岩手医科大学歯学雑誌
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47 巻, 3 号
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原著
  • 熊谷 章子, 三浦 廣行
    原稿種別: 研究論文
    2023 年 47 巻 3 号 p. 137-145
    発行日: 2023/03/31
    公開日: 2023/05/04
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    岩手県では近年,自宅内での死亡時の状況が不明で,晩期死体現象により身元不詳扱いとなる法医解剖事例が増加している.中には同居者がいたにも関わらず発見時には死後数日経過していた事例も存在する.このような孤独死に纏わる現代の社会問題の実態を明確にすることを目的に,2017 年4 月から2022 年3 月の5 年間に岩手医科大学で法医解剖が実施された遺体のうち,自宅敷地内で死後複数日経過し発見された身元不詳扱いの103 事例を対象とした調査を行った.その結果,対象者の内訳では男性82 件(25 -94 歳,平均67.5 歳),女性21 件(51 -94 歳,平均73.2 歳)で圧倒的に高齢男性が多かった.死後1 か月以上経過していると推定されたのは50 件だった.独居者は88 件で,同居家族が存在したのは15 件であった.解剖時点で候補者の生前既往歴の詳細が不詳だったのは49 件,死後変化のため解剖結果から死因究明が困難だったのが97 件であった.歯科情報の照合で身元が特定されたのは18 件のみで,既往歴情報と同様に候補者の生前歯科医院通院歴が不明であることが多く,歯科情報の収集は極めて困難であった.

    高齢者の単独世帯数が増加傾向にあるという国勢調査結果に加え,内閣府による55 歳以上を対象とした調査では,治癒が見込めない疾患になった際に自宅で最期を迎えることを希望する者が半数以上を占めている.このような背景もあり,近年では在宅医療の提供や福祉活動が推進されているのだが,生前から社会との交流を好まない者へ福祉の手がほとんど行き届いていないことが本調査結果から垣間見れる.本調査結果を自治体と共有することで,今後さらに高齢化が進む日本で高齢者が自宅で人知れず死を迎えたとしても,発見までの死後経過時間をできるだけ短縮させる改善策の一端でも見出せる可能性を期待したい.

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