総合病院精神医学
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26 巻, 2 号
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特集:摂食障害難治例の治療の工夫
経験
  • ─よりよい工夫のために─
    野間 俊一
    2014 年 26 巻 2 号 p. 122-129
    発行日: 2014/04/15
    公開日: 2017/06/03
    ジャーナル フリー

    摂食障害治療にはさまざまな困難が伴う。摂食障害は栄養障害に対する身体管理を行う必要があるため,一般の精神科医から敬遠される傾向があるが,身体管理を最寄りの内科医に委ねることで精神科医の負担はずいぶん軽減するはずである。摂食障害に対して提唱されている複数の治療法の選択は難しいが,パーソナリティ傾向によって「反応・葛藤型」「固執型」「衝動型」に,症状発現の段階によって「急性期」「亜急性期」「慢性期」に分類することで,タイプと病期を目安にして治療法を選択することができる。摂食障害患者は一見病識を欠き治療意欲が乏しいと思われるが,それは彼らの自己愛のテーマとこの病気の嗜癖性のためである。彼らの自己愛を理解しつつ嗜癖としての食行動異常を安心して手放すことができるよう導くことが求められる。摂食障害治療では,身体面を含む現実状況へ配慮しつつ,彼らに安心を与える良好な治療関係を確立することが重要である。

経験
  • 吉村 知穂, 山田 恒
    2014 年 26 巻 2 号 p. 130-137
    発行日: 2014/04/15
    公開日: 2017/06/03
    ジャーナル フリー

    摂食障害患者の入院治療を行っている施設は少ない。当院では,平成24年度から摂食障害の入院加療を開始したが,さまざまな困難を経験した。そのなかから,総合病院における摂食障害の入院加療について,2つの問題を取り上げる。1つ目は緊急入院の多さであり,2つ目が医療スタッフとの協力が難しいことである。緊急入院は身体治療としては有益だが,摂食障害の精神病理の改善につながらないことが多い。その事実を医療者が認識し,患者や家族に伝え続ける必要がある。患者の精神病理に医療スタッフが影響されてしまうことが多く,医療スタッフへの教育を継続することが重要である。

総説
  • 高橋 恵理
    2014 年 26 巻 2 号 p. 138-144
    発行日: 2014/04/15
    公開日: 2017/06/03
    ジャーナル フリー

    北里大学東病院は,有床総合病院の精神疾患治療施設として地域の精神科医療を担っている。神経性無食欲症においては,特に著しい低体重や治療抵抗性の難治例の症例を多く診療している。通院では行動療法を用いた治療プログラムを行い,入院では主に重症例を対象として行動制限を用いた強固な治療枠組みを用いている。治療の枠組みを工夫し,患者- 家族間に介入を積極的に行っていくことによって患者の示す治療への抵抗に対処している。また,強固な治療枠組みを用いることにより経口での食事摂取を治療初期より可能とし,再栄養症候群の発生を最小限に抑えることができている。摂食障害の治療に幅広く取り組んでいくためには,地域における医療連携が必須である。地域でのネットワーク作りや,治療に取り組む医療者を少しでも多く養成していくことが今後の課題である。

総説
  • ─難治例への適応について─
    中里 道子, 木村 大, 金原 信久, 伊豫 雅臣
    2014 年 26 巻 2 号 p. 145-153
    発行日: 2014/04/15
    公開日: 2017/06/03
    ジャーナル フリー

    摂食障害(eating disorders;ED)は,さまざまな身体合併症,うつ病,不安障害などの併発精神障害を伴い,致死率の高い精神疾患である。成人の神経性無食欲症(anorexia nervosa;AN)は,有効な治療法のエビデンスが確立されておらず,自己誘発嘔吐や過食,下剤乱用などを伴う難治例は,医療経済的にも多大なコストを要し,ケアに著しく人手を要するために家族の負担が高い。低体重や低栄養状態,身体合併症,精神症状などの回復に向けて,長年にわたって生物心理社会的(biopsychosocial)な多面的アプローチを要する。近年の脳画像研究から,EDの神経回路と病態生理との関連に関心が高まっており,ED難治例に対する治療選択として,rTMSなどの効果が新たな治療法として注目されている。本稿では,過食,自己誘発嘔吐を伴う慢性化した難治AN患者に対して,高頻度rTMSを実施し,過食嘔吐の消失,1年後の維持効果も認められた自験例を提示した。 rTMSの難治ANに対する治療戦略の可能性を考察した。

症例
  • ─神経性無食欲症の治療に関する考察─
    林 公輔
    2014 年 26 巻 2 号 p. 154-160
    発行日: 2014/04/15
    公開日: 2017/06/03
    ジャーナル フリー

    神経性無食欲症の治療は困難である。心理的・身体的なアプローチが必要であるが,治療に協力的ではない患者も少なくない。症例Aは40歳代の女性であり,入院時のBMIは9.04kg/m2であった。病棟ルールは守らず,経験の浅いスタッフには高圧的に振る舞った。退院のめどは立たず,私たちの援助はすべて拒否されているように感じられ,チームは疲弊していった。難治例の治療では,治療者が他のスタッフに援助を求められずに孤立してしまうことがある。そうならないためには,多職種によるカンファレンスなど,誰かに相談する機会を定期的にもつことが役に立つ。また,チームの限界について患者と率直に話し合うことも重要である。これは,彼女たちの中にある健康な自己と手を結ぼうとする試みでもある。結果としてA は転院したが,治療は継続した。難治例の治療においては,退院以外にもさまざまな選択肢について考えられる柔軟な思考が求められる。

