Azの1階時間微分dAz/dtが収束しないまま歩行動作へと移行していたのに対し、妊婦群では1回目測定時は起立動作後にdAz/dtが収束してから歩行動作へと移行していたが、2回目、3回目測定時にはコントロール群と同様のパターンを示す被験者がみられた。

    【考察】起立動作の要素においては、妊婦は妊娠週数が進むにつれて腹部の容積が増大するため、起立動作時の体幹前傾が困難となり、COMの前方移動は不十分となると考えられるが、視覚的に著明なアライメント変化を認めない妊娠初期であっても、すでにコントロール群よりも前後方向COM速度ピーク出現時期は早くなっていた。妊娠週数の経過とともに前後方向COM速度は速くなっており、また、位相面解析からも妊娠初期では一旦は確実な制御の後に歩行動作へと移行することを確認したが、妊娠中期、後期と進むにつれてコントロール群と同様に、起立動作開始後のCOM軌跡が収束しないまま歩行動作へと移行していたことから、妊娠経過に伴う形態的変化に徐々に適応し、とぎれなく過渡的に動作が遂行可能となっていることが明らかになった。

    【理学療法学研究としての意義】起立動作は、引き続く何らかの目的動作を遂行するための準備動作であり、起立後に移動動作を伴うことが多いため、起立から歩行までを一連動作として解析する必要がある。また、妊娠・出産は女性にとって重大なライフイベントであり、妊娠中の動作機構の変化について明らかにすることは、妊婦が安全かつ快適な生活を送るためには重要であり、本研究の結果は理学療法士の果たす役割の1つを提示できたと思われる。
  • 上原 貴廣, 森岡 周
    専門分野: 基礎理学療法28
    セッションID: PI2-091
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/05/26
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    日常には多くの刺激・情報が溢れているが、同時に全てを処理し把握する事は出来ない。しかし、視覚、聴覚、体性感覚などから入力される膨大な情報を、全て一度に認知出来なくても、日常では自分に必要な情報のみに選択的に注意を向け処理する事で生活する事が出来る。臨床において、歩行獲得初期の脳卒中患者では、口頭指示により身体へ注意を向けさせることで、麻痺側下肢の振り出しの困難さが改善し、運動学習の効率が向上する事を経験する。運動学習にはエラー検出の為の感覚フィードバックと、感覚フィードバックに注意を向けエラー検出の精度を高める事が重要であり、歩行遊脚の運動学習においても同様である。
    立位制御と注意の関係について、制御の難易度が上がることで立位制御へ向けられる注意量が増加する事が報告されており、歩行遊脚期に対側での立脚が不安定になると遊脚へ注意を向けにくくなる事が考えられる。
    そこで本研究では、片脚立位の安定性が非支持脚への注意へ及ぼす影響について事象関連電位を用い検討する。
    【方法】
    対象者は健康成人7名、平均年齢26.5±4.4歳であった。課題は右下肢片脚立位保持とオドボール課題とし、片脚立位は床面の硬度を操作し安定性を変化させる2条件(安定・不安定)を設定した。オドボール課題は、左下肢への電気刺激による低頻度刺激に対してカウントさせた。被験者には片脚立位課題に対し、1) 軽く開眼して極力瞬きをせず1m前方の点を注視する、2)上肢は脱力し体側に垂らす、3)左下肢は脱力し姿勢制御には使用しない、の3つの指示を行った。
    片脚立位中にオドボール課題を用いた事象関連電位(ERP)と身体動揺を計測した。ERP測定には、筋電図・誘発電位検査装置(日本光電株式会社製 MEB-2200)を使用し、ERPの導出は導出電極をFz,Cz,Pz、基準電極をA1-A2とし単極導出を行った。電気刺激は左下肢の後脛骨神経にて行い、刺激強度は高頻度刺激を感覚閾値の1.1倍、低頻度刺激を感覚閾値の1.2倍、頻度は高頻度刺激7に対し低頻度刺激3の割合で行い、間隔は一定とし2種類の刺激をランダムに与えた。
    解析は、各部位の加算平均波形からN140、P300を同定し潜時と振幅を算出した。身体動揺測定は、電圧式加速度センサー(マイクロストーン株式会社製 )を使用し、センサーをL4/5に固定して脳波測定に同期させて行い、電圧データを加速度データに変換し3軸成分を合成、RMS処理を行ったものを身体動揺値とした。各条件を一回ずつ施行し試行の順番は各被験者それぞれランダムに行った。統計処理は、立位条件間における潜時・振幅・身体動揺をpaired-t testを用い、潜時・振幅と身体動揺の関係をピアソンの相関係数を用いて検討した。
