地下水学会誌
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62 巻, 3 号
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特集「降雨浸透過程モデリング」
論説
  • 堤 大三
    2020 年 62 巻 3 号 p. 363-382
    発行日: 2020/08/31
    公開日: 2021/01/07
    ジャーナル フリー

    山地斜面の土層内にはパイプと呼ばれる大孔隙が存在しており,このパイプを通した選択流が山地斜面における降雨流出過程に大きく影響していることが知られている。また,この選択流が斜面崩壊発生機構に何らかの影響を及ぼしている可能性も指摘されている。これらの現象を総合的に検証する手法として,パイプによる選択流路の解析手法に焦点をあて,選択流に関するこれまでの研究について示した上で,それらの現象を解析する様々なタイプのモデルシミュレーションについての概説を行う。その中で著者らが開発したモデルを紹介し,手法の解説と実験の再現計算による手法の検証を行う。また,モデルの実用的な活用事例を紹介する。

論文
  • 向後 雄二
    2020 年 62 巻 3 号 p. 383-398
    発行日: 2020/08/31
    公開日: 2021/01/07
    ジャーナル フリー

    飽和・不飽和圧密解析法に基づく斜面安定解析方法について詳述した。場の方程式,水分特性曲線モデル,および二つのサクション効果を考慮した弾塑性モデルが,三つの土の不飽和状態に基づいて議論された。自然斜面を模した,比較的硬い基盤上に,浅く緩い表面砂層が堆積した斜面に対して行われた,一連の1g場での降雨破壊模型実験を,この方法を用いて解析した。実験結果より,法先に雨水が溜まり,間隙水圧が負圧から正圧に変化し,そこから破壊が始まることが,破壊機構としてわかった。これらの実験結果は,この方法を用いてよくシミュレートできた。この方法は,降雨による斜面安定問題を評価するための強力な解析ツールになる可能性がある。

技術報告
  • 南部 卓也, 斎藤 広隆, 笹井 友司, 末永 弘, 田原 康博, 德永 朋祥, 菱谷 智幸
    2020 年 62 巻 3 号 p. 399-413
    発行日: 2020/08/31
    公開日: 2021/01/07
    ジャーナル フリー

    降雨浸透過程は,不飽和帯の浸透特性や境界条件の非線形性や流体挙動の取り扱いなど,多くの留意点を有する。一方で,数値解析パッケージの普及により,問題の複雑さや留意点を十分に理解されないまま解析が進められることもある。そこで,複数の飽和・不飽和浸透流の汎用プログラムを用いて,斜面の降雨浸透問題を対象として,境界条件や不飽和浸透特性などの取り扱いの違いが解析結果に与える影響について検討した。その結果,先行降雨を受けた状態を想定した初期飽和度が高い場合は,圧力水頭などの変化に大きな違いはないが,斜面が乾燥している状態を想定した初期飽和度が低い場合は,流体挙動や不飽和透水係数の取り扱いの違いが表れた。

  • 稲葉 薫
    2020 年 62 巻 3 号 p. 415-430
    発行日: 2020/08/31
    公開日: 2021/01/07
    ジャーナル フリー

    広域地下水流動の短期から長期の高精度予測のためには降雨浸透過程を適切にモデル化しなければならない。このうち,不飽和帯で生じる鉛直浸透流および中間流が短期的な評価に特に重要であることを数値実験で確認した。また,地表面で生じる降雨流出過程のモデル化のために地表面を高解像度に分割する必要があることも併せて確認したが,現段階では計算機容量には限りがあるので,広域領域全体を高解像度に分割することは実用的ではないため容量を抑えるような工夫が必要である。さらに地上での観測情報に比べて地下の情報は解像度が非常に粗いので,地下情報を集積するような社会的仕組みの構築して少しでも解像度を上げる努力が今後必要である。

論説
  • 杉山 歩, 辻村 真貴, 加藤 憲二
    2020 年 62 巻 3 号 p. 431-448
    発行日: 2020/08/31
    公開日: 2021/01/07
    ジャーナル フリー

    微生物はあらゆる環境に生息しており,地下水においても102から108cells/mLの存在が報告されている。加えて,次世代シーケンス法の汎用化に伴い,微生物群集の構成や多様性に関する情報量は格段に精度が上昇した。従来,地下水を対象とした微生物研究は,浅層の地下水汚染に関する研究を中心に進められてきた。一方で,近年微生物動態そのものが地下水流動に係わる情報を含んでいる可能性が検討されつつある。しかしながら,地下水流動系とそこにおける微生物の動態に関する理解は十分とはいえないのが現状である。そこで本稿では,地下水流動系という視点から微生物研究の現状と課題を整理し,地下水流動の理解の深化に微生物研究がどのように貢献しうるかを概説する。

論文
  • 藪崎 志穂
    2020 年 62 巻 3 号 p. 449-471
    発行日: 2020/08/31
    公開日: 2021/01/07
    ジャーナル フリー

    福島県北部沿岸域とその周辺地域を対象として2014年4月~2017年10月に地下水,自噴井,湧水等,計124地点で調査を行い,水質や安定同位体の分析を行った。浅層の地下水や湧水,河川水ではCa-HCO3型が卓越し,深層の地下水や自噴井ではNa-HCO3型が多く,津波の被害を受けた浅層地下水や湧水ではNa-Cl型を示し,その他Ca-SO4型や混合型などの組成が確認でき,滞留時間の違いや地質,土地利用などの影響を受け,複数の水質組成が形成されていると考えられる。また,湧水の同位体比を用いて涵養直線を作成して各地点の涵養標高を求めたところ,特に南相馬市南部の沿岸域に近い中~深層の地下水・自噴井では阿武隈高地周辺で涵養されたと予想される相対的に滞留時間の長い水の存在が確認された。一方で,同市内の浅層の地下水や湧水では沿岸から比較的近い台地部で涵養されたと思われる地点も認められ,複数の帯水層の存在が示唆された。

訪問記
訂正
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