日本外傷学会雑誌
Online ISSN : 2188-0190
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34 巻, 3 号
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原著
  • 岩瀬 弘明, 岩瀬 史明, 井上 潤一, 宮崎 善史, 松本 学, 河野 陽介, 笹本 将継, 柳沢 政彦, 萩原 一樹
    原稿種別: 原著
    2020 年 34 巻 3 号 p. 35-39
    発行日: 2020/07/20
    公開日: 2020/07/20
    [早期公開] 公開日: 2020/04/08
    ジャーナル フリー

     (目的) 骨盤骨折に伴う後腹膜出血に対する経カテーテル的動脈塞栓術 (TAE) の適応に関して, 早期に判断可能な客観的な指標を探ること. (対象と方法) 当院救命救急センターへ搬送された骨盤骨折214例のうち, 循環動態が安定し, かつ造影CTにて造影剤漏出を認めなかった症例を抽出し, TAE 施行群と非施行群の2群に分け, それぞれの背景を後方視的に比較検討した. (結果) TAE施行群は11例, 非施行群は113例であった. 2群を比較すると, Injury Severity Score (ISS) (p<0.001) とD-dimer値 (p=0.034) で有意差を認めた (Table 2). 多変量解析を行うと, ISS (OR : 1.10, 95%CI ; 1.03-1.16) で有意差を認め, カットオフ値は24であった. (結語) 重症外傷 (ISS>24) に伴う骨盤骨折症例では, 循環動態が安定し, かつ造影CTにて造影剤漏出が認められない場合でも, 止血目的の血管造影を考慮すべきであると考えられた.

症例報告
  • 小島 直樹, 高木 淑恵, 松田 隼, 長谷川 綾香, 有野 聡, 一瀬 麻紀, 佐々木 庸郎, 山口 和将, 稲川 博司, 岡田 保誠
    原稿種別: 症例報告
    2020 年 34 巻 3 号 p. 40-43
    発行日: 2020/07/20
    公開日: 2020/07/20
    [早期公開] 公開日: 2020/02/03
    ジャーナル フリー

     メッケル憩室は消化管の先天的奇形のひとつで多くは無症状だが, まれに出血や炎症が生じる. 我々は外傷性メッケル憩室穿孔というまれな症例を経験した. 症例は52歳男性, バイク乗車中に受傷し, 左下肢・下腹部に強い自発痛を認めた. バイタルサインは安定, 体表所見は右前胸部, 左側腹部, 手指に打撲痕と挫傷, 左大腿部腫脹を認めた. 造影CT上, 軽微なfree airと腹水を認めた. 経時的に腹水が増加したため同日緊急開腹術を行った. 開腹時, 血性腹水と腸液を確認した. 回盲部から40cmにメッケル憩室の穿孔を認め, 楔状に切離修復した. 他に腸間膜の損傷を数ヵ所認め止血修復し, 術後経過は良好であった. なお, 切除検体の病理検査では異所性粘膜は認めなかった.

  • 森山 太揮, 澤野 宏隆, 山口 英治, 伊藤 裕介, 林 靖之
    原稿種別: 症例報告
    2020 年 34 巻 3 号 p. 44-48
    発行日: 2020/07/20
    公開日: 2020/07/20
    [早期公開] 公開日: 2020/02/25
    ジャーナル フリー

     症例は57歳女性. シャッターが頭頸部に落下し, 鼻腔口腔内の出血が持続するため救急搬送となった. 来院時, 呼吸数30回/分, SpO2 99% (酸素 10L/分), 血圧122/70mmHg, 心拍数96回/分, Glasgow Coma Scale E1V2M5であり気管挿管を行った. CTで多発顔面骨骨折, 軸椎脱臼骨折を認めたがその他に損傷は認めなかった. 鼻腔口腔内のパッキングを行うもショック状態となったため, 両側外頸動脈に緊急経カテーテル的動脈塞栓術 (transcatheter arterial embolization ; TAE) を行った. その後, 顔面骨の観血的整復固定術を行い, 経過良好で合併症なく第34病日に転院となった. 顔面外傷による鼻腔口腔内への出血は, 気道閉塞, 呼吸不全だけでなく出血性ショックの原因となる. パッキングを行っても顔面からの出血が持続し, 造影CTで血管外漏出像を認め, なおかつ出血性ショックから離脱できない場合, 緊急TAEが有用である.

