青森県北津軽地方 (北緯40°45’, 年平均気温19.6°C, 年平均最高気温14.1°C) の広域天然フッ素含有飲料水地区 (0.3~3.2ppm) における歯牙フッ素症発現並びにウ蝕罹患状況について, 1974年より疫学的追跡調査を継続してきた。調査対象者は北津軽郡板柳町立沿川第一小学校, 鶴田町立梅沢小学校の児童350名で, うち永久歯未萌出者3名と出生地,居住歴, 家族歴, 飲水歴, 既往歴についてのアンケート調査によって29名が除かれ, その結果, 318名が集計の対象となった。対照としては, 岩手県松尾村 (飲料水中フッ素濃度 0.1ppm 以下) の児童 503名についての調査資料を用いた。
DMFT index によるウ蝕罹患状況は, 北津軽地区では1年生時の 0.42 から6年生時の 1.44 まで緩徐な増加を示しているのに対して, 対照の松尾地区では, 1975年度厚生省歯科疾患実態調査に近似したウ蝕の増量を示していて, 1年生時の 0.31 から6年生時の 4.44 に至るまで急激な増加傾向を示している。
北津軽 (フッ素地区) の 23水源は, Ⅰ 群 (0.31~0.38PPm), Ⅱ群 (0.52~0.63PPm), Ⅲ群 (0.82~ 0.85PPm), Ⅳ群 (0.90~1.06PPm), Ⅴ群(1.54~1.96PPm), Ⅵ群 (2.90~3.18PPm) の 6群に区分された。11歳児についての DMFT index によれば,Ⅲ群 -2.0, Ⅳ群-1.4, Ⅴ群-1.0とフッ素濃度の増加に伴いウ蝕の減少傾向が明らかに認められ, 岩手県松尾村の11歳児に比較して, ウ蝕減少率として表わすと, Ⅲ群-54.5%, IV群-68.2%, Ⅴ群-77.2%であった。
エナメル質白斑(非フッ素性)有所見者率は, Ⅰ群 -14.7% からⅥ群 -3.8% と飲料水中のフッ素濃度の増加に伴って減少する傾向が認められ,北津軽地区全体では 9.4% であった。歯牙フッ素症発現については, 特異的な水源 (0.63PPm) を含むU群を除くと, 1群からV群まで重度型(S)は認められず, M群の2.90~3.18PPm において重度型の発現が認められた。 CFI は,Ⅱ群を除いて, W群の 0.90~1.06PPm では 0.16 で negative zone, V群の 154~1.96ppm では 058 とborderline zone に達し, Vl群の 2.90~3.18ppm では 1.81 と borderline zone をはるかに越えた値を示していた。
本調査成績は現在の飲料水中フッ素濃度測定値にもとついて, 過去に石灰化した小学生集団の永久歯崩出歯群についての知見である。1974年に飲料水中フッ素濃度確認後に石灰化開始した永久歯の崩出歯群についての知見が得られるのは, 1980年以降である。本報告はそれに至るまでの中間報告的内容であるが疫学的推測並びに仮定の妥当性を確認する手がかりとなりうるかについての実験的報告である。
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