日本外傷学会雑誌
Online ISSN : 2188-0190
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37 巻, 3 号
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原著
  • 本村 友一, 平林 篤志, 久城 正紀, 阪本 太吾, 船木 裕, 安松 比呂志, 益子 一樹, 八木 貴典, 原 義明, 横堀 將司
    原稿種別: 原著
    2023 年 37 巻 3 号 p. 279-288
    発行日: 2023/07/20
    公開日: 2023/07/20
    [早期公開] 公開日: 2023/06/28
    ジャーナル フリー

    背景

     我が国で外傷診療の質が経年的に評価された研究は少ない.

    対象と方法

     2009-2019年に千葉県内で発生した交通事故による24時間以内死亡者のうち救急隊接触時に生命徴候が認められた患者 (patient with sign of life : SOL+) を対象とした. 警察, 消防および医療機関から経時的な情報が収集され, 事例検討会 (peer review) で各症例は「防ぎ得た外傷死Preventable Trauma Death : PTD」, 「PTDの可能性 (potentially-PTD : p-PTD) 」および「救命不能」に分類された.

    以下の仮説を検証した.

     (1) PTDとp-PTDの割合 (以下PTD率) は経年的に低下した

     (2) PTDとp-PTDで循環管理と止血術に問題がある

     (3) SOL+を多数受け入れている救命救急センターではPTD率が低い

    結果

     対象785例のうち65例がPTD, 86例がp-PTDと判定された. 仮説(1)(2)(3)はいずれもその通りであった. (2)では70例 (46%) で循環管理/止血術に問題ありとされた.

    結語

     千葉県の交通事故死亡事例においてPTD率は経年的に低下した. PTD/p-PTDの46%で初療室での循環管理/止血術に問題があった.

症例報告
  • 岩﨑 安博, 川嶋 秀治, 柴田 尚明, 田中 真生, 中島 強, 國立 晃成, 置塩 裕子, 中田 朋紀, 米満 尚史, 上田 健太郎, ...
    原稿種別: 症例報告
    2023 年 37 巻 3 号 p. 289-295
    発行日: 2023/07/20
    公開日: 2023/07/20
    [早期公開] 公開日: 2023/02/15
    ジャーナル フリー

     症例は50代の男性. 罠にかかったイノシシを捕獲しようとした際に, イノシシに胸部に突進された. さらに転倒後両下肢を複数回咬まれた. 救急隊により開放性気胸と判断されドクターヘリが要請された. 現場で胸腔ドレナージを実施した. 両下肢にも多発切創を認め圧迫止血を行い病院へ搬送した. 第4病日に胸腔ドレーンを抜去し, 第28病日に退院となった. イノシシの犬歯は非常に鋭く大きく, それによる外傷は単なる咬傷でなく, 深部に達する刺創, 切創となり致死的な外傷を来たしうる. また攻撃性が強く多発外傷ともなりうる. イノシシによる外傷を診療する場合には, これらの特徴を踏まえて重症外傷の可能性も念頭に置いて対応する必要がある.

  • 谷野 雄亮, 本間 宙, 石上 雄太, 下山 京一郎, 高島 順平, 会田 健太, 平山 優, 鈴木 彰二
    原稿種別: 症例報告
    2023 年 37 巻 3 号 p. 296-301
    発行日: 2023/07/20
    公開日: 2023/07/20
    [早期公開] 公開日: 2023/02/22
    ジャーナル フリー

     胸骨圧迫に合併する肝損傷は, 体外循環装置使用下では治療に難渋する. 心肺停止に対するV-A ECMO (Veno-Arterial Extracorporeal Membrane Oxygenation) 導入後に肝損傷が遅発性に顕在化し, 手術療法で治癒した2例を経験したため報告する. 1例は, 冠動脈形成術後のCT検査で造影剤漏出像を伴う肝損傷が顕在化し, 腹部コンパートメント症候群に陥り緊急開腹手術を施行した. 1例は, V-A ECMO導入後のCT検査で血性腹水が増加し緊急開腹手術を施行した. 2例とも生存転帰を得た. V-A ECMOでは抗凝固薬の使用が必須で易出血性となり, また腹腔内出血による循環血液量減少や腹腔内圧上昇によりECMO継続が困難となる. V-A ECMO下でも緊急開腹止血術を施行可能である.

