経済地理学年報
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65 巻, 1 号
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表紙
特集
特集論文
  • 作野 広和
    2019 年 65 巻 1 号 p. 10-28
    発行日: 2019/03/30
    公開日: 2020/03/30
    ジャーナル フリー

        本稿は,2016年以降に語られはじめた関係人口の概念を改めて整理し,その意義について新たな見解を提示した.従来,関係人口は「交流人口と定住人口の間に位置する第3の人口」と捉えられていた.本稿で検討した結果,関係人口のそうした性格は否定しないものの,3つの人口概念を段階性でのみ説明することは誤解を招きかねないとの結論に至った.すなわち,関係人口を交流人口と定住人口との間のステップとしてのみ捉えるのではなく,新しい時代における都市地域と農山漁村地域との関わり方の一つとして捉えるべきである.また,関係人口が有する多様性についても明らかにした.本稿では,都市農村関係から関係人口を4つに類型化し,それぞれの類型が有する性格を整理した.従来の関係人口に関する言説では,地域支援志向型と地域貢献志向型の関係人口に多くの注目が集まっていた.一方で,地域を維持していく上では「地域を守る」行動を継続的に行える人材が必要である.本稿では,そのような人材を非居住地域維持型の関係人口であると整理した.そのような意味では,社会学で整理されている修正拡大家族の概念も,関係人口の一部として積極的に評価すべきであると考える.

  • 大貝 健二, 水野谷 武志, 浅妻 裕
    2019 年 65 巻 1 号 p. 29-44
    発行日: 2019/03/30
    公開日: 2020/03/30
    ジャーナル フリー

        北海学園大学経済学部では,2017年度から学生フィールドワーク科目として,「地域インターンシップ」を導入している.この科目は,比較的長期にわたって地域に入り込み,地域で生活する人たちとのコミュニケーションを通じて,地域の課題や可能性を見つけ出し,課題解決に向けて実践することを目的としている.このような科目を導入するに至った経緯は,地域経済の疲弊や縮小に対して,大学として特に人材育成の観点から地域経済社会に貢献することを企図したことがある.また,本科目の特徴としては,外部コーディネーターにも関わってもらい,全体の利害調整や情報発信のほか,学生へのアドバイスも行ってもらっている.
        2018年度で,パイロット期間を含め3年が経過するが,受入団体との信頼関係を築きながら,当事者が頭を悩ませつつ手探りで実施していることが実情である.しかし,3年間継続する中で,当初の「地域の人たちのお手伝い」から,学生提案型のプロジェクト(『天売島生活史』の作成,空店舗活用による交流空間の創出)へと,参加学生の交替を伴いながら,現地で取り組む内容を発展的に変化させてきている.そうした変化とともに,学生と地域の人たちとの関係や,地域の人たちの意識の面においても徐々に変化が見られ始めている.

  • ―郡上市和良町を事例に―
    林 琢也
    2019 年 65 巻 1 号 p. 45-60
    発行日: 2019/03/30
    公開日: 2020/03/30
    ジャーナル フリー

        本研究は,大学の教員・学生を広義の「関係人口」と捉え,フィールドワーク教育の成果と課題について考察することを目的とする.研究対象地域は岐阜県郡上市和良町である.筆者は2011年より和良町の地域づくり活動に関わってきた.また,担当する実習科目では,学生とともに和良町の移住者への意識調査や地域づくり団体・構成員のネットワークに関する調査を実施した.こうした経験のなかで,フィールドワークの方法を学んだ学生の成長を地域に還元するため,出前・卒業論文発表会を和良町において実施している.参加者へのアンケートでは総じて企画や内容に対して高い評価を得ている.
        教員が日常的に関わりをもつ地域においてフィールドワークを実践することは,継続的に同じ地域を訪れるなかで,学生も土地鑑や当該地域の人や場所に対して愛着をもつようになる.そして,調査スキルの習得といった教育効果にとどまらず,多様な住民との関わりや交流経験の蓄積により,継続的に当該地域と関わりをもったり,スポークスパースンとなってくれるような人材を育成・輩出することにも貢献し得るといえる.