    【説明と同意】
    本研究に際し、被験者全員に研究の趣旨と個人のプライバシーが守られる事を説明し同意を得た。
    【結果】
    2条件間での比較において、不安定条件で有意な身体動揺の増加(p<0.01)とN140 とP300の振幅低下(p<0.01)が認められた。また、身体動揺と振幅の関係において、身体動揺とN140のCz(r=-0.50,p<0.05)、P300のFz(r=-0.56,p<0.05)、Cz(r=-0.51,p<0.05)に負の相関が認められ、身体動揺が増加する事でN140とP300の振幅が低下する傾向を示した。
    【考察】
    片脚立位において床面硬度が低下する事により、身体動揺の増加とN140 とP300の振幅低下し、それらに関係性が認められた事から、片脚立位の不安定性の増大により片脚立位制御へ向けられる注意量は増大し、非支持脚へ向ける事の出来る注意量が減少する事が示唆された。
    立位は前庭迷路系、視覚系、固有受容感覚系からの情報を中枢で統合し、環境や状況に応じ最も適した感覚系の選択と組織化により保持されている。本研究では、床面の硬度が低下し不安定性が増す事で、感覚系の選択と再組織化に対し優先的に注意が向けられたのではないかと考えられる。
    N140とP300について、N140は早期の知覚段階における特定の知覚処理に、P300はより中枢における非モダリティー知覚処理に向けられる注意を反映しているとされている(Kida,2004)。本研究において、不安定条件でN140とP300の振幅が低下した事から、片脚立位が不安定になることで非支持脚への注意量が減少し、体性感覚フィードバックを用いた制御精度・学習効率が低下する事が考えられる。
    【理学療法学研究としての意義】
    今回の検討により、歩行遊脚の学習において反対側下肢での立位安定性が影響する事が示唆された。歩行遊脚の学習段階の患者に対し評価する際、遊脚制御のみでなく反対側下肢での片脚立脚安定性の評価も行う事の重要性が示唆されたと考える。
  • 澳 昂佑, 石田 裕保, 平岡 浩一
    専門分野: 基礎理学療法28
    セッションID: PI2-092
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/05/26
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    【目的】
    運動イメージ時のヒトの脳活動は運動実行時と等価的であるとされ(Jackson et al. 2001)、運動学習や運動技能の向上に有効ではないかと期待されている。これらの知見より、運動イメージはリハビリテーションの臨床応用に向けて多くの研究がなされている。運動イメージを補助する方法として運動錯覚がある。運動錯覚は運動イメージと類似の脳活動を行うことが示唆され、運動イメージと組み合わせることにより、知覚の認知に変化を与えることが証明されている(Naito et al. 2002)。しかし運動イメージと組み合わせたときの皮質脊髄下降路への影響は証明されていない。本研究では振動刺激after effectによる運動錯覚と運動イメージ併用による皮質脊髄下降路への影響を経頭蓋磁気刺激(TMS)により誘発される運動誘発電位(MEP)の振幅により検証した。
    【方法】
    被検者12名(22-34才)に椅子座位をとらせ、閉眼させた。右前腕を机上に固定し、右上肢前腕伸筋群(ECR)に振動刺激装置・筋電記録電極を設置した。ECRへの振動刺激(周波数:80Hz、振幅:3mm、時間:10s)を開始合図直前10sに実施した。ECRへの振動刺激修了後数秒間は手関節背屈錯覚が誘発される(Kito et al. 2006)。実験前に振動刺激中、振動刺激後の運動錯覚の鮮明度をVASにて記録した。運動イメージは開始合図により手関節を3sかけて背屈する筋感覚をイメージさせた。TMSは開始合図の2s後に施行し、MEPを記録した。TMSの強度はMEP閾値の1,1倍とした。実験条件は振動刺激と運動イメージ併用条件、運動イメージ条件、振動刺激条件、安静条件とした。各実験条件はランダムに15試行実施した。MEPの記録は医師の指導の下、厳密なリスク管理下にて実施した。MEP振幅はpeak-to-peakにて算出した。TMS直前0-25msのtime windowにてECRのEMGから積分値(IEMG)を算出した。各条件間の平均値の差はFreedmann testとpost-hoc testを用いて検定した。振動刺激aftereffectによる運動錯覚の鮮明度とのSpearmann順位相関係数を算出した。筋放電量の要因を除去したsupraspinalな効果を検証するため、目的変数をMEP振幅、共変数をIEMGとしたANCOVAを実施した。有意水準は0.05とした。