  • 高野 博信, 板垣 有紀, 山本 和幸, 西上 耕平, 福永 亮朗, 市村 龍之助, 真名瀬 博人, 平野 聡
    原稿種別: 症例報告
    2023 年 37 巻 3 号 p. 302-306
    発行日: 2023/07/20
    公開日: 2023/07/20
    [早期公開] 公開日: 2023/03/28
    ジャーナル フリー

     17歳, 男性. 野球の練習中に受傷. 腹痛が持続するため, 近医受診. CTにて膵損傷が疑われ当院へ紹介搬送となった. 当院搬送時, 全身状態は安定していたが, CT所見にて主膵管損傷の有無が判別困難であり, 同日緊急で内視鏡的逆行性膵管造影 (以下 : ERP) を施行した. ERPの結果, 主膵管損傷が明らかとなり, そのまま損傷部位よりも尾側の膵管まで内視鏡的経鼻膵管ドレナージ (以下 : ENPD) チューブ留置が可能であったため, 非手術療法を選択した. その後は増悪することなく経過し, ENPDチューブ抜去から退院に至った. 主膵管損傷を伴う膵損傷に対する非手術療法の報告は散見されるが, 非手術療法の際には, 受傷早期の主膵管損傷の診断および適切な膵管ドレナージが肝要と考えられた.

  • 小林 智行, 佐藤 聖子, 村上 博基, 白井 邦博, 小濱 圭祐, 平田 淳一
    原稿種別: 症例報告
    2023 年 37 巻 3 号 p. 307-312
    発行日: 2023/07/20
    公開日: 2023/07/20
    [早期公開] 公開日: 2023/03/28
    ジャーナル フリー

     34歳男性, 21歳男性の2例. 搬入時の意識レベルはいずれもGCS score 8以下の重症例で, 脳挫傷, 脳浮腫の増悪により脳ヘルニアをきたし, 減圧開頭術と脳室ドレナージを同時に施行した. 脳浮腫は重度であったが, 脳室ドレナージの挿入により開頭範囲は必要最小限となり, 頭蓋内圧管理は容易であり, 手術手技に関連した合併症はみられなかった. 減圧開頭術に脳室ドレナージを併用することは, 手術時間全体に大きな影響を及ぼさずに施行でき, さらには開頭範囲を必要最小限にすることができる可能性がある. 術後, さらに脳浮腫が増悪した場合であっても髄液の排液により有意に頭蓋内圧を低下させ, 転帰の改善を期待できる.

  • 箕輪 啓太, 今 明秀, 野田頭 達也, 十倉 知久, 吉村 有矢
    原稿種別: 症例報告
    2023 年 37 巻 3 号 p. 313-318
    発行日: 2023/07/20
    公開日: 2023/07/20
    [早期公開] 公開日: 2023/05/10
    ジャーナル フリー

     50歳台の男性. バイク走行中に対向車の荷台に積載していた鉄パイプで腹部を受傷し, 救急搬送された. X線で大量血胸, focused assessment with sonography for trauma (FAST) 陽性を認め, ショック状態だった. 胸腔ドレナージ後に造影CT施行し, 受傷2時間30分後に手術室に入室した. 術前状態を考慮し, 外傷性膵頭十二指腸損傷, 横行結腸間膜裂傷に対して膵頭十二指腸切除術, 横行結腸部分切除術を施行し, 術後22時間に再建術を施行した. gradeA膵液瘻や腹腔内膿瘍を認めたが, 重篤な合併症は認めなかった. 外傷性膵十二指腸損傷で膵頭十二指腸切除術を施行する場合は, 術前の全身状態の程度や他臓器損傷合併の有無などによっては二期的手術も検討し, 再建時期は状況に応じて早期から晩期まで考慮する必要がある.

