犯罪心理学研究
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56 巻, 1 号
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原著
  • 増田 明香, 和智 妙子
    2018 年 56 巻 1 号 p. 1-12
    発行日: 2018/08/27
    公開日: 2018/09/19
    ジャーナル フリー

    取調べ技術総合研究・研修センターは,警察大学校内にある研修所の一つである。同センターでは,都道府県警察本部所属の警察幹部であり,自県の第一線の警察官に対する研修を行う立場にある警察官に対して,捜査面接に関する研修を行っている。センターでは捜査面接に関する心理学的知見,特に,欧米諸国で開発され利用されている「認知面接」や「PEACEモデル」を含んでいる教科書を利用して警察官を教えている。この研究は上記の研修効果を検証することを目的としている。45名の研修生(警察官)がこの研究に参加した。彼らは研修前後で模擬犯罪映像を見た模擬目撃者を面接した。その結果,彼らは研修後にはより多くの情報を模擬目撃者から獲得し,オープン質問をより使う傾向が見られた。この結果は,新しい研修の効果を実証したと言える。

  • 神藤 彩子, 門本 泉, 渡邉 則子, 田畑 賢太
    2018 年 56 巻 1 号 p. 13-28
    発行日: 2018/08/27
    公開日: 2018/09/19
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,日本の女性犯罪者の再犯に係るリスク要因を同定し,それらのリスク要因を用いて女性犯罪者を分類することである。対象者は,全国の刑事施設を出所した女子受刑者1,154名であった。2年以内の再犯の有無に加えて,先行研究を参考にしながら,再犯を予測すると考えられる変数について調査した。生存分析(カプランマイヤー推定法)の結果,本件,犯罪歴,家族,学歴・仕事,精神科的問題における多くの変数で,群間に有意な差が認められた。これらの変数を用いたK-means法によって,3つのクラスターが抽出された。各群は,再犯率,犯罪傾向,家族や就労の状況,精神科的問題において有意に異なっており,このような各クラスターの特徴に基づく適切な処遇のあり方について考察した。

  • 毛利 真弓, 藤岡 淳子
    2018 年 56 巻 1 号 p. 29-46
    発行日: 2018/08/27
    公開日: 2018/09/19
    ジャーナル フリー

    アメリカ合衆国における,薬物乱用者のための刑務所内TCは,刑務所再入率を下げることがいくつかの研究で示されている。本研究は,対象者を薬物乱用者に限らずに実施した日本のA刑務所内TCが,再入率低下効果を示しているかどうかを検証する。対象者は,2009年2月から2015年3月までにA刑務所を出所した2,665名である。TC受講群148名とTC非受講群2,517名とに分け,統計的補正である傾向スコアによるマッチングを行って交絡因子の調整を行った上で,再入所の有無への効果を検討した。結果として,TC受講群の方が非受講群に比べて再入所率は有意に低く(p=0.020),再入所に至るまでの期間も長かった(p=0.009)。多様な受刑者の再入所を低下させる治療共同体アプローチの意義が示された。

  • 星 あづさ, 河野 荘子
    2018 年 56 巻 1 号 p. 47-59
    発行日: 2018/08/27
    公開日: 2018/09/19
    ジャーナル フリー

    性犯罪者について,母親との愛着形成の失敗が愛着スタイルに悪影響を与え,性犯罪に結びついていることから(Marshall, Hudson, & Hodkinson, 1993),性犯罪者と母親との関係について注目する必要がある。そこで,本研究では,わが国の性犯罪者の愛着スタイルについて,「現在の母親」との関連から検討することを目的とした。調査対象者は,刑務所で受刑中の男性1,226名(性犯群n=262,非性犯群n=964)であった。分析の結果,以下のことが示された。①性犯群と非性犯群において,現在の母親との関係性に差はなく,性犯罪者がほかの罪名犯と比して特別悪い母子関係にあるわけではない。②罪名によらず,現在の母親との信頼関係がネガティブであるほど,愛着スタイルが不全となる。③性犯群の方が非性犯群よりも,愛着スタイルが不安定(「見捨てられ不安」が高い)である。④罪名によらず,現在の母子関係がネガティブなほど,愛着スタイルは不安定になりやすい。

資料
  • 倉石 宏樹, 渡邉 和美
    2018 年 56 巻 1 号 p. 61-75
    発行日: 2018/08/27
    公開日: 2018/09/19
    ジャーナル フリー

