岩手医科大学歯学雑誌
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9 巻, 3 号
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原著
  • 第2報 舌腱膜中の軟骨組織
    武田 泰典, 宮沢 秋裕, 八幡 ちか子
    1984 年 9 巻 3 号 p. 139-147
    発行日: 1984/12/15
    公開日: 2018/12/26
    ジャーナル フリー

    ヒト舌の手術材料を用いて舌腱膜における軟骨組織の出現状況とその形態の詳細を検討した。舌腱膜に軟骨組織の出現をみたものは52歳と55歳の男性例であり, これらはいずれも舌側縁部に生じた高分化型扁平上皮癌の治療のために局所に放射線の大量照射がなされていた。軟骨組織は舌背部の舌腱膜中に散見されたが, 舌尖部ならびに舌根部には認められなかった。この軟骨組織は線維軟骨であり, 舌腱膜を構成する線維組織より徐々に移行していた。超微構造的に軟骨細胞は正常のものに比較的類似した所見を呈し, また基質中には豊富な膠原線維束と, 種々の大きさの基質顆粒がみられた。

    今回の検索でみられたヒト舌の腱膜中の軟骨組織は放射線照射の影響による化生的機序により生じたものと考えられた。

  • 石関清人 清人, 坂倉 康則, 立花 民子, 名和 橙黄雄
    1984 年 9 巻 3 号 p. 148-161
    発行日: 1984/12/15
    公開日: 2018/12/26
    ジャーナル フリー

    胎生10日から生後2日のマウス歯胚の内エナメル上皮側基底膜に付随する無周期性細線維(細線維)の形成を光顕および電顕的に観察した。さらにその性質について酸性ムコ多糖類の検出と酵素消化法により組織化学的に検討を試みた。

    胎生10日から14日目の歯堤では, すでに基底板の形成がみられるが, 細線維とコラーゲン線維は見られない。胎生16日目になると基底板に付随する少数の細線維の形成が観察される。胎生18日目では, これらの細線維の他に, コラーゲン様細線維が出現し, 20日目になると基底板の明帯を貫く多数の細線維の形成が観察された。生後1日目の象牙前質形成領域では, 細線維が最も発達している。象牙質基質形成領域につれて細線維は前エナメル芽細胞の陥凹部に凝集し, 歯冠部側では前エナメル芽細胞突起間に集合してみられた。生後2日のエナメル質形成領域の細線維はstippled materialと混在する時期もあるが, 針状結晶が出現してくると, まもなく不明瞭になる。

    組織化学的に細線維はRR染色, PAM染色に陽性であった。しかしNeuraminidaseあるいはHyaluronidase 消化後のPAM染色では細線維は両者ともに陰性を示した。コラーゲン線維はCollagenase, Pepsin, Trypsinなどの酵素では, いずれも消化されたが, 細線維と基底板は不溶性であった。また, Neuraminidase とHyaluronidaseあるいはこの内のいずれかと上記の酵素との組み合せ消化試験ではコラーゲン線維は溶失するが, 細線維と基底板は不溶性であった。

    以上の結果から細線維はシアル酸とヒアルロン酸を含み, そのcore-proteinはCollagenaseなどに強い抵抗性を示し, 基底板と類似の性質を有することが明らかとなった。

  • 佐藤 方信, 佐島 三重子, 畠山 節子, 板垣 光信
    1984 年 9 巻 3 号 p. 162-167
    発行日: 1984/12/15
    公開日: 2018/12/26
    ジャーナル フリー

    56才男性の右下顎歯槽堤に発生した乳頭腫に認められたkoilocyteを電顕的に検索した。Koilocyte の核は不規則型で, 核質は不均等に濃縮し, 比較的明瞭な核小体を有していた。光顕的に核周囲明帯として認められたところはほとんど細胞質をみない均一無構造である細胞と大小多数の空胞状構造の集合よりなる細胞があった。核周囲明帯は outer nuclear membrane の外側に形成されていた。細胞質の周辺帯は均等に分布する著明な tonofilament が主体をなし, その間に小胞, 空胞, 小胞体, 糸粒体などがわずかに散在していた。隣接細胞とは密に接し, 多数の desmosome が認められた。 Virus particle は認められなかった。これらの所見をもとに子宮頸部粘膜にみられる koilocyte の電顕的所見と比較し, 若干の考察を加えて報告した。