    【説明と同意】
    実験は大阪府立大学倫理委員会の承認を得て実施された。被験者には実験の目的、方法、及び予想される不利益を説明し同意を得た。
    【結果】
    被験者12名中9名はafter effectにおいて背屈の運動錯覚を経験した。錯覚の鮮明度を示すVASの平均値は48%であった。振動刺激条件におけるIEMGおよびMEP振幅の増加量と振動刺激aftereffectによる運動錯覚の鮮明度との間において有意な相関は見られなかった。MEP 振幅は振動刺激・運動イメージ併用条件にて安静時と比較して有意に増加した。IEMGも同様に 安静時と比較して振動刺激・運動イメージ併用条件にて有意に増加した。ANCOVAによる筋放電量の要因を除去した4群間のMEP振幅の差の検定では、運動イメージ条件と振動刺激・運動イメージ併用条件で安静時と比較して有意な増加を観察した。
    【考察】
    振動刺激aftereffectによる運動錯覚と振動刺激直後のMEP振幅増加量の間に有意差がなかったことから、振動刺激aftereffectによる運動錯覚は皮質脊髄下降路に直接関与しないことが示唆された。しかし、運動イメージ単独ではMEP振幅は有意に増加しなかったにも関わらず運動イメージと振動刺激aftereffectによる運動錯覚を併用することでMEP振幅が増加することが示されたことは、振動刺激aftereffectのみでは皮質脊髄下降路は変調しないが、振動刺激aftereffectを運動イメージと併用することにより、皮質脊髄下降路の変調をもたらすことを示唆するものであった。他方、先行研究(Guillot et al. 2007)と一致して背景筋放電量もMEP振幅増加に伴って増加する傾向にあったが、この筋放電の影響を除外したANCOVAの結果は、筋放電の影響を除外したsupraspinalな下降路興奮性が運動イメージおよび運動イメージと振動刺激aftereffect併用の両条件にて生じていることを示唆するものであった。
    【理学療法学研究としての意義】
    本研究は運動イメージを効果的に実施するリハビリテーションアプローチの基礎研究として意義が高いと考える。
  • 刺激間隔の相違による検討
    藤原 聡, 伊藤 正憲, 嘉戸 直樹, 鈴木 俊明, 嶋田 智明
    専門分野: 基礎理学療法28
    セッションID: PI2-093
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/05/26
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    【目的】反応時間は、刺激が与えられてから動筋の筋活動が開始するまでの潜時である筋電図反応時間(以下EMG-RT)と筋活動が開始してから実際の運動が開始するまでの潜時である運動時間に分けられ、運動発現の機構を分析する手段としてよく用いられている。われわれはこの反応時間研究において、周期的な聴覚刺激を呈示し、一側の足関節背屈で応答させる反応時間課題を設定し、刺激回数の増加がEMG-RTに及ぼす影響について検討した。その結果、3 回目のEMG-RTが1回目と2回目に比べて短縮し、3回目以降のEMG-RTには差を認めなかった。このことから、3回目以降の聴覚刺激に対する運動では、刺激間隔に一定のリズムがあることを認識し、効率的に運動が出力されていると考察した。本研究では、周期性の認識に基づく効率的な運動中に3種類の異なる刺激間隔を呈示し、EMG-RTの変化について検討した。