総説
  • 和田 良久
    2014 年 26 巻 2 号 p. 161-167
    発行日: 2014/04/15
    公開日: 2017/06/03
    ジャーナル フリー

    神経性無食欲症患者のなかでは,病識をもち,回復への葛藤をもちながらも自ら治療に取り組むことができる患者もあれば,病識が欠如し,治療に強く抵抗し,行動障害が著しい患者もあり,病態水準の幅は広い。治療困難例として,①治療抵抗が強く治療が進展せず改善が困難な場合,②治療反応性は良いが再発・入院を繰り返す場合,③身体合併症がある場合,④他の精神障害が合併している場合が想定される。治療困難例に対する治療的工夫としては,第1に治療構造の確立である。重症であるほど強固な治療構造が必要となる。第2に患者の治療意欲を向上させることであり,そのためには患者が回復をめぐる葛藤を自覚できるように支援することが重要である。第3に,治療者の機能を維持することが重要である。多職種で協力して治療を進めていき,治療者と患者との閉塞的な関係に陥らない注意,さらに,治療者の燃え尽きの予防と逆転移感情への対処が必要とされる。

一般投稿
総説
  • 川島 啓嗣, 諏訪 太朗, 村井 俊哉, 吉岡 隆一
    2014 年 26 巻 2 号 p. 168-174
    発行日: 2014/04/15
    公開日: 2017/06/03
    ジャーナル フリー

    電気けいれん療法の刺激を構成する個々のパラメータは,それぞれ固有の神経生物学的効果を有し,有効性や認知機能障害に大きく影響するが,本邦においてそれらのパラメータについて十分な注意が払われているとは言い難い。本稿ではパルス波治療器で調節可能なパラメータである刺激時間,パルス周波数,パルス幅に焦点を当ててこれまでの議論を概観し,刺激時間が長いこと,周波数が低いこと,そしてパルス幅が短いことが効率的な発作誘発に有利であることを確認した。最後にパルス波治療器の最大出力で適切な発作が誘発できない場合に,刺激パラメータ調節が有効な場合があることを特にパルス幅に注目して論じ,その理論的な手がかりについて考察した。

経験
  • 吉田 典子, 宮島 美穂, 鈴木 陽子, 太田 克也, 奥村 正紀 , 中村 満, 笹野 哲郎, 川良 徳弘, 松浦 雅人, 松島 英介
    2014 年 26 巻 2 号 p. 175-181
    発行日: 2014/04/15
    公開日: 2017/06/03
    ジャーナル フリー

    電気けいれん療法(以下,ECT)術中の心臓自律神経活動の変化について経時的に調べた研究は少ない。今回われわれは,これらの変化について心拍数と心拍変動を用いて調べた。心拍変動についてはMemcalc BonaryLightを用いて経時的に解析した。対象はうつ病2例,統合失調症1例であった。いずれの症例でも心拍数と心拍変動解析をあわせみると,通電直後の心臓自律神経活動において三相性の変化が観察された。通電直後には徐脈や洞停止がみられ(第1相;副交感神経優位),引き続きLF/HFが増加した(第2相;交感神経優位)。その後HF が上昇した(第3相;副交感神経優位)。通電直後の第1相および第2相については従来から研究されてきたが,今回経時的に心拍変動を解析することにより,3相目の変化が明らかとなった。今後ECTに伴う自律神経の変化が,ECTの治療効果予測や最適な回数予測につながる可能性を検討していきたい。

資料
  • 野口 正行, 小林 孝文, 佐竹 直子, 高田 知二, 早川 達郎, 中嶋 義文, 小石川 比良来, 佐藤 茂樹
    2014 年 26 巻 2 号 p. 182-190
    発行日: 2014/04/15
    公開日: 2017/06/03
    ジャーナル フリー

    2012年総合病院精神科基礎調査は,総合病院精神科909施設に実態調査を依頼した。581施設から回答があった(回答率63.9%)。総合病院精神科の現状は以下のようにまとめることができる。 ①精神科が設置されている総合病院は,救急医療,合併症治療,緩和ケアなど身体科とも関係が深い重要な医療機能を提供している。②上記の機能は特に有床総合病院精神科において中心的に行われていた。③精神科病床数は50床以下の施設が過半数であった。④精神科医師数は平均4名程度であった。⑤m-ECT,クロザピン治療など重要な治療機能を有している。⑥精神科救急・合併症入院基本料をはじめとする高い診療報酬が期待できる算定項目については,算定できている施設はまだきわめて少ない。⑦入院患者1人当たり1日平均収入は身体科に比べると半分以下と少ない。以上からは,総合病院精神科の状況としては,これまでとは大きな変化はみられないと考えられる。

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