  • 藤芳 直彦, 鈴木 浩二, 当間 雄之
    原稿種別: 症例報告
    2020 年 34 巻 3 号 p. 49-52
    発行日: 2020/07/20
    公開日: 2020/07/20
    [早期公開] 公開日: 2020/02/25
    ジャーナル フリー

     気道異物の除去行為と胸骨圧迫により, 咽頭損傷と肝損傷を合併した症例を経験した. 症例は60歳代の女性で, 食物による窒息を起こし心肺停止状態に陥った. 気道異物を除去し胸骨圧迫が施され, 心拍が再開した後に当院に来院した. 来院後に上行咽頭動脈の損傷と肝損傷が判明し, ともに経カテーテル的動脈塞栓術 (以下TAE) による治療を必要とした. 外傷診療におけるTAEは有用な止血手段であるが, 塞栓する動脈によっては使用を避けるべき塞栓物質がある. このためTAEを行う際には適切な知識が必要である.

  • 古城 都, 村田 厚夫, 徳田 隼人, 梅田 滉弥, 松田 知也, 松山 純子, 三宅 亮, 奥川 郁, 松山 晋平
    原稿種別: 症例報告
    2020 年 34 巻 3 号 p. 53-57
    発行日: 2020/07/20
    公開日: 2020/07/20
    [早期公開] 公開日: 2020/03/05
    ジャーナル フリー

     40代男性. 軽乗用車を運転中, 交差点を右折しようとしたところ, 対向車線を90km/hr で直進してきた普通乗用車と衝突し受傷した. 当院搬入時, 左前胸部に圧痛を認め喘鳴を聴取した. 胸部CT上左第3, 4肋骨骨折と同部位からの肺の胸腔外への脱出を認め, 外傷性肺ヘルニアと診断した. 手術を施行し, 肺の部分切除と肋骨固定術, 前鋸筋を用いた胸壁再建術を行った. 肺ヘルニアはまれな疾患であるため報告する.

  • 永嶋 太, 井上 聡, 品田 公太
    原稿種別: 症例報告
    2020 年 34 巻 3 号 p. 58-64
    発行日: 2020/07/20
    公開日: 2020/07/20
    [早期公開] 公開日: 2020/04/01
    ジャーナル フリー

     症例は74才の男性. 包丁による左頸部鋭的損傷で当院へ搬送された. Zone IIに出血を認め, 緊急手術を施行した. 左内外頸静脈損傷と頸椎背側より出血を認め, 一時的な止血を行い, 2病日に再手術を行い, 止血確認後閉創した. 術後より小脳症状を認め, 画像検査上, 小脳梗塞を認めた. 左第5 /6頸椎間 (C5/6) に刃物の破片を認め, それにより椎骨動脈を損傷し, 小脳梗塞をきたしていた. 出血や感染徴候なく, 異物摘出は施行せず, 保存的治療で経過をみた. 特に合併症なく経過し, 58病日に退院した. Zone IIの鋭的損傷では, 成傷器の確認とともに椎骨動脈損傷の可能性を念頭におき, computed tomography (CT) や血管造影検査での精査が重要である.

  • 上山 晋也, 中尾 彰太, 吉元 孝一, 泉野 浩生, 文野 裕美, 日下部 賢治, 安達 晋吾, 松岡 哲也
    原稿種別: 症例報告
    2020 年 34 巻 3 号 p. 65-69
    発行日: 2020/07/20
    公開日: 2020/07/20
    [早期公開] 公開日: 2020/04/01
    ジャーナル フリー

     症例は38歳男性. 自動車運転中に電柱へ衝突し当院に搬送された. 医師接触時より呼吸・循環は安定していたが, 右上肢の著明な知覚過敏と麻痺を認めた. CTで頸椎骨折を示唆する所見はなかった. 第2病日に腕神経叢損傷を疑い頸部MRIを撮像すると, 第3頸椎から第6頸椎にわたる脊髄の右背側に, T2強調画像でモザイク状の血腫を認めた. 症状・画像所見から頸髄硬膜外血腫と診断した. 麻痺は経時的に改善傾向を示しており, 保存的加療の方針とした. 第7病日に撮像した頸部MRIでは血腫は退縮していた. 麻痺も改善し, 第9病日に退院となった. 外傷に伴い上肢に単麻痺を認める場合, 頸髄硬膜外血腫を鑑別にあげ精査する必要がある.

  • 甲斐 貴之, 高橋 哲也, 中山 祐介
    原稿種別: 症例報告
    2020 年 34 巻 3 号 p. 70-74
    発行日: 2020/07/20
    公開日: 2020/07/20
    [早期公開] 公開日: 2020/05/20
    ジャーナル フリー

     鈍的腰部外傷で下肢の血栓塞栓症を来した報告は稀である. 症例は54歳男性. シャッターが2mの高さから腰部に落下し受傷, 両下肢麻痺と感覚障害で救急搬送された. 腰部打撲痕と右下肢の感覚障害, 麻痺を認め, 右足背動脈, 右後脛骨動脈は触知できなかった. 造影CTで右膝窩動脈閉塞と腹部大動脈の著明な粥状硬化性変化を認めた. 急性下肢動脈閉塞に対し血栓除去術を施行したが右前足部で黒色壊死が進行, 下肢切断術施行し転院となった. 腰部外傷後の下肢麻痺の原因としては脊髄損傷・脊髄梗塞が考えられるが, 大動脈由来の血栓で急性下肢動脈閉塞を合併した本症例は, より迅速な診断・治療により救肢できた可能性があるため, 報告する.