    【方法】対象は、聴覚に異常を認めない健常者17名(男性12名、女性5名、平均年齢24.1±3.8歳)とした。実験機器は、テレメトリー筋電計MQ8(キッセイコムテック株式会社)を使用し、10~1000Hzの帯域周波数で記録した。記録筋は右前脛骨筋とした。聴覚刺激の作成にはSoundTrigger2Plus(キッセイコムテック株式会社)、聴覚刺激と筋電図の記録には波形データ収録プログラムVitalRecorder2(キッセイコムテック株式会社)を用いた。聴覚刺激の刺激条件は、刺激周波数を900Hz、刺激強度は被験者の聴き取りやすい大きさに設定し、刺激回数は1試行につき6回の連続刺激とした。検査肢位は端座位とした。被験者には、聴覚刺激を合図に右足関節を素早く背屈する課題をおこなわせた。条件は、4つ設定した。条件1は入力する刺激間隔を1000msの周期的な刺激とし、条件2は5回目と6回目の間の刺激間隔のみを1200ms、条件3は5回目と6回目の間の刺激間隔のみを2400ms、条件4は5回目と6回目の間の刺激間隔のみを4800msに設定した。試行は各条件を5試行ずつ、合計20試行をランダムに実施した。課題前には十分な動作練習をおこなった。検討の対象とした試行は、各条件とも1試行目を除く4試行とし、4試行の平均値を個人の代表値とした。検討項目は、1回目のEMG-RTを対照群とし、2、3、4、5、6回目のEMG-RTとの比較とした。統計処理は、一元配置分散分析と多重比較検定(Dunnet法)を用いた。有意水準は1%とし、統計学的な有意差を判定した。
    【説明と同意】被験者には、本研究の目的と方法、個人情報に関する取り扱いなどについて書面および口頭で説明し、同意書に署名を得た。
    【結果】条件1は、1回目と比較して2、3、4、5、6回目のEMG-RTが有意に短縮した(p<0.01)。条件2、3、4は、1回目と比較して2、3、4、5回目のEMG-RTが有意に短縮した(p<0.01)が、6回目のEMG-RTには有意な差は認められなかった。
    【考察】条件1は、1回目と比較して2、3、4、5、6回目のEMG-RTが有意に短縮した。これは、先行研究と同様に3回目までの周期的な聴覚刺激に対する運動で予測的な反応が導入され、3回目以降では運動が効率的におこなわれていたと考えた。条件2、3、4は、1回目と比較して2、3、4、5回目のEMG-RTが有意に短縮したが、6回目のEMG-RTには差は認められなかった。河辺らは、予測を生じさせるような刺激を与えながら途中でその予測を裏切る刺激を与える課題において、予測によって予め出された反応指令が脳内でキャンセルされ、正しい反応指令が新たに出されるため、EMG-RTは遅れると報告している。このことから、条件1と同様に3回目以降の周期的な聴覚刺激に対する運動は効率的におこなわれるが、5回目と6回目に一定間隔とは異なる間隔の聴覚刺激が呈示されたことで内部に確立した周期性が破綻し、予測に基づいた運動が困難となりEMG-RTが大きくなったと考えた。また、条件2、3、4の1回目と6回目のEMG-RTには有意な差は認められなかった。これは、効率的な運動の破綻には、一定間隔とは異なるということが影響し、5回目と6回目の刺激間隔の相違は影響しなかったと考えた。
    【理学療法学研究としての意義】歩行動作を始め、反復した動作を獲得するための理学療法では、外部刺激を用いた動作練習を多数散見する。本研究より、効率的な運動を獲得する動作練習では、外部刺激の刺激間隔は一定間隔が重要である。また、効率的な運動の破綻には、一定間隔とは異なるということが影響し、刺激間隔の相違は影響しないことが示唆できた。
  • 武野 陽平, 建内 宏重, 永井 麻衣, 市橋 則明
    専門分野: 基礎理学療法29
    セッションID: PI2-094
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/05/26
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】
    走行やジャンプ等では、求心性収縮の直前に遠心性収縮をすることで、筋や腱に弾性エネルギーを蓄積し、そのエネルギーを利用することで純粋な求心性収縮よりもパワー出力を高め、運動効率を向上させている。この筋活動様式を利用する機能はSSC(Stretch-Shortening Cycle)と呼ばれている。SSCを効率的に利用するためには適度な下肢のスティフネスが重要と考えられている。下肢のスティフネスとは、下肢全体をバネととらえて算出される硬さを示す指標である。スティフネスが高いと硬いバネで、低いと柔らかいバネであることを意味している。先行研究では、下肢のスティフネスとジャンプパフォーマンスとの関連性が調べられており、スティフネスを適度に高めることでパフォーマンスは向上するとされている。しかし、股・膝・足関節のそれぞれの関節スティフネスがどの程度関与しているのかは明らかでない。
