経済地理学年報
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67 巻, 4 号
価値づけの経済地理学
選択された号の論文の13件中1~13を表示しています
表紙
大会報告論文
  • ―現代資本主義への視角―
    山本 泰三
    2021 年 67 巻 4 号 p. 213-222
    発行日: 2021/12/30
    公開日: 2022/12/30
    ジャーナル フリー

        本報告では,資本主義の現代的様態を分析するための手がかりを探るべく,価値づけおよび利潤のレント化という論点を結びつける.近年,価値づけに関する研究 valuation studies が盛んになっているが,とくにコンヴァンシオン理論やアクター・ネットワーク理論(ANT)からのアプローチは理論的に興味深い.一方,利潤のレント化becoming-rent of profit という概念は,認知資本主義論において現代の資本のあり方の特徴を端的に描写する概念として提示されている.両者は,その出自からいえば異なる研究上の文脈で論じられているのだが,さほど遠くない現状認識にもとづいている.第2節では,“価値” が問い直されるようになった現代の状況を,認知資本主義論の観点から解釈する.第3節では,価値づけという問題設定を,市場における商品に焦点をしぼって理論的に検討する.第4節では,利潤のレント化という問題を現代の価値づけの様式と関係づけながら検討し,現代資本主義の一側面を描き出すことを試みる.

  • 川端 基夫
    2021 年 67 巻 4 号 p. 223-234
    発行日: 2021/12/30
    公開日: 2022/12/30
    ジャーナル フリー

        近年の消費のグローバル化は,多様な商品(サービス ,ビジネスモデルを含む) の越境を推し進めつつある.しかし一方で,越境した商品が,進出先市場で母市場とは大きく異なる意味や使用価値を持つようになる現象も多く確認されている.本稿では,このような現象を理論的に理解するために,1990年代に日本のマーケティング研究領域で展開された使用価値を巡る議論を整理し,それに筆者が提唱してきた「市場のコンテキスト」という概念を組み込むことで,国境を越えた使用価値の生成メカニズムを説明する理論的フレームを提唱する.
        このフレームでは,進出先市場での使用価値は,母市場のコンテキストに基づく意味付けと,進出先市場のコンテキストに基づく意味付けとを摺り合わせる中から生成されると考える.この市場のコンテキストは,自然,人口,政治・経済,歴史,宗教などが複雑に絡み合ったものであるが,それが消費者間で共有されたローカルな規範感覚を生み出しており,それが商品に対して便利,使い易い,カッコいいといった意味付けを行っているのである.
         したがって,国境を越えた商品の使用価値を考える場合は,母市場と進出先市場それぞれにおけるローカルな規範感覚がその商品にどのような意味付けをするのかを捉えることが課題となる.

  • ―コミューンの理想郷からエコロジーの実践地へ―
    市川 康夫
    2021 年 67 巻 4 号 p. 235-254
    発行日: 2021/12/30
    公開日: 2022/12/30
    ジャーナル フリー

        本研究は,先進国農村で1960年代末より広く展開した「大地に帰れ運動( Back to the Land Movement)」において,農村がいかなる役割や機能を果たしてきたのかを,当事者の生活や意識,運動の展開過程の分析から明らかにすることを目的とした.「大地に帰れ運動」は,1968年の社会運動を契機として,都市や資本主義社会への批判や決別を目標に,1970年代と2000年代以降という「2つの波」を形成してきた.この2つの波の比較から,次のようなことが明らかとなった.まず,「大地に帰れ運動」において,農村という空間は,価値の再定義を行う「実験の場」として機能していた.それは,貨幣や労働,家族観や自然環境の価値を,共同体という社会実験から問い直す過程でもあった.そのなかで,農村は個人を解放する「逃避の場」から,エコロジーの実践とその社会共有の場へと役割を変化させてきた.カウンターカルチャーとしてのコミューン・共同体の背景には,常に批判対象としての主流社会の存在があった.また,「都市」というアンチテーゼに対する「農村」は重要な命題であり,「都市の否定的イメージ」と「理想郷としての農村」の対比が強く意識されていた.「大地に帰れ運動」は,社会への批判とエコロジーの実践をエネルギーに今日まで存続し,そのプロセスのなかから常に新たな価値が生み出され,消費されてきたと結論づけられる.

  • ―欧州ランドスケープ条約に関わる政策実践を中心に―
    竹中 克行
    2021 年 67 巻 4 号 p. 255-274
    発行日: 2021/12/30
    公開日: 2022/12/30
    ジャーナル フリー

        本稿は,経済地理学会第68会大会共通論題シンポジウム「価値づけの経済地理学」において,ランドスケープを主題として行った報告を下敷きとする論文である.ランドスケープに関する主要な国際条約への注目は,ランドスケープの定義と背景をなす学界の議論,そして政策実践における価値づけを互いに関連づけ,考察を深めるための有効な枠組みを提供する.本稿では,世界遺産条約(WHC)と併せて,とくに欧州ランドスケープ条約(ELC) に焦点を当て,スペインを実例に取ってランドスケープ政策の実践を検証した.その結果,物質の集合体と人間の知覚というELCに包摂されたランドスケープの異なる側面について,地理学をはじめとする研究史の系譜に関連づけて理解することができた.さらに,ELCが推進する市民参加との関係で,人間によって組織化された範域としてランドスケープをとらえる考え方を示した.ELCのもとでのランドスケープの価値づけは,主として,市民参加を組み込んだランドスケープの評価と質目標の設定を通じて行われるが,既存の民主主義の仕組みに挑戦する社会運動の働きも見逃せない.人びとと地域の関わり合いを通じて継承され,進化する範域としてランドスケープを理解するとき,WHCに依拠した文化的ランドスケープの価値づけを,ELCのもとで行われるランドスケープ形成の取組みへと接合できる可能性があることを指摘して,締め括りとした.

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