経済地理学年報
Online ISSN : 2424-1636
Print ISSN : 0004-5683
ISSN-L : 0004-5683
68 巻, 4 号
選択された号の論文の13件中1~13を表示しています
表紙
大会報告論文
  • 秋山 祐樹
    2022 年 68 巻 4 号 p. 247-269
    発行日: 2022/12/30
    公開日: 2023/12/30
    ジャーナル フリー

        本研究では,携帯電話の移動履歴に基づいた人々の分布を示す地理空間ビッグデータ(以下「モバイルビッグデータ」)を用いることで,日本全国における新型コロナウイルス感染症(以下「COVID-19」)による地域経済への影響を時系列的に,かつミクロな空間スケールで把握する方法を提案する.COVID-19による地域経済への影響分析は国や地方単位といったマクロな空間スケールではすでに実施されているが,観光地や繁華街といったミクロな空間スケールで,いつどの程度の消費の増減がみられるのか,またその業種は何であるか,といった時空間的に高詳細な分析はまだ実現していない.そこで本研究では,モバイルビッグデータとさまざまな既存統計を組み合わせることで,地域メッシュ単位の小売業,飲食業,宿泊業での推定消費額をコロナ禍前後において月単位で推定できるデータベースの開発を行った.デジタル電話帳から得られる事業所数との比較により同データの信頼性を検証した結果,いずれの業種の推定消費額も一定程度の信頼性が確保されていることがわかった.そして,同データを用いた分析により,まず第一波は第二波と比べて全国的に影響が顕著であったこと,特に宿泊業への影響が大きかったことがわかった.また,「Go Toトラベルキャンペーン」はその期間中に小売業を2019年並みの水準に回復させる効果があったものの,宿泊業の十分な回復は達成できなかったこともわかった.さらに,以上の結果は地域による差が大きかったことや,特定の繁華街や観光地といったミクロなスケールでみても,地域差が非常に大きいことも明らかとなった.

  • ―観光経済の事例分析および国際金融市場と政策的規制からの考察―
    福井 一喜
    2022 年 68 巻 4 号 p. 270-294
    発行日: 2022/12/30
    公開日: 2023/12/30
    ジャーナル フリー

        本稿は,デジタルプラットフォームによる国境や空間を超えた「支配」はなぜ強まるのかという問題意識から,観光経済の事例分析と,国際金融市場と政策的規制に注目した考察によって「支配」の空間的なメカニズムを提示した.
        デジタルプラットフォームによる「支配」は,社会や企業への一方的なものではない.ユーザー企業は,デジタルプラットフォームをローカルな地理的空間における利潤追求のために利用し,その見返りにデータや資本,権力の一部をデジタルプラットフォームに提供する.デジタルプラットフォームはこれらの資源を,空間を超えて大量に集積させて影響力を強める.だが,それを問題視する国際政治のなかで,各国政府は自国経済の保護のためにデジタルプラットフォームへの政策的規制を強めている.デジタルプラットフォームは国際金融市場からの投資に依存した不安定な存在でもあり,デジタルプラットフォーム間の競合は激化している.その結果,政策的規制に対応しながら金融資本を獲得するために,デジタルプラットフォームはユーザーの「支配」を強めざるを得なくなっている.
        デジタルプラットフォームによる「支配」は,空間を超える国際金融市場と,ローカルな地理的空間と結びついた政策的規制,およびユーザー企業の利潤追求の相互作用の結果である.持続的なデジタル社会の構築には,デジタルプラットフォームをめぐる国際金融市場の歪みや国際情勢の変化への対応が必要である.

  • ―高知県を事例として―
    佐竹 泰和
    2022 年 68 巻 4 号 p. 295-314
    発行日: 2022/12/30
    公開日: 2023/12/30
    ジャーナル フリー

        本研究は,テレワークのようなデジタル時代の新しいワークスタイルが地方圏のオフィス立地にもたらす影響について明らかにすることを目的とする.テレワークとの親和性が高く,かつクリエイティブな人材(能力) が求められる産業の例として,高知県におけるIT・コンテンツ企業に着目し,そのオフィス立地と人材獲得の動向をワークスタイルとの関係から検討した.
        その結果,高知県内の企業はクリエイティブ人材を求めている一方,その獲得には満足していないことが明らかになった.対象企業の多くはコロナ禍を機にテレワークを導入したものの,テレワークによるクリエイティブ人材の採用は考えていなかった.地域内で不足するクリエイティブ人材を確保する手段としてテレワークに期待しつつも,それを実現することは困難であったからである.一方で,わずかながら副業による雇用形態で都市部のクリエイティブ人材を求める動きがみられた.大都市圏に偏在しがちな営業企画や新規事業企画のスキルをもつ人材へのニーズが高く,これらの職種はテレワークに不向きとされる業種でも必要とされている.地方圏に立地するオフィス機能の観点から,テレワークや副業・兼業を通じた大都市圏との関係構築は,地方企業において新たな価値の創出や経営管理・研究開発機能の充実を図るうえで新たな可能性を示した.

大会記事
書評
学会記事
feedback
Top