文化人類学
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87 巻, 4 号
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表紙等
第17回日本文化人類学会賞受賞記念論文
  • 国家に抗する/を模する社会
    栗本 英世
    2023 年 87 巻 4 号 p. 553-572
    発行日: 2023/03/31
    公開日: 2023/08/10
    ジャーナル フリー

    現代世界の構成単位である国民国家内部の政治空間は均一ではない。国家という大きな政体(polity)の内部に、統治と法の支配が十分には及んでいない空間が存在することがある。こうした空間の住民がある程度の独自の統治と法の支配を実践している場合、それを小政体(small polity)と呼ぶ。犯罪者集団や武装集団に支配されている地域はその例である。人類学が伝統的に研究対象としてきた王国と首長国も小政体である。本論の目的は、こうした小政体に人類学的主題として光を当てることにある。それは、国家と社会との関係や、国家自体を再考する新たな政治人類学の視座を提供するものと考えられる。

    本論で具体的に論じる小政体は、南スーダンの南東部に存在する、「モニョミジ・クラスター(monyomiji cluster)」と呼ばれる、10数ほどの民族集団の社会に見られる、人口数千から数万人規模の小政体だ。これらの小政体は、政治制度として首長制(あるいは王制)と階梯式年齢組組織の両方を有する、二元的および分節的な構造をもっている。本論で注目するのは、小政体は国家に抵抗すると同時に、国家を模倣しているという側面である。そのさい、19世紀半ば以降の諸国家の暴力的で収奪的な特性が重要である。アフリカ社会に関する従来の研究では、植民地国家や脱植民地国家、および資本主義のシステムに対する抵抗の側面が強調されてきた。抵抗だけでなく模倣の側面に注目することにより、より動態的で今日的な小政体のあり方を把握することが可能になる。

原著論文
  • ミルパにおける間主観的プロセスから
    坂井 妙子
    2023 年 87 巻 4 号 p. 573-592
    発行日: 2023/03/31
    公開日: 2023/08/10
    ジャーナル フリー

    本論では、人間と非人間の相互作用を、ユカタン半島のマヤ(Maya)による焼畑ミルパ(milpa)における事例を用いて、記号・知覚・行為をめぐって展開される間主観的プロセスとして明らかにする。脱人間中心主義的な近年の文化人類学的研究の潮流において、人間と非人間の相互作用がしばしば注目されているが、それが経験的にどのようなプロセスをとるのかはいまだ議論の余地がある。とくに、非人間が知覚や意志作用をもつパーソンとして立ち現れる場合では、単なる環境ではない他者との応答プロセスや反復的な相互作用のなかで生じる知覚経験について、また、それぞれの相互作用において共有される対象や記号と行為の連関がいかに展開されるかについて、十分に論じられているとはいえないからである。マヤの焼畑は、地理的環境のために人間による大規模な開発よりも気象や森の生産性に持続的に依存する農法である。つまり、生存に人間以外の諸力が強く関わっている。そのような実践における非人間へのまなざしと作用は、人間と非人間の相互作用の重要な事例を提供してくれる。ミルパの実践における語りに見られる、記号と知覚、およびそれらを受けての行為を、身体の「かけら」を通じて生じる自己と他者の場所交換の可能性を条件づける間主観性に基づいて分析してみると、ミルパに固有の記号をめぐる人間の自己と非人間他者の知覚や行為が襞のように折り畳まれ・展開される相互作用が浮かびあがる。

  • 農福連携を行う生活介護・就労継続支援B型事業所を事例として
    福島 令佳
    2023 年 87 巻 4 号 p. 593-611
    発行日: 2023/03/31
    公開日: 2023/08/10
    ジャーナル フリー

    障害者へのケアの場は多くの課題を抱えており、その1つは、固定観念に基づいた支援者の障害者への思い込みによる課題である。こうした課題に対して、障害者の意思を尊重すること等のケアの規範の重要性は明らかにされている。では実際にどういった場面で、支援者は障害者への思い込みから自由になるのか、その時どのような新たなケアと関係性が生成されるのか。障害者をめぐる援助論や支援者への規範といった議論だけではなく、その場に集うものたちの営みをみることで、その糸口を見出すことはできないだろうか。本論文では、障害者福祉の中でも、より多様なニーズを持つ障害者が通う生活介護・就労継続支援B型事業所に焦点を当て、中でも自然栽培という生物の力を活かした無肥料・無農薬で農福連携を行う事業所をフィールドとする。そこでみられる独自の営みを近年の人類学における実践を起点としたケア論を通じて相対化し、その多様性を描くことを目的とする。その際に、ケアの場における複数種の関連の可能性をみていくためにマルチスピーシーズ人類学を援用する。これによって、自然栽培の畑を舞台に展開される、支援者や障害者等の人間だけではなく、栽培植物と他の植物、それらが生育する土壌、そこに住まう昆虫や動物等を含めた多様な存在者の関わり合いの中でケアを捉える。そして、支援者の思い込みによる課題に対して、どのようにケアの実践とその関係性が生まれているのか、もしくは消えていくのかの過程を明らかにしていく。

特集「障害」をめぐる共生の文化——障害の人類学を超えて
  • 奈倉 京子
    2023 年 87 巻 4 号 p. 612-623
    発行日: 2023/03/31
    公開日: 2023/08/10
    ジャーナル フリー

    Conventional studies of disabilities evaluated creative practices in which social movements, led by people with disabilities, built a new "culture" that generated a new logic of coexistence. However, problems have arisen over the lack of attention to the lives of people with disabilities who cannot act independently, the reinforcement of the dichotomic framework of able-bodied people and people with disabilities, and the international standardization of the definition of a disability and methods to guarantee the rights of people with disabilities that can spread to all countries of the world and lead in the direction of unified modernization.