  • 大島 千穂, 山元 良, 西田 有正, 大野 聡一郎, 宇田川 和彦, 栗原 智宏, 佐々木 淳一
    原稿種別: 症例報告
    2023 年 37 巻 3 号 p. 319-323
    発行日: 2023/07/20
    公開日: 2023/07/20
    [早期公開] 公開日: 2023/06/28
    ジャーナル フリー

     症例は76歳の男性で, 飲酒後に転倒し, 当院へ搬送された. 頸部CTで後咽頭間隙血腫を認めたが, 呼吸困難や酸素化低下などはなかった. 受傷5日目にStridorと酸素化低下が出現し, 気管支鏡で後咽頭間隙血種による気管後壁の圧排所見を認め, 上気道狭窄に至った. 気管支鏡下にて気管挿管を施行し, 呼吸状態および低酸素血症は速やかに改善した. 第12病日に人工呼吸器離脱し, 第46病日に自宅退院した. 後咽頭間隙血腫は比較的稀な外傷であるが, 転倒外傷において, 初療時に上気道狭窄症状のない後咽頭間隙血腫が受傷5日目に急速に増悪し気道狭窄に至ることは極めて稀である. 初療時に上気道狭窄症状がなくても, 数日以上の経過観察を行う必要性が示唆された.

  • 松本 匡洋, 川村 祐介, 谷口 隼人, 高橋 耕平, 岩下 眞之, 稲葉 裕, 竹内 一郎
    原稿種別: 症例報告
    2023 年 37 巻 3 号 p. 324-330
    発行日: 2023/07/20
    公開日: 2023/07/20
    [早期公開] 公開日: 2023/05/10
    ジャーナル フリー

     症例は31歳男性, 交通外傷で受傷し当院に搬送された. 両側大腿骨骨幹部骨折・骨盤開放骨折に加えて腹腔内損傷を合併していた. 大腿骨骨折に対しては待機的手術の方針として鋼線牽引を行ったが, 入院2日目に頻脈, 血圧低下・酸素化障害・意識障害・発熱を認め, 脂肪塞栓症候群と診断した. 骨折部の安定化が必要と考え緊急で髄内釘術を施行した. その後も意識障害は改善せず第31病日目に転院となった. 脂肪塞栓症候群を早期に発症した場合には重症度が高くなるため, 多発外傷診療においては常に脂肪塞栓症候群を念頭に置いて診療にあたる必要がある.

  • 佐伯 辰彦, 沖田 光雄, 塚本 大樹, 外川 雄輝, 岩本 圭, 小山 和宏, 鳥越 勇佑, 日下 あかり, 名越 久郎, 伊関 正彦, ...
    原稿種別: 症例報告
    2023 年 37 巻 3 号 p. 331-336
    発行日: 2023/07/20
    公開日: 2023/07/20
    [早期公開] 公開日: 2023/05/30
    ジャーナル フリー

     症例は70歳代男性, 自宅で木を切っている際に木の下敷きになり当院へドクターヘリで搬送された. 来院時の造影CT検査は, 骨盤輪骨折を認めたが左上殿動脈は損傷していなかった. 受傷3日目に骨盤輪骨折に対して右腸骨から左腸骨にかけて経皮的スクリュー固定術を行った. 受傷19日目に転院したが, 受傷102日目に左臀部痛, 左臀部の腫脹を認め当院に再転院となった. 血管造影でスクリュー挿入反対側である左上殿動脈にガイドピンによる損傷が原因と思われる仮性動脈瘤の形成を認め, ゼラチンスポンジによる動脈塞栓術を行った. 骨盤骨折に対する経皮的スクリュー固定術では, スクリュー挿入反対側の上殿動脈損傷のリスクも念頭に置く必要がある.