    本研究の目的は、ジャンプパフォーマンスと下肢全体のスティフネスおよび各関節のスティフネスとの関連性を明らかにすることである。
    【方法】
    対象は下肢に明らかな整形外科的および神経学的疾患を有していない健常若年者8名(男4名、女4名、年齢:21.0±1.0歳、身長:168.3±9.5cm、体重:59.2±8.1kg)を対象とした。測定肢は支持脚(ボールを蹴る際の支持側と定義)とした。
    動作課題は両脚でのカウンタームーブメントジャンプとし、できるだけ高く跳ぶよう教示した。また、動作中は両手を腹部の前で組ませた。十分な練習を行った後5回測定した。計測には、三次元動作解析装置(VICON 社製;サンプリンク周波数 200Hz)と床反力計(Kistler 社製;サンプリンク周波数 1000Hz)を用いた。マーカーはVICON社のPlug-in-gait full bodyモデルに準じて35点に貼付した。身体重心位置・加速度垂直成分、床反力垂直成分、および股・膝・足関節の関節角度と関節モーメントを算出した。また、下肢全体のスティフネスおよび各関節スティフネスは減速期(運動開始後、重心加速度が上向きになった点から重心位置が最下点に達するまでと定義)から算出した。下肢全体のスティフネスは重心移動距離と床反力モーメントの関係における近似直線の傾きとし、各関節スティフネスは関節角度変化と関節モーメントの関係における近似曲線の傾きと定義した。ジャンプパフォーマンスは安静立位姿勢における重心位置とジャンプ中の重心最高点の差とした。
    統計処理はPearsonの相関係数を用い、測定したすべての試行について、ジャンプパフォーマンスと下肢全体のスティフネス、股・膝・足関節スティフネスとの関係を調べた。なお、相関関係の分析は、男女別に行った。有意水準は5%とした。
    【説明と同意】
    全対象者に対し、本研究の目的と内容を説明し、参加への同意を得て実施した。
    【結果】
    ジャンプの高さは36.7±5.2(男:41.2±3.2、女32.4±2.0)cm、下肢全体のスティフネスは1.3±0.6(男:0.9±0.2、女1.6±0.7)N/m、股関節スティフネスは3.2±1.1(男:3.4±1.5、女3.1±0.8)Nm/deg、膝関節スティフネスは1.9±1.4(男:2.4±1.9、女1.5±0.7)Nm/deg、足関節スティフネスは4.7±1.6(男:4.7±2.0、女4.8±1.1)Nm/degであった。
    男性では、ジャンプパフォーマンスは下肢全体のスティフネス(r=0.503,p=0.033)および股関節スティフネス(r=0.759,p<0.001)と有意な相関関係を認めた。しかし、ジャンプパフォーマンスと膝・足関節スティフネスとの相関は無く、女性ではジャンプパフォーマンスと下肢全体および各関節のスティフネスには関係がみられなかった。
    【考察】
    本研究の結果では男性においてジャンプパフォーマンスと下肢全体のスティフネスとの間に正の相関がみられた。これはジャンプの予備動作としてしゃがみ込んだ時に下肢を硬いバネとして使えるほど高く跳べることを意味している。また、ジャンプパフォーマンスと股関節スティフネスに相関がみられたことから、特に股関節の剛性を適度に高めることがジャンプパフォーマンスにおいて必要であると考えられる。
    女性では、SSCを効果的に利用できていない人が存在したために結果が出なかった可能性が考えられる。
    【理学療法学研究としての意義】
    本研究では下肢全体のスティフネスと股関節スティフネスがジャンプパフォーマンスに影響を与えることが明らかとなった。本研究結果は、ジャンプパフォーマンスの改善に向けたトレーニング方法の開発に重要な示唆を与えるものである。
  • 寝返り側の床面における摩擦力に着目して
    前川 遼太, 畠中 泰彦, 中俣 孝昭, 伊藤 和寛, 齋藤 恒一
    専門分野: 基礎理学療法29
    セッションID: PI2-095
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/05/26
    会議録・要旨集 フリー