  • 横野 良典, 廣瀬 智也, 小川 新史, 大井 和哉, 戸上 由貴, 野間 貴之, 山田 知輝, 中江 晴彦, 水島 靖明
    原稿種別: 症例報告
    2020 年 34 巻 3 号 p. 75-78
    発行日: 2020/07/20
    公開日: 2020/07/20
    [早期公開] 公開日: 2020/06/02
    ジャーナル フリー

     42歳女性, 交通事故により受傷された. 来院時, 見当識障害, 頻脈と酸素化不良を認め, CT検査で右第一肋骨骨折を含む両側多発肋骨骨折, 右血気胸を認めた. 第2病日に急激な循環虚脱から心停止に陥ったが蘇生により自己心拍再開を得た. 造影CT検査で右大量血胸と胸郭出口部で右鎖骨下静脈の静脈瘤と同部位からの活動性出血を認め, 緊急止血術を行った. 右鎖骨上切開を行い, 鎖骨骨幹部を除去することで鎖骨下静脈と外頸静脈の分岐部が出血源と視認でき結紮止血が可能となった. 第60病日に神経学的後遺症や右肩関節可動域制限なく転院となった. 鎖骨上切開で鎖骨を除去することは鎖骨下静脈損傷に対し良好なアプローチ方法の一つである.

  • 藤浪 好寿, 切田 学, 小谷 穣治
    原稿種別: 症例報告
    2020 年 34 巻 3 号 p. 79-84
    発行日: 2020/07/20
    公開日: 2020/07/20
    [早期公開] 公開日: 2020/06/20
    ジャーナル フリー

     日常生活動作 (ADL) 良好の胃瘻造設患者が手術治療を要した胃瘻損傷を伴う鈍的多発外傷を受傷した. 症例は70歳代男性. 自動車運転中に電柱に衝突した. 造影CT検査より活動性出血を伴う III b型脾損傷, 左多発肋骨骨折, 左上腕骨骨折と診断したが, 胃瘻損傷の判断には至らなかった. 脾損傷に対する緊急経カテーテル的動脈塞栓術 (TAE) 施行後の単純CT検査で腹腔内遊離ガスの増大を認めたため胃瘻損傷と診断し, 緊急手術 (脾摘術・胃瘻孔縫合閉鎖術・胃瘻再造設術) を施行した. 術後経過は良好で術後22日目に独歩退院した. 胃瘻造設患者の鈍的外傷では胃瘻損傷を念頭において診療を進めることが重要である.

  • 岡田 一郎, 関 聡志, 井上 和茂, 米山 久詞, 菱川 剛, 高田 浩明, 永澤 宏一, 小原 佐衣子, 長谷川 栄寿
    原稿種別: 症例報告
    2020 年 34 巻 3 号 p. 85-91
    発行日: 2020/07/20
    公開日: 2020/07/20
    [早期公開] 公開日: 2020/06/20
    ジャーナル フリー

     目的 : 受傷直後のextracorporeal membrane oxygenation (ECMO) 使用の適応, 安全性と効果を検討する. 方法 : 当施設で10年間に診療した外傷症例で受傷当日にECMOを使用した症例を診療録で後方視的に調査した. 結果 : 全4例, すべて男性. 年齢中央値は28.5歳, Injury Severity Scoreおよび予測生存率中央値はそれぞれ41, 0.734であった. 鈍的外傷3例, 鋭的外傷1例. 適応は重症胸部外傷に伴う両肺からの気道出血および呼吸不全が3例, 心損傷に合併した低体温症と難治性心室細動が1例. 受傷からECMO導入までの中央値は3時間. Venovenous-ECMO2例, venoarterial-ECMO2例. 全例で導入時の抗凝固療法はなし. 全例でECMO導入直後にアシドーシスの改善を認め, 低体温症例では速やかな体温上昇を認めた. ECMOに直接起因する合併症はなく, 2例が生存した. 結論 : ECMOは抗凝固療法なしで導入可能であり, 死の3徴のアシドーシスを改善し, 低体温を是正する可能性がある. 受傷直後のECMO使用は重症胸部外傷に伴う気道出血・呼吸不全や重度の循環不全に対する治療オプションとなりうる.