    近年,犯罪者プロファイリングはさまざまなメディアで誇張されて描かれている。本研究では,巷間で認知されている犯罪者プロファイリングのイメージを調査し,犯罪者プロファイリングの信頼や捜査支援技術としての期待にどのように影響しているかについて調査することを目的とした。犯罪者プロファイリングに関する専門性の段階としてプロファイラー,捜査員,一般人を対象に質問紙調査を実施した。犯罪者プロファイリングの結果に対する信頼と捜査支援技術としての期待への回答は専門性と関連しており,一般群が最も否定的な傾向であった。探索的因子分析の結果,三つの因子が抽出され(犯罪者プロファイリングの能力の理解,科学性の理解,既存捜査との差異の理解),信頼・期待への関連を想定した仮説モデルを構築し,構造方程式モデリングの多母集団同時分析によって専門性ごとの関連を評価した。その結果,信頼や期待への各因子からの影響は専門性と関連がなかったが,各因子の因子平均は専門性の低い群でより低い得点となり,不正確な情報をもとに期待や信頼を評価していることが示唆された。期待・信頼への各因子の示唆された影響に基づいた犯罪者プロファイリングの期待や信頼の向上について議論する。

  • 財津 亘
    2018 年 56 巻 1 号 p. 77-88
    発行日: 2018/08/27
    公開日: 2018/09/19
    ジャーナル フリー

    本研究では,性犯罪者519名が敢行した性犯罪の罪種間における移行性やそれら性犯罪と各種窃盗犯罪との関連について検討することを目的とした。性犯罪者519名が敢行して検挙された各種性犯罪ならびに各種窃盗の犯罪経歴を基に,データセット(519名×15犯罪種別)を作成し,分析を行った。対応分析ならびに階層的クラスター分析の結果によると,「犯行場所」と「身体的接触の有無」の2次元が抽出され,性犯罪は,それら2つの次元に沿って①接触型(屋内強姦,屋外強姦,強制わいせつ,年少者わいせつ),②非接触型(露出,のぞき),③窃盗型(色情盗)に分類された。また,窃盗犯罪は,①侵入窃盗(空き巣,忍込み,出店荒し),②乗物盗(自動車盗,オートバイ盗,自転車盗),③非侵入窃盗(車上ねらい,万引き)に分類された。さらには,強制わいせつから屋外強姦,露出から年少者わいせつへの移行性が示唆された。そのほかにも,接触型性犯罪と乗物盗の間に相対的に関連性がみられたほか,屋内強姦は,侵入窃盗との関連がみられた。非接触型性犯罪は,窃盗犯罪との関連が低いことを示唆した。

  • 緒方 康介
    2018 年 56 巻 1 号 p. 89-104
    発行日: 2018/08/27
    公開日: 2018/09/19
    ジャーナル フリー

    犯罪心理学においては,少年非行と再犯に関してメタ分析より得られたエビデンスが蓄積されている。14歳未満で刑罰法令に触れた少年に対する児童相談所の指導効果を検証することが本研究の目的である。児童相談所のケース記録から,82名の再犯ケースを含め344の非行ケースを抽出した。生存時間モデルを採用した本研究では,最長観察期間を5年とした。Kaplan–Meier推定法による生存時間分析の結果,3つの交互作用が検出された。①実父母家庭,②共犯,③特別法犯のケースに継続面接を(特に4回以上)実施することに効果があった。さらに,被虐待歴のある少年では極端に再犯リスクが高いこと,児童自立支援施設の再犯抑止効果は施設退所後に失われがちであることが示された。以上の結果に基づいて,児童相談所の非行対応には少しの有効性と多くの課題が残されているものと結論した。

  • 白岩 祐子, 小林 麻衣子, 唐沢 かおり
    2018 年 56 巻 1 号 p. 105-116
    発行日: 2018/08/27
    公開日: 2018/09/19
    ジャーナル フリー

    本研究は2000年に始まった意見陳述制度と2008年に始まった被害者参加制度に着目し,両制度を実際に行使した犯罪被害者遺族がこれらの制度をどのように評価し,またその意義や問題点をどのように理解しているのかを検討した。交通事犯や殺人などの遺族97名から協力を得て制度に対する評価を求めたほか,「制度の意義」「制度の問題点」「行使するとき留意した点」につき自由記述を求めた。その結果,両制度はいずれも遺族から高く評価されており,とくに「心情・意見を直接被告人や裁判官に伝えられる」「思考や気持ちの整理ができる」点が肯定的な制度評価につながっていること,逆に,「自分の話を被告人や裁判官がどのように受け止めたか分からない」「専門家や経験者による支援があればよかった」という点が否定的な制度評価につながっていることが明らかになった。

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