  • 濱田 育男, 金子 克, 横田 光正
    1984 年 9 巻 3 号 p. 168-178
    発行日: 1984/12/15
    公開日: 2018/12/26
    ジャーナル フリー

    Staphylococcus epidermidis は通常, 莢膜はなく, slimeを産生しない菌とされている。

    我々は, S. epidernidis の産生するelastaseを採取するためにBrain heart infusion agar にDialysis membrane technique(DMT)を用いて培養したところ, 多量のslimeを産生することを見いだした。そこで, ブドウ球菌属の12菌種12株と口腔より分離した S. epidermidis 10株をDMT培養したところ, S. epidermidisS. xylosus が slimeを産生した。しかし, 莢膜形成はいずれの株においても見られなかった。

    3. S. epidermidis のslime産生は5~10%炭酸ガス濃度に依存し, 好気 嫌気培養では, 菌の発育が十分であるにもかかわらず認められなかった。さらにTrypticase soy agar, 1% gcucose 加 Trypticase soy agar, Mannitol salt agarなどの培地を用いたDMT培養ではslime産生が見られず, Brain heart infusion や肉エキスを多く含む培地においてslime産生が認められた。

    S. epidermidis のslime中にはDNAが6.1%(W/W), 蛋白6.3%(W/W)そして糖が約10%(W/W)含まれていた。また, 粘度測定の結果, 硫酸プロタミン処理後に著明な粘度の低下が見られることから, DNAがslimeの粘性に関与する物質であることが示唆された。

    0.8% Agarose gel electrophoresis で S. xylosus, S. cohnii, S. saprophyticus そして S. sciuri にDNAが検出された。また, Sodium dodecyl sulfate-polyacrylamide gel electrophoresisの結果では, S. epidermidis のslime中には通常の液体培養では見られない分子量24,000~24,500の糖蛋白が多量に見られ, DNA以外の物質も相互に関連して粘性を増強しているものと推察された。

  • 嶋中 豊彦
    1984 年 9 巻 3 号 p. 179-191
    発行日: 1984/12/15
    公開日: 2018/12/26
    ジャーナル フリー

    歯原性腫瘍を実験的に誘発するモデルは現在まで確立されていない。よって, 歯根膜内に存在する退化歯原上皮が腫瘍化し得るか否かについて実験的に研究を試みた。

    すなわち, 生後1ケ月齢のLong-Evansラット102匹を用い, 実験群82匹には1-butyl-1-nitorosurea を2週間隔で計4回(総量1,200mg/体重1kg)を胃チューブで投与し, 他の20匹は対照群とした。実験期間は最長350日とし, 経日的に得られた試料はすべて組織学的に検索を行った。

    その結果, 対照群における歯根膜中の退化上皮は, 臼歯部のみにみられ, しかも歯根分岐部と根端側1/2までのところに多くみられた。実験群における退化歯原上皮は、その63.0%で, 種々の程度の増殖傾向がみられ、中にはエナメル上皮腫の増殖初期像に類似する所見を得た。また, これらの増殖歯原上皮は, 歯肉上皮との関連は全くみられなかった。以上の所見から, ラットの歯根膜中に存在する退化歯原上皮は 何らかの原因により腫瘍原性を獲得する可能性が十分あるものと考えられた。

  • 大塚 幸夫, 武田 泰典
    1984 年 9 巻 3 号 p. 192-206
    発行日: 1984/12/15
    公開日: 2018/12/26
    ジャーナル フリー

    含歯性嚢胞ならびに原始性嚢胞に出現したhyaline-bodyを光顕的ならびに電顕的に検索し, その由来について考察を加えた。Hyaline-bodyは含歯性嚢胞52例中11例(11.5%), 原始性嚢胞27例中3例(11.1%)およびそれらの多発例6例中2例(33.3%)にみられた。このhyaline-bodyは嚢胞壁の上皮層内ならびに上皮表面にみられるものがほとんどであった。また, 含歯性嚢胞では埋伏歯歯冠を被う歯小皮とhyaline-bodyとの間に連続性をみるものがあった。透過電顕的にhyaiine-bodyは層状構造を呈していた。Hyaline-body周囲の上皮細胞は胞体内小器官が豊富で, また, 胞体内にhyaline-bodyと同様の電子密度を呈する種々の大きさの顆粒を有する上皮細胞も認められた。走査電顕像ではhyaline-bodyの割面は均一無構造を呈していたが, 自由面は微細層板状構築を呈していた。また, 上皮細胞と強固に結合していることを示唆する所見も得られた。Hyaline-bodyの電子プローブ微小部X線分析ではP, S, Ca, Feが検出されたが, これらはhyaline-body全体に分布し, 特定の元素の局在性は認められなかった。

