経済地理学年報
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63 巻, 1 号
特集 サービス経済化:地理学研究の新局面
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表紙
巻頭言
特集論文
  • ―サービス経済化が地理学に問いかけていること―
    加藤 和暢
    2017 年 63 巻 1 号 p. 9-22
    発行日: 2017/03/30
    公開日: 2018/03/30
    ジャーナル フリー

        サービス経済化の進展は,モノ中心社会において形成されてきた従来の空間秩序を大きく変貌させつつある.
        小稿では,いかなる論理にしたがってサービス中心社会の空間秩序が形成されるのかを考察し,その具体像である新しい “地理的現実” を探ってみた.貯蔵がきき輸送することのできたモノとは反対に,貯蔵も輸送も不可能なサービスが社会経済システムの主役として登場することで,地理学の研究は,重大な方向転換を求められている.従来,ほとんど無視されていたといっても過言でない「消費」の問題が,地理学の研究における重要なトピックとなってくるのは,この方向転換を象徴する出来事といえよう.
        サービス経済化は,従来的な「生産の地理学」を超えて,消費面を明確に射程へと取り込んだ生産―消費の地理学に,したがってまた「経済循環の地理学」に向けて前進することを,地理学徒に強く要請しているのである.

  • 加藤 幸治
    2017 年 63 巻 1 号 p. 23-42
    発行日: 2017/03/30
    公開日: 2018/03/30
    ジャーナル フリー

        サービス立地の問題を検討するにあたって「時間」の考慮は不可欠である.サービスの「貯蔵も輸送もできない」という性格は,その消費にあたって,時間地理学的な制約からくる「地理的限界」をもたらす.こうした時間地理学的視座が,「時間」考慮の必然性をまず根拠付けている.さらに,この「地理的限界」が,サービス立地の説明に際して,「時間」的経過を考慮した動態的視野を要請することになる.「均質空間」を前提にしたサービス立地の説明は早々に行き詰まらずをえないため,中心地への居住地移動といった動態を考えなければならないからである.それによっても生ずる人口の集中・集積によって,サービスの集積,専門化・高度化・多様化が進む.また,そもそもサービスが「外部化」し,消費の対象となるのは,所得水準の上昇がみられ,それにともなって「質の高い」サービスが希求されるようになるからであった.そのため「質の高い」サービスが立地している人口集積地(大都市) は,これを求める人々を引き寄せることで累積的な拡大過程に入ると考えられる.さらに所得の増大にともなう時間価値の上昇,したがってまた機会費用の上昇,交通の発達もあって,サービスと人口集積との累積的循環的因果関は一段と加速化される.こうした「大都市の優位性」も,動態的な視野を持たなければ理解できない.ここにも「時間」の考慮が求められている理由がある.

  • ―バンコクにおける事例―
    鍬塚 賢太郎
    2017 年 63 巻 1 号 p. 43-59
    発行日: 2017/03/30
    公開日: 2018/03/30
    ジャーナル フリー

        本稿では,国外に一時的に滞在する在外居住者を取り上げて,彼/彼女らのサービスの消費機会について検討を加える.「社会的交換」としての性格を強く持つサービスの特性は,そこに一時的に居住する日本人を対象とすることで,明確に捉えることができるからである.
        ホスト社会との関係から生まれる「認知的距離」の遠近と,サービスの「貯蔵も輸送もできない」という本来的な特性とが相俟って,ホスト社会では想定されないニッチなサービスへのニーズが在外居住者に生まれる.その規模が量的に拡大することで,ニーズの存在が顕在化する.これに対応して,ニーズを満たそうとする事業者が新たに登場する.
        かくして,もともとホスト社会には存在しない新たな「市場」が現地に生み出され,在外居住者にとっての「環境の保護膜」が形成される.こうした状況こそが,在外居住者の求める本国流のサービスの消費機会をホスト社会の中に確保することを可能とする.しかも,サービスの本来的な特性が,当該サービスの利用者と提供者それぞれの立地選択に大きな影響を及ぼす.つまり,両者の独特な関係に対して時間地理学の言う「制約」が働くために,在外居住者の空間的な「まとまり」が,ホスト社会の中に生み出されるのである.
        本稿では以上のような図式を,世界最大の在外日本人の居住地となったタイの首都バンコクにおいて,明確に見いだすことができることを示した.

  • ―「多様な経済」論との関連において―
    山本 大策
    2017 年 63 巻 1 号 p. 60-76
    発行日: 2017/03/30
    公開日: 2018/03/30
    ジャーナル フリー

        本稿の目的は英語圏の経済地理学において一潮流となりつつある「多様な経済」論の紹介を行うととともに,その視点から加藤和暢氏を中心として進められてきた「サービス経済化」論を批判的かつ建設的に省察することである.とくに着目するのは,加藤氏の一連の論考からインプリケーションとして浮上してきた「サービス経済化」の市場原理主義的なグローバル経済化に対する役割の問題である.「多様な経済」論はポスト構造主義の影響を受けながら,「経済」概念の意味を問い直し,また行為主体の「主体化=服従化」のプロセスにも注目することで,グローバル経済化に対抗する実践的な知の形成を目指してきた.よって加藤氏が提起する問題と「多様な経済」論の間には通底するものがある.
        検討の結果,資本主義市場社会の内部にも存在する非市場型のサービスも看過しえないこと,つまり経済地理学の正当な対象として「多様な経済」を視野に収める必要性があることを主張する.また,空間的組織化論の「地域形成」の論理的根拠として評価しつつ,理論化の過程で「地域存続」のための経済活動が言説的に周縁化される可能性を指摘する.さらに「現状分析」における「対象重視」の加藤氏の主張と,行為主体性を熟視する「多様な経済」論を重ね合わせ,その方法論的影響にも言及する.最後に,「多様な経済」論が経済地理学の願望的地域経済論への後退を示すものではないのか,という懸念に対する若干の検討を試みる.

  • 加藤 和暢, 加藤 幸治, 鍬塚 賢太郎
    2017 年 63 巻 1 号 p. 77-88
    発行日: 2017/03/30
    公開日: 2018/03/30
    ジャーナル フリー

        ここでは,サービス経済化に関心を持ち,これから研究に取り組まんとする大学院生・学生を対象として,関連文献の紹介を行う.いわば「サービス経済地理学」に関する基礎文献の紹介である.
         「サービス」を標題に含む書籍は少なくない.ただし,それには接客業などにおけるサービスの実践報告,ニューサービスともいわれる新興サービス業のビジネスモデルの紹介といったものも多く,経済地理学的な興味を深める契機となる文献を探すのは思いの外,難しい.そこで,これから研究に取り組もうという読者のきっかけになりうる文献を,ここで紹介する.
         ここで取り上げたものがもちろんすべてではない.近年増えつつある「サービス工学」などの文献にも参考になる論点は多い.本小稿は,研究の「空白地帯」への「道標」たらんとするものであり,「サービス経済地理学」への誘いである.

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