    【目的】臨床場面において非麻痺側方向への寝返り動作が困難な脳卒中片麻痺者(以下,片麻痺者)を経験する.寝返り動作に必要な要素は頭部コントロール,脊柱の適度な可動性,体幹筋力が重要であると報告されている.しかし,これらの要素が十分でなくても寝返り動作が可能であったり,逆にこれらの要素を満たしても寝返り動作が困難な片麻痺者を経験する.我々は先行研究から寝返り動作時の重心移動と体幹運動に着目し,前述の要素以外に体幹の回旋モーメントを大きくする動作パターンが重要であると考えている.健常者は体幹が寝返り側へ回旋し重心が上方かつ寝返り側へ移動するのに対し,片麻痺者は体幹が寝返り側(非麻痺側)に回旋せず重心は上方へ移動しても寝返り側への移動は乏しい結果であった.この結果から健常者は体幹の回旋にて非寝返り側の半身を寝返り側の半身に荷重し寝返り側の半身と床で生じる摩擦力を増加させ,その摩擦力は体幹を回旋する時の支点を提供し,体幹の回旋モーメントを発生させるための土台になると考えた.摩擦力とは摩擦係数×反発係数で表され,この場合反発係数が増加し摩擦力が増加する.一方,片麻痺者は非寝返り側(麻痺側)の半身をコントロールできず体幹の回旋が乏しくなり寝返り側の半身への荷重が困難となる.この場合反発係数が減少することで摩擦力が減少し体幹の回旋モーメントを保証する支点が寝返り側で提供できず体幹の回旋が途中の段階で終わる.これらのことから,寝返り動作において体幹の回旋モーメントを保証する寝返り側の摩擦力が重要になると考えた.そして寝返り側の摩擦力を高めるために反発係数でなく床の摩擦係数を大きくする方法を考えた.文献から片麻痺者において摩擦力を変化させた環境下での寝返り動作の挙動を比較した報告は見当たらない.そこで今回,治療用マット(静止摩擦係数0.90)での寝返り動作と寝返り側の半身と治療用マットとの間に静止摩擦係数(静止摩擦係数2.35)の高いシート(以下,シート)を敷いて寝返り側の摩擦力を高めた状態で,非麻痺側への寝返り動作が困難な片麻痺者にシートを敷いた時(以下,シートあり)と敷かない時(以下,シートなし)における寝返り動作の重心移動と体幹運動の差を比較し寝返り動作に寝返り側の摩擦力がどのように影響するか検討した.
    【方法】対象は78歳男性,左被殻出血にて右半身に重度の運動麻痺と感覚障害を認めた.著明な高次脳機能障害は認めなかった.寝返り動作は両側ともに困難である.患者の頭部(以下H),上部体幹(以下UT),下部体幹(以下LT),骨盤(以下P)を定義する各3点,合計12点のマーカを貼付した.寝返り動作は,患者が最も行い易い方法で背臥位から左側(非麻痺側)へ寝返り,側臥位になるまでとした.充分な練習の後,患者の頭尾側,右側に各2台,左側に2台の合計6台のデジタルビデオカメラで寝返り側の半身と床の間にシートありとシートなしの条件で寝返り動作を録画した.各マーカ座標を動画計測ソフトウェア(Move-tr 3D)を用いて三次元化し,X軸回りを屈曲方向,Y軸回りを回旋方向,Z軸回りを側屈方向の運動とし,各体節の角度変化を計測分析した.また剛体リンクモデルに関節座標を代入し重心座標を算出した.角度及び重心の変化を運動開始時から運動終了時までの時間で正規化し,比較した.
    【説明と同意】対象者に実験の趣旨を十分に説明し文書で同意を得た.また,主治医の許可を得て実施した.
    【結果】体幹挙動は絶対座標に対するP,Pに対するLT,LTに対するUT,UTに対するHで定義した.シートありではなしに比べH及びPの回旋,LTの屈曲,Pの前傾に増加がみられ,重心は上方及び寝返り側への移動距離が増加し寝返り動作が可能になった.
    【考察】寝返り動作において体幹は寝返り側の床と接している面を支点として非寝返り側が床から離れていき転がるような挙動をとる.非寝返り側の半身を回旋する時に寝返り側の半身には寝返り側方向と逆方向の力を床に与えていると考えられる.今回シートを敷くことで寝返り側の半身が作る摩擦力が高まり寝返り方向への回旋モーメントが増加し,その結果非寝返り側の半身が上方及び寝返り側へ移動が可能となり寝返り動作が可能になったと考える.
    【理学療法学研究としての意義】非麻痺側への寝返り動作が困難な片麻痺者に対しシートを敷くことで寝返り動作が可能になった.寝返り動作において体幹の回旋モーメントを生み出すためには寝返り側の半身と床面との間で生じる摩擦力を生みだす必要性を示した.また体幹の回旋モーメントを保証するために寝返り側の摩擦力を高める動作パターンの重要性が示唆された.
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