  • ―「国士舘大学西谷学校」を事例として―
    宮地 忠幸
    2019 年 65 巻 1 号 p. 61-81
    発行日: 2019/03/30
    公開日: 2020/03/30
    ジャーナル フリー

        近年,農村の地域づくりにおいて地域サポート人材と農村住民との関わりのあり方が問われている.そこで本稿は,次の点を明らかにすることを目的とした.第一は,「国士舘大学西谷学校」の活動事例を通して,大学生による農業・農村体験の意義と,諸活動が集落住民からどのように評価されているのかを明らかにすることである.第二は,既存研究において指摘されてきた地域連携活動の段階性を踏まえて,その展望を行うことである.
        本稿を通して,次の点が明らかになった.活動自体は,大学生と集落住民ともに概ね高い評価がなされている.しかし,大学側には①経済的な負担問題,②活動の目的や意義の継承問題,③集落住民との向き合い方,に課題が残された.一方,集落側には,地域の課題認識には共通性があるものの,それらへの対策のあり方については多様な意見があり,一体化した取り組みを行うことが難しいという課題が示された
        多様な地域問題が山積する中で,「交流型」の地域連携から「価値発見型」や「課題解決実践型」等へ活動を昇華させていくためには,大学側のコーディネート機能の発揮や,制度的・組織的な基盤を固めながら多様な実践の中から新たな展開を見出していく姿勢が求められている.

  • 新名 阿津子
    2019 年 65 巻 1 号 p. 82-95
    発行日: 2019/03/30
    公開日: 2020/03/30
    ジャーナル フリー

        本稿では公立鳥取環境大学で2012年度から2017年度までの期間に実施したジオパークを活用した教育活動と課外活動の実践から得られた成果と課題について検討した.ジオパークには地域との協働のもとで学術研究を進め,環境教育や地球科学教育を展開し,持続可能な開発を実践することが求められており,大学の調査研究,教育,地域貢献の3つの機能との親和性が極めて高い取り組みである.そこで筆者はジオパークと大学教育をフィールドワークと課外活動から融合することを試みた.その結果,教育活動ではフィールドワークを通じた教育活動が,学生,教員,地域の3者の相互学習の機会の創出につながることが明らかとなった.また大学と地域の関係構築においては3者の負担を最小限にしながらも継続的に活動することが重要であることが判明した.

  • ―兵庫県美方郡香美町小代区におけるゼミ活動から卒業生の「嫁入り」まで―
    河本 大地
    2019 年 65 巻 1 号 p. 96-116
    発行日: 2019/03/30
    公開日: 2020/03/30
    ジャーナル フリー

        農山村地域での学生との度重なるフィールドワークを通じた「関係人口」づくりの実践事例から,持続可能な社会を構築していくための視点と方法の提示を試みた.筆者が大学教員として約10年間にわたり関与してきた兵庫県美方郡香美町小代(おじろ)区でのゼミ活動から,卒業生の移住および「嫁入り」までのプロセスをとりあげ,整理・省察をおこなった.その結果,持続可能な社会の構築には,地域住民にとっての「暮らしがい」と,それをベースにした関係人口にとっての「関わりがい」が重要ということがわかった.「暮らしがい」をベースにした「レジリエント」な関係性構築が,社会や地域の持続可能性を育む.

研究ノート
  • ―広汽トヨタ社の事例を中心に―
    阿部 康久, 林 旭佳, 高瀬 雅暁
    2019 年 65 巻 1 号 p. 117-132
    発行日: 2019/03/30
    公開日: 2020/03/30
    ジャーナル フリー

        本稿では,広汽トヨタ社を事例として日系自動車メーカーの中国市場におけるディーラーの分布と修理・メンテナンス用部品の管理体制について検討していく.調査手法として,広汽トヨタ社のあるディーラーを通じて,ディーラーの全国的な分布状況と部品物流倉庫の立地状況,修理・メンテナンス用部品のストックの状況や配送システム等についての情報を入手した.調査結果として,同社は全国に437店舗のディーラーを持つが,人口比を考慮すると,店舗の分布が沿海部に偏っており,近年,自動車の需要が高まっている内陸部への進出が遅れている.その一方で,地域別のGDP総額と店舗数の間には高い相関関係があり,同社では比較的経済規模が小さい内陸部の消費者向けに低価格な車種を販売するよりは,経済規模が大きい沿海部の大都市で高価格車を販売することを重視しているといえる.また同社において店舗数の拡大が進まない要因として,同社が重視する十分なアフターサービスを行えるディーラーを確保することが難しい点も挙げられる.同社では,ディーラーには修理・メンテナンス用部品のうち,最低でも1,500点以上をストックさせる方針を採っている.また,メンテナンス用部品を交換する際には,顧客に十分な説明と同意を得ることで顧客満足度を高めることを要請している.そのため,同社のディーラーには長期的な視点で事業を続けられる資金力が必要になるが,このようなディーラーは限られていることや,メーカーとディーラーの間での利益配分も難しい点が指摘できる.

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