  • とくに口唇部小唾液腺における退行性変化との関連ならびに超微構造について
    渡辺 匡, 武田 泰典
    1984 年 9 巻 3 号 p. 207-225
    発行日: 1984/12/15
    公開日: 2018/12/26
    ジャーナル フリー

    剖検例より得た口唇部小唾液腺154例を用い, oncocyteの出現状況, 唾液腺体の退行性変化との関連性などについて光顕的に検索し, また, 生検より得た同部小唾液腺5例を用いて, その超微構造を検索した。その結果, 剖検例より得た材料の79.2%にoncocyteが存在し, 他家の報告による耳下腺におけるそれよりも高率に出現していた。その出現には性差はなく, 終末部, 導管系のいずれにもみられたが, 小葉内導管と小葉間導管に多く, ことに増殖傾向を有するoncocyteは導管系のみにみられた。一般にoncocyteは, 加齢とともに増加の傾向がみられ, 出現程度と出現頻度との関係では程度の軽度のものが最も多く, 程度の高度になるにつれて減少し, また, 出現程度と年代別との関係では80歳以上のものに増殖傾向を示さない中等度のもののみが増加するなど複雑な様相がみられた。また, 出現程度と唾液腺体の退行性変化との間には相関性は見出せなかった。なお, 超微構造的にはmitochondriaに多形性の少ないものと著しいもの, mitochondriaの基質内にintramitochondrial granuleのあるものとないものを見出した。

  • 杉江 恒人
    1984 年 9 巻 3 号 p. 226-237
    発行日: 1984/12/15
    公開日: 2018/12/26
    ジャーナル フリー

    マウス頭部, 口腔に大量の放射線照射を行うと, 口腔粘膜障害が生じ, 動物は摂食不能に陥り照射10日目頃に死亡することをQuastlerら8)が見出し, これを放射線口腔死(ORD)と称した。この意見に同調する報告も多い9,10,13)が, 他方別の要因を考慮すべきであるとする説16,24)もあって, ORDの原因に関しては未だ明確にされているとはいえない。

    そこで, この点を明らかにする目的で2,3の実験を試みた。まず, マウスを用い, 頭部・上顎および下顎にそれぞれ170kVpX線を照射し, 体重, 末梢白血球数の推移とLD50/15を比較した。次にORDの原因が飢餓ならば臓器重量体重比は照射死マウスも飢餓死マウスと同値を示すものであろうと考え, 脾を対照臓器として両者を比較した。また, 強制栄養が照射マウスの生存率に好影響を及ぼすか否かを検討し, さらに照射マウスの腸管の吸収不全の有無を131I-HSAを用いて検討した。

    結果:(1)体重, 生存率ともに線量の増加に伴い低下, 減少を示し, LD50/15は, 頭部照射で1650R, 上顎照射で2160R, 下顎照射で2580Rと, 照射容積の大きい頭部照射で低線量であった。また, 末梢白血球数は3群とも照射後に減少した。

    (2)脾重量/体重は, 対照群は0.0098土0.0014, 頭部照射群では, 1500Rで0.0064土0.0021, 3000Rで 0.0034土0.0013, 5000Rで0.0035土0.0016に対し, 飢餓マウスでは0.0013土0.0007と, 対照群, 照射群より有意に低かった。

    (3)強制栄養を行なっても生存率の改善は全く認められず, 131I-HSA排泄試験でも照射マウスでは照射後早期に大量の排泄増加(対照群30.3%, 照射群80~90%)がみられた。

    以上, 体重減少の過程からはORDが飢餓死によるようにみられたが, 上記のその他の実験についての観察結果からはORDは飢餓のほかに, 造血臓器ならびに消化管機能の障害が加わった複雑な要因によるものと考えられた。

症例報告
例会記事
岩手医科大学歯学会第18回例会抄録
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