  • 濱田 尚一郎, 安藤 等, カシンスキー リチャード, 米山 尚慶, 三輪 槙, 大田原 正幸, 中野 智継, 横須賀 哲哉, 後藤 英昭
    原稿種別: 症例報告
    2023 年 37 巻 3 号 p. 337-341
    発行日: 2023/07/20
    公開日: 2023/07/20
    [早期公開] 公開日: 2023/05/25
    ジャーナル フリー

     多発顔面骨骨折に合併した大量鼻出血に対し, 経カテーテル動脈塞栓術 (transcatheter arterial embolization : TAE) を行った症例を経験した. 53歳男性が交通外傷で当院に搬送された. 多発顔面骨骨折および大量鼻出血を認めた. 鼻腔への前方パッキングでは止血が得られずTAEを施行し止血を得た. 顔面外傷時の大量鼻出血症例では, 鼻腔への後方パッキングや外頸動脈結紮はその適応が非常に限られ, 止血できない可能性が十分にある. そのため, 前方パッキングでも十分な止血が得られない場合, 緊急TAEが可能な施設では, 鼻腔への後方パッキングや外頸動脈結紮を試みずに緊急TAEを選択すべきである.

  • 大石 大, 津田 雅庸, 苛原 隆之, 寺島 嗣明, 梶田 裕加, 田邊 すばる, 久下 祐史, 加藤 浩介, 石津 啓介, 渡邉 栄三
    原稿種別: 症例報告
    2023 年 37 巻 3 号 p. 342-347
    発行日: 2023/07/20
    公開日: 2023/07/20
    [早期公開] 公開日: 2023/06/08
    ジャーナル フリー

     脂肪塞栓症候群は長管骨骨折などに伴い, 低酸素血症, 中枢神経症状, 点状出血を3大徴候とする症候群である. 鶴田らの基準や, Gurd&Wilson基準など診断基準は存在するが, 特徴的な臨床症状や特異的な検査所見がなく診断に苦慮することがしばしばある. 頭部MRI検査が診断に有用との報告もあるが, 本症例は大腿骨骨折に対して, 鋼線による直達牽引を施行していたため, 頭部MRI検査を安全に実施できないと判断した. 次善の対応として, ベッドサイドでの眼底診察を行った. 網膜に軟性白斑を認め, 脂肪塞栓症によるPurtscher網膜症を併発していた. 網膜所見が脂肪塞栓症候群の診断に有用であったため報告する.

その他
  • 岡田 一郎, 米山 久詞, 井上 和茂, 関 聡志, 菱川 剛, 塩島 裕樹, 高田 浩明, 永澤 宏一, 小原 佐衣子, 長谷川 栄寿, ...
    原稿種別: その他
    2023 年 37 巻 3 号 p. 348-354
    発行日: 2023/07/20
    公開日: 2023/07/20
    [早期公開] 公開日: 2023/07/04
    ジャーナル フリー

    目的

    東京都多摩地区に位置する一救命救急センターの外傷診療状況の変遷を調査し, 当該地域における外傷診療の課題を検討する.

    方法

    単施設後方視的研究. 2010年から2021年まで集中治療室へ入院した外傷患者を対象に, 患者背景, 外傷重症度および侵襲的治療 (手術および動脈塞栓術) の推移ならびに診療成績を調査した.

    結果

    集中治療室入院外傷は7,264例であった. 期間中に高齢患者 (65歳以上) 割合は増加していた一方, 重症外傷患者 (Injury Severity Score 16以上) 数とその割合は減少を認めた. 侵襲的治療数は全2,257手技で期間中に減少を認めた. 予測生存率 (probability of survival : Ps) ≧0.5の死亡は2.4%, Ps <0.5の生存は0.6%であり, 期間中に変化は認めなかった.

    結論

    重症患者数と侵襲的治療数は減少を認めていたが, 診療成績の悪化は認めなかった. 一方, 重症外傷診療の縮小が続いており, 外傷診療の質の維持には重症外傷集約化等を含めた地域包括的外傷診療体制確立が急務であると思われる.

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