    This special theme focuses on the intersectionality and the noninstitutional phase of small groups and the microsocial relationships in reference to ethnographic research methodologies for disabilities in Japan, Asia, and Africa. It explores how the culture of coexistence—the situational and inconsistent manners, techniques, and ideas—emerges from the practice of cultivation.

  • 家と施設でない場所で暮らす、重度の知的障害のある人の意思をめぐって
    猪瀬 浩平
    2023 年 87 巻 4 号 p. 624-641
    発行日: 2023/03/31
    公開日: 2023/08/10
    ジャーナル フリー

    障害の社会モデルは、障害を個人の属性と捉え、その克服軽減を図る医学モデルを批判し、障害の社会的構築性に焦点をあてる。近年の批判的障害学は、社会モデルが前提とする身体と社会の二元論に頼らず、身体や物質に内在する変化や、身体・物質と精神・言説の混淆する関係の中で障害の問題を捉えることを目指す。文化人類学は障害を文化間比較から捉え、障害者政策、治療教育、障害者運動がはらむ西洋中心主義を批判してきた。それは一方で、福祉制度の整った西洋と整っていない非西洋という二分法を再生産する危険を持っている。また文化人類学や社会学におけるこれまでの障害研究は、身体障害を主たる対象としており、重度の知的障害を持った人に注目した研究はほとんどない。このような障害をめぐる議論の成果と課題を踏まえながら、本論文は「それなりに整った」という観点を導入し、福祉制度が整った社会と整っていない社会の二分法の乗り越えを図る。現代の日本において、自立生活を行う重度の知的障害のある人がほかの人と居合わせた空間に注目し、人と人、人とものの関係を、空間の外部にあって人びとの認識に影響を与える要素にも留意しながら、重度の知的障害のある人の意思が、ほかの人びとやものとのアッサンブラージュの中で表されていく過程を描く。そのうえで、共生概念を抽象的な規範ではなく、空間に埋め込まれたものとして提示する。

  • マレーシアにおけるイスラーム解釈の狭小化の問題から
    久志本 裕子
    2023 年 87 巻 4 号 p. 642-652
    発行日: 2023/03/31
    公開日: 2023/08/10
    ジャーナル フリー

    The purpose of this paper is to analyze the discourses linking disability and Islam in Malaysia and to discuss whether there is a "logic of coexistence" or a "culture of coexistence" that differs from the "unitary modernization" of modern Western standards. After the Islamic revival since the 1970s, "Islamic" discourses abound in Malaysia. However, in the discourse by Islamic "experts" linking Islam and disability, the concept of "Islamic" has been reduced to a superficial normative discourse, limiting the possibility of creating a logic of coexistence. In contrast, the discourses of the "parties" in the social networking sites of parents of children with disabilities and in the film "Redah," while not always explicitly labeled as "Islamic," do provide an opportunity for the emergence of a "culture of coexistence" that uses Islamic concepts. The so-called "Islamic" discourse does not necessarily present an alternative to "unitary modernization" or a solution to social problems.

  • 戸田 美佳子
    2023 年 87 巻 4 号 p. 653-669
    発行日: 2023/03/31
    公開日: 2023/08/10
    ジャーナル フリー

    障害者への偏見と性差別という「二重の危機(double jeopardy)」にさらされる機能的な障害のある女性は、フェミニズム研究と障害学という研究上の視座から、異なる女性像とその運動にさらされている。その主眼となるのは、性と生殖に関する権利と、コミュニティ・ケアの是非に関する対照的な見解である。本稿では、フェミニズム研究と障害学の社会モデルの問題点を女性障害者の視点から整理したうえで、カメルーンの都市と農村で生活する成人女性障害者を事例に、地域社会におけるジェンダー役割が彼女らの生業とケアの関係性にいかに影響を及ぼしているのかを考察することにある。先行研究で議論されてきたとおり、カメルーンの女性障害者もまた婚姻関係を結ぶことが困難な社会状況のもとで暮らしているが、出産し、母となることは、彼女たちに母という新たな価値観を生み出し、地域社会と繋がるうえで大切な経験でもある。カメルーンの女性障害者は、「家族」をつくるなかで、障害者としてケアを受ける立場から、ケアを提供する側にもなっていた。ケアの受け手と担い手とのあいだには立場の入れ替わりが難しい、非対称な関係も内在するが、そうしたケアの現場で、ケアされるものとケアするものが双方的な関係を築くことができることをカメルーン女性障害者の事例から明らかにしていく。最後に、未婚の女性障害者という不安定な立場においてもなお、地域社会は彼女たちを社会的に排除するのではなく、社会の一員として包摂していこうとしている姿を、多様な人たちが地域でともに生きる「共生」のあり方として提示する。

展望論文
  • 東日本大震災後の災害人類学の展開
    木村 周平
    2023 年 87 巻 4 号 p. 670-682
    発行日: 2023/03/31
    公開日: 2023/08/10
    ジャーナル フリー

    Against the backdrop of intensifying climate change and developing the international paradigm of disaster risk reduction, this study reviews a wide range of works related to the Great East Japan Earthquake (hereafter, 3.11), offering possible future directions for the anthropology of disaster. By mapping the possibilities, the study aims to support future encounters of anthropologists and practitioners with disasters. To do so, first, the global research trends in the anthropology of disaster during the 2010s, as well as the anthropological works related to 3.11, are summarized. Second, the study examines the efforts by anthropologists, as well as film directors and curators, to make the experiences of the 3.11 understandable for and sharable with the wider public. Third, the concept of traveler is developed as an anthropologist's stance to bridge the gaps related to the experience with and opinion on 3.11. Finally, the potential of the anthropology of disaster that can contribute to the study of the human is explored.

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