総合病院精神医学
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30 巻, 2 号
選択された号の論文の7件中1~7を表示しています
特集:大人の発達障害
総説
  • ─適切な診断と過小診断─
    内山 登紀夫
    原稿種別: 総説
    2018 年 30 巻 2 号 p. 98-106
    発行日: 2018/04/15
    公開日: 2024/01/23
    ジャーナル フリー

    発達障害の診断では過剰診断,過小診断の基準を明確に定めることができないこと,公的なサービスを受けている発達障害の成人は疫学調査から予想されるよりも,はるかに過小であることを指摘した。個別の患者を対象とする臨床場面では,患者との診察を通して発達歴を聴取することは患者の過去の苦難を知り,治療方針を立てるうえで重要である。臨床の場における診断はDSM-5などの操作的診断基準のみに依存するのではなく,Kanner,Asperger,Wingらの症例記述を参考にすることが適切な診断のために有用である。

総説
経験
  • 宮尾 益知
    原稿種別: 経験
    2018 年 30 巻 2 号 p. 113-119
    発行日: 2018/04/15
    公開日: 2024/01/23
    ジャーナル フリー

    神経発達障害(ASD)の治療は子どもの治療から始め,想定した効果が得られないときに家族機能の評価を行い,家族機能に問題がある場合,父・母親個人,夫婦カウンセリングを行い,効果が得られない場合に集団家族療法を行っている。同様の家族機能をもつ家族を,母への聞き取りから児と同じ資質をもっていると思われる父親を集め「思春期のASDの子どもを持つ父親の会」とした。成育医療研究センターとどんぐり発達クリニックにて,30分程度の社会性の発達,発達障害概念,コミュニケーション,家族・夫婦関係などの講義と課題設定した自由討論とし,話し合いながら同様の資質をもつ相手を通し自己に気づく試みである。母親には外来にて成果と家族への指針などを示し家族機能の回復を図っている。父親への母親の行動の影響も無視し得ないことから,母親にも同様の試みを始めている。ASDにおける家族療法は,家族間の相互コミュニケーション,ケアが行われていないことから,家族のキーパーソンである父親への集団治療を優先すべきである。

総説
  • ─鑑別補助となる客観的評価─
    太田 豊作, 飯田 順三
    原稿種別: 総説
    2018 年 30 巻 2 号 p. 120-126
    発行日: 2018/04/15
    公開日: 2024/01/23
    ジャーナル フリー

    大人の神経発達症を評価,診断する場合,発達歴に関する情報が不明確になりやすく,横断的な評価のみとなると統合失調症との鑑別が困難となる場合がある。自閉スペクトラム症も注意欠如・多動症も統合失調症を併存する可能性はあるが,臨床的にはまずは丁寧に鑑別し,そのうえでも両者が鑑別できなければ両者の併存と診断するという臨床姿勢が求められる。自閉スペクトラム症と統合失調症の鑑別補助に有用な心理検査としては,Japanese Adult Reading Testとロールシャッハ・テストがあげられ,注意欠如・多動症と統合失調症の注意機能の客観的評価には事象関連電位が有用である可能性がある。良好な治療・支援につなげるために,適切な診断・評価には客観的な評価を行うことが望まれ,さらなる研究とともに,臨床上は丁寧な評価および鑑別を行う必要がある。

総説
  • 岡田 俊
    原稿種別: 総説
    2018 年 30 巻 2 号 p. 127-132
    発行日: 2018/04/15
    公開日: 2024/01/23
    ジャーナル フリー

    ADHD児童の追跡研究によれば,ADHDの多くは成人期まで持続すると考えられてきたが,近年発表されたコホート研究の結果は,小児期から成人期への移行は多くないこと,また成人期になってからADHD症状が出現するケースが少なくないことを報告している。成人期までADHDが持続するか否かは,神経生物学的基盤と臨床症状に相違があり,ADHDが異質性のある障害群である可能性を示唆している。成人期になってADHD症状が認められる場合,その症状が小児期にも認められるかどうかを確認することが大切であるが,リコール・バイアスもあり,生育歴の正確な聴取は時に困難を伴う。特に併存障害がある場合には,併存障害が閾値下のレベルのADHD症状を増悪させている可能性があり,併存障害の軽快後にADHD診断の再検討が求められる。 近年のエビデンスは,ADHDが異質性のある病態からなる症候群であり,成人期まで持続するケースはその一部であることが示唆される。ADHDが行動上の特性によってくくられた障害である以上,このように異質性を有することは操作的診断基準の宿命というべきかもしれない。成人期ADHD,特に成人期になってから診断されるADHDに限った場合,ADHD症状があったとしても,それが小児期から持続するものか,あるいは,併存障害によって閾値下のADHDが際立ってADHDと診断できる症状がそろうに至ったものか見極める必要がある。成人期ADHDの診断は,併存障害の軽快後に再検討が求められる。

総説
  • ─医療・産業・司法の現場で─
    今村 明, 松坂 雄亮, 野畑 宏之, 小澤 寛樹
    原稿種別: 総説
    2018 年 30 巻 2 号 p. 133-140
    発行日: 2018/04/15
    公開日: 2024/01/23
    ジャーナル フリー

    近年,発達障害の患者が精神科外来を訪れることが増えており,発達障害の患者に対して,医療・産業・司法のそれぞれの領域で,適切な理解と対応が必要と考えられる。医療の領域では,発達障害の患者を隔離室に入室させるときに,どのようなルールで隔離室入室となり,どのような状態になれば隔離解除となるかが,視覚化して明確に示されることが大切である。産業の領域では,うつ病で休職している患者に発達障害もみられた場合,その特性を考慮して,職場復帰支援プログラムがその患者にとって苦痛とならないように,注意されなければならない。司法の領域では,発達障害の患者が被害者にも,加害者にもなる場合があることを理解し,それぞれに対して,社会的コミュニケーションの障害によって事件のときの状況や感情が伝わりにくい場合があることを考慮する必要がある。本稿では以上のような点に関して,それぞれ架空の症例をあげて論じる。

一般投稿
経験
  • 田宗 秀隆, 進谷 憲亮, 濱本 優, 寺澤 佑哉, 玉井 眞一郎, 綿貫 聡, 山本 直樹
    原稿種別: 経験
    2018 年 30 巻 2 号 p. 141-148
    発行日: 2018/04/15
    公開日: 2024/01/23
    ジャーナル フリー

    精神科医療を必要な人に届けるために,プライマリケアに精神科医療を統合することが求められている。総合診療を志す医師が精神科を3カ月間ローテートしたことで,総合診療医は,身体・精神が切り離せない実感を得て,ソーシャルワーク・多職種連携を身近に感じ,せん妄への対応と地域医療への応用を学んだ。精神科側は,精神科医療の普遍性と特殊性を改めて認識し,精神科病床での身体的ケアの向上を実感し,他科の医師とピットフォールを共有することができた。

    本経験を通じて得た教訓として,以下の仮説を提示する。総合診療専門研修期間における精神科長期ローテーションには,内科医の精神科知識の現状とニーズを理解しようとする精神科指導医の存在が必要である。外来経験は十分とはいえず,疾患の網羅性や一般化可能性は限定的だが3カ月という期間は妥当である。カリキュラム設定には個別化が必要であり,そのプロセス自体が本質的な価値をもつ。

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