  • 福廣 吉晃, 森田 正則, 中田 康城, 溝端 康光
    原稿種別: 症例報告
    2020 年 34 巻 3 号 p. 92-95
    発行日: 2020/07/20
    公開日: 2020/07/20
    [早期公開] 公開日: 2020/07/07
    ジャーナル フリー

     まれな特発性左腹斜筋血腫症の1例について報告する. 患者は61歳, 男性. 咳き込んだ後に左季肋部から側腹部にかけて疼痛が出現し, 立ちくらみも伴うようになった. 救急搬入時, ショック状態で, 左側腹部を中心に腫脹と圧痛を認めた. CT画像で左腹斜筋内に血腫を認め特発性腹斜筋血腫と診断した. 造影剤の血管外漏出は認められず, 輸液等で循環が安定したため保存的療法とした. 特発性腹壁血腫は咳嗽などの軽微な外力で生じることがあり, ときにショック状態に陥る. 胸痛や側腹部痛を訴える患者の鑑別疾患として念頭におく必要がある.

  • 新井 正徳, 金 史英, 石井 浩統, 萩原 純, 石木 義人, 瀧口 徹, 重田 健太, 溝渕 大騎, 田山 英樹, 小笠原 智子, 横田 ...
    原稿種別: 症例報告
    2020 年 34 巻 3 号 p. 96-100
    発行日: 2020/07/20
    公開日: 2020/07/20
    [早期公開] 公開日: 2020/07/07
    ジャーナル フリー

     門脈気腫および腸管気腫はまれではあるが重篤な所見と考えられ, 腸管壊死はその最も多い原因である. 外傷を契機とし, これらの所見を認める症例は報告されているが, 治療中, 遅発性に発生した症例はみられないため報告する. 症例は70歳代男性, 交通事故にて受傷し, 現着時, 意識障害とショックのため当救命センターに搬送された. 重症頭部外傷を認め保存的加療を行っていたが, 第4病日にショックを来し, CTにて門脈気腫および腸管気腫を認めた. 腸管壊死による敗血症性ショックを疑い, 試験開腹術を施行したが壊死を認めなかった. 術後, 抗生剤投与と血液浄化法により全身状態は改善し, 下腿骨骨折の手術後, 第41病日にリハビリ目的に転院となった.

  • 小川 克大, 清水 健次, 辛島 龍一, 新田 英利, 増田 俊郎, 松本 克孝, 沖野 哲也, 川野 雄一朗, 杉山 眞一, 前原 潤一, ...
    原稿種別: 症例報告
    2020 年 34 巻 3 号 p. 101-105
    発行日: 2020/07/20
    公開日: 2020/07/20
    [早期公開] 公開日: 2020/07/07
    ジャーナル フリー

     外傷性腸間膜損傷では, 速やかな止血ならびに腸管血流の評価が必要である. 今回, 術中Indocyanine green (以下ICG) 蛍光法による血流評価にて腸管温存が可能であった症例を経験した. 75歳男性, 交通外傷にて当院搬送. 来院時ショック状態でfocused assessment with sonography for trauma (FAST) 陽性. 初療室開腹を行うと小腸腸間膜損傷を認め, 縫合止血施行. ダメージコントロール手術とし一時的閉腹後ICUにて管理. 24時間後にsecond look operation施行. ICG蛍光法による血流評価を行ったところ虚血を認めず腸管温存が可能であった. 外傷性腸間膜損傷において, second look operation時にICG蛍光法にて腸管血流評価を行うことは有用であった.

その他
  • 北山 淳一
    原稿種別: その他
    2020 年 34 巻 3 号 p. 106-110
    発行日: 2020/07/20
    公開日: 2020/07/20
    [早期公開] 公開日: 2020/03/05
    ジャーナル フリー

     外傷病院前救護活動において, 受傷機転や症状から脊椎・脊髄損傷が疑われる場合はバックボード等を用いた全脊柱固定の適応となる. 全脊柱固定の意義は, 搬送中に脊椎の動きを制限することにより脊髄の二次損傷を防ぐことにある. しかし長時間使用による合併症の増加を示唆する論文が数多くみられる. 二次救急医療機関の環境やバックボード固定による合併症を考慮した場合, 脊椎・脊髄損傷の診断がなされるまでバックボードを使用し続けることは慎むべきである. 損傷が悪化しないよう十分に配慮し, 出来るだけ早期にバックボードを除去した方が良いと考える. 重要なのは, 医師・看護師・救急隊員が協力してバックボード除去まで行うことである. そのためには院内トレーニングが必